説明

土寄輪及びその製造方法

【課題】 簡単な構造で、鎮圧・土寄作用及び土等の付着防止作用を効果的に発揮させる。
【解決手段】 本発明の土寄輪1は、硬質の円筒状リム2と、該円筒状リム2における内周面に密着するとともに外周面から離間可能に該円筒状リム2を被覆する弾性の被覆部3と、円筒状リム2の外周面と被覆部3内面との間に形成される空間内に充填され且つ密封された、被覆部3よりも柔軟性の高い充填物質4とを備えている。円筒状リム2は、その内周面及び外周面を連通する、充填物質4を前記空間内に注入するための貫通孔5を備え、該貫通孔5における前記内周面側には、弁7が取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植機や播種機等における土寄輪及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に土寄輪には、地面を鎮圧したり・土寄せしたりする作用(鎮圧・土寄作用)と、車輪の表面に土等が付着することを防止する作用(土等付着防止作用)が求められる。鉄製車輪のように付着界面が変形しないものの場合、鎮圧・土寄作用をよく発揮するが、車輪の表面に付着した土が車輪の回転により度々加圧されることでより強固な付着が起こってしまうという不具合が生じる。一方、付着界面が例えば軟質発泡体のように軟質に形成されているものの場合、土等付着防止作用をよく発揮するが、鎮圧・土寄作用が低下してしまうという不具合が生じる。
【0003】
このような不具合を解決すべく提案された従来のこの種の土寄輪として、特許文献1に記載された転輪がある。図7に示すように、この転輪は、硬質の円筒状リム53と、その外周面に外装された弾性体51と、この弾性体51の外周面に被覆一体化されたフッ素樹脂フィルム52とからなっている。一体化された弾性体51及びフッ素樹脂フィルム52は該フッ素樹脂フィルム表面における表面硬さがJISAで20〜80である。弾性体51は内周面に周方向をなす複数条のリブ55を有し、このリブ55が円筒状リム53の外周面に弾着してリブ間に空隙を形成するようになっている。フッ素樹脂フィルム52の厚さは10〜200μmとなっている。
【0004】
【特許文献1】特許第2818020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の転輪は、円筒状リム53の外周面に、弾性体51及びフッ素樹脂フィルム52からなる二層構造の弾性手段を設けているが、この構造では、製造上、フッ素樹脂フィルム52を剥がれにくく弾性体51に接着することが困難であり、実用面で耐久性に劣るという課題がある。また、弾性体51は内周面のリブ55により円筒状リム53の外周面に空隙を形成するようにしているので、リブ55に支持されている部位と支持されていない部位の地面接地時のクッション性の差が大きく、土寄せ等のためのゲージ輪として不安定であるという課題がある。
【0006】
そこで、本出願人は、図8に示すように、進行方向前方に土壌面を整地する整地ローラー62を設け、後部に野菜等の苗を移植する移植部63(又は、種を播く播種部等)と土寄輪64を配置し、土寄輪64を、図9に示すように硬質の円筒状リム65の外周面に樹脂又はゴムからなる被覆材66で被覆した移植機61(又は播種機等)について、実用可能な被覆材66の硬度条件を得るべく、次の実験を実施した。
【0007】
この実験においては、土寄輪64を、外径310mmの鉄製円筒状リム65の外周に、被覆材66を厚さ5mm、幅65mmの寸法として、下表1の硬度の場合について、よく砕土された水分30〜40%の粘質土壌の上を、荷重5〜8kgで速度0.5m/秒で1000m転がしたときの付着状態を観察し判定した。
【0008】
【表1】

【0009】
この実験の結果、被覆材66の硬度をA20/S〜A30/Sの範囲にすると、土等付着防止作用については、実用可能なものが得られることが判明した。ここで、被覆材66の硬度の値の下限をA20/Sとしたのは、これより小さいと、被覆材66が柔らかすぎて、製造が困難で、耐久性も低くなってしまうからである。
【0010】
この実験に使用した移植機61は、整地ローラー62を前方に設け、整地と予備鎮圧を行い、圃場面の荒れ状態をなくして移植(又は播種等)、土寄せする工程としたから、圃場面の凹凸による土寄輪64の表面への土塊の衝突もなく、また機体重量も整地ローラー62と土寄輪64に分担できるので、土寄輪64の自重分担が少なく、被覆材66が軟質であっても損傷し難く構造が簡単で耐久性を向上させることができる。
【0011】
しかしながら、この実験に係る土寄輪の構成では、依然として、従来の土寄輪と同様に鎮圧・土寄作用と土等付着防止作用の両立が困難で、土等付着防止作用を向上させるほど、鎮圧・土寄作用が低下してしまうというという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、第1の発明の土寄輪は、
硬質の円筒状リムと、
該円筒状リムにおける内周面に密着するとともに外周面から離間可能に該円筒状リムを被覆する弾性の被覆部と、
前記円筒状リムの外周面と前記被覆部内面との間に形成される空間内に充填され且つ密封された、前記被覆部よりも柔軟性の高い充填物質と
を備えている。
【0013】
前記充填物質としては、特に限定されないが、気体、液体、固体(例えば、ゴム、樹脂等の弾性体や発泡体)を例示する。
【0014】
この構成によれば、前記被覆部の地面接地部位においては、前記円筒状リムの外周面でバックアップされているので、地面に対し前記円筒状リムの外周面形状による鎮圧・土寄作用が効果的に働き、該被覆部の非地面接地部位においては、前記充填物質による形状復元作用により、地面接地時に接した土等の付着防止作用が効果的に働く。特に、該充填物質として、気体や液体等の流動体を採用すれば、前記被覆部の地面接地部位においては、該地面接地部位内の該充填物質が非地面接地部位側へと流動することにより、地面に対し前記円筒状リムの外周面形状による鎮圧・土寄作用がさらに効果的に働き、該被覆部の非地面接地部位においては、前記充填物質の流動による形状復元作用により、地面接地時に接した土等の付着防止作用がさらに効果的に働く。
【0015】
第2の発明の土寄輪としては、前記第1の発明において、
前記円筒状リムは、その内周面及び外周面を連通する、前記充填物質を前記空間内に注入するための貫通孔を備え、
該貫通孔における前記内周面側には、弁又は/及び蓋が取り付けられた態様を例示する。
【0016】
この構成によれば、前記空間内に前記充填物質を注入したり、補充したりすることを簡単に行うことができる。
【0017】
また、第3の発明の土寄輪の製造方法は、
硬質の円筒状リムと、
該円筒状リムにおける内周面に密着するとともに外周面から離間可能に該円筒状リムを被覆する弾性の被覆部と、
前記円筒状リムの外周面と前記被覆部内面との間に形成される空間内に充填され且つ密封された、前記被覆部よりも柔軟性の高い充填物質とを備えた土寄輪の製造方法であって、
前記円筒状リムにおける前記内周面側に接着剤を塗布するとともに前記外周面側に離型剤を塗布する段階と、
ディッピング工法により該円筒状リムに被覆部を形成する段階と、
前記空間内に前記充填物質を充填し且つ密封する段階と
を含んでいる。
【0018】
この構成によれば、前記構造の土寄輪を簡単な工程で製造することができる。
【0019】
第4の発明の土寄輪の製造方法としては、前記第3の発明において、
前記円筒状リムは、その内周面及び外周面を連通する、前記充填物質を前記空間内に注入するための貫通孔を備え、
該貫通孔における前記内周面側には、弁又は/及び蓋が取り付けられた土寄輪の製造方法であって、
前記被覆部を形成する段階の前に、前記貫通孔の前記内周面側開口が前記被覆部で被覆されないように被覆防止手段を取り付ける段階を含むとともに、
前記被覆部を形成する段階の後で、前記被覆防止手段を取り外す段階を含んでいる。
【0020】
この構成によれば、前記構造の土寄輪を簡単な工程で製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る土寄輪によれば、簡単な構造で、鎮圧・土寄作用及び土等の付着防止作用を効果的に発揮するという優れた効果を奏する。また、本発明に係る同土寄輪の製造方法によれば、同土寄輪を簡単な工程で製造することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1〜図4は本発明を具体化した第一実施形態の移植機11における土寄輪1及びその製造方法を示している。本例の移植機11は、ポット苗箱で育苗した野菜苗Pを圃場Hに植え付けるもので、図1に示すように、図示しない走行手段により圃場Hを走行自在に支持された機体12と、ポット苗箱から野菜苗Pを横一列ずつ取り出すとともに一本ずつ搬送する搬送部14と、該搬送された野菜苗Pを順次圃場Hに植え付ける植付部15とを備えている。そして、植付部15は、圃場Hに植付溝20を形成し、該植付溝20に搬送部14により搬送されてきた野菜苗Pを植え付けるとともに、左右一対の土寄輪1で植付溝20を埋め戻すようになっている。
【0023】
土寄輪1は、図2及び図3に示すように、硬質の円筒状リム2と、該円筒状リム2における内周面に密着するとともに外周面から離間可能に該円筒状リム2を被覆する弾性の被覆部3と、円筒状リム2の外周面と被覆部内面との間に形成される空間内に充填され且つ密封された、被覆部3よりも柔軟性の高い充填物質4とを備えている。
【0024】
円筒状リム2は、本例では、金属としての鉄からなっており、その内周面及び外周面を連通する、充填物質4を前記空間内に注入するための貫通孔5を備えている。貫通孔5における円筒状リム2の内周面側には筒体6が取り付けられており、該筒体6の先端側開口に弁7が取り付けられている。また、円筒状リム2の内周面には、周方向へ間隔をおいて、該円筒状リム2の中心へ延びる複数のスポーク8が突設されており、該複数のスポーク8の先端は車軸に装着されるハブ9によって互いに連結されている。
【0025】
被覆部3としては、特に限定されないが、ポリ塩化ビニール等の樹脂材からなるものを例示する。これは、移植機11や播種機等の場合、土寄輪1が接地する表土は、耕起整地された軟弱な土壌面であるため、ポリ塩化ビニール等の樹脂材でも耐久性の面で問題がないからである。従って、後述する本発明の製造方法において、ディッピング工法を採用することができる。
【0026】
充填物質4としては、本例では、空気が採用されているが、空気以外の気体のほかに、液体、固体(例えば、ゴム、樹脂等の弾性体や発泡体)を採用することも可能である。
【0027】
次に、本例の土寄輪1の製造方法について図3を参照しながら説明する。この製造方法は、次の段階を含んでいる。
【0028】
まず、図3(a)に示す円筒状リム2を用意する。この円筒状リム2の貫通孔5における内周面側開口(本例では筒体6の開口)が被覆部3で被覆されないように被覆防止手段としての栓10を取り付ける。そして、円筒状リム2における内周面側に接着剤を塗布するとともに外周面側に離型剤を塗布する。
【0029】
次いで、図3(b)に示すように、ディッピング工法により該円筒状リム2に被覆部3を形成する。
【0030】
次いで、図3(c)に示すように、栓10を取り外すとともに、弁7を取り付ける。そして、弁7及び貫通孔5を介して充填物質4を注入すると、該注入に伴って、円筒状リム2における離型剤が塗布された外周面側に形成された被覆部3が剥離し、前記空間が形成されてゆく。そして、前記空間内に充填物質4を充填し且つ密封する。弁7には適宜蓋(図示略)を取り付ける。
【0031】
以上のように構成された本例の移植機11における土寄輪1によれば、円筒状リム2、被覆部3及び充填物質4を備えているので、被覆部3の地面接地部位においては、該地面接地部位内の該充填物質4が非地面接地部位側へと流動することにより、地面に対し円筒状リム2の外周面形状による鎮圧・土寄作用が効果的に働き(図4(a)及び(b)参照。)、該被覆部3の非地面接地部位においては、充填物質4の流動による形状復元作用により、地面接地時に接した土等の付着防止作用が効果的に働く(図4(a)及び(c)参照。)。
【0032】
円筒状リム2は、貫通孔5及び弁7を備えているので、前記空間内に充填物質4を注入したり、補充したりすることを簡単に行うことができる。
【0033】
また、本例の土寄輪1の製造方法によれば、本例の構造の土寄輪1を簡単な工程で製造することができる。
【0034】
次に、図5及び図6は本発明を具体化した第二実施形態を示している。この土寄輪31及びその製造方法は、以下に示す点において、主に第一実施形態と相違している。従って、同実施形態と共通する部分については、同一符号を付することにより重複説明を省く。
【0035】
本例の円筒状リム32は、図5に示すように、貫通孔としてのネジ孔35における円筒状リム2の内周面側には、筒状の弁37が直接取り付けられている。
【0036】
次に、本例の土寄輪31の製造方法について図6を参照しながら説明する。この製造方法は、次の段階を含んでいる。
【0037】
まず、図6(a)に示す円筒状リム32を用意する。この円筒状リム32のネジ孔35における内周面側開口が被覆部3で被覆されないように被覆防止手段としてのネジ孔マスキング金具40を取り付ける。そして、円筒状リム32における内周面側に接着剤を塗布するとともに外周面側に離型剤を塗布しておき、ディッピング工法により該円筒状リム32に被覆部3を形成する。
【0038】
次いで、図6(b)に示すように、ネジ孔マスキング金具40をネジ孔から取り外す。そして、該ネジ孔マスキング金具40の周囲に形成された余分な被覆部位3aをカットする。
【0039】
次いで、図6(c)及び(d)に示すように、ネジ孔35に弁37をねじ込んで取り付ける。そして、弁37及びネジ孔35を介して前記空間内に充填物質4を注入することにより、前記空間内に充填物質4を充填し且つ密封する。弁37には適宜蓋を取り付ける。
【0040】
本例の土寄輪31及びその製造方法によっても、第一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0041】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)本例の土寄輪1,31を播種機等の他の農業機械に使用すること。
(2)被覆部3や充填物質4の材料を適宜変更すること。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明を具体化した第一実施形態に係る土寄輪を備えた移植機の要部を示す斜視図である。
【図2】同土寄輪の側面図である。
【図3】同土寄輪の製造方法を段階的に示す断面図であり、図2のIII−III線断面図である。
【図4】同土寄輪の作用を説明する図であり、(a)は土寄輪の側面図、(b)は(a)のb−b線断面図、(c)は(a)のc−c線断面図である。
【図5】本発明を具体化した第二実施形態に係る移植機の土寄輪を示す側面図である。
【図6】同土寄輪の製造方法を段階的に示す断面図であり、図5のVI−VI線断面図である。
【図7】従来の転輪の断面図である。
【図8】土寄輪の実験に使用した移植機の側面図である。
【図9】同土寄輪の断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 土寄輪
2 円筒状リム
3 被覆部
4 充填物質
5 貫通孔
6 筒体
7 弁
10 栓
11 移植機
31 土寄輪
32 円筒状リム
35 ネジ孔
37 弁
40 ネジ孔マスキング金具
H 圃場
P 野菜苗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質の円筒状リムと、
該円筒状リムにおける内周面に密着するとともに外周面から離間可能に該円筒状リムを被覆する弾性の被覆部と、
前記円筒状リムの外周面と前記被覆部内面との間に形成される空間内に充填され且つ密封された、前記被覆部よりも柔軟性の高い充填物質と
を備えた土寄輪。
【請求項2】
前記円筒状リムは、その内周面及び外周面を連通する、前記充填物質を前記空間内に注入するための貫通孔を備え、
該貫通孔における前記内周面側には、弁又は/及び蓋が取り付けられた請求項1記載の土寄輪。
【請求項3】
硬質の円筒状リムと、
該円筒状リムにおける内周面に密着するとともに外周面から離間可能に該円筒状リムを被覆する弾性の被覆部と、
前記円筒状リムの外周面と前記被覆部内面との間に形成される空間内に充填され且つ密封された、前記被覆部よりも柔軟性の高い充填物質とを備えた土寄輪の製造方法であって、
前記円筒状リムにおける前記内周面側に接着剤を塗布するとともに前記外周面側に離型剤を塗布する段階と、
ディッピング工法により該円筒状リムに被覆部を形成する段階と、
前記空間内に前記充填物質を充填し且つ密封する段階と
を含む土寄輪の製造方法。
【請求項4】
前記円筒状リムは、その内周面及び外周面を連通する、前記充填物質を前記空間内に注入するための貫通孔を備え、
該貫通孔における前記内周面側には、弁又は/及び蓋が取り付けられた土寄輪の製造方法であって、
前記被覆部を形成する段階の前に、前記貫通孔の前記内周面側開口が前記被覆部で被覆されないように被覆防止手段を取り付ける段階を含むとともに、
前記被覆部を形成する段階の後で、前記被覆防止手段を取り外す段階を含む請求項3記載の土寄輪の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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