説明

圧力緩衝器、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】圧力緩衝器1に異物が滞留して圧力緩衝機能やフィルタ機能が低下することを防止する。
【解決手段】圧力緩衝器1は、液体を流入する流入口8と液体を流出する第一及び第二流出口9a、9bを有するチャンバ3と、チャンバ3の一部を構成する可撓性膜7と、流入口8と第一及び第二流出口9a、9bとの間に設置されるフィルタ6とを備える。チャンバ3は、フィルタ6を介して第一室4と第二室5に分離され、流入口8が第一室4に開口し、第一及び第二流出口9a、9bが第二室5に開口する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体の圧力変動を緩和させる圧力緩衝器であり、特に液体に混入する異物を除去するフィルタ機能を有する圧力緩衝器、これを用いた液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録紙等にインク滴を吐出して文字、図形を描画する、或いは素子基板の表面に液体材料を吐出して機能性薄膜を形成するインクジェット方式の液体噴射ヘッドが利用されている。この方式は、インクや液体材料を液体タンクから供給管を介して液体噴射ヘッドに供給し、チャンネルに充填したインクや液体材料(以下、総称して液体という。)をチャンネルに連通するノズルから吐出させる。液体の吐出の際には、液体噴射ヘッドや噴射した液体を記録する被記録媒体を移動させて、文字や図形を記録する、或いは所定形状の機能性薄膜を形成する。
【0003】
特許文献1にはこの種の液体噴射ヘッドが記載されている。図6(特許文献1の図10)は、インクジェットヘッド200とその上に設置される圧力緩衝器100の模式図である。インクジェット装置は、インクタンク等の液体貯留部からチューブを介してインクジェットヘッドに液体を輸送し、インクジェットヘッドで液滴を吐出して被記録媒体に記録する。被記録媒体に記録する際には、インクジェットヘッドが高速で移動する。そのため、チューブ等に充填される液体に慣性力が働き、液体の内圧を変動させた。その結果、インクジェットヘッド200のノズル孔に形成されるメニスカスが変化して、吐出する液滴の体積や速度を一定に維持することができなくなり、記録品質を低下させる原因となった。そこで、インクジェットヘッド200の手前の流路に圧力緩衝器100を挿入し、インクジェットヘッド200に供給する液体の圧力変動を減衰させ、記録品質が低下することを防止する。
【0004】
図6に示されるように、圧力緩衝器100は、図示しないチューブ等から液体を流入する流入口102と、流入した液体を貯留するチャンバ115と、チャンバ115から液体を流出させる開口部101と、隔壁110によってチャンバ115から隔たれた、液体を導く流路107と、液体を流出させる流出口108を備える。従って、液体は流入口102からチャンバ115に流入し、開口部101から流路107、流出口108を介してインクジェットヘッド200へ流出する。インクジェットヘッド200は流出口108から流入した液体をノズルから吐出して被記録媒体に記録する。
【0005】
圧力緩衝器100はチャンバ115と流路107の間に貫通開口部109を備える。これは、インクジェットヘッドが上下に振動すると、流路107に内在する液体の上下方向に慣性力が働き、液体圧力が変動してメニスカス104を変化させる。これを防止するために、流出口108の近傍に貫通開口部109を形成し、この貫通開口部109を通じて流路107で発生する圧力変動が貫通開口部109を通じてチャンバ115に開放される。その結果、メニスカス104の変位が低減し、印字の濃度差が著しく減少して記録品質が大幅に改善される、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−110599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載される圧力緩衝器100は、液体に加わる圧力変動の緩衝機能を有するが、液体に混入する気泡や塵埃などの異物を除去するフィルタ機能を有していない。しかし、液体タンクから供給される液体には異物が混入するので、ヘッドチップの吐出ノズルに到達する前にこれら異物を除去すべきである。吐出ノズルに異物が流入すると、吐出ノズルが詰まってドット抜けなどの不具合が発生する。
【0008】
また、液体タンクとヘッドチップの間にフィルタを設置する場合に、フィルタによる圧力損失をできるだけ小さくする必要がある。フィルタによる圧力損失が大きくなるとヘッドチップから液滴を吐出させる際の吐出安定領域が狭くなり、使用できる液体の種類が限定される、或いは使用できる環境条件が狭く限られてくる。
【0009】
また、ヘッドチップを使用するにつれてチャンバ内に滞留物が蓄積されるが、滞留物の性質によりそのチャンバ内における蓄積場所が異なる。例えば、インクの充填時や交換時にはインクよりも比重の軽い気泡が滞留物として蓄積される。一方、圧力緩衝器を使用するにつれて、インクよりも比重の重いインク中の含有物が滞留物として蓄積される。つまり、気泡と含有物とはチャンバ内の異なる場所に滞留物として蓄積される。チャンバから液体を流出させる流出口が一箇所である場合は性質の異なる複数種類の滞留物を同時に排出させることできず、いずれかの滞留物が次第に蓄積し、チャンバの実効的な容積を減少させて緩衝機能が損なわれる、あるいは流路抵抗が増大して吐出特性が劣化する等の不具合が発生する。また、固化した含有物が吐出ノズル側に進入してドット抜け等の不具合が発生する原因となった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、液体の圧力緩衝機能と気泡や塵埃がヘッドチップ側に流れることを阻止するフィルタ機能を有し、更に性質の異なる複数種類の滞留物を外部に流出させることを可能とする圧力緩衝器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の圧力緩衝器は、液体を流入する流入口と液体を流出する第一流出口と第二流出口が開口するチャンバと、前記チャンバの一部を構成する可撓性膜と、前記流入口と前記第一及び第二流出口との間に設置されるフィルタと、を備え、前記チャンバは、前記フィルタを挟んで第一室と第二室に分離され、前記流入口が前記第一室に開口し、前記第一及び第二流出口が前記第二室に開口することとした。
【0012】
また、前記第一流出口は、前記第二室の重力方向に対して最上位となる領域に開口し、前記第二流出口は、前記第二室の重力方向に対して最下位となる領域に開口することとした。
【0013】
また、前記チャンバは、基体に形成される凹部と、前記凹部の開口端を塞ぐ前記可撓性膜により囲まれる領域からなり、前記第一室が前記凹部の底面側に、前記第二室が前記凹部の開口端側に設置されることとした。
【0014】
また、前記凹部は前記開口端を前記凹部の底面に対して垂直方向から見る平面視で略四角形の形状を有し、前記開口端が側方となるように前記基体を重力方向に対して立設したときに、前記第一流出口は前記略四角形の上辺と左辺の角部又は上辺と右辺の角部において前記第二室に開口し、前記第二流出口は前記略四角形の下辺において、又は、下辺と左辺の角部又は下辺と右辺の角部において前記第二室に開口することとした。
【0015】
また、前記第一流出口に連通する第一流出路と、前記第二流出口に連通する第二流出路が形成され、前記第一流出路の流路抵抗は前記第二流出路の流路抵抗よりも小さいこととした。
【0016】
また、前記第二流出路は複数形成されていることとした。
【0017】
本発明の液体噴射ヘッドは、上記いずれか一に記載の圧力緩衝器と、前記圧力緩衝器の前記第一及び第二流出口から流出する液体を吐出するヘッドチップと、を備えることとした。
【0018】
本発明の液体噴射装置は、上記液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備えることとした。
【発明の効果】
【0019】
本発明の圧力緩衝器は、液体を流入する流入口と液体を流出する第一流出口と第二流出口が開口するチャンバと、チャンバの一部を構成する可撓性膜と、流入口と第一及び第二流出口との間に設置されるフィルタと、を備え、チャンバは、フィルタを挟んで第一室と第二室に分離され、流入口が第一室に開口し、第一及び第二流出口が第二室に開口する。即ち、可撓性膜による圧力緩衝機能の他に、液体の流入口と流出口の間にフィルタを設置して気泡や塵埃などの異物がヘッドチップ側に進入することを阻止するフィルタ機能を有するとともに、第二室に複数の流出口を設けて滞留物が第二室に蓄積して圧力緩衝機能やフィルタ機能を低下させる、あるいは流路抵抗を増大させることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る圧力緩衝器の基本構成を表す概念図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る圧力緩衝器の説明図である。
【図3】本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッドの正面模式図である。
【図4】本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッドに用いる圧力緩衝器の説明図である。
【図5】本発明の第三実施形態に係る液体噴射装置の模式的な斜視図である。
【図6】従来から公知のインクジェットヘッドとその上に設置される圧力緩衝器の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は本発明に係る圧力緩衝器1の基本構成を表す概念図である。圧力緩衝器1は、液体を流入する流入口8と液体を流出する第一流出口9a及び第二流出口9bが開口するチャンバ3と、このチャンバ3の一部を構成する可撓性膜7と、流入口8と第一及び第二流出口9a、9bとの間に設置されるフィルタ6を備える。チャンバ3は、フィルタ6を挟んで第一室4と第二室5に分離され、第一室4に流入口8が開口し、第二室5に第一及び第二流出口9a、9bが開口する。
【0022】
流入口8から第一室4に流入した液体は、フィルタ6を介して第二室5に流れ、第二室5の上部に設置される第一流出口9aと下部に設置される第二流出口9bから流出する。フィルタ6は所定径以上の異物が第一室4から第二室5に進入することを阻止する。可撓性膜7は第二室5の一部を構成し、第二室5に充填される液体の圧力変動を可撓性膜7の伸縮により緩和させる。そのため、第一及び第二流出口9a、9bからは圧力変動の緩和された液体が流出する。
【0023】
本発明の圧力緩衝器1は、可撓性膜7により液体の圧力変動を緩和させる圧力緩衝機能を有する他に、異物がヘッドチップ2側に進入することを阻止するフィルタ機能を有する。更に、第二室5に第一及び第二流出口9a、9bを設けて、性質の異なる複数種類の滞留物が第二室5に蓄積して圧力緩衝機能やフィルタ機能を低下させる、あるいは圧力緩衝器1の流路抵抗を増大させることを防止することができる。
【0024】
例えば重力方向が上方から下方に向く場合に、液体の充填時や交換時に第一室4や第二室5の上部に気泡が蓄積しやすく、圧力緩衝器1を長時間使用しない場合に第一室4や第二室5の下部に液体に含有される含有物が蓄積しやすい。第一流出口9aは、第二室5の重力方向に対して最上位となる領域に開口するので気泡からなる滞留物を流出させることができ、第二流出口9bは、第二室5の重力方向に対して最下位となる領域に開口するので沈殿した含有物からなる滞留物を流出させることができる。
【0025】
なお、図1において可撓性膜7は第二室5の一部を構成しているが、本発明はこの構成に限定されず、可撓性膜7を第一室4に設置してもよいし、第二室5と第一室4の両方に設置してもよい。また、第二室5から液体を流出させる流出口を3箇所以上形成してもよい。以下、本発明について実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0026】
(第一実施形態)
図2は、本発明の第一実施形態に係る圧力緩衝器1の説明図である。図2(a)は圧力緩衝器1の上面模式図であり、図2(b)は部分AAの断面模式図である。図2(a)においては説明を容易にするために可撓性膜7とカバー15を除去した上面模式図を示す。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付した。
【0027】
図2(a)及び図2(b)に示すように、圧力緩衝器1は、凹部10が形成される基体12と、凹部10の側面に形成される段差部16に設置されるフィルタ6と、凹部10の開口端Eを塞ぐ可撓性膜7と、可撓性膜7を保護するカバー15を備える。凹部10と可撓性膜7により囲まれる領域によりチャンバ3が構成される。チャンバ3は、凹部10の底面側に設置される第一室4と、凹部10の開口端E側に設置される第二室5を含み、第一室4と第二室5はフィルタ6により分離される。即ち、第一室4は凹部10の底面と側面とフィルタ6に囲まれる領域であり、第二室5は凹部10の側面とフィルタ6と可撓性膜7により囲まれる領域であり、第一室4と第二室5はフィルタ6を挟んで積層される。
【0028】
圧力緩衝器1は、更に、液体を流入する流入接続部13と液体を流出する流出接続部14を備え、流入接続部13は基体12の上部に、流出接続部14は基体12の下部に設置される。凹部10はその開口端Eを凹部10の底面に対して垂直方向から見る平面視で略四角形の形状を有する。凹部10の底面には第一室4に液体を流入するための流入口8が開口する。流入口8は流入接続部13に連通する。凹部10の上辺と右辺の角部には第一流出口9aが、右辺と下辺の角部には第二流出口9bが開口する。凹部10の右辺の側の基体12には第一流出路11aと第二流出路11bが設置され、第一流出口9aが第一流出路11aを介して流出接続部14に連通し、第二流出口9bが第二流出路11bを介して流出接続部14に連通する。ここで、第一流出路11aと第二流出路11bは合流点Pで合流し流出路11となる。ここで、上部又は上辺とは図2(a)を正視したときの上方の部又は辺であり、下部又は下辺とは図2(a)を正視したときの下方の部又は辺であり、左辺又は右辺は図2(a)を正視したときの左方又は右方の辺である。本実施形態に限らず、以下説明する実施形態における図3及び図4(a)においても同様とする。
【0029】
液体は、流入接続部13から流入口8を介して第一室4に流入し、フィルタ6を通して第二室5に流入する。第二室5の液体は、第一及び第二流出口9a、9bから第一及び第二流出路11a、11bを介して流出接続部14から流出する。フィルタ6により第一室4から第二室5に異物が侵入することが阻止される。また、可撓性膜7により第二室5の液体の圧力変動が緩和される。更に、第二室5の上辺側に蓄積する滞留物は第一流出口9aから流出させることができ、第二室5の下辺側に蓄積する滞留物は第二流出口9bから流出させることができる。なお、第一室4と第二室5は平面視でほぼ同じ外形を有している。
【0030】
本第一実施形態において、第一室4と第二室5は扁平な形状を有し、平面視で外形がほぼ同じ形状を有する。フィルタ6の面積を大きく形成できるのでフィルタ6による圧力損失を低減させることができる。更に、第一流出口9aは第二室5の上辺に蓄積する滞留物に加えて第一室4の上辺に蓄積するフィルタ6の開口径より径の小さな滞留物も外部へ流出させることができる。同様に、第二流出口9bは第二室5の下辺に蓄積する滞留物に加えて第一室4の下辺に蓄積するフィルタ6の開口径より径の小さな滞留物も外部へ流出させることができる。これにより、滞留物が第一室4や第二室5に蓄積して圧力緩衝機能やフィルタ機能を低下させ、あるいは流路抵抗を増大させることを防止することができる。
【0031】
ここで、第一流出路11aの流路抵抗を第二流出路11bの流路抵抗よりも小さくすれば、第二流出口9bよりも第一流出口9aからより多くの液体を流出させることができる。
【0032】
なお、第一流出路11aの流路長は第一流出口9aから合流点Pまでであり、第二流出路11bの流路長は第二流出口9bから合流点Pまでであるため、第一流出路11aの流路長は第二流出路11bの流路長よりも長い。そのため、第一流出路11aの流路抵抗を第二流出路11bの流路抵抗よりも小さくするには、双方の流路長を考慮した設計を行わなければならない。具体的には、第一流出口9aの開口面積を10mm2とし、第二流出口9bの開口面積を2mm2とした。実施可能範囲としては、第一流出口9aの開口面積は6mm2以上15mm2以下とし、第二流出口9bの開口面積は1mm2以上5mm2以下が挙げられる。
【0033】
さらに、第一流出路11aの流路抵抗を第二流出路11bの流路抵抗よりも小さくする点について、第一流出口9aと第二流出口9bとの開口面積に差異を設ける以外の方法により実施することも可能である。例えば、第一流出口9aと第二流出口9bとの開口面積が同じという条件のもと、第二流出路11bの途中に不図示の第二フィルタを設ける形態が可能である。この場合に、第二フィルタは、フィルタ6と同じメッシュの細かさであるフィルタを用いることができる。その他、第二流出路11bが下流に向かうに従って徐々に開口面積が狭くなる形態を実施することも可能である。
【0034】
これにより、液体の充填時や交換時に第一室4や第二室5に滞留し、あるいはフィルタ6に付着した気泡を第一流出口9aから迅速に流出させることができる。
【0035】
また、本実施形態では、凹部10の底面側に第一室4を、凹部10の開口端E側に第二室5を設置したが、これに代えて、凹部10の底面側に第二室5を、凹部10の開口端E側に第一室4を設置する構成としてもよい。また、流入接続部13及び流出接続部14の位置や、流入口8の位置は図2に示す位置に限定されず、図示しないヘッドチップの液体供給口の位置に応じて適宜構成することができる。
【0036】
(第二実施形態)
図3及び図4は本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッド20及びこれに用いる圧力緩衝器1を表す。図3は液体噴射ヘッド20の正面模式図であり、図4(a)は圧力緩衝器1の正面模式図であり、図4(b)は圧力緩衝器1の部分BBの断面模式図である。図4(a)においては説明を容易にするために可撓性膜7とカバー15を除去した正面模式図を示す。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付した。
【0037】
図3に示すように、液体噴射ヘッド20は圧力緩衝器1とヘッドチップ2を備える。液体噴射ヘッド20は、重力方向gに対して圧力緩衝器1を上方にヘッドチップ2を下方にして立設される。圧力緩衝器1は、基体に固定されるカバー15の上部の流入接続部13から液体を流入し、圧力変動が緩和され、フィルタ6により異物が除去された液体を流出接続部14からヘッドチップ2に流出する。ヘッドチップ2はベースに固定するための固定部材18に固定され、流出接続部14から液体を流入し、下方に向けて液滴を吐出して図示しない被記録媒体に記録する。
【0038】
図4に示されるように、圧力緩衝器1は、凹部10が形成される基体12と、凹部10の側面に形成される段差部16に設置されるフィルタ6と、凹部10の開口端Eを塞ぐ可撓性膜7と、フィルタ6と可撓性膜7の間に設置される弾性部材17と、可撓性膜7を保護するカバー15を備える。凹部10と可撓性膜7により囲まれる領域によりチャンバ3が構成される。チャンバ3は、凹部10の底面側に設置される第一室4と凹部10の開口端E側に設置される第二室5を含み、第一室4と第二室5はフィルタ6により分離される。即ち、第一室4は凹部10の底面と側面とフィルタ6に囲まれる領域であり、第二室5は凹部10の側面とフィルタ6と可撓性膜7により囲まれる領域であり、第一室4と第二室5はフィルタ6を挟んで積層される。
【0039】
凹部10は扁平な形状であり、その開口端Eを凹部10の底面に対して垂直方向から見る平面視で略四角形の形状を有する。従って、第一室4及び第二室5はいずれも扁平な略四角形を有する。基体12は開口端Eの上方から見たときに凹部10と略相似形の形状を有する。基体12の上辺の左側に流入接続部13が設置され、基体12の下辺の左側に流出接続部14が設置される。基体12の右辺側の表面に第一及び第二流出路11a、11bが形成され、基体12の下辺側の表面に流出路11が形成される。第一流出口9aと第二流出口9bは合流点Pで合流し、流出路11となる。
【0040】
凹部10の底面であり、第一室4の左辺と上辺の角部近傍には第一室4に液体を流入するための流入口8が開口する。流入口8は流入接続部13に連通する。第二室5の上辺は左辺から右辺に向かって高くなるように傾斜する。第一室4の上辺も同様に傾斜する。第二室5の上辺と右辺の角部に第一流出口9aが開口し、第二室5の右辺と下辺の角部に第二流出口9bが開口する。第一流出口9aは第一流出路11aと流出路11を介して流出接続部14に連通する。第二流出口9bは第二流出路11bと流出路11を介して流出接続部14に連通する。弾性部材17は板バネからなり、可撓性膜7をカバー15側に付勢する。弾性部材17は、チャンバ3が負圧となったときに可撓性膜7がフィルタ6に貼りついて第一及び第二流出口9a、9bを塞ぐことを防止するために設けられている。
【0041】
なお、弾性部材17は、段差部16に設けた不図示の突起部に固定されている。この突起部は段差部16の表面からカバー15側に凸となる突起形状を有しており、弾性部材17の端部を固定することができる。これによって、弾性部材17が第二室5の内部を移動することによる、可撓性膜7の破壊や圧力緩衝性能の低下を防止することができる。この場合、突起部と弾性部材17の端部の固定について、フィルタ6を間に介しても構わないし、介さないように突起部がフィルタ6を突き破るように構成することも可能である。
【0042】
さらに、弾性部材17の端部は、フィルタ6の有効面に位置しないこととした。つまり、図4に示すように、弾性部材17の端部が段差部16の位置まで引き延ばされている。言い換えれば、弾性部材17の端部が第一室4に対向するフィルタ6の有効面を塞いでいない。よって、フィルタ6を通過する際に流路抵抗を低減することができる。
【0043】
第二室5及び第一室4の上辺を左辺から右辺に向けて高くなるように傾斜させたので、液体より軽い気泡は上辺と右辺の角部に移動し、第一流出口9aから流出する。特に、液体の充填時や交換時に液体に混入する気泡を流出接続部14側に流出させることが容易となる。
【0044】
第一室4及び第二室5の右辺と下辺の角部は、左辺側の流入口8から流入する液体が滞留しやすい。また、圧力緩衝器1を長時間使用しない場合に液体に含有する含有物が滞留しやすい。第二流出口9bを第二室5の下辺と右辺の角部に設置したので、これらの滞留物を第二流出口9bから流出させることができる。
【0045】
以上のとおり、本発明の圧力緩衝器1は、可撓性膜7により液体の圧力変動を緩和させる圧力緩衝機能を有するほかに、液体の流入口8と第一及び第二流出口9a、9bの間にフィルタ6を設置して異物がヘッドチップ2側に進入することを阻止するフィルタ機能を有する。特に、フィルタ6の面積を大きく形成できるのでフィルタ6による圧力損失を低減させることができる。更に、第一流出口9aは第二室5の最上位の領域に開口するので気泡などの液体よりも比重の軽い滞留物を第二室5の外部に流出させることができる。また、第二流出口9bは第二室5の最下位の領域に開口するので液体に含有する含有物などの液体よりも比重の重い滞留物を第二室5の外部に流出させることができる。その結果、滞留物が第一室4や第二室5に蓄積してチャンバ3の実効的な容積やフィルタ6の実効的な開口面積が減少し、圧力緩衝機能やフィルタ機能が低下する、あるいは流路抵抗が増大して吐出特性が劣化することを防止することができる。
【0046】
なお、第二流出口9bは下辺と右辺の角部に設置することに代えて、下辺の中央部や左辺側に設置してもよいし、複数個所に設置してもよい。また、第一及び第二流出路11a、11bや流出路11を基体12の表面に形成することに代えて、基体12の背面側や、基体12から分離して構成してもよい。また、第一流出路11aの流路抵抗を第二流出路11bの流路抵抗よりも小さくすれば、液体の充填時や交換時に第一室4や第二室5に滞留し、あるいはフィルタ6に付着した気泡を第一室4や第二室5の外部へ流出させることが容易となる。また、本実施形態における圧力緩衝器1に代えて、第一実施形態の圧力緩衝器1を設置してもよい。
【0047】
(第三実施形態)
図5は本発明の第三実施形態に係る液体噴射装置30の模式的な斜視図である。液体噴射装置30は、液体噴射ヘッド20、20’を往復移動させる移動機構40と、液体噴射ヘッド20、20’に液体を供給する流路部35、35’と、流路部35、35’に液体を供給する液体ポンプ33、33’及び液体タンク34、34’を備えている。各液体噴射ヘッド20、20’は複数の吐出溝を備え、各吐出溝に連通するノズルから液滴を吐出する。各液体噴射ヘッド20、20’は第二実施形態において説明したものを使用する。
【0048】
液体噴射装置30は、紙等の被記録媒体44を主走査方向に搬送する一対の搬送手段41、42と、被記録媒体44に液体を吐出する液体噴射ヘッド20、20’と、液体噴射ヘッド20、20’を載置するキャリッジユニット43と、液体タンク34、34’に貯留した液体を流路部35、35’に押圧して供給する液体ポンプ33、33’と、液体噴射ヘッド20、20’を主走査方向と直交する副走査方向に走査する移動機構40を備えている。図示しない制御部は液体噴射ヘッド20、20’、移動機構40、搬送手段41、42を制御して駆動する。
【0049】
一対の搬送手段41、42は副走査方向に延び、ローラ面を接触しながら回転するグリッドローラとピンチローラを備えている。図示しないモータによりグリッドローラとピンチローラを軸周りに移転させてローラ間に挟み込んだ被記録媒体44を主走査方向に搬送する。移動機構40は、副走査方向に延びた一対のガイドレール36、37と、一対のガイドレール36、37に沿って摺動可能なキャリッジユニット43と、キャリッジユニット43を連結し副走査方向に移動させる無端ベルト38と、この無端ベルト38を図示しないプーリを介して周回させるモータ39を備えている。
【0050】
キャリッジユニット43は、複数の液体噴射ヘッド20、20’を載置し、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類の液滴を吐出する。液体タンク34、34’は対応する色の液体を貯留し、液体ポンプ33、33’、流路部35、35’を介して液体噴射ヘッド20、20’に供給する。各液体噴射ヘッド20、20’は駆動信号に応じて各色の液滴を吐出する。液体噴射ヘッド20、20’から液体を吐出させるタイミング、キャリッジユニット43を駆動するモータ39の回転及び被記録媒体44の搬送速度を制御することにより、被記録媒体44上に任意のパターンを記録することできる。
【0051】
本発明の液体噴射装置30によれば、圧力緩衝器1が液体の圧力変動を緩和させる圧力緩衝機能を有するほかに、異物がヘッドチップ2側に進入することを阻止するフィルタ機能を有する。更に、性質の異なる滞留物が第二室5に滞留して圧力緩衝機能やフィルタ機能を低下させる、あるいは流路抵抗を増大させることを防止することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 圧力緩衝器
2 ヘッドチップ
3 チャンバ
4 第一室
5 第二室
6 フィルタ
7 可撓性膜
8 流入口
9a 第一流出口、9b 第二流出口
10 凹部
11 流出路、11a 第一流出路、11b 第二流出路11b
12 基体
20 液体噴射ヘッド
30 液体噴射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を流入する流入口と液体を流出する第一流出口と第二流出口が開口するチャンバと、
前記チャンバの一部を構成する可撓性膜と、
前記流入口と前記第一及び第二流出口との間に設置されるフィルタと、を備え、
前記チャンバは、前記フィルタを挟んで第一室と第二室に分離され、前記流入口が前記第一室に開口し、前記第一及び第二流出口が前記第二室に開口する圧力緩衝器。
【請求項2】
前記第一流出口は、前記第二室の重力方向に対して最上位となる領域に開口し、
前記第二流出口は、前記第二室の重力方向に対して最下位となる領域に開口する請求項1に記載の圧力緩衝器。
【請求項3】
前記チャンバは、基体に形成される凹部と、前記凹部の開口端を塞ぐ前記可撓性膜により囲まれる領域からなり、
前記第一室が前記凹部の底面側に、前記第二室が前記凹部の開口端側に設置される請求項1又は2に記載の圧力緩衝器。
【請求項4】
前記凹部は前記開口端を前記凹部の底面に対して垂直方向から見る平面視で略四角形の形状を有し、前記開口端が側方となるように前記基体を重力方向に対して立設したときに、
前記第一流出口は前記略四角形の上辺と左辺の角部又は上辺と右辺の角部において前記第二室に開口し、
前記第二流出口は前記略四角形の下辺において、又は、下辺と左辺の角部又は下辺と右辺の角部において前記第二室に開口する請求項3に記載の圧力緩衝器。
【請求項5】
前記第一流出口に連通する第一流出路と、前記第二流出口に連通する第二流出路が形成され、
前記第一流出路の流路抵抗は前記第二流出路の流路抵抗よりも小さい請求項1〜4のいずれか一項に記載の圧力緩衝器。
【請求項6】
前記第二流出路は複数形成されている請求項5に記載の圧力緩衝器。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の圧力緩衝器と、
前記圧力緩衝器の前記第一及び第二流出口から流出する液体を吐出するヘッドチップと、を備える液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項7に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、
前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、
前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備える液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−67112(P2013−67112A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208176(P2011−208176)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】