説明

圧力洩れ測定方法

【目的】 圧力が安定する時点を正確に求めることによって、測定時間を短縮することができる圧力洩れ測定方法を提供する。
【構成】 圧力洩れ測定においては、電磁弁が切り替えられて被測定物とマスタとが遮断されて発生した差圧が変動を伴いながら次第に変化するが、実際に被測定物の内圧が変動するのは期間ΔT2の範囲であり、点MP4以降においては被測定物からの圧力洩れに起因する差圧ΔPのみが差圧値として検出されるので、この時点から測定を始めれば最も短時間で測定を行うことができる。この点MP4は、被測定物からの圧力洩れのあるなしに関わらず、差圧の単位時間当たりの変化量が一定になる点、すなわち差圧の測定値が描く曲線の二回微分値が零になる点として求められる。点MP4に到達したと判別されたら、その時点から差圧の測定値の時間当たりの変化量を用いて被測定物の圧力洩れ量が算出される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、被測定物内に加圧気体源から加圧気体を導入して、被測定物内の圧力変化を測定することによって、被測定物からの圧力洩れを測定する圧力洩れ測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車エンジン用鋳造ブロック等の密閉性を測定するために、被測定物の内部にエアコンプレッサ等の加圧気体源から圧縮空気等の加圧気体を導入して、被測定物からの圧力洩れを測定する方法が用いられる。この際、単に圧力センサによって被測定物からの圧力洩れに伴う気圧の絶対値の変化を測定する方式では、圧力センサの測定精度の制約があるため精度の良い圧力洩れ測定ができない。そこで、高精度の圧力洩れ測定を行うための装置として、被測定物とは独立した密閉空間である測定用マスタ(以下、単に「マスタ」ともいう。)を用意して、このマスタと被測定物とを差圧検出器を介して接続し、差圧の変化を検出することによって被測定物からの圧力洩れを測定する方法が開発されている。かかる差圧測定による圧力洩れ測定方法の具体例としては、例えば、特開平4−221733号公報に記載された圧力洩れ測定装置の発明がある。この公報に記載された技術においては、被測定物とほぼ同一形状・同一容積の測定用マスタと被測定物とが差圧検出器を介して接続されている。そして、被測定物及びマスタ内に圧縮空気が導入されて測定圧力に達した時点から差圧値の経時変化を測定することによって、被測定物からの圧力洩れの測定が行われる。
【0003】また、被測定物とほぼ同一形状・同一容積の測定用マスタを用いる代わりに、配管の一部を密閉して、この密閉部分と被測定物との差圧を比較することによって、圧力洩れの測定を行う方法も開発されている。かかる圧力洩れ測定方法においては、マスタとして配管の一部を密閉して、この密閉配管内の圧力と被測定物内の圧力とを比較する方式を採っている。すなわち、密閉される配管部分と被測定物とが差圧検出器を介して接続されている。そして、被測定物及び密閉配管部分に圧縮空気が導入されて測定圧力に達した時点から差圧値の経時変化を測定することによって、被測定物からの圧力洩れの測定が行われる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、いずれの圧力洩れ測定方法においても、被測定物及び被測定物とは独立した密閉空間であるマスタ内に圧縮空気が導入される際の断熱圧縮に起因する温度変化等によって圧力変動が生ずるため、差圧値の時間当たりの変化量から圧力洩れ量を算出するためには、圧力が安定するまで待たねばならない。この点について、図3及び図4を参照して説明する。図3は、マスタを使用する圧力洩れ測定における被測定物内の圧力と差圧の変化を示すグラフである。被測定物内の圧力は圧力センサで測定され、差圧は差圧センサで測定される。図3に示されるように、加圧段階T1においては、最初に測定圧力より高圧に調節された圧縮空気が被測定物及びマスタに供給され、続いて測定圧力に調節された圧縮空気が供給されるため、圧力値は一旦測定圧力を越えた後に測定圧力まで下がって安定する。続く平衡段階T2では、時刻t2において電磁弁が切り替えられて被測定物とマスタとが遮断されるのに伴って、図3に示されるようにプラスの差圧が一時的に発生する。その後、断熱圧縮に起因する温度変化等によって圧力変動が生じ、図3に示される被測定物内の圧力が測定圧力から次第に低下していく。そして、時刻t4で、断熱圧縮に起因する温度変化等が収まるため、ほぼ一定の圧力値に安定する。このように、断熱圧縮に起因する温度変化等によって、圧力が一定の値に落ちつくまである程度の時間を要している。なお、この被測定物内の圧力は、圧力洩れがない場合のものを示している。
【0005】この圧力変動に伴って、時刻t2において一旦プラスになった差圧も次第に減少していく。そして、実線で示される圧力洩れがない場合の差圧は、時刻t4において、圧力と同様にほぼ一定の値に安定する。また、図3に示される差圧のうち破線で示されるのは圧力洩れがある場合であり、一点鎖線で示されるのは微小な圧力洩れがある場合であるが、これらの値も同様に、時刻t2から時刻t4の間においては非直線的に変動している。そして、時刻t4において、これらの圧力洩れがある場合の差圧の変化は直線的なものとなり、時間当たりの変化量は一定となる。そして、検出段階T3においては、圧力洩れがない場合の被測定物内の圧力は、時刻t4において安定した一定の値に保たれる。従って、差圧センサの測定値も、実線で示されるように一定の値に保たれ、この場合には被測定物からの圧力洩れはないものと判定される。一方、圧力洩れがある場合には、差圧センサの測定値は破線あるいは一点鎖線で示されるように、一定の値とならずに変化し続ける。但し、この変化は直線的なものであるため、その変化率から被測定物からの圧力洩れ量を求めることができる。
【0006】また、図4に示されるように、加圧条件の相違によっても、差圧変化の様子は異なってくる。図4は、圧力洩れがない被測定物についての、三種類の異なる加圧条件における差圧変化の様子を示すグラフである。図4に示されるように、加圧条件1においては比較的短時間で断熱圧縮等に起因する被測定物内の圧力変動がなくなって差圧が安定しているが、加圧条件2ではこの不安定な時間が長くなり、加圧条件3では差圧が安定するまでにさらに長時間を要している。このように、加圧条件によって圧力変動がなくなるまでの時間がばらつくため、実際に圧力変動がなくなる時点よりもかなり後の時点t12まで待ってから、差圧の測定値を用いた圧力洩れ量の算出が行われていた。図3の検出期間T3の開始時点t10も、同様に実際に圧力変動がなくなる時点t4よりも後の時点として決められていた。すなわち、被測定物の内圧が確実に安定した状態で測定を行う必要から、実際に被測定物内の圧力変動がなくなるのに必要な時間に加えてさらに余分な時間の経過を待ってから測定を行わざるを得なかったのである。このように、被測定物及びマスタ内に圧縮空気が導入される際の温度変化等による圧力変動がなくなって圧力が確実に安定するまで待たなければならないため、測定時間の短縮に限界があるという問題点があった。
【0007】そこで、本出願の請求項1に係る発明においては、圧力が安定する時点を正確に求めることによって、測定時間を短縮することができる圧力洩れ測定方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】そこで、上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明においては、被測定物と該被測定物とは独立した密閉空間とに加圧気体を導入し、所定時間後の前記被測定物と前記独立した密閉空間との差圧を検出することによって前記被測定物からの圧力洩れを測定する圧力洩れ測定方法であって、前記差圧の単位時間当たりの変化量が一定となる時点を求め、その時点から前記被測定物からの圧力洩れの測定を行うことを特徴とする圧力洩れ測定方法を創出した。ここで「加圧気体」とは、圧縮空気を始めとして圧縮窒素ガス,圧縮酸素ガス,圧縮アルゴンガス等の種々の気体を含むものである。
【0009】
【作用】さて、請求項1の発明に係る圧力洩れ測定方法は、加圧気体が導入された被測定物と独立した密閉空間との差圧を検出することによって、被測定物からの圧力洩れを測定する方法である。ここで、差圧の単位時間当たりの変化量が一定となる時点を求め、その時点から被測定物からの圧力洩れの測定を行う方式を採用している。従って、圧力が安定する時点が正確に求められ、その時点から直ちに差圧の測定値を用いた圧力洩れの大きさの測定を行うことができるため、余分な待ち時間を省くことができ、短時間で圧力洩れ測定を行うことができる。このようにして、圧力が安定する時点を正確に求めることによって、測定時間を短縮することができる圧力洩れ測定方法となる。
【0010】
【実施例】次に、本発明を具現化した一実施例について、図1及び図2を参照して説明する。まず、本実施例の圧力洩れ測定方法による具体的な測定結果について、図1を参照して説明する。図1は、本実施例の圧力洩れ測定方法による測定における差圧の変化を示すグラフである。図1に示されるように、電磁弁が切り替えられて被測定物とマスタとが遮断されるのに伴って発生した差圧が、圧力変動を伴いながら次第に変化していく。ここで、断熱圧縮等に起因して実際に被測定物の内圧が変動するのは期間ΔT2の範囲であり、この範囲ΔT2においては被測定物からの圧力洩れに起因する差圧ΔPに、圧力変動に起因する差圧ΔP0が加わった値が差圧値として検出される。範囲ΔT2の終了する点MP4以降においては、被測定物からの圧力洩れに起因する差圧ΔPのみが差圧値として検出される。すなわち、点MP4以降においては差圧値の経時変化を用いて被測定物からの圧力洩れ量を算出することが可能となる。従って、点MP4を正確に求めてこの時点から測定を始めることによって、最も短時間で測定を行うことができる。
【0011】この点MP4は、被測定物からの圧力洩れのあるなしに関わらず、差圧の単位時間当たりの変化量が一定になる点、すなわち差圧センサによる差圧の測定値が描く曲線の二回微分値が零になる点として求めることができる。本実施例においては、差圧の単位時間当たりの変化量が一定になる点を求めるに当たって、差圧センサによる測定値そのものではなく、その移動平均値を用いている。これは、測定データのばらつきによる誤差をなくするためである。具体的には、差圧センサからの測定信号が、予め設定されたサンプリング時間ごとに測定値Xとして取り込まれる。この測定値Xの移動平均算出個数NP ごとに移動平均値Pが算出され、算出された移動平均値Pが検出値XP として取り込まれる。この検出値XP を用いて、予め設定された変化量算出単位時間C1ごとに、一回微分値D1が次式(1)によって算出される。
D1(N) =XP(N)−XP(N-C1) …(1)
そして、二回微分値D2が次式(2)によって算出される。
D2(N) =D1(N) −D1(N-C1) …(2)
【0012】さらに、加重移動平均法によって、二回微分値D2から加重平均値D2AVE を算出して、この加重平均値D2AVE が零になる点をもって、点MP4としている。このようにして点MP4に到達したことが判別されたら、その時点から差圧の測定値の時間当たりの変化量を用いて被測定物の圧力洩れ量VL が算出される。この算出の具体的な方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、点MP4ともう一点の二点間の差圧測定値Xあるいは検出値XP から求める方法、単位時間の移動平均による方法、単位時間当たりの変化量(例えば、一回微分値D1)の移動平均による方法等である。以上のようにして、圧力変動がなくなる時点MP4を正確に求め、その時点から圧力洩れ量の算出を開始することによって、従来の検出開始時点MP3よりも早く検出を開始することができる。これによって、従来の検出期間T3よりも早い検出期間T4で圧力洩れ量を算出することができ、圧力洩れの測定時間を短縮することができる。
【0013】次に、本実施例の圧力洩れ測定方法の測定手順について図2を参照して説明する。図2は、本実施例の圧力洩れ測定方法の測定手順を示すフローチャートである。図2のステップS10で測定が開始されると、まず、被測定物及びマスタについてのパラメータが入力される(ステップS12)。パラメータとしては、被測定物の大きさ,形状等、マスタの大きさ,形状等がある。次に、差圧センサによる差圧の測定値Xが入力される(ステップS14)。続いて、移動平均Pを算出して良いか否かの判定が行われる(ステップS16)。測定値Xが移動平均算出に必要な個数NP だけ入力されるまではこの判定はYESにならず、ステップS14に戻って測定値Xの入力が繰り返される。測定値Xが移動平均算出に必要な個数NP だけ入力された時点でステップS18へ進んで、移動平均Pが算出される。こうして算出された移動平均Pの値が、検出値XP として入力される(ステップS20)。
【0014】次に、変化量を演算して良いか否かの判定が行われる(ステップS22)。予め設定された変化量算出単位時間C1の時間が経過するとこの判定はYESとなり、検出値XP を用いて上記の式(1)及び式(2)に従って、一回微分値D1及び二回微分値D2が算出される(ステップS24)。続いて、加重平均値D2AVE を算出して良いか否かの判定が行われる(ステップS26)。二回微分値D2が移動加重平均算出に必要な個数だけ算出されるまではこの判定はYESにならず、ステップS14に戻って上述した工程が繰り返される。二回微分値D2が移動加重平均算出に必要な個数だけ算出された時点でステップS28へ進んで、加重平均値D2AVE が算出される。こうして算出された加重平均値D2AVE が零であるか否かによって、圧力が安定したか否かの判断が行われる(ステップS30)。加重平均値D2AVE が零であればこの判定はYESとなり、ステップS32の判定もYESとなって、圧力洩れ量VL の算出が行われる(ステップS34)。これによって、圧力洩れの測定手順は終了する(ステップS36)。
【0015】本実施例においては、演算処理に当たって移動平均法や加重平均法を用いているが、必ずしもこれらの算出方法に限られるものではない。また、本実施例の測定方法は、配管の一部を密閉して独立空間とする等の他の方式に適用することもできる。圧力洩れ測定方法のその他の工程の内容についても、本実施例に限定されるものではない。
【0016】
【発明の効果】請求項1に係る発明においては、差圧の単位時間当たりの変化量が一定となる時点を求め、その時点から前記被測定物からの圧力洩れの測定を行う圧力洩れ測定方法を創出したために、圧力が安定する時点が正確に求められ、その時点から差圧の測定値を用いた圧力洩れの大きさの測定を行うことができ、余分な待ち時間を省くことができる。これによって、圧力洩れの測定時間を短縮することができる、極めて実用的な圧力洩れ測定方法となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る圧力洩れ測定方法の一実施例における具体的な測定結果を示す図である。
【図2】圧力洩れ測定方法の一実施例における測定の手順を示す図である。
【図3】従来の圧力洩れ測定方法における具体的な測定結果を示す図である。
【図4】従来の圧力洩れ測定方法における具体的な測定結果を示す図である。
【符号の説明】
MP4 差圧の単位時間当たりの変化量が一定となる時点

【特許請求の範囲】
【請求項1】 被測定物と該被測定物とは独立した密閉空間とに加圧気体を導入し、所定時間後の前記被測定物と前記独立した密閉空間との差圧を検出することによって前記被測定物からの圧力洩れを測定する圧力洩れ測定方法であって、前記差圧の単位時間当たりの変化量が一定となる時点を求め、その時点から前記被測定物からの圧力洩れの測定を行うことを特徴とする圧力洩れ測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平8−338784
【公開日】平成8年(1996)12月24日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−147684
【出願日】平成7年(1995)6月14日
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(592082778)豊通エンジニアリング株式会社 (8)
【出願人】(000158862)鬼頭工業株式会社 (4)
【出願人】(390019035)株式会社フクダ (23)