説明

土壌またはスラグの処理方法

【課題】高アルカリ条件の六価クロム含有土壌またはスラグ中の六価クロムを容易に三価に還元し、長期的に三価クロムとして安定に還元不溶化処理する方法を提供する。
【解決手段】六価クロムを含有し、平成15年3月6日環境省告示第18号溶出試験における溶出検液のpHが10以上である土壌またはスラグに、エリソルビン酸、タンニン酸、ギ酸、シュウ酸およびシステインよりなる群から選ばれる1種または2種以上の有機酸および/またはその塩を添加して六価クロムを不溶化する土壌またはスラグの処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌またはスラグの処理方法に係り、特に、六価クロムを含有する高アルカリ性の土壌またはスラグ中の六価クロムを効果的に不溶化して、その溶出を確実に防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロムは、一般に零価、三価、または六価の形態で安定に存在するが、これらの内、六価クロムは有害な物質である。
【0003】
従来、六価クロムの処理方法としては、一般に還元剤を加え、六価クロムを三価クロムに還元して無害化する方法がある(例えば、特許文献1,2)。
【0004】
しかしながら、高アルカリ性の土壌やスラグ中に含まれる六価クロムは、高いアルカリ性の影響で、従来一般的に用いられている、酸性領域で還元力を発揮する通常の還元剤では、環境基準まで処理できないか、或いは、環境基準までの処理には多量の還元剤添加が必要となる。
【0005】
例えば、従来一般的に使用される亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、過酸化水素などの還元剤は、酸性領域で還元力を発揮し、高アルカリ性条件下での還元力に乏しい。即ち、従来の還元剤を用いた場合、以下のような反応式で酸性溶液中で還元反応が進行するため、アルカリ条件下での還元能力に乏しい。
4HCrO+6NaHSO+3HSO
2Cr(SO+3NaSO+10H
【0006】
また、これらの還元剤、例えば亜硫酸ナトリウムは、大気中の酸素(酸化剤)と以下のような反応式で容易に反応して分解してしまうことで還元力を失う。
2SO2−+O→2SO2−
【0007】
また、安価な還元剤として使用される硫酸第一鉄、塩化第一鉄といった二価の鉄化合物でも、アルカリ条件下で水酸化物を形成し、また酸素に酸化され容易に還元力を失う。
【0008】
更に、六価クロムを還元剤により三価クロムに還元処理しても、高アルカリ条件下では三価クロムよりも六価クロムの方が安定であるため、酸素等の酸化剤の存在下で容易に六価に酸化されてしまう。
即ち、クロムは高アルカリ領域では、低い酸化還元電位でも六価クロムの形態が安定である。このため、高アルカリ領域では、六価クロムはクロム酸イオン(CrO2−)の形態で存在するが、クロム酸イオンは、還元剤によって以下の反応式で還元され三価のクロム(水酸化クロム)となる。
CrO2−+4HO+3e→Cr(OH)+5OH
生成した水酸化クロムは、アルカリ条件下では大気中の酸素(酸化剤)と以下のように反応して六価クロムを生成する。
4Cr(OH)+3O+8OH→4CrO2−+10H
従って、六価クロムの還元処理を行って一旦三価クロムに還元処理しても、三価クロムは酸素等の酸化剤との接触により容易に酸化されるため、通常の還元剤では長期的に安定な還元不溶化処理は望めない。
【特許文献1】特開2001−121133号公報
【特許文献2】特開平11−106243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、高アルカリ条件の六価クロム含有土壌またはスラグ中の六価クロムを容易に三価に還元し、長期的に三価クロムとして安定に還元不溶化処理する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明(請求項1)の土壌またはスラグの処理方法は、六価クロムを含有し、平成15年3月6日環境省告示第18号溶出試験における溶出検液のpHが10以上である土壌またはスラグに、エリソルビン酸、タンニン酸、ギ酸、シュウ酸およびシステインよりなる群から選ばれる1種または2種以上の有機酸および/またはその塩(以下、これらを「有機酸(塩)」と称す。)を添加して六価クロムを不溶化することを特徴とする。
【0011】
請求項2の土壌またはスラグの処理方法は、請求項1において、さらに鉄粉を添加することを特徴とする。
【0012】
請求項3の土壌またはスラグの処理方法は、請求項2において、前記鉄粉の平均粒径が20nm〜2mmであることを特徴とする。
【0013】
請求項4の土壌またはスラグの処理方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、有機酸(塩)もしくは有機酸(塩)および鉄粉を添加した土壌またはスラグに固化材を添加して固化させることを特徴とする。
【0014】
請求項5の土壌またはスラグの処理方法は、請求項4において、前記固化材が、水ガラス、石膏、酸化マグネシウム、生石灰、消石灰およびセメントよりなる群から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
還元剤として特定の有機酸(塩)を用いる本発明の土壌またはスラグの処理方法によれば、平成15年3月6日環境省告示第18号溶出試験における溶出検液のpHが10以上であるような高アルカリ性の六価クロム含有土壌またはスラグ中の六価クロムを、少ない薬剤添加量で容易に三価に還元し、長期的に三価クロムとして安定に還元不溶化し、六価クロムの溶出を確実に防止することができる。
【0016】
即ち、本発明で還元剤として用いる有機酸(塩)は、酸性からアルカリ性の幅広いpH領域において還元作用を有効に発揮する。また酸素との反応性が低く、長期間安定であり、ある程度の還元持続性を有する。よって、一旦還元処理した三価クロムから六価クロムが生成しても、これを再び三価クロムに還元する長期的な還元作用を示す。
【0017】
しかし、有機酸(塩)は経時により消費されて消失する。そこで、有機酸(塩)に加えて鉄粉を添加することでさらに長期的な安定性を有する処理を行なうことができる(請求項2)。
この鉄粉は平均粒径20nm〜2mmであることが好ましい(請求項3)。
【0018】
また、本発明においては、有機酸(塩)もしくは有機酸(塩)および鉄粉を添加した土壌またはスラグに固化材を添加して固化させることで、より一層不溶化処理の長期安定性を高めることができ(請求項4)、この場合、用いる固化材としては、水ガラス、石膏、酸化マグネシウム、生石灰、消石灰およびセメントよりなる群から選ばれる1種または2種以上が挙げられる(請求項5)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の土壌またはスラグの処理方法について詳細に説明する。
【0020】
本発明において、処理する土壌またはスラグは、六価クロムを含有し、平成15年3月6日環境省告示第18号溶出試験における溶出検液のpH(以下、「環境省告示溶出pH値」と称す場合がある。)が、10以上である土壌またはスラグである。本発明で処理対象とする土壌またはスラグの環境省告示溶出pH値が10未満であっても、処理効果において問題はないが、従来の一般的な還元剤では効力が無い或いは弱いか、多量添加を必要とする高アルカリ条件の土壌またはスラグを処理するという本発明の目的において、この環境省告示溶出pH値は10以上、例えば10〜13である。なお、土壌またはスラグ中の六価クロム含有量には特に制限はないが、通常、平成15年3月6日環境省告示第18号溶出試験における溶出検液中の六価クロム溶出量(六価クロム濃度)として0.05〜10mg/L程度である。
【0021】
本発明において、このような土壌またはスラグに還元剤として添加する有機酸(塩)は、エリソルビン酸、タンニン酸、ギ酸、シュウ酸、システイン或いはこれらの有機酸のナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩などの塩であり、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0022】
有機酸(塩)としては、これらのうち、特に六価クロムの不溶化効果の面でエリソルビン酸および/またはその塩が好ましく、とりわけエリソルビン酸ナトリウムが好ましい。
【0023】
被処理土壌またはスラグへの有機酸(塩)の添加量は、処理する土壌またはスラグ中の六価クロム含有量や処理物の保管状況や鉄粉の併用の有無、六価クロム溶出量、溶出検液のpH等に応じて、処理物が溶出量基準(平成15年3月6日環境省告示第18号溶出試験における溶出検液中の六価クロム濃度で0.05mg/L以下)に適用するレベルにまで処理できるような添加量として適宜決定されるが、鉄粉と併用しない場合の有機酸(塩)の添加量は、通常、土壌またはスラグの乾燥質量に対して0.05〜20質量%、特に0.1〜5質量%とすることが好ましい。
【0024】
本発明においては、有機酸(塩)と共に更に鉄粉を土壌またはスラグに添加することにより、より一層長期的に安定な処理を行うことができる。
ここで鉄粉を有機酸(塩)と併用し、鉄粉のみで用いない理由は、鉄粉も前述の一般の還元剤同様、高アルカリ条件では比較的反応性が低く、六価クロムの不溶化には多量の添加が必要となるためである。これに対して、本発明に従って、有機酸(塩)と共に用い、有機酸(塩)が長期的に消失して生成する僅かな量の六価クロムを処理するためには、鉄粉添加量は少量で良く、有機酸(塩)との相乗効果で有効な不溶化効果を発揮する。
【0025】
鉄粉による六価クロムの還元は、以下のように、零価の鉄表面での還元および溶解した二価鉄との反応により行なわれる。
CrO2−+Fe+4HO→Cr(OH)+Fe(OH)+2OH
CrO2−+3Fe2++8HO→Cr(OH)+3Fe(OH)+4H
【0026】
なお、還元不溶化処理後の処理物の保管状況により、有機酸(塩)の添加量や鉄粉との併用の有無、鉄粉の添加量が決定される。
特に、処理物を酸素と全く接触しない状態で保管する場合は、還元されたクロムの酸化が起こり難いことから、有機酸(塩)のみでも十分な効果を得ることができる。
【0027】
有機酸(塩)と鉄粉を併用する場合、被処理土壌またはスラグへの有機酸(塩)の添加量は土壌またはスラグの乾燥重量に対して0.05〜20質量%、特に0.1〜5質量%で、鉄粉の添加量は0.05〜10質量%、特に0.1〜5質量%で、有機酸(塩)と鉄粉との使用割合は、有機酸(塩):鉄粉=1:0.5〜5(質量比)程度とすることが好ましい。
【0028】
なお、土壌またはスラグに添加する鉄粉は平均粒径がD50で20nm〜2mmであることが好ましい。鉄粉の平均粒径が大き過ぎると、比表面積が小さくなり、十分な不溶化効果を得ることができない。
【0029】
また、本発明では、被処理土壌またはスラグに有機酸(塩)、或いは有機酸(塩)と鉄粉とを添加して還元処理後、固化材を添加して処理物を固化することにより、より一層安定な不溶化効果を得ることができる。
【0030】
この場合、用いる固化材としては、水ガラス、石膏、酸化マグネシウム、生石灰、消石灰、セメントなどが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0031】
これらの固化材の添加量は、目的とする硬さに処理物が固化し得る程度であれば良く、用いる固化材の種類や被処理土壌またはスラグの含水率等によっても異なるが、通常土壌またはスラグの乾燥重量に対して1〜50質量%、特に1〜30質量%程度とすることが好ましい。
【0032】
本発明において、被処理土壌またはスラグに添加する有機酸(塩)、鉄粉、固化材は、処理対象物に対して十分に均一に混合することができる状態であれば良く、粉末状のまま添加しても、水に溶解させた水溶液状または分散させたスラリー状で添加しても良い。
【0033】
また、有機酸(塩)と鉄粉とは予め混合して添加しても良く、各々別々に添加しても良い。
【0034】
被処理土壌またはスラグへの有機酸(塩)、鉄粉、固化材の添加混合は、混練機を用いて行うのが十分に添加薬剤を均一に分散させて良好な処理効果を得ることができる点で好ましい。この場合、被処理土壌またはスラグの含水率が低く、混練性が悪い場合には、含水率が0.5〜40質量%、好ましくは5〜30質量%となるように、適宜水を添加するのが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0036】
[処理対象物]
以下において、処理した土壌またはスラグの性状は次の通りである。
<土壌>
後述の[溶出試験]による溶出検液の六価クロム溶出量は0.32mg/L、pHは7.6、含水率は15質量%。
<スラグ(製鋼(電気炉)スラグ)>
後述の[溶出試験]による溶出検液の六価クロム溶出量は0.2mg/L、pHは12.1、含水率は17質量%。
【0037】
[溶出試験]
処理対象物または処理物の溶出試験は、以下の方法により行った。
風乾試料50gに対して純水500mLを添加し、振盪幅4cm、振盪速度200回/分の往復振盪機にて6時間振盪した。
しばらく静置した後、上澄液を0.45μmメンブレンフィルターにて濾過して、溶出検液を得、六価クロム溶出量とpHを測定した。
得られた溶出検液中の六価クロムの定量は、JIS K0102 65.2により行なった(定量下限値0.04mg/L)。
【0038】
[実施例1〜6、比較例1〜18、参考例1〜24]
表1,2に示す処理対象物に、表1,2の薬剤を表1,2に示す量添加して混合し、処理物を一晩養生した後風乾し、溶出試験を行った。なお、鉄粉としては平均粒径70nmのものを用いた。後述の実施例8、比較例20,21においても同様である。
結果を表1,2に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
表1,2より次のことが明らかである。
環境省告示溶出pH値が7.6の中性の土壌を処理した参考例1〜24では、添加薬剤の種類による差異は殆どなく、いずれも同様な処理結果が得られた。
【0042】
環境省告示溶出pH値が12.1の高アルカリ性のスラグを処理した場合、エリソルビン酸ナトリウム以外の薬剤を添加した比較例1〜18では、六価クロムの土壌溶出量基準(0.05mg/L以下)に適合しうるまでには多量の薬剤の添加が必要である。一方、エリソルビン酸ナトリウムを用いた実施例1〜6では、少ない添加量で六価クロムの溶出量を低減することができる。
【0043】
[実施例7,8、比較例19〜21]
添加薬剤による長期安定性を評価するために、長期にわたる六価クロムの溶出挙動について確認を行なった。
試験は、スラグに対して、所定量の薬剤を添加、混合して(ただし、比較例19では薬剤添加せず)、ポリプロピレン製の容器中に保存し、所定期間経過した後に、ポリプロピレン製の容器内部の試料の一部を取り出して、風乾し、この風乾試料に対して、溶出試験を実施した。結果を表3および図1に示す。
【0044】
なお、各例で添加した薬剤は次の通りである。
実施例7:エリソルビン酸ナトリウム0.5質量%(対乾燥質量)添加
実施例8:エリソルビン酸ナトリウム0.5質量%(対乾燥質量)および
鉄粉0.3質量%(対乾燥質量)添加
比較例19:還元処理剤無添加
比較例20:鉄粉1質量%(対乾燥質量)添加
比較例21:鉄粉5質量%(対乾燥質量)添加
【0045】
【表3】

【0046】
表3より次のことが分かる。
比較例19の薬剤無添加の製鋼スラグは、時間の経過とともに六価クロムの溶出量は増加している。
【0047】
比較例20および比較例21の鉄粉のみを添加した系では、添加量に応じた溶出量となっており、高アルカリ性条件下では多量の鉄粉を添加しなければ十分に六価クロムの溶出を抑制できないことがわかる。
【0048】
実施例7は、エリソルビン酸ナトリウムのみを添加したものであるが、数百日間は六価クロムの溶出を抑制しており、比較的長期に安定である。
実施例8は、さらに鉄粉を併用したものであるが、少量の鉄粉の併用により、エリソルビン酸ナトリウム単独の添加よりも長期に六価クロムの溶出を抑制している。
【0049】
このように、還元剤として、エリソルビン酸ナトリウムを単独、または鉄粉と併用して用いることで、高アルカリ条件下においても、六価クロムを還元不溶化でき、さらに長期的に安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例7,8および比較例19〜21の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六価クロムを含有し、平成15年3月6日環境省告示第18号溶出試験における溶出検液のpHが10以上である土壌またはスラグに、エリソルビン酸、タンニン酸、ギ酸、シュウ酸およびシステインよりなる群から選ばれる1種または2種以上の有機酸および/またはその塩(以下、これらを「有機酸(塩)」と称す。)を添加して六価クロムを不溶化することを特徴とする土壌またはスラグの処理方法。
【請求項2】
請求項1において、さらに鉄粉を添加することを特徴とする土壌またはスラグの処理方法。
【請求項3】
請求項2において、前記鉄粉の平均粒径が20nm〜2mmであることを特徴とする土壌またはスラグの処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、有機酸(塩)もしくは有機酸(塩)および鉄粉を添加した土壌またはスラグに固化材を添加して固化させることを特徴とする土壌またはスラグの処理方法。
【請求項5】
請求項4において、前記固化材が、水ガラス、石膏、酸化マグネシウム、生石灰、消石灰およびセメントよりなる群から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする土壌またはスラグの処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−82539(P2010−82539A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254112(P2008−254112)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】