圧力脈動抑制弁、圧力脈動抑制弁の弁体、および弁の交換方法
【課題】中間開度で発生する振動を効果的に抑制する。弁体のリフト量と流体の流量の関係を変化させずに弁の交換を行う。
【解決手段】流体通路2の壁面3に設けられた弁座4と、弁座4に対して弁座4の軸線方向上流側から当接して流体通路2を閉じる弁体5とを備え、弁体5は、弁座4に当接する部分を有し、周面の縦断面形状が弁体5の内部に中心を有する曲率の曲面になっている縮流部6と、縮流部6から流体通路2の下流側に向けて突出し、周面の縦断面形状が弁体5の外部に中心を有する曲率の曲面になっている逆曲率部7とを備えている。
【解決手段】流体通路2の壁面3に設けられた弁座4と、弁座4に対して弁座4の軸線方向上流側から当接して流体通路2を閉じる弁体5とを備え、弁体5は、弁座4に当接する部分を有し、周面の縦断面形状が弁体5の内部に中心を有する曲率の曲面になっている縮流部6と、縮流部6から流体通路2の下流側に向けて突出し、周面の縦断面形状が弁体5の外部に中心を有する曲率の曲面になっている逆曲率部7とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力脈動抑制弁、圧力脈動抑制弁の弁体、および弁の交換方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、弁座に弁体を押し付けることで流体通路を閉じると共に、弁体のリフト量を変えることで流体の流量を変化させるタイプの弁とその弁体、および、既存設備に既に設置されている弁であって、弁座に弁体を押し付けることで流体通路を閉じると共に、弁体のリフト量を変えることで流体の流量を変化させるタイプの弁の交換方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、発電プラントの蒸気系の蒸気加減弁では、中間開度において振動が発生することが知られている。従来、このような振動を抑制するための蒸気加減弁として、例えば特公昭58−44909号公報に開示されたものがある。この蒸気加減弁を図20に示す。蒸気加減弁101の弁体102の先端部分は、半球体の先端を流体通路103の軸線方向に対して垂直に切断した形状を成しており、その先端面に凹部108を形成することで全周にわたってエッジ部104を形成している。また、弁座105は、弁体102と当たる部分の付近では流体通路103を絞る形状を成しているが、その下流側は滑らかな曲線を有しながら徐々に広がる形状を成している。
【0003】
この蒸気加減弁101は、中間開度において、流体の流れが短周期で繰り返し変化することに起因した振動を防止することを目的としたものである。つまり、蒸気加減弁101の中間開度においては、弁体102に沿って流れていた流体がそのまま弁体102に沿って流れる場合と、途中で弁体102側から剥離して弁座105側に沿って流れる場合とがあり、両者の流れが交互に切り換えられて繰り返されることで振動が発生すると考えられており、このような振動の発生防止を蒸気加減弁101は目的としている。このため、弁体102のエッジ部104を、弁体102に沿う流れが弁体102から剥離する剥離点よりも上流側に形成し、流体が安定して流れるようにすることで、振動の発生防止を図っている。
【0004】
また、特公昭58−44909号公報において、従来技術として紹介されている蒸気加減弁106を図21に示す。この蒸気加減弁106の弁座107は、図20の蒸気加減弁101の弁座105とは異なった形状を成している。このため、既存の設備に図21の蒸気加減弁106が既に設置されていた場合、この蒸気加減弁106を中間開度における振動を防止するために図20の蒸気加減弁101に交換するには、弁体102のみならず弁座105をも交換する必要があり、このため、弁座105を設置する配管ごと交換する必要がある。
【0005】
【特許文献1】特公昭58−44909号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の蒸気加減弁101のようにエッジを有する弁体では、弁体と弁座の曲率比によっては流れの振動が発生する可能性がある。また、既存設備に設置されている蒸気加減弁106を交換するためには、弁座105ごとの交換が必要であるため、弁座105を設置する配管も交換する必要があり、交換作業が大掛かりなものとなって交換に要する費用が高かった。また、弁座105ごと交換することから、交換によって弁体102のリフト量と流体の流量との関係が変化し、交換前と同じ運転方法で発電プラントを運転することができなかった。
【0007】
本発明は、新しい知見に基づき中間開度で発生する振動を効果的に抑制することができる圧力脈動抑制弁とその弁体102を提供することを目的とする。また、振動抑制を十分考慮していなかった既存設備の弁を新しいものと交換する際、弁体のリフト量と流体の流量の関係を変えることがない弁の交換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、例えば蒸気加減弁等の中間開度における振動をより効果的に防止すべく鋭意研究を行った結果、振動の原因が2種類の流れが短周期で切り換わることによるものではなく、弁体に沿う流れが合流する際の衝突による圧力脈動によるものであることを突き止めた。即ち、流体の流れは弁体の全周にわたって発生し、弁体を通過して合流する。このとき、中間開度においては、弁体を通過する流れは弁体に沿う流れとなり、弁体に比較的近い位置で衝突し、局所的な高圧領域が発生する。この局所的な高圧領域は常に一定の位置にとどまるものではなく、弁体の周方向に移動し、しかもその移動方向は突然逆方向になるので、高圧領域が不規則に変化することになり、これによって圧力脈動が生じて振動を発生させることを見出した。そして、このような圧力脈動を抑えることについて鋭意研究を継続し、弁体の下流側部分の形状を延長すると共に、この延長部分を従来の形状とは逆方向の曲率を付けた形状にすることで、圧力脈動をより効果的に抑制できることを知見し、本発明に到達したものである。
【0009】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の圧力脈動抑制弁は、流体通路の壁面に設けられた弁座と、弁座に対して弁座の軸線方向上流側から当接して流体通路を閉じる弁体とを備え、弁体は、弁座に当接する部分を有し、周面の縦断面形状が弁体の内部に中心を有する曲率の曲線になっている縮流部と、縮流部から流体通路の下流側に向けて突出し、周面の縦断面形状が弁体の外部に中心を有する曲率の曲線になっている逆曲率部とを備えるものである。
【0010】
したがって、弁体に沿って流れる流体は、縮流部から逆曲率部へと流れて弁体を通過する。このとき、逆曲率部の周面はその縦断面形状が弁体の外部に中心を有する曲率の曲線になっているので、流れの方向を緩やかに変えて流体を流体通路の壁面に沿う方向、又は弁体から十分離れた位置で小さな角度で合流する方向に向けて流し、流体の流れが弁体に近い位置で大きな角度で衝突するのを防止する。
【0011】
また、請求項2記載の圧力脈動抑制弁は、縮流部と弁座との間の隙間によって流体の流量が決定されるものである。
【0012】
したがって、逆曲率部が流体の流量に影響を与えることがない。縮流部の周面はその縦断面形状が弁体の内部に中心を有する曲率の曲線になっており、この形状は既存設備に設置されている弁の弁体と共通する。このため、弁体のリフト量(弁の開度)と流体の流量との関係が既存設備に設置されている弁のものと同じになる。
【0013】
また、請求項3記載の圧力脈動抑制弁の弁体は、流体通路の壁面に設けられた弁座に対して弁座の軸線方向上流側から当接して流体通路を閉じる弁体であって、弁座に当接する部分を有し、周面の縦断面形状が弁体の内部に中心を有する曲率の曲線になっている縮流部と、縮流部から流体通路の下流側に向けて突出し、周面の縦断面形状が弁体の外部に中心を有する曲率の曲線になっている逆曲率部とを備え、縮流部と弁座との間の隙間によって流体の流量を決定するものである。
【0014】
したがって、弁体に沿って流れる流体は、縮流部から逆曲率部へと流れて弁体を通過する。このとき、逆曲率部の周面はその縦断面形状が弁体の外部に中心を有する曲率の曲線になっているので、流れの方向を緩やかに変えて流体を流体通路の壁面に沿う方向、又は弁体から十分離れた位置で小さな角度で合流する方向に向けて流し、流体の流れが弁体に近い位置で大きな角度で衝突するのを防止する。また、逆曲率部が流体の流量に影響を与えることがなく、しかも縮流部の周面はその縦断面形状が弁体の内部に中心を有する曲率の曲線になっていることから既存設備に設置されている弁の弁体の形状と共通するため、既に設置されている弁の弁体と交換しても、弁体のリフト量と流体の流量との関係を維持することができる。
【0015】
さらに、請求項4記載の弁の交換方法は、既存設備に設置されており、流体通路の壁面に設けられた弁座と、弁座に対して弁座の軸線方向上流側から当接して流体通路を閉じる弁体とを備える弁の交換方法において、弁座を交換することなく弁体を請求項3記載の圧力脈動抑制弁の弁体に交換するものである。したがって、既に設置されている弁の弁体と交換しても、弁体のリフト量と流体の流量との関係を維持することができる。
【発明の効果】
【0016】
しかして、請求項1記載の圧力脈動抑制弁では、上述のように構成しているので、流体を流体通路の壁面に沿う方向、又は弁体から十分離れた位置で小さな角度で合流する方向に流すことができる。このため、流体が弁体に近い位置で大きな角度で衝突するのを防止でき、この衝突に起因した圧力脈動を抑制することができる。この結果、中間開度での流体の圧力脈動を抑制することができ、圧力脈動による圧力感知センサの誤動作や、騒音、振動をより効果的に抑制することができる。
【0017】
また、請求項2記載の圧力脈動抑制弁では、上述のように構成しているので、弁体のリフト量と流体の流量との関係を既存設備に既に設置されている弁のものと同じにすることができる。このため、既存の弁を設置した設備と同じ弁開度で同じ出力を得ることができ、同じ方法で設備、プラントを運転することができる。
【0018】
また、請求項3記載の圧力脈動抑制弁の弁体では、上述のように構成しているので、流体を流体通路の壁面に沿う方向、又は弁体から十分離れた位置で小さな角度で合流する方向に流すことができる。このため、流体が弁体に近い位置で大きな角度で衝突するのを防止でき、この衝突に起因した圧力脈動を抑制することができる。この結果、中間開度での流体の圧力脈動を抑制することができ、圧力脈動による圧力感知センサの誤動作や、騒音、振動をより効果的に抑制することができる。そして、これらの効果は、既存設備に既に設置されている弁に対し、弁体のみの交換によって得ることができるので、交換作業が容易であり、また、交換に要する費用が安く済む。
【0019】
さらに、請求項4記載の弁の交換方法では、弁座を交換することなく弁体を請求項3記載の圧力脈動抑制弁の弁体に交換するので、交換作業が容易で、交換費用が安くすむにもかかわらず、圧力脈動の防止が十分考慮されていなかった既存設備の弁を、圧力脈動の防止が十分考慮された弁に交換することができる。つまり、簡単な作業、安いコストで、既存設備の弁を圧力脈動の抑制をより効果的に行うことができる弁に交換することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1に、本発明の圧力脈動抑制弁の実施形態の一例を示す。圧力脈動抑制弁1は、流体通路2の壁面3に設けられた弁座4と、弁座4に対して弁座4の軸線L3方向上流側から当接して流体通路2を閉じる弁体5とを備えている。弁体5は、弁座4に当接する部分(シート位置10)を有し、周面の縦断面形状が弁体5の内部に中心を有する曲率の曲線になっている縮流部6と、縮流部6から流体通路2の下流側に向けて突出し、周面の縦断面形状が弁体5の外部に中心を有する曲率の曲線になっている逆曲率部7とを備えている。
【0022】
本実施形態では、円筒部8の下流側に縮流部6が設けられ、縮流部6の周面の縦断面形状は、弁体5の内部のO点を中心とする半径Rの曲線となっている。一方、逆曲率部7の周面の縦断面形状は、弁体5の外部のO1点を中心とする半径R1の曲線となっている。また、逆曲率部7の下流側の部分7aの周面は、流体通路2の壁面3の直線部分3aと平行又は平行に近い角度に形成されている。さらに、逆曲率部7の先端は弁体5の軸線L1に対して垂直な平面である端面9となっている。即ち、逆曲率部7の下流側部分7aの周面は端面9に対して垂直又は垂直に近い角度に形成されている。端面9の直径(幅)Wは、圧力脈動抑制弁1が全開状態(図1は中間開度の状態を示す)になった場合に、弁体5の下流側部分7aが流体通路2の通路面積の最も狭い部分(スロート)になることが無いように設定されている。
【0023】
縮流部6と逆曲率部7との境界を、図1に符号L4で示す。また、境界L4の周面上の点を符号Aで示す。弁体5の縦断面において、A点はO点とO1点とを結ぶ線が弁体5の輪郭と交差する点である。境界L4より上流側の周面が半径Rの曲面、境界L4より下流側の周面が半径R1の曲面になっている。図中1点鎖線L2はOを通りL1に垂直な線を示し、境界L2から角度θの位置にA点が設けられている。縮流部6の下流側端と逆曲率部7の上流側端の直径は同じであり、縮流部6と逆曲率部7との間にはほぼ段差はなく、両者の周面は連続している。このため、流体をスムーズに流しながらその方向を変えることができる。
【0024】
シート位置10即ち閉弁時に弁座4に当接する位置は、縮流部6に設けられている。本実施形態では、縮流部6のA点の近傍、好ましくは角度θよりも若干小さい角度θ1の位置に設けられている。例えば、角度θは45度、角度θ1は41度である。
【0025】
この圧力脈動抑制弁1は、縮流部6と弁座4との間の隙間によって流体の流量を決定する。つまり、全閉状態から全開状態までの全開度において、流体通路2の流路面積が最も狭くなるのは縮流部6と弁座4との間であり、逆曲率部7と弁座4との間で流体通路2の流路面積が最も狭くならないようになっている。
【0026】
全閉状態では、弁体5は弁座4に当接しており、流体は流れない。この状態から弁体5がリフトすると、弁体5と弁座4の間から流体が流れ始める。弁体5に沿って流れる流体は、縮流部6から逆曲率部7へと流れて弁体5を通過する。このとき、逆曲率部7の周面はその縦断面形状が弁体5の外部に中心を有する曲率の曲線になっており、いわば逆曲率を付けた形状となっているので、流体を流体通路2の壁面3に沿う方向又は弁体5から十分離れた位置で小さな角度で合流する方向に向けて流し、流体の流れが弁体5に近い位置で大きな角度で衝突するのを防止する。
【0027】
ここで、逆曲率部7が無い弁(以下、通常弁という)を図2に示す。なお、図1に示す部材と同一の部材に同一の符号を付している。通常弁11は、例えば発電プラントの蒸気加減弁等、既存設備に既に設置されている一般的な弁である。通常弁11の弁体12の先端部分13は半径Rの半球形状を成しており、その一部分と圧力脈動抑制弁1の弁体5の縮流部6とは同形状である。また、通常弁11の弁座4と圧力脈動抑制弁1の弁座4も同形状である。つまり、通常弁11と圧力脈動抑制弁1とを比較すると、圧力脈動抑制弁1の弁体5に当該弁体5を下流側に延長するようにして逆曲率部7を設けた点で相違する。
【0028】
中間開度、例えば弁から流出する流体の圧力と弁に流入する流体の圧力の比(以下、流出/流入圧力比という)が約0.5以下の超音速流が発生する条件状態では、通常弁11については、図2に矢印で示すように、弁体12に沿う流れが弁体12に近い位置で大きな角度で衝突するように合流する。この位置での合流は、流れの向きが大きく異なるもの同士の合流であるため激しい衝突となり、圧力脈動を発生させる。これに対し、本発明の圧力脈動抑制弁1では逆曲率部7が逆曲率を付けた形状となっているので、弁体5に沿う流体の流れの向きを効果的に変化させ、衝突するような合流を防止することができるので、圧力脈動の発生を効果的に抑制することができる。このため、圧力脈動による圧力感知センサの誤動作や、騒音、振動をより効果的に抑制することができる。
【0029】
圧力脈動抑制弁1は、シート位置10を縮流部6に設けており、また、全閉状態から全開状態までの全開度において、流体通路2の流路面積が最も狭くなるのは縮流部6と弁座4との間であり、逆曲率部7と弁座4との間で流体通路2の流路面積が最も狭くならない。これらのため、圧力脈動抑制弁1の弁体5のリフト量と流体の流量の関係は、通常弁11の弁体12のリフト量と流体の流量と関係と同じになり、同じ弁開度で同じ出力を得ることができる。したがって、同じ運転方法で設備やプラントの運転を行うことができる。
【0030】
圧力脈動抑制弁1では、弁体5に沿う流れを弁体5の形状によって制御している。すなわち、弁座4の形状によらずに、逆曲率部7の形状によって弁体5に沿う流れを流体通路2の壁面3に沿う方向又は弁体5から十分離れた位置で小さな角度で合流する方向に向けている。このため、既存設備に設置されている弁を、本発明の圧力脈動抑制弁1に交換する場合、弁座4の交換を行う必要がなく、弁体5の交換を行えば足りる。このため、弁座4購入費用や、弁座4を交換するための配管工事費用が不要になり、また、交換作業自体も簡単なものとなるので、交換に要するコストが安く済む。
【0031】
即ち、弁体5を交換用の弁体としても良い。また、既存設備に設置されており、流体通路2の壁面3に設けられた弁座4と、弁座4に対して弁座4の軸線L3方向上流側から当接して流体通路2を閉じる弁体8とを備える弁の交換方法において、弁座4を交換することなく弁体8を上述の弁体5に交換する弁の交換方法としても良い。
【0032】
本発明の圧力脈動抑制弁1は、例えば発電プラントの蒸気系に設けられている蒸気加減弁として使用することができる。ただし、蒸気加減弁に限るものではなく、流体通路2の壁面3に設けられた弁座4と、弁座4に対して弁座4の軸線L3方向上流側から当接して流体通路2を閉じる弁体5を有する弁に適用可能である。
【0033】
また、流体の種類は特に制限されるものではなく、蒸気、ガス、空気など、気体、液体のいずれの流体でも適用可能である。
【0034】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述の説明では、中間開度で発生する圧力脈動を例にしていたが、中間開度で発生する圧力脈動に限るものではない。つまり、蒸気加減弁とは違う弁において中間開度以外の開度で同じ原理の圧力脈動が発生する場合にも適用できる。
【0035】
また、上述の説明では、縮流部6の周面の縦断面形状を半径が一定(半径R)の曲線としたが、半径が変化する曲線としても良い。また、上述の説明では、縮流部6の周面の縦断面形状を中心位置が一定(O点)の曲線としていたが、中心位置が変化する曲線としても良い。
【0036】
また、上述の説明では、逆曲率部7の周面の縦断面形状を半径が一定(半径R1)の曲線としたが、半径が変化する曲線としても良い。また、上述の説明では、逆曲率部7の周面の縦断面形状を中心位置が一定(O1点)の曲線としていたが、中心位置が変化する曲線としても良い。
【0037】
また、本発明は、弁座に対して該弁座の軸線方向上流側から当接して流体通路を閉じる弁体を備える全ての弁の弁体に対して適用可能であり、例えば図20や図21に示す弁のように、弁体と弁棒とを別々に形成して連結したタイプの弁についても適用可能である。
【実施例1】
【0038】
(1)発電プラント等の蒸気系の蒸気加減弁(図3)の中間開度での流体振動現象に関して、弁体周りの流れ場を高精度かつ安定に計算することができるCFDコードMATIS(Multi-Dimensional Accurately Time Integration Simulation)を使用して計算を行い、流体として空気を用いた弁体模擬実験を実施した。弁体の振動を考慮しない条件では、弁が中間開度の時に、弁体に流れが付着(弁体付着流、図4)し、それによって局所的なスパイク状の圧力脈動が発生して(図5)、それが配管の周方向に回転して弁に大きな変動力を与えることが新たに判明し、これが弁体の中間開度時に弁体・配管に生じる振動の原因の1つである事が分かった。
【0039】
次に、これらの圧力脈動の抑制方法について検討した。中間開度における圧力脈動は、弁体付着流の発生が周期的な圧力脈動を引き起こす原因であり、流れを弁座に付着させるか、付着せずに噴流の状態で下流へと流れていけば、弁体付着流が発生しないので、この変動を抑制できるといえる。そこで、幾つかの弁体・弁座の形状を用いて、中間開度時に弁体・弁座の形状が流れ場に与える影響を実験的に調べ、流れ場の乱れが少ない最適な弁体形状の提案を試みた。
【0040】
前述の通り、スパイク状の圧力脈動は、弁体に付着する流れ(弁体付着流)が原因である事が分かっている。流体が物体に沿って流れようとする効果(コアンダ効果)は、曲率半径の大きな方が大きくなるという事から考えると、弁座の曲率半径が弁体の曲率半径より大きい(弁体半径<弁座半径)と、流れが弁座側に沿いやすくなり、弁体付着流が発生しにくくなるといえる。
【0041】
まず、弁座の曲率半径変化の影響を見るために、弁座の曲率半径(即ち弁体と弁座の曲率半径比)をパラメータとして実験を行い、弁座形状のみを変化させた場合の流れ場に与える影響を調べた。次に、弁体そのものの形状を変更させ、積極的に弁体付着流を抑制した場合の効果を見るために、半球状の弁体の他に2種類の弁体を用意して幾つかの弁座形状で実験を行い、流れ場の変動の様子を調べた。その後、上述の実験結果から、スパイク状の圧力脈動を最も抑制できる形状を提案する事とした。
【0042】
(2)実機との対比
実際のプラントにおける主蒸気加減弁は直径数十cmで、流体も蒸気が用いられており、本実験とはスケール・作動流体が異なる(弁体径φ60、流体:空気)。また、圧力も実機では約7MPa、本実験は最大0.5MPaで異なり、弁形状も実験では実機の形状よりも単純化されている。そのため、実機における流れの状態を完全に再現する事は出来ないが、流れ場を支配するパラメータを実機に近づけ基本的な流れ場を模擬する事で、実機に起こりうる不安定現象を把握する事は可能であると言える。
【0043】
本実験で着目する現象は、超音速領域における流れ場の変動現象であるため、流入速度は流入圧力の大きさで決まるのではなく、流入圧力と流出圧力の比で決定される。更に、スロート部分で流れ場はチョークするので流量はスロート部分断面積で一意的に決定される。つまり、流入流量は弁体の開度によって決まる事となる。以上より、作動流体の違いを除くと、流れ場に最も影響を与えるパラメータは、流入圧力と流出圧力の比と弁体の開度であると考えられるため、これらの量を実機と合わせる事で、実機で起こりうる不安定現象を把握する事は可能であると考えられる。
【0044】
実際、実機での各出力の流れ場条件は、弁体の開度を弁体シート径(弁中心から弁体と弁座が接触する位置(シート位置)までの距離)で割ったリフト比と流出/流入圧力比によって表され、これらの量をパラメータとして実機と整合を取る事は妥当であると言える。
【0045】
スケールの違いによる影響に関しては、下流配管位置での流量と配管径を基にしたレイノルズ数が、実機も本研究のスケールも105以上であること、スパイク状の圧力脈動は弁体に流れが付着して生じる現象で、乱流が原因で生じる流動現象ではない事から考えて、弁体周辺の流れ場に与えるスケール(レイノルズ数)の影響はそこまで大きくないといえる。
【0046】
また、流体の違いによる影響であるが、空気と比べると蒸気は密度・音速などが異なる他、比熱などが温度・圧力などに大きく依存する、超音速状態の蒸気の急激な凝縮(凝縮衝撃波)による圧力の上昇が生じる、などがあるが、スパイク状の圧力脈動は流体自身の変動によって発生している現象であるため、発生領域などが若干異なる事はあっても流体に蒸気を用いた際にも発生する事は十分に考えられる。つまり、基本的な現象の把握をするために空気を用いる事は妥当であるといえる。
【0047】
以上より、リフト比と流出/流入圧力比を実機と合わせることで、基礎的な現象の把握としての空気によるスケール実験実施の妥当性は十分にあると言える。
【0048】
(3)中間開度における圧力脈動現象の抑制−弁座形状の影響−
弁座形状を変化させた時の流れ場の変化について述べる。なお、中間開度の時に弁体に生じる圧力脈動を表1に示す。
【0049】
【表1】
(3.1)実験の概要・条件
図6に実験装置の概略図(図6(a))及びテストセクションの拡大図(図6(b))を示す。蒸気加減弁を模擬した弁体・弁座を有するテストセクションに高圧の空気を送り込んで、外部へと放出される。また、弁体と弁座がちょうど接した部分を起点とし、そこから弁を開く方向に動かした距離をリフト量と定義する。
【0050】
図7に弁体(図7(a)〜(c))及び弁座(図7(d)〜(e))の拡大図を示す。本実験では、弁体の形状は半径30mmの半球形状の弁体を用いた。中心から30°の位置(半径15mmの位置)に周方向に90°間隔で4カ所の圧力測定用の孔を設けており、そのそれぞれをA1〜A4と呼ぶことにする。弁座は弁体と接する部分が、内側に凸の球面形状であり、曲面が終わる直下流部分に、弁体と同じ位置になるよう4カ所の静圧測定孔を設けている。そのそれぞれをB1〜B4と呼ぶことにする。
【0051】
図8(a)〜(d)に実験を行った弁座の形状を示す。弁座部の半径はr=21、30、39、90mmとなっており、弁座/弁体半径比はそれぞれ0.7、1.0、1.3、3.0となっている(シート径はそれぞれ49.2、50.8、52.0、55.4mm)。前述のように、スパイク状の圧力脈動は、弁体に付着する流れ(弁体付着流)が原因である事が分かったので、物体に沿って流れようとする効果(コアンダ効果)は、曲率半径のより大きな弁座ほど弁体付着流が抑制される事が予想される。パラメータとして、流入圧力を0.25、0.3、0.4、0.5MPa(流出/流入圧力比0.40、0.33、0.25、0.20)と変化させ、そのそれぞれの流入圧力において、小〜中間開度にあたるリフト比領域で、リフト量を変えて何点か計測を実施した。表2に実験の主な条件をまとめておく。なお、今回対象としているのは、流れ場がチョークして超音速流となる弁体の小〜中間開度時であるため、実験もチョーク状態となる小〜中間開度時のリフト比の範囲で実施した。
【表2】
【0052】
(3.2)実験結果
図9(a)〜(d)は、リフト量と流入圧力を軸として流れ場の状況を記した特性マップである。図中の×は流れ場にスパイク状の圧力脈動が発生しなかった条件、図中●は弁体部分にスパイク状の圧力脈動が発生した条件、図中○は弁座部分にスパイク状の圧力脈動が発生した条件である。また、記号の大きさは、変動の大きさを表している。変動の発生の有無は、測定した圧力の平均値と標準偏差σを求め、測定の平均値よりも3σ以上離れている値が、測定結果から判断して1.5%以上あるものを、変動が発生している条件とした。なお、弁座半径90mm(弁座/弁体半径比3.0)の時は、リフト量を0mmから増加させて実験した時はスパイク状の変動が発生し、大開度から減少させて実験した時は安定した流れ場になるというヒステリシスが見られたので、保守側の結果としてスパイク状の圧力脈動が発生した時の値を採用した。図から、今回実験を行った全ての弁座の形状において、特定のリフト量の領域でスパイク状の圧力脈動が発生し、流入圧力が小さいほど変動が発生するリフト量の領域が広く、その圧力脈動の大きさが小さくなっていることが分かる。また、全ての流入圧力条件において、圧力脈動が発生している時、変動の発生位置がリフト量の増加と共に弁体部分から弁座部分へと移行しており、圧力脈動の位置がリフト量の増加と共に配管壁面側に移動しているという事がここからも分かる。弁座形状の変化の影響を見てみると、弁座半径が21〜39mm(弁座/弁体半径比0.7〜1.3)の範囲では流れ場の状態に殆ど変化は見られない。弁座半径を90mm(弁座/弁体半径比3.0)まで大きくすることで、ようやくスパイク状の圧力脈動が発生する領域が狭くなり、その大きさも小さくなったが、完全にスパイク状の圧力脈動を抑制する事は出来なかった。
【0053】
図9のように、リフト量を横軸に取ると、圧力脈動の発生する領域が流入圧力に大きく依存しているため、リフト量から算出した質量流量を横軸として特性マップを描き直した。その図を図10に示す。図から、スパイク状の圧力脈動の発生する質量流量の領域は流入圧力にあまり依存せず、各弁座で領域の大小はあるものの、特定の質量流量領域でスパイク状の変動が発生している事が分かる。つまり、半球形状の弁体では、今回実験を行った全ての弁座でスパイク状の変動が発生するといえる。
【0054】
図11は、横軸を質量流量とした時の、弁体壁面静圧(A1〜A4)、及び弁座壁面静圧(B1〜B4)のR.M.S.振幅(二乗平均振幅)をプロットしたものである。弁体(A1〜A4)の圧力脈動を見てみると、弁座半径90mm(弁座/弁体半径比3.0)以外の弁座形状では、0.1kg/s付近で圧力脈動のピークを持ち、その後、なだらかに減衰している。また、弁座側の圧力脈動(B1〜B4)を見ると、0.2kg/s近傍でピークを持っている。つまり、流量の増加と共に、圧力脈動のピークが弁体側から弁座側へと移動していると考えられる。これは、図10と同様の結果となっており、R.M.S.振幅のピークはスパイク状の圧力脈動が原因であると考えられる。弁座半径90mm(弁座/弁体半径比3.0)では、スパイク状の圧力脈動が発生しない流入圧力0.25MPaの時は、R.M.S.振幅は全域において小さな値であり、その他の流入圧力でも若干の振幅の盛り上がりはあるものの、他の弁座に比べるとR.M.S.振幅は小さくなっており、スパイク状の圧力脈動の発生領域も狭くなっているといえる。以上より、弁座半径を大きく変化させる事でスパイク状の発生領域は狭くなり、また、その振幅も小さくなる事が判明したが、今回実施した弁座半径では、スパイク状の圧力脈動を完全に抑制できる事は出来なかった。言い換えると、半球状の弁体形状では、弁座/弁体半径比を3.0にまで大きくしてもスパイク状の圧力脈動を抑制できないため、極端に弁体形状を変更できない場合には新たな弁体形状を提案する必要があると言える。
【0055】
(4)中間開度における圧力脈動現象の抑制−弁体形状の影響−
弁体形状を変化させた時の流れ場の変化について述べる。
【0056】
(4.1)実験の概要・条件
図12(a)〜(b)に、実験を実施した弁体形状の概略図を示す。弁体は、半球状の弁体形状(通常弁、normal valve)の他に、通常弁と同形状で45°の位置で切り落とした切断弁(cut valve)、45°の位置まで通常弁と同形状でその後の部分を半径18.4mmで逆に曲率半径を付けた延長弁(extendedvalve)の3種類である。前記(1)で述べたように、弁体形状を変更する事で積極的に弁体付着流を抑制する事を目的としているので、
(a)弁体に流れが沿う事のないようにする(切断弁、cut valve)
(b)弁体に流れが沿ったとしても、弁体通過後の流れが衝突することなく下流へと流れていく(延長弁、extended valve)
という考え方で2形状を決めた。ただし、シート径は通常弁と同じであり、リフト量に対して流れる質量流量は3形状とも同じである。また、弁座の形状に関しては、弁座/弁体半径比が最も小さな弁座(弁座半径=21mm、弁座/弁体半径比=0.7)形状と、最も弁座/弁体半径比が大きな弁座半径90mm(弁座/弁体半径比=3.0)の2種類で実験を実施した。新形状弁はその形状から弁体部に静圧孔を設けても乱れの少ない超音速領域しか測定できないため、以降の結果で示される圧力脈動は全て弁座壁面側(B1〜B4)の値である。
【0057】
(4.2)実験結果−弁座半径21mm(弁座/弁体半径比=0.7)−
図13(a)〜(c)は質量流量と流入圧力を軸として流れ場の状況を記した特性マップである。図中の×は流れ場にスパイク状の圧力脈動が発生しなかった条件、図中○は弁座部分にスパイク状の圧力脈動が発生した条件である(弁体部には静圧孔を設けていないため、弁体部に変動が発生した条件は考慮していない)。また、記号の大きさは、変動の大きさを表している。図から、切断弁の変動発生領域は、弁座半径が21mm(弁座/弁体半径比0.7)の弁座での実験では、通常弁でスパイク状の圧力脈動が発生している領域と殆ど変化が無く、その変動の大きさにもあまり差がない。一方、延長弁では測定した全域においてスパイク状の圧力脈動は発生しておらず、安定した流れ場を形成している。
【0058】
図14は、それぞれの弁体の圧力のR.M.S.振幅である。先述のように、切断弁は弁座半径が小さいと通常弁と殆ど変わらない流れ場の特性を示すため、R.M.S.振幅も通常弁と殆ど変わらないことがこの図からも分かる。また、延長弁に関しては流れ場に大きな圧力脈動が発生しないために小さな振幅となっている事が分かる。
【0059】
この状態の流れ場を確認するために、流入圧力0.5MPa、リフト量1.6mmの条件(通常弁でスパイク状の圧力脈動が発生する条件)において、3次元流体解析コードMATISで切断弁・延長弁の流れ場を計算した。その時の計算格子を図15に、マッハ数等高線と静圧の分布を図16に示す。図から、切断弁では、弁体を通過した流れが噴流となって互いに衝突している様子が分かる。また、それによって流れが偏って局所的な高圧が発生している。一方、延長弁では流れが強制的に弁座に付着させられており、噴流同士の衝突が起きていないため、大きな圧力脈動が生じていない。これらの理由として、弁体先端を切り取って弁体付着流を作らない切断弁でも、弁座側の曲率半径が弁体側より小さい、つまり弁座半径<弁体半径の時には流れが配管中心方向に向かってしまい、弁体通過後の噴流が下流へとスムーズに流れずに、噴流同士が衝突して圧力脈動が生じてしまう。一方、流れを強制的に弁座側へと沿わせる延長弁では、弁体通過後の噴流同士を衝突させる事はないので圧力脈動が生じない、という事が考えられる。また、延長弁に関しては流れ場に大きな圧力脈動が発生しないために小さな振幅となっている事が分かる。
【0060】
以上より、弁座半径が21mm(弁座/弁体半径比0.7)の時は、切断弁では流れが弁座側に沿いにくい為に弁体通過後の噴流が互いに衝突して通常弁と変わらない流れ場の傾向となり、延長弁では強制的に弁座付着流を形成するために流れ場に大きな圧力脈動が発生しない事が判明した。また、大きな圧力脈動が発生しない延長弁の流れ場では、スパイク状の圧力脈動が発生する通常弁や切断弁と比べるとその振幅がかなり小さくなる事も判明した。
【0061】
(4.3)実験結果−弁座半径90mm(弁座/弁体半径比=3.0)−
図17(a)〜(c)は質量流量と流入圧力を軸として流れ場の状況を記した特性マップである。図中の×は流れ場にスパイク状の圧力脈動が発生しなかった条件、図中○は弁座部分にスパイク状の圧力脈動が発生した条件である(弁体部には静圧孔を設けていないため、弁体部に変動が発生した条件は考慮していない)。また、記号の大きさは、変動の大きさを表している。図から、切断弁・延長弁ともに実験の範囲全域でスパイク状の圧力脈動は発生しておらず、安定した流れ場を形成している事が分かる。
【0062】
図18は、各弁体の圧力のR.M.S.振幅である。通常弁では、前述の通り弁座半径90mmの時に、リフト増加時と減少時でヒステリシスが見られたので、リフト増加時と減少時でR.M.S.振幅が異なっている。図から、切断弁・延長弁のR.M.S.振幅は、通常弁のリフト減少時、つまりスパイク状の圧力脈動が発生していない安定な流れ場の時とほぼ同じ値となっていて低い振幅となっており、切断弁・延長弁ともスパイク状の圧力脈動が発生しておらず、安定な流れ場を形成しているといえる。
【0063】
この状態の流れ場を確認するために、先ほどと同様にMATISコードを用いて計算を実施して流れ場の状況を確認した。その時のマッハ数等高線と静圧の分布を図19に示す。図から分かるように、切断弁・延長弁共に弁座付着流となって噴流は衝突せずに安定した流れ場を形成している。これらから考えて、切断弁は、弁座半径が21mm(弁座/弁体半径比=0.7)の時には通常弁と同様の傾向であったが、弁座半径が90mmと大きくなった事で、流れが弁座側に沿いやすくなって弁座付着流となり、噴流が衝突しなくなったために安定な流れ場になったと考えられる。
【0064】
以上より、弁座半径が90mm(弁座/弁体半径比3.0)の時は、切断弁・延長弁ともに弁座付着流を形成し、スパイク状の圧力脈動が発生しない安定した流れ場となる事が判明した。
【0065】
(5)中間開度での圧力脈動に対する弁体・弁座形状の影響のまとめ
表3に弁体・弁座形状が流れ場に与える影響をまとめておく。表からも明らかなように、通常弁では弁座形状を大きく変更(弁座/弁体半径比0.7→3.0)しても、弁体付着流によるスパイク状の圧力脈動を抑制する事が出来ない。また、切断弁では弁座/弁体半径比が3.0の時には弁体付着流を抑制する事は出来たが、弁座/弁体半径比0.7の時は、通常弁とほぼ同じ領域でスパイク状の圧力脈動が発生している。しかし、長尺弁を用いることで、弁座/弁体半径比に関係なく弁体付着流を抑制でき、安定した流れ場を形成できる事が判明した。
【表3】
【0066】
以上から、弁の中間開度時に発生する弁体付着流によるスパイク状の圧力脈動を最も効果的に抑制できる弁形状は、流れの方向を強制的に変更させる延長弁であることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の圧力脈動抑制弁の実施形態の一例を示す縦断面図である。
【図2】既存設備に設置されている弁の縦断面図である。
【図3】既存設備に設置されている蒸気加減弁の中間開度における概略図である。
【図4】圧力分布と速度ベクトルを説明するための図で、(a)は安定な流れ場についての図、(b)は不安定な流れ場についての図である。
【図5】スパイク状の圧力脈動の伝播を説明するための図で、(a)は弁座壁面のB1〜B4点の位置を説明する図、(b)は弁座壁面のB1点における圧力の時間履歴を示す図、(c)は弁座壁面のB2点における圧力の時間履歴を示す図、(d)は弁座壁面のB3点における圧力の時間履歴を示す図、(e)は弁座壁面のB4点における圧力の時間履歴を示す図である。
【図6】(a)は実験装置の概要図、(b)は(a)の要部の拡大図である。
【図7】(a)〜(c)は弁体の静圧測定位置を示し、(a)は弁体の縦断面図、(b)は弁体の側面図、(c)は弁体の底面図であり、(d)〜(e)は弁座の静圧測定位置を示し、(d)は弁座の縦断面図、(e)は弁座の底面図である。
【図8】弁座形状の概略を示し、(a)は半径21mmの弁座形状を示す縦断面図、(b)は半径30mmの弁座形状を示す縦断面図、(c)は半径39mmの弁座形状を示す縦断面図、(d)は半径90mmの弁座形状を示す縦断面図である。
【図9】リフト量と流入圧力を軸として流れ場の状況を記した特性マップで、(a)は弁座半径が21mmの場合の特性マップ、(b)は弁座半径が30mmの場合の特性マップ、(c)は弁座半径が39mmの場合の特性マップ、(d)は弁座半径が90mmの場合の特性マップである。
【図10】図9のマップを質量流量を横軸として描き直した特性マップで、(a)は弁座半径が21mmの場合の特性マップ、(b)は弁座半径が30mmの場合の特性マップ、(c)は弁座半径が39mmの場合の特性マップ、(d)は弁座半径が90mmの場合の特性マップである。
【図11】各位置A1〜A4,B1〜B4における圧力脈動のR.M.S.振幅(横軸:質量流量)を示す図である。
【図12】実験に使用した弁体の形状を示し、(a)は通常弁の縦断面図、(b)は切断弁の縦断面図、(c)は延長弁の縦断面図である。
【図13】質量流量と流入圧力を軸として流れ場の状況を記した特性マップ(弁座半径21mm(弁座/弁体半径比0.7))で、(a)は通常弁の特性マップ、(b)は切断弁の特性マップ、(c)は延長弁の特性マップである。なお、比較のため弁体部分での圧力脈動発生は考慮していない。
【図14】圧力脈動のR.M.S.振幅(横軸:質量流量)を示す図(弁座半径21mm(弁座/弁体半径比0.7))である。
【図15】MATISコード用計算格子を示す図である。
【図16】マッハ数等高線と静圧の分布を示す図(弁座半径21mm(弁座/弁体半径比0.7))である。
【図17】質量流量と流入圧力を軸として流れ場の状況を記した特性マップ(弁座半径90mm(弁座/弁体半径比3.0))で、(a)は通常弁の特性マップ、(b)は切断弁の特性マップ、(c)は延長弁の特性マップである。なお、比較のため弁体部分での圧力脈動発生は考慮していない。
【図18】圧力脈動のR.M.S.振幅(横軸:質量流量)を示す図(弁座半径90mm(弁座/弁体半径比3.0))である。
【図19】マッハ数等高線と静圧の分布を示す図(弁座半径90mm(弁座/弁体半径比3.0))である。
【図20】従来の蒸気加減弁の縦断面図である。
【図21】従来の他の蒸気加減弁の縦断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 圧力脈動抑制弁
2 流体通路
3 流体通路の壁面
4 弁座
5 弁体
6 縮流部
7 逆曲率部
10 シート位置(弁座に当接する部分)
L3 弁座の軸線
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力脈動抑制弁、圧力脈動抑制弁の弁体、および弁の交換方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、弁座に弁体を押し付けることで流体通路を閉じると共に、弁体のリフト量を変えることで流体の流量を変化させるタイプの弁とその弁体、および、既存設備に既に設置されている弁であって、弁座に弁体を押し付けることで流体通路を閉じると共に、弁体のリフト量を変えることで流体の流量を変化させるタイプの弁の交換方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、発電プラントの蒸気系の蒸気加減弁では、中間開度において振動が発生することが知られている。従来、このような振動を抑制するための蒸気加減弁として、例えば特公昭58−44909号公報に開示されたものがある。この蒸気加減弁を図20に示す。蒸気加減弁101の弁体102の先端部分は、半球体の先端を流体通路103の軸線方向に対して垂直に切断した形状を成しており、その先端面に凹部108を形成することで全周にわたってエッジ部104を形成している。また、弁座105は、弁体102と当たる部分の付近では流体通路103を絞る形状を成しているが、その下流側は滑らかな曲線を有しながら徐々に広がる形状を成している。
【0003】
この蒸気加減弁101は、中間開度において、流体の流れが短周期で繰り返し変化することに起因した振動を防止することを目的としたものである。つまり、蒸気加減弁101の中間開度においては、弁体102に沿って流れていた流体がそのまま弁体102に沿って流れる場合と、途中で弁体102側から剥離して弁座105側に沿って流れる場合とがあり、両者の流れが交互に切り換えられて繰り返されることで振動が発生すると考えられており、このような振動の発生防止を蒸気加減弁101は目的としている。このため、弁体102のエッジ部104を、弁体102に沿う流れが弁体102から剥離する剥離点よりも上流側に形成し、流体が安定して流れるようにすることで、振動の発生防止を図っている。
【0004】
また、特公昭58−44909号公報において、従来技術として紹介されている蒸気加減弁106を図21に示す。この蒸気加減弁106の弁座107は、図20の蒸気加減弁101の弁座105とは異なった形状を成している。このため、既存の設備に図21の蒸気加減弁106が既に設置されていた場合、この蒸気加減弁106を中間開度における振動を防止するために図20の蒸気加減弁101に交換するには、弁体102のみならず弁座105をも交換する必要があり、このため、弁座105を設置する配管ごと交換する必要がある。
【0005】
【特許文献1】特公昭58−44909号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の蒸気加減弁101のようにエッジを有する弁体では、弁体と弁座の曲率比によっては流れの振動が発生する可能性がある。また、既存設備に設置されている蒸気加減弁106を交換するためには、弁座105ごとの交換が必要であるため、弁座105を設置する配管も交換する必要があり、交換作業が大掛かりなものとなって交換に要する費用が高かった。また、弁座105ごと交換することから、交換によって弁体102のリフト量と流体の流量との関係が変化し、交換前と同じ運転方法で発電プラントを運転することができなかった。
【0007】
本発明は、新しい知見に基づき中間開度で発生する振動を効果的に抑制することができる圧力脈動抑制弁とその弁体102を提供することを目的とする。また、振動抑制を十分考慮していなかった既存設備の弁を新しいものと交換する際、弁体のリフト量と流体の流量の関係を変えることがない弁の交換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、例えば蒸気加減弁等の中間開度における振動をより効果的に防止すべく鋭意研究を行った結果、振動の原因が2種類の流れが短周期で切り換わることによるものではなく、弁体に沿う流れが合流する際の衝突による圧力脈動によるものであることを突き止めた。即ち、流体の流れは弁体の全周にわたって発生し、弁体を通過して合流する。このとき、中間開度においては、弁体を通過する流れは弁体に沿う流れとなり、弁体に比較的近い位置で衝突し、局所的な高圧領域が発生する。この局所的な高圧領域は常に一定の位置にとどまるものではなく、弁体の周方向に移動し、しかもその移動方向は突然逆方向になるので、高圧領域が不規則に変化することになり、これによって圧力脈動が生じて振動を発生させることを見出した。そして、このような圧力脈動を抑えることについて鋭意研究を継続し、弁体の下流側部分の形状を延長すると共に、この延長部分を従来の形状とは逆方向の曲率を付けた形状にすることで、圧力脈動をより効果的に抑制できることを知見し、本発明に到達したものである。
【0009】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の圧力脈動抑制弁は、流体通路の壁面に設けられた弁座と、弁座に対して弁座の軸線方向上流側から当接して流体通路を閉じる弁体とを備え、弁体は、弁座に当接する部分を有し、周面の縦断面形状が弁体の内部に中心を有する曲率の曲線になっている縮流部と、縮流部から流体通路の下流側に向けて突出し、周面の縦断面形状が弁体の外部に中心を有する曲率の曲線になっている逆曲率部とを備えるものである。
【0010】
したがって、弁体に沿って流れる流体は、縮流部から逆曲率部へと流れて弁体を通過する。このとき、逆曲率部の周面はその縦断面形状が弁体の外部に中心を有する曲率の曲線になっているので、流れの方向を緩やかに変えて流体を流体通路の壁面に沿う方向、又は弁体から十分離れた位置で小さな角度で合流する方向に向けて流し、流体の流れが弁体に近い位置で大きな角度で衝突するのを防止する。
【0011】
また、請求項2記載の圧力脈動抑制弁は、縮流部と弁座との間の隙間によって流体の流量が決定されるものである。
【0012】
したがって、逆曲率部が流体の流量に影響を与えることがない。縮流部の周面はその縦断面形状が弁体の内部に中心を有する曲率の曲線になっており、この形状は既存設備に設置されている弁の弁体と共通する。このため、弁体のリフト量(弁の開度)と流体の流量との関係が既存設備に設置されている弁のものと同じになる。
【0013】
また、請求項3記載の圧力脈動抑制弁の弁体は、流体通路の壁面に設けられた弁座に対して弁座の軸線方向上流側から当接して流体通路を閉じる弁体であって、弁座に当接する部分を有し、周面の縦断面形状が弁体の内部に中心を有する曲率の曲線になっている縮流部と、縮流部から流体通路の下流側に向けて突出し、周面の縦断面形状が弁体の外部に中心を有する曲率の曲線になっている逆曲率部とを備え、縮流部と弁座との間の隙間によって流体の流量を決定するものである。
【0014】
したがって、弁体に沿って流れる流体は、縮流部から逆曲率部へと流れて弁体を通過する。このとき、逆曲率部の周面はその縦断面形状が弁体の外部に中心を有する曲率の曲線になっているので、流れの方向を緩やかに変えて流体を流体通路の壁面に沿う方向、又は弁体から十分離れた位置で小さな角度で合流する方向に向けて流し、流体の流れが弁体に近い位置で大きな角度で衝突するのを防止する。また、逆曲率部が流体の流量に影響を与えることがなく、しかも縮流部の周面はその縦断面形状が弁体の内部に中心を有する曲率の曲線になっていることから既存設備に設置されている弁の弁体の形状と共通するため、既に設置されている弁の弁体と交換しても、弁体のリフト量と流体の流量との関係を維持することができる。
【0015】
さらに、請求項4記載の弁の交換方法は、既存設備に設置されており、流体通路の壁面に設けられた弁座と、弁座に対して弁座の軸線方向上流側から当接して流体通路を閉じる弁体とを備える弁の交換方法において、弁座を交換することなく弁体を請求項3記載の圧力脈動抑制弁の弁体に交換するものである。したがって、既に設置されている弁の弁体と交換しても、弁体のリフト量と流体の流量との関係を維持することができる。
【発明の効果】
【0016】
しかして、請求項1記載の圧力脈動抑制弁では、上述のように構成しているので、流体を流体通路の壁面に沿う方向、又は弁体から十分離れた位置で小さな角度で合流する方向に流すことができる。このため、流体が弁体に近い位置で大きな角度で衝突するのを防止でき、この衝突に起因した圧力脈動を抑制することができる。この結果、中間開度での流体の圧力脈動を抑制することができ、圧力脈動による圧力感知センサの誤動作や、騒音、振動をより効果的に抑制することができる。
【0017】
また、請求項2記載の圧力脈動抑制弁では、上述のように構成しているので、弁体のリフト量と流体の流量との関係を既存設備に既に設置されている弁のものと同じにすることができる。このため、既存の弁を設置した設備と同じ弁開度で同じ出力を得ることができ、同じ方法で設備、プラントを運転することができる。
【0018】
また、請求項3記載の圧力脈動抑制弁の弁体では、上述のように構成しているので、流体を流体通路の壁面に沿う方向、又は弁体から十分離れた位置で小さな角度で合流する方向に流すことができる。このため、流体が弁体に近い位置で大きな角度で衝突するのを防止でき、この衝突に起因した圧力脈動を抑制することができる。この結果、中間開度での流体の圧力脈動を抑制することができ、圧力脈動による圧力感知センサの誤動作や、騒音、振動をより効果的に抑制することができる。そして、これらの効果は、既存設備に既に設置されている弁に対し、弁体のみの交換によって得ることができるので、交換作業が容易であり、また、交換に要する費用が安く済む。
【0019】
さらに、請求項4記載の弁の交換方法では、弁座を交換することなく弁体を請求項3記載の圧力脈動抑制弁の弁体に交換するので、交換作業が容易で、交換費用が安くすむにもかかわらず、圧力脈動の防止が十分考慮されていなかった既存設備の弁を、圧力脈動の防止が十分考慮された弁に交換することができる。つまり、簡単な作業、安いコストで、既存設備の弁を圧力脈動の抑制をより効果的に行うことができる弁に交換することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1に、本発明の圧力脈動抑制弁の実施形態の一例を示す。圧力脈動抑制弁1は、流体通路2の壁面3に設けられた弁座4と、弁座4に対して弁座4の軸線L3方向上流側から当接して流体通路2を閉じる弁体5とを備えている。弁体5は、弁座4に当接する部分(シート位置10)を有し、周面の縦断面形状が弁体5の内部に中心を有する曲率の曲線になっている縮流部6と、縮流部6から流体通路2の下流側に向けて突出し、周面の縦断面形状が弁体5の外部に中心を有する曲率の曲線になっている逆曲率部7とを備えている。
【0022】
本実施形態では、円筒部8の下流側に縮流部6が設けられ、縮流部6の周面の縦断面形状は、弁体5の内部のO点を中心とする半径Rの曲線となっている。一方、逆曲率部7の周面の縦断面形状は、弁体5の外部のO1点を中心とする半径R1の曲線となっている。また、逆曲率部7の下流側の部分7aの周面は、流体通路2の壁面3の直線部分3aと平行又は平行に近い角度に形成されている。さらに、逆曲率部7の先端は弁体5の軸線L1に対して垂直な平面である端面9となっている。即ち、逆曲率部7の下流側部分7aの周面は端面9に対して垂直又は垂直に近い角度に形成されている。端面9の直径(幅)Wは、圧力脈動抑制弁1が全開状態(図1は中間開度の状態を示す)になった場合に、弁体5の下流側部分7aが流体通路2の通路面積の最も狭い部分(スロート)になることが無いように設定されている。
【0023】
縮流部6と逆曲率部7との境界を、図1に符号L4で示す。また、境界L4の周面上の点を符号Aで示す。弁体5の縦断面において、A点はO点とO1点とを結ぶ線が弁体5の輪郭と交差する点である。境界L4より上流側の周面が半径Rの曲面、境界L4より下流側の周面が半径R1の曲面になっている。図中1点鎖線L2はOを通りL1に垂直な線を示し、境界L2から角度θの位置にA点が設けられている。縮流部6の下流側端と逆曲率部7の上流側端の直径は同じであり、縮流部6と逆曲率部7との間にはほぼ段差はなく、両者の周面は連続している。このため、流体をスムーズに流しながらその方向を変えることができる。
【0024】
シート位置10即ち閉弁時に弁座4に当接する位置は、縮流部6に設けられている。本実施形態では、縮流部6のA点の近傍、好ましくは角度θよりも若干小さい角度θ1の位置に設けられている。例えば、角度θは45度、角度θ1は41度である。
【0025】
この圧力脈動抑制弁1は、縮流部6と弁座4との間の隙間によって流体の流量を決定する。つまり、全閉状態から全開状態までの全開度において、流体通路2の流路面積が最も狭くなるのは縮流部6と弁座4との間であり、逆曲率部7と弁座4との間で流体通路2の流路面積が最も狭くならないようになっている。
【0026】
全閉状態では、弁体5は弁座4に当接しており、流体は流れない。この状態から弁体5がリフトすると、弁体5と弁座4の間から流体が流れ始める。弁体5に沿って流れる流体は、縮流部6から逆曲率部7へと流れて弁体5を通過する。このとき、逆曲率部7の周面はその縦断面形状が弁体5の外部に中心を有する曲率の曲線になっており、いわば逆曲率を付けた形状となっているので、流体を流体通路2の壁面3に沿う方向又は弁体5から十分離れた位置で小さな角度で合流する方向に向けて流し、流体の流れが弁体5に近い位置で大きな角度で衝突するのを防止する。
【0027】
ここで、逆曲率部7が無い弁(以下、通常弁という)を図2に示す。なお、図1に示す部材と同一の部材に同一の符号を付している。通常弁11は、例えば発電プラントの蒸気加減弁等、既存設備に既に設置されている一般的な弁である。通常弁11の弁体12の先端部分13は半径Rの半球形状を成しており、その一部分と圧力脈動抑制弁1の弁体5の縮流部6とは同形状である。また、通常弁11の弁座4と圧力脈動抑制弁1の弁座4も同形状である。つまり、通常弁11と圧力脈動抑制弁1とを比較すると、圧力脈動抑制弁1の弁体5に当該弁体5を下流側に延長するようにして逆曲率部7を設けた点で相違する。
【0028】
中間開度、例えば弁から流出する流体の圧力と弁に流入する流体の圧力の比(以下、流出/流入圧力比という)が約0.5以下の超音速流が発生する条件状態では、通常弁11については、図2に矢印で示すように、弁体12に沿う流れが弁体12に近い位置で大きな角度で衝突するように合流する。この位置での合流は、流れの向きが大きく異なるもの同士の合流であるため激しい衝突となり、圧力脈動を発生させる。これに対し、本発明の圧力脈動抑制弁1では逆曲率部7が逆曲率を付けた形状となっているので、弁体5に沿う流体の流れの向きを効果的に変化させ、衝突するような合流を防止することができるので、圧力脈動の発生を効果的に抑制することができる。このため、圧力脈動による圧力感知センサの誤動作や、騒音、振動をより効果的に抑制することができる。
【0029】
圧力脈動抑制弁1は、シート位置10を縮流部6に設けており、また、全閉状態から全開状態までの全開度において、流体通路2の流路面積が最も狭くなるのは縮流部6と弁座4との間であり、逆曲率部7と弁座4との間で流体通路2の流路面積が最も狭くならない。これらのため、圧力脈動抑制弁1の弁体5のリフト量と流体の流量の関係は、通常弁11の弁体12のリフト量と流体の流量と関係と同じになり、同じ弁開度で同じ出力を得ることができる。したがって、同じ運転方法で設備やプラントの運転を行うことができる。
【0030】
圧力脈動抑制弁1では、弁体5に沿う流れを弁体5の形状によって制御している。すなわち、弁座4の形状によらずに、逆曲率部7の形状によって弁体5に沿う流れを流体通路2の壁面3に沿う方向又は弁体5から十分離れた位置で小さな角度で合流する方向に向けている。このため、既存設備に設置されている弁を、本発明の圧力脈動抑制弁1に交換する場合、弁座4の交換を行う必要がなく、弁体5の交換を行えば足りる。このため、弁座4購入費用や、弁座4を交換するための配管工事費用が不要になり、また、交換作業自体も簡単なものとなるので、交換に要するコストが安く済む。
【0031】
即ち、弁体5を交換用の弁体としても良い。また、既存設備に設置されており、流体通路2の壁面3に設けられた弁座4と、弁座4に対して弁座4の軸線L3方向上流側から当接して流体通路2を閉じる弁体8とを備える弁の交換方法において、弁座4を交換することなく弁体8を上述の弁体5に交換する弁の交換方法としても良い。
【0032】
本発明の圧力脈動抑制弁1は、例えば発電プラントの蒸気系に設けられている蒸気加減弁として使用することができる。ただし、蒸気加減弁に限るものではなく、流体通路2の壁面3に設けられた弁座4と、弁座4に対して弁座4の軸線L3方向上流側から当接して流体通路2を閉じる弁体5を有する弁に適用可能である。
【0033】
また、流体の種類は特に制限されるものではなく、蒸気、ガス、空気など、気体、液体のいずれの流体でも適用可能である。
【0034】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述の説明では、中間開度で発生する圧力脈動を例にしていたが、中間開度で発生する圧力脈動に限るものではない。つまり、蒸気加減弁とは違う弁において中間開度以外の開度で同じ原理の圧力脈動が発生する場合にも適用できる。
【0035】
また、上述の説明では、縮流部6の周面の縦断面形状を半径が一定(半径R)の曲線としたが、半径が変化する曲線としても良い。また、上述の説明では、縮流部6の周面の縦断面形状を中心位置が一定(O点)の曲線としていたが、中心位置が変化する曲線としても良い。
【0036】
また、上述の説明では、逆曲率部7の周面の縦断面形状を半径が一定(半径R1)の曲線としたが、半径が変化する曲線としても良い。また、上述の説明では、逆曲率部7の周面の縦断面形状を中心位置が一定(O1点)の曲線としていたが、中心位置が変化する曲線としても良い。
【0037】
また、本発明は、弁座に対して該弁座の軸線方向上流側から当接して流体通路を閉じる弁体を備える全ての弁の弁体に対して適用可能であり、例えば図20や図21に示す弁のように、弁体と弁棒とを別々に形成して連結したタイプの弁についても適用可能である。
【実施例1】
【0038】
(1)発電プラント等の蒸気系の蒸気加減弁(図3)の中間開度での流体振動現象に関して、弁体周りの流れ場を高精度かつ安定に計算することができるCFDコードMATIS(Multi-Dimensional Accurately Time Integration Simulation)を使用して計算を行い、流体として空気を用いた弁体模擬実験を実施した。弁体の振動を考慮しない条件では、弁が中間開度の時に、弁体に流れが付着(弁体付着流、図4)し、それによって局所的なスパイク状の圧力脈動が発生して(図5)、それが配管の周方向に回転して弁に大きな変動力を与えることが新たに判明し、これが弁体の中間開度時に弁体・配管に生じる振動の原因の1つである事が分かった。
【0039】
次に、これらの圧力脈動の抑制方法について検討した。中間開度における圧力脈動は、弁体付着流の発生が周期的な圧力脈動を引き起こす原因であり、流れを弁座に付着させるか、付着せずに噴流の状態で下流へと流れていけば、弁体付着流が発生しないので、この変動を抑制できるといえる。そこで、幾つかの弁体・弁座の形状を用いて、中間開度時に弁体・弁座の形状が流れ場に与える影響を実験的に調べ、流れ場の乱れが少ない最適な弁体形状の提案を試みた。
【0040】
前述の通り、スパイク状の圧力脈動は、弁体に付着する流れ(弁体付着流)が原因である事が分かっている。流体が物体に沿って流れようとする効果(コアンダ効果)は、曲率半径の大きな方が大きくなるという事から考えると、弁座の曲率半径が弁体の曲率半径より大きい(弁体半径<弁座半径)と、流れが弁座側に沿いやすくなり、弁体付着流が発生しにくくなるといえる。
【0041】
まず、弁座の曲率半径変化の影響を見るために、弁座の曲率半径(即ち弁体と弁座の曲率半径比)をパラメータとして実験を行い、弁座形状のみを変化させた場合の流れ場に与える影響を調べた。次に、弁体そのものの形状を変更させ、積極的に弁体付着流を抑制した場合の効果を見るために、半球状の弁体の他に2種類の弁体を用意して幾つかの弁座形状で実験を行い、流れ場の変動の様子を調べた。その後、上述の実験結果から、スパイク状の圧力脈動を最も抑制できる形状を提案する事とした。
【0042】
(2)実機との対比
実際のプラントにおける主蒸気加減弁は直径数十cmで、流体も蒸気が用いられており、本実験とはスケール・作動流体が異なる(弁体径φ60、流体:空気)。また、圧力も実機では約7MPa、本実験は最大0.5MPaで異なり、弁形状も実験では実機の形状よりも単純化されている。そのため、実機における流れの状態を完全に再現する事は出来ないが、流れ場を支配するパラメータを実機に近づけ基本的な流れ場を模擬する事で、実機に起こりうる不安定現象を把握する事は可能であると言える。
【0043】
本実験で着目する現象は、超音速領域における流れ場の変動現象であるため、流入速度は流入圧力の大きさで決まるのではなく、流入圧力と流出圧力の比で決定される。更に、スロート部分で流れ場はチョークするので流量はスロート部分断面積で一意的に決定される。つまり、流入流量は弁体の開度によって決まる事となる。以上より、作動流体の違いを除くと、流れ場に最も影響を与えるパラメータは、流入圧力と流出圧力の比と弁体の開度であると考えられるため、これらの量を実機と合わせる事で、実機で起こりうる不安定現象を把握する事は可能であると考えられる。
【0044】
実際、実機での各出力の流れ場条件は、弁体の開度を弁体シート径(弁中心から弁体と弁座が接触する位置(シート位置)までの距離)で割ったリフト比と流出/流入圧力比によって表され、これらの量をパラメータとして実機と整合を取る事は妥当であると言える。
【0045】
スケールの違いによる影響に関しては、下流配管位置での流量と配管径を基にしたレイノルズ数が、実機も本研究のスケールも105以上であること、スパイク状の圧力脈動は弁体に流れが付着して生じる現象で、乱流が原因で生じる流動現象ではない事から考えて、弁体周辺の流れ場に与えるスケール(レイノルズ数)の影響はそこまで大きくないといえる。
【0046】
また、流体の違いによる影響であるが、空気と比べると蒸気は密度・音速などが異なる他、比熱などが温度・圧力などに大きく依存する、超音速状態の蒸気の急激な凝縮(凝縮衝撃波)による圧力の上昇が生じる、などがあるが、スパイク状の圧力脈動は流体自身の変動によって発生している現象であるため、発生領域などが若干異なる事はあっても流体に蒸気を用いた際にも発生する事は十分に考えられる。つまり、基本的な現象の把握をするために空気を用いる事は妥当であるといえる。
【0047】
以上より、リフト比と流出/流入圧力比を実機と合わせることで、基礎的な現象の把握としての空気によるスケール実験実施の妥当性は十分にあると言える。
【0048】
(3)中間開度における圧力脈動現象の抑制−弁座形状の影響−
弁座形状を変化させた時の流れ場の変化について述べる。なお、中間開度の時に弁体に生じる圧力脈動を表1に示す。
【0049】
【表1】
(3.1)実験の概要・条件
図6に実験装置の概略図(図6(a))及びテストセクションの拡大図(図6(b))を示す。蒸気加減弁を模擬した弁体・弁座を有するテストセクションに高圧の空気を送り込んで、外部へと放出される。また、弁体と弁座がちょうど接した部分を起点とし、そこから弁を開く方向に動かした距離をリフト量と定義する。
【0050】
図7に弁体(図7(a)〜(c))及び弁座(図7(d)〜(e))の拡大図を示す。本実験では、弁体の形状は半径30mmの半球形状の弁体を用いた。中心から30°の位置(半径15mmの位置)に周方向に90°間隔で4カ所の圧力測定用の孔を設けており、そのそれぞれをA1〜A4と呼ぶことにする。弁座は弁体と接する部分が、内側に凸の球面形状であり、曲面が終わる直下流部分に、弁体と同じ位置になるよう4カ所の静圧測定孔を設けている。そのそれぞれをB1〜B4と呼ぶことにする。
【0051】
図8(a)〜(d)に実験を行った弁座の形状を示す。弁座部の半径はr=21、30、39、90mmとなっており、弁座/弁体半径比はそれぞれ0.7、1.0、1.3、3.0となっている(シート径はそれぞれ49.2、50.8、52.0、55.4mm)。前述のように、スパイク状の圧力脈動は、弁体に付着する流れ(弁体付着流)が原因である事が分かったので、物体に沿って流れようとする効果(コアンダ効果)は、曲率半径のより大きな弁座ほど弁体付着流が抑制される事が予想される。パラメータとして、流入圧力を0.25、0.3、0.4、0.5MPa(流出/流入圧力比0.40、0.33、0.25、0.20)と変化させ、そのそれぞれの流入圧力において、小〜中間開度にあたるリフト比領域で、リフト量を変えて何点か計測を実施した。表2に実験の主な条件をまとめておく。なお、今回対象としているのは、流れ場がチョークして超音速流となる弁体の小〜中間開度時であるため、実験もチョーク状態となる小〜中間開度時のリフト比の範囲で実施した。
【表2】
【0052】
(3.2)実験結果
図9(a)〜(d)は、リフト量と流入圧力を軸として流れ場の状況を記した特性マップである。図中の×は流れ場にスパイク状の圧力脈動が発生しなかった条件、図中●は弁体部分にスパイク状の圧力脈動が発生した条件、図中○は弁座部分にスパイク状の圧力脈動が発生した条件である。また、記号の大きさは、変動の大きさを表している。変動の発生の有無は、測定した圧力の平均値と標準偏差σを求め、測定の平均値よりも3σ以上離れている値が、測定結果から判断して1.5%以上あるものを、変動が発生している条件とした。なお、弁座半径90mm(弁座/弁体半径比3.0)の時は、リフト量を0mmから増加させて実験した時はスパイク状の変動が発生し、大開度から減少させて実験した時は安定した流れ場になるというヒステリシスが見られたので、保守側の結果としてスパイク状の圧力脈動が発生した時の値を採用した。図から、今回実験を行った全ての弁座の形状において、特定のリフト量の領域でスパイク状の圧力脈動が発生し、流入圧力が小さいほど変動が発生するリフト量の領域が広く、その圧力脈動の大きさが小さくなっていることが分かる。また、全ての流入圧力条件において、圧力脈動が発生している時、変動の発生位置がリフト量の増加と共に弁体部分から弁座部分へと移行しており、圧力脈動の位置がリフト量の増加と共に配管壁面側に移動しているという事がここからも分かる。弁座形状の変化の影響を見てみると、弁座半径が21〜39mm(弁座/弁体半径比0.7〜1.3)の範囲では流れ場の状態に殆ど変化は見られない。弁座半径を90mm(弁座/弁体半径比3.0)まで大きくすることで、ようやくスパイク状の圧力脈動が発生する領域が狭くなり、その大きさも小さくなったが、完全にスパイク状の圧力脈動を抑制する事は出来なかった。
【0053】
図9のように、リフト量を横軸に取ると、圧力脈動の発生する領域が流入圧力に大きく依存しているため、リフト量から算出した質量流量を横軸として特性マップを描き直した。その図を図10に示す。図から、スパイク状の圧力脈動の発生する質量流量の領域は流入圧力にあまり依存せず、各弁座で領域の大小はあるものの、特定の質量流量領域でスパイク状の変動が発生している事が分かる。つまり、半球形状の弁体では、今回実験を行った全ての弁座でスパイク状の変動が発生するといえる。
【0054】
図11は、横軸を質量流量とした時の、弁体壁面静圧(A1〜A4)、及び弁座壁面静圧(B1〜B4)のR.M.S.振幅(二乗平均振幅)をプロットしたものである。弁体(A1〜A4)の圧力脈動を見てみると、弁座半径90mm(弁座/弁体半径比3.0)以外の弁座形状では、0.1kg/s付近で圧力脈動のピークを持ち、その後、なだらかに減衰している。また、弁座側の圧力脈動(B1〜B4)を見ると、0.2kg/s近傍でピークを持っている。つまり、流量の増加と共に、圧力脈動のピークが弁体側から弁座側へと移動していると考えられる。これは、図10と同様の結果となっており、R.M.S.振幅のピークはスパイク状の圧力脈動が原因であると考えられる。弁座半径90mm(弁座/弁体半径比3.0)では、スパイク状の圧力脈動が発生しない流入圧力0.25MPaの時は、R.M.S.振幅は全域において小さな値であり、その他の流入圧力でも若干の振幅の盛り上がりはあるものの、他の弁座に比べるとR.M.S.振幅は小さくなっており、スパイク状の圧力脈動の発生領域も狭くなっているといえる。以上より、弁座半径を大きく変化させる事でスパイク状の発生領域は狭くなり、また、その振幅も小さくなる事が判明したが、今回実施した弁座半径では、スパイク状の圧力脈動を完全に抑制できる事は出来なかった。言い換えると、半球状の弁体形状では、弁座/弁体半径比を3.0にまで大きくしてもスパイク状の圧力脈動を抑制できないため、極端に弁体形状を変更できない場合には新たな弁体形状を提案する必要があると言える。
【0055】
(4)中間開度における圧力脈動現象の抑制−弁体形状の影響−
弁体形状を変化させた時の流れ場の変化について述べる。
【0056】
(4.1)実験の概要・条件
図12(a)〜(b)に、実験を実施した弁体形状の概略図を示す。弁体は、半球状の弁体形状(通常弁、normal valve)の他に、通常弁と同形状で45°の位置で切り落とした切断弁(cut valve)、45°の位置まで通常弁と同形状でその後の部分を半径18.4mmで逆に曲率半径を付けた延長弁(extendedvalve)の3種類である。前記(1)で述べたように、弁体形状を変更する事で積極的に弁体付着流を抑制する事を目的としているので、
(a)弁体に流れが沿う事のないようにする(切断弁、cut valve)
(b)弁体に流れが沿ったとしても、弁体通過後の流れが衝突することなく下流へと流れていく(延長弁、extended valve)
という考え方で2形状を決めた。ただし、シート径は通常弁と同じであり、リフト量に対して流れる質量流量は3形状とも同じである。また、弁座の形状に関しては、弁座/弁体半径比が最も小さな弁座(弁座半径=21mm、弁座/弁体半径比=0.7)形状と、最も弁座/弁体半径比が大きな弁座半径90mm(弁座/弁体半径比=3.0)の2種類で実験を実施した。新形状弁はその形状から弁体部に静圧孔を設けても乱れの少ない超音速領域しか測定できないため、以降の結果で示される圧力脈動は全て弁座壁面側(B1〜B4)の値である。
【0057】
(4.2)実験結果−弁座半径21mm(弁座/弁体半径比=0.7)−
図13(a)〜(c)は質量流量と流入圧力を軸として流れ場の状況を記した特性マップである。図中の×は流れ場にスパイク状の圧力脈動が発生しなかった条件、図中○は弁座部分にスパイク状の圧力脈動が発生した条件である(弁体部には静圧孔を設けていないため、弁体部に変動が発生した条件は考慮していない)。また、記号の大きさは、変動の大きさを表している。図から、切断弁の変動発生領域は、弁座半径が21mm(弁座/弁体半径比0.7)の弁座での実験では、通常弁でスパイク状の圧力脈動が発生している領域と殆ど変化が無く、その変動の大きさにもあまり差がない。一方、延長弁では測定した全域においてスパイク状の圧力脈動は発生しておらず、安定した流れ場を形成している。
【0058】
図14は、それぞれの弁体の圧力のR.M.S.振幅である。先述のように、切断弁は弁座半径が小さいと通常弁と殆ど変わらない流れ場の特性を示すため、R.M.S.振幅も通常弁と殆ど変わらないことがこの図からも分かる。また、延長弁に関しては流れ場に大きな圧力脈動が発生しないために小さな振幅となっている事が分かる。
【0059】
この状態の流れ場を確認するために、流入圧力0.5MPa、リフト量1.6mmの条件(通常弁でスパイク状の圧力脈動が発生する条件)において、3次元流体解析コードMATISで切断弁・延長弁の流れ場を計算した。その時の計算格子を図15に、マッハ数等高線と静圧の分布を図16に示す。図から、切断弁では、弁体を通過した流れが噴流となって互いに衝突している様子が分かる。また、それによって流れが偏って局所的な高圧が発生している。一方、延長弁では流れが強制的に弁座に付着させられており、噴流同士の衝突が起きていないため、大きな圧力脈動が生じていない。これらの理由として、弁体先端を切り取って弁体付着流を作らない切断弁でも、弁座側の曲率半径が弁体側より小さい、つまり弁座半径<弁体半径の時には流れが配管中心方向に向かってしまい、弁体通過後の噴流が下流へとスムーズに流れずに、噴流同士が衝突して圧力脈動が生じてしまう。一方、流れを強制的に弁座側へと沿わせる延長弁では、弁体通過後の噴流同士を衝突させる事はないので圧力脈動が生じない、という事が考えられる。また、延長弁に関しては流れ場に大きな圧力脈動が発生しないために小さな振幅となっている事が分かる。
【0060】
以上より、弁座半径が21mm(弁座/弁体半径比0.7)の時は、切断弁では流れが弁座側に沿いにくい為に弁体通過後の噴流が互いに衝突して通常弁と変わらない流れ場の傾向となり、延長弁では強制的に弁座付着流を形成するために流れ場に大きな圧力脈動が発生しない事が判明した。また、大きな圧力脈動が発生しない延長弁の流れ場では、スパイク状の圧力脈動が発生する通常弁や切断弁と比べるとその振幅がかなり小さくなる事も判明した。
【0061】
(4.3)実験結果−弁座半径90mm(弁座/弁体半径比=3.0)−
図17(a)〜(c)は質量流量と流入圧力を軸として流れ場の状況を記した特性マップである。図中の×は流れ場にスパイク状の圧力脈動が発生しなかった条件、図中○は弁座部分にスパイク状の圧力脈動が発生した条件である(弁体部には静圧孔を設けていないため、弁体部に変動が発生した条件は考慮していない)。また、記号の大きさは、変動の大きさを表している。図から、切断弁・延長弁ともに実験の範囲全域でスパイク状の圧力脈動は発生しておらず、安定した流れ場を形成している事が分かる。
【0062】
図18は、各弁体の圧力のR.M.S.振幅である。通常弁では、前述の通り弁座半径90mmの時に、リフト増加時と減少時でヒステリシスが見られたので、リフト増加時と減少時でR.M.S.振幅が異なっている。図から、切断弁・延長弁のR.M.S.振幅は、通常弁のリフト減少時、つまりスパイク状の圧力脈動が発生していない安定な流れ場の時とほぼ同じ値となっていて低い振幅となっており、切断弁・延長弁ともスパイク状の圧力脈動が発生しておらず、安定な流れ場を形成しているといえる。
【0063】
この状態の流れ場を確認するために、先ほどと同様にMATISコードを用いて計算を実施して流れ場の状況を確認した。その時のマッハ数等高線と静圧の分布を図19に示す。図から分かるように、切断弁・延長弁共に弁座付着流となって噴流は衝突せずに安定した流れ場を形成している。これらから考えて、切断弁は、弁座半径が21mm(弁座/弁体半径比=0.7)の時には通常弁と同様の傾向であったが、弁座半径が90mmと大きくなった事で、流れが弁座側に沿いやすくなって弁座付着流となり、噴流が衝突しなくなったために安定な流れ場になったと考えられる。
【0064】
以上より、弁座半径が90mm(弁座/弁体半径比3.0)の時は、切断弁・延長弁ともに弁座付着流を形成し、スパイク状の圧力脈動が発生しない安定した流れ場となる事が判明した。
【0065】
(5)中間開度での圧力脈動に対する弁体・弁座形状の影響のまとめ
表3に弁体・弁座形状が流れ場に与える影響をまとめておく。表からも明らかなように、通常弁では弁座形状を大きく変更(弁座/弁体半径比0.7→3.0)しても、弁体付着流によるスパイク状の圧力脈動を抑制する事が出来ない。また、切断弁では弁座/弁体半径比が3.0の時には弁体付着流を抑制する事は出来たが、弁座/弁体半径比0.7の時は、通常弁とほぼ同じ領域でスパイク状の圧力脈動が発生している。しかし、長尺弁を用いることで、弁座/弁体半径比に関係なく弁体付着流を抑制でき、安定した流れ場を形成できる事が判明した。
【表3】
【0066】
以上から、弁の中間開度時に発生する弁体付着流によるスパイク状の圧力脈動を最も効果的に抑制できる弁形状は、流れの方向を強制的に変更させる延長弁であることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の圧力脈動抑制弁の実施形態の一例を示す縦断面図である。
【図2】既存設備に設置されている弁の縦断面図である。
【図3】既存設備に設置されている蒸気加減弁の中間開度における概略図である。
【図4】圧力分布と速度ベクトルを説明するための図で、(a)は安定な流れ場についての図、(b)は不安定な流れ場についての図である。
【図5】スパイク状の圧力脈動の伝播を説明するための図で、(a)は弁座壁面のB1〜B4点の位置を説明する図、(b)は弁座壁面のB1点における圧力の時間履歴を示す図、(c)は弁座壁面のB2点における圧力の時間履歴を示す図、(d)は弁座壁面のB3点における圧力の時間履歴を示す図、(e)は弁座壁面のB4点における圧力の時間履歴を示す図である。
【図6】(a)は実験装置の概要図、(b)は(a)の要部の拡大図である。
【図7】(a)〜(c)は弁体の静圧測定位置を示し、(a)は弁体の縦断面図、(b)は弁体の側面図、(c)は弁体の底面図であり、(d)〜(e)は弁座の静圧測定位置を示し、(d)は弁座の縦断面図、(e)は弁座の底面図である。
【図8】弁座形状の概略を示し、(a)は半径21mmの弁座形状を示す縦断面図、(b)は半径30mmの弁座形状を示す縦断面図、(c)は半径39mmの弁座形状を示す縦断面図、(d)は半径90mmの弁座形状を示す縦断面図である。
【図9】リフト量と流入圧力を軸として流れ場の状況を記した特性マップで、(a)は弁座半径が21mmの場合の特性マップ、(b)は弁座半径が30mmの場合の特性マップ、(c)は弁座半径が39mmの場合の特性マップ、(d)は弁座半径が90mmの場合の特性マップである。
【図10】図9のマップを質量流量を横軸として描き直した特性マップで、(a)は弁座半径が21mmの場合の特性マップ、(b)は弁座半径が30mmの場合の特性マップ、(c)は弁座半径が39mmの場合の特性マップ、(d)は弁座半径が90mmの場合の特性マップである。
【図11】各位置A1〜A4,B1〜B4における圧力脈動のR.M.S.振幅(横軸:質量流量)を示す図である。
【図12】実験に使用した弁体の形状を示し、(a)は通常弁の縦断面図、(b)は切断弁の縦断面図、(c)は延長弁の縦断面図である。
【図13】質量流量と流入圧力を軸として流れ場の状況を記した特性マップ(弁座半径21mm(弁座/弁体半径比0.7))で、(a)は通常弁の特性マップ、(b)は切断弁の特性マップ、(c)は延長弁の特性マップである。なお、比較のため弁体部分での圧力脈動発生は考慮していない。
【図14】圧力脈動のR.M.S.振幅(横軸:質量流量)を示す図(弁座半径21mm(弁座/弁体半径比0.7))である。
【図15】MATISコード用計算格子を示す図である。
【図16】マッハ数等高線と静圧の分布を示す図(弁座半径21mm(弁座/弁体半径比0.7))である。
【図17】質量流量と流入圧力を軸として流れ場の状況を記した特性マップ(弁座半径90mm(弁座/弁体半径比3.0))で、(a)は通常弁の特性マップ、(b)は切断弁の特性マップ、(c)は延長弁の特性マップである。なお、比較のため弁体部分での圧力脈動発生は考慮していない。
【図18】圧力脈動のR.M.S.振幅(横軸:質量流量)を示す図(弁座半径90mm(弁座/弁体半径比3.0))である。
【図19】マッハ数等高線と静圧の分布を示す図(弁座半径90mm(弁座/弁体半径比3.0))である。
【図20】従来の蒸気加減弁の縦断面図である。
【図21】従来の他の蒸気加減弁の縦断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 圧力脈動抑制弁
2 流体通路
3 流体通路の壁面
4 弁座
5 弁体
6 縮流部
7 逆曲率部
10 シート位置(弁座に当接する部分)
L3 弁座の軸線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体通路の壁面に設けられた弁座と、前記弁座に対して前記弁座の軸線方向上流側から当接して前記流体通路を閉じる弁体とを備え、前記弁体は、前記弁座に当接する部分を有し、周面の縦断面形状が前記弁体の内部に中心を有する曲率の曲線になっている縮流部と、前記縮流部から前記流体通路の下流側に向けて突出し、周面の縦断面形状が前記弁体の外部に中心を有する曲率の曲線になっている逆曲率部とを備えることを特徴とする圧力脈動抑制弁。
【請求項2】
前記縮流部と前記弁座との間の隙間によって前記流体の流量が決定されることを特徴とする請求項1記載の圧力脈動抑制弁。
【請求項3】
流体通路の壁面に設けられた弁座に対して前記弁座の軸線方向上流側から当接して前記流体通路を閉じる弁体であって、前記弁座に当接する部分を有し、周面の縦断面形状が前記弁体の内部に中心を有する曲率の曲線になっている縮流部と、前記縮流部から前記流体通路の下流側に向けて突出し、周面の縦断面形状が前記弁体の外部に中心を有する曲率の曲線になっている逆曲率部とを備え、前記縮流部と前記弁座との間の隙間によって前記流体の流量を決定することを特徴とする圧力脈動抑制弁の弁体。
【請求項4】
既存設備に設置されており、流体通路の壁面に設けられた弁座と、前記弁座に対して前記弁座の軸線方向上流側から当接して流体通路を閉じる弁体とを備える弁の交換方法において、前記弁座を交換することなく前記弁体を請求項3記載の圧力脈動抑制弁の弁体に交換することを特徴とする弁の交換方法。
【請求項1】
流体通路の壁面に設けられた弁座と、前記弁座に対して前記弁座の軸線方向上流側から当接して前記流体通路を閉じる弁体とを備え、前記弁体は、前記弁座に当接する部分を有し、周面の縦断面形状が前記弁体の内部に中心を有する曲率の曲線になっている縮流部と、前記縮流部から前記流体通路の下流側に向けて突出し、周面の縦断面形状が前記弁体の外部に中心を有する曲率の曲線になっている逆曲率部とを備えることを特徴とする圧力脈動抑制弁。
【請求項2】
前記縮流部と前記弁座との間の隙間によって前記流体の流量が決定されることを特徴とする請求項1記載の圧力脈動抑制弁。
【請求項3】
流体通路の壁面に設けられた弁座に対して前記弁座の軸線方向上流側から当接して前記流体通路を閉じる弁体であって、前記弁座に当接する部分を有し、周面の縦断面形状が前記弁体の内部に中心を有する曲率の曲線になっている縮流部と、前記縮流部から前記流体通路の下流側に向けて突出し、周面の縦断面形状が前記弁体の外部に中心を有する曲率の曲線になっている逆曲率部とを備え、前記縮流部と前記弁座との間の隙間によって前記流体の流量を決定することを特徴とする圧力脈動抑制弁の弁体。
【請求項4】
既存設備に設置されており、流体通路の壁面に設けられた弁座と、前記弁座に対して前記弁座の軸線方向上流側から当接して流体通路を閉じる弁体とを備える弁の交換方法において、前記弁座を交換することなく前記弁体を請求項3記載の圧力脈動抑制弁の弁体に交換することを特徴とする弁の交換方法。
【図1】
【図2】
【図6】
【図9】
【図10】
【図13】
【図17】
【図20】
【図21】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図2】
【図6】
【図9】
【図10】
【図13】
【図17】
【図20】
【図21】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2006−9860(P2006−9860A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185021(P2004−185021)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
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