説明

土木用マット

【課題】水流、潮流の大きい場所でまくれ上がることなく、安定に使用することができ、取扱性が良好である、見かけ密度と透水性のバランスした土木用マットを提供するものである。
【解決手段】パラ型アラミド繊維等の芯糸を、酸化鉄微粒粉等の高比重成分を含む樹脂にて被覆した見かけ密度1.4〜2.0の樹脂被覆繊維糸条を経糸及び/又は緯糸として製織され、CF値が特定の数値範囲にあるように構成された、見かけ密度が1.4〜1.8である透水性の多重織物からなる土木用マットとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
土木資材用として海岸や湖岸の潮流や水流の多い地域での土砂の洗掘防止、護岸、沈床等に用いられる土木用マットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年土木用マットは、土砂の洗掘防止、吸い出し防止、護岸あるいは沈床等に多く用いられてきた。必要とされる特性として、割石(捨石)又はテトラポット等を積み重ねるため耐衝撃性や強度が高く、また過酷な自然環境で用いるため高い耐久性、また海水や水流によってあおられた時に沈みやすいことが求められている。例えば特開平8−326031号公報では、酸化鉄を含む合成樹脂で繊維表面を被覆した、見かけ密度1.2以上の樹脂被覆ヤーンを経糸及び/又は緯糸として織成された見かけ密度が0.9〜1.5の多重織物からなる土木用マットが提案されている。確かにこのもので海水や水流によってあおられた時にマットは高比重のため沈み易く割石やテトラポットを設置したりする作業にある程度効果はあるが、更に高見かけ密度で透水性のバランスされた、それゆえに水流にあおられてもより沈み易いマットの開発がのぞまれていた。また単に樹脂被覆糸条の見かけ密度を上げようとすると繊維に対して過剰に付着させることになり、製織の工程でトラブルが発生したり、樹脂の脱離がおきたりして実際上密度1.2以上の織物は難しい、という問題があった。また厳しい自然環境の下では劣化が激しいという問題もあった。
【特許文献1】特開平8−326031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
水流や潮流の大きい場所での使用に際しても、水流によるまくれ上がりを生じることがない、取り扱い性が良く、高比重で透水性のバランスされた土木用マットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、パラ型アラミド繊維糸条に合成樹脂を被覆した見かけ密度1.4以上の樹脂被覆繊維糸条を経糸及び/又は緯糸として製織された多重織物からなる土木用マットであって、経糸、緯糸、密度の関係が、式:[(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf]×ρ(ここで、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/3.79cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/3.79cm)、ρは多重織物の見かけ密度 以後この式をCF値と略称する)の値として、特定の数値範囲のものとし、且つ多重織物の見かけ密度を1.4〜1.8である土木用マットとする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、見かけ密度が大きく、しかも十分な透水性、耐衝撃性、強力を有する織物からなる土木用マットを簡単に得ることができ、水流、潮流の早い河床、海底に敷設したとき、水流によってまくれ上がることがほとんどなく、また過酷な自然環境に対して耐久性のある土木用マットとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
樹脂被覆繊維糸条は、織物の見かけ密度を大きくするために、その見かけ密度が1.4〜2.0であることが必要であり、見かけ密度が1.4未満では、通常のマット用の織物組織によって水流でまくれ上がりがないような高密度の織物を簡単に得ることは難しい。また2.0を超える場合は樹脂を被覆する工程や製織の工程で樹脂脱落等のトラブルが発生する。
【0007】
見かけ密度が1.4以上である樹脂被覆繊維糸条を得るには、樹脂被覆糸条の芯糸となる繊維としてアラミド繊維、ポリアリレート繊維等の合成繊維あるいは金属繊維等が用いられるが、比重、強度、伸度、耐衝撃性、耐薬品性を考慮するとパラ型アラミド繊維なかでもコポリパラフェニレン 3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミドが好ましい。またそのフイラメントヤーンが好ましく、単繊維デニールが500〜1500d、ヤーンのトータルデニールとして500〜6000dのものが土木用マットとしての物性に適している。
【0008】
被覆樹脂に高比重微粒成分として金属あるいは金属酸化物の微粒粉を配合した水分散液、ゾル状物、溶剤溶液または溶融液の中に糸条を浸漬し、絞液、乾燥あるいは熱処理及び必要によって油剤処理を行う。また、合成樹脂に高比重微粒成分を混合した被覆樹脂を熱溶融し、ノズルから吐出しながら芯糸外面に被覆させ、冷却後樹脂被覆ヤーンとすることもできる。該樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ポリアクリル酸エステル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン等が使用できる。
【0009】
高比重微粒粉としては、比重、環境への影響、加工性等を考慮すると、酸化チタン、硫酸バリウム、クレー、酸化鉄等が単独または混合して使用でき、中でも酸化鉄がよい。該高比重微粒粉/合成樹脂の比は、比重、被覆層の強度、芯との接着性、加工性等から3/10〜3/1(重量比)とすることが好ましい。
【0010】
芯糸/被覆樹脂の比は、樹脂被覆ヤーンの比重、被覆層の強度、芯糸と樹脂との接着性、加工性、樹脂被覆ヤーンによる製織性等から重量比で10/1〜1/1.5であることが望ましい。芯糸/被覆樹脂の比が10/1以下であれば、樹脂被覆ヤーンの密度が1.4以上の高見かけ密度繊維糸条とするのが難しく、1/1.5より大であると樹脂が脱離し易くまた工程上問題となる。この範囲にあることによって安定して多重織物が製造できる。
【0011】
本発明の多重織物は、前記樹脂被覆糸条によって製織されるが、その組織は、汎用の平織、綾織、2/2斜子織等でもよいが、土木用マットとしてのフイルター性能、耐衝撃性、強力等のバランスを考慮する必要があり、この点で、3重織、場合によっては蜂巣織組織を採用することが有効である。樹脂被覆繊維糸条から成る多重織物に張力をかけて処理し、織縮みを少なくしたり、製織後軽く平押しすることにより、織物厚さを減少させ見かけ密度を上げることもできる。
【0012】
また、土木用マットとしての透水性を考慮すると、CF値が2.5×10〜3.5×10の範囲であることが必要で、2.5×10未満であれば透水性は良いが低比重のため沈みが悪くなる。また3.5×10を超える場合は透水性が悪くなり、高比重であるが沈みは悪くなる。
【0013】
また多重織物の見かけ密度は1.4〜1.8の範囲とすることが必要で、1.4未満では、河床、海底に敷設されたとき、水流等によるまくれ上がりを十分に防止できず、逆に1.8超えるでは土木用マットとして重過ぎで取り扱いが難しい。本発明のように、多重織物が、見かけ密度と式の構成を両方満たすとき透水性と沈み込み性がバランスされ良好な作業性が得られる土木用マットとすることができる。
【実施例】
【0014】
以下実施例で詳細に説明するが、実施例中の物性及び特性の測定法は次の通りである。
樹脂被覆ヤーンの見かけ密度:樹脂被覆ヤーンの重量(g)/見かけ体積(cm
織物の見かけ密度:織物単位面積当たりの重量(g)/織物の単位面積当たりの見かけ体積(cm
織物厚さ:JISL−1096に準拠して測定した。
繊維の繊度:JIS L 1013に準拠して測定した。
CF値:[(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf]×ρ(ここで、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/3.79cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/3.79cm)、ρは多重織物の見かけ密度)
【0015】
[実施例1]
アラミドマルチフイラメントヤーン(1500d/1000f)(帝人テクノプロダクツ製 テクノーラ)の実質無撚糸を芯糸とし、酸化鉄粉末(比重5.2)/軟質ポリ塩化ビニルを100/100としたペースト中にデイップした後、0.90mm径のノズルを通して余分のペーストを除き、120℃で1分間処理して予備ゲル化、180℃で2分間処理して本ゲル化して冷却し、巻き取って樹脂被覆ヤーンとした。該樹脂被覆ヤーンの見かけ密度は1.74であった。このヤーンを用いて、糸密度45本/in×42本/inの3重織物を製織した。該織物の厚さは3.1mm、目付は3720g/m、見かけ密度は1.43、CF値は2.85×10であった。この織物を潮流4ノットの海底(水深10m)に敷設したが、潮流によるまくれ上がりはおこらなかった。
【0016】
[実施例2]
合成繊維糸条として、アラミドマルチフイラメントヤーン(1500d/1000f)(帝人テクノプロダクツ製 テクノーラ)に80t/mの撚をかけて芯糸とした以外は実施例1と同様に行った。得られた樹脂被覆ヤーンの見かけ密度は1.62であった。このヤーンを用いて、糸密度45本/in×42本/inの3重織物を製織した。該織物の厚さは3.1mm、目付は3450g/m、見かけ密度は1.58、CF値は2.94×10であった。この織物を潮流3ノットの海底(水深5m)に敷設したが、潮流によるまくれ上がりは見られなかった。
【0017】
[実施例3]
アラミドマルチフイラメントヤーン(1500d/1000f)(帝人テクノプロダクツ製 テクノーラ)に90t/mの撚をかけて芯糸とし、酸化鉄粉末(比重5.2)/軟質ポリ塩化ビニルを40/100とした以外は実施例1と同様に行った。得られた樹脂被覆ヤーンの見かけ密度は1.76であった。このヤーンを用いて、糸密度42本/in×39本/inの3重織物を製織した。該織物の厚さは3.1mm、目付は2640g/m、見かけ密度は1.55、CF値は2.65×10であった。この織物を潮流2ノットの海底(水深5m)に敷設したが、潮流によるまくれ上がりはおこらなかった。
【0018】
[比較例1]
アラミドマルチフイラメントヤーン(1670d/1000f)に90t/mの撚をかけて芯糸とし、軟質ポリ塩化ビニルペースト中にデイップした後、0.90mm径のノズルを通して余分のペーストを除き、120℃で1分間処理して予備ゲル化、180℃で2分間処理して本ゲル化して冷却し、巻き取って樹脂被覆ヤーンとした。該樹脂被覆ヤーンの見かけ密度は1.25であった。このヤーンを用いて、糸密度42本/in×39本/inの3重織物を製織した。該織物の厚さは2.8mm、目付は2140g/m2であり、見かけ密度は1.2、CF値は2.12×10であり、この織物を潮流2ノットの海底(水深5m)に敷設したが、潮流によるまくれ上がりが見られた。
【0019】
[比較例2]
アラミドマルチフイラメントヤーン(1670d/1000f)(帝人テクノプロダクツ製 テクノーラ)に80t/mの撚をかけて芯糸とし、軟質ポリ塩化ビニルペースト中にデイップした後、2.0mm径のノズルを通して余分のペーストを除き、120℃で1分間処理して予備ゲル化、180℃で2分間処理して本ゲル化して冷却し、巻き取って樹脂被覆ヤーンとした。該樹脂被覆ヤーンの見かけ密度は2.25であった。このヤーンを用いて、糸密度65本/in×49本/inの3重織物を製織した。該織物の厚さは5.3mm、目付は3340g/m2であり、見かけ密度は2.0、CF値は4.12×10であり、この織物を潮流2ノットの海底(水深5m)に敷設したが、重く取り扱い性が悪い上に透水性も悪く、潮流によるまくれ上がりが見られた。
【産業上の利用可能性】
【0020】
土木用マットに関するものであり、特に水流、潮流の大きい場所で安定的に使用することができる高密度土木用マットを提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維糸条に樹脂を被覆した樹脂被覆繊維糸条を経糸及び/又は緯糸として織成された多重織物からなる土木用マットにおいて、a)該樹脂被覆繊維糸条の見かけ密度が1.4〜2.0であり、b)経糸、緯糸、織物密度の関係が、式:[(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf]×ρ(ここで、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/3.79cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/3.79cm)、ρは多重織物の見かけ密度)の値として、2.5×10〜3.5×10であり、c)該多重織物の見かけ密度が1.4〜1.8であることを特徴とする土木用マット。
【請求項2】
該合成繊維がパラ型アラミド繊維である、請求項1記載の土木用マット。
【請求項3】
パラ型アラミド繊維がコポリパラフェニレン 3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミドである請求項1、2記載の土木用マット。
【請求項4】
該樹脂被覆繊維糸条が、酸化鉄を含む合成樹脂を被覆したものであって、繊維糸条に対する被覆樹脂の比が、繊維糸条:被覆樹脂=10/1〜10/15である繊維糸条/樹脂が重量請求項1、2、3記載の土木用マット。