説明

土壌改良材の製造方法

【課題】有害重金属に対して優れた吸着能を発揮することのできる土壌改良材の容易かつ低コストでの製造方法を提供する。
【解決手段】動物の生の骨を過酸化水素水に浸漬することによって骨に付着する脂質又は蛋白質を酸化分解する浸漬工程Bと、浸漬工程Bを終えた骨を焼成することによって骨に残存する脂質又は蛋白質を焼失させる焼成工程Eとを経て、ハイドロキシアパタイトを成分に有する土壌改良材を製造する。浸漬工程Bを、動物の生の骨を過酸化水素水に浸漬することによって骨に付着する脂質又は蛋白質を酸化分解する第1次浸漬工程Bと、第1次浸漬工程Bを終えた骨を破砕する予備破砕工程B2.1と、予備破砕工程B2.1を終えた骨を再度過酸化水素水に接触させることによって骨に残存する脂質又は蛋白質を酸化分解する第2次浸漬工程B2.4とを経るものとすると好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌へ散布することにより、土壌中に含まれるカドミウムなどの有害重金属が植物へ吸収されるのを抑制することのできる土壌改良材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カドミウムを多量に摂取すると、腎機能が低下して骨軟化症などの疾患を発症しやすくなることが知られており、カドミウムを含有する農作物の流通は、世界各国で制限されている。例えば、日本では、カドミウム濃度が1.0ppm以上の玄米は、汚染米として焼却処分されることになっている。また、カドミウム濃度が1.0ppm未満の玄米であっても、0.4ppm以上のものは、準汚染米として食用に供することができない。
【0003】
農作物のカドミウム汚染は、植物に吸収されやすい形態のカドミウムが田畑の土壌に多く含まれていることが原因で引き起こされることが知られている。農作物を汚染するカドミウムの多くは、鉱山や工場からの廃水に含まれるカドミウムが田畑に流入したものと考えられている。このような環境において農作物のカドミウム汚染を防ぐためには、表層の汚染土壌を取り除いて非汚染土壌を新たに入れる客土が最も有効であると云われている。
【0004】
しかし、客土は、膨大な費用(水稲栽培の場合で水田1ha当たり約5千万円)を要する、土壌管理に要する労力が増大する、汚染土壌を取り除いた部分よりも下層が汚染されていた場合には一時的な効果しか得ることができない、除去した汚染土壌の処分が困難である、非汚染土壌を採取した地域の自然環境を悪化させるおそれがある、などの欠点を有しており、必ずしも容易に普及させることのできる技術とはなっていなかった。
【0005】
このような実状に鑑みてか、近年には、重金属を優先的に吸着する性質を有することで知られるハイドロキシアパタイトを利用した土壌改良材も提案されるようになっている。このハイドロキシアパタイトは、カルシウムとリン酸を合成することによって人工的に製造できるものの、その合成にはコストが嵩んでしまう。このため、土壌改良材としては、ハイドロキシアパタイトが主成分である牛骨など、動物の骨を利用したものも提案されるようになっている。
【0006】
例えば、特許文献1には、ブレーン比表面積が4000cm/g以上であるハイドロキシアパタイト含有物質の骨灰を土壌に添加することを特徴とする作物への重金属吸収抑制方法が提案されている。これにより、土壌への影響を最小限にとどめながら、作物への重金属の吸収を抑えることができるとされている。しかし、特許文献1の重金属吸収抑制方法は、動物の骨を高温で焼成した骨灰を使用するものであったため、天然ハイドロキシアパタイトを使用するとはいえ、必ずしもカドミウムなどの有害重金属に対して優れた吸着能を発揮できるものとはなっていなかった。「骨灰」は、一般的に、骨を空気の流通下で1000℃以上の温度で焼成したものと定義されているが、骨をそのような高温で焼成すると、それに含有されるハイドロキシアパタイトの結晶性が高まるおそれがあるからである。
【0007】
また、特許文献2には、動物の骨などに含まれる動物由来の天然ハイドロキシアパタイトを酸溶液中で分解させ、これにより得られるカルシウム塩とリン酸塩を含む酸溶液にアルカリ溶液を加えてpHを所定の範囲に保ちつつ、前記カルシウム塩とリン酸塩を反応させ、これで得られる沈殿物を多数の細孔を有する多孔質基材(木炭やコークスや多孔質鉱物など)に含浸させることで非晶質のハイドロキシアパタイトを含有させた重金属用吸着剤が記載されている。これにより、多孔質基材に含浸されたハイドロキシアパタイトを非晶質として、得られる重金属用吸着剤の重金属に対する吸着能を高めることができるとされている。特許文献2には、動物由来の天然ハイドロキシアパタイトとして、骨灰を用いることが記載されている。
【0008】
しかし、特許文献2の重金属用吸着剤は、結晶性の高い焼成後の骨(骨灰)を原料として使用することを想定したものとなっていたため、骨に含まれる天然ハイドロキシアパタイトをカルシウム塩とリン酸塩とに一旦分解した後、その分解したカルシウム塩とリン酸塩とを反応させて沈殿させるという非常に回りくどい工程を要するものとなっていた。また、非晶質のハイドロキシアパタイトを多孔質基材に含浸するためには、ジェリー状に沈殿したハイドロキシアパタイトの粘度などを適切な範囲に調節しなければならず、非常に煩わしかった。このため、特許文献2の重金属用吸着剤は、必ずしもその製造コストを抑えることができるものとは言えなかった。
【0009】
さらに、特許文献3には、畜産物の加工処理過程で産出される家畜骨にオートクレーブ処理を施したものを原料とし、この原料の供給量と燃焼用かつ流動化用空気供給量の制御が可能な流動焼成炉にて、600〜900℃の一定温度で前記原料を自然燃焼することにより、天然ハイドロキシアパタイトを得る天然ハイドロキシアパタイトの製造方法が記載されている。これにより、粒子径や結晶性が均一な天然ハイドロキシアパタイトを、悪臭などを発生させることなく連続的に生産することが可能になるだけでなく、天然ハイドロキシアパタイトの製造コストを抑えることもが可能になるとされている。特許文献3には、得られた天然ハイドロキシアパタイトを、有害重金属などの吸着剤として利用することや、家畜骨として牛骨(焼成処理前の冷凍保存された牛大腿骨)を使用することについても記載されている。
【0010】
特許文献3の天然ハイドロキシアパタイトの製造方法は、動物の骨を1000℃以上の高温で焼成することを要さないものであったため、得られた天然ハイドロキシアパタイトは、カドミウムなどの有害重金属の吸着能も大きく低下していないと思われる。しかし、特許文献3の天然ハイドロキシアパタイトの製造方法は、原料となる家畜骨にオートクレーブ処理を施すものであったため、高価で大掛かりな装置が必要になるという欠点があった。また、オートクレーブ処理を施した家畜骨は、シャワー洗浄によってそれに付着するコラーゲン成分などを抽出除去してから流動焼成炉にて燃焼しなければ、その後燃焼を行う流動焼成炉に脂分などが多量に付着して流動焼成炉が壊れるおそれもあった。したがって、特許文献3の天然ハイドロキシアパタイトの製造方法も、必ずしも製造コストを抑えることができるものとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−051762号公報(請求項1、段落0029)
【特許文献2】特開平09−192481号公報(請求項3、段落0003〜0007,0010,0012)
【特許文献3】特開平07−277712号公報(請求項1、段落0001,0006,0008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、カドミウムなどの有害重金属に対して優れた吸着能を発揮することのできる土壌改良材を容易かつ低コストで製造することのできる土壌改良材の製造方法を提供するものである。また、食肉の生産・流通過程で出る動物の骨を有効に利用することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、動物の生の骨を過酸化水素水(化学式:H)に浸漬することによって骨に付着する脂質又は蛋白質を酸化分解する浸漬工程と、浸漬工程を終えた骨を焼成することによって骨に残存する脂質又は蛋白質を焼失させる焼成工程とを経て、ハイドロキシアパタイトを成分に有する土壌改良材を製造することを特徴とする土壌改良材の製造方法を提供することによって解決される。
【0014】
このように、過酸化水素水による浸漬工程を行うことにより、骨に付着する脂質や蛋白質の大部分を取り除くことができるようになる。したがって、焼成工程で骨から脂が落ちないようにすることができるので、骨を焼成する装置(電気炉など)がそれにこびり付いた脂などで故障しないようにすることが可能になる。また、焼成工程における焼成温度を低く抑えたり、焼成時間を短く抑えたりすることもできるので、得られる土壌改良材に含まれるハイドロキシアパタイトの結晶化を抑えることができ、カドミウムなどの重金属に対する土壌改良材の吸着能の低下を抑えることが可能になる。また、焼成工程の省エネルギー化を促進することも可能になる。加えて、本発明の土壌改良材の製造方法では、土壌に多量に投与すると土壌や作物に悪影響を及ぼすおそれのあるナトリウムやカリウムなどを使用しないので、原料となる動物の骨の洗浄や得られた土壌改良材の洗浄を簡略化若しくは省略することも可能である。さらに、食肉の生産・流通過程で出る動物の骨を有効に利用することも可能になる。
【0015】
ここで、「動物」とは、牛や豚などの家畜、鶏などの家禽だけでなく、魚をも含む概念である。また、「生の骨」とは、焼成などの加熱処理が施されていない骨のことを云う。「生の骨」には、脂質や蛋白質が付着した状態となっている。動物の身体から取り外された後に加熱処理が施されていないのであれば、冷凍処理など、他の処理を経た骨であっても、「生の骨」の範疇に含まれるものとする。動物が牛や豚などの家畜である場合、「生の骨」は、と蓄場や食肉加工場や精肉店など、食肉の生産過程・加工家庭・流通過程・販売過程において入手することができる。
【0016】
本発明の土壌改良材の製造方法では、焼成工程を終えた骨を粉状又は顆粒状に破砕する本粉砕工程を行うことも好ましい。これにより、得られる土壌改良材を、土壌に散布しやすい形態とすることができる。
【0017】
また、本発明の土壌改良材の製造方法は、過酸化水素水による浸漬工程を少なくとも1度行うものであればよい。しかし、過酸化水素水による浸漬工程を多段階で行うと好ましい。具体的には、過酸化水素水による浸漬工程を、動物の生の骨を過酸化水素水に浸漬することによって骨に付着する脂質又は蛋白質を酸化分解する第1次浸漬工程と、第1次浸漬工程を終えた骨を破砕する予備破砕工程と、予備破砕工程を終えた骨を再度過酸化水素水に接触させることによって骨に残存する脂質又は蛋白質を酸化分解する第2次浸漬工程とを経ることにより行うと好ましい。第2次浸漬工程の後には、第3次浸漬工程、第4次浸漬工程、第5次浸漬工程など、さらに高次数の浸漬工程を行ってもよい。この場合、各次数の浸漬工程の前には、その直前の次数の浸漬工程を終えた骨を洗浄する予備洗浄工程や、当該予備洗浄工程を終えた骨を乾燥させる予備乾燥工程や、当該予備乾燥工程を終えた骨を破砕する予備破砕工程を設けるとより好ましいが、予備洗浄工程や予備乾燥工程については簡略化若しくは省略してもよい。
【0018】
このような構成を採用することにより、第一次浸漬工程では分離しきれなかった脂質や蛋白室を第二次浸漬工程やそれ以降の次数(第三次以降)の浸漬工程で除去することが可能になる。加えて、骨を破砕してから焼成工程で焼成することも可能になる。したがって、焼成工程における焼成温度をさらに低く抑えたり、焼成時間をさらに短く抑えたりすることも可能になるので、得られる土壌改良材に含まれるハイドロキシアパタイトの結晶化をさらに抑えることもできる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によって、カドミウムなどの有害重金属に対して優れた吸着能を発揮することのできる土壌改良材を容易かつ低コストで製造することのできる土壌改良材の製造方法を提供することが可能になる。また、食肉の生産・流通過程で出る動物の骨を有効に利用することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の土壌改良材の製造方法における処理の流れの一例を示したフロー図である。
【図2】試料1〜9に含まれるカドミウムを形態別(交換態、無機結合態、有機結合態、遊離酸化物吸蔵態、残渣画分)に測定した結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の土壌改良材の製造方法の好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。図1は、本発明の土壌改良材の製造方法における処理の流れの一例を示したフロー図である。本発明の土壌改良材の製造方法の具体的な実施態様は、以下で説明するものに限定されず、適宜変更を加えることができる。
【0022】
1.0 土壌改良材の製造方法の概要
本実施態様の土壌改良材の製造方法は、図1に示すように、
(A)動物の生の骨を破砕する粗破砕工程Aと、
(B)粗破砕工程Aで破砕された骨を過酸化水素水に浸漬することによって骨に付着する脂質又は蛋白質を酸化分解する浸漬工程Bと、
(C)浸漬工程Bを終えた骨を洗浄する本洗浄工程Cと、
(D)本洗浄工程Cを終えた骨を乾燥する本乾燥工程Dと、
(E)本乾燥工程を終えた骨を焼成することによって骨に残存する脂質又は蛋白質を焼失させる焼成工程Eと、
(F)焼成工程Eを終えた骨を粉状又は顆粒状に破砕する本粉砕工程Fと、
を経ることにより、土壌改良材を製造するものとなっている。得られた土壌改良材は、カドミウムなどの重金属を吸着するハイドロキシアパタイトを成分に有するものとなっている。
【0023】
1.1 動物の骨
本実施態様の土壌改良材の製造方法において、原料として使用する骨は、加熱処理が施されていない動物の生の骨であれば特に限定されない。具体的には、牛骨、豚骨、鶏骨、魚骨などが例示される。なかでも、牛骨や豚骨は、と蓄場で大量に安定して入手できるため、本発明の土壌改良材の原料として好適に使用できる。特に、牛骨を使用すると好ましい。というのも、牛海綿状脳症(BSE:Bovine Spongiform Encephalopathy)などが問題視されるようになってからは、飼料用の肉骨粉の使用が制限されるようになっており、近年、牛骨の廃棄処理方法が問題となっているからである。本実施態様の土壌改良材の製造方法においても、原料(動物の生の骨)として、と蓄された牛を解体する際に出た牛骨(加熱処理が施されておらず、脂質や蛋白質などを含む屑肉が付いた状態の牛骨)を使用している。動物の骨は、後述する粗破砕工程Aあるいは浸漬工程Bまでにある程度乾燥した状態とされる。
【0024】
1.2 粗破砕工程
粗破砕工程Aは、動物の骨を、後述する浸漬工程Bで使用する浸漬槽に入れやすい大きさまで破砕する。動物の骨が、元々それ程大きくない場合や、出荷時に有る程度小さく破砕されている場合や、前記浸漬槽の容量が大きく骨をそのまま入れることができるような場合には、この粗破砕工程Aは省略してもよい。しかし、骨はある程度小さくしておいた方が、骨の表面積が大きくなり、後述する浸漬工程Bにおいて、骨に付着する脂質や蛋白質を効果的に除去することができるようになる。粗破砕工程Aは、通常、ハンマなどで骨を打撃することにより行うが、破砕機を使用して行ってもよい。これにより、土壌改良材の製造方法をより大量生産に適したものとすることができる。
【0025】
具体的に、粗破砕工程Aで骨をどの程度まで小さくするかは、特に限定されない。しかし、粗破砕工程Aで骨を小さくしすぎると、骨が粉末状となり、後の工程を行いにくくなるおそれがある。このため、粗破砕工程Aでは、破砕後の骨の長径の平均値が、通常、5mm以上、好ましくは1cm以上、より好ましくは2cm以上となるように骨を破砕する。一方、粗破砕工程Aを終えた後も骨が大きいままであると、浸漬工程Bで骨に付着する脂質や蛋白質が効果的に除去できなくなるおそれがある。このため、粗破砕工程Aでは、破砕後の骨の長径の平均値が、通常、20cm以下、好ましくは、15cm以下、より好ましくは10cm以下となるように骨を破砕する。本実施態様の土壌改良材の製造方法においては、骨の長径の平均値が7〜8cm程度となるまで、粗破砕工程Aで骨を破砕している。
【0026】
1.3 浸漬工程
浸漬工程Bは、浸漬槽に貯留された過酸化水素水(浸漬液)に動物の骨を浸漬することにより行う。浸漬工程Bは、図1に示すように、第1次浸漬工程Bから開始されて、第N次浸漬工程B(Nは1以上の所定の整数。以下、Nを「最終浸漬回数N」と表記することがある。)で終了する。図1のフロー図において、最終浸漬回数Nを1回に設定した場合には、浸漬工程Bは、第1次浸漬工程のみで終了するが、最終浸漬回数Nを2回に設定した場合には、浸漬工程Bでは、第1次浸漬工程に続き、予備洗浄工程B2.1と、予備乾燥工程B2.2と、予備破砕工程B2.3と、第2次浸漬工程B2.4とが行われる。この場合、浸漬工程Bは、第2次浸漬工程B2.4で終了する。また、最終浸漬回数Nを3回以上に設定した場合には、n(nは1以上N以下の整数。以下、nを「浸漬回数n」と表記することがある。)の値が最終浸漬回数Nに達するまで、予備洗浄工程Bn.1と、予備乾燥工程Bn.2と、予備破砕工程Bn.3と、第2次浸漬工程Bn.4とが順次繰り返される。この場合、浸漬工程Bは、第N次浸漬工程BN.4で終了する。
【0027】
図1のフロー図における最終浸漬回数Nをいくらに設定するかは、特に限定されない。最終浸漬回数Nは、大きく設定すればするほど、動物の骨に付着する脂質又は蛋白質をより確実に除去することができるようになるが、土壌改良材の生産性が低下する。このため、最終浸漬回数Nは、通常、5回以下、好ましくは、3回以下とされる。本実施態様の土壌改良材の製造方法において、最終浸漬回数Nは2回に設定している。このように、第1次浸漬工程Bを終えた骨を、予備破砕工程B2.1(予備破砕工程Bn.1)で破砕して骨の比表面積を増大させ、第2次浸漬工程B2.4(第n次浸漬工程Bn.4)を行うことにより、第1次浸漬工程Bで除去しきれなかった脂質や蛋白質を除去することが可能になり、浸漬工程Bを終えた骨に残存する脂質や蛋白質の量を低減することが可能になる。特に、骨の内部に残存する脂質や蛋白質を効果的に除去することが可能になる。
【0028】
浸漬工程Bにおける各工程について、より詳しく説明する。各次数の浸漬工程B,B2.4,・・・,BN.4は、浸漬槽に貯めた過酸化水素水に骨を浸漬して、過酸化水素水を加熱し、骨を煮沸することによって行われる。浸漬工程B,B2.4,・・・,BN.4で浸漬槽に投入する骨の量は、特に限定されないが、少なくしすぎると浸漬工程B,B2.4,・・・,BN.4が非効率的なものとなるし、多くしすぎると浸漬工程B,B2.4,・・・,BN.4で所望の酸化分解作用が得られなくなるおそれがある。このため、浸漬工程B,B2.4,・・・,BN.4において、骨は、通常、過酸化水素水1m当たり10〜300kg投入される。過酸化水素水1m当たりの骨の投入量は、50〜200kgであると好ましく、80〜100kgであるとより好ましい。
【0029】
各次数の浸漬工程B,B2.4,・・・,BN.4で用いる過酸化水素水の濃度は、骨の状態や種類、過酸化水素水への浸漬時間などによっても異なり、特に限定されない。しかし、過酸化水素水の濃度が低すぎると骨の脱脂が不十分となるおそれがあるし、高すぎるとハイドロキシアパタイトの結晶化を抑制できなくなるおそれがある。このため、浸漬工程B,B2.4,・・・,BN.4で用いる過酸化水素水の濃度は、通常、1〜30w%(重量%のこと。以下同じ。)とされ、好ましくは、3〜20w%、より好ましくは5〜10w%とされる。本実施態様の土壌改良材の製造方法において、浸漬工程B,B2.4で用いる過酸化水素水の濃度は、7w%で統一しているが、浸漬工程B,B2.4,・・・,BN.4で用いる過酸化水素水の濃度は、各次数ごとに変化させてもよい。また、浸漬工程B,B2.4,・・・,BN.4における浸漬時間(煮沸時間)は、通常、30〜180分、好ましくは、90〜150分とされる。本実施態様の土壌改良材の製造方法において、浸漬工程B,B2.4における浸漬時間は、120分で統一しているが、浸漬工程B,B2.4,・・・,BN.4における浸漬時間は、各次数ごとに変化させてもよい。
【0030】
また、浸漬工程Bにおける予備洗浄工程Bn.1は、その直前の浸漬工程(第1次洗浄工程B又は第n−1次洗浄工程Bn−1.4)を終えた骨を洗浄液で洗浄し、骨に付着する過酸化水素水を洗い流す工程である。この予備洗浄工程Bn.1を行うより、後の予備破砕工程Bn.3や第n次浸漬工程を効率的かつ効果的に行うことが可能になる。使用する洗浄液の種類は、特に限定されないが、通常、水が使用される。予備洗浄工程Bn.1は、流れる洗浄液の中に骨を置いたり、洗浄液の中に骨を浸漬したりすることなどにより行う。
【0031】
さらに、浸漬工程Bにおける予備乾燥工程Bn.2は、予備洗浄工程Bn.1を終えて洗浄液に濡れたままの骨を乾燥させる工程である。この予備乾燥工程Bn.2を行うことにより、続く予備破砕工程Bn.3や第n次浸漬工程を効率的かつ効果的に行うことが可能になる。予備乾燥工程Bn.2における骨の乾燥方法は、特に限定されない。自然乾燥により骨の乾燥を行う方法や、骨に熱風などを当てることにより骨の乾燥を行う方法など、各種の乾燥方法を採用することができる。本実施態様の土壌改良材の製造方法においては、75℃に設定された乾燥庫で骨を所定時間(好ましくは5〜6時間)乾燥することにより、予備乾燥工程Bn.3を行っている。
【0032】
さらにまた、予備破砕工程Bn.3は、予備乾燥工程Bn。2を終えた骨を破砕してさらに小さくするための工程である。第n次浸漬工程Bn.4の前に予備破砕工程Bn.3を行うことにより、それまでの浸漬工程(第1次浸漬工程B又は第n−1次浸漬工程Bn−1.4)では除去しきれなかった脂質や蛋白質を除去することが可能になる。予備破砕工程Bn.3は、通常、ハンマなどで骨を打撃することにより行うが、破砕機を使用して行ってもよい。これにより、土壌改良材の製造方法をより大量生産に適したものとすることができる。予備破砕工程Bn.3で骨をどの程度の寸法まで破砕するかは、予備破砕工程Bn.3直前の骨の寸法などによっても異なる。しかし、予備破砕工程Bn.3で骨を小さくしすぎると、骨が粉末状となり、後の工程を行いにくくなるおそれがある一方、ある程度は小さくしないと、破砕する意味がなくなる。このため、予備破砕工程Bn.3は、通常、予備破砕工程Bn.3直前の骨の長径の平均値(Lとする。)に対する予備破砕工程Bn.3直後の骨の長径の平均値(Lとする。)の比(L/L)が0.1〜0.9程度、好ましくは、0.3〜0.7程度となるように行う。浸漬工程Bで最後に行われる第N次浸漬工程BN.4の直前に行われる予備破砕工程BN.3では、破砕後の骨の長径の平均値が、通常、20cm以下、好ましくは、15cm以下、より好ましくは10cm以下となるようにされる。本実施態様の土壌改良材の製造方法においては、骨の長径の平均値が7〜8cm程度となるまで、予備破砕工程BN.2で骨を破砕している。
【0033】
浸漬工程Bを終えた後には、動物の骨は、その表面及び内部に付着する大部分の脂質や蛋白質が除去された状態となっている。骨は、浸漬工程Bを終えた後も、粗破砕工程A(最終浸漬回数Nが1回の場合)又は予備破砕工程BN.3(最終浸漬回数Nが2回以上の場合)で破砕された後の形を維持している。
【0034】
1.4 本洗浄工程
本洗浄工程Cは、浸漬工程Bを終えた動物の骨を洗浄液で洗浄し、骨に付着する過酸化水素水を洗い流す工程である。この本洗浄工程Cを行うより、後の焼成工程Eや本破砕工程Fを効率的かつ効果的に行うことが可能になる。使用する洗浄液の種類は、特に限定されないが、予備洗浄工程Bn.1と同様、通常、水が使用される。本洗浄工程Cは、流れる洗浄液の中に骨を置いたり、洗浄液の中に骨を浸漬したりすることなどにより行う。
【0035】
1.5 本乾燥工程
本実施態様の土壌改良材の製造方法において、本乾燥工程Dは、骨を乾燥できるものであれば特に限定されず、自然乾燥により骨の乾燥を行う方法や、骨に熱風などを当てることにより骨の乾燥を行う方法など、各種の乾燥方法を採用することができる。本実施態様の土壌改良材の製造方法においては、骨を75℃に設定された乾燥庫で5〜6時間乾燥することにより、本乾燥工程Dを行っている。
【0036】
1.6 焼成工程
本実施態様の土壌改良材の製造方法において、焼成工程Eは、本乾燥工程Dで乾燥された動物の骨を、電気炉などの焼成装置を用いて焼成することによって行われる。この焼成工程Eにより、骨に残存する脂質や蛋白質を完全に焼失させることができる。焼成工程Eは、通常、空気の雰囲気下において行われるが、コスト的に採算が採れるなら、アルゴンガス(焼成温度を高くしてもハイドロキシアパタイトの結晶化を抑えることができる。)など、他のガスの雰囲気下で行ってもよい。
【0037】
焼成工程Eにおける焼成温度は、骨の状態や種類、あるいは焼成工程Eにおける焼成時間などによっても異なり、特に限定されないが、低すぎると、骨の表面の凹部に詰まった状態の脂質や蛋白質が完全には除去されず、骨の実質的な比表面積を広く確保できなくなり、得られる土壌改良材の吸着能が低下するおそれがある。また、焼成時に煙や臭いが発生するおそれもある。このため、焼成工程Eにおける焼成温度は、通常、400℃以上、好ましくは、450℃以上、より好ましくは500℃以上とされる。一方、焼成工程Eにおける焼成温度が高すぎると、骨に含まれるハイドロキシアパタイトの結晶性が向上してしまい、土壌中の重金属との反応が起こりにくくなるおそれがある。結果として、得られる土壌改良材の重金属の吸着能が低下するおそれがある。また、骨が灰になってしまい、その後の処理を行いにくくなるおそれもある。このため、焼成工程Eにおける焼成温度は、通常、800℃以下、好ましくは、700℃以下、より好ましくは、600℃以下とされる。焼成工程Eにおける焼成温度は、550〜560℃であると最適である。
【0038】
焼成工程Eにおける昇温時間(目的の焼成温度までにかかる時間)や、焼成時間(目的の焼成温度を維持する時間)は、骨の状態や種類、あるいは焼成温度などによっても異なり、特に限定されない。土壌改良材に必要な重金属の吸着能や、大量生産に必要な処理時間などを考慮して適宜決定する。昇温時間や焼成時間は、様々な条件に応じて幅があるが、通常、昇温時間については、0.5〜5時間程度とされ、焼成時間については、0〜7時間程度(昇温時間があるため、0時間をも含んでいる。)とされる。本実施態様の土壌改良材の製造方法においては、あくまで一例ではあるが、昇温時間を約1時間(室温から昇温速度10℃/分で目的の焼成温度まで上昇)とし、焼成時間を1時間としている。動物の骨は、焼成工程Eを終えた後でも、粗破砕工程A(最終浸漬回数Nが1回の場合)直後又は予備破砕工程BN.3(最終浸漬回数Nが2回以上の場合)直後の形態を概ね維持している。
【0039】
1.7 本破砕工程
本実施態様の土壌改良材の製造方法において、本破砕工程Fは、既に述べた粗破砕工程Aや予備破砕工程Bn.3と同様、ハンマで骨を打撃することによって行っているが、破砕機を使用して行ってもよい。これにより、土壌改良材の製造方法をより大量生産に適したものとすることができる。本破砕工程Fで骨をどの程度の寸法まで破砕するかは、得られる土壌改良材に要求される重金属の吸着能や、その使用態様などによっても異なり、特に限定されない。土壌改良材を、田畑などの土壌に直接散布して使用するカドミウム吸着材(土壌から農作物へカドミウムが吸収されるのを抑制するカドミウム吸収抑制材)として使用する場合には、本破砕工程Fを終えた後の骨の粒径(長径)の平均値は、通常、30mm以下、好ましくは、20mm以下、より好ましくは、10mm以下とされる。カドミウムの植物への吸収を抑制するという観点から、骨の比表面積は大きい方が有利であり、骨の粒径は、小さければ小さいほど好ましい。このため、前記平均値は、その下限に特に限定はないが、通常、0.1mm以上である。本破砕工程Fを終えた後には、動物の骨は、粉状又は顆粒状となっている。
【0040】
1.8 その他
上記の本実施態様の土壌改良材の製造方法で得られた土壌改良材は、それ(動物の骨)単独で使用してもよいが、副資材を添加することも好ましい。これにより、カドミウムなどの重金属に対する土壌改良材の吸着能をより高めることも可能になる。土壌改良材に添加する副資材は、そのような効果を奏するものであれば特に限定されない。副資材としては、珪酸や石灰(カルシウム)や苦土(マグネシウム)やカオリンやバーミキュライトやモンモリロナイトなどが例示される。
【0041】
2.0 土壌改良材の使用方法
続いて、上述した本実施態様の土壌改良材の製造方法によって得られた土壌改良材の使用方法(農作物の製造方法)について説明する。本実施態様の土壌改良材の製造方法によって得られた土壌改良材は、田畑などの土壌に直接散布して使用するカドミウム吸着材として好適に使用することができる。これにより、土壌から農作物へカドミウムが吸収されるのを抑制することができる。土壌改良材を散布する田畑で生産する農作物の種類は、特に限定されないが、農作物が稲である場合に好適に採用することができる。土壌改良材の散布量は、土壌におけるカドミウムの濃度や、農作物の種類に応じて個別具体的に検討する。
【0042】
3.0 実験1
3.1 試料
本発明の土壌改良材の製造方法で製造された土壌改良材が、土壌から植物へのカドミウムの吸収を抑制するのに効果があることを調べるため、下記表1における試料1〜9を作製した。下記表1において、「Cd汚染土壌」は、水稲栽培後の秋田県の田から採取した、カドミウムに汚染された土壌を意味する。試料1には、Cd汚染土壌のみが配合されており、試料1は、Cd汚染土壌そのもの(土壌改良材を何ら添加していないCd汚染土壌)を意味している。Cd汚染土壌は、試料2〜9においても、2.94gずつ使用している。試料2〜9においては、このCd汚染土壌に対し、所定の土壌改良材(下記表1における「HAp/NaOH」又は「HAp/H」)を0.06gずつ添加し、試料2〜9の全重量が3gとなるようにしている。
【表1】

【0043】
ここで、上記表1における「HAp/H」は、動物の骨を過酸化水素水(H)に浸漬する第1次浸漬工程B及び第2次浸漬工程B2.4を経ることにより、製造されたハイドロキシアパタイト(HAp)を意味する。具体的には、上記実施態様の土壌改良材の製造方法における粗破砕工程Aと、第1次浸漬工程B(煮沸有り)と、予備洗浄工程B2.1と、予備乾燥工程B2.2と、予備破砕工程B2.3と、第2次浸漬工程B2.4(煮沸有り)と、本洗浄工程Cと、本乾燥工程Dと、本破砕工程Fとを経ることにより製造された土壌改良材を意味する。試料6〜9において、第1次浸漬工程Bと第2次浸漬工程B2.4では、濃度7w%の過酸化水素水を用いた。試料7〜9では、本乾燥工程Dと本破砕工程Fとの間で、焼成工程Eを行ったが、試料6では、焼成工程Eを行っていない。試料7〜9において、焼成工程Eでは、昇温速度10℃/分で目的の焼成温度(試料7では250℃、試料8では500℃、試料9では700℃)まで上昇させた後、当該焼成温度で1時間焼成した(焼成時間を1時間とした)。
【0044】
また、上記表1における「HAp/NaOH」は、動物の骨を水酸化ナトリウム溶液(NaOH)に浸漬する第1次浸漬工程B及び第2次浸漬工程B2.4を経ることにより、製造されたハイドロキシアパタイト(HAp)を意味する。具体的には、上記実施態様の土壌改良材の製造方法における粗破砕工程Aと、第1次浸漬工程B(煮沸有り)と、予備洗浄工程B2.1と、予備乾燥工程B2.2と、予備破砕工程B2.3と、第2次浸漬工程B2.4(煮沸有り)と、本洗浄工程Cと、本乾燥工程Dと、本破砕工程Fに相当する各工程を経ることにより製造された土壌改良材を意味する。試料2〜5では、第1次浸漬工程B及び第2次浸漬工程B2.4に相当する各工程において、過酸化水素水(H)ではなく、濃度7w%の水酸化ナトリウム溶液(NaOH)を使用した。試料3〜5では、本乾燥工程Dと本破砕工程Fとの間で、焼成工程Eを行ったが、試料2では、焼成工程Eを行っていない。試料3〜5において、焼成工程Eでは、昇温速度10℃/分で目的の焼成温度(試料3では250℃、試料4では500℃、試料5では700℃)まで上昇させた後、当該焼成温度で1時間焼成した(焼成時間を1時間とした)。
【0045】
それぞれの試料1〜9は、上記表1に示す配合とした後、RO水(RO膜(逆浸透膜)を通した水のこと。以下同じ。)を30mLずつ添加して24時間振とう(振とう幅4〜5cm、振とう回数80rpm)し、上澄み液を取り除いてから風乾させたものを用いた。
【0046】
3.2 測定方法及び測定結果
上記表1における試料1〜9について、それぞれに含まれるカドミウムを形態別(交換態、無機結合態、有機結合態、遊離酸化物吸蔵態、残渣画分)に測定した結果を図2に示す。カドミウムなどの重金属は、土壌中において、交換態、無機結合態(無機態)、有機結合態(有機態)、遊離酸化物吸蔵態(吸蔵態)及び残渣画分(残渣)のいずれかの形態で存在している。図2における「交換態」、「無機態」、「有機態」、「吸蔵態」及び「残渣」で示される領域は、それぞれ、土壌中のカドミウムにおける、交換態、無機結合態、有機結合態、遊離酸化物吸蔵態及び残渣画分の重量割合を示している。
【0047】
交換態、無機結合態、有機結合態、遊離酸化物吸蔵態及び残渣画分として試料1〜9に存在するカドミウムの量の測定は、定本裕明らの方法(「土壌中重金属の形態分別法の検討」,日本土壌肥料学雑誌,1994年,第65巻,第6号,p.645−653)に準拠して試料1〜9を各形態に分別することにより行った。具体的には、以下の通りである。
【0048】
(a) 交換態のカドミウム量の測定
a1: 風乾後の試料3.00gに対して30mLの0.05M硝酸カルシウム溶液を加え、混合液(「混合液L1」とする。)を作製する。
a2: 上記a1で作製した混合液L1を24時間振とうする。
a3: 上記a2で振とうされた混合液L1を3000rpmで10分間遠心分離する。
a4: 上記a3で遠心分離された混合液L1の上澄み液(「上澄み液L2」とする。)を容器に注ぐ。
a5: 上記a4で混合液L1から上澄み液L2を取り除いた後の残渣(「残渣S1」とする。)に、15mLのRO水を加え、残渣S1とRO水とが混合された混合液(「混合液L3」とする。)を作製し、混合液L3を軽く攪拌する。
a6: 上記a5で撹拌された混合液L3を3000rpmで10分間遠心分離する。
a7: 上記a6で遠心分離された混合液L3の上澄み液(「上澄み液L4」とする。)を上記a4の容器に注ぐ。
a8: 上記a4,a7で上澄み液L2,L4が注がれた容器に、適量の硝酸とRO水を加えて定容にし、軽く撹拌して試験液(「試験液L5」とする。)とする。
a9: 上記a8で得られた試験液L5を原子吸光光度計(株式会社日立製作所製のZ−2300型偏向ゼーマン原子吸光光度計。以下同じ。)を用いて測定し、得られたカドミウム量を交換態のカドミウム量とする。
【0049】
(b) 無機結合態(無機態)のカドミウム量の測定
b1: 交換態残渣(上記a7で混合液L3から上澄み液L4を取り除いた後の残渣。「残渣S2」とする。)に30mLの2.5%酢酸を加え、混合液(「混合液L6」とする。)を作製する。
b2: 上記b1で作製した混合液L6を24時間振とうする。
b3: 上記b2で振とうされた混合液L6を3500rpmで15分間遠心分離する。
b4: 上記b3で遠心分離された混合液L6の上澄み液(「上澄み液L7」とする。)を容器に注ぐ。
b5: 上記b4で混合液L6から上澄み液L7を取り除いた後の残渣(「残渣S3」とする。)に、15mLのRO水を加え、残渣S3とRO水とが混合された混合液(「混合液L8」とする。)を作製し、混合液L8を軽く攪拌する。
b6: 上記b5で撹拌された混合液L8を3500rpmで15分間遠心分離する。
b7: 上記6で遠心分離された混合液L8の上澄み液(「上澄み液L9」とする。)を上記b4の容器に注ぐ。
b8: 上記b4,b7で上澄み液L7,L9が注がれた容器に、適量の硝酸とRO水を加えて定容にし、軽く撹拌して試験液(「試験液L10」とする。)とする。
b9: 上記b8で得られた試験液L10を原子吸光光度計を用いて測定し、得られたカドミウム量を無機結合態(無機態)のカドミウム量とする。
【0050】
(c) 有機結合態(有機態)のカドミウム量の測定
c1: 無機結合態残渣(上記b7で混合液L8から上澄み液L9を取り除いた後の残渣。「残渣S4」とする。)に50mLの6%過酸化水素水を加え、混合液(「混合液L11」とする。)を作製する。
c2: 上記c1で作製した混合液L11を加熱して水分を蒸発させる。
c3: 上記c2で乾固直前まで蒸発濃縮された残渣(「残渣S5」とする。)に30mLの2.5%酢酸を加え、混合液(「混合液L12」とする。)を作製する。
c4: 上記c3で作製した混合液L12を24時間振とうする。
c5: 上記c4で振とうされた混合液L12を3500rpmで20分間遠心分離する。
c6: 上記c5で遠心分離された混合液L12の上澄み液(「上澄み液L13」とする。)を容器に注ぐ。
c7: 上記c6で混合液L12から上澄み液L13を取り除いた後の残渣(「残渣S6」とする。)に、15mLのRO水を加え、残渣S6とRO水とが混合された混合液(「混合液L14」とする。)を作製し、混合液L14を軽く撹拌する。
c8: 上記c7で撹拌された混合液L14を3500rpmで20分間遠心分離する。
c9: 上記c8で遠心分離された混合液L14の上澄み液(「上澄み液L15」とする。)を上記c6の容器に注ぐ。
c10: 上記c6,c9で上澄み液L13,L15が注がれた容器に、適量の硝酸とRO水を加えて定容にし、軽く撹拌して試験液(「試験液L16」とする。)とする。
c11: 上記c10で得られた試験液L16を原子吸光光度計を用いて測定し、得られたカドミウム量を有機結合態(有機態)のカドミウム量とする。
【0051】
(d)遊離酸化物吸蔵態(吸蔵態)のカドミウム量の測定
d1: 有機結合態残渣(上記c9で混合液L14から上澄み液L15を取り除いた後の残渣。「残渣S7」とする。)に、90mLのシュウ酸アンモニウム液と3gのアスコルビン酸を加え、混合液(「混合液L17」とする。)を作製する。
d2: 上記d1で作製した混合液L17を沸騰水浴中で時々撹拌しながら1時間抽出する。
d3: 上記d2で抽出された混合液L17を15000rpmで10分間遠心分離する。
d4: 上記d3で遠心分離された混合液L17の上澄み液(「上澄み液L18」とする。)を容器に注ぐ。
d5: 上記d4で混合液L17から上澄み液L18を取り除いた後の残渣(「残渣S8」とする。)に、15mLのRO水を加え、残渣S8とRO水とが混合された混合液(「混合液L19」とする。)を作製し、混合液L19を軽く撹拌する。
d6: 上記d5で撹拌された混合液L19を15000rpmで10分間遠心分離する。
d7: 上記d6で遠心分離された混合液L19の上澄み液(「上澄み液L20」とする。)を上記d4の容器に注ぐ。
d8: 上記d4,d7で上澄み液L18,L20が注がれた容器に、適量の硝酸とRO水を加えて定容にし、軽く撹拌して試験液(「試験液L21」とする。)を作製する。
d9: 上記d8で得られた試験液L21を原子吸光光度計を用いて測定し、得られたカドミウム量を遊離酸化物吸蔵態(吸蔵態)のカドミウム量とする。
【0052】
(e)残渣画分(残渣)のカドミウム量の測定
e1: 遊離酸化物吸蔵態残渣(上記d7で混合液L19から上澄み液L20を取り除いた後の残渣。「残渣S9」とする。)を容器(ビーカーなど)に入れて適量のRO水を流し込み、混合液(「混合液L22」とする。)を作製する。
e2: 上記e1で作製した混合液L22を加熱して水分を蒸発させ、乾固させる。
e3: 上記e2で乾固された残渣(「残渣S10」とする。)に12mLの6N塩酸を加え、混合液(「混合液L23」とする。)を作製し、混合液L23を軽く撹拌する。
e4: 上記e3で撹拌された混合液L23の入った容器(上記e1の容器)に蓋をした状態で該容器を加熱し、1時間静かに沸騰させる。
e5: 上記e4で沸騰された混合液L23を放冷する。
e6: 上記e5で放冷された混合液L23を濾紙(東洋濾紙株式会社製の定量濾紙No.5B)で濾過した後、適量の0.1N塩酸で洗浄しながら濾過し、濾液(「濾液L24」とする。)とする。
e7: 上記e6で得られた濾液L24を上記e1で用いた容器とは別の容器に注ぎ、適量の硝酸とRO水を加えて定容とし、軽く撹拌して試験液(「試験液L25」とする。)とする。
e8: 上記e7で得られた試験液L25を原子吸光光度計を用いて測定し、得られたカドミウム量を残渣画分(残渣)のカドミウム量とする。
【0053】
3.3 測定結果についての考察
試料1は、Cd汚染土壌そのものであるが、それに含まれるカドミウム全量は、図2に示すように、5.26mg/kgであり、このうち、土壌中へ溶出しにくい残渣画分として固定されたものは0.65mg/kgに過ぎなかった。これに対し、土壌改良材としてHAp/NaOHを配合した試料2〜5においては、カドミウム全量が4.88〜5.04mg/kgといずれも試料1よりも減少しており、残渣画分として固定されたものは0.74〜1.39mg/kgといずれも試料1よりも増加していた。以上のことから、土壌改良材としてHAp/NaOHを添加すると、植物へのカドミウムの吸収を抑制することについて効果が奏されるということが分かった。
【0054】
また、土壌改良材としてHAp/Hを配合した試料6〜9においても、カドミウム全量が4.99〜5.16mg/kgといずれも試料1よりも減少しており、残渣画分として固定されたものは0.80〜1.33mg/kgといずれも試料1よりも増加していた。以上のことから、土壌改良材としてHAp/Hを添加すると、植物へのカドミウムの吸収を抑制することについて、HAp/NaOHと同等の効果が奏されるということが分かった。
【0055】
また、土壌改良材としてHAp/NaOHを使用した試料2〜5のうち、焼成工程Eを行わなかった試料2については、Cd全量が5.03mg/kgであり、焼成温度250℃で焼成工程Eを行った試料3については、Cd全量が5.01mg/kgであり、焼成温度500℃で焼成工程Eを行った試料4については、Cd全量が4.88mg/kgであり、焼成温度700℃で焼成工程Eを行った試料5については、Cd全量が5.04mg/kgであった。すなわち、焼成温度が500℃前後となるまでは、HAp/NaOHのカドミウム吸収抑制作用は増大又は維持されるものの、焼成温度がそれよりも高くなると、HAp/NaOHのカドミウム吸収抑制作用が低下することが分かった。
【0056】
試料2〜5において、土壌中へ溶出されやすい(植物へ吸収されやすい)交換態や無機態として存在するカドミウムの量の変化や、土壌中へ溶出されにくい(植物へ吸収されにくい)残渣や吸蔵態として存在するカドミウムの量の変化を見てみても、上記のカドミウム吸収抑制作用の焼成温度依存性が裏付けられる。すなわち、交換態及び無機態として存在するカドミウムの量の合計は、焼成工程Eを行わなかった試料2で2.21mg/kg、焼成温度250℃で焼成工程Eを行った試料3で1.96mg/kg、焼成温度500℃で焼成工程Eを行った試料4で1.74mg/kgと、焼成温度500℃前後となるまでは、焼成温度が上昇するにつれて減少するものの、焼成温度700℃で焼成工程Eを行った試料5では2.49mg/kgと逆に増加する。これに対し、残渣及び吸蔵態として存在するカドミウムの量の合計は、焼成工程Eを行わなかった試料2で1.54mg/kg、焼成温度250℃で焼成工程Eを行った試料3で1.70mg/kg、焼成温度500℃で焼成工程Eを行った試料4で2.22mg/kgと、焼成温度が500℃前後となるまでは、焼成温度が上昇するにつれて増加するものの、焼成温度700℃で焼成工程Eを行った試料5では1.50mg/kgと逆に減少する。このことから、土壌改良材としてHAp/NaOHを使用する場合には、焼成工程Eにおける焼成温度を500℃前後とすると好ましいことが分かった。
【0057】
一方、土壌改良材としてHAp/Hを使用した試料6〜9のうち、焼成工程Eを行わなかった試料6については、Cd全量が5.10mg/kgであり、焼成温度250℃で焼成工程Eを行った試料7については、Cd全量が4.99mg/kgであり、焼成温度500℃で焼成工程Eを行った試料8については、Cd全量が5.00mg/kgであり、焼成温度700℃で焼成工程Eを行った試料9については、Cd全量が5.16mg/kgであった。すなわち、土壌改良材としてHAp/NaOHを使用した場合と同様、土壌改良材としてHAp/Hを使用した場合においても、焼成温度が500℃前後となるまでは、HAp/NaOHのカドミウム吸収抑制作用は増大又は維持されるものの、焼成温度がそれよりも高くなると、HAp/NaOHのカドミウム吸収抑制作用が低下することが分かった。
【0058】
試料6〜9において、土壌中へ溶出されやすい(植物へ吸収されやすい)交換態や無機態として存在するカドミウムの量の変化や、土壌中へ溶出されにくい(植物へ吸収されにくい)残渣や吸蔵態として存在するカドミウムの量の変化を見てみても、上記のカドミウム吸収抑制作用の焼成温度依存性が裏付けられる。すなわち、交換態及び無機態として存在するカドミウムの量の合計は、焼成工程Eを行わなかった試料6で2.18mg/kg、焼成温度250℃で焼成工程Eを行った試料7で1.94mg/kg、焼成温度500℃で焼成工程Eを行った試料8で1.75mg/kgと、焼成温度500℃前後となるまでは、焼成温度が上昇するにつれて減少するものの、焼成温度700℃で焼成工程Eを行った試料9では2.54mg/kgと逆に増加する。これに対し、残渣及び吸蔵態として存在するカドミウムの量の合計は、焼成工程Eを行わなかった試料6で1.65mg/kg、焼成温度250℃で焼成工程Eを行った試料7で1.61mg/kg、焼成温度500℃で焼成工程Eを行った試料8で2.09mg/kgと、焼成温度が500℃前後となるまでは、焼成温度が上昇するにつれて増加するものの、焼成温度700℃で焼成工程Eを行った試料9では1.51mg/kgと逆に減少する。このことから、土壌改良材としてHAp/Hを使用する場合にも、焼成工程Eにおける焼成温度を500℃前後とすると好ましいことが分かった。
【0059】
以上のことから、粗破砕工程Aと、第1次浸漬工程B(煮沸有り)と、予備洗浄工程B2.1と、予備乾燥工程B2.2と、予備破砕工程B2.3と、第2次浸漬工程B2.4(煮沸有り)と、本洗浄工程Cと、本乾燥工程Dと、焼成工程Eと、本破砕工程Fとを経ることにより製造された土壌改良材(試料7〜9におけるHAp/H)は、水酸化ナトリウム(NaOH)などのアルカリ溶液に浸漬することにより製造された土壌改良材(試料3〜5におけるHAp/NaOH)と同等、若しくはそれ以上のカドミウム吸収抑制作用を発揮することが分かった。過酸化水素水(H)で浸漬する本発明の土壌改良材の製造方法では、土壌へ過剰に投与すると土壌や作物に悪影響を及ぼすナトリウムやカリウムなどを使用しないため、水酸化ナトリウム(NaOH)などのアルカリ溶液で浸漬する土壌改良材の製造方法と比較して、予備洗浄工程Bn.1や、本洗浄工程Cを簡略化又は省略できるという利点も有している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の生の骨を過酸化水素水に浸漬することによって骨に付着する脂質又は蛋白質を酸化分解する浸漬工程と、
浸漬工程を終えた骨を焼成することによって骨に残存する脂質又は蛋白質を焼失させる焼成工程と、
を経て、ハイドロキシアパタイトを成分に有する土壌改良材を製造することを特徴とする土壌改良材の製造方法。
【請求項2】
焼成工程を終えた骨を粉状又は顆粒状に破砕する本粉砕工程を行う請求項1記載の土壌改良材の製造方法。
【請求項3】
浸漬工程が、
動物の生の骨を過酸化水素水に浸漬することによって骨に付着する脂質又は蛋白質を酸化分解する第1次浸漬工程と、
第1次浸漬工程を終えた骨を破砕する予備破砕工程と、
予備破砕工程を終えた骨を再度過酸化水素水に接触させることによって骨に残存する脂質又は蛋白質を酸化分解する第2次浸漬工程と、
を経る請求項1又は2記載の土壌改良材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−1727(P2013−1727A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131336(P2011−131336)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(504007006)公協産業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】