説明

土壌汚染金属の不溶化機能を有する緑化基盤材

【課題】産業廃棄物を原料として製造した水酸アパタイトにより土壌中に含まれる複合的な重金属類を不溶化し、当該汚染土壌を無害化することができる緑化基盤材の提供である。
【解決手段】水酸アパタイトのもつ陽イオン及び陰イオンの両性イオン交換体としての吸着能を利用する。水酸アパタイトは、土壌汚染金属と反応し、溶解性の極めて低い化合物を析出することにより金属を不溶化させる。析出した化合物はリンとの結合強度が高く溶解しにくいため、金属の再溶出を抑制することが可能となる。この性質を緑化基盤材に応用し、植物種子を添加した水酸アパタイトを含む緑化基盤材を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃石膏又は鶏糞を原料とすることにより水酸アパタイトを製造し、その水酸アパタイトを用いて土壌汚染金属の不溶化を行う緑化基盤材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉱山跡地のような山間の傾斜地盤の金属汚染に対処するためには、斜面保護による土壌浸食と汚染拡散の防止、ならびに周辺の植生や土壌生態系の修復を両立させる対策が重要である。土壌汚染金属が多く存在すると、降雨によって汚染金属が川などへ流出し汚染が拡大する。また、土壌汚染金属が多く存在することにより、植物の生育が難しくなり土壌と周辺植生の荒廃が進む。植生が乏しい場合は地盤が不安定となり、土砂災害の危険性も考えられる。
【0003】
多くの鉱山跡地、射撃場、トンネル採掘地周辺、及びずり堆積場などでは土壌の金属汚染が進んでいる。土壌汚染金属には、陽性金属と陰性金属が存在し、陽性金属とは、鉛(Pb)及びカドミウム(Cd)などの重金属であり、原子が電気的に陽性で、陽イオン、電子供与体になりやすいものである。また、陰性金属とは、ヒ素(As)及びフッ素(F)などであり、原子が電気的に陰性で、陰イオン、電子受容体になりやすいものである。
【0004】
従来、有害金属汚染の土壌修復には、土壌の化学性の変化や高分子吸着剤を用いて、金属を析出あるいは吸着させる方法が用いられていた。土壌の化学性の変化を用いる方法は、アルカリ剤を散布し、土壌の重金属を不溶化(無害化)させるものである(非特許文献1)。しかし、この方法は、陽性金属のみに用いられる方法であり、土壌環境の変化(酸性雨など)による金属の再溶出の危険性が考えられる。一方、高分子吸着剤(ポリマー)による吸着を用いる方法(特許文献1)は、電気的に陽性あるいは陰性のいずれか一方に限定した除去効果しか発揮されないため、鉱山跡地などのように多くの現場で問題となっている複数の陽・陰性金属が混在する汚染には有効ではない。
【0005】
近年では、重金属の除去、有機物の吸着などのさまざまな特性から、水酸アパタイトの工業的用途が広がっている。水酸アパタイトにはさまざまな製造方法があるが、製造コストが高いため鉱山跡地のような広範の汚染現場への採用は難しいと考えられていた。そこで、水酸アパタイトの製造コストを削減するために、脱粒石膏や石膏ボード、陶磁器用型材としての使用済み石膏型など、各方面で未利用のまま残っている石膏資源を再利用した製造方法が開発された(特許文献2)。建築物の解体に伴って排出される石膏ボード廃棄物は、その大部分が埋め立て処理されており、この石膏ボード廃棄物を用いる方法は、画期的な方法である。
【0006】
ここで、水酸アパタイト(ハイドロキシアパタイトともいう)とは、リン酸カルシウムの結晶性化合物として、塩基性領域で生成するものである。脊椎動物の骨や歯の主成分として重要なアパタイトは、その組成と構造に起因する優れた生体親和性、化学的および電気的特性(吸着性やイオン交換特性)を有し、従来より、虫歯の治療や人工骨など外科医療の分野を中心として、骨補填材、タンパク質等の生体成分吸着剤、イオン交換体、触媒担体、湿度センサとして用いられ、さらには、基礎化粧品としても用いられている。
【0007】
これまでに、セメント成分(シリカ)と硫酸アルミニウムにより金属の不溶化を行い、緑化・土壌安定化を目的とする方法も開発されている(特許文献3)。セメント成分と硫酸アルミニウムによる不溶化は、アルミニウムの重縮合イオンの高分子の生成に伴って土壌粒子を巻き込みながら凝結していく過程で、物理的に金属をまき込み凝結することによると考えられる。本発明の不溶化は、水酸アパタイトのリンが金属と溶解性の極めて低い化合物を形成することから、物理的な巻き込み凝結の不溶化よりもその効果は高いと考えられる。
【0008】
また、養鶏場では毎日大量の鶏糞が発生するが、この利用方法として乾燥処理した乾燥鶏糞肥料や発酵処理した発酵鶏糞肥料などが挙げられる。しかし、それだけでは適正処理につながらないのが現状である。そこで、鶏糞を大量に処分するために、焼却処分することが提案されている。鶏糞灰を有効活用しながら、大量消費が見込める分野での利用を目的として再資源化する必要がある。この再資源化として緑化基盤材の原料に利用できれば理想的なものといえる。
【0009】
従って、廃石膏又は鶏糞から製造した水酸アパタイトを用いて緑化基盤材を作成し、金属の不溶化と緑化を組み合わせた緑化基盤材の適用は、山間傾斜地の金属汚染現場の土壌生態系の修復と緑化による防災対策を可能にするものである。
【非特許文献1】2004. Critical Reviews in Env. Sci. and Tech., 34, p.495-604
【特許文献1】特開平7−308187号公報
【特許文献2】特開2004−284890号公報
【特許文献3】特開2002−348573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の第1の課題は、産業廃棄物を原料として製造した水酸アパタイトにより土壌中に含まれる重金属類を不溶化して、当該汚染土壌を無害化することができる緑化基盤材の提供である。第2の課題は、前記緑化基盤材に植物種子を添加することにより、重金属で汚染された広範囲の土壌の修復と緑化を同時に行う緑化基盤材の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、植物種子を添加した水酸アパタイトを金属汚染土壌に吹付けて、汚染金属を構成する陽性及び陰性の双方の金属を不溶化させる緑化基盤材であることを要旨とする。
【0012】
請求項1に記載の発明において、水酸アパタイトは、陽イオン、陰イオンの双方の交換が可能である吸着性を利用して複合的な土壌汚染金属の不溶化を行う。この水酸アパタイトは、カルシウムイオンとリン酸基とが高密度に規則的に配列した構造を持つことから、陽イオン交換の機能と陰イオン交換の機能とを同時にあわせもつ両性イオン交換体として、静電相互作用にもとづく吸着能があることが確かめられている。ここで、水酸アパタイトと重金属陽イオンの反応において、金属が水酸アパタイトのカルシウムとイオン交換をすることにより、溶解性の極めて低い化合物が析出し金属の不溶化がおこる。析出した化合物はリンとの結合強度が高く溶解しにくいため、継続的な酸性雨などに対しても金属の再溶出を抑制することが可能である。一方、水酸アパタイトCa10 (PO4)6(OH)2と陰イオンの反応においては、(1)(PO4 3-基とイオン交換によって吸着するもの、(2)水酸基と陰イオンの交換によって吸着するもの、(3)表面吸着するものなど、その吸着方法は様々である。しかし、いずれの方法においても、水酸アパタイトは陰イオンの溶出を抑制することが可能である。よって、本発明の緑化基盤材は、陽性・陰性金属の吸着能に優れた水酸アパタイトを含むことから、汚染現場で継続的な酸性雨や周辺から現場内へ流入する鉱さい水によって金属の再溶出が誘発されたとしても、一度結合した金属を流亡させない。よって、金属汚染により荒廃した土壌において、その複合的な汚染金属の不溶化効果を維持しつつ、植物の生育を促進することが可能である。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、水酸アパタイトは、廃石膏を主原料にして作られることを要旨とする。前記水酸アパタイトの製造方法は、石膏と塩基性カルシウム化合物とをカルシウム源とし、該カルシウム源をリン酸アンモニウム水溶液中に投入した後、室温〜100℃で攪拌するものである。よって、製造過程におけるローコスト化が可能であり、広範囲の汚染土壌を修復することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、水酸アパタイトは鶏糞を主原料にして作られることを要旨とする。前記水酸アパタイト製造方法は、鶏糞灰の主成分である水酸化カルシウムにリン酸を反応させることにより、微粒子状の水酸アパタイトを得ることができる。よって、製造過程におけるローコスト化が可能であり、広範囲の汚染土壌を修復することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の発明において、植物種子はイネ科であることを要旨とする。イネ科の植物は、多年生なことから播種の回数や費用を削減でき、かつ寒冷地でも生命力が高いことや他の植物よりも重金属を地上部に吸収しにくい特性を持っていることなどから、その生育をより可能にすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、産業廃棄物を原料として製造した水酸アパタイトにより土壌中に含まれる複合的な重金属類を不溶化し、当該汚染土壌を無害化することができる重金属類の不溶化性を備えた緑化基盤材を提供することができる。また、必要に応じて、前記緑化基盤材に植物種子を添加することにより、重金属で汚染された広範囲の土壌の修復と緑化を同時に行う緑化基盤材の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の緑化基盤材は、図1に示すように、水酸アパタイトと植物種子を混合することにより作成され、重金属などの環境汚染物質の不溶化効果が付与されている。本発明に用いる水酸アパタイトは、産業廃棄物である廃石膏又は鶏糞から製造することにより製造コストを削減することができる。まず、すでに公知のように、鶏糞焼却灰にアルカリ溶液を作用させてろ過処理を行うことにより、種々の有用なリン含有水溶液及びリン化合物などを製造することができる。ここで生成されたリンを用いて、廃石膏や鶏糞灰から水酸アパタイトを製造することができる。以上のことから、本発明は、重金属で汚染された広範囲の土壌の修復と緑化を同時に行う緑化基盤材の提供という上記課題を解決することができる。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。まず、廃石膏から水酸アパタイトを製造する場合、石膏と塩基性カルシウム化合物とをカルシウム源とし、その調合比は6:4(モル比)であり、該カルシウム源粉末を、密閉可能な容器に入っているリン酸アンモニウム水溶液中に、Ca/P(モル比)が水酸アパタイトの理論比(1,67)となるように投入し蓋をする。その後、室温〜100℃で攪拌し反応させることにより、水酸アパタイトを微粒子状に形成することができる。水酸アパタイト化が完了した後、吸引ろ過し、乾燥することにより水酸アパタイト粉末が得られる。水酸アパタイト生成に要する時間は反応温度によって大きく異なるが、室温〜50℃以下では水酸アパタイト化時間が極端に長くなり、数日〜2週間程度が費やされるので、実用的には50℃〜100℃の範囲が好ましい。ここで、主原料とする廃石膏としては、脱粒石膏、使用済み石膏ボードや陶磁器用型材としての石膏型の粉砕物などを用いることができ、リサイクル、コストの観点から好ましいが、通常の市販石膏粉末などあらゆる石膏を用いることができる。また、塩基性カルシウム化合物の添加の目的は、反応系を中性以上に保ったまま原料中のカルシウムとリンの比を水酸アパタイトの理論比にすることであるが、水酸化カルシウムの溶解度は石膏よりも高いために反応初期により多くの結晶核が生成し、結果としてアパタイト化時間の短縮に繋がるという効果がある。また、リン酸源としてはリン酸アンモニウムを使用するとよく、例えば、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウムが挙げられ、副生成物として利用しやすい硫酸アンモニウムを得ることができるが、他のリン酸塩原料として、反応後に水溶液中に可溶性であるリン酸ナトリウムなどを使用しても良い。以上より、産業廃棄物を利用して水酸アパタイトを製造することにより、安価に水酸アパタイトを提供することができる。
【0019】
次に、鶏糞焼却灰を用いて水酸アパタイトを製造する場合、鶏糞焼却灰を乾燥処理、発酵処理、炭化処理および800℃程度で焼却処理し灰化した後、粒度を調整(2mm以下に篩い分け)したものを試料として用いた。鶏糞灰の主成分はその鶏が摂取してきた飼料によっても異なるが、おおよそ水酸化カルシウム28%、リン酸石灰26%、カリウム16%、その他30%であり、水酸化カルシウムとリン酸石灰を多量に含んでいるところにその特徴がある。また、その主成分が水酸化カルシウムであることはX解回折法でも確認されている。また、鶏糞灰は焼却温度や焼却条件によりその成分は多少変動するが、本発明においては、石灰分を利用できれば良いので、各種条件下で焼却した鶏糞灰が利用可能である。現在、鶏糞は800℃から1000℃程度で焼却処理したものが用いられることが多いが、もっと低い温度である400℃〜800℃で焼却したものでも利用可能である。
【0020】
鶏糞灰にもアパタイトが若干含まれているといわれているが、本発明では、鶏糞灰に含まれるカルシウムにリンを添加することによりその総量を増加させた。鶏糞灰の主成分であると考えられる水酸化カルシウムにリンを反応させ、水酸アパタイトを製造する。以下、鶏糞灰として水酸化カルシウムCa(OH)2、リン酸源としてリン酸水素二アンモニウムを用いた場合の反応式を以下に示す。
5Ca(OH)2+3[(NH4)2 HPO4 ]=
Ca5(PO4)3 OH+6NH3 +9H2 O・・・(1)
この結果、水酸アパタイトは、微粒子状で製造される。よって、産業廃棄物を利用して水酸アパタイトを製造することにより、安価に水酸アパタイトを提供することができる。
【0021】
水酸アパタイトと重金属陽イオンでは、水酸アパタイトCa10(PO4)6(OH)2中のカルシウム(Ca)が、常温、常圧で他の陽イオンと交換するという反応がおこる。カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、鉛(Pb)などの重金属イオンも同様に置換されるといわれている。鉛(Pb)を例として、土壌が改善される模式図を図2に示した。水酸アパタイト中のカルシウムと鉛がイオン交換をし、水酸アパタイト(リン資材:PO4)と反応することによって、リンー鉛化合物が析出する。リンー鉛化合物とは、水酸アパタイトのカルシウムイオンがとれて、そこに鉛が取り込まれた化合物のことであり、図2では緑鉛鉱Pb5(PO4)3 OHである。その反応式を以下に示す。
Ca10(PO4)6 (OH)2+10Pb=
2[Pb5(PO4)3 OH]+10Ca・・・(2)
このように、緑化基盤材に含まれる水酸アパタイトは、鉛と反応することによって、結合安定度の高い緑鉛鉱を生成し金属の生物毒性を低下させ、鉛の溶出を抑制して固定化することにより、酸性雨等で金属が容易に再溶出する危険性を軽減することができる。ここでは鉛を例として取り上げて説明したが、本発明は、鉛に限定されるものではない。このような反応によって溶解しにくい、結合強度の高い水酸アパタイト化合物を形成することができる。一方、水酸アパタイトとヒ素、バナジウムなどの重金属陰イオンは、水酸アパタイトの構造中の(PO4)3-基に(AsO4)3-がイオン交換によって交換可能であり、このイオン交換によりヒ素が吸着されていく。また、水酸アパタイトとフッ素は、水酸基とフッ素の交換反応により、フッ素が水酸アパタイトに吸着されていく。また、セレニウムは、表面吸着によって水酸アパタイトと反応する。このように、陰イオンに関しても、水酸アパタイトは金属を取り込み、新たな化合物を析出することにより不溶化を行うことができる。
【0022】
水酸アパタイトと金属の化合物は、その結合強度が高く溶解性が極めて低い。一般的に、自然界の土壌pH変動範囲は、およそ3−8(多くが5−7以内)であることから、この範囲では一旦アパタイトと結合した金属は溶解しにくい。また、汚染現場では、継続的な酸性雨や周辺から現場に流入する鉱さい水によって、金属の再溶出が誘発される可能性がある。しかし、水酸アパタイトと結合した金属は、結合強度が高く土壌pHの変動によって溶出する可能性は非常に低いため、長期的な不溶化効果を維持するこがとがきる。つまり、図2を用いて説明すると、本発明の緑化基盤材2の適用下、植物種子は植物1および植物根3のように成長することが可能であると考えられる。なぜならば、本発明の緑化基盤材に含まれる水酸アパタイトが、植物に有害である重金属類と強固に結合して、その再溶出を防止するからである。また、重金属類が植物根3を介して植物の成長に害を与える可能性も低下すると考えられる。
【0023】
上記した本発明の緑化基盤材は、次のようにして、実際に吹付け工法に使用される。所定容積のタンク内に、水、客土、種子、水酸アパタイト、養成剤、肥料、土壌改良剤、促進剤、コンクリートの廃材、木製チップなどを投入した後攪拌し、吹付け作業のしやすい材料の形状を工夫する。このとき、吹付け施工に適合する粘度となるように注入水量と客土量は適宜に調節される。そして、全体を充分に攪拌して吹付け用のスラリー客土の緑化基盤材とする。この緑化基盤材の利用は、金属の生物毒性の低下、及び植物根の生育を促進し緑化を促すという汚染土壌の修復を可能とする。さらには、土壌微生物生態系の機能回復も期待される。
【0024】
得られた緑化基盤材を所定の地表、例えば法面に吹付けてそこに付着させ施工を終了する。吹付けと同時に客土は流動性を失って地表に強固に付着し、また迅速に客土の団粒化が進んで全体は弾力性をもって固化する。そして、水酸アパタイトに吸着された汚染物質(重金属類)は、その水酸アパタイトとの強力な結合により、溶出が抑制されているので、施工後の環境汚染は防止される。
【0025】
また、本発明の緑化基盤材に添加する植物種子は、イネ科を中心に選定することが望ましい。イネ科の植物は多年生なことから播種の回数や費用を削減できる。また、寒冷地でも生命力が高いことや、他の植物よりも重金属を地上部に吸収しにくい特性を持っていることからも生育をより可能にすることができる。具体的な種としては、トールフェスク、バミューダグラス、レッドトップなどが挙げられる。
【0026】
次に、本発明の緑化基盤材の性能を評価するために、(1)植物種子の発芽率の比較試験、(2)植物の乾燥重量の比較試験を行った。本試験では、射撃場跡地で採取してきた土壌(銃弾に含まれる鉛成分が多いと考えられる)を用いた。この土壌に、質量比10〜30%で水酸アパタイトを、さらに植物種子を混合し、土壌水分を質量の30%に保つよう粘度調整し緑化基盤材とした。ただし、本試験は、室内試験的に鉢の中で実施したものであり、実際に土壌に吹付けをする場合には、上記の吹付け工法に従うものとする。ここで、混合する水酸アパタイトは質量比10〜30%であることが好ましいが、この数値は土壌の汚染濃度やその性質により適宜に調節されるものとする。
【0027】
(1)植物種子の発芽率の比較試験
土壌を鉢に用意し、硝酸を加えてpH調整を行った。金属汚染土壌は酸性土壌が多いため、本試験では、pH4,5,7(中性)の3種類を設定し、この3種類に対して、重金属対応の緑化基盤材の有無で発芽率の比較試験を行った。観察は11日間行った。
【0028】
図3は、前記の方法で発芽率の経日変化を比較したものである。APは重金属対応の緑化基盤材適用土壌(水酸アパタイトを含む土壌)であり、以下AP適用土壌と示す。縦軸は発芽率、及び横軸は播種からの日数を示す。比較土壌は、緑化基盤材を適応せずに、単に土壌をpH4,5,7に調整した3種類である。これに対して、AP適用土壌をpH4,5,7に調整した3種類を設定し、合計6種類で比較・確認を行った。その結果、pH4では、4日目から8日目まで、比較土壌において発芽率が高く(ただし統計的誤差の範囲内である)、9日目から11日目でAP適用土壌においてその発芽率は高くなっていた。また、pH5では、AP適用土壌において4日目から11日目まで試験期間を通して発芽率は高く、日数が増すごとにその差は顕著となった。pH7では、4日目から11日目までの試験期間を通して比較土壌において発芽率が高くなっていた。これは、アパタイト投入による土壌塩基類(カルシウムなど)の増加が、発芽率に若干影響を及ぼしたと考えられるが、最終的な生育は良好であり問題はないと考えられる。よって、重金属対応の緑化基盤材適用土壌の方が発芽率は良く、特に土壌の酸性度が高い(pHが低い)ほど、緑化基盤材適用による発芽率の上昇は顕著であった。したがって、本発明の緑化基盤材は、酸性度の高い土壌においても有効であることが確認された。
【0029】
(2)植物の乾燥重量の比較試験
植物の葉を摘み取って乾燥させ重量を測ることは、繊維質の重量を測ることであり、重いほどその植物が生育しているということになる。発芽率の試験と同様に、pH4,5,7の3種類を設定した。この3種類に、重金属対応の緑化基盤材の有無で、その乾燥重量の比較試験を行った。播種より100日生育させた植物の葉を用いた。
【0030】
結果を図4に示す。APは重金属対応の緑化基盤材適用土壌(水酸アパタイトを含む土壌)であり、以下AP適用土壌と示す。縦軸は植物の葉の乾燥重量のグラム数値、及び横軸はそれぞれpH4,5,7における緑化基盤材の有無を示す。植物の乾燥重量は、pH4,5,7のどの領域においても、AP適用土壌において明らかに多く、緑化基盤材の適用が植物の成長を顕著に促進させたと考えられる。植物の根の生育にとっては阻害条件となるpH5の土壌においても、その成長は有意に認められた。したがって、本発明の緑化基盤材は、植物の成長に十分な効果を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の緑化基盤材の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明の緑化基盤材による金属汚染土壌修復例の模式図である。
【図3】3種類のpH設定において、重金属対応の緑化基盤材(AP)の有無で、種子の発芽率の経日変化を比較した図である。
【図4】3種類のpH設定において、重金属対応の緑化基盤材(AP)の有無で、植物の生育度を乾燥重量により比較した図である。
【符号の説明】
【0032】
1:植物
2:緑化基盤材
3:植物根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物種子を添加した水酸アパタイトを金属汚染土壌に吹付けて、汚染金属を構成する陽性及び陰性の双方の金属を不溶化させることを特徴とする土壌汚染金属の不溶化機能を有する緑化基盤材。
【請求項2】
前記水酸アパタイトは、廃石膏を主原料にして作られることを特徴とする請求項1に記載の土壌汚染金属の不溶化機能を有する緑化基盤材。
【請求項3】
前記水酸アパタイトは、鶏糞を主原料にして作られることを特徴とする請求項1に記載の土壌汚染金属の不溶化機能を有する緑化基盤材。
【請求項4】
前記植物種子は、イネ科であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の土壌汚染金属の不溶化機能を有する緑化基盤材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−53266(P2010−53266A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220919(P2008−220919)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【Fターム(参考)】