説明

土壌改良剤

【課題】農作物、特には野菜とか緑茶等において、メトヘモグロビン血症の原因になる硝酸態窒素濃度を低減して、無毒で安全な農作物の生産を可能にする。
【解決手段】多量必要な必須ミネラルであるCaおよび/またはMgの水酸化物中に、微量必要な必須ミネラルであるFe、Mn、ZnおよびCu等を原子状で分散(固溶)させた複合必須ミネラル水酸化物を土壌に添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜とか緑茶等の農作物の硝酸態窒素低減剤に関する。
【背景技術】
【0002】
永年の窒素肥料の使用により、農作物中の硝酸態窒素濃度が人体の健康に悪影響を及ぼすレベルまで高濃度になっている問題がある。硝酸態窒素濃度が高くなると、メトヘモグロビン血症(幼児は死亡の危険性あり)を起こす危険性が高くなる。したがって、本来、健康に良いとされている野菜とか緑茶を多く摂取するほど、目的に反して、健康を害することになる。しかしながら、農作物中の硝酸態窒素を低減する方法が未だ見つかっておらず、有効な解決策が打てないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、土壌に添加するだけで、そこで生育する農作物中の硝酸態窒素が大幅に低減する剤を提供することである。しかも、簡単な作業で、例えば1年に1回とか2回の土壌への散布、混合等の作業で、目的とする硝酸態窒素を低減させることの出来る土壌改良剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、硝酸態窒素の問題の原因が永年の化学肥料による土壌の変質にあると考えた。化学肥料だけを主として土に与えて来たため、土壌中に存在しなければならない必須ミネラルの多くが、枯渇またはミネラル間の適正な比率からの逸脱が生じ、農作物が、言うなれば不健康なままで育っていると考えられる。そこで、土壌に必須なミネラルの殆ど全てを適正な比率と濃度で与えてやることが出来れば、そこで育つ農作物は、酵素の活性中心であるミネラルが補給されることにより、酵素本来の機能を回復し、健康を取り戻す。その結果として、硝酸態窒素が安全なレベルまで、大きく低減されることが出来ると考えた。
【0005】
以上の考えを基に、必須ミネラルの殆どを適正な比率で原子状に分散して含有し、しかも、適正な濃度で徐放出来る化合物を考案し、実験を重ねた結果、本発明の効果を発見し、実現するに至った。
【0006】
本発明は、下記式(1)および/または(2)
【化1】

【化2】

(但し、式中、M2+はCaおよび/またはMgを示し、M2+は必須ミネラルMn、Fe、Cu、Zn、NiおよびCoの少なくとも1種以上を示し、M3+は3価金属の1種以上を示し、好ましくはFe、Mn、CrおよびCoの少なくとも1種以上を示し、An−はn(nは1以上の整数)価のアニオンの1種以上を示し、好ましくはI、Cl、NO、SO2−、HPO2−、HBO2−、MoO2−、H(Mo)245−、HVO2−、SeO2−を示し、x,mおよびzはそれぞれ次の範囲、0<x<0.5,0≦m<10,0<z<0.4を満足する0または正の数を示す)で表される必須ミネラルの水酸化物固溶体を土壌に添加することにより、そこで生育する農作物の硝酸態窒素を顕著に低減することが出来る。
【0007】
しかも、本発明、硝酸態窒素低減剤の添加は、それが徐放性であるため、1年に1回とか2回で良く、したがって、1週間とか10日間隔で散布する必要のある一般の薬剤に比べて、極めて省力的である。ヤリ水および/または雨水により、式(1)および/または(2)で表される水酸化物固溶体がppmまたはそれ以下のオーダーで、徐々にミネラルイオンを水に溶解放出する。そのため、ミネラルが適正な濃度を超えて高濃度になると、かえって農作物に害を及ぼすことが起こらない。
【発明の効果】
【0008】
本発明の硝酸態窒素低減剤は、野菜とか緑茶等の農作物の硝酸態窒素を約半分以下に低減し、メトヘモグロビン血症発生を抑制し、安全な農作物を提供出来る。さらに、農作物の根が発達し、茎葉の生育が良くなり、収穫量が増加する。またさらに、肥料の吸収効率が向上するため、肥料の低減が出来ると共に、茎葉、根がしっかりするため、風による倒伏を改善出来る。そして糖度、クロロフィル等の味と栄養成分も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の硝酸態窒素低減剤は、下記式(1)および/または(2)
【化1】

【化2】

(但し、式中、M2+はCaおよび/またはMgを示し、M2+は必須ミネラルFe、Mn、Zn、Cu、NiおよびCoの少なくとも1種以上、好ましくはFe、Mn、ZnおよびCuを示し、M3+は3価金属の1種以上、好ましくはFe、Mn、Cr、AlおよびCoの少なくとも1種以上、特に好ましくはFe、Mnを示し、An−はn価のアニオンの1種以上を示し、好ましくはCl、I、NO、必須ミネラルであるイオウ、リン、モリブデン、バナジウム、およびセレンの酸素酸塩、例えばSO2−、HPO2−、MoO2−、H(Mo)245−、HVO2−、SeO2−を示し、x,mおよびzはそれぞれ次の範囲、0<x<0.5、好ましくは0.05≦x≦0.3、特に好ましくは0.1≦x≦0.25,0≦m<10,0<z<0.4、好ましくは0.01≦z≦0.3、特に好ましくは0.05≦z≦0.2を満足する0または正の数を示す)で表される必須ミネラルの水酸化物固溶体を有効成分として含有することを特徴とする。
【0010】
比較的多量必要とする必須ミネラルであるCaおよびMgの単独または、複合の水酸化物結晶中に、微量必要とされる必須ミネラルFe、Mn、ZnおよびCu、さらに微少量であるが必要とされる必須ミネラルMo、Se、Ni、Cr、CoおよびVの中から選ばれたミネラルを少なくとも1種以上、好ましくはFe、Mn、ZnおよびCuの全てを、好ましくは適正な比率で固溶(原子状に分散・溶解)させることにより、水酸化カルシウムまたは水酸化マグネシウムに近いレベルの水に対する溶解性、即ち、微量ミネラルのゆっくりとした溶解性、換言すると徐放性を実現出来る。
【0011】
さらに、式(1)に示すハイドロタルサイト構造にすることにより、金属性の乏しい、したがって金属水酸化物構造中の金属部分に入り難い極微量ミネラルMo、Se、IおよびVをそれらのアニオン形態、例えば酸素酸塩をイオン交換性である式(1)のアニオンAn−として、他のミネラルと一緒に分子状で一つの結晶に組み込むことが出来る。
【0012】
そのようなアニオンとしては、例えばMoO2−、H(Mo)245−、SeO2−、I、HVO2−がある。
【0013】
このAn−としては、多量必要とする必須ミネラル含有アニオン、例えばCl、NO、SO2−、SO2−、HPO2−、HPO、PO3−等も組み込むことが出来る。またさらには、式(1)および/または(2)のプラスに荷電している金属水酸化物結晶の表面に前記必須ミネラルのアニオン性化学形態を利用して、化学吸着させることも出来る。式(1)のAnは、もちろん必須ミネラルを含まないアニオン、例えばCO2−、CHCOO等の有機酸イオンであっても良い。
【0014】
必須ミネラルは、過剰でも欠乏しても副作用があるため、適正な割合、濃度に多量必要とするCaおよび/またはMg中に分散して存在することが好ましい。そのためには、M2+に対するM2+の量xの範囲が0<x<0.5、好ましくは0.05≦x≦0.3、特に好ましくは0.1≦x≦0.25である。且つ、M2+はFe>Zn≧Mn>Cu≫Mo,Se,Co,Niの順に含有されることが好ましい。さらに、FeとかMn等の酸化され易いミネラルは、吸収され易い2価の状態が好ましい。したがって、zの範囲は0<z<0.4、好ましくは0.01≦z≦0.3、特に好ましくは0.05≦z≦0.2である。
【0015】
本発明の硝酸態窒素低減剤に占める主要ミネラルの好ましい割合は、モル%で表示すると、Ca=64〜75%、Mg=12〜33%、Mn=1〜5%、Fe=5〜12%、Cu=0.2〜1%、Zn=2〜5%である。
【0016】
本発明の硝酸態窒素低減剤の土壌に対する添加量は、m当たり0.1〜1,000g、好ましくは1〜200g、特に好ましくは5〜100gである。
【0017】
本発明の硝酸態窒素低減剤は、耐炭酸化を改良したり、水に分散して使用したりする場合の沈降性を少なくするため、さらには徐放性を強化したい時などのために、高級脂肪酸、高級脂肪酸のアルカリ金属塩等のアニオン系界面活性剤または、ノニオン系界面活性剤で表面処理して用いることも出来る。表面処理剤の量は、本発明、硝酸態窒素低減剤重量に対し0.1〜20%、好ましくは0.5〜10%である。表面処理は、公知の湿式・乾式いずれの方法でも実施出来るが、好ましくは水に分散させた本発明の剤を攪拌下、水に溶解または水に乳化させたアニオン系またはノニオン系界面活性剤を添加、混合する湿式法により行うことが出来る。
【0018】
本発明の剤の製造は、共沈法により実施出来る。例えば、M2+および/またはM3+の水溶性塩の混合水溶液に、これに対し当量または当量以上のアルカリ水溶液を加えて共沈させることが出来る。
【0019】
ここで用いる水溶性のM2+、M2+および/またはM3+としては、例えばCa、Mg、Fe、Mn、Cu、Zn等の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等である。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等である。
【0020】
上記以外の共沈法の例としては、例えば、水酸化カルシウムおよび/または水酸化マグネシウムのスラリー状分散体の攪拌下に、これに対し当量未満のMg、Fe、Mn、Cu、Zn等の水溶性塩の混合水溶液を加え、反応させる方法である。
【0021】
原料で使用する水酸化カルシウムとしては、石灰岩を焼成後、水和して得られる消石灰を、水酸化カルシウムと水酸化マグネシウムの混合物としては、ドロマイトの焼成物の水和物を、それぞれ用いることが出来る。
【0022】
本発明の剤の使用形態は、粉末、スラリー、造粒物等であり、取扱い性、飛散性を重視するときは造粒物が好ましい。造粒物の大きさは、例えば0.5〜10mm、好ましくは1〜3mmであり、形は球形、円柱状等である。また、水耕栽培等に用いるときは沈降性の少ないスラリーを用いることが好ましい。
【0023】
本発明の剤は、活性白土、ケイソウ土、雲母、ゼオライト、ベントナイト、魚粉、活性炭、竹炭、パーライト、バーミキュライト、木炭等の公知の農業用副資材と混合して、希釈および/または中和または、pH調整して使用することが出来る。
【0024】
以下、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。
【0025】
[実施例1][実施例2]および[比較例1]
塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化マンガン、塩化第1鉄、塩化亜鉛、硝酸第2銅の混合水溶液(Ca=0.7M/L,Mg=0.15M/L,Mn=0.02M/L,Fe=0.10M/L,Zn=0.025M/L,Cu=0.005M/L)5リットル(約30℃)を4M/Lの水酸化ナトリウム3リットル(約30℃)に攪拌下に約1分で加え反応させた。
【0026】
反応物を減圧ろ過、水洗後、約100℃で20時間、熱風乾燥機で乾燥し粉砕した。得られた粉末のX線回析パターンは、ハイドロタルサイト類と水酸化カルシウムの混合物であった。
【0027】
粉砕物の各元素の全量分析をICPで行い、Fe2+は吸光光度法(1,10−フェナントロリン法)、Mn2+はキレート滴定法で定量し、結晶水量を、熱分析を行って100℃〜200℃の重量減少から決定した結果、化学組成はおおよそ次の通りであった。(Ca0.70Mg0.150.84Fe2+0.04Mn2+0.01Zn0.025Cu0.005)(Fe3+0.06Mn3+0.010.07(OH)Cl0.070.28H
【0028】
この粉末と酸性白土を10:90の比で混合後、水を加えてニーダーで混練後、押出機を使い、直径約1.5mmの円柱状ペレットを作製後、約70℃で5時間乾燥した物を農作物の試験に用いた。
【0029】
育苗培土の試験設定[g/鉢]
【表1】

【0030】
[表1]に示す育苗培土のみ([比較例1])と、育苗培土に上記方法で得られた本発明の硝酸態窒素低減剤を0.08%([実施例1])および0.4%([実施例2])添加した培土に、発芽後一週間後の小松菜を一鉢当たり3本定植し、三週間後に、硝酸態窒素、糖度、クロロフィルおよび生育状況を測定した。硝酸態窒素はRQフレックスで、糖度は糖度計で、クロロフィルはクロロフィルテスターで、それぞれ測定した。その結果を[表2]に示す。
【0031】
成分内容および生育調査結果
【表2】

【0032】
硝酸態窒素は、本発明の剤を培土に0.08%添加で半分以下に減少し、安全と言われる2,000ppm以下を満足している。さらに本発明の剤は、根の生育(生体重の地下部)が良くなり、且つ、茎葉がしっかりしていた。これは倒伏防止にも寄与する。味に関連する糖度も向上している。したがって、本発明の剤は、硝酸態窒素の顕著な改善と植物の生育と品質改良にも寄与する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌に、下記式(1)および/または(2)
【化1】

【化2】

(但し、式中、M2+はCaおよび/またはMgを示し、M2+は必須ミネラルFe、Mn、Zn、Cu、NiおよびCoの少なくとも1種以上を示し、M3+は3価金属の1種以上を示し、An−はn(n=1〜10)価のアニオンを示し、x,mおよびzはそれぞれ次の範囲、0<x<0.5,0≦m<10,0<z<0.4を満足する0または正の数を示す)で表される水酸化物固溶体を添加することを特徴とする農作物の硝酸態窒素低減剤。
【請求項2】
請求項1の式(1)および(2)のM2+がFe、Mn、CuおよびZnであり、M3+がMnおよび/またはFeであることを特徴とする請求項1記載の農作物の硝酸態窒素低減剤。
【請求項3】
請求項1の式(1)および(2)において、xおよびzがそれぞれ0.05≦x≦0.3,0.01<z<0.2の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の農作物の硝酸態窒素低減剤。
【請求項4】
請求項1の硝酸態窒素低減剤の土壌に対する添加量が、m当たり1g〜200gである請求項1記載の農作物の硝酸態窒素低減剤。

【公開番号】特開2006−131733(P2006−131733A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−321739(P2004−321739)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(391001664)株式会社海水化学研究所 (26)
【Fターム(参考)】