説明

土砂移動解析システム

【課題】 低コストで正確な土砂移動の観察が可能となる土砂移動解析システムを提供する。
【解決手段】 土砂移動解析の対象となる河川10の上流地域11等に、識別情報発生装置を取り付けた観測対象石12を配置し、その位置情報を識別情報毎に位置情報取得装置14により取得する。取得した位置情報は、識別情報とともにサーバ16に渡され、記憶される。次に、土石流等が発生したときに、観測対象石12がアンテナ部20の下を通過すると、受信装置18がアンテナ部20を介して観測対象石12に取り付けられたICタグと交信し、識別情報を受信する。受信した識別情報は、識別情報の受信時刻とともにサーバ16に渡され、流出前にどの位置にあった観測対象石12がアンテナ部20の位置を、いつ通過したのかを判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土石流等の土砂の移動を解析するための土砂移動解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海岸浸食や河川下流部の河床低下、橋脚の洗堀などが河川管理上の問題として捉えられている。また、山地部では、山腹斜面の崩壊、扇状地での河道浸食、ダム湖における堆砂問題などが顕在化している。
【0003】
これらの問題を正確に把握し、解決するためには、流砂系全体に亘る土砂移動の観察が不可欠である。このため、例えば下記特許文献1には、GPS衛星からのデータを受信する受信機と、該受信データに基づくデータを無線で送信する送信機とを備えた浮体を使用した土石流、ダムの水面、河川や海流等の流動体の移動を計測するシステムが開示されている。
【特許文献1】特開2001−4649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の技術においては、計測に使用する浮体に、GPS衛星からのデータを受信する受信機と、該受信データに基づくデータを無線で送信する送信機とを備えているので、装置コストが高くなるという問題があった。
【0005】
また、浮体は流体の上に浮いて移動するので、必ずしも土砂の移動を正確に表しておらず、正確な土砂移動の観察が困難であるという問題もあった。
【0006】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、低コストで正確な土砂移動の観察が可能となる土砂移動解析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、土砂移動解析システムであって、自然石または人工石に取り付けられ、識別情報を発生する識別情報発生手段と、前記識別情報発生手段が取り付けられた自然石または人工石の位置情報を取得する位置情報取得手段と、前記位置情報取得手段が取得した位置情報を、前記識別情報発生手段が発生した識別情報毎に記憶する位置情報記憶手段と、前記識別情報発生手段が発生する識別情報を受信し、前記自然石または人工石が所定位置を通過したことを、通過時刻とともに監視する通過監視手段と、前記通過監視手段が受信した識別情報を、前記通過時刻とともに記憶する通過情報記憶手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
ここで、上記位置情報取得手段は、前記自然石または人工石の移動後の位置情報も取得するのが好適である。さらに、上記位置情報取得手段は、位置情報の測定時刻も取得するのが好適である。
【0009】
また、上記識別情報発生手段は、前記自然石または人工石の内部に保持されていてもよいし自然石または人工石の表面に保持されていてもよい。
【0010】
また、上記人工石は生分解性材料で構成されているのが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、識別情報発生手段は識別情報を発生するだけであり、GPS衛星からのデータを受信する機能が不要であるので、装置コストを低くできる。また、識別情報発生手段が自然石または人工石に取り付けられており、それらの移動位置及び移動時刻が把握できるので、土砂移動の正確なトレーサビリティが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0013】
図1、図2には、本発明にかかる土砂移動解析システムの説明図が示される。図1において、土砂移動解析の対象となる河川10の上流地域11等に、識別情報を保持し、外部に対して発生することができる識別情報発生装置を取り付けた自然石または人工石(以後、観測対象石12とする)を配置しておく。この識別情報発生装置としては、例えばICタグ等を使用することができる。ICタグは、ID番号等の識別情報を記憶し、外部の適宜な通信装置と通信を行って、該通信装置に上記識別情報を送信する。
【0014】
上記ICタグを取り付けた観測対象石12の位置情報は、位置情報取得装置14により予め取得しておく。この位置情報取得装置14としては、例えばGPS衛星信号の受信装置と光波測距儀とを組み合わせた測量装置またはGPS衛星信号の受信装置とジャイロステーションとを組み合わせた測量装置等により構成され、観測対象石12の位置を測定できるように構成される。また、位置情報取得装置14は、観測対象石12の位置の測定時刻も取得できるように構成するのが好適である。観測対象石12の位置の測定は、識別情報発生装置としてのICタグが発生する識別情報毎に実施する。なお、識別情報は、予め各ICタグと交信して取得しておいてもよいし、観測対象石12の位置の測定毎に取得してもよい。
【0015】
位置情報取得装置14により取得された観測対象石12の位置情報は、上記識別情報とともに、適宜な無線通信回線、ネットワーク等の通信手段、またはフレキシブルディスク、コンパクトディスク等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を介してサーバ16に渡され、記憶される。このサーバ16が、本発明の位置情報記憶手段として機能する。
【0016】
また、河川10の下流側の所定位置には、観測対象石12に取り付けられたICタグと交信し、その識別情報を受信する受信装置18が配置されている。受信装置18には、ICタグと交信するためのアンテナ部20が接続されている。
【0017】
次に、河川10の上流地域11に大量の降雨があり、観測対象石12が土砂とともに河川10に流出する、いわゆる土石流が発生した場合には、図2に示されるように、観測対象石12が上記アンテナ部20の下を通過する。このとき、受信装置18がアンテナ部20を介して観測対象石12に取り付けられたICタグと交信し、識別情報を受信する。受信した識別情報は、識別情報の受信時刻とともに、上述した通信手段または記憶媒体等を介してサーバ16に渡され、記憶される。この場合の受信装置18が、本発明の通過監視手段として機能する。
【0018】
サーバ16では、上記識別情報に基づき、流出前にどの位置にあった観測対象石12が、河川10の所定位置(アンテナ部20の位置)を通過したのかを判別し、記憶する。この場合、サーバ16は、識別情報の受信時刻により、いつ観測対象石12が河川10の所定位置を通過したかの通過時刻情報も判別し、記憶する。これにより、土石流等により河川に流出した観測対象石12の動きを観察でき、土砂移動の解析を行うことができる。この場合のサーバ16は、本発明の通過情報記憶手段として機能する。
【0019】
図3(a)、(b)には、識別情報発生手段としてのICタグを、観測対象石12に取り付けた様子が示される。図3(a)では、ICタグ22が、観測対象石12に形成された空隙部24に挿入され、観測対象石12の内部に保持される。この場合、空隙部24にICタグ22を挿入した後、水分の侵入を防止し、ICタグ22を保護するために、接着剤等の適宜な樹脂をICタグ22と空隙部24の壁の隙間に注入、固化するのが好適である。
【0020】
また、図3(b)には、ICタグ22が、観測対象石12の表面に接着されている例が示される。この場合には、ICタグ22と観測対象石12の表面との間だけでなく、ICタグ22の表面側(観測対象石12との接着面の反対側の面)にも接着剤等の適宜な樹脂を塗布し、固化してICタグ22の保護を図るのが好適である。
【0021】
なお、図3(a)、(b)には、カード型ICタグを例示したが、これ以外に防水型や工業用といった各種ICタグを利用することができる。
【0022】
上記観測対象石12としては、上述の通り、自然石または人工石のいずれも使用することができる。なお、人工石を使用する場合には、設置する河川状況に合わせて、粒径、比重等を調整する。また、環境に対する負荷を軽減するために、生分解性材料で構成するのが好適である。
【0023】
図4(a)、(b)には、上記アンテナ部の取付位置の例が示される。図4(a)の例では、河川の所定位置に設置され、土石流等を捕捉するための砂防えん堤26の水通し部28の上部を渡って、ゲート状のアンテナ部20が設置されている。また、この代わりに、水通し部28の壁面の一部に挿入孔30を設け、この中にアンテナ部20を挿入、保持してもよい。
【0024】
また、図4(b)の例では、スリット32が設けられた砂防えん堤26において、スリット32の壁面の一部に挿入孔30を設け、この中にアンテナ部20が挿入、保持されている。
【0025】
なお、アンテナ部20の取付位置は、図4(a)、(b)には限られず、土砂移動解析の対象となる河川等の状況に応じて、適宜決定することができる。
【0026】
次に、河川10を土石流が下った後、土石流とともに移動した観測対象石12の移動後の位置情報及び位置情報の測定時刻も取得するのが、土砂移動解析にとって好ましい。このため、土石流が治まった後、河川10の下流側に位置情報取得装置14を移して観測対象石12の移動後の位置情報と位置情報の測定時刻を取得する。この場合、位置情報取得装置14をラジコンヘリコプターに搭載して観測対象石12の移動後の位置情報を取得するのも好適である。また、位置情報を測定する際には、各観測対象石12に取り付けられたICタグから識別情報を取得し、識別情報毎に位置情報を取得する。なお、位置情報取得装置14は、予め河川10の下流側の所定の位置に設置しておいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明にかかる土砂移動解析システムの説明図である。
【図2】本発明にかかる土砂移動解析システムの説明図である。
【図3】識別情報発生手段としてのICタグを、観測対象石に取り付けた様子の説明図である。
【図4】アンテナ部の取付位置の例を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
10 河川、11 上流地域、12 観測対象石、14 位置情報取得装置、16 サーバ、18 受信装置、20 アンテナ部、22 ICタグ、24 空隙部、26 砂防えん堤、28 水通し部、30 挿入孔、32 スリット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然石または人工石に取り付けられ、識別情報を発生する識別情報発生手段と、
前記識別情報発生手段が取り付けられた自然石または人工石の位置情報を取得する位置情報取得手段と、
前記位置情報取得手段が取得した位置情報を、前記識別情報発生手段が発生した識別情報毎に記憶する位置情報記憶手段と、
前記識別情報発生手段が発生する識別情報を受信し、前記自然石または人工石が所定位置を通過したことを、通過時刻とともに監視する通過監視手段と、
前記通過監視手段が受信した識別情報を、前記通過時刻とともに記憶する通過情報記憶手段と、
を備えることを特徴とする土砂移動解析システム。
【請求項2】
請求項1記載の土砂移動解析システムにおいて、前記位置情報取得手段は、前記自然石または人工石の移動後の位置情報も取得することを特徴とする土砂移動解析システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の土砂移動解析システムにおいて、前記位置情報取得手段は、位置情報の測定時刻も取得することを特徴とする土砂移動解析システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項記載の土砂移動解析システムにおいて、前記識別情報発生手段は、前記自然石または人工石の内部に保持されていることを特徴とする土砂移動解析システム。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項記載の土砂移動解析システムにおいて、前記識別情報発生手段は、前記自然石または人工石の表面に保持されていることを特徴とする土砂移動解析システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項記載の土砂移動解析システムにおいて、前記人工石は生分解性材料で構成されていることを特徴とする土砂移動解析システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−105916(P2006−105916A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296449(P2004−296449)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000135771)株式会社パスコ (102)
【Fターム(参考)】