説明

土壌改良方法

【課題】手間、コストおよび時間を要することなく微粒子粘性土壌の物理性を改良することができ、さらに環境や人体に対する影響を極めて小さくすることができる土壌改良方法を提供する。
【解決手段】泡盛廃液を用いて、粘土粒子を体積比率で50%以上含有する微粒子粘性土壌の物理性を改良する土壌改良方法であって、生成された泡盛廃液の温度を35℃から45℃の範囲内に調整する工程と、少なくとも一種類の微生物を含む溶液と、前記温度調整された泡盛廃液とを混合させて微生物含有泡盛廃液を作製する工程と、前記微生物含有泡盛廃液を、前記微粒子粘性土壌に混合させる工程と、前記微生物含有泡盛廃液が混合した微粒子粘性土壌に菌糸を発生させる工程と、を少なくとも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泡盛廃液を用いて、粘土粒子を体積比率で50%以上含有する微粒子粘性土壌の物理性を改良する土壌改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沖縄の赤黄色土や関東ローム層に代表される赤土は、粘土粒子を体積比率で50%以上含有する微粒子粘性土壌である。この赤土は、土壌として通気性および透水性が著しく低いため、植物の栽培には適していない。また、この赤土の微粒子は、水に混濁し易く、コロイド状態で水に浮遊して赤水となる。このような微粒子を多く含む赤土を主とする農地や造成工事現場では、降雨等によって表土流亡が生ずると共に、赤土の微粒子を大量に含んだ赤水が発生し、河川や海洋の汚染の原因となっている。
【0003】
このような赤水による環境汚染を防止するため、例えば、造成工事現場では、従来から、雨が降る前に工事現場全体をブルーシート等で覆う作業が行なわれている。また、土壌表面をコールタール等で固める手法や、他の場所で改良を施した土壌を購入して投入する手法(客土材の利用)も知られている。また、特許文献1に示すように、上記微粒子粘性土壌を、土壌団粒化剤、固化剤、および清水と混合させて土壌を団粒化させる技術や、泡盛廃液を土壌に散布することで土壌の改良をする手法も知られている。
【特許文献1】特開平11−256154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、微粒子粘性土壌での赤水の発生を防止するために工事現場全体をブルーシート等で覆う手法では、コストと手間を要してしまう。また、工事を再開するためには、覆ったブルーシートを取り外さなければならず、この点でも時間と労力を要することとなる。また、土壌表面をコールタール等で固める手法では、環境や人体に対する影響を考慮すると、必ずしも適切とはいえない側面がある。また、他の場所で改良を施した土壌を購入して投入する手法では、土壌の購入費用がかかるだけでなく、採掘地に環境的な負担を強いることになってしまう。
【0005】
また、特許文献1に記載されている技術では、攪拌混練機を必要とするため、装置の小型化およびコスト削減を図ることは容易ではない。また、土壌団粒化剤の他に固化剤を必要としているため、工程数とコストが増加する可能性がある。また、泡盛廃液を土壌に散布する手法では、泡盛廃液が特有の臭いを放つため、周囲地域に迷惑を与えてしまうことがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、手間、コストおよび時間を要することなく微粒子粘性土壌の物理性を改良することができ、さらに環境や人体に対する影響を極めて小さくすることができる土壌改良方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成させるため、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の土壌改良方法は、泡盛廃液を用いて、粘土粒子を体積比率で50%以上含有する微粒子粘性土壌の物理性を改良する土壌改良方法であって、生成された泡盛廃液の温度を35℃から45℃の範囲内に調整する工程と、少なくとも一種類の微生物を含む溶液と、前記温度調整された泡盛廃液とを混合させて微生物含有泡盛廃液を作製する工程と、前記微生物含有泡盛廃液を、前記微粒子粘性土壌に混合させる工程と、前記微生物含有泡盛廃液が混合した微粒子粘性土壌に菌糸を発生させる工程と、を少なくとも含むことを特徴としている。
【0008】
このように、泡盛廃液に微生物を含む溶液を混合させるので、微生物の働きにより泡盛廃液を発酵させることができ、泡盛廃液特有の臭いを抑えることができる。そして、その微生物含有泡盛廃液を微粒子粘性土壌に混合させることにより、菌糸を効果的に発生させることができる。この菌糸が糊の機能を発揮し、微粒子粘性土壌が団粒化する。土壌が団粒化することにより、通気性および透水性が向上するため、赤水の発生を防止することが可能となる。また、団粒化することにより、植物の栽培土壌として用いることが可能となる。
【0009】
さらに、化学品等を使用しないため、環境や人体に対する影響を極めて小さくすることができる。また、従来、再利用が難しく廃棄されることが多かった泡盛廃液をリサイクル利用することができると共に、客土材を投入せずに現地の土壌そのものを改良することができるため、環境保護の観点からも好ましい。さらに、特殊な装置、大型機械、専門のオペレータ、および特殊な処理工程等が不要であるため、簡易かつ低コストで微粒子粘性土壌の改良を行なうことが可能となる。
【0010】
(2)また、本発明の土壌改良方法において、前記微生物を含む溶液は、光合成細菌、乳酸菌、酵母菌、糸状菌、または放線菌を含む有用微生物群を複合した培養液であることを特徴としている。
【0011】
このように、有用微生物群を複合した培養液を用いるので、泡盛廃液特有の臭いを抑えることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、泡盛廃液に微生物を含む溶液を混合させるので、微生物の働きにより泡盛廃液を発酵させることができ、泡盛廃液特有の臭いを抑えることができる。そして、その微生物含有泡盛廃液を微粒子粘性土壌に混合させることにより、菌糸を効果的に発生させることができる。この菌糸が糊の機能を発揮し、微粒子粘性土壌が団粒化する。土壌が団粒化することにより、通気性および透水性が向上するため、赤水の発生を防止することが可能となる。また、団粒化することにより、植物の栽培土壌として用いることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本実施形態では、沖縄の赤黄色土や関東ローム層に見られる、粘土粒子を体積比率で50%以上含有する微粒子粘性土壌である「赤土」を主とする造成工事現場において、本発明に係る土壌改良方法によって、微粒子粘性土壌の物理性を改良する。より具体的には、微粒子粘性土壌に、微生物を含有する泡盛廃液を混合させて、菌糸を発生させ、土壌に団粒構造を形成する。
【0014】
「泡盛」は、日本国内最古の蒸留酒と言われ、原料である米を麹にして、この米麹と水に酵母を加えて発酵させ、単式蒸留機で蒸留して作られるものである。この蒸留後、「泡盛廃液」と呼ばれる廃液が生成される。この泡盛廃液は、特有の臭いを放つため、従来、再利用が難しいとされてきた。
【0015】
本実施形態では、生成された泡盛廃液の温度を35℃から45℃の範囲内に調整し、少なくとも一種類の微生物を含む溶液と、前記温度調整された泡盛廃液とを混合させて微生物含有泡盛廃液を作製する。この微生物を含む溶液は、EMを用いることが望ましい。EMとは、Effective Microorganismsの略称であり、光合成細菌、乳酸菌、酵母菌を主体に、安全で有用な微生物を80余種共生させた液状の微生物資材である。EMに含まれる微生物は、主として、上記の光合成細菌、乳酸菌、酵母菌の他、糸状菌、または放線菌であり、EMは、これらの有用微生物群を複合した培養液である。
【0016】
このEMは、嫌気性微生物と好気性微生物とを共生させた有用微生物群を、殺菌処理を施した天然の糖蜜によって、例えば、40日間複合培養させて、pH3.5以下に調整したものである。
【0017】
さらに、このEMから低分子化の多糖類などの抗酸化物質を抽出し濃縮したもの(有用微生物発酵物質)を使用しても良い。この有用微生物発酵物質は、熱帯から温帯域の植物や海草をEMで発酵させ、オゾンにより酸化物を除去し、各種フィルターにて残査や微生物を除去したものである。本成分中には、植物由来、微生物由来の抗酸化物質も多種類含有されている。有用性微生物群から作り出される抗酸化物質の種類およびその作用については、次の通りである。
【0018】
(1)フラボノイド類化合物
大部分は糖類の結合した配糖体として存在し、薬理作用または生理活性作用として抗発ガンプロモーター抑制効果や非常に強い抗酸化作用、血小板凝集抑制作用を有する。また、酸化作用の要因となるフリーラジカルの消去などに作用すると共に、抗菌活性作用も有する。
【0019】
(2)サポニン(トリテルベン化合物の配糖体)
植物由来の生理活性物質として存在し、ラジカルの不対電子の消去作用などの抗酸化作用を有する。その作用効果は比較的強く安定維持する。
【0020】
(3)ユビキノン
光合成栄養細菌由来の生体内抗酸化物質として存在し、生体内の酵素系と反応し強い抗酸化作用を示す。
【0021】
(4)カロテノイド類化合物
光合成栄養細菌由来のリコペンが含有され、活性酸素を消去する作用を有し、生体の損傷を防御する。
【0022】
(5)ビタミンE,ビタミンC(小分子抗酸化物質)
α,β,γ,δ,トコフェロールを含有し、食用油の酸化防止作用を有する。特に、生体膜の高度不飽和脂肪酸の酸化を防止する。
【0023】
(6)Na,Mg,P,K,Ca等の約40種の金属ミネラル類
これらの金属ミネラルで2価のカチオンに属するミネラル類は、生体内の抗酸化酵素や数々の酸化還元酵素と共役反応を促進する。また、電気伝導率を促進し、防錆効果も促進させる。
【0024】
有用微生物群が作りだす抗酸化物質は、有機酸、アミノ酸、糖類、ビタミン等を含み、これらは有用微生物の発酵を促進する。すなわち、嫌気性微生物と好気性微生物とを共生させた有用微生物群からつくりだされる抗酸化物質および有機酸は、泡盛廃液の臭い源の増加を抑制する。
【0025】
次に、以上のようなEMと、温度調整された泡盛廃液とを混合させて微生物含有泡盛廃液を作製する。そして、微生物含有泡盛廃液を、微粒子粘性土壌に混合させる。この場合、微生物含有泡盛廃液を、微粒子粘性土壌に「散布」しても良いし、散布後、耕運機により耕して、微生物含有泡盛廃液が十分に微粒子粘性土壌に混ざり合うようにしても良い。
【0026】
次に、微生物含有泡盛廃液が混合した微粒子粘性土壌に菌糸を発生させる。この場合、常温で一週間、そのまま放置しても良いし、ビニールシートを被せて降雨を直接受けないようにしても良い。
【0027】
微生物含有泡盛廃液が混合した土壌では、発酵が進むため、泡盛廃液特有の臭いも少なくなっていく。
【0028】
本発明の効果を測定するために、フィールド実験およびハウス内実験を行なった。フィールド実験では、自然の天候条件下で微生物含有泡盛廃液を散布および起耕して効果を確認する。また、ハウス内実験では、(1)各種土壌改良モデルを設定し、データを収集する。(2)また、表面流出水のSS、濁度などのデータを収集する。(3)成分の配合比率による効果の違いを確認する。
【0029】
(フィールド実験)
このフィールド実験では、小型耕運機、80リットル入りのスチールバケツを2個、60リットル入りのポリバケツを4個、メモリ付きバケツを2個、ジョーロ、サンプリング用広口ビンを実験用資材として使用した。
【0030】
図1は、フィールド実験の実験区の設定例を示す図である。図1では、実験区として、実験区1−1、実験区1−2、実験区2−1、実験区2−2の4区を設定した。図1に示すように、実験区1−1では、EM混合比が50パーセントの微生物含有泡盛廃液を1平方メートル当たり20リットルの割合で投入し、耕運機で耕起する。実験区1−2では、EM混合比が20パーセントの微生物含有泡盛廃液を1平方メートル当たり20リットルの割合で投入し、耕起する。また、実験区2−1では、EM混合比が50パーセントの微生物含有泡盛廃液を1平方メートル当たり20リットルの割合で投入する。実験区2−1では、耕運機での耕起は行なわない。実験区2−2では、EM混合比が20パーセントの微生物含有泡盛廃液を1平方メートル当たり20リットルの割合で投入する。実験区2−2では、耕運機での耕起は行なわない。
【0031】
また、フィールド実験での土壌分析項目は、以下の項目が想定されている。
(1)陽イオン交換容量(ショーレンベルガー法)
(2)粒径組成(国際土壌学会)
(3)飽和透水係数(変水位法)
(4)強熱減量(600℃、3時間加熱法)
(5)炭素・窒素同時分析(乾式燃焼法)
(6)炭素率(炭素窒素比:C/N)
【0032】
(ハウス内実験)
このハウス内実験では、プランターを12個、サンプリング用広口ビンを実験用資材として使用した。微粒子粘性土壌の土を用いて、プランターモデルを作成する。このプランターモデルの作成に当っては、土をふるいにかけて土粒の大きさを均一にする。
【0033】
図2は、ハウス内実験の実験区の設定例を示す図である。図2では、実験区として、実験区1−1〜1−3、2−1〜2−3の6区を設定した。図2に示すように、耕起処理または不耕起処理については、☆印が付されているように、フィールド実験で得られた適切な結果を適用するものとする。また、実験区1−1では、EM混合比が20パーセントの微生物含有泡盛廃液を1平方メートル当たり5リットルの割合で投入する。実験区1−2では、EM混合比が20パーセントの微生物含有泡盛廃液を1平方メートル当たり10リットルの割合で投入する。また、実験区1−3では、EM混合比が20パーセントの微生物含有泡盛廃液を1平方メートル当たり20リットルの割合で投入する。
【0034】
実験区2−1では、EM混合比が50パーセントの微生物含有泡盛廃液を1平方メートル当たり5リットルの割合で投入する。また、実験区2−2では、EM混合比が50パーセントの微生物含有泡盛廃液を1平方メートル当たり10リットルの割合で投入する。実験区2−3では、EM混合比が50パーセントの微生物含有泡盛廃液を1平方メートル当たり20リットルの割合で投入する。
【0035】
(ハウス内実験の結果)
土壌改良効果の確認は、本発明の工程をすべて終了後、土壌表面に水を散布し、表面流出水をサンプリングし、SS、濁度を測定した。すなわち、生成された泡盛廃液の温度を約40℃に調整し、EMを泡盛廃液に混合させて微生物含有泡盛廃液を作製し、その微生物含有泡盛廃液を、微粒子粘性土壌に対して、散布し、耕起させて十分に混合させる。そして、微生物含有泡盛廃液が混合した微粒子粘性土壌を一週間自然に放置する。すると、その土壌から菌糸(カビ)が発生し、微粒子粘性土壌が団粒化する。
【0036】
透水試験では、上記菌糸が発生して団粒化した土壌と、無処理の土壌とをそれぞれプランターに入れ、水を注ぐ。しばらくして水の透明度を測定する。無処理の土壌では、微粒子がコロイド状態となって水に浮遊し赤水となった。一方、団粒化した土壌では、水は透明のままであり、赤水は発生しなかった。また、水を除去した後の状態を観察すると、無処理の土壌では、粘土の様相を呈した。一方、団粒化した土壌では、水を除去した後でも団粒構造が維持された。
【0037】
以上説明したように、本実施形態によれば、泡盛廃液にEMを混合させるので、微生物の働きにより泡盛廃液を良質に発酵させることができ、泡盛廃液特有の臭いを抑えることができる。そして、その微生物含有泡盛廃液を微粒子粘性土壌に混合させることにより、菌糸を効果的に発生させることができる。この菌糸が糊の機能を発揮し、微粒子粘性土壌が団粒化する。土壌が団粒化することにより、通気性および透水性が向上するため、赤水の発生を防止することが可能となる。また、団粒化することにより、植物の栽培土壌として用いることが可能となる。
【0038】
さらに、化学品等を使用しないため、環境や人体に対する影響を極めて小さくすることができる。また、従来、再利用が難しく廃棄されることが多かった泡盛廃液をリサイクル利用することができると共に、客土材を投入せずに現地の土壌そのものを改良することができるため、環境保護の観点からも好ましい。さらに、特殊な装置、大型機械、専門のオペレータ、および特殊な処理工程等が不要であるため、簡易かつ低コストで微粒子粘性土壌の改良を行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】フィールド実験の実験区の設定例を示す図である。
【図2】法面ハウスモデルのイメージを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
泡盛廃液を用いて、粘土粒子を体積比率で50%以上含有する微粒子粘性土壌の物理性を改良する土壌改良方法であって、
生成された泡盛廃液の温度を35℃から45℃の範囲内に調整する工程と、
少なくとも一種類の微生物を含む溶液と、前記温度調整された泡盛廃液とを混合させて微生物含有泡盛廃液を作製する工程と、
前記微生物含有泡盛廃液を、前記微粒子粘性土壌に混合させる工程と、
前記微生物含有泡盛廃液が混合した微粒子粘性土壌に菌糸を発生させる工程と、を少なくとも含むことを特徴とする土壌改良方法。
【請求項2】
前記微生物を含む溶液は、光合成細菌、乳酸菌、酵母菌、糸状菌、または放線菌を含む有用微生物群を複合した培養液であることを特徴とする請求項1記載の土壌改良方法。

【図1】
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【図2】
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