説明

圧接用ノンハロゲン難燃電線及びその接続方法

【課題】電線の端末加工において、ノンハロゲン電線をコネクタに挿入嵌合し、圧接接続するときに加わる外力により、ノンハロゲン電線の絶縁被覆に変形が生じるのを抑制し、もってコネクタによる電線保持力の低下を抑制し、電線がコネクタから抜けやすくなるのを防止することにより、導通不良の恐れを解消する。
【解決手段】複数本の素線を同心撚りした導体上に絶縁被覆を設けてなり、コネクタに挿入嵌合され、圧接接続されて使用される圧接用ノンハロゲン難燃電線において、中心素線の外径を中心素線の周囲の他の素線の外径よりも大きく形成すると共に、隣接する他の素線間に空隙を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は端末加工性に優れた圧接用ノンハロゲン難燃電線及びその接続方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機器用電線の絶縁被覆には、主にポリ塩化ビニル(PVC)が用いられていた。PVCは、ゴム状の弾性を有し、機械的特性にも優れていることから、電線の端末加工において、電線がコネクタに挿入嵌合され、圧接接続されるときに加わる外力による変形に強く、また、配線時の外傷にも強い。しかし、PVCは燃焼時に有害なハロゲンガスを放出することから、ノンハロゲン化への移行が進行中である。ノンハロゲン材料は、PVCと比べてゴム状の弾性に乏しく、また、機械的特性にも乏しい。このため、電線の絶縁被覆にノンハロゲン材料を使用する場合には、材料の配合を工夫するなどの改質が行われている。しかし、この改質は簡単ではなく、例えば、強度の向上を図ろうとすると、伸びや可とう性が低下するなどの課題がある。
【0003】
一方、機器用電線の端末加工として採用される電線の接続方法にはいくつかあるが、電線径が数ミリ程度の細径の機器用電線の場合には、通常、圧接接続、圧着接続と呼ばれる接続方法が採用されている。このうち、圧接接続というのは、樹脂製の枠体で構成されたコネクタに電線を挿入嵌合し、コネクタ内のコンタクトに電線の導体を圧接接続する方法である。この方法は、接続にあたり電線の導体端末を露出させるストリップ作業を省略でき、また、一括接続型のコネクタを使用する場合には、複数本の電線を一括して圧接接続できることから、接続作業性に優れた方法としてよく利用されている。
【0004】
しかし、絶縁被覆にノンハロゲン材料を使用したノンハロゲン電線においては、絶縁被覆のゴム状の弾性や機械的特性が十分でないことから、電線をコネクタに挿入嵌合し、圧接接続するときに加わる外力により、電線の絶縁被覆に変形が生じやすい。絶縁被覆に変形が生じると、コネクタによる電線保持力が低下し、電線がコネクタから抜けやすくなり、導通不良を生じる恐れがある。特に、コネクタの電線挿入部に狭幅の抜け防止用フックを有するコネクタでは、このフックを通過するときに電線の絶縁被覆に大きな外力が加わり、絶縁被覆に変形が生じることが多い。
【0005】
一方、先行技術文献として、特許文献1には、2層以上の素線からなり中心側となる内層の外周に複数の素線からなる外層が設けられ、さらにその外周に絶縁体が被覆されてなる絶縁被覆導体において、上記内層を、上記外層の素線よりも径の大きい素線で構成し、上記外層の互いに隣り合う素線間に空隙を形成し、その空隙に絶縁体となる樹脂を充填した絶縁被覆電線が開示されている。この絶縁被覆電線は、前記空隙に前記樹脂を充填することにより、前記導体と前記絶縁体間の密着強度を高めたものである。
【0006】
【特許文献1】特開2003−51214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したように、絶縁被覆にノンハロゲン材料を使用したノンハロゲン電線においては、絶縁被覆のゴム状の弾性や機械的特性が十分でないことから、電線の端末加工において、コネクタに電線を挿入嵌合し、圧接接続するときに、加わる外力により電線の絶縁被覆に変形が生じやすい。絶縁被覆に変形が生じると、コネクタによる電線保持力が低下し、電線がコネクタから抜けやすくなり、導通不良を生じる恐れがある。
【0008】
また、特許文献1は、ノンハロゲン電線について言及したものではないが、仮に、ノンハロゲン電線について言及したものであるとしても、特許文献1に記載の絶縁被覆電線は、外層の隣り合う素線間に形成された空隙に絶縁体となる樹脂を充填したものであり、これによれば空隙に充填された樹脂により素線の動きが拘束されるので、コネクタに電線を挿入嵌合し、圧接接続するときに、加わる外力により絶縁被覆に変形が生じることは避けられないと思われる。この結果、前記した従来技術と同様に、コネクタによる電線保持力が低下し、電線がコネクタから抜けやすくなり、導通不良を生じる恐れがある。
【0009】
したがって、本発明の目的は、従来技術の問題を解消し、電線の端末加工において、電線をコネクタに挿入嵌合し、圧接接続するときに加わる外力により、ノンハロゲン電線の絶縁被覆に変形が生じるのを抑制し、もってコネクタによる電線保持力の低下を抑制し、電線がコネクタから抜けやすくなるのを防止することにより、導通不良の恐れを解消した、端末加工性に優れた圧接用ノンハロゲン難燃電線及びその接続方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、複数本の素線を同心撚りした導体上に絶縁被覆を設けてなり、コネクタに挿入嵌合され、圧接接続されて使用される圧接用ノンハロゲン難燃電線において、中心素線の外径を中心素線の周囲の他の素線の外径よりも大きく形成すると共に、隣接する他の素線間に空隙を形成したことを特徴とする圧接用ノンハロゲン難燃電線を提供する。
【0011】
請求項1の圧接用ノンハロゲン難燃電線によれば、中心素線の外径を中心素線の周囲の他の素線の外径よりも大きく形成すると共に、隣接する他の素線間に空隙を形成したことにより、電線の端末加工において、コネクタに挿入嵌合され、圧接接続されるときに、加わる外力によりまず導体断面が容易に変形し、この導体断面の変形により外力が吸収されるので、絶縁被覆の変形が効果的に抑制されることになり、この結果、コネクタによる電線保持力の低下が抑制され、電線がコネクタから抜けやすくなるのが防止され、導通不良の恐れが解消される。
【0012】
請求項2の発明は、中心素線の外径をRとし、他の素線の外径をR0としたとき、次式で表わされる両者の関係値が0.05〜0.15の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の圧接用ノンハロゲン難燃電線を提供する。
【0013】
[数1]
(R−R0)/R
請求項2の圧接用ノンハロゲン難燃電線によれば、中心素線の外径(R)と他の素線の外径(R0)を特定の関係値とすることにより、上記効果を確実に得ることができる。なお、この関係値が、0.05未満の場合には、隣接する他の素線間に形成される空隙が小さすぎて、導体断面の変形が少なく、絶縁被覆の変形抑制効果を十分に得ることができない。一方、この関係値が、0.15を超える場合には、隣接する他の素線間に形成される空隙が大きすぎて、撚り合わせ作業が困難になり、作業性が低下する。
【0014】
請求項3の発明は、コネクタに挿入嵌合され、圧接接続されるときに、導体断面が容易に変形可能に構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の圧接用ノンハロゲン難燃電線を提供する。
【0015】
請求項3の圧接用ノンハロゲン難燃電線によれば、導体断面が容易に変形可能に構成されているので、上記効果を確実に得ることができる。
【0016】
請求項4の発明は、コネクタに挿入嵌合され、圧接接続されるときに、他の素線が導体断面と平行方向に移動することにより、導体断面が容易に変形可能に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の圧接用ノンハロゲン難燃電線を提供する。
【0017】
請求項4の圧接用ノンハロゲン難燃電線によれば、隣接する他の素線間に形成された空隙を利用して他の素線が導体断面と平行方向に移動することにより、導体断面が容易に変形可能に構成されているので、上記効果を確実に得ることができる。
【0018】
請求項5の発明は、複数本の素線を同心撚りした導体上に絶縁被覆を設けてなり、コネクタに挿入嵌合され、圧接接続されて使用される圧接用ノンハロゲン難燃電線の接続方法において、前記導体として、中心素線の外径を中心素線の周囲の他の素線の外径よりも大きく形成すると共に、隣接する他の素線間に空隙を形成してなる導体を用いることを特徴とする圧接用ノンハロゲン難燃電線の接続方法を提供する。
【0019】
請求項5の圧接用ノンハロゲン難燃電線の接続方法によれば、導体として、中心素線の外径を中心素線の周囲の他の素線の外径よりも大きく形成すると共に、隣接する他の素線間に空隙を形成してなる導体を用いることにより、ノンハロゲン難燃電線の接続方法として、請求項1の場合と同様の効果を得ることができる。
【0020】
請求項6の発明は、中心素線の外径をRとし、他の素線の外径をR0としたとき、次式で表わされる両者の関係値が0.05〜0.15の範囲にあることを特徴とする請求項5に記載の圧接用ノンハロゲン難燃電線の接続方法を提供する。
【0021】
[数2]
(R−R0)/R
請求項6の圧接用ノンハロゲン難燃電線の接続方法によれば、ノンハロゲン難燃電線の接続方法として、上記効果を確実に得ることができる。
【0022】
請求項7の発明は、コネクタに挿入嵌合され、圧接接続されるときに、他の素線が導体断面と平行方向に移動することにより、導体断面が容易に変形可能に構成されていることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の圧接用ノンハロゲン難燃電線の接続方法を提供する。
【0023】
請求項7の圧接用ノンハロゲン難燃電線の接続方法によれば、ノンハロゲン難燃電線の接続方法として、上記効果を確実に得ることができる。
【0024】
なお、本発明は、複数本の素線を同心撚りした場合に限定されるが、複数本の素線を集合撚りした場合は、構造上導体断面の変形が困難であり、本発明においては適用できない。
【発明の効果】
【0025】
本発明の圧接用ノンハロゲン難燃電線及びその接続方法によれば、電線の端末加工において、電線をコネクタに挿入嵌合し、圧接接続するときに加わる外力により、ノンハロゲン電線の絶縁被覆に変形が生じるのを抑制し、もってコネクタによる電線保持力の低下を抑制し、電線がコネクタから抜けやすくなるのを防止することにより、導通不良の恐れを解消することを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0027】
図1には、中心素線1の周囲に6本の他の素線2を同心撚りした導体3上に絶縁被覆4を設けてなり、図示しないコネクタに挿入嵌合され、圧接接続されて使用される圧接用ノンハロゲン難燃電線5が示される。この電線5の導体3構造は、中心素線の周囲に6本の素線を配置した6方最密構造と呼ばれ、すべての素線が同一径の普通の電線の場合には、外力に対して最も強い、変形しにくい構造である。この電線5においては、中心素線1の外径を中心素線1の周囲の他の素線2の外径よりも大きく形成すると共に、隣接する他の素線2間に空隙6を形成している。この空隙6の程度については、中心素線1の外径をRとし、他の素線2の外径をR0としたとき、次式で表わされる両者の関係値が0.05〜0.15の範囲になるように構成される。両者の関係値が0.05〜0.15の範囲にあれば、電線の端末加工において、電線がコネクタに挿入嵌合され、圧接接続されるときに、加わる外力により導体断面が容易に変形し、この導体断面の変形による絶縁被覆4の変形抑制効果を十分に得ることができる。
【0028】
[数3]
(R−R0)/R
因みに、この関係値が、0.05未満の場合には、すでに述べたとおり、隣接する他の素線2間に形成される空隙6が小さすぎて、前記した導体断面の変形が少なく、絶縁被覆4の変形抑制効果を十分に得ることができない。一方、この関係値が、0.15を超える場合には、隣接する他の素線2間に形成される空隙6が大きすぎて、撚り合わせ作業が困難になり、作業性が低下する。
【0029】
絶縁被覆4は、難燃性のノンハロゲン材料を導体3上に環状に押し出し被覆することにより形成される。このノンハロゲン材料としては、例えばポリエチレン、エチレン−エチルアクリレート(EEA)、エチレン−酢酸ビニルコポリマ等のポリオレフィン系ポリマをベースポリマとし、これらベースポリマにノンハロゲン難燃剤として金属水酸化物等を混入したものを用いる。
【実施例】
【0030】
図1に示す中心素線1及び他の素線2として、夫々断面円形の銅線の表面に錫めっきを施したものを用い、これら中心素線1及び他の素線2を同心撚りし、直径0.48mmの導体3を形成する。この導体3上に、密度0.92の低密度ポリエチレン100重量部に対し水酸化マグネシウム20重量部を混入したノンハロゲン難燃材料を押し出し被覆し、外径0.88±0.02mmの絶縁被覆4を形成する。このようにして製造されたノンハロゲン難燃電線の圧接接続性についての評価を、AMP社製の自動圧接機(AMP DN−J)と極数15のコネクタ(Mini−CT)を用いて行った。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1において、ノンハロゲン難燃電線の圧接接続性についての評価は、図2に基づいて、ノンハロゲン難燃電線5をコネクタ7のストレインリリーフ8間に打ち込んだときにみられる絶縁被覆4の変形が、15極中一つでも、ストレインリリーフ8の補助線9をはみ出した場合は×、同じように絶縁被覆4の変形が、15極中全て、ストレインリリーフ7の補助線9内に収まった場合は○とした。
【0033】
表1によれば、実施例1〜4に記載のノンハロゲン難燃電線の場合には、導体が効果的に変形することにより、絶縁被覆の変形が抑制され、圧接接続性が良好であることが確認された。一方、比較例1〜3に記載のノンハロゲン難燃電線の場合には、導体がほとんど変形しないため、絶縁被覆が大きく変形し、圧接接続性が劣ることが確認された。また、比較例4のノンハロゲン難燃電線の場合には、中心素線の外径が他の素線お外径よりも大きく形成され、圧接接続性が良好であるが、中心素線の外径が大きすぎるため、撚り合わせ作業が困難になり、作業性が悪いことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施の形態に係るもので、ノンハロゲン難燃電線の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るもので、コネクタに電線を挿入嵌合したときの状況を示す説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 中心素線
2 他の素線
3 導体
4 絶縁被覆
5 ノンハロゲン難燃電線
6 空隙
7 コネクタ
8 ストレインリリーフ
9 補助線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の素線を同心撚りした導体上に絶縁被覆を設けてなり、コネクタに挿入嵌合され、圧接接続されて使用される圧接用ノンハロゲン難燃電線において、中心素線の外径を中心素線の周囲の他の素線の外径よりも大きく形成すると共に、隣接する他の素線間に空隙を形成したことを特徴とする圧接用ノンハロゲン難燃電線。
【請求項2】
中心素線の外径をRとし、他の素線の外径をR0としたとき、次式で表わされる両者の関係値が0.05〜0.15の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の圧接用ノンハロゲン難燃電線。
[数1]
(R−R0)/R
【請求項3】
コネクタに挿入嵌合され、圧接接続されるときに、導体断面が容易に変形可能に構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の圧接用ノンハロゲン難燃電線。
【請求項4】
コネクタに挿入嵌合され、圧接接続されるときに、他の素線が導体断面と平行方向に移動することにより、導体断面が容易に変形可能に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の圧接用ノンハロゲン難燃電線。
【請求項5】
複数本の素線を同心撚りした導体上に絶縁被覆を設けてなり、コネクタに挿入嵌合され、圧接接続されて使用される圧接用ノンハロゲン難燃電線の接続方法において、前記導体として、中心素線の外径を中心素線の周囲の他の素線の外径よりも大きく形成すると共に、隣接する他の素線間に空隙を形成してなる導体を用いることを特徴とする圧接用ノンハロゲン難燃電線の接続方法。
【請求項6】
中心素線の外径をRとし、他の素線の外径をR0としたとき、次式で表わされる両者の関係値が0.05〜0.15の範囲にあることを特徴とする請求項5に記載の圧接用ノンハロゲン難燃電線の接続方法。
[数2]
(R−R0)/R
【請求項7】
コネクタに挿入嵌合され、圧接接続されるときに、他の素線が導体断面と平行方向に移動することにより、導体断面が容易に変形可能に構成されていることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の圧接用ノンハロゲン難燃電線の接続方法。

【図1】
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【図2】
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