説明

圧縮流体処理ノズル

【課題】 ジエットコアにおける糸条導入孔の内周面およびこの内周面に隣接した前後部の垂直面に付着する特にモノマーを除去することと、長寿命か化を図ること。
【解決手段】 ノズルハウジング7と、このノズルハウジング7内に設けられ、加工すべき糸条C1、E1を供給する糸条導入孔11とエアーを供給するエアー噴射孔29とを有するジエットコア9とで構成され、前記糸条導入孔11に糸条を供給すると共に前記エアー噴射孔29にエアーを供給して前記糸条の長手方向へたるみやループなどを与えるべく前記糸条にテクスチャード加工を施す圧縮流体処理ノズル5であって、前記ジエットコア9における糸条導入孔11の内周面11Aおよびこの内周面11Aに隣接した前後部の垂直面11B、11Cにカーボンを含んだ膜としての例えばダイヤモンドライク膜41、ダイヤモンド膜43あるいは炭化チタン、炭窒化チタン45をコーティングしてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ノズルハウジングと、このノズルハウジング内に設けられ、加工すべき糸条を供給する糸条導入孔とエアーを供給するエアー噴射孔とを有するジエットコアとで構成され、前記糸条導入孔に糸条を供給すると共に前記エアー噴射孔にエアーを供給して前記糸条の長手方向へたるみやループなどを与えるべく前記糸条にテクスチャード加工を施す圧縮流体処理ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ノズルハウジングと、このノズルハウジング内に設けられ、加工すべき糸条を供給する糸条導入孔とエアーを供給するエアー噴射孔とを有するジエットコアとで構成され、前記糸条導入孔に糸条を供給すると共に前記エアー噴射孔にエアーを供給して前記糸条の長手方向へたるみやループなどを与えるべく前記糸条にテクスチャード加工を施す圧縮流体処理ノズルとしては、特許文献1等に例示されるタスランノズル(タスラン:商標名)と特許文献2等に例示されるヘマジェットノズルが知られている。これらのノズルは何れもジエットコアにおける糸条導入孔に糸条を導入すると共にエアー噴射孔からエアーを噴射せしめることで渦流を発生させ、糸条の長手方向へたるみやループなどを与えるべく前記糸条にテクスチャード加工を施す原理に基づいている。
【0003】
これらの圧縮流体処理ノズルによりテクスチャード加工を施す際には、例えば図4に示されている圧縮流体処理ノズル101が使用され、この圧縮流体処理ノズル101はノズルハウジング103と、このノズルハウジング103内に複数のOリング104を介して設けられ、加工すべき糸条Y1である芯フィラメント糸C1、鞘フィラメント糸E1を供給する糸条導入孔105とエアーを供給する複数のエアー噴射孔107とを有するジエットコア109で構成されている。そして、前記糸条導入孔105に糸条である芯フィラメント糸C1、鞘フィラメント糸E1を供給すると共に前記エアー噴射孔107にエアーを供給して前記糸条Y1の長手方向へたるみやループなどを与えるべく前記糸条Y1にテクスチャード加工が施される。その結果、糸条間や糸条と糸条導入孔105表面間に発生する摩擦力を低減するために、通常糸条である芯フィラメント糸C1に少なくとも液体としての例えば水を付与することが行われている。この水の付与によりテクスチャード加工性は向上するものの、糸条である芯フィラメント糸C1、鞘フィラメント糸E1の表面に付着していた油剤、オリゴマー(モノマー)、付与水中のカルシウム塩、マグネシウム塩等の付着物Fがジエットコア109における糸条導入孔105の内周面およびこの内周面の前後部に隣接した垂直面に、図4および図5(A)、(B)、(C)に示されているように付着、堆積してテクスチャード加工中の糸条の走行張力が次第に低下し、テクスチャード加工糸Y1の長手方向のループムラが生じ加工安定性や糸質安定性が低下してしまう。そのため、1〜1.5日に1回の割合で前記ジエットコア109をノズルハウジング103から外して洗浄する必要があった。
【0004】
そこで、これらの問題を解決するために、例えば特許文献3等に例示されるように、ノズル本体の糸条導入孔内の糸条が接触する部分に撥水性または撥水性のある材料でコーティング層を設けたものも知られている。さらに、例えば特許文献4等に例示されるように、ノズルハウジングを回転させることで、ジエットコアを回転させて油剤、オリゴマー(モノマー)、付与水中のカルシウム塩、マグネシウム塩等がノズルにおける糸条走行部の付近の表面に附着させないようにすることも知られている。
【特許文献1】 特公昭60−14853号公報
【特許文献2】 特公平2−38704号公報
【特許文献3】 特公平9−296333号公報
【特許文献4】 特開2000−212848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した特許文献3のごときノズル本体の糸条導入孔内の糸条が接触する部分に撥水性または撥水性のある材料でコーティング層を設けたものでは、上記問題が若干の向上が認められるが顕著な効果を発揮していないのが現状である。また、特許文献4に示したものでは、ノズル駆動部分、ノズルハウジング等の部品を新たに製作する必要があり、製作コストがかかるという問題がある。そのため、以前として上述したジエットコア109における糸条導入孔105の内周面およびこの内周面の前後部に隣接した垂直面に付着、堆積する油剤、オリゴマー(モノマー)、付与水中のカルシウム塩、マグネシウム塩等の付着物Fが完全に除去しきれずに問題が内在されている。
【0006】
そこで、本出願人らは、上述した問題を解決すべく、現在使用されているジエットコア109の材質の特性を調べてみた。材質としては、主にアルミナ(Al)、超硬、ステンレスなどが用いられている。前記アルミナの特性としては、硬度がビッカース(kg/mm)で1400〜1900、平均表面粗さ(μm)が0.1〜0.17、maxで2.05〜3.2、摩擦係数が0.2〜0.7を有している。また、超硬の特性としては、硬度がビッカース(kg/mm)で1650、平均表面粗さ(μm)が0.15〜0.22、maxで1.7〜6.3、摩擦係数が0.9〜1.0を有している。ステンレスの特性としては、硬度がビッカース(kg/mm)で500〜1000、平均表面粗さ(μm)が粗い、摩擦係数が0.12〜0.31を有している。これらを総合すると、ジエットコア109の特性は、硬度がビッカース(kg/mm)で500〜1900、平均表面粗さ(μm)が0.1〜0.22、maxで1.7〜6.3、摩擦係数が0.12〜1.0の範囲のものが使用されていることがわかった。
【0007】
その結果、糸条C1が接触するジエットコア109における糸条導入孔105の内周面およびこの内周面の前後部に隣接した垂直面の材質を従来よりも向上したものを使用すれば、ジエットコア109における糸条導入孔105の内周面およびこの内周面の前後部に隣接した垂直面に、前記油剤、オリゴマー(モノマー)、付与水中のカルシウム塩、マグネシウム塩等の付着物Fが付着、堆積しないと考え、鋭意ジエットコア109の材質の改善を図るように研究を重ねてきて、ノズルを新たに製作することなく、ジエットコアの内周面およびこの内周面の前後部に隣接した垂直面にコーティング処理を施すことで改良を図るようにした。
【0008】
この発明は上述の課題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記発明が解決しようとする課題を達成するために、この発明の請求項1の圧縮流体処理ノズルは、ノズルハウジングと、このノズルハウジング内に設けられ、加工すべき糸条を供給する糸条導入孔とエアーを供給するエアー噴射孔とを有するジエットコアとで構成され、前記糸条導入孔に糸条を供給すると共に前記エアー噴射孔にエアーを供給して前記糸条の長手方向へたるみやループなどを与えるべく前記糸条にテクスチャード加工を施す圧縮流体処理ノズルであって、
前記ジエットコアにおける糸条導入孔の内周面およびこの内周面に隣接した前後部の垂直面にカーボンを含んだ膜をコーティングしてなることを特徴とするものである。
【0010】
この発明の請求項2の圧縮流体処理ノズルは、請求項1記載の圧縮流体処理ノズルにおいて、前記カーボンを含んだ膜がダイヤモンドライクカーボン膜であることを特徴とするものである。
【0011】
この発明の請求項3の圧縮流体処理ノズルは、請求項1記載の圧縮流体処理ノズルにおいて、前記カーボンを含んだ膜が中間層を介してダイヤモンドライクカーボン膜であることを特徴とするものである。
【0012】
この発明の請求項4の圧縮流体処理ノズルは、請求項1記載の圧縮流体処理ノズルにおいて、前記カーボンを含んだ膜がダイヤモンド膜であることを特徴とするものである。
【0013】
この発明の請求項5の圧縮流体処理ノズルは、請求項1記載の圧縮流体処理ノズルにおいて、前記カーボンを含んだ膜が炭化チタン膜または炭窒化チタン膜であることを特徴とするものである。
【0014】
この発明の請求項6の圧縮流体処理ノズルは、請求項1から請求項5までの何れかに記載の圧縮流体処理ノズルにおいて、前記カーボンを含んだ膜の膜厚が0.05〜50.0μmであることを特徴とするものである。
【0015】
この発明の請求項7の圧縮流体処理ノズルは、請求項1から請求項5までの何れかに記載の圧縮流体処理ノズルにおいて、前記ノズルハウジングとジエットコアとが一体化されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
以上のごとき課題を解決するための手段の説明から理解されるように、請求項1の発明によれば、糸条の長手方向へたるみやループなどを与えるべく糸条にテクスチャード加工を施すテクスチャード加工において、前記ジエットコアにおける糸条導入孔の内周面およびこの内周面に隣接した前後部の垂直面にカーボンを含んだ膜がコーティングされているから、前記糸条導入孔の内周面およびこの内周面に隣接した前後部の垂直面には、油剤、オリゴマー(モノマー)、付与水中のカルシウム塩、マグネシウム塩等が付着せず、テクスチャード加工中の糸条の走行張力が低下せず、テクスチャード加工糸の長手方向のループムラが生じることなく加工安定性や糸質安定性が良好となり、ノズルの洗浄回数を従来に比べて大幅に減少させることができる。また、前記糸条導入孔の内周面およびこの内周面に隣接した前後部の垂直面の表面は、糸条との摩擦抵抗が小さく、従来よりも摩耗が少なくなり、長寿命化を図ることができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、カーボンを含んだ膜としてのダイヤモンドライクカーボン膜が前記ジエットコアにおける糸条導入孔の内周面およびこの内周面に隣接した前後部の垂直面にコーティングしてあるから、請求項1と同様の効果を図ることができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、カーボンを含んだ膜としての中間層を介してダイヤモンドライクカーボン膜が前記ジエットコアにおける糸条導入孔の内周面およびこの内周面に隣接した前後部の垂直面にコーティングしてあるから、請求項1と同様の効果を図ることができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、カーボンを含んだ膜としてのダイヤモンド膜が前記ジエットコアにおける糸条導入孔の内周面およびこの内周面に隣接した前後部の垂直面にコーティングしてあるから、請求項1と同様の効果を図ることができる。
【0020】
請求項5の発明によれば、カーボンを含んだ膜としての炭化チタン膜または炭窒化チタン膜が前記ジエットコアにおける糸条導入孔の内周面およびこの内周面に隣接した前後部の垂直面にコーティングしてあるから、請求項1と同様の効果を図ることができる。
【0021】
請求項6の発明によれば、カーボンを含んだ膜の膜厚が0.05〜50.0μmであるから、請求項1と同様の効果を図ることができると共に、前記ジエットコアにおける糸条導入孔の内周面およびこの内周面に隣接した前後部の垂直面からカーボンを含んだ膜が剥がれることなく、長時間使用することができる。
【0022】
請求項7の発明によれば、前記ノズルハウジングとジエットコアとが一体化されているから、ノズルの製作コストの軽減が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
図3を参照するに、エアー加工機1は、ジェットボックス3を備えており、このジェットボックス3内には糸条としてのフィラメント糸に圧縮流体処理加工を施す圧縮流体処理ノズル5が設けられている。この圧縮流体処理ノズル5は主として図1も併せて参照するに、ノズルハウジング7とこのノズルハウジング7内にOリング8を介して設けられたジェットコア9とで構成されている。このジェットコア9は前記ノズルハウジング7に着脱可能に設けられている。前記ジェットコア9内には図1に示されているように、図1における左右方向へ延伸された糸条導入孔11が設けられており、例えばこの糸条導入孔11内に例えば右から左に糸条としての芯フィラメント糸C1、鞘フィラメント糸E1が導入される。
【0025】
前記ジェットボックス3内の上方にはジェットボックス3の上壁3Uより流体付与手段としての水付けノズル13が設けられていると共にこの水付けノズル13には水付け部15が設けられている。また、前記ジェットボックス3の上壁3Uにはヤーンガイド17、19が設けられていると共に前記ジェットボックス3の前壁3Fにはヤーンガイド21が設けられている。前記ジェットボックス3内の右壁3R側にはヤーンガイド23、25が設けられている。
【0026】
前記水付けノズル13には液体としての例えば水を供給する配管27の一端が接続されていると共に配管27の他端は図示省略の液体供給源としてのタンクに接続されている。前記圧縮流体処理ノズル5のジェットコア9には図1を併せて参照するに圧縮エアーを噴射せしめる複数例えば3個のエアー噴射孔29が円周方向へ適宜な間隔で設けられている。
【0027】
前記ノズルハウジング7には図1に示されているように、前記ジェットコア9を内蔵した圧縮流体室31が設けられており、この圧縮流体室31は前記各エアー噴射孔29に連通されている。前記ノズルハウジング7には前記圧縮流体室31に連通した圧縮流体処理用配管33の一端が設けられており、圧縮流体処理用配管33の他端が図示省略のエアー供給源に接続されている。
【0028】
前記ジェットボックス3の上方には芯フィラメント糸C1、鞘フィラメント糸E1を前記圧縮流体処理ノズル5に供給するための供給ローラ35、37が設けられていると共に加工されたエアー加工糸(嵩高糸または流体加工糸とも言う)Y1を図示省略の巻き取りローラへ送り出すための送り出しローラ(リラックスローラ)39が前記ジェットボックス3の前方における下方に設けられている。
【0029】
上記構成により、図示省略の供給パッケージから芯フィラメント糸C1、鞘フィラメント糸E1がそれぞれ引き出されて供給ローラ35、37で送り出される。この供給ローラ35、37で送り出された芯フィラメント糸C1はヤーンガイド17を経て、水付けノズル13の水付け部15で芯フィラメント糸C1に加熱された水が付与される。この加熱された水が付与された芯フィラメント糸C1はヤーンガイド23を通り圧縮流体処理ノズル5におけるジェットコア9の糸条導入孔11に送られる。
【0030】
一方、鞘フィラメント糸E1は供給ローラ37で送り出されてヤーンガイド19、ヤーンガイド25を経て圧縮流体処理ノズル5におけるジェットコア9の糸条導入孔11に送られる。このジェットコア9の糸条導入孔11に送られた芯フィラメント糸C1と鞘フィラメント糸E1とに、図示省略の圧縮エアー供給源より圧縮エアーが吐出され、圧縮流体処理用配管33を経て圧縮流体室31に送られ、この圧縮流体室31から圧縮流体処理ノズル5におけるジェットコア9の各エアー噴射孔29より噴射されて、圧縮流体処理加工が施されて糸条の長手方向にたるみやループなどが与えられてエアー加工糸(嵩高糸または流体加工糸とも言う)Y1が得られた後、送り出すローラ(リラックスローラ)39を経て図示省略の巻き取りムローラに巻き取られることになる。
【0031】
前記ジェットコア9の糸条導入孔11の内周面11Aおよびこの内周面11Aの前後部の垂直面11B、11Cには図1および図2(A)、(B)、(C)に示されているように、カーボン(C)を含んだ膜としての例えばダイヤモンドライクカーボン膜41、ダイヤモンドボン膜43あるいは炭化チタン、炭窒化チタン45がコーティングされている。
【0032】
このコーティングされたダイヤモンドライクカ−ボン膜41とは、高硬度などのダイヤモンドに似た物性を持つ、水素を含むアモルファスカーボン膜、言い換えるとダイヤモンド構造を一部含んだ炭素(C)と水素(H)からなるアモルファスカ−ボン膜であり、長距離秩序的には決まった結晶構造を持たないアモルファスである。また、見方をかえると、高硬度による決まった耐摩耗性と低い摩擦係数を特徴とするトライラボコーティング膜である。以下、前記ダイヤモンドライクカ−ボン膜41をDLC膜41とよぶ。
【0033】
このコーティングされたダイヤモンド膜43とは、炭素(C)の結晶の密集した膜であって、物質中最高の硬度、熱伝導性を持ち、化学的安定性、透光性に優れたものである。また、このコーティングされた炭化チタン、炭窒化チタン45とは、炭化チタンはTiCで、炭窒化チタンはTiCNであらわされ、いずれも炭素(C)を含んだチタンである。
【0034】
前記ジェットコア9の糸条導入孔11の材質としては、従来より主にアルミナ(Al)、超硬、ステンレスが用いられている。そして、これらの材質を母材として各母材にカーボン(C)を含んだ膜としての例えばDLC膜41、ダイヤモンド膜43あるいは炭化チタン、炭窒化チタン45の成膜が可能かどうか試験を行ったところ、アルミナおよび超硬などではDLC膜41の成膜が直接可能であると共にTi、Siなどの中間層を介してDLC膜41を成膜することが可能であることが見出された。また、ステンレスではDLC膜41を直接成膜することは不可能であるが、Ti、Siなどの中間層を介することで密着力が高まり、DLC膜41を成膜することが可能であることが見出された。また、アルミナ、超硬ではダイヤモンドボ膜43あるいは炭化チタン、炭窒化チタン45の成膜することが可能であることが見出された。
【0035】
前記ジェットコア9の糸条導入孔11の内径は例えば0.3〜3.0mmであるが、この程度の内径であれば、ジェットコア9の糸条導入孔11の前後より、例えばイオン蒸着法、熱フィラメントCV法、高周波放電プラズムCVD法、アークイオンプレーティング法、スパッタリング法によりDLC膜41、ダイヤモンド膜43あるいは炭化チタン、炭窒化チタン45を成膜加工することが可能であることが見出された。すなわち、ジェットコア9の糸条導入孔11を分割することなく、直接そのままの状態で成膜加工することができる。
【0036】
上述したごとく、ジェットコア9に使用されるアルミナの特性としては、硬度がビッカース(kg/mm)で1400〜1900、平均表面粗さ(μm)が0.1〜0.17、maxで2.05〜3.2、摩擦係数が0.2〜0.7を有している。また、超硬の特性としては、硬度がビッカース(kg/mm)で1650、平均表面粗さ(μm)が0.15〜0.22、maxで1.7〜6.3、摩擦係数が0.9〜1.0を有している。ステンレスの特性としては、硬度がビッカース(kg/mm)で500〜1000、摩擦係数が0.12〜0.31を有している。
【0037】
これに対して、DLC膜41の特性は、硬度がビッカース(kg/mm)で2500〜8000、平均表面粗さ(μm)が0.0073、摩擦係数が0.05〜0.2を有している。さらに、離型性、耐薬品性、耐食性に優れ、しかも、密着力が高い、といった特徴を有している。ダイヤモンド膜43の特性は、硬度がビッカース(kg/mm)で8000〜11000、平均表面粗さ(μm)はDLC膜41と同程度以上、摩擦係数もDLC膜41と同程度以上を有している。さらに、離型性、耐薬品性、耐食性に優れ、しかも、密着力が高い、といった特徴を有している。さらに、炭化チタン、炭窒化チタン45の特性は、硬度(押し込み硬度)がビッカース(kg/mm)で3000、密着性が60N、酸化開始温度が500℃、摩擦係数が0.3といった特徴を有している。
【0038】
前記ジェットコア9の糸条導入孔11の材質にアルミナ、超硬を用い、その表面にDLC膜41、ダイヤモンド膜43あるいは炭化チタン、炭窒化チタン45を成膜すると、硬度がビッカース(kg/mm)で2500〜11000を有しているので、従来のアルミナ、超硬の硬度の1400〜1900より2〜4倍程度の値を有し、芯フィラメント糸C1、鞘フィラメント糸E1を長時間接触走行させても、摩耗することが非常に少なくなり、従来のものに比べて長時間使用することが可能となり、ジェットコア9の超寿命化を図ることができる。また、平均表面粗さ(μm)が0.0073であり、従来のアルミナ、超硬の0.15〜1.0μmより1000倍程度非常に小さく、結晶界がないため、表面は非常に滑らかであり、隙間がないから、油剤、オリゴマー(モノマー)、付与水中のカルシウム塩、マグネシウム塩等が付着物Fが前記糸条導入孔11の内周面11Aおよびこの内周面11Aに隣接した前後部の垂直面11B、11Cに付きにくくなる。さらに、摩擦係数が0.05〜0.3と非常に小さいことと、前記糸条導入孔11にはエアーが存在していることから、糸条導入孔11の内周面11Aおよびこの内周面11Aに隣接した前後部の垂直面11B、11Cに油剤、オリゴマー(モノマー)、付与水中のカルシウム塩、マグネシウム塩等が付着物Fが付きにくい。
【0039】
以上のことから、前記ジェットコア9における糸条導入孔11の内周面11Aおよびこの内周面11Aに隣接した前後部の垂直面11B、11Cにダイヤモンドライクカーボン膜41、ダイヤモンド膜43あるいは炭化チタン、炭窒化チタン45をコーティングすることで、前記糸条導入孔11の内周面11Aおよびこの内周面11Aに隣接した前後部の垂直面11B、11Cには、油剤、オリゴマー(モノマー)、付与水中のカルシウム塩、マグネシウム塩等が付着物Fが付着せず、テクスチャード加工中の糸条の走行張力が従来より低下せず、テクスチャード加工糸Y1の長手方向のループムラが生じることなく非常に加工安定性や糸質安定性が良好となる。また、ジェットコア9の洗浄回数も従来に比べて数段以上に減少させることができると共にジェットコア9の洗浄周期も従来より長くすることができる。さらに、前記糸条導入孔11の内周面11Aおよびこの内周面11Aに隣接した前後部の垂直面11B、11Cの表面は、糸条との摩擦抵抗が小さく、従来よりも摩耗が少なくなり、ジェットコア9の寿命が大幅に長くなり、長寿命化を図ることができる。
【0040】
糸条導入孔11の内周面11Aおよびこの内周面11Aに隣接した前後部の垂直面11B、11CにコーティングされるDLC膜41、ダイヤモンド膜43あるいは炭化チタン、炭窒化チタン45の膜厚は、0.05〜50.0μmであることが好ましい。すなわち、0.05μm未満であると、コーティングの効果が薄くなり、長時間使用に対して効果が発揮されない。50.0μmを越えると、製作上加工が難しくなると共に製作コストもかかりすぎて良くない。さらに、割れ(欠け)や膜厚にバラツキが生じて良くない。
【0041】
ノズルハウジング7とジェットコア9とを一体化した圧縮流体処理ノズル5とすることもかのうである。この場合には製作コストを低減することができる。
【0042】
芯フィラメント糸C1、鞘フィラメント糸E1にそれぞれナイロンのFDY70D−24Fを用いると共に、ジェットコア9における糸条導入孔11の内周面11Aおよびこの内周面11Aに隣接した前後部の垂直面11B、11Cに上述した特性を有したカーボンを含有した膜としての例えばDLC膜41、ダイヤモンド膜43あるいは炭化チタン、炭窒化チタン45をコーティングしたものを用い、糸速400m/min、芯フィラメント糸C1のオーバーフィードを+3%、鞘フィラメント糸E1のオーバーフィードを+35%の条件下で、図3に示したエアー加工機1でもって圧縮流体処理加工を行った。
【0043】
その結果、ジェットコア9における糸条導入孔11の内周面11Aおよびこの内周面11Aに隣接した前後部の垂直面11B、11Cには前記付着物Fがほとんど付着せず、従来のジェットコア9の洗浄時期を1日〜1.5日に1回行っていたものが、本実施例では8日〜10日に1回の交換ですむようになった。言い換えれば、従来よりも6〜8倍のジェットコア9の洗浄時期を遅らせることができた。したがって、生産性が従来よりも大幅に向上せしめることができ、しかも、加工の安定性、糸質の安定性も一段とよくなり、均一な嵩高糸が得られた。
【0044】
なお、この発明は前述した実施の形態に限定されることなく、適宜な変更を行うことによりその他の態様で実施し得るものである。本実施の形態では液体付与手段としての水付けノズル13で芯フィラメント糸C1に水を付与せしめる例で説明したが、水付けノズル13がなくても実施可能である。また、芯フィラメント糸C1、鞘フィラメント糸E1を用いてコア加工について説明したが、芯フィラメント糸C1のみを用いてシングル加工を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の圧縮流体処理ノズルの一実施形態を示した側面断面図である。
【図2】(A)、(B)は図1における(a)、(b)からみた矢視図、(C)は図1における(C)−(C)線の断面図である。
【図3】圧縮流体処理ノズルを用いたエアー加工機の全体を示した概略斜視図である。
【図4】従来の圧縮流体処理ノズルの一実施形態を示した側面断面図である。
【図5】(A)、(B)は図4における(a)、(b)からみた矢視図、(C)は図4における(c)−(c)線の断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 エアー加工機
3 ジエットボックス
5 圧縮流体処理ノズル
7 ノズルハウジング
9 ジエットコア
11 糸条導入孔
11A 内周面
11B 前部の垂直面
11C 後部の垂直面
13 水付けノズル
15 水付け部
17、19、21、23、25 ヤーンガイド
27 配管
29 エアー噴射孔
31 圧縮流体室
33 圧縮流体処理用配管
35、37 供給ローラ
39 送り出しローラ
41 ダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)
43 ダイヤモンド膜
45 炭化チタン、炭窒化チタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルハウジングと、このノズルハウジング内に設けられ、加工すべき糸条を供給する糸条導入孔とエアーを供給するエアー噴射孔とを有するジエットコアとで構成され、前記糸条導入孔に糸条を供給すると共に前記エアー噴射孔にエアーを供給して前記糸条の長手方向へたるみやループなどを与えるべく前記糸条にテクスチャード加工を施す圧縮流体処理ノズルであって、
前記ジエットコアにおける糸条導入孔の内周面およびこの内周面に隣接した前後部の垂直面にカーボンを含んだ膜をコーティングしてなることを特徴とする圧縮流体処理ノズル。
【請求項2】
前記カーボンを含んだ膜がダイヤモンドライクカーボン膜であることを特徴とする請求項1記載の圧縮流体処理ノズル。
【請求項3】
前記カーボンを含んだ膜が中間層を介してダイヤモンドライクカーボン膜であることを特徴とする請求項1記載の圧縮流体処理ノズル。
【請求項4】
前記カーボンを含んだ膜がダイヤモンド膜であることを特徴とする請求項1記載の圧縮流体処理ノズル。
【請求項5】
前記カーボンを含んだ膜が炭化チタン膜または炭窒化チタン膜であることを特徴とする請求項1記載の圧縮流体処理ノズル。
【請求項6】
前記カーボンを含んだ膜の膜厚が0.05〜50.0μmであることを特徴とする請求項1から請求項5までの何れかに記載の圧縮流体処理ノズル。
【請求項7】
前記ノズルハウジングとジエットコアとが一体化されていることを特徴とする請求項1から請求項6までの何れかに記載の圧縮流体処理ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−239169(P2007−239169A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314829(P2006−314829)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(591177462)株式会社愛機リオテック (8)
【Fターム(参考)】