説明

土壌消毒用保温シート

【課題】熱水、蒸気等の熱を利用して土壌を加熱殺菌する土壌消毒方法に使用する保温シートにおいて、従来農業用ビニルフィルム又は農業用ポリエチレンフィルム等の合成樹脂フィルムが被覆材として用いられていたが、土壌消毒作業中の熱水、蒸気等の熱温度の低下軽減することで水及び燃料の節約ができ、作業性が良く、回収も楽な保温シートを提供する。
【解決手段】保温シートとして、プラスチック、紙等のシート状の基材に、金属である、銀、アルミニウム、チタン、ニッケルや酸化物である酸化アルミニウム、酸化珪素等のいずれかもしくは複数により形成されてなる金属または金属酸化物の薄膜等の断熱層を積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱水、蒸気等の熱を利用して、土壌を加熱殺菌消毒することを目的とした、土壌消毒用保温シートに関する。
【背景技術】
【0002】
土壌消毒用の薬剤である臭化メチルの農業使用全廃に伴い、多くの代替消毒法が提案されているが、なか でも代表的なものとして、熱水、蒸気等の熱を利用して土壌を加熱殺菌消毒する方法が知られており、一般的に農業用に市販されているビニルフィルム(農ビ)又はポリエチレンフィルム(農ポリ)等の合成樹脂フィルムが被覆材として用いられている(たとえば特開2003−250420号)。
【特許文献1】特開2003−250420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来被覆材として用いられている、農ビ及び農ポリは断熱性が良い材量ではないため、土壌温度の低下が早い、温度の低下を軽減するため熱水の供給量を多くする必要がある(水、燃料の消費量が増える)、といった問題点があった。
【0004】
また、保温シートの下を熱水散布装置が移動する方式の土壌消毒方法では、従来の農ビ及び農ポリは、常温でも柔軟な上、熱水により加熱されるとさらに柔らかくなると同時に変形、収縮によるしわが発生するため、移動中の装置に巻き込まれて引っ掛かるという問題点があった。
【0005】
さらに、従来の農ビ及び農ポリの場合、その柔軟性のため、きれいに折り畳むのが困難であり、きれいに折り畳むためにフィルム厚を厚くさせると重量が重くなるため持ち運びが重労働である、といった土壌消毒終了後の保温シート回収作業においても問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的を達成するために、本発明は、熱水、蒸気等の熱を利用して、土壌を加熱殺菌消毒する土壌消毒方法に使用する保温シートにおいて、プラスチック又は紙基材に断熱層を積層してなることを特徴とする土壌消毒用保温シートを提供するものである。
また、上記の保温シートにおいて、その断熱層として金属又は金属酸化膜を形成した土壌消毒用保温シートを提供するものである。
また、上記の保温シートにおいて、その断熱層が、銀、アルミニウム、チタン、ニッケル、酸化アルミニウム、酸化珪素のいずれかもしくは複数により形成されてなることを特徴とする、土壌消毒用保温シートを提供するものである。
また、上記の保温シートにおいて、基材としてPET(ポリエチレンテレフタレート)等の熱収縮、熱変形が少なく、比較的剛性が大きく柔軟性の小さい材料を使用することを特徴とする、土壌消毒用保温シートを提供するものである。
また、上記の保温シートに、クロス等の補強材を積層してなることを特徴とする、土壌消毒用保温シートを提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、基材に断熱層を積層することにより、より薄くて保温性の高いシートが得られることから、土壌温度の低下が少なく、水及び燃料の節約が可能である。
また、適度の剛性があり、熱による変形、収縮も小さいため、移動中の消毒装置に巻き込まれて引っ掛かるという問題が発生しない。
さらに、適度の剛性は折り畳みを容易ならしめる効果をもたらし、薄いために軽量化が図れることから、土壌消毒終了後の保温シート回収作業が重労働という問題点が解決できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に用いる土壌消毒用保温シートの一例の端面図を示している。
1は、保温シートの基材で、プラスチックからできている。プラスチック基材としては、少なくとも1種の金属又は金属酸化物が蒸着可能な特性を持っていれば、特に種類を限定する必要はなく、PET(ポリエチレンテレフタレート)、OPP(延伸ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)等様々な公知のフィルムを利用できる。フィルム厚は、10μmから50μm程度のものを使用する。また、金属蒸着が可能で、ある程度の耐水性を持つものであれば、前記プラスチックシート以外にも、紙や不織布等でも良く、さらには上記素材の複数のラミネート品を、目的に応じて用いても良い。
さらに、断熱性向上のため、基材又はラミネート材として内部に空気層を包含するPE発泡体、PP発泡体等のプラスチックの発泡体を用いても良い。
【0009】
2は、保温シートの基材の表面に設けた断熱層で、金属又は金属酸化膜からできている。
金属膜又は金属酸化膜としては、銀、アルミニウム、チタン、ニッケル、酸化アルミニウム、酸化珪素のいずれか又は複数を、公知な手法で基材表面に形成することにより得られる。膜の形成は、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の公知な手法であって構わない。
【0010】
3は、PE等のプラスチック層をラミネート又はコーティングで設けたものであり、保温シートの金属面の保護又はシート強度の向上等を目的として、必要に応じて設けても良い。網状のクロス等の補強材を多層しても良い。
【実施例1】
【0011】
図2は本発明の代表的な実施例で、厚さ12μmのPETフィルム基材4上に、Al断熱層5を真空蒸着法により約500Åの厚さに設け、さらに、蒸着膜の保護及びシート強度の向上のため、PEクロス7をLDPE(低密度ポリエチレン)6でラミネート加工したものである(総フィルム厚は、32μm、90グラム/平方メーター)。
【0012】
本実施例のシートを用い、実際の圃場で熱水土壌消毒を実施し、従来例である農ビ(フィルム厚100μm、130グラム/平方メーター)との比較実験を行った。比較実験を行った圃場は、巾5.8m、長さ65mで、長さ方向に半分ずつ、本発明のシートと従来例のシートを敷き詰めた。
シートを敷き詰める前に、それぞれのシート領域内に土壌温度測定のための熱電対を地中に埋め込んだ。図3は熱電対の埋め込み方を示したもので、地面の断面模式図である。まず、地面8に縦穴9を60〜70cmの深さに掘り、熱電対10a〜10fを地表から10cm毎に地面と水平に差し込み、温度測定器11に接続後、縦穴9を埋め戻し、この上に各シート12を敷き詰めた。
熱水の供給は、熱水散布装置がウインチでシートの下を移動する方式のものを用いた。熱水温度は95℃で供給量は200リットル/mとした。
【0013】
土壌の温度変化の測定結果の例を示す。
図3は30cmの深さの部分の時間による土壌温度変化を示したものである。本発明のシートは従来例に比べ温度が高い状態を長い時間保持できていることがわかる。図5は50cmの深さの温度変化であるが、同様の傾向が見られる。
また、今回の実験中、従来例のシートが熱水散布装置に引っ掛かかるというトラブルが2回あったのに対し、本発明の実施例の保温シートでは同様のトラブルが発生しなかった。
後片付けの際、本発明の実施例の保温シートは軽いため楽に回収できたのに対し、従来例のシートは重く、重労働となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の保温シートの断面図を示す。
【図2】本発明の別の保温シートの断面図を示す。
【図3】本発明の土壌温度測定方法を示す。
【図4】土壌消毒時の土壌温度の変化(深さ30cm)の測定結果を示す。
【図5】土壌消毒時の土壌温度変化(深さ50cm)の測定結果を示す。
【符号の説明】
【0015】
1…基材、2…断熱層、3…保護層、4…PETフィルム、5…Al蒸着膜、6…LDPE、7…PEクロス、8…地面、9…縦穴、10…熱電対、11…温度測定器、12…保温シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱水、蒸気等の熱を利用して、土壌を加熱殺菌消毒する土壌消毒方法に使用する保温シートにおいて、プラスチック又は紙基材に断熱層を積層してなることを特徴とする土壌消毒用保温シート。
【請求項2】
請求項1記載の保温シートにおいて、前記断熱層として金属又は金属酸化膜を形成した土壌消毒用保温シート。
【請求項3】
請求項1記載の保温シートにおいて、前記断熱層が、銀、アルミニウム、チタン、ニッケル、酸化アルミニウム、酸化珪素のいずれかもしくは複数により形成されてなることを特徴とする、土壌消毒用保温シート。
【請求項4】
請求項1記載の保温シートにおいて、基材としてPET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)等の熱収縮、熱変形が少なく、比較的剛性が大きく柔軟性の小さい材料を使用することを特徴とする、土壌消毒用保温シート。
【請求項5】
請求項1記載の保温シートに、クロス等の補強材を積層してなることを特徴とする、土壌消毒用保温シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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