説明

土壌改良材の製造方法

【課題】糖化残渣からなり優れた土壌改良効果が得られる土壌改良材の製造方法を提供する。
【解決手段】稲藁にアンモニア水を混合し、所定温度で所定時間保持した後にアンモニアを分離し、リン酸、硝酸又は硫酸の少なくとも一つを添加して、pHを3〜7に調整する。糖化酵素を添加して、糖化率が80%以上となるように糖化処理する。糖化溶液を分離して、糖化残渣を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌改良材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、稲藁等のリグノセルロース系バイオマスを基質として溶媒と混合してなる基質混合物を、微生物が産生する糖化酵素により糖化することにより糖化溶液を得て、該糖化溶液を発酵させることによりエタノールを製造することが知られている。
【0003】
ここで、前記リグノセルロース系バイオマスは、セルロース又はヘミセルロースにリグニンが強固に結合した構成を備えている。そこで、前記リグノセルロース系バイオマスを酵素で糖化しやすくするための前処理方法が提案されている。例えば、前記リグノセルロース系バイオマスにアンモニア及び水を加え、一定時間保持した後に、アンモニアを放散させる前処理方法が知られている。
【0004】
前記前処理を行うことにより、セルロース又はヘミセルロースに結合しているリグニンの一部が解離し、セルロースもしくはヘミセルロースとリグニンとの間、又はセルロース同士もしくはヘミセルロース同士の間に空隙が生じると考えられている。また、結晶性セルロースが膨潤してセルロースの内部又は、結晶を形成するセルロース間に空隙が生じると考えられている。このため、酵素分子がセルロース又はヘミセルロースに接触しやすくなると考えられている。
【0005】
尚、本願において、解離とは、セルロース又はヘミセルロースに結合しているリグニンの結合部位のうち、少なくとも一部の結合を切断することをいう。また、膨潤とは、液体の浸入により結晶性セルロースを構成するセルロース又はヘミセルロースに空隙が生じ、又は、セルロース繊維の内部に空隙が生じて膨張することをいう。
【0006】
前記エタノールの製造では、前記糖化酵素が高価であるので、該糖化酵素の使用量を低減するために前記基質混合物を低濃度とすることが行われている。ところが、前記基質混合物を低濃度とすると、このような基質混合物から得られる糖化溶液も低濃度になり、ひいては該糖化溶液を発酵させて得られるエタノールも低濃度となる。この結果、得られたエタノールを濃縮するために蒸留する際に、蒸留に要する時間及び熱エネルギーが増加するという問題がある。
【0007】
前記問題を解決するために、前記基質混合物を高濃度とすると共に、前記糖化酵素の使用量を増加させ、高濃度のエタノールを得ることが考えられる。この場合には、高価な前記糖化酵素の使用量が増加しコスト増となるため、前記エタノールの製造工程の全体としてのコストを低減する必要がある。また、基質混合物の濃度を変えずに前記糖化酵素を低濃度とすると、所望の糖化溶液の濃度に達するまでの糖化時間が長くなるため、糖化するための反応槽を大きくする必要があるという問題もある。
【0008】
前記エタノール製造工程におけるコスト低減の一方策として、前記基質・糖化酵素混合物から前記糖化溶液を分離した後に残留する糖化残渣を有効利用することが考えられる。ここで、前記糖化残渣を肥料として用いることは従来から知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−54676号公報、[請求項4]、段落[0034]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記糖化残渣は有機物であるので、土壌に還元することにより、土壌改良材としてある程度の効果を得ることができるものと期待される。前記糖化残渣を土壌に還元する場合、糖化残渣中の炭素と窒素との比率(以下、「C/N比」と記載する)を低く抑える必要がある。しかしながら、従来のエタノール製造工程から得られた糖化残渣は、C/N比が高く分解されやすい成分を含むため、発酵によってメタンガスが発生し、土壌が腐敗しやすくなるという不都合がある。また、糖化残渣中における肥効成分の含有量が低くなるために、土壌改良材として十分な効果が得られないことがあるという不都合がある。
【0011】
本発明は、かかる不都合を解消して、糖化残渣からなり優れた土壌改良効果を得ることができる土壌改良材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するために、本発明の土壌改良材の製造方法は、基質としてのリグノセルロース系バイオマスをアンモニア水と混合してなる基質混合物を所定温度に所定時間保持することによりアンモニア含有糖化前処理物を得る工程と、前記アンモニア含有糖化前処理物からアンモニアを分離してアンモニア分離糖化前処理物を得る工程と、前記アンモニア分離糖化前処理物に糖化酵素を添加して基質・糖化酵素混合物を得る工程と、前記基質・糖化酵素混合物に含有される基質を前記糖化酵素により糖化して、得られた糖化溶液を該基質・糖化酵素混合物から分離することにより糖化残渣からなる土壌改良材を得る工程を備える土壌改良材の製造方法において、前記アンモニア分離糖化前処理物にリン酸、リン酸塩、硝酸又は硫酸の少なくとも一つを添加して、該アンモニア分離糖化前処理物のpHを3〜7の範囲に調整すると共に、前記範囲のpHに調整された前記アンモニア分離糖化前処理物に糖化酵素を添加して、得られた基質・糖化酵素混合物に含有される基質を前記糖化酵素により80%以上の糖化率となるように糖化処理することを特徴とする。尚、ここで「糖化率」とは、基質中に含まれたセルロース及びヘミセルロースの糖に変換された割合を百分率で示す。
【0013】
本発明の土壌改良材の製造方法では、まず、前記リグノセルロース系バイオマスにアンモニア水を混合して基質混合物を得る。そして、前記基質混合物を、所定温度に所定時間保持してアンモニア含有糖化前処理物を得る。
【0014】
アンモニア含有糖化前処理物は、セルロースもしくはヘミセルロースに結合しているリグニンの一部が解離され、又は結晶性セルロースが膨潤されている。この結果、セルロースもしくはヘミセルロースとリグニンとの間、又は結晶性セルロースを構成するセルロース繊維の間もしくは内部に空間が生じ、糖化酵素分子がセルロース及びヘミセルロースに接触しやすくなるため、酵素糖化が容易になると考えられる。
【0015】
次に、前記アンモニア含有糖化前処理物からアンモニアを分離することにより、アンモニア分離糖化前処理物を得る。前記アンモニア分離糖化前処理物は、アンモニアが残存しており、アルカリ性である。そこで、前記アンモニア分離糖化前処理物を糖化酵素の活動に適した酸性領域にするためにリン酸、リン酸塩、硝酸又は硫酸の少なくとも一つを添加して、該糖化前処理物のpHを3〜7の範囲に調整する。
【0016】
前記リン酸としては、リン酸(HPO)、ピロリン酸(H)、メタリン酸((HPO)等を挙げることができる。また、前記リン酸に代えて、リン酸塩(KHPO又はNaHPO)を用いてもよい。
【0017】
リン酸又はリン酸塩を用いるときには、糖化残渣中における肥効成分としてのリン酸の含有量を増加させることができる。また、硝酸を用いるときには、糖化残渣中における肥効成分として、硝酸由来の窒素の含有量を増加させることができる。
【0018】
また、土壌に硫黄分が少ない場合は、肥効成分としての硫黄分を添加するために硫酸を用いることもできる。この場合、安価な硫酸を用いることができるので、製造コストを低減することができる。
【0019】
そこで、前記リン酸、リン酸塩、硝酸又は硫酸は、土壌に不足している肥効成分の種類と量とに応じて、いずれか一つを単独で用いてもよく、二つ以上を混合して用いるようにしてもよい。
【0020】
前記アンモニア分離糖化前処理物のpHの範囲は、前記糖化酵素が作用し得るpHであり、前記範囲外では、該糖化酵素により前記セルロース又はヘミセルロースを糖化する効率が低下する。
【0021】
次に、前記範囲のpHに調整されたアンモニア分離糖化前処理物に糖化酵素を添加して、基質・糖化酵素混合物を得る。そして、前記糖化酵素により、前記基質・糖化酵素混合物に含まれる前記セルロース又はヘミセルロースを、糖化率が80%以上となるように糖化処理する。
【0022】
本発明の製造方法によれば、前記糖化率が80%以上となるように糖化処理することにより、糖化溶液として分離される炭素の量を増加させることができ、同時に前記糖化残渣のC/N比を低減させることができる。
【0023】
次に、前記糖化処理後の前記基質・糖化酵素混合物から糖化溶液を分離する。前記糖化処理後の前記基質・糖化酵素混合物は、この時点でエタノール変換に適合するpHに調整してもよく、分離後にpH調整を行ってもよい。従来のエタノール製造工程でpH調整する場合、前記pH調整を水酸化ナトリウムにより行っている。これに対して本発明の製造方法では、水酸化ナトリウムの他に水酸化カリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムの少なくとも一つを用いて、前記基質・糖化酵素混合物のpHを3〜8の範囲に調整することが好ましい。
【0024】
水酸化カリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムを用いると、糖化残渣中における肥効成分としてのカリウム、カルシウム、マグネシウムの含有量をそれぞれ増加させることができる。そこで、前記水酸化カリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムは、土壌に不足している肥効成分の種類と量とに応じて、いずれか一つを単独で用いてもよく、二つ以上を混合して用いるようにしてもよい。
【0025】
前記基質・糖化酵素混合物のpHの範囲は、前記エタノール変換を行うエタノール発酵菌等が作用し得るpHであり、前記範囲外では、該エタノール変換効率が低下する。
【0026】
そして、前記基質・糖化酵素混合物から糖化溶液を分離して、糖化残渣を得る。
【0027】
本発明の製造方法によれば、C/N比が低く、肥効成分として有効な窒素、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウムの含有量の増加した糖化残渣を得ることができ、該糖化残渣を土壌改良材として用いることにより、優れた土壌改良効果を得ることができる。
【0028】
本発明の土壌改良材の製造方法において、前記基質混合物は、20〜70質量%の範囲の前記基質を含むことが好ましく、さらに、50〜60質量%の範囲の前記基質を含むことがより好ましい。前記基質混合物が前記範囲の前記基質を含むことにより、該基質混合物から前記糖化溶液に回収される糖の回収率を向上することができる。この結果、前記糖化残渣のC/N比をさらに低減することができる。
【0029】
また、本発明の土壌改良材の製造方法において、前記アンモニア水は20〜30質量/体積%の範囲の濃度を備え、前記基質混合物を25〜100℃の範囲の温度に加熱して、該範囲の温度で保持することにより、前記基質からリグニンを解離し、又は該基質を膨潤させることが好ましい。本発明の土壌改良材の製造方法では、前記のようにすることにより、糖化酵素による糖化処理を効率よく行うことができ、前記糖化残渣のC/N比をさらに低減することができる。
【0030】
前記アンモニア水の濃度は20質量/体積%未満では前記基質からのリグニンの解離、又は基質の膨潤が十分に起こらないだけでなく、アンモニアの放散や回収に多くのエネルギーが必要になることがある。また、前記アンモニア水の濃度が30質量/体積%を超えると、アンモニアの蒸気圧によって圧力が高くなり専用の高圧容器が必要になることがある。
【0031】
また、前記加熱温度は、25℃より低いと前記基質からのリグニンの解離、又は基質の膨潤に時間がかかるため、容器を大きくしなければならないことがある。また、前記加熱温度が100℃を超えた場合でも、その後の酵素糖化性能に変化は無いが、容器にバイオマスが固着してしまうことがある。
【0032】
また、本発明の土壌改良材の製造方法において、前記糖化酵素として、例えば、アクレモニウム属の菌又はトリコデルマ属の菌に由来するセルラーゼを用いることができる。
【0033】
また、本発明の土壌改良材の製造方法において、前記糖化残渣は、C/N比が20以下であることが好ましい。しかし、前記糖化残渣から炭素分を完全に除去することは困難であるため、2〜20の範囲のC/N比を備えることがより好ましい。前記C/N比が2未満であるときには、最も良い条件ではあるものの、炭素分を除去することが困難であるため、製造コストが増大することがある。また、前記C/N比が20を超えるときには、前記糖化残渣を土壌改良材として用いたときに、残留する炭素分によってメタンが発生することがある。あるいは、前記糖化残渣を土壌改良材として用いたときに、微生物が該糖化残渣に含まれる炭素を利用して増殖する際に該糖化残渣に含まれる窒素をも取り込むために、作物が窒素飢餓に陥る虞がある。同時に土壌の酸素も消費されるため、土壌中の酸素分が低下し、土壌が還元状態になって硫化水素が発生しやすくなり、作物の生育に影響する虞がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の土壌改良材の製造方法の一実施形態を示すフローチャート。
【図2】本発明の土壌改良材を施用した水稲の収穫時の穂数を示すグラフ。
【図3】本発明の土壌改良材を施用した水稲の収穫時の穂重を示すグラフ。
【図4】本発明の土壌改良材を施用したソルガムの播種20日後の葉緑素量を示すグラフ。
【図5】本発明の土壌改良材を施用したソルガムの播種20日後の乾物重を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0036】
図1に示すように、本実施形態の土壌改良材の製造方法では、まず、基質としてリグノセルロース系バイオマスの1つである稲藁を粗粉砕したものにアンモニア水を混合して、稲藁及びアンモニアを含む基質混合物を得る。そして、前記基質混合物を攪拌する。前記基質混合物は、密閉された容器中で攪拌することにより、常温付近における攪拌中のアンモニアの放散を低減することができる。また、加熱下で攪拌する場合は、アンモニアの放散を防ぐために圧力容器を用いると良い。
【0037】
ここで、前記アンモニア水は、20〜30質量/体積%の範囲の濃度、例えば25質量/体積%であり、前記アンモニア水に対し、稲藁が好ましくは20〜70質量%の範囲、より好ましくは50〜60質量%の範囲となるようにする。そして、得られた前記基質混合物を、25〜100℃の範囲の温度に加熱して、該範囲の温度で、2〜200時間の範囲の時間保持する。例えば、80℃では8時間、25℃では200時間保持する。
【0038】
この結果、前記基質である稲藁からリグニンが解離され、又は稲藁が膨潤されたアンモニア含有糖化前処理物が得られる。前記アンモニア含有糖化前処理物は、前記アンモニア水による処理の結果として、pHが13〜14の範囲となっている。
【0039】
そこで、次に、前記アンモニア含有糖化前処理物からアンモニアを放散させてアンモニアを分離し、アンモニア分離糖化前処理物を得る。分離されたアンモニアは、再び凝縮させられて回収される。続いて、アンモニア分離糖化前処理物のpH調整を行う。前記アンモニア分離糖化前処理物のpH調整は、リン酸、リン酸塩、硝酸又は硫酸の少なくとも一つを添加して、前記アンモニア分離糖化前処理物のpHを3〜7の範囲、好ましくはpH4〜4.5にすることにより行う。前記pHの範囲は、後述の糖化酵素が作用し得る範囲である。
【0040】
また、硫酸でpHを調整した後、最終的にリン酸、リン酸塩又は硝酸を用いてpHを調整することもできる。リン酸、リン酸塩又は硝酸を添加した場合は、土壌改良材の肥効成分を増やすことができる。硫酸を添加した場合には、前記肥効成分を増やすことにはならないが、硫黄分が少ない土壌の場合には、硫黄分を土壌に補給できるため、有効な土壌改良材として働く。リン酸、硝酸、硫酸を添加する量は、最終的に目標とするpH値や、本実施形態によって得られる土壌改良材を還元する土壌の特性、つまり土壌のpHや窒素、リン、カリウム等の肥効成分の量によって決められる。
【0041】
尚、カルシウムは植物の育成に有用な成分であり、前記アンモニア分離糖化前処理物のpH調整時に、さらにカルシウムを添加してもよい。カルシウムを添加する量は、本実施形態によって得られる土壌改良材を還元する土壌のpH値やカルシウムの量によって決められる。
【0042】
次に、前記範囲のpHに調整された前記アンモニア分離糖化前処理物に糖化酵素を添加して、基質・糖化酵素混合物を調製する。前記糖化酵素は、微生物が産生する糖化酵素であり、例えば、アクレモニウムセルラーゼ(商品名、meiji seika ファルマ株式会社製)、GC220(商品名、ジェネンコア社製)等を、前記基質・糖化酵素混合物の全量に対して3.23〜32.28質量%の範囲となるように添加する。このとき、前記基質・糖化酵素混合物の基質濃度は、15〜30質量%であることが好ましい。
【0043】
次に、前記基質・糖化酵素混合物を、30〜60℃の範囲の温度、例えば50℃の温度に、50〜150時間、例えば72時間保持して、糖化処理を行う。前記糖化処理により、前記基質・糖化酵素混合物に含まれる前記セルロース又はヘミセルロースが、前記糖化酵素の作用により加水分解され、80%以上の糖化率で糖化される。この結果、例えば、グルコースやキシロース等の糖が含まれる基質・糖化酵素混合物を得ることができる。
【0044】
次に、土壌のpHによって、前記基質・糖化酵素混合物のpH調整を行うかどうか判断する。例えば、土壌が酸性の場合は、糖化残渣をアルカリ側にするために、前記糖化処理の段階でpH調整を行う。前記pH調整は、前記基質・糖化酵素混合物に水酸化カリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムを添加することにより行うことができる。カリウム、カルシウム、マグネシウムは共に植物の育成に有用な成分であり、その添加量は他の肥効成分の量によって適宜決められる。
【0045】
前記糖化処理の段階でのpH調整は、アルコール発酵におけるエタノールへの変換が効率よく進行するように、例えばpHが3〜8の範囲になるように行う。例えば、酵母菌の中のサッカロミセス・セルビシエもしくはピキア・スティピティスを用いるときには、pH4〜6とする。また、アルコール発酵にコリネ型細菌を用いるときには、pH7とする。
【0046】
尚、前記pH調整は、従来から用いられている水酸化ナトリウムを用いて行うことによりコストを低減することができるが、この場合には後述の糖化残渣の肥効成分は増加しない。また、pH調整は、前記糖化処理の段階で行わなくてもよく、後工程のアルコール発酵工程の段階で行うこともできる。
【0047】
前記糖化処理後の基質・糖化酵素混合物は、前述のようにグルコースやキシロース等の糖を含む一方、リグニン、セルロース又はヘミセルロースの分解生成物や未反応の稲藁等を糖化残渣として含んでいる。そこで、次に、前記糖化処理後の基質・糖化酵素混合物を固液分離することにより、糖化溶液を回収すると共に、糖化残渣を分離する。前記固液分離は、例えば、遠心分離、濾過等により行うことができる。
【0048】
稲藁は通常50〜60の範囲のC/N比を備えているが、前記糖化残渣は、前記糖化溶液が回収された結果、C/N比が2〜20の範囲に低下している。また、前記糖化残渣は、前記各pH調整の結果、肥効成分である窒素、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウムの含有量が増加している。従って、前記糖化残渣を土壌改良材として土壌に還元することにより、優れた土壌改良効果を得ることができる。
【0049】
また、前記固液分離により回収された糖化溶液は、後工程のアルコール発酵工程に送られる。
【0050】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0051】
〔実施例1〕
本実施例では、まず、基質として含水率10質量%程度の稲藁をカッターミルにて2〜5mm程度の稲藁片に粉砕し、該稲藁片と26質量/体積%のアンモニア水とを1:1の質量比で混合し、稲藁及びアンモニアを含む基質混合物を得た。次に、前記基質混合物を常温(25℃)で96時間保持して、基質としての稲藁からリグニンが解離され、又は稲藁が膨潤されたアンモニア含有糖化前処理物を得た。
【0052】
次に、前記アンモニア含有糖化前処理物を25〜60℃の範囲の温度に加熱して、アンモニアを放散させてアンモニアを分離し、アンモニア分離糖化前処理物を得た。放散させたアンモニアはスクラバーで水に吸収させ、アンモニア水として再利用に供した。
【0053】
次に、前記アンモニア分離糖化前処理物の含水率を測定し、残存しているアンモニア成分を、少量の水を添加しながら5質量%硫酸で中和し、pH4に調整した。次に、前記pHに調整された前記アンモニア分離糖化前処理物に、糖化酵素としてアクレモニウムセルラーゼ(商品名、meiji seika ファルマ株式会社製)を、終濃度が8質量%になるように添加し、基質・糖化酵素混合物を得た。
【0054】
次に、前記基質・糖化酵素混合物に、該基質・糖化酵素混合物中の基質が26質量%になるように水を添加した後、50℃の温度に72時間保持して糖化処理を行った。前記糖化処理の間、前記基質・糖化酵素混合物を適宜攪拌した。
【0055】
次に、前記糖化処理後、フィルタープレスタイプの固液分離装置により前記基質・糖化酵素混合物から糖化溶液を分離する一方、固形分として糖化残渣を得た。本実施例では、前記基質としての稲藁1kg当たり、約1.2kgの前記糖化残渣が得られた。
【0056】
前記糖化溶液における各種糖の濃度は、グルコース112g/リットル、キシロース40g/リットル、アラビノース9g/リットルであり、糖化率は80%であった。
【0057】
次に、愛知県東郷町の水田土壌を目開き1cmの篩に通した後、得られた水田土壌3.5kgを1/5000aワグネルポットに充填したものを4ポット用意した。次に、代掻き前10日に、本実施例で得られた糖化残渣10.1g/potを土壌改良材として前記ポットに施用し、土壌と十分に混和した。前記糖化残渣は、肥効成分として、窒素1.5質量%、リン酸0.07質量%、カリ0.12質量%を含んでおり、C/N比は10.4であった。
【0058】
次に、慣行法に従って、22日間育苗した水稲(コシヒカリ)を前記ポットに移植し、以降温室内で栽培を行った。収穫時の穂数を4ポットの平均値として図2に、穂重を4ポットの平均値として図3に示す。
【0059】
〔実施例2〕
本実施例では、前記アンモニア分離糖化前処理物に残存しているアンモニア成分の中和に、5質量%リン酸を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、糖化残渣を得た。前記糖化残渣は、肥効成分として、窒素1.9質量%、リン酸0.71質量%、カリ0.10質量%を含んでおり、C/N比は9.5であった。
【0060】
次に、本実施例で得られた糖化残渣を土壌改良材として用いた以外は、実施例1と全く同一にして、水稲の栽培を行った。収穫時の穂数を4ポットの平均値として図2に、穂重を4ポットの平均値として図3に示す。
【0061】
〔比較例1〕
本比較例では、土壌に何も施用しなかった以外は、実施例1と全く同一にして、水稲の栽培を行った。収穫時の穂数を4ポットの平均値として図2に、穂重を4ポットの平均値として図3に示す。
【0062】
〔比較例2〕
本比較例では、前記糖化残渣に代えて、風乾重で8.4gの稲藁を土壌改良材として施用した以外は、実施例1と全く同一にして、水稲の栽培を行った。前記稲藁は、肥効成分として、窒素0.54質量%、リン酸0.17質量%、カリ0.39質量%を含んでおり、C/N比は45であった。収穫時の穂数を4ポットの平均値として図2に、穂重を4ポットの平均値として図3に示す。
【0063】
図2及び図3から、実施例1,2では、穂数、穂重共に比較例1,2より高い値となっており、本発明の製造方法により得られる糖化残渣からなる土壌改良材によれば、優れた土壌改良効果を得ることができることが明らかである。
【0064】
尚、実施例2では、前記アンモニア分離糖化前処理物に残存しているアンモニア成分の中和に、リン酸を用いているが、リン酸に代えてリン酸塩を用いた場合にも同等の効果を得ることができた。
【0065】
〔実施例3〕
本実施例では、まず、実施例2と全く同一にして糖化残渣を得た。
【0066】
次に、愛知県東郷町の畑土壌である赤土を目開き1cmの篩に通した後、得られた畑土壌3.5kgを1/5000aワグネルポットに充填したものを4ポット用意した。次に、播種3日前に、本実施例で得られた糖化残渣10.1g/potを土壌改良材として前記ポットに施用し、土壌と十分に混和した。前記糖化残渣は、肥効成分として、窒素1.9質量%、リン酸0.71質量%、カリ0.10質量%を含んでおり、C/N比は9.5であった。
【0067】
次に、ソルガム(那系MS−3B)を播種し、20日間温室内で栽培を行った。播種20日後の葉身の葉緑素量を、葉緑素計(コニカミノルタセンシング株式会社製、商品名:SPAD−502Plus)を用いてSPAD値として測定した。結果を4ポットの平均値として図4に示す。
【0068】
また、播種20日後の地上部の乾物重を測定した。結果を4ポットの平均値として図5に示す。
【0069】
〔比較例3〕
本比較例では、土壌に何も施用しなかった以外は、実施例3と全く同一にして、ソルガムの栽培を行った。播種20日後の葉身の葉緑素量を、実施例3と全く同一にして測定した。結果を4ポットの平均値として図4に示す。
【0070】
また、播種20日後の地上部の乾物重を測定した。結果を4ポットの平均値として図5に示す。
【0071】
図4,5から、実施例3では、葉身の葉緑素量、地上部の乾物重共に比較例3より高い値となっており、本発明の製造方法により得られる糖化残渣からなる土壌改良材によれば、優れた土壌改良効果を得ることができることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基質としてのリグノセルロース系バイオマスをアンモニア水と混合してなる基質混合物を所定温度に所定時間保持することによりアンモニア含有糖化前処理物を得る工程と、
前記アンモニア含有糖化前処理物からアンモニアを分離してアンモニア分離糖化前処理物を得る工程と、
前記アンモニア分離糖化前処理物に糖化酵素を添加して基質・糖化酵素混合物を得る工程と、
前記基質・糖化酵素混合物に含有される基質を前記糖化酵素により糖化して、得られた糖化溶液を該基質・糖化酵素混合物から分離することにより糖化残渣からなる土壌改良材を得る工程を備える土壌改良材の製造方法において、
前記アンモニア分離糖化前処理物にリン酸、リン酸塩、硝酸又は硫酸の少なくとも一つを添加して、該アンモニア分離糖化前処理物のpHを3〜7の範囲に調整すると共に、前記範囲のpHに調整された前記アンモニア分離糖化前処理物に糖化酵素を添加して、得られた基質・糖化酵素混合物に含有される基質を前記糖化酵素により80%以上の糖化率となるように糖化処理することを特徴とする土壌改良材の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の土壌改良材の製造方法において、前記基質混合物は、20〜70質量%の範囲の前記基質を含むことを特徴とする土壌改良材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の土壌改良材の製造方法において、前記アンモニア水は20〜30質量/体積%の範囲の濃度を備え、前記基質混合物を25〜100℃の範囲の温度に加熱して、該範囲の温度で保持することにより前記基質からリグニンを解離し、又は該基質を膨潤させることを特徴とする土壌改良材の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の土壌改良材の製造方法において、前記糖化酵素として、アクレモニウム属の菌又はトリコデルマ属の菌に由来するセルラーゼを用いることを特徴とする土壌改良材の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の土壌改良材の製造方法において、前記糖化残渣は2〜20の範囲のC/N比を備えることを特徴とする土壌改良材の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の土壌改良材の製造方法において、前記糖化処理後の前記基質・糖化酵素混合物に、水酸化カリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムの少なくとも一つを添加して、該基質・糖化酵素混合物のpHを3〜8の範囲に調整することを特徴とする土壌改良材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−17459(P2012−17459A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126215(P2011−126215)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】