説明

土壌診断センサ

【課題】植物を植えてその結果をみることなく、短時間かつ簡便に病害が発生している土壌を判断する土壌診断センサを提供する。
【解決手段】電気絶縁性基板上に、少なくとも作用極および対極からなる電極を備えたセンサにおいて、作用極上に微生物を付着させ、さらに微生物を覆う水透過性フィルターを設けてなる微生物を用いた土壌診断センサ。この土壌診断センサは、水透過性を有するフィルターを用いているため、土壌抽出液の調製に際して、遠心分離などによる操作を経ることなく、土壌懸濁液に直接センサを浸せきすることにより、可溶成分のみを電極上に到達せしめ、簡易な測定を可能にするといったすぐれた効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌診断センサに関する。さらに詳しくは、微生物を利用して病害が発生している土壌か否かを判定する土壌診断センサに関する。
【背景技術】
【0002】
農業に従事する者にとって、土壌が健全であるか病気に冒されているものであるかは、重大な関心事である。しかし、多くの場合実際に植物を植えた後、病害が発生してから病害土壌であったことが判明することとなるため、その後に農薬を散布するなどの対応がなされているのが現状である。
【0003】
一般的な発病予測の方法としては、過去の発病度調査結果に基づいて推定する方法などが用いられているが、前年まで全く発病しなかった土壌においても発病が確認されることもあり、また予測を行うに際しては、少なくとも数年間にわたる調査が必要なため、簡易に病害発生の有無を判断する方法が強く望まれている。
【特許文献1】特開2002−305971号公報
【特許文献2】特開2004−185222号公報
【非特許文献1】山形大紀要農学 10,771-782(1989)
【非特許文献2】山形大紀要農学 9,17-22(1997)
【非特許文献3】山形農林学会報 50,19-24(1993)
【0004】
かかる要望に対して、出願人らは先に特願2005-332932号において、植物を植えてその結果をみることなく、短時間かつ簡便に病害が発生している土壌を判断する土壌診断法として、微生物を、微生物を活性化させるための添加剤およびメディエーター存在下で検査対象土壌と接触させた後、その微生物の活性度を測定することにより、病気に冒されていない健全な土壌と比較して、微生物の活性度が高い値を示す土壌について、病害土壌であると判断する方法を提案している。
【0005】
かかる方法は、短時間かつ簡便に病害が発生している土壌を判断することができるものであるため、これを誰もが如何なる場所においても容易に実行可能とする土壌診断センサの開発が強く望まれるところである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、植物を植えてその結果をみることなく、短時間かつ簡便に病害が発生している土壌を判断する土壌診断センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、電気絶縁性基板上に、少なくとも作用極および対極からなる電極を備えたセンサにおいて、作用極上に微生物を付着させ、さらに微生物を覆う水透過性フィルターを設けてなる微生物を用いた土壌診断センサによって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る土壌診断センサを用いることにより、植物を植えてその結果をみることなく、短時間かつ簡便に病害が発生している土壌を簡易に判断することができるので、病害に対する適切な処置を施したうえでの植物の栽培が可能となり、病害による作物不作などを未然に防止することができるといった優れた効果を奏する。
【0009】
また、本発明にかかる土壌診断センサは、水透過性を有するフィルターまたは電気絶縁性基板を用いているため、土壌抽出液の調製に際して、遠心分離などによる操作を経ることなく、土壌懸濁液に直接センサを浸せきすることにより、可溶成分のみを電極上に到達せしめ、簡易な測定を可能にするといったすぐれた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
センサとしては、電気絶縁性基板上に少なくとも対極および作用極の2極、好ましくはさらに参照極が設けられた3極からなり、作用極上に微生物を付着させ、さらに微生物を覆うフィルターを設けたものが用いられる。ここで、作用極と対極の2極からなるセンサは小型化に適し、作用極、対極および参照極の3極からなるセンサは、高い測定精度の測定に適するといった特徴を有する。
【0011】
電気絶縁性基板としては、電気を通さないセラミック、ガラス、プラスチック、生分解性材料、不織布またはセルロース等が挙げられ、好ましくはセルロース、ポリウレタンなど吸水性を有する液体保持体、さらに好ましくはセルロースが用いられる。なお電気絶縁性基板の形状は、特に限定されない。
【0012】
電極材料としては、微生物が安定に保持される素材であれば特に制限はなく、例えば白金、白金黒、金、銀、パラジウム、カーボン、銀/塩化銀、ステンレスまたは各種合金等が挙げられ、これらは電気絶縁性基板上に直接、スパッタリング法、蒸着法、スクリーン印刷法などの手法により形成されるか、または他の基板上に同様の方法により形成されたうえで前記電気絶縁性基板上に接着などの方法により設置される。また、電極の形状についても、微生物が安定に保持される形状であれば特に制限はなく、例えば櫛形、角形または円形等が挙げられる。
【0013】
電極上への微生物の付着は、微生物の菌液を微生物を安定に固定化・保存しうる材料と混合し、固定化することにより行われ、好ましくはOD580=50〜100の菌液および同量のコーンスターチ、好ましくは1.0〜4.0%コーンスターチを混合したものを、フィルター片面に滴下後、数分間放置したものを、作用極上に微生物存在部分が接触するように貼り合わせることにより行われる。フィルターと電極面との貼り合わせには、フィルターの外周部分に両面テープ、接着剤の塗布などの接着部材が使用される。コーンスターチ以外の微生物を安定に固定化・保存しうる材料としては、ポリアミド系、ポリウレタン系、ヒドロコロイド型、ハイドロゲル型などの合成ポリマー、多糖類、タンパク質などが挙げられ、具体的には寒天、アルギン酸、カラギーナン、ペクチン、コンニャクマンナン、ゼラチン、コラーゲン、ポリウレタンゲル、シリコンゲルなどが挙げられる。
【0014】
微生物としては、病害土壌と接触した際に、病気に冒されていないいわゆる健全土壌と接触した場合とは、その増殖に差がみられる微生物であれば特に限定されないが、好ましくは土壌微生物が用いられる。
【0015】
土壌微生物は、大きく細菌類、放線菌類、糸状菌類、に分けられ、細菌類としては、アセトバクター属、アルカリゲネス属、Bacillus cereusなどのバチルス属、バークフォルデリア属、コリネバクテリウム属、フラボバクテリウム属、グルコノバクター属、ラクトバチルス属、マイコバクテリウム属、ミクロコッカス属、プロテウス属、シュードモナス属、Ralstonia solanacearumなどのラルストニア属、リゾビウム属、ロドコッカス属、スフィンゴモナス属、ストレプトコッカス属、ザイモモナス属などが、一般土壌放線菌類としては、ストレプトマイセス属、アクチノマデュラ属、グリコマイセス属、ノカルディア属、サッカロモノスポラ属、ストレプトバーティシリウム属などが、また一般土壌糸状菌類としては、アファノマイセス属、アスペルギルス属、キャンディダ属、クラドスポリウム属、ムコール属、ペニシリウム属、フィトフィトラ属、リゾプス属、トリコデルマ属、トルラ属などが挙げられ、好ましくはバチルス属、さらに好ましくはBacillus cereusが用いられる。
【0016】
電極上には、好ましくはさらにメディエーターが固定化される。メディエーターとしては、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム、レザズリンなどが用いられ、その固定化はメディエーター溶液を電極上に滴下して乾燥させる方法、アルブミン-グルタルアルデヒドを用いた架橋法、水溶性光架橋樹脂を用いた包括法、共有結合法などにより行われる。このメディエーターを用いることにより、より大きな出力値を得ることができるため、微生物の活性度をより正確に測定することができる。
【0017】
フィルターとしては、微生物を透過せず水透過性を有するものであれば特に限定されないが、好ましくはセルロース製のものが用いられる。電気絶縁性基板とフィルターとは別素材のものであっても良く、また電気絶縁性基板として水透過性のものが用いられる場合には、フィルターの素材と同一素材とすることもできる。
【0018】
以上の構成よりなる土壌診断センサの一作成例を、図1を用いて説明する。シート5上に作用極3および対極3’を形成して2電極とし、さらにかかる電極3,3’上に片端部が端子4,4’をなすように絶縁体コーティング6を施す。次に、かかる電極形成シートを、電気絶縁性基板2に、端子4,4’が電気絶縁性基板2上から外れる状態で貼り付ける。他方、フィルター7上に外径がフィルターよりもやや小さめのリング状両面テープ8を貼り、さらに両面テープ内のフィルター面にコーンスターチと混合した菌液9を滴下して放置し、微生物付着フィルターを得る。次いで、フィルターを乾燥させた後、電極形成シートの作用極部分に菌液付着部が接するように微生物付着フィルターを貼り付け、土壌診断センサ1を作成する。センサの保存は、微生物活性の維持の観点からは4℃で行うことが好ましい。
【0019】
本発明に係る土壌診断センサは、この一部を収容可能な容器とともに土壌診断センサキットとすることができる。
【0020】
容器としては、土壌診断センサの一部を収容可能なものであれば特に限定されないが、箱体、袋体等が挙げられ、好ましくは袋体、さらに好ましくはチャック付袋体が用いられる。
【0021】
測定は、土壌診断センサの一部を収容可能な容器中にて、検査対象土壌および微生物を活性化させるための添加剤からなる溶液を振とうして得られる検査対象土壌懸濁液に、前記土壌診断センサの一部、例えば端子部分以外を前記容器中に挿入後、前記検査対象土壌懸濁液に電気絶縁性基板あるいはフィルターを浸せきさせることにより、微生物と検査対象土壌の可溶性成分とを接触させた後、その微生物の活性度を測定することにより行われる。
【0022】
測定に際し、検査対象土壌は、土壌診断センサの一部を収容可能な容器中にて、微生物を活性化させるための添加剤からなる溶液、好ましくは微生物を活性化させるための添加剤を含有するPBS緩衝液などの緩衝液に懸濁され、0〜27℃、好ましくは15〜25℃で振とうすることにより土壌成分を抽出した状態で用いられる。これ以上の温度で抽出が行われると、検査対象土壌中に存在する微生物が活性化され過ぎるため、好ましくない。
【0023】
微生物を活性化させるための添加剤としては、例えば一般的に用いられている微生物増殖用の培地、例えばLB培地、ポテトデキストロース培地、肉エキス培地などの他に、King'B培地、SM培地など特定の微生物群の増殖を選択的に促進・抑制するような添加剤あるいは、糖類、アミノ酸、タンパク質などが用いられる。これらは、緩衝剤中1/1000〜1/3量程度、好ましくは1/100〜1/5量程度添加される。このような微生物を活性化させるための添加剤を用いることにより、測定時に微生物が各種病害土壌可溶成分と接触した場合あるいは健全土壌と接触した場合にみられる増殖の差が、より一層明確に示されるようになる。
【0024】
また、センサ上にメディエーターが固定化されていない土壌診断センサを用いる場合には、検査対象土壌および微生物を活性化させるための添加剤からなる溶液にさらにメディエーターが添加される。メディエーターは、緩衝剤中1/1000〜1/20量程度、好ましくは1/100〜3/100量程度添加される。
【0025】
土壌成分が抽出された検査対象土壌懸濁液には、本発明の土壌診断センサの一部、具体的には吸水性を有する電気絶縁性基板あるいはフィルターの少なくともいずれかが、土壌成分抽出液と接触する状態で浸せきされる。このとき、吸水性を有する電気絶縁性基板あるいはフィルターを介して土壌懸濁液が接触することにより、土壌懸濁液をろ過あるいは遠心分離といった操作を行うことなく、土壌懸濁液中の可溶性成分のみを微生物と反応させることが可能となる。
【0026】
微生物および検査対象土壌の接触は、0〜27℃、好ましくは20〜27℃で行われる。これ以上の温度で抽出が行われると、検査対象土壌中に存在する微生物が活性化され過ぎるため、好ましくない。
【0027】
土壌診断センサキットの一使用例を図2に示す。あらかじめチャック12付容器11内で検査対象土壌および微生物を活性化させるための添加剤からなる溶液を振とうさせた後、土壌診断センサ1が端子部分が容器内へ入らない状態で挿入され、一定時間経過後の電流値が測定される。ここで示されている土壌診断センサは、電気絶縁性基板がセルロースなど吸水性のものであり、この一部が土壌懸濁液と接触し、検査対象土壌の可溶性成分のみが電気絶縁性基板およびフィルターに染み込み、試料液体が保持されることで、電極上の微生物と反応させることができる。一方、電気絶縁性基板が、吸水性を有するのものでない場合には、フィルターが土壌懸濁液と接触するような状態で、容器内へのセンサの挿入が行われる。
【0028】
微生物の活性度とは、微生物の生菌数または活力などに依存する酸化還元能力、呼吸量(酸素減少量、二酸化炭素発生量)などを測定することにより得られる数値を指しており、好ましくは呼吸に関る代謝系に関与する酵素活性を測定することにより得られる数値が用いられる。例えば、酸素減少量を測定する場合には、電極として酸素電極が用いられる。
【0029】
呼吸に関る酵素活性を測定する方法としては、土壌診断センサを検査対象土壌可溶成分と0〜24時間、好ましくは10分〜8時間、さらに好ましくは2〜5時間接触させて反応を行った後、印加電圧を加えて得られる電流値を測定することにより行われる。これにより、土壌中の土壌微生物の呼吸に伴う細胞質中の電子伝達系の活動による還元触媒活性能を、メディエーターを介して電気化学的に測定し、土壌環境を数値化することとなる。具体的には、電子を測定し得る方法であれば特に制限はなく、例えばクロノアンペロメトリー、サイクリックボルタンメトリー、クーロメトリー等が用いられる。
【実施例】
【0030】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0031】
実施例1
図1に示した土壌診断センサ作成例にならい、電気絶縁性基板として3×5cmの角型Filter Paper(アドバンテック社製品26-WA)を、両面テープとしてアクリル樹脂系接着剤(リンテック社製品S-100T)を、フィルターとして微生物を付着させた直径25mmの円形のセルロース混合エステルフィルター(ミリポア社製品Millipore MF-メンブレンフィルターHAWP02500;ポアサイズ0.45μm)を、シートとして膜厚10μmのカーボン電極をスクリーン印刷法により形成した膜厚188μmのポリエステルシートを用いて土壌診断センサを作成した。ここで、フィルターへの微生物の付着および電気絶縁性基板上へのフィルターの接着は次のように行われた。
【0032】
バチルス セレウス(Bacillus cereus)K12N(FERM P-17147)をLB培地(Bacto-Tryptone 10g、Yeast Extract 5g、NaCl 10gを1Lの蒸留水に溶解し滅菌したもの)に植菌し、IWAKI Universal Shaker SHK-U4を用いて、30℃、150rpmの条件下で一晩振とう培養した。4℃、8000rpm、5分の条件で遠心分離により集菌し、pH7.4のPBS緩衝液(和光純薬製品)により3回洗浄した。得られた菌液を、PBS緩衝液を用いて、OD580=120となるように調製したもの25μlと3%コーンスターチ(和光純薬製品)溶液25μlを混合し、半量(25μl)をフィルター上の両面テープ枠内に載せて2分間放置し、その後電極面と貼り合せ、さらに3時間ほど室温で放置し、フィルターを乾燥させた後、4℃で5日間保存した。
【0033】
次に、(1)PBS緩衝液(和光純薬製品)3960μlおよびPD培地(Difco社製品ポテトデキストロースブロス24gを1Lの蒸留水に溶解後滅菌)40μlを混合したものまたは(2)PBS緩衝液(和光純薬製品)4000μlに対して、最終濃度80mMになるようメディエーターとしてのヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム(関東化学製品)104mgを添加して、総量をそれぞれ4mlとした反応液を調製した。これらの反応液および上記土壌診断センサを、土壌診断センサの電気絶縁性基板の下端部が反応液と接触するように50×70mmのチャック付ポリ袋(ユニパック社製品A-4)に入れ、3時間経過後に、900mVの印加電圧を加えて3秒後に得られる電流値(微生物由来の酸化還元反応による)を、電気化学アナライザー(ALS, MODEL 1202)を用いてクロノアンペロメトリー法により測定した。電気化学測定中は反応系を25℃に保ち、測定を行った。
【0034】
(1)または(2)の反応液より得られる電流値より、PD培地存在の有無による電流比を算出したところ、PD培地有(1)/PD培地無(2)=2.7であった。
【0035】
実施例2
実施例1において、微生物の固定化に際して3%コーンスターチの代わりに1%コーンスターチが用いられたところ、PD培地有(1)/PD培地無(2)=2.1であった。
【0036】
実施例3
実施例1において、微生物の固定化に際して3%コーンスターチの代わりに6%コーンスターチが用いられたところ、PD培地有(1)/PD培地無(2)=2.6であった。
【0037】
また実施例1〜3の結果より、微生物固定化時のコーンスターチ濃度がいずれの場合にあっても、本発明にかかる土壌診断センサを用いた土壌診断法により、微生物を活性化させるための添加剤であるPD培地により微生物が活性化されたことを電流値として測定できることが確認された。
【0038】
また、コーンスターチの最終濃度が1.5%(実施例1)または3.0%(実施例3)の場合に良好な電流応答が得られることが示され、コーンスターチ溶液の粘性などからくる操作の簡便さおよび経済性を考慮した場合には、最終濃度1.5%のコーンスターチとBacillus cereus菌液を混合するのが好ましいことが示唆された。
【0039】
実施例4
実施例1において、センサとして3日間保存したものが用いられ、また菌液としてOD580=60となるように調製したものが用いられたところ、PD培地有(1)/PD培地無(2)=1.5であった。
【0040】
実施例5
実施例1において、センサとして3日間保存したものが用いられ、また菌液としてOD580=120となるように調製したものが用いられたところ、PD培地有(1)/PD培地無(2)=2.4であった。
【0041】
実施例6
実施例1において、センサとして3日間保存したものが用いられ、また菌液としてOD580=180となるように調製したものが用いられたところ、PD培地有(1)/PD培地無(2)=2.4であった。
【0042】
実施例7
実施例1において、センサとして3日間保存したものが用いられ、また菌液としてOD580=240となるように調製したものが用いられたところ、PD培地有(1)/PD培地無(2)=1.8であった。
【0043】
実施例4〜7の結果より、いずれの微生物濃度においても、本発明にかかる土壌診断センサを用いた土壌診断法により、微生物を活性化させるための添加剤であるPD培地により微生物が活性化されたことを電流値として測定できることが確認され、特に固定化時における微生物濃度が、OD580=60または90の場合にあっては、良好な電流応答が得られることが示された。
【0044】
比較例1
実施例1において、センサとして3日間保存したものが用いられ、また微生物の固定化に際して3%コーンスターチの代わりに3%可溶性デンプンが用いられた混合液全量(50μl)が用いられたところ、PD培地有(1)/PD培地無(2)=1.3であった。
【0045】
比較例2
実施例1において、センサとして13日間保存したものが用いられ、また微生物の固定化に際して3%コーンスターチの代わりに3%可溶性デンプンが用いられた混合液全量(50μl)が用いられたところ、PD培地有(1)/PD培地無(2)=0.5であった。
【0046】
比較例1〜2の結果より、微生物の固定化に可溶性デンプンを用いた場合には、コーンスターチを用いた場合と比べて土壌診断センサの性能が劣るようになり、この傾向は土壌診断センサ保存日数が多くなるにつれて顕著となることが確認された。
【0047】
実施例8
実施例1において、センサとして1日間保存したものが用いられ、また微生物の固定化量が倍の50μlに変更されて用いられたところ、PD培地有(1)/PD培地無(2)=1.9であった。
【0048】
実施例9
実施例8において、フィルターとして円形の混合セルロースエステルフィルター(アドバンテック社製品A045F025A:ポアサイズ 0.45μm)が用いられたところ、PD培地有(1)/PD培地無(2)=1.4であった。
【0049】
実施例10
実施例8において、センサとして7日間保存したものが用いられたところ、PD培地有(1)/PD培地無(2)=2.0であった。
【0050】
実施例11
実施例8において、センサとして7日間保存したものが用いられ、またフィルターとして円形の混合セルロースエステルフィルター(A045F025A)が用いられたところ、PD培地有(1)/PD培地無(2)=1.6であった。
【0051】
実施例8〜11の結果より、いずれのセルロース製フィルターを用いた場合にあっても、本発明にかかる土壌診断センサを用いた土壌診断法により、微生物を活性化させるための添加剤であるPD培地により微生物が活性化されたことを電流値として測定できることが確認された。
【0052】
実施例12
実施例8において、センサとして3日間保存したものが用いられ、また電気絶縁性基板として角型(3×5cm)の採血用濾紙(アドバンテック社製品)が用いられたところ、PD培地有(1)/PD培地無(2)=1.9であった。
【0053】
実施例13
実施例1において、センサとして3日間保存したものが用いられ、また電気絶縁性基板として円形(直径47mm)のAbsorbant Pads(アドバンテック社製品B200G047A)が用いられたところ、PD培地有(1)/PD培地無(2)=1.9であった。
【0054】
実施例12〜13の結果より、実施例1で用いられた電気絶縁性基板以外のセルロース製電気絶縁性基板を用いた場合にあっても、本発明にかかる土壌診断センサを用いた土壌診断法により、微生物を活性化させるための添加剤であるPD培地により微生物が活性化されたことを電流値として測定できることが確認された。また、電気絶縁性基板として異なる形状のものを用いた場合も、同様に測定可能であることが確認された。
【0055】
実施例14
実施例8において、反応液として(2)のみが用いられ、センサとして3、6、13、20および27日間保存したものの電流値の測定を行い、3日間保存したものの電流値を100とした場合における各電流値の変化を算出したところ、6日間保存したものでは86.9%、13または20日間保存したものでは71.9%、27日間保存したものでは64.5%であった。
【0056】
実施例14の結果より、センサ作製後27日経過した場合にも、微生物の活性が十分に保たれていることが示された。
【0057】
実施例15
実施例1において、センサとして3日間保存したものが、また反応液として(2)のみが用いられ、その反応液総量が4mlとしたもののほか、倍量の8mlまたは4倍量の16mlとしたものが用いられた。測定された電流値は、それぞれ139.8μA、152.6μAおよび161.1μAであり、反応液量が異なっている場合であっても、電流応答に特に大きな変化がみられないことが確認された。
【0058】
実施例16
実施例8において、センサとして9日間保存したものが、また反応液として(2)のみが用いられ、さらにPBS緩衝液のpHを5.5、6.5、7.4または8.5としたものが用いられた。測定された電流値は、それぞれ79.1μA、87.7μA、125.2μAおよび74.5μAであり、一般的な土壌のpHである約5〜8において十分測定可能であることが示唆された。なお、緩衝液を用いて土壌抽出液を作製する場合にあっては、土壌本来のpHに左右されずに測定が可能となるため、仮に土壌のpHが上記以外であっても対応することが可能である。
【0059】
比較例3
実施例1と同様に調製されたBacillus cereus菌液25μlおよび(1) PBS緩衝液3935μlおよびPD培地40μlを混合したものまたは(2)PBS緩衝液3975μlを用い、これらに最終濃度80mMになるようメディエーターとしてのヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム(関東化学製品)104mgを添加して、総量をそれぞれ4mlにした反応液を調製した。スターラーを用いて攪拌しながら反応を行い、メディエーター添加3時間経過後、溶液中に炭素電極の作用極と対極を浸漬し、900 mVの印加電圧を加えて3秒後に得られる電流値(微生物由来の酸化還元反応による)を、電気化学アナライザー(ALS, MODEL 1202)を用いてクロノアンペロメトリー法により測定した。電気化学測定中は、恒温槽(タイテック社製品Cool Thermo Unit, CTU-N)を用いて反応系を25℃に保ち、測定を行った。(1)または(2)の反応液より得られる電流値より、PD培地存在の有無による電流比を算出したところ、PD培地有(1)/PD培地無(2)=1.1であった。
【0060】
実施例1および比較例3の結果より、同量の菌を用いて土壌診断を行った場合であっても、微生物を反応液に懸濁したのみでは、その電流比は1.1であるのに対し、本発明にかかる土壌診断センサを用いた測定による電流比は2.7と高い応答性を示すことが確認された。また、得られた電流値自体を比較しても、本発明に係る土壌診断センサを用いた場合には効率よく微生物由来の電流を検出可能であることが確認された。
【0061】
実施例17
実施例8において、センサとして9日間保存したものが用いられ、反応液として土壌懸濁液4000μlに対して、最終濃度80mMになるようメディエーターとしてのヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム(関東化学製品)104mgを添加したものが用いられた。ここで、土壌懸濁液としては、長後土(横浜市長後にて採取)、白菜根こぶ病土壌(長野県中信地区にて採取)、レタス根ぐされ土壌(長野県中信地区にて採取)または対照土壌(レタス根ぐされ病発病土壌の近隣の発病していない土壌)1.0gをPBS緩衝液3.6mlに懸濁し、これに0.4ml(土壌懸濁液の1/10量相当)のKing's B培地(Bacto-Tryptone 20g、 Glycerol 10ml、 K2HPO4 1.5g、 MgSO4 1.5gを蒸留水1Lに溶解後滅菌)を添加して、チャック付ポリ袋(A-4)中において、25℃で一晩振とうしたものが用いられた。
【0062】
長後土を用いた場合における電流値を1として、各サンプルの電流比を算出したところ、白菜根こぶ病土壌およびレタス根ぐされ土壌は1.6および対照土壌は0.9であった。
【0063】
参考例
比較例3において、(1) PBS緩衝液3935μlおよびPD培地40μlを混合したものまたは(2)PBS緩衝液3975μlの代わりに、土壌抽出液975μlが用いられ、同様に測定を行った。ここで、土壌抽出液としては、長後土(横浜市長後にて採取)、白菜根こぶ病土壌(長野県中信地区にて採取)、レタス根ぐされ土壌(長野県中信地区にて採取)または対照土壌(レタス根ぐされ病発病土壌の近隣の発病していない土壌)5gをPBS緩衝液18mlに懸濁し、これに2ml(土壌懸濁液の1/10量相当)のKing's B培地を添加して、25℃で一晩振とうすることにより土壌成分を抽出した後、4℃、8000rpm、5分の条件で遠心分離した上澄液が用いられた。
【0064】
長後土を用いた場合における電流値を1として、各サンプルの電流比を算出したところ、白菜根こぶ病土壌は1.4、レタス根ぐされ土壌は1.7および対照土壌は1.0であった。
【0065】
実施例17および参考例の結果より、土壌診断センサを用いた測定による電流比は、参考例で示された結果と同様に、レタス根ぐされ病土壌、ハクサイ根こぶ病土壌>長後土、対照土壌となっており、病害土壌と比較して正常土壌は電流値が小さい値を示すことが確認された。これより、本発明にかかる土壌診断センサでは、簡便な操作により、実際の土壌抽出液に対する感度の観点からも目的とする土壌診断に遜色のない評価が実現できることが示された。
【0066】
実施例18
比較例3において、(1)がPBS緩衝液875μlおよびPD培地100μlに変更され、(2)は用いられず、また微生物の培養がA.両面テープなし、B.2×5cmの両面テープ(S-100T)、C.2×5cmの両面テープ(リンテック社製品S-125T)またはD.2×5cmの両面テープ(日東電工製品No.5000NS)存在下で行われた。得られた電流値は、A.251.0、B.248.9、C.254.0およびD.251.2であった。
【0067】
実施例18の結果からも明らかなように、いずれの両面テープ存在下においても、微生物の増殖および活性に悪影響を及ぼすといったことは確認されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の土壌診断センサの一作成例を示す図である。
【図2】本発明の土壌診断センサキットの一使用例を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 土壌診断センサ
2 電気絶縁性基板
3 電極
4 端子
5 シート
6 絶縁体コーティング
7 フィルター
8 両面テープ
9 菌体
10 土壌診断センサキット
11 容器
12 チャック
13 土壌懸濁液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性基板上に、少なくとも作用極および対極からなる電極を備えたセンサにおいて、作用極上に微生物を付着させ、さらに微生物を覆う水透過性フィルターを設けてなる微生物を用いた土壌診断センサ。
【請求項2】
電気絶縁性基板として、吸水性を有する液体保持体が用いられる請求項1記載の土壌診断センサ。
【請求項3】
微生物の付着が、微生物を安定に固定化する方法により行われる請求項1記載の土壌診断センサ。
【請求項4】
さらに参照極が設けられた請求項1記載の土壌診断センサ。
【請求項5】
作用極上に、さらにメディエーターが固定化されている請求項1記載の土壌診断センサ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の土壌診断センサおよびこの一部を収容可能な容器からなる土壌診断センサキット。
【請求項7】
土壌診断センサの一部を収容可能な容器中にて、検査対象土壌、微生物を活性化させるための添加剤およびメディエーターからなる溶液を振とうして得られる検査対象土壌懸濁液に、前記土壌診断センサの一部を前記容器中に挿入後、前記検査対象土壌懸濁液に電気絶縁性基板あるいはフィルターを浸せきさせることにより、微生物と検査対象土壌の可溶性成分とを接触させた後、その微生物の活性度を測定することにより土壌を診断することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の土壌診断センサを用いた土壌診断法。
【請求項8】
土壌診断センサの一部を収容可能な容器中にて、検査対象土壌および微生物を活性化させるための添加剤からなる溶液を振とうして得られる検査対象土壌懸濁液に、前記土壌診断センサの一部を前記容器中に挿入後、前記検査対象土壌懸濁液に電気絶縁性基板あるいはフィルターを浸せきさせることにより、微生物と検査対象土壌の可溶性成分とを接触させた後、その微生物の活性度を測定することにより土壌を診断することを特徴とする請求項5記載の土壌診断センサを用いた土壌診断法。
【請求項9】
微生物の活性度が、呼吸量を測定することにより行われる請求項7または8記載の土壌診断法。

【図1】
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【図2】
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