説明

圧延材の製造方法

【課題】噛み込み失敗を回避して圧延を行う。
【解決手段】所定パススケジュールとして、所定パス数および1パスあたりの所定圧下量と、素材Aが圧延ロール2間に噛み込まれる際の所定噛み込み速度と、素材Aが圧延ロール2間から抜ける際の所定しり抜け速度と、素材Aに対してクーラントの供給を開始する所定パス順位と、を設定しておき、素材Aの合金種、熱処理条件の少なくとも1種または2種のデータに基づいて、素材Aが圧延ロール2間に噛み込まれ難いか噛み込まれ易いかを判断し、素材Aが噛み込まれ易いと判断された場合は、所定パススケジュールに従って圧延処理を行い、素材Aが噛み込まれ難いと判断された場合は、所定圧下量および所定パス数と、所定噛み込み速度と、所定しり抜け速度と、所定パス順位と、の少なくともいずれかを調整したパススケジュールに従って圧延処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、あらかじめ設定されたパススケジュールに従って、圧延ロール間に素材を複数回通過させながら圧延ロール間のギャップを徐々に減少させて圧延する圧延材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厚さ300〜650mm程度のアルミニウム等の鋳塊(スラブ)から板状の圧延材を製造する場合、まず粗圧延として、可逆式圧延機を用いて再結晶温度以上の例えば400〜550℃の温度で厚さ数十mmとなるまで熱間圧延し、さらに仕上げ圧延機で20mm以下まで圧延し、円筒状に巻き取ってコイルとしている。
【0003】
その可逆式圧延機による熱間圧延は、圧延ロールを介してその前後間で素材を往復走行させるように両圧延ロール間に複数回通過させながら、圧延ロール間のギャップを徐々に減少させることにより、その厚さを薄くしていく方法である。この複数回にわたる個々の圧延工程は、あらかじめ設定したパススケジュールに従って自動的に制御される。このパススケジュールは、圧延パス毎に圧延ロールの回転方向、ロールギャップやロール速度、圧延荷重等の圧延条件を設定したもので、制御システム内に例えばテーブルデータとして格納されている。
【0004】
このパススケジュールに従って行われる熱間圧延は、圧延を適切に進行させるには、まず圧延ロール間に正常に噛み込まれるようにすることが重要である。特許文献1に記載の従来技術においては、圧延ロールの前後に、素材を案内するガイドとともに、素材が浮き上がらないように抑えロールを配置して、圧延ロールに噛み込むときの反力よりも大きい押し込み力を作用させるようにしている。
【特許文献1】特開平8−323405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
可逆式圧延機においては、所定のパススケジュールに設定されたまま種々の異なる素材の圧延が行われることもあり、素材に対してそのパススケジュールが最適ではないために噛み込みに失敗する場合がある。一旦噛み込みに失敗してしまうと、圧延工程の自動制御が終了してしまうので、その後は手動で各種の圧延条件を設定しながら圧延パスを繰り返さなければならず、多大な労力を要することになる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、噛み込みを失敗しやすい条件である場合にはパススケジュールを調整して圧延を行うことにより噛み込み失敗を回避して圧延を行うことができる、圧延材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る圧延材の製造方法は、あらかじめ設定されたパススケジュールに従って、圧延ロール間に素材を複数回往復走行させながら圧延ロール間のギャップを徐々に減少させて圧延する圧延材の製造方法において、所定パススケジュールとして、所定パス数および1パスあたりの所定圧下量と、前記素材が前記圧延ロール間に噛み込まれる際の所定噛み込み速度と、前記素材が前記圧延ロール間から抜ける際の所定しり抜け速度と、前記素材に対してクーラントの供給を開始する所定パス順位と、を設定しておき、前記所定パススケジュールに対して、前記素材の合金種、熱処理条件の少なくとも1種または2種のデータに基づいて、前記素材が前記圧延ロール間に噛み込まれ難いか噛み込まれ易いかを判断し、前記素材が噛み込まれ易いと判断された場合は、各所定値を変更せずに前記パススケジュールに従って圧延処理を行い、前記素材が噛み込まれ難いと判断された場合は、前記所定圧下量および前記所定パス数と、前記所定噛み込み速度と、前記所定しり抜け速度と、前記所定パス順位と、の少なくともいずれかを調整した前記パススケジュールに従って圧延処理を行う。
この圧延材の製造方法によれば、圧延ロール間への素材の噛み込みを失敗しやすいことを予め認識した場合にパススケジュールを適宜調整することにより、噛み込みの失敗を防止することができる。
【0008】
前記製造方法において、前記所定圧下量および前記所定パス数を調整する場合、パス数は前記所定パス数よりも増加させるとともに、1パスあたりの圧下量は前記所定圧下量よりも減少させることが好ましい。この場合、圧延ロール間に送り込まれる素材の厚さと圧延ロール間のギャップとの差が小さくなるので、圧延ロール間に素材が円滑に噛み込まれ易くなる。
また、前記噛み込み速度を調整する場合、この噛み込み速度は所定噛み込み速度の1.1〜1.4倍とすることが好ましい。この場合、素材の移動速度が高くなるので、慣性力により素材が圧延ロール間に噛み込まれ易くなる。
また、前記所定しり抜け速度を調整する場合、10m/分以上にしり抜け速度を設定することが好ましい。この場合、圧延ロール間から抜け出した素材と圧延ロールとの距離が長くなる。したがって、その次に素材を圧延ロール間に導入する際の速度を高くでき、圧延ロール間に素材が円滑に噛み込まれ易くなる。
また、前記所定パス順位を調整する場合、この所定パス順位よりも遅いパス順位で前記クーラントの供給を開始することが好ましい。この場合、ある程度圧延処理が進んで素材が圧延されるまではクーラントを供給しないことにより、クーラントによって圧延ロールに対して素材が滑ってしまうのを防止できるので、圧延ロール間に素材が円滑に噛み込まれ易くなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る圧延材の製造方法によれば、可逆式圧延機側の設定や条件(パススケジュール)が素材の噛み込みに最適ではない場合であっても、パススケジュールを適切に修正して噛み込みの失敗を回避し、圧延材の生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る圧延材の製造方法の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1は本実施形態の製造方法を実施するために用いられる圧延材の製造装置を示すものであり、符号1が圧延機を示している。この圧延機1は、上下に一対の圧延ロール2を備えるとともに、これら圧延ロール2が回転駆動モーター3によりそれぞれ正逆両方向に駆動されるようになっており、また、両圧延ロール2の背部には大径のバックアップロール4がそれぞれ接触した、いわゆる4段圧延機を構成している。また、この圧延機1の前後には、素材Aを搬送するテーブルローラー5がそれぞれ設けられている。
【0012】
そして、その上側のバックアップロール4に、これを押圧する圧下用スクリュー6、及びこの圧下用スクリュー6を移動させて圧延ロール2間のギャップを設定する位置制御モーター7等からなる圧下手段8が設けられている。また圧延ロール2から素材Aへの圧延荷重を検出するロードセル等の圧延荷重検出手段9が設けられている。
また、両圧延ロール2の近傍には、クーラント(圧延油)を供給するクーラント吐出手段10が設けられている。クーラントを供給することにより、素材Aの温度を低下させるとともに、圧延ロール2と素材Aとの摩擦を小さくすることができる。
また、圧延ロール2の回転駆動モーター3にはロール回転検出器11が備えられるとともに、圧下用スクリュー6の位置制御モーター7にはロールギャップ位置検出器12、テーブルローラー5のローラー駆動モーター13にはローラー回転検出器14がそれぞれ備えられている。
【0013】
また、図1において符号15はセットアップ用計算機を示しており、このセットアップ用計算機15は、各パス毎の圧延ロール2の間隔や圧延ロール2の回転方向及び回転速度、圧延荷重、テーブルローラー5の搬送速度等の目標値をあらかじめ設定したパススケジュールにしたがって実行管理するコントローラー16に接続されている。このコントローラー16の目標値に基づき、位置制御モーター7、圧延ロール2の回転駆動モーター3、圧下用スクリュー6、テーブルローラー5のローラー駆動モーター13等を、圧延速度及びロールギャップ値等の出力値をフィードバックしながら制御する。
なお、図1中、符号17はストリッパーガイドを示しており、圧延ロール2の前後に設けられる。
【0014】
次に、このように構成した製造装置によりアルミニウムの鋳塊から圧延材を製造する方法について説明する。
アルミニウムの鋳塊は、例えば300〜650mmの厚さを有しており、これを加熱炉(図示略)を経由して、再結晶温度以上の例えば400〜550℃の温度で圧延機1に送り込む。そして、この圧延機1では、設定されたパススケジュールにしたがって、クーラントを素材Aに供給するとともに、圧延ロール2間のギャップを徐々に減少させながら両圧延ロール2間に鋳塊を複数回通過させて圧延する。最初の段階では、1パス毎に約5〜60mm程度厚さを減少させるように圧延ロール2間のギャップを制御することが行われる。
【0015】
この圧延処理に先立ち、パススケジュールには各種項目の所定値が設定されている。すなわち、所定パス数および1パスあたり(すなわち圧延ロール2間を素材が1回通過する間)の所定圧下量と、素材Aが圧延ロール2間に噛み込まれる際の所定噛み込み速度(テーブルローラー5の周速)と、素材Aが圧延ロール2間から抜ける際の所定しり抜け速度と、素材Aに対してクーラントの供給を開始する所定パス順位とが、所定のパススケジュールにあらかじめ設定されている。
【0016】
しかしながら、このような所定のパススケジュールに従って圧延処理を行うと、素材Aが圧延ロール2間に噛み込まれ難い場合がある。このため、本発明では、この圧延処理において素材Aが圧延ロール2間に円滑に噛み込まれるかどうかを判断して、パススケジュールの各所定値を適宜調整することが行われる。
【0017】
ここで、パススケジュールを調整する流れについて、図2を参照して説明する。
まず、パススケジュールの各項目を所定値に設定しておく(S01)。
次に、素材Aに関する各種条件を入力する(S02)。これら入力された条件から、素材Aが噛み込まれ難いか否かを判断する(S03)。噛み込まれ難さの判断は、素材Aの合金種、熱処理条件の少なくとも1種または2種のデータに基づいて行う。たとえば、素材Aの合金種から、圧延ロール2に対する素材Aの摩擦の大きさ、硬さ等の機械的特性が判断できる。さらに熱処理条件を考慮する場合、その熱処理条件における前記機械的特性を判断できる。このような機械的特性について所定の閾値を設定しておき、この閾値を超えた場合に噛み込まれ難いと判断できる。
また、どの程度噛み込まれ難いかについて、前記摩擦の大きさや硬さ等が前記閾値を超えてどの程度大きいか等から判断することもできる。
その結果、素材Aが噛み込まれ易く、噛み込み失敗が生じにくいと判断された場合には、前述した所定値に設定した所定のパススケジュールに従って圧延処理を行う(S05)。
【0018】
一方、素材Aが噛み込まれ難いと判断された場合には、パススケジュールを調整する(S04)。すなわち、所定パス数および所定圧下量と、所定噛み込み速度と、所定しり抜け速度と、所定パス順位と、の少なくともいずれかを調整する。どの項目を調整するかについては、たとえば、摩擦が大きいために噛み込まれ難いのであれば、所定パス順位を適宜調整することが考えられる。また、調整する項目の調整量については、素材Aがどの程度噛み込まれ難いか等に応じて決定することができる。たとえば、噛み込まれ難さをランク分けしておき、最も噛み込まれ難いランクであれば前記所定値を大きく調整するなどの対応が考えられる。
ステップS04においては、さらに、以上のように決定した調整項目を、適切な調整量で調整する。そして、調整したパススケジュールに従って、圧延処理を行う(S05).
【0019】
たとえば、所定パス数および所定圧下量を調整する場合には、パス数を所定パス数よりも増加させるとともに、1パスあたりの圧下量を所定圧下量よりも減少させると、素材Aの厚さと圧延ロール2間のギャップとの差が小さくなるので、圧延ロール2間に素材Aが円滑に噛み込まれ易くなる。
また、噛み込み速度を調整する場合、噛み込み速度を所定噛み込み速度の1.1〜1.4倍とすると、素材Aの移動速度が高くなるので、慣性力により素材が圧延ロール間に噛み込まれ易くなる。
【0020】
また、所定しり抜け速度を調整する場合、10m/分以上にしり抜け速度を設定すると、圧延ロール2間から抜け出した素材Aと圧延ロール2との距離が長くなる。したがって、その次に素材Aを圧延ロール2間に導入する際の速度を高くでき、圧延ロール2間に素材Aが円滑に噛み込まれ易くなる。
また、所定パス順位を調整する場合、この所定パス順位よりも遅いパス順位でクーラントの供給を開始する。たとえば、所定パス順位が“1”であって1回目のパスからクーラントを供給する設定である場合に、パス順位を“5”に修正し、5回目のパスからクーラントの供給を開始するように調整する。すなわち、ある程度圧延処理が進んで素材が圧延されるまでクーラントを供給しないことにより、圧延ロール2に対して素材Aが滑ってしまうのを防止できるので、圧延ロール2間に素材Aが円滑に噛み込まれ易くなる。
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、素材Aの噛み込みが失敗し易いと予想される条件においては、あらかじめ設定したパススケジュールを適切に調整するので、噛み込みの失敗を防止することができる。したがって、圧延材の生産性を向上することができる。
【0022】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る圧延材の製造装置の一実施形態を示す全体構成図である。
【図2】本発明に係る圧延材の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0024】
1 圧延機
2 圧延ロール
3 回転駆動モーター
4 バックアップロール
5 テーブルローラー
6 圧下用スクリュー
7 位置制御モーター
8 圧下手段
9 圧延荷重検出手段
10 クーラント吐出手段
11 ロール回転検出器
12 ロールギャップ位置検出器
13 ローラー駆動モーター
14 ローラー回転検出器
15 セットアップ用計算機
16 コントローラー
17 ストリッパーガイド
A 素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
あらかじめ設定されたパススケジュールに従って、圧延ロール間に素材を複数回往復走行させながら圧延ロール間のギャップを徐々に減少させて圧延する圧延材の製造方法において、
所定パススケジュールとして、所定パス数および1パスあたりの所定圧下量と、前記素材が前記圧延ロール間に噛み込まれる際の所定噛み込み速度と、前記素材が前記圧延ロール間から抜ける際の所定しり抜け速度と、前記素材に対してクーラントの供給を開始する所定パス順位と、を設定しておき、
前記素材の合金種、熱処理条件の少なくとも1種または2種のデータに基づいて、前記素材が前記圧延ロール間に噛み込まれ難いか噛み込まれ易いかを判断し、
前記素材が噛み込まれ易いと判断された場合は、前記所定パススケジュールに従って圧延処理を行い、
前記素材が噛み込まれ難いと判断された場合は、前記所定圧下量および前記所定パス数と、前記所定噛み込み速度と、前記所定しり抜け速度と、前記所定パス順位と、の少なくともいずれかを調整したパススケジュールに従って圧延処理を行う
ことを特徴とする圧延材の製造方法。
【請求項2】
前記所定圧下量および前記所定パス数を調整する場合、パス数は前記所定パス数よりも増加させるとともに、1パスあたりの圧下量は前記所定圧下量よりも減少させることを特徴とする請求項1記載の圧延材の製造方法。
【請求項3】
前記所定噛み込み速度を調整する場合、所定噛み込み速度の1.1〜1.4倍に噛み込み速度を設定することを特徴とする請求項1または2記載の圧延材の製造方法。
【請求項4】
前記所定しり抜け速度を調整する場合、10m/分以上にしり抜け速度を設定することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の圧延材の製造方法。
【請求項5】
前記所定パス順位を調整する場合、この所定パス順位よりも後のパス順位で前記クーラントの供給を開始することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の圧延材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−137252(P2010−137252A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315893(P2008−315893)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】