説明

圧電トランスの絶縁回路

【課題】1次と2次間に流れる漏洩電流を低減した圧電トランスの絶縁回路を提供する。
【解決手段】交流電源1と圧電トランス2,3との間にバルントランス4を配置する。圧電トランス2,3の各2次端子にはそれぞれ冷陰極管5,6の高圧側を接続し、これら複数の冷陰極管5,6の低圧側を機器のシャーシなどに並列に2次接地する。バルントランス4の第1と第2の巻線4a,4bには平衡状態にある逆方向の電流が流れるため、バルントランス4を構成する巻線4a,4bが交流電源1と圧電トランス2,3を流れる電流の抵抗となることはない。漏洩電流は圧電トランス2,3−交流電源1間の電流のような平衡状態ではないので、バルントランス4の巻線4a,4bの有するインダクタンスLの影響を受け、バルントランス4の巻線4a,4bが漏洩電流を遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極管(CCFL)の駆動装置やテレビジョン受像器、電子複写機、携帯電話などの高電圧発生装置に使用される圧電トランスに関するものであって、特に、圧電トランスの1次側と2次側を絶縁するための絶縁回路に係る。
【背景技術】
【0002】
圧電トランスは、圧電振動子の共振現象を利用することにより、低電圧を入力し高電圧を出力するものであって、電磁型トランスに比較して圧電振動子のエネルギー密度が高く、小型化が可能であるという特徴を有する。そのため、冷陰極管や液晶バックライトの点灯用や、小型高電圧電源用などに用いられている。例えば、液晶テレビのバックライト用冷陰極管を点灯するためのバックライトインバータとして、圧電トランスを使用する技術が特許文献1に記載されている。
【0003】
図4は、この種のバックライトインバータ(圧電インバータ)を使用した液晶テレビの一例を示す機能ブロック図である。図中、101は交流(AC)電源、102は力率改善回路(PFC)、103はスイッチング電源回路(PS)、104はチューナーや音声回路などを含むテレビ回路、105はバックライトインバータ、106は冷陰極管である。
【0004】
この図4において、交流電源101から入力された所定の電圧は、力率改善回路102によってその力率が改善されて所定の電圧(例えば、400V)まで昇圧され、スイッチング電源回路103に入力される。スイッチング電源回路103では、昇圧された電圧をテレビ回路駆動用の低電圧(例えば、12V)まで降下させ、これをテレビ回路104およびバックライトインバータ105に入力する。
【0005】
この場合、スイッチング電源回路103に内蔵された降圧用の電磁型トランスにより、その1次側と2次側を電気的に分離することで、絶縁を確保している。
【0006】
バックライトインバータ105では、スイッチング電源回路103で降下された低電圧を、インバータを構成する電磁型のトランスで昇圧し、その後、圧電トランスで更に高電圧(例えば、1000V)にして、この高電圧を冷陰極管106に印加して、冷陰極管106を点灯している。一方、テレビ回路104に入力された低電圧は、テレビ回路105内の各機器を駆動するための電源として使用される。
【0007】
前記のような従来技術は、スイッチング電源回路103で、例えば12Vの低電圧に降下させた後、1000Vの高電圧まで昇圧させているので、約100倍もの昇圧比が必要となる。しかし、単板の圧電トランスを単独で使用した場合には昇圧比が不足するため、昇圧用の電磁型トランスが要求され、効率が悪い問題があった。一方、積層の圧電トランスを使用した場合、単独で昇圧することはできるものの、圧電トランスとして構成が複雑で高価なものが必要となる欠点があった。
【0008】
そこで、図5のように、力率改善回路102の出力電圧を、降圧用のスイッチング電源回路103を介することなく、直接バックライトインバータ105に入力することで効率の向上を図る回路が提案されている。この回路では、バックライトインバータ105には、力率改善回路102の出力電圧(例えば、400V)が入力されることになるので、その昇圧比は2.5倍程度で済み、単板の圧電トランスの使用が可能になると共に従来必要とされていた電磁型トランスも不要となり、電磁型トランス及びスイッチング電源回路103での損失分が解消され、効率の向上が可能になる。
【0009】
しかし、この回路では、力率改善回路102の出力電圧を直接バックライトインバータ105に入力しているため、インバータに設けられた圧電トランスの1次側と2次側を絶縁できないといった問題がある。すなわち、テレビ受像器やパソコンなどの電子機器においては、使用者の安全上の観点から電源と、これを降圧あるいは昇圧して使用される機器側とを絶縁することが原則であり、通常は、昇降圧用のトランスの1次側と2次側とで絶縁している。
【0010】
この場合、図4に示す回路では、スイッチング電源回路103に内蔵された電磁型トランスにより1次側と2次側を電気的に分離することで絶縁することができたが、図5に示す回路では、バックライトインバータ105部分で電磁型トランスが不要となり、圧電トランスのみが使用されているため、絶縁することが難しい。
【0011】
すなわち、図6に示すように、圧電トランス201は、電源202に接続された一対の1次電極201a,201bと冷陰極管203に接続された2次電極201cとを有する3端子の構造である。そのため、冷陰極管203のリターン端子203aを圧電トランス201の一方の1次電極201bと共用することになり、圧電トランス201の1次側と2次側を絶縁することはできない。
【0012】
これを改善するために、本出願人は、特許文献2として、図7に示す回路を提案した。この回路は、第1及び第2の圧電トランス201,204をその1次電極側で直列に接続すると共に、冷陰極管203のリターン端子を第2の圧電トランス204の2次電極204cに接続したものである。
【0013】
この回路では、2次側端子のリターン端子が、1次側の端子と独立しているので、冷陰極管203の負荷電流が他のルートに漏洩しない限り、1次側と2次側の絶縁を確保できる。この場合、圧電トランス201,204の出力は、冷陰極管203を電子機器のシャーシなどの2次接地に対して平衡電圧で駆動することになる。
【0014】
ところで、最近は、液晶テレビなどの大型化に伴い、冷陰極管203の大型化も進んでいる。前記図7の回路では、冷陰極管203をU字管としたり、平行に配置した2本の冷陰極管を直列接続することで、大型化にも対応可能である。
【0015】
しかし、より大型化されたテレビ受像器などにおいては、図8のように、複数本の冷陰極管203,205を平行に配置すると共に、そのリターン端子を2次接地することも要求されている。その理由は、隣接冷陰極管と接続する場合はコネクタや端子台が必要になるが、シャーシであれば端末の処理だけで済む、冷陰極管の低圧側を強制的にGND電位とすることで、その周囲の雑音レベルが低下するという要求があるからである。
【0016】
その結果、この図8の回路では、圧電トランス201,204の出力は、冷陰極管203,205を2次接地に対して個別に駆動することになる。
【特許文献1】特開平10−200174号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2006/088176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
確かに、前記図8の回路でも、2本の冷陰極管201,204が平衡電圧で駆動されている場合には、前記図7の回路と同様に圧電トランスの1次側と2次側の絶縁は確保される。しかしながら、これらの回路では、負荷電流に関する絶縁は確保されていても、負荷の状態に応じて発生する漏洩電流(リーク電流)に関する絶縁機能については必ずしも十分とは言えない。この漏洩電流は、電子機器の安全規格上から一定値以内に抑える必要があり、その値を超えると感電のおそれがあるため、規格上も絶縁構造とみなされない。
【0018】
すなわち、前記のように図8の回路では、圧電トランスの出力は、2本の冷陰極管を2次接地に対して個別に駆動することになるため、2本の冷陰極管のインピーダンスに差がある場合、各冷陰極管203,205の管電流(図中(a) (b) )に差が生じて、その差分の電流が漏洩電流となる。
【0019】
なお、複数の冷陰極管間のインピーダンスが異なるなどの理由としては、内部のガスの圧力の偏差や、水銀の量の偏差が考えられる。また、大型テレビでは、画面の位置(上、下)によって、温度が異なるため、冷陰極管も実装される位置で周囲温度が異なる。そして、冷陰極管は、温度特性を持つので、インピーダンスが異なる結果となる。
【0020】
また、圧電トランスや冷陰極管とシャーシとの間の静電容量206,207に流れる電流(図中(c) (d) )は、2つの圧電トランス201,204で位相が180°ずれているので原則的には漏洩電流とはならないが、2つの圧電トランス間でシャーシとの静電容量に偏差がある場合は前記(c) (d)の電流の大きさも異なるので、その偏差分の漏洩電流が流れる。
【0021】
本発明は前記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであって、その目的は、電源に接続された圧電トランスの2次端子に冷陰極管を接続すると共に、この冷陰極管の低圧側を接地した冷陰極管の駆動用の圧電トランスにおいて、圧電トランスの1次側と2次側を絶縁することを可能とした圧電トランスの絶縁回路を提供することにある。
【0022】
本発明の他の目的は、電源に接続された複数の圧電トランスと、これら複数の圧電トランスの2次端子に接続された複数の冷陰極管を備え、これら複数の冷陰極管の低圧側を並列に接地した冷陰極管の駆動用の圧電トランスにおいて、圧電トランスの1次側と2次側を絶縁することを可能とした圧電トランスの絶縁回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記の目的を達成するために、本発明の圧電トランスの絶縁回路は、圧電トランスの第1及び第2の1次端子を交流電源に接続すると共に圧電トランスの2次端子を冷陰極管の高圧側に接続し、前記交流電源と圧電トランスとの間に対向して配置された第1の巻線と第2の巻線とを有するバルントランスを配置し、その第1の巻線の一端を交流電源に、他端を圧電トランスの第1の1次端子に接続し、第2の巻線の一端を交流電源に、他端を圧電トランスの第2の1次端子に接続したことを特徴とする。
【0024】
また、本発明の圧電トランスの絶縁回路は、複数の圧電トランスをその第1及び第2の1次端子を介して直列に接続し、先頭の圧電トランスの第1の1次端子を交流電源に接続すると共に最後の圧電トランスの第2の1次端子を交流電源に接続し、前記複数の圧電トランスの各2次端子にはそれぞれ冷陰極管の高圧側を接続し、前記交流電源と複数の圧電トランスとの間に対向して配置された第1の巻線と第2の巻線とを有するバルントランスを配置し、その第1の巻線の一端を交流電源に、他端を先頭の圧電トランスの第1の1次端子に接続し、第2の巻線の一端を交流電源に、他端を最後の圧電トランスの第2の1次端子に接続したことを特徴とする。
【0025】
また、圧電トランスに接続された冷陰極管の低圧側を2次接地することも、本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、交流電源と圧電トランスとの間にバルントランスを配置することにより、2次側を接地した場合であっても、シャーシなどの接地箇所に流れる漏洩電流をバルントランスの巻線の有するインダクタンスを利用して遮断することにより、圧電トランスの1次側と2次側の絶縁を確保することができる。
【0027】
特に、バルントランスには圧電トランス−交流電源間の平衡電流が流れ、この平衡電流によってバルントランスの第1と第2の巻線で生じる磁束が相殺されるため、磁束発生に起因する鉄損が低減される。その結果、従来技術の電磁型トランスを使用した絶縁回路に比較して、銅損は同様な値であっても、鉄損分の効率向上が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(1)第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態を図1に従って具体的に説明する。図1において、符号1は交流電源、2,3はこれに接続された2つの圧電トランスであって、この圧電トランスの1次側は接地されている。この交流電源1と圧電トランス2,3との間にバルントランス4が配置されている。また、前記複数の圧電トランス2,3の各2次端子にはそれぞれ冷陰極管5,6の高圧側が接続され、これら複数の冷陰極管5,6の低圧側が機器のシャーシなどに並列に2次接地されて、冷陰極管の駆動回路が構成されている。
【0029】
より具体的には、2つの圧電トランス2,3は、その第1及び第2の1次端子を介して直列に接続され、圧電トランス2の第1の1次端子が交流電源1に接続されると共に圧電トランス3の第2の1次端子が交流電源1に接続されている。
【0030】
また、前記バルントランス4は、交流電源と複数の圧電トランスとの間に対向して配置された第1の巻線4aと第2の巻線4bとを備えている。バルントランス4の第1の巻線4aの一端が交流電源1に、他端が圧電トランス2の第1の1次端子に接続され、第2の巻線4bの一端が交流電源に、他端が圧電トランス3の第2の1次端子に接続されている。
【0031】
なお、図1において、符号7,8は圧電トランス2,3の2次側と、接地箇所であるシャーシなどとの間に形成された静電容量である。
【0032】
前記のような構成を有する第1実施形態においては、圧電トランス2,3の1次側では、交流電源1−バルントランス4の第1の巻線4a−圧電トランス2,3の1次端子−バルントランス4の第2の巻線4b−交流電源1からなる回路が形成される。
【0033】
この場合、バルントランス4の第1と第2の巻線4a,4bには平衡状態にある逆方向の電流が流れることになり、両巻線に生じる磁束が打ち消し合うため、バルントランス4を構成する巻線4a,4bが交流電源1と圧電トランス2,3を流れる電流にとってのインダクタンス成分となることはない。従って、交流電源1により圧電トランス2,3を励起させて、インバータとして機能させ、冷陰極管5,6を点灯することが可能である。
【0034】
一方、圧電トランス2,3の2次側では、冷陰極管5,6を接地したため、前記のように漏洩電流が発生する可能性がある。この漏洩電流は、2次接地及び1次接地を介してバルントランス4に流入することになるが、この漏洩電流は圧電トランス2,3−交流電源1間の電流のような平衡状態ではないので、バルントランス4の巻線4a,4bの有するインダクタンスLの影響を受ける。その結果、バルントランス4の巻線4a,4bが漏洩電流を遮断することになるので、圧電トランス2,3の1次側と2次側の絶縁を確保することができる。
【0035】
この場合、バルントランス4は、2つの圧電トランス2,3の2次側電圧の分圧値が2次接地となるように作用する。その分圧値は、接地箇所であるシャーシとの静電容量7,8と冷陰極管5,6の合成インピーダンスとして考えることができ、バルントランス4のインダクタンスLがL=∞であれば理論上は漏洩電流は流れないことになる。実際には、実回路で発生するであろう漏洩電流の大きさと、安全対策上許容される漏洩電流の大きさとを考慮して、バルントランス4の巻線のインダクタンスを決定する。
【0036】
(2)他の実施形態
本発明は前記のような実施形態に限定されるものではなく、次のような他の実施形態も包含する。
【0037】
(1) 図2に示すように、単独の圧電トランスとこれに対して接続した冷陰極管の駆動回路において、冷陰極管の低圧側を接地した場合にも、交流電源と圧電トランスとの間にバルントランスを配置することができる。
【0038】
(2) 冷陰極管の低圧側を2次接地することなく、単に交流電源と圧電トランスの間にバルントランスを配置したもの。この場合、圧電トランスの2次側とシャーシなどとの間に発生する静電容量を流れる漏洩電流の遮断のみが可能である。
【0039】
(3) 図3に示すように、交流電源1に接続したバルントランス4に対して、複数の圧電トランス2,3を並列に接続したもの。
【0040】
(4) 前記第1実施形態や(2) (3) の回路において、交流電源に接続する圧電トランスと冷陰極管の数を、3つ以上としたもの。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施形態を示すブロック図。
【図2】本発明の他の実施形態を示すブロック図。
【図3】本発明の更に他の実施形態を示すブロック図。
【図4】バックライトインバータをスイッチング電源回路に接続した従来のテレビ受像器などの構成を示すブロック図。
【図5】バックライトインバータを力率改善回路に接続したテレビ受像器などの構成を示すブロック図。
【図6】圧電トランス自体では絶縁構造を確保できない理由を示す回路図。
【図7】2つの圧電トランスと1本の冷陰極管を接続して絶縁を確保したバックライトインバータの回路図。
【図8】2つの圧電トランスと2本の冷陰極管を接続して、二次設置した場合に絶縁を確保できない理由を示すバックライトインバータの回路図。
【符号の説明】
【0042】
1…交流電源
2,3…圧電トランス
4…バルントランス
5,6…冷陰極管
7,8…静電容量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電トランスの第1及び第2の1次端子を交流電源に接続すると共に圧電トランスの2次端子を冷陰極管の高圧側に接続し、
前記交流電源と圧電トランスとの間に対向して配置された第1の巻線と第2の巻線とを有するバルントランスを配置し、その第1の巻線の一端を交流電源に、他端を圧電トランスの第1の1次端子に接続し、第2の巻線の一端を交流電源に、他端を圧電トランスの第2の1次端子に接続したことを特徴とする圧電トランスの絶縁回路。
【請求項2】
複数の圧電トランスをその第1及び第2の1次端子を介して直列に接続し、先頭の圧電トランスの第1の1次端子を交流電源に接続すると共に最後の圧電トランスの第2の1次端子を交流電源に接続し、前記複数の圧電トランスの各2次端子をそれぞれ冷陰極管の高圧側に接続し、
前記交流電源と複数の圧電トランスとの間に対向して配置された第1の巻線と第2の巻線とを有するバルントランスを配置し、その第1の巻線の一端を交流電源に、他端を先頭の圧電トランスの第1の1次端子に接続し、第2の巻線の一端を交流電源に、他端を最後の圧電トランスの第2の1次端子に接続したことを特徴とする圧電トランスの絶縁回路。
【請求項3】
前記冷陰極管が、その低圧側が2次接地されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧電トランスの絶縁回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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