説明

圧空成形装置

【課題】成形用シートを所定の加熱温度に均一に維持したまま成形を行なうことにより高精度の成形を実現することができる圧空成形装置を提供する。
【解決手段】軟化した熱可塑性シートSを挟んだ状態で二つの圧空ボックス3,5が対向配置され、一方の圧空ボックス3の成形面3dに上記熱可塑性シートSを密着させるとともに、その熱可塑性シートSの成形面側と反対側の面に熱可塑性シートSを介して圧縮空気を吹き付け、上記熱可塑性シートSを賦形する圧空成形装置において、上記圧縮空気を加熱した熱風を、他方の圧空ボックス内に供給する熱風供給装置と、上記他方の圧空ボックス内に設けられ、上記熱風供給装置からの熱風を、多孔仕切部8を介して上記圧空ボックス3,5内に吹き出す熱風吹出室9とが備えられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮空気を加えることにより、熱可塑性シートを成形型に押し付けて所望の形状に賦形する圧空成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の内装部品としての例えばセンターパネルやドアパネルを、真空成形や圧空成形によって成形する方法が知られている。
【0003】
真空成形は、型締め前に成形用の耐熱性熱可塑性シート(以下、成形用シートと呼ぶ)を加熱して柔らかくし、それを金型内の成形型に押えつけ、成形用シートの型当たり面と成形型の間の空気を吸引することで真空に近い状態を作り出し、成形用シートを成形型に密着させて成形する。
【0004】
また、圧空成形は、吸い出す空気よりも圧力の高い圧縮空気を成形用シートの型当たり面と反対側の面に加え、成形用シートを成形型に密着させて成形する。
【0005】
上記真空成形/圧空成形において、金型(または圧空ボックス)外で成形用シートを加熱して軟化させ、金型内に搬入して型閉じを行ない、真空/圧空成形を開始すると、各工程で発生するタイムラグによって成形用シートの温度が低下し硬化する。
【0006】
成形用シートの温度が低下すると、成形型の表面形状に対して成形用シートを忠実に沿わせることができず、所望の形状に成形できない場合がある。
【0007】
また、成形用シートの温度低下を補うために、より高温で成形用シートを加熱すると、過剰加熱によって成形用シート表面に欠陥が生じたり、また、成形用シートに絵柄が形成されている場合には、その絵柄が損なわれるという問題がある。
【0008】
そこで、図7に示す真空成形装置のように、成形用シートを金型内で加熱する構成が提案されている。
【0009】
同図に示す真空成形装置は、本体50の中央部に固定ブース51が配置され、この固定ブース51の上下に、下部チャンバー52と上部チャンバー53が、いずれも上記固定ブース51を挟んだ状態で昇降可能に設けられている。
【0010】
下部チャンバー52はサーボモータ52aによって昇降可能な下枠52bと可動枠52cとからなり、下枠52bの上昇によって密閉できるようになっている。なお、52dは金型52eを加熱するヒータである。
【0011】
一方、上部チャンバー53は、空気シリンダー53aによって昇降可能であり、下降させた場合は、上記固定ブース51に押し付けられ密閉できるようになっている。
【0012】
上部チャンバー53には、成形用シートSを予熱するための遠赤外線スパイラルヒータ54が収納されている。
【0013】
なお、下部チャンバー52は配管55を介し、上部チャンバー53は配管56を介し、それぞれ真空ポンプ57に接続されており、上部チャンバー53の圧力は真空度から大気圧まで圧力を調整することができる。それにより、下部チャンバー52と上部チャンバー53との圧力差によって成形用シートSを成形型52eに吸着させ、所定の形状に成形することができるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−321169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記した従来の真空成形装置によれば、遠赤外線スパイラルヒータ54を用い、金型52e近傍で成形用シートSを加熱することができるため、成形用シートSを加熱した後、金型内に搬入する成形方法に比べると、タイムラグを短縮することができる。
【0015】
しかしながら、遠赤外線スパイラルヒータ54による加熱は専ら、輻射熱に依存するため、成形型に凹凸があると成形用シートSに加熱ムラが生じてしまう。
【0016】
加熱ムラを解消すべくヒータ温度を高く設定すると、遠赤外線スパイラルヒータ54との距離が近い部位では加熱過剰となり、成形用シートSの表面に泡吹き等の不具合が発生する。
【0017】
また、成形用シートSは成形直前まで均一な温度で軟化状態を維持しておくことが望ましいが、上記真空成形装置では成形前に放圧コック58を開放して上部チャンバー53内を大気圧にし、下部チャンバー52と上部チャンバー53とに圧力差を形成するように構成されているため、成形用シートSを成形直前まで均一に加熱しておくことは難しい。
【0018】
特に、自動車の内装部品のように精密な成形を行なう場合、成形直前まで成形用シートを所定の加熱温度に均一に維持することが成形品の善し悪しに影響するため、均一加熱は成形条件として極めて重要であるが、このような成形条件を満足する成形装置は実現されていない。
【0019】
本発明は以上のような従来の成形装置における課題を考慮してなされたものであり、成形用シートを所定の加熱温度に均一に維持したまま成形を行なうことにより、高精度の成形を実現することができる圧空成形装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、軟化した熱可塑性シートを挟んだ状態で二つの圧空ボックスが対向配置され、一方の圧空ボックスの成形面に上記熱可塑性シートを密着させるとともに、その熱可塑性シートの成形面側と反対側の面に上記熱可塑性シートを介して圧縮空気を吹き付け、上記熱可塑性シートを賦形する圧空成形装置において、
上記圧縮空気を加熱した熱風を、他方の圧空ボックス内に供給する熱風供給手段と、
上記他方の圧空ボックス内に設けられ、上記熱風供給手段からの熱風を、多孔仕切部を介して上記圧空ボックス内に吹き出す熱風吹出室とが備えられている圧空成形装置である。
【0021】
本発明において、上記熱風供給手段として、コンプレッサと、このコンプレッサと上記他方の圧空ボックス内とを接続する圧縮空気供給路と、この圧縮空気供給路内の圧縮空気を所定の温度に加熱するヒータとを有することができる。
【0022】
本発明において、他方の圧空ボックスに、熱風を送り込むための熱風送出ノズルを複数組設け、各組の熱風送出ノズルは、型閉め方向と直交する方向に沿って対向配置することが好ましい。
【0023】
本発明において、上記多孔仕切部は、耐熱性のネットまたは多孔板で構成することができる。
【0024】
本発明において、上記多孔板に、疎に配置された孔部と密に配置された孔部を形成することができる。
【0025】
本発明において、上記一方の圧空ボックスに、上記熱可塑性シートと上記成形面の間の空気を吸引するための吸引通路を設けることが好ましい。
【0026】
本発明において、上記圧空成形装置に搬入する上記熱可塑性シートを予め加熱する予備加熱手段を設けることが好ましい。
【0027】
上記予備加熱手段として、上記熱可塑性シートの搬送経路に上記熱可塑性シートをその両面から加熱する一対の固定ヒータを配置することができる。
【0028】
また、上記予備加熱手段として、型開きされている上記圧空ボックス内に進入または退避自在な移動式ヒータを配置することもできる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の圧空成形装置によれば、成形用シートを所定の加熱温度に均一に維持したまま成形を行なうことができるため、高精度の成形品を成形することができるという長所を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面に示した実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明に係る圧空成形装置の基本構成を示したものであり、(a)は成形前の状態、(b)は成形時の状態を示している。
【0032】
両図において、圧空成形装置1は、下側駆動機構2によって昇降する下型3と、上側駆動機構4によって昇降する上型5とを備えている。
【0033】
なお、本実施形態では下型3と上型5がともに昇降する構成について説明するが、下型3のみまたは上型5のみが昇降する構成であってもよい。
【0034】
下型(一方の圧空ボックス)3と上型(他方の圧空ボックス)5との間には耐熱性熱可塑性シート(以下、成形用シートと呼ぶ)Sが配置され、この成形用シートSの周囲は、上側クランプ6aと下側クランプ6bからなる成形用シートクランプ6によって固定されるようになっている。
【0035】
なお、成形用シートSは、ロールから巻き解かれて断続的に圧空成形装置1に供給される帯状のシートであってもよく、また、所定の形状に裁断されたシート(枚葉シート)であってもよい。
【0036】
下型3は、下側駆動機構2の作用部に固定される下側プレート3aと、その下側プレート3a上に固定される型板3bと、その型板3b上に固定される下側セット台3cとを有し、下側セット台3c上にフォーミングコア(成形面)3dが設けられている。
【0037】
なお、3eは型板3b内に埋設され、下側セット台3cを加熱するためのカートリッジヒータである。
【0038】
また、フォーミングコア3dには吸引通路3fが形成されており、この吸引通路3fは、真空ポンプ7と接続されている。
【0039】
一方、上型5は、上側駆動機構4の作用部に固定される上側プレート5aと、その上側プレート5aの下面に固定される型板5bと、その型板5bの下面に固定される上側セット台5cとを有し、上側セット台5cの内側天井部には、開口が多数形成されている耐熱性の多孔仕切材(多孔仕切部)8で仕切られた熱風吹出室(後述する)9が設けられている。
【0040】
なお、5dは上側セット台5cに埋設されているカートリッジヒータである。
【0041】
上記熱風吹出室9は、圧縮空気供給路10とアクチュエータ付きボールバルブ(以下、ボールバルブと呼ぶ)11を介してコンプレッサ12に接続されており、上側セット台5cにおける熱風吹出部にはエアーヒータ(ヒータ)13が設けられている。
【0042】
上記構成を有する圧空成形装置1は、成形時には図1(b)に示すように、下型3が上昇するとともに上型5が下降し、両型3,5は接続されてその内部に密閉された空間を形成するようになっている。
【0043】
図2は、上型5および下型3を拡大して示した縦断面図である。
【0044】
同図において、下型3には上記吸引通路3fと連通する複数の透孔3gが形成されており、これらの透孔3gは、フォーミングコア3dの周囲に穿設されて、成形用シートSとフォーミングコア3dとの間の空気を吸引するための通路を形成している。
【0045】
なお、図中、3hは断熱板である。
【0046】
一方、上型5は、上側プレート5aの下面に、断熱板5eを介して上側セット台支持部5fを有し、この上側セット台支持部5fに上記した上側セット台5cが固定されている。
【0047】
下方に向けて凹所が形成されている上側セット台支持部5fには、熱風を導入するための熱風送出路5gが対向する状態で水平に穿設されるとともに、平面から見れば、左右にそれぞれ2箇ずつ計4箇所配置されている(図3参照)。
【0048】
これらの熱風送出路5g,5gは上側セット台支持部5f内でさらに下向きに穿設されて上側セット台5cの2組、計4つの熱風送出ノズル5h,5hと連通している。
【0049】
各組の熱風送出ノズル5h,5hは互いに対向する状態で水平方向に穿設されており、これらの熱風送出ノズル5h,5hは、上側セット台5c内面を形成している凹所Cの天井面5iに沿わせて熱風を吹出すことができるようになっている。
【0050】
また、天井面5iと平行で且つ熱風送出ノズル5hの吹出し位置よりも下側に上記多孔仕切材8が架設されている。
【0051】
この多孔仕切材8は、耐熱性を備えたネットまたは多孔板で構成することができる。
【0052】
上記ネットの具体例としてはステンレス製の金網、エキスパンドメタル等が示され、また、多孔板の具体例としてはパンチングメタル等が示される。
【0053】
この多孔仕切材8によって仕切られた空間C′は、熱風送出ノズル5h,5hから吹き出される高圧の熱風を一時的に蓄えるようになっており、蓄えられた高圧の熱風は、次いで、多孔仕切材8の各開口を通過することにより、流れが整えられた熱風として下向きに吹き出されるようになっている。
【0054】
また、上記熱風送出路5gにはエアーヒータ13が内装されている。
【0055】
このエアーヒータ13としては、例えば、坂口電熱(株)製のマイクロケーブルエアーヒータ 型式MCA−500型 容量500Wを使用することができる。
【0056】
上記エアーヒータ13を使用すれば、コンプレッサ12によって約2〜5気圧に昇圧された加圧空気を約400℃まで昇温させて圧空ボックス内に導入することができる。
【0057】
詳しくは、コンプレッサ12からの加圧空気は、管路14aのボールバルブ11を開閉することによって、連通または遮断状態に切り換えられ、そのボールバルブ11の下流側で二つの管路14bおよび14cに分岐され、さらに二つの管路14d,14dに分岐されて(図3参照)各熱風送出路5gに送られるようになっている。また、管路14aには加圧空気の圧力を検出する圧力センサ16が介設されている。
【0058】
なお、図中、3jおよび5jは温度センサを示している。
【0059】
次に上記構成を有する圧空成形装置1の動作について図1および図2を参照しながら説明する。
【0060】
なお、コンプレッサ12のタンクには圧力の調整された圧縮空気が蓄積されているものとする。また、成形用シートSは、巻取ロールから巻き解かれた帯状シートを用い、圧空ボックス内に送って位置決めするものとする。
【0061】
まず、上側セット台支持部5fに設けられている各エアーヒータ13をONする。
【0062】
この状態で、ボールバルブ11を開くと、コンプレッサ12から加圧空気が管路14aを流れ、さらに管路14bと14cに分岐され、管路14bおよび14cに流れた加圧空気はさらに管路14d,14dに分岐され、熱風送出路5gに流れる。
【0063】
熱風送出路5gにはすでにエアーヒータ13が動作中であるため、加圧空気は熱風送出路5gを通過する際に加熱され熱風となる。
【0064】
この熱風は空間C′内に導入されて一時的に蓄積され、さらに多孔仕切材8の開口を通過することによって圧力差が少なく整えられた流れとなり、成形用シートSに吹き付けられる。
【0065】
次に、成形用シートクランプ6によって四辺が固定された成形用シートSをフォーミングコア3dに位置決めする。
【0066】
次に、下側駆動機構2を駆動することによって下側セット台3cを上昇させるとともに、上側駆動機構4を駆動することによって上側セット台5cを下降させる。
【0067】
その結果、下側セット台3cと上側セット台5cがパーティングラインで当接し、フォーミングコア3dが軟化した成形用シートSを押し上げることにより、成形用シートSが賦形される。
【0068】
成形用シートSの賦形時において、成形用シートSの外側表面には熱風が吹き付けられ、流動性の良い熱風は微細な凹凸に対しも作用し、それにより、軟化した成形用シートSをフォーミングコア3dの形状に忠実に密着させることができる。
【0069】
一方、成形用シートSの賦形時においては真空ポンプ7が駆動し、成形用シートSの内面(型当たり面)とフォーミングコア3dとの間の空気は、下側セット台3cに設けられている透孔3gおよび吸引通路3fを介して吸引される。
【0070】
上記真空ポンプ7により吸引は、圧空成形をアシストするためにあり、圧空成形と真空引きが協働することにより、フォーミングコア3dの微細な形状まで忠実に再現することができ、寸法精度の高い成形が可能になる。
【0071】
なお、成形用シートSは、印刷、転写等の手段で表面に図柄が設けられたABS樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂−ポリカーボネートのポリマーアロイ、ポリプロピレン、ポリアミド、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂からなる単一のフィルムから構成される場合もあるが、大概はその図柄の保護のため表面にアクリル系樹脂、フッ素系樹脂、ビニル系樹脂のフィルムがラミネートされた複合フィルムから構成されている。さらにまた、図柄の表面にアクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン共重合樹脂等がコーティングされたシートから構成される場合もある。
【0072】
上記のように多層シートとする場合、表面層の透明性フィルムは、耐摩耗性、耐スクラッチ性、耐光性を有するものが望ましい。
【0073】
また、成形用シートSに設けられるデザインについては、メタリック塗装調、メッキ調、木目調、幾何学柄等、様々なパターンを用いることができる。
【0074】
次に、本発明の圧空成形装置1にて上記成形用シートSを圧空成形した場合、フォーミングコア形状に対してより忠実に成形されたフォーミングシートを得ることができる。ここで作製されたフォーミングシートは、さらに、必要に応じてダイカット型を用いたプレス加工、ルーター加工、あるいはレーザー加工によって不要部分を切断除去し、フォーミングシェルとする。そして、そのフォーミングシェルはそのまま使用される場合もあるが、通常は、射出成形品の表面加飾用インサートシェルとして使用される。
【0075】
その射出成形品の表面加飾用インサートシェルとして使用する場合は、上記インサートシェルを射出成形金型内に配置し、金型を閉じて溶融樹脂を射出して溶融樹脂と成形用シートSを一体化する。このようにして得られた加飾成形品の一例としては、自動車部品におけるコンソールパネル、ドアトリム、シフトインジケータハウジング、ドアスイッチベース等が示される。
【0076】
図4は、上述した構成を有する圧空成形装置1に、予備加熱手段として成形用シート予熱装置17を付設した構成を示したものであり、同図(a)は成形用シート予熱装置17による予熱工程を示し、同図(b)は成形用シート搬入工程を示し、同図(c)は成形工程を示している。なお、以下の説明で参照する図面において、図1と同じ構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0077】
図4(a)において、成形用シート予熱装置17は、成形用シートSの搬送経路において成形用シートSの上側に配置される固定ヒータ17aと、下側に配置される固定ヒータ17bとから構成され、成形用シートSの上下両面を加熱し軟化させるようになっている。
【0078】
所定の温度に加熱された成形用シートSは、図4(b)に示すように、上型5と下型3との間に搬入される。
【0079】
従来の圧空成形または真空成形では、成形用シート予熱装置17から成形用シートSが取り出される時点で温度降下が始まっており、成形開始時には成形用シートSの温度が低下している。
【0080】
これに対し、本実施形態では図4(b)に示すように、上型5と下型3との間に搬入された成形用シートSに対し、熱風Aが吹き付けられるため、成形直前まで成形用シートSを加熱しておくことができる。
【0081】
しかも流動性の良い熱風Aは、遠赤外線ヒータ等の加熱手段とは異なり、成形用シートSの隅々まで均一に加熱することができる。
【0082】
この状態で図4(c)に示すように、真空引きをアシストとして圧空成形を行なえば、シワ、クラック、シートの焼け、加熱過剰による泡吹き等がなく、且つ高精度の成形品を得ることができる。
【0083】
図5は、圧空成形装置1に付設する予備加熱手段としての成形用シート予熱装置17を、圧空ボックス内に進入または圧空ボックスから退避できるように構成したものであり、同図(a)は成形用シート予熱装置17の退避状態を示し、同図(b)は成形用シート予熱装置の進入加熱工程を示し、同図(c)は成形工程を示している。
【0084】
図5(a)において、移動式の成形用シート予熱装置17は、圧空成形装置1の近傍に待機しており、成形用シートSの加熱時に、上型5と下型3の間に移動し、成形用シートSを上下両側から加熱し、軟化させる。
【0085】
成形用シートSが所定の温度に加熱されると、成形用シート予熱装置17は圧空ボックスから搬出され、引き続き、成形用シートSに対し、熱風Aが吹き付けられるため、成形直前まで成形用シートSを加熱しておくことができる。
【0086】
流動性の良い熱風Aは、成形用シートSの隅々まで均一に加熱することができ、図5(c)に示すように、真空引きをアシストとして圧空成形を行なえば、高精度の成形品を得ることができる。
【0087】
なお、図5(b)中、6′は成形用シートクランプの代わりに成形用シートSを把持する把持装置であり、成形用シートSの幅方向縁部に針部を突き刺すものである。
【0088】
図6は、本発明の圧空成形装置1によってコンソールパネルを成形する工程の要部を示したものである。
【0089】
同図(a)は成形前の成形用シートSを示している。
【0090】
成形用シートSのシート厚は500μmのものを使用した。なお、Bは蒸着による加飾範囲を示している。
【0091】
同図(b)は本発明の圧空成形装置1によって成形された成形用シートSaを示しており、複雑な絞り部Dについてもフォーミングコア通りに忠実に成形することができた。
【0092】
同図(c)は成形用シートSをプレス工程に移し、不要部品をカットして取り除いた状態の成形用シートSbを示している。
【0093】
同図(d)は成形用シートSbを用いてインサート成形、すなわち強度を持たせるためのABSからなる補強用樹脂Mを、成形用シートSbの背面側に積層し一体化した成形品Scを示しており、表面には金属調の加飾が施されている。
【0094】
本発明の圧空成形装置1によれば、成形用シートSbと補強用樹脂MとのパーティングラインNが正確に一致している精度の高い成形品Scを得ることができる。
【0095】
なお、図2に示した多孔仕切材8において、孔の配置を変更すれば、加熱部位をコントロールすることが可能になる。
【0096】
例えば、孔の密度を多孔仕切材8の中心側では低く、外周側では高くなるように設定すれば、フォーミングコア3dの周囲を狙って加熱することが可能になり、その逆に配置すれば、フォーミングコア3dの中心部を狙って加熱することが可能になる。
【0097】
また、上側セット台5cに熱風の排気孔を設け、この排気孔から抜き出した熱風を管路14aに戻すように構成すれば、圧空ボックスに導入する熱風を定圧で循環させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】(a)は本発明に係る圧空成形装置の成形前の状態を示す説明図、(b)は成形時の状態を示す説明図である。
【図2】図1に示す上型および下型の拡大縦断面図である。
【図3】図2に示す上型の平面図である。
【図4】(a)〜(c)は、成形用シート予熱装置を付設した場合の成形工程を示す説明図である。
【図5】(a)〜(c)は、別の成形用シート予熱装置を付設した場合の成形工程を示す説明図である。
【図6】(a)〜(d)は、本発明の圧空成形装置による成形工程の要部を示した説明図である。
【図7】従来の真空成形装置の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0099】
1 圧空成形装置
2 下側駆動機構
3 下型(一方の圧空ボックス)
3a 下側プレート
3b 型板
3c 下側セット台
3d フォーミングコア(成形面)
3e カートリッジヒータ
3f 吸引通路
3g 透孔
3h 断熱板
4 上側駆動機構
5 上型(他方の圧空ボックス)
6 成形用シートクランプ
7 真空ポンプ
8 多孔仕切材(多孔仕切部)
9 熱風吹出室
10 圧縮空気供給路
11 ボールバルブ
12 コンプレッサ
13 エアーヒータ
14a〜14d 管路
16 圧力センサ
17 成形用シート予熱装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化した熱可塑性シートを挟んだ状態で二つの圧空ボックスが対向配置され、一方の圧空ボックスの成形面に上記熱可塑性シートを密着させるとともに、その熱可塑性シートの成形面側と反対側の面に上記熱可塑性シートを介して圧縮空気を吹き付け、上記熱可塑性シートを賦形する圧空成形装置において、
上記圧縮空気を加熱した熱風を、他方の圧空ボックス内に供給する熱風供給手段と、
上記他方の圧空ボックス内に設けられ、上記熱風供給手段からの熱風を、多孔仕切部を介して上記圧空ボックス内に吹き出す熱風吹出室とが備えられていることを特徴とする圧空成形装置。
【請求項2】
上記熱風供給手段として、コンプレッサと、このコンプレッサと上記他方の圧空ボックス内とを接続する圧縮空気供給路と、この圧縮空気供給路内の圧縮空気を所定の温度に加熱するヒータとを有する請求項1記載の圧空成形装置。
【請求項3】
上記他方の圧空ボックスに、熱風を送り込むための熱風送出ノズルが複数組設けられ、各組の熱風送出ノズルは、型閉め方向と直交する方向に沿って対向配置されている請求項1または2記載の圧空成形装置。
【請求項4】
上記多孔仕切部が、耐熱性のネットまたは多孔板で構成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧空成形装置。
【請求項5】
上記多孔板に、疎に配置された孔部と密に配置された孔部が形成されている請求項4記載の圧空成形装置。
【請求項6】
上記一方の圧空ボックスに、上記熱可塑性シートと上記成形面の間の空気を吸引するための吸引通路が設けられている請求項1〜5のいずれか1項に記載の圧空成形装置。
【請求項7】
上記圧空成形装置に搬入する上記熱可塑性シートを予め加熱する予備加熱手段が設けられている請求項1〜6のいずれか1項に記載の圧空成形装置。
【請求項8】
上記予備加熱手段として、上記熱可塑性シートの搬送経路に上記熱可塑性シートをその両面から加熱する一対の固定ヒータが配置されている請求項7記載の圧空成形装置。
【請求項9】
上記予備加熱手段として、型開きされている上記圧空ボックス内に進入または退避自在な移動式ヒータが配置されている請求項7記載の圧空成形装置。

【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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