説明

土着種子および土着微生物を利用した植生復元工法

【課題】植生復元予定地から採取した土着種子および土壌微生物を含む表土を利用し、目的の種子の保護、育成、発芽促進、微生物の育成、増殖を目的とする保護シートを併用した植生復元を図る緑化工法。
【解決手段】植生復元予定地の落葉層、腐葉層、腐植層、および表層から構成され埋土種子と多様な土壌微生物を含む土壌を約10cm掘削し、植生復元予定地に散布または吹付け、目的の種子の保護・育成・発芽促進、微生物の育成・増殖等を目的とする「多機能フィルターSP-45」で被覆し、必要に応じて採取した表土に補助剤を混和する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土着種子および土着微生物を利用した植生復元工法生に関する。より詳細には、本発明は、植生復元予定地から採取した土着種子および土壌微生物を含む表土を利用し、目的の種子の保護、育成、発芽促進、微生物の育成、増殖を目的とする保護シートを併用し、植生復元を図る植生復元工法生に関する。
【0002】
本発明で使用する用語「植生復元」を、高中木、低木、草本植物が有機的に結合した多様性に富む立体的な植物群落で、主として、防災機能、環境改善機能、自然環境との調和性が高い群落を回復することで、荒廃地に全く新しい人工の系を造成することではなく、破壊された自然の系の回復を促すことと広義に定義する。
【背景技術】
【0003】
環境保全の基本理念を示した「環境基本法」(平成5年11月19日法律第91号)を土台として平成9年に法案化された「環境影響評価法」(平成9年6月月13日法律第81号)は、概略、国、地方公共団体、事業者及び国民に、高速道路その他の道路、ダム及び堰、鉄道、軌道、飛行場、発電所、一般及び産業破棄物最終処分場、水面の埋立て及び干拓、土地区画整理、新住宅市街地開発、工業団地造成、新都市基盤整備、流通業務団地造成、大規模林道等事業の実施前に、環境基本法に基づき、環境の自然的構成要素の良好な状態の保持、生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全、人と自然との豊かな触れ合い、及び環境への負荷の4種の環境要素の区分ごとに調査・予測・評価の環境影響評価を行うことを義務づけている。
【0004】
なお、本発明は、前記環境影響評価法が規定する事業以外に、乾燥地、砂漠や海岸砂丘、荒廃地、風障地、或いは崩壊地等の環境の保全、景観保全、生態系保全、或いは造園や環境整備などの修景にも適用される。
【0005】
これに伴い、植樹・緑化事業も盛んになってきている。従来から、植付け造林、直ざし・直播き、天然下種更新、萌芽更新等伝統的な植樹・緑化工法が主流であるが、前記事業を行うには、その事業現場の自然環境に適応した多様な植生・緑化工法が求められている。
【0006】
現在、植生復元工法は、現場の生態系に適応した自然植生の復元が主流となりつつある。特に、外来種による自然破壊、単一植生群落の形成は在来植生の遷移の妨害原因となっている。
【0007】
この点を説明すると、従来の植生復元は、使用植物が樹木主体であり、草本類はなおざりにされる傾向があった。然しながら、ホワイトクローバ、ミヤコグサ、メドハギ等マメ科草本は土壌改善用として、ススキ、チガヤ、ヨモギ、イタドリ、メシバ等は侵食防止用として必要である。従って、本来の自然環境は、アカマツ、クロマツ、カラマツ等主林木と、ハギ類、ウツギ類等混植木と、草本類が有機的に結合して多様性に富む立体的な植物群落である。
【0008】
ところで、主として堆積した落葉の中には、そこで生存している種子があり、これを「埋土種子」という。森林土壌中に埋没した環境は、発芽の刺激要因となる光を欠き、温度・湿度の変化が少ないため、多くの種子が休眠状態にあり、地表部の攪乱がもたらす温度の変化や太陽光の到達を受けるまで貯蔵された状態にある。現場の生態系に適応した自然植生の復元という観点から、近年、このような埋土種子を利用する工法がいくつか提案され、一部実用化されている。しかしながら、従来の埋土種子を利用する工法は、いずれも現地の種子に着目した工法である。
【0009】
ここで、森林土壌に関して説明する。森林土壌は、土壌の生成、土壌の断面、理化学的特性、分類等多方面から研究されているが、土壌断面層位を説明する。土壌の層位は、最上層をA0層(有機物層)とし、これは、さらに次のようにL、F、Hに分けられる。L層は、「落葉層」で、新鮮な落葉、落枝が堆積した層である。F層は、「腐葉層」で、落葉などは腐朽・分解しているが、植物組織はまだ肉眼で識別できる層である。H層は、「腐植層」で、落葉の分解がさらに進行し、本来の組織が識別できなくなった層、黒褐色である。次いで、A0層の下層のA層(表層)で、腐植を比較的多く含み、鉱物質とよく混じり、黒褐色ないし暗褐色を呈する。次いで、B層(下層)で、A層の下に位置し、腐食の含有量は比較的少なく、褐色ないし黄褐色を呈する。次いで、C層(基層)で、基岩など鉱物質が風化しただけの母材層で、土壌作用をほとんど受けていない層である。また、A層上部にある層を、「M層」と呼称し、菌糸網層で、外生菌根菌糸がよく発達し、菌糸束の遺体が多量にたまって、灰白色を呈する層である。
【0010】
一般的に表土を利用する場面は中山間地から森林部分が対象となる。いわゆる、現地在来の広葉樹林帯の形成が最終目的になる。このような植生帯形成には、その土地が保有する「地力」を最大限に活用することが現地適応型の植生の復元には重要である。
【0011】
現地土壌の地力とは、前述したH層、すなわち、腐植層で、落葉の分解がさらに進行し、本来の組織が識別できなくなった層に生存している土壌微生物に与っている。
【0012】
ここで、本発明で使用する用語「土壌微生物」を定義し、説明する。微生物の分類法は、病原微生物学、発酵微生物学、土壌微生物学、海洋微生物学、森林微生物学、環境微生物学等学問分野において異なっているが、本発明で使用する用語「土壌微生物」は、(イ)根粒細菌、菌根菌等菌類、酵素類等顕微鏡によってのみ観察が可能な本来の微生物、(ロ)原生動物、線虫、ダニ類、トビムシ等小型土壌動物、(ハ)ヤスデ、ササラダニ等節足動物などの中型土壌動物(ニ)ミミズ、シロアリ類など大型土壌動物の全てを包含するものとする。従って、本発明で使用する用語「土壌微生物」は、従来のように根粒菌、菌根菌等菌類、酵素類等顕微鏡によってのみ観察が可能な微生物のみに限定解釈されるべきではなく、土壌微生物類と小、中及び大型土壌動物群の両者に拡大解釈される。
【0013】
(イ)の土壌微生物のうち、根粒細菌は宿主植物としてマメ科植物の根に感染して根粒を形成し、空気中の窒素を固定する作用がある。また、高等植物の根の表面あるいは内部に、ある種の菌類が生息し、宿主植物との間に共生(symbiosis)関係が形成されているとき、菌と植物根から成る共生系を菌根(mycorrhiza)と呼び、共生している菌類を菌根菌(mycorrhiza fungi)と呼ぶ。一般に、菌根の形成によって、宿主植物は菌根菌による養分吸収が増大して成長が促進される。特に、土壌中に低濃度で存在し移動性に乏しいリンの吸収に寄与し、窒素についてはアンモニウムイオンとして吸収可能なことから酸性土壌で生育する植物には菌根菌は必須である。
【0014】
従って、アカマツ、クロマツ、カラマツ等主林木と、ハギ類、ウツギ類等混植木と、草本類が有機的に結合して多様性に富む立体的な植物群落である本来の自然環境を復元するには、草本類と共生する細菌と、樹木に共生する菌類と併せて検討することが重要である。なお、本発明では、便宜上、土壌共生細菌と菌類を併せて土壌共生菌と呼ぶことがある。
【0015】
(ロ)の原生動物、線虫、ダニ類、トビムシ等小型土壌動物は、微生物を選択的に捕食して体内で微生物を消化する。(ハ)ヤスデ、ササラダニ等節足動物などの中型土壌動物などは、落葉を食し、糞として有機物を排出し、排出された微生物が利用する。(ニ)のミミズ、シロアリ類など大型土壌動物は、土壌を食し、土壌構造を変え、土壌中に生存する微生物の生息環境に影響を与える作用をしている。このように、土壌微生物の活動により腐植層が形成され、それが土壌と適度に混合され、肥沃なり、いわゆる地力に富んだ森林土壌を形成する。
【0016】
従って、前述した埋土種子を利用する植生復元法工法の場合も、単に、堆積した落葉の中に生存している種子に着目し、それを活用するのではなく、落葉層の下層に位置する腐葉層、さらに腐葉層の下層に位置する腐植層に生存し森林土壌の地力形成に寄与する土壌微生物も合わせて利用しない限り、理想的な植生復元は不可能である。
【0017】
即ち、現地在来の植生復元のためには、植生復元予定地の土着の種子と、土着の土壌微生物を、植生復元予定地に安定的に定着する植生復元工法生が求められている。
【0018】
特許文献1は、現地植生の土着種子を含む表土を、緑化すべき地盤に客土或いは吹付ける植生復元工法生を開示しているが、土壌微生物の積極的な活用に関しては記載も教示もない。
【0019】
特許文献2は、土壌微生物の1種である菌入り種肥土を記載しているが、使用植物は主としてマツであり、菌類はコツブタケ、ショウロ、ホンショウロ、或いはチチブタケであり、本発明で定義した土壌微生物の積極的活用を記載も教示もない。
【0020】
特許文献3は、工事現場またはその周辺の表土に含まれる微生物を培養増殖して微生物富化材とし、これに現地発生土を混合して緑化基盤とする発明を記載している。然しながら、この発明は、表土の採取地から、最低必要量の表土を効率よく採取する方法に関するもので、土壌微生物と、植物との関係に関しては一切記載も教示もしていない。
【特許文献1】特開平6−237606号公報
【特許文献2】特開平9−275784号公報
【特許文献3】特開2004−65148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従って、発明が解決しようとする主たる課題は、植生復元計画地の土着種子と土壌微生物の両者を、植生復元計画地に安定的に定着する方法を提供することである。
【0022】
発明が解決しようとする別の課題は、植生復元計画地の土着種子と土壌微生物の両者を含む表土を所定の保護シートに装着した植生復元用および法面保護資材を提供することである。
【0023】
発明が解決しようとするさらに別の課題は、植生復元計画地の土着種子と土壌微生物の両者を含む表土に、必要に応じて補助剤を混和し、所定の保護シートに装着した植生復元用および法面保護資材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
課題を解決するための手段を策定するため、植生復元計画地の土着種子、土壌微生物、およびその両者を植生復元計画地に安定的に定着する方法を検討した。以下、各論を説明する。
【0025】
植生復元の目標は、高中木、低木、草本植物が有機的に結合した多様性に富む立体的な植物群落で、主として、防災機能、環境改善機能、自然環境との調和性が高い群落を回復することで、荒廃地に全く新しい人工の系を造成することではなく、破壊された自然の系の回復を促すことである。自然環境には復元力があり、その復元力が発揮されやすいように補助、補給することが自然環境と調和した生態系を回復する上で重要である。現在、このような考えに基づいて、植生復元工事は、山腹基礎工事(緑化基礎工事)、植生工事、および植生管理工事の大きく三大別された工事で行われている。
【0026】
植生復元に必須の資材は、植生復元予定地の土着種子および土着土壌微生物である。種子は、埋土種子が生存している落葉層だけではなく、落葉層の下位層の腐葉層、腐葉層の下位層の腐植層、および腐植層の下位層の表層から10cm程度の深さで掘り下げて採取することが好ましい。このことにより、落葉層に埋土し休眠状態で生存している種子だけでなく、植物組織が肉眼で識別できる程度に腐朽・分解した落葉・落枝、落葉の分解がさらに進行し、本来の組織が識別できなくなった腐植層、及び腐植を比較的多く含み、鉱物質とよく混じり、黒褐色ないし暗褐色を呈する土壌、並びに各層に生存する各種土壌微生物が混在した植生資材として採取することができる。
【0027】
上述した植生復元予定地の土着種子および土壌微生物を含んだ植生資材は、植生復元予定地に、所定の方法、たとえば、散布、吹き付け等により適用される。
【0028】
ところで、植生復元工事の初期工事として、山腹基礎工事(緑化基礎工事)が重要である。この目的は、山腹斜面の安定化、生育基礎の改善と造成、および生育環境の緩和である。さらに、植生復元予定地は、多雨でしかも、集中豪雨や、南西斜面や長い林道斜面では風による乾燥により植生の衰退が予想される等厳しい環境下にある。
【0029】
従って、山腹基礎工事(緑化基礎工事)においては、種子及び土壌微生物がこれらの環境ストレスに耐え得るよう、雨滴衝撃、土壌侵食がなく、種子・土壌微生物の微動が回避できること。保水力の高い保護シートで養生して、枯死を回避することが重要となる。
【0030】
ここで保護シートに関して説明する。種子および土壌微生物は極力、植生復元予定地に定着させることが望ましい。そこで雨滴衝撃や流水による地表面の土砂の微動を避けることが必要となる。そのために、全面を軟らかい綿状のシート状のもので覆い、そのシートに侵食防止、保水力、植生機能を保有させることになる。
【0031】
即ち、植生復元工事に使用される保護シートの第1の要件は、シート内部を面方向に水が層流として流れる導水路が形成され、それによって土壌の表層の侵食を防止できること。第2の要件は、シートが水や土と接触する比表面積が大きくなり、土壌面に対する追随性が良好で、シートの下面が、土壌の粒子によく絡まり、シート−土壌の一体・密着度が大きいことである。第3の要件は、シートの下方に設けてある緑化用培地組成物体に植生に必要な水分や酸素の補給ができ、有効微生物の生育、その他の生育条件を維持できることである。第4の要件は、降雨水等の水との接触、或いは経時変化によるシートの弾性の低下に起因する「へたり」が防止でき、長期間にわたって嵩高を維持でき、保水性、保湿性に富み、植物の根張りを増進できること。第5の要件としては、土壌面に布設した際、降雨水等の流下水や土壌飽和水が、土壌表面を流水するのを防止し、種子や培地が流出するのを防止でき、十分な植生環境を形成できることである。第6の要件は、シート内に形成される導水路内の繊維と水との境膜剥離抵抗が小さく、水が導水路内を層流状態でスムーズに流れることである。
【0032】
従って、本発明で使用されるシートは、このような要件を同時に満たす形状、構造、性能のシートならば特段に限定されない。即ち、撥水性を有する細繊維をランダムに交絡させて形成させた、「わた状」で、厚さが5〜40mm程度、見掛け充填密度が2〜4%程度で、シート内に面方向の導水路が形成されているシートならば好ましい。
【0033】
例えば、発明者らが開発し、実用化してきたファイバーウェブシート状体であって繊維間同士が十分な空間を保持して絡み合い、且つ、その繊維が低密度ランダムウェブで柔軟性も保有した構成よりなる多機能フィルターである。(特許第2967464号、特許第2893050号)。
【0034】
本発明では、現地の植生環境条件に応じて、種子の休眠打破、早期の発芽・定着、環境保護(耐乾、耐湿、他)のために必要に応じ、補助剤を利用することが好ましい。
【0035】
本発明で使用に適した補助剤としては、例えば、種子の休眠打破のためのオーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、アブシジン酸、エテホン、ブラシノステロイド等植物成長ホルモン剤、生理活性物質がある。植物成長ホルモンは、植物の生育を促進する植物生育促進根圏細菌(Plant Growth-Promoting Rhizobacteria:PGPR)、および植物生育促進菌類(Plant Growth-Promoting fungi:PGPF)が産生するものである。有用な根圏微生物であるPGPRやPGPFは植物の生育を促進するだけではなく、各種の土壌病害を抑制したり、或いは地上部病害も抑制することが報告されている。
【0036】
植物生育促進根圏細菌(Plant Growth-Promoting Rhizobacteria:PGPR)を例示すると、Agrobacterium paspal, Azotobacter putida, bacillus subtilis, Pseudomonas fluoresense,Pseudomonas putida, Serratia marcescens等である。
【0037】
植物生育促進菌類(Plant Growth-Promoting fungi:PGPF)を例示すると、Phoma sp., 2核Rhizoctonia, steril dark fungus, steril red fungus, Trichoderma harzianum, Trichoderma koningi等である。
【0038】
本発明で使用に適した別の補助剤としては、土壌微生物の定着・増殖のための無菌の多孔質資材がある。多孔質資材としては、ゼオライト等アルミナ珪酸塩、バーミキュライト、カオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイト、パイロフィライト、セリサイト、或いはタルク等粘土焼成体、パーライト等ガラス質火山岩焼成体、炭、珪藻土焼成体、或いは各種セラミックス多孔体が例示される。
【0039】
本発明で使用に適した別の補助剤としては、増殖のための糖蜜、米糠など栄養剤、また、酸度矯正のための酸・アルカリ矯正剤、特殊微生物系資材等が挙げられる。
【0040】
特殊微生物系資材としては、平成9年度政令指定の土壌改良資材の一つであるVA(versicle aruscule)菌根菌資材、或いは各種拮抗性細菌・放線菌、たとえば、抗生物質を産成するStreptomyces属菌、或いはTMV弱毒株(L11A,L11A237)、CGMMV弱毒株(Sh33b)、CTV弱毒株、弱毒株(モザイク系)、ZYMV弱毒株(ZY95)、CMV弱毒株(CMV-P)、SMV弱毒株,Trichoderma lignoru(R)、Agrobacterium rodiobacter st.84、非病原性Fusarium oxysporum(R)、Pseudomonas gladioli、非病原性Erwinia carotovora、Heteroconium chaetospira、Pseudomonas fluorescens、Bacillus subtilis、Kyu-W63、Trolomyses flavus,Pseudomonas glodioli等の拮抗微生物の中から土着種子の種類、植生復元の態様等を勘案して適宜選択して使用することができる。
【0041】
本発明で使用に適したさらに別の補助剤としては、植生復元計画地の土壌の性質によっては、土壌改良剤(soil conditioner)、土壌改質資材(soil amendments)、肥料、保湿剤等を配合してもよい。
【0042】
本発明で所望により使用される土壌改良剤としては、土壌を凝集或いは団粒化して土壌物理性を改変することを目的として土壌に施用される有機高分子化合物で、非イオン型高分子としてポリビニルアルコール類、陰イオン型高分子のポリアクリル酸、陽イオン型高分子としてポリアクリルアミド類が例示される。
【0043】
本発明で所望により使用される土壌改質資材としては、土壌の膨軟化、保水性の改善、保肥力の改善、透水性の改善、土壌のリン酸供給能の改善、土壌の団粒形成の促進に使用するもので、平成9年に政令指定された泥炭、バーク堆肥、腐植酸質資材、木炭、珪藻土焼成粒、ゼオライト、バーミキュライト、パーライト、ベントナイト、VA菌根菌資材、ポリエチレンイミン系資材、ポリビニルアルコール系資材がある。
【0044】
従って、上記課題は以下の各項に述べる手段によって解決される。
1.植生復元予定地の土着種子および土壌微生物を利用した植生復元工法にあって、
(1)植生復元予定地の土着種子および土壌微生物を含む表土の一部を採取し植生復元予定地に散布または吹付けること、および
(2)植生復元予定地に散布または吹付けた表土を、目的の種子の保護・育成・発芽促進、微生物の育成・増殖等を目的とする保護シートで被覆すること、を含む植生復元工法。
【0045】
2.保護シートが、撥水性を有する細繊維をランダムに交絡させて形成させた、厚さが5〜40mm、見掛け充填密度が2〜4%で、シート内に面方向の導水路が形成されていること。
【0046】
3.1または2項において、採取した表土に補助剤を混和すること。
【0047】
4.3項において、補助剤が、植物成長ホルモン剤、生理活性物質、無菌多孔質資材、栄養剤、酸・アルカリ矯正剤、VA(versicle aruscule)菌根菌資材、各種拮抗性細菌・放線菌、土壌改良剤、および土壌改質資材から成る群から選択された少なくとも一種であること。
【0048】
5.植生復元予定地の土着種子および土壌微生物を利用した植生復元工法であって、
(1)植生復元予定地の土着種子および土壌微生物を含む表土の一部を採取し、目的の種子の保護・育成・発芽促進、および微生物の育成・増殖等を目的とする保護シートに展着・固定して表土−展着・固定化シートを製造すること、および
(2)前記表土−展着・固定化シートを植生復元予定敷設すること、を含む植生復元工法。
【0049】
6.5項において、保護シートが、撥水性を有する細繊維をランダムに交絡させて形成させた、厚さが5〜40mm、見掛け充填密度が2〜4%で、シート内に面方向の導水路が形成されていること。
【0050】
7.5または6項において、採取した表土に補助剤を混和すること。
【0051】
8.7項において、補助剤が、植物成長ホルモン剤、生理活性物質、無菌多孔質資材、栄養剤、酸・アルカリ矯正剤、VA(versicle aruscule)菌根菌資材、各種拮抗性細菌・放線菌、土壌改良剤、および土壌改質資材から成る群から選択された少なくとも一種であること。
【発明の効果】
【0052】
請求項1に記載した発明により、下記に例示する効果を奏功する。
1.主として埋土種子に着眼する従来の埋土種子工法と異なり、埋土種子が主として生存している落葉層の下位層の腐葉層、腐葉層の下位層の腐植層、および腐植層の下位層の表層も採取するので、埋土種子だけではなく、落葉・落枝起源の有機物および各層に生存する各種土壌微生物が混在した土壌を植生資材として利用するので、植生復元予定地と全く同じ植生環境が形成される。
【0053】
2.各種土壌微生物のうち、菌根菌等菌類により、宿主植物は、養分吸収が増大して成長が促進され、特に土壌中に低濃度で存在し移動性の乏しいリンの吸収が可能となり、窒素についてはアンモニウムイオンとして吸収が可能となる。
【0054】
3.土壌微生物のうち、原生動物、線虫、ダニ類、トビムシ等小型土壌動物は微生物を選択的に捕食して体内で微生物を消化し、ヤスデ、ササラダニ等節足動物などの中型土壌動物は落葉を食し、糞として有機物を排出し、排出された微生物が利用し、ミミズ、シロアリ類など大型土壌動物は土壌を食し、土壌構造を変え、土壌中に生存する微生物の生息環境に影響を与える作用をし、このように、土壌微生物の活動により腐植層が形成され、それが土壌と適度に混合され、肥沃になり、いわゆる地力に富んだ森林土壌を形成する。
【0055】
4.植生復元予定地に散布または吹付けた表土を保護シートで被覆するので、たとえ植生復元地が法面でも、種子および土壌微生物が、植生復元予定地に定着し、雨滴衝撃や流水による地表面の土砂の微動を避けることができる。
【0056】
請求項2に記載した発明により、下記に例示する効果を奏功する。
1.シートの面方向に水が層流として流れる導水路が形成され、それによって土壌の表層の侵食を防止できる。
2.シートが水や土と接触する比表面積が大きくなり、土壌面に対する追随性が良好で、シートの下面が、土壌の粒子によく絡まり、シート−土壌の一体・密着度が大きくなる。
3.シートの下方の土着種子および土壌微生物の育成、増殖に必要な水分や酸素の補給ができ、有効微生物の生育、その他の生育条件を維持できる。
4.降雨水等の水との接触、或いは経時変化によるシートの弾性の低下に起因する「へたり」が防止でき、長期間にわたって嵩高を維持でき、保水性、保湿性に富み、植物の根張りを増進できる。
5.土壌面に布設した際、降雨水等の流下水や土壌飽和水が、土壌表面を流水するのを防止し、種子や培地が流出するのを防止でき、十分な植生環境を形成できる。
6.シート内に形成される導水路内の繊維と水との境膜剥離抵抗が小さく、水が導水路内を層流状態でスムーズに流れることである。
【0057】
請求項3に記載した発明により、種子の休眠打破、早期の発芽・定着、環境保護(耐乾、耐湿、他)が補助、促進される。
【0058】
請求項4に記載した発明により、植物成長ホルモン剤、生理活性物質、無菌多孔質資材、栄養剤、酸・アルカリ矯正剤、VA(versicle aruscule)菌根菌資材、各種拮抗性細菌・放線菌、土壌改良剤、および土壌改質資材という広範な種類から植生復元予定地の植生環境、土壌環境、森林栄養状態等に適応した補助剤を選択することできる。
【0059】
請求項5に記載した発明により、請求項1で得る効果に加えて、下記に例示する効果を奏功する。
1.植生復元予定地の土着種子および土壌微生物を含む表土の一部を採取し、目的の種子の保護・育成・発芽促進、および微生物の育成・増殖等を目的とする保護シートに展着・固定して表土−展着・固定化シートとしてあるので、予め、植生復元箇所の数に合わせて製造し、植生復元箇所に予め搬入しておけば、急峻な山腹における緑化基礎工事(のり切り工事、土留め工事、排水工事)が完了後、散布または吹付け等植生工事を必要とせずに、基盤が整理された植生復元箇所に敷設できるので、工程数が省略され、施工コストの低減化に資する。
2.植生復元予定地の土着種子および土壌微生物を含む表土が保護シートに展着・固定されていて、全体として移動が可能なので、植生復元予定地内での移動等諸条件さえ合えば、それ自体で商取引の対象になり得る。
3.植生復元予定地の土着種子および土壌微生物を含む表土が保護シートに展着・固定されているので、温度、湿度、栄養、時間等保管条件が適正に維持されれば、あるていどの時間貯蔵・保管ができ、緑化工事技術の体系、即ち、山腹基礎工事=緑化基礎工事(のり切り工事、土留め工事、排水工事)、植生工事および植生管理工事を、ある程度ゆとりをもって計画することができる。
【0060】
請求項6に記載した発明により、請求項2で得る効果と同じ効果を奏功する。
【0061】
請求項7に記載した発明により、請求項3で得る効果と同じ効果を奏功する。
【0062】
請求項8に記載した発明により、請求項4で得る効果と同じ効果を奏功する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に示す実施例によってその範囲を制約されるものではなく、また本発明の主旨を逸脱しない範囲内において変形実施できるものも含む。
【実施例1】
【0064】
山口県内で採取した表土を20mmの篩を通し、試験区法面に吹付け保護シートとして多機能フィルターSP-45を敷設した。対象区はSP-45を敷設せず表土を吹付けのみとし、施工1年、3年、10年後の状況を比較した。合せて土壌微生物量についても比較した。
尚、多機能フィルターSP-45はポリエステル短繊維で構成される目付45g/m2のランダムウェブに補強ネットが装着されたウェブシートである。
【0065】
法面の状況を表1に示す。
【表1】

【0066】
微生物量を表2に示す。
【表2】

【実施例2】
【0067】
実施例1に示した表土を多機能フィルター(目付45g/m2)に装填し、試験区法面に敷設した。対象区は市販の植生シートを敷設し、施工1年、5年、10年後の状況を比較した。合せて土壌微生物量についても比較した。
【0068】
法面の状況を表3に示す。
【表3】

【0069】
微生物量の状況を表4に示す。
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、表土の採取が掘削深さ10cm程度であり、従来の掘削に比べて大幅に省略できると共に、種子と土壌微生物を活用し、現地が保有する地力を最大限に活用した、現地適応の植生の復元を達成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植生復元予定地の土着種子および土壌微生物を利用した植生復元工法であって、
(1)植生復元予定地の土着種子および土壌微生物を含む表土の一部を採取し植生復元予定地に散布または吹付けること、および
(2)植生復元予定地に散布または吹付けた表土を、目的の種子の保護・育成・発芽促進、微生物の育成・増殖等を目的とする保護シートで被覆すること、を含む植生復元工法。
【請求項2】
保護シートが、撥水性を有する細繊維をランダムに交絡させて形成させた、厚さが5〜40mm、見掛け充填密度が2〜4%で、シート内に面方向の導水路が形成されていることを特徴とする請求項1に記載した植生復元工法。
【請求項3】
採取した表土に補助剤を混和することを特徴とする請求項1または2項に記載した植生復元工法。
【請求項4】
補助剤が、植物成長ホルモン剤、生理活性物質、無菌多孔質資材、栄養剤、酸・アルカリ矯正剤、VA(versicle aruscule)菌根菌資材、各種拮抗性細菌・放線菌、土壌改良剤、および土壌改質資材から成る群から選択された少なくとも一種であることを特徴とする請求項3項に記載した植生復元工法。
【請求項5】
植生復元予定地の土着種子および土壌微生物を利用した植生復元工法であって、
(1)植生復元予定地の土着種子および土壌微生物を含む表土の一部を採取し、目的の種子の保護・育成・発芽促進、および微生物の育成・増殖等を目的とする保護シートに展着・固定して表土−展着・固定化シートを製造すること、および
(2)前記表土−展着・固定化シートを植生復元予定敷設すること、を含む植生復元工法。
【請求項6】
保護シートが、撥水性を有する細繊維をランダムに交絡させて形成させた、厚さが5〜40mm、見掛け充填密度が2〜4%で、シート内に面方向の導水路が形成されていることを特徴とする請求項5に記載した植生復元工法。
【請求項7】
採取した表土に補助剤を混和することを特徴とする請求項5または6項に記載した植生復元工法。
【請求項8】
補助剤が、植物成長ホルモン剤、生理活性物質、無菌多孔質資材、栄養剤、酸・アルカリ矯正剤、VA(versicle aruscule)菌根菌資材、各種拮抗性細菌・放線菌、土壌改良剤、および土壌改質資材から成る群から選択された少なくとも一種であることを特徴とする請求項7に記載した植生復元工法。