説明

圧電定数測定方法

【課題】 従来の圧電定数測定方法は、被測定体表面の微小な変位を2本の光線の干渉効果を用いて測定していたため、装置が複雑で高価になるなどの問題点があった。
【解決手段】 被測定体3にレーザビームを照射し被測定体表面で反射されたレーザビームが光電素子5に入射する際、被測定体の一端を固定し片持ち梁の状態で電圧を印加することにより被測定体を変形させ、この変形に伴う光電素子5上でのレーザビームの位置の変化量と、印加電圧から圧電定数を求める。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、圧電材料の圧電定数測定方法にに関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、圧電材料を用いたデバイスの高機能化、小型化が進められ、その製造工程の中にリソグラフィー技術が用いられるようになってきている。これに伴い、従来、圧電材料は構造体にバルク材を接着して用いていたが、リソグラフィー技術の導入により薄膜の圧電材料を構造体に直接被着させる行程が提案されている。このような薄膜材料の圧電定数は、光の干渉を用いて測定されており、例えばJournal of Applied Physics 75,442,1994などに記載されている。
【0003】図15は、前記文献に記載されている従来の圧電定数測定装置の構成を示している図である。図において、16はレーザ発振器、17は集光レンズ、18はビームスプリッター、19は被測定体、20は圧電素子が付随したミラー、21はフォトディテクター、22はフィードバックシステム、23はデジタルロックインアンプ、24はコンピュータ、25は直流電源である。
【0004】次に動作について説明する。レーザー共振器16から発振されたレーザビームは、ビームスプリッター18で2本のレーザビームに分割され、内1本は被測定体19の表面に当て反射させ、残り1本のビームはミラー20により反射させる。直流電源25の印加電圧により変形した被測定体19表面で反射したビームと、ミラー20で反射したビームつまり発振時と同じビームとを干渉させてフォトディテクター21に入射し、このフォトディテクター21上にできる干渉縞を計測することにより、被測定体19表面の変位を求めて圧電定数を得ている。このように、従来の測定法では被測定体表面の微小な変位を光の干渉効果を用いて測定しており、分解能を良くすることを目的としている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従来の圧電定数測定方法は以上のようになされていたので、種々の光学部品、計測装置、増幅器が必要となり、高価な測定装置になるという問題点があった。また、光の干渉効果を用いているため、被測定体表面で反射された光は可干渉性を保持する必要があり、被測定体の表面が完全な鏡面状態でなければならないという問題点もあった。さらに、測定のため、被測定体に電圧を印加した際、基板が変形すると、被測定体の変位と、基板の変形を区別することができないという問題点もあった。
【0006】この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、安価で簡単で精度が良い圧電定数測定方法を得ることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】この発明に係る圧電定数測定方法は、基板、下部電極、被測定材料、上部電極の順に積層されてなる被測定体の上下両電極間に電圧を印加して変形させ、前記被測定体に光線を照射し反射光を光電素子で受光して圧電定数を測定する圧電定数測定方法であって、前記変形による反射光の位置変化量を前記光電素子によって検出しこの検出値と前記印加電圧の値とから前記被測定材料の圧電定数を算出するものである。
【0008】また、被測定体のアスペクト比は2.5以上である。
【0009】また、被測定体は、保持治具に設けられたガイド溝に着脱自在に保持されるように構成したものである。
【0010】また、被測定体が基板上に設けられているものである。
【0011】また、基板を透過する波長を有する光線を基板側から照射して、下部電極で反射させるものである。
【0012】また、基板の厚さは500μm以下である。
【0013】また、基板、被測定材料、上下両電極のそれぞれの面積が同一である。
【0014】また、基板は光線を透過できる材質である。
【0015】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.以下、この発明の実施の一形態を説明する。図1は、本発明の実施の形態1による圧電定数測定方法を実施するための装置を示す図である。図において、1は被測定体に光線を照射するためのレーザ光源、2は被測定体を保持するための保持治具、3は被測定体、4は被測定体3に電圧を印加するためのファンクションジェネレータ、5は反射光を受光する光電素子、6は光電素子5に取り付けられたピエゾ素子、7は増幅器、8はパーソナルコンピュータである。なお、被測定体3と光電素子5の間は十分長い距離が確保されており、微小な被測定体の変位を高い測定精度で測定できる。被測定体3と光電素子5との距離は、レーザ光源の強度および被測定体の表面状態によって異なるが、例えば1〜3m位である。
【0016】図2は被測定体を保持するための保持治具を示す図である。図において、9は上部保持治具、10は下部保持治具、11は保持用ネジを示す。被測定体は上部保持治具9と下部保持治具10の間に挟み、3カ所に配されたネジ11を締めることにより被測定体3の一端を固定する。そして、保持治具2、レーザ光源1、光電素子5のそれぞれは防振台上(図示せず)に固定されている。
【0017】次に動作について説明する。まず、レーザ光源1により発生されたレーザビームを、保持治具2で固定した被測定体3の表面に入射する。被測定体3の表面で反射されたレーザビームが光電素子5の中央に来るよう、保持治具2の角度を調整する。次に、ピエゾ素子6で光電素子5をある一定量移動させ、そのときの光量の変化を測定し較正値とする。被測定体3に、ファンクションジェネレータ4で電圧を印加すると、被測定体3は変形し、これに伴い光電素子5の受光面上での光量が変化する。前記較正値を用いて被測定体の歪みを求め、印加電圧で被測定体3の歪みを除することで圧電定数が得られる。
【0018】次に、光電素子5上のレーザビームの移動量と被測定体の圧電定数との関係を、図をもとに順に説明する。なお本実施の形態は、被測定材料としてバイモルフ型バルク圧電材料を使用することとする。図3は本実施の形態1による圧電定数測定方法の被測定体の変形とそれに伴うレーザビームの反射方向を幾何学的に示した図である。図において、12は入射レーザビーム、13は被測定体が変形する前の反射レーザビーム、14は被測定体が変形した後の反射レーザビーム、rは被測定体に電圧が印加されたときの曲率半径、Lは被測定体の固定端からレーザビーム照射位置までの距離、lは被測定体上のレーザ照射位置から光電素子5までの距離、△Sは被測定体の変形に伴い光電素子上でレーザビームの位置が変化した変化量、2ξは被測定体の変形前後のレーザビームのなす角を示す。ここでlは△Sに比較して十分大きいため、次式で示す関係が成り立つ。
Sin(2ξ)=2ξ ・・・(1)
従って、図3に示した幾何学的関係から、 △S=l・Sin(2ξ)=l・2ξ ・・・(2)
が得られる。
【0019】図4は被測定体近傍の幾何学的位置関係を示す図である。図において、yは測定位置での被測定体のたわみ量を示す。固定端から測定位置までの長さLは、測定位置でのたわみ量yと比較して十分大きいため、 Sin(ξ/2)=ξ/2 ・・・(3)
なる関係が成り立つ。従ってたわみ量yは、 y=L・Sin(ξ/2)=L・ξ/2 ・・・(4)
で表すことができる。(2)式のξを(4)式に代入すると y=L・△S/4l ・・・(5)
が得られる。すなわち△Sを測定することによりたわみ量yを得ることができる。
【0020】図5は、被測定体に電圧を印加したときの変形を説明する図である。被測定体は、極性の異なる2枚のバルク圧電材料からなり、図5(a)は電圧印加前の状態、(b)は2枚のバルク圧電材料が印加電圧を受けたときの変形状態、(c)は(b)に示した2枚のバルク圧電材料を接合したときの変形状態を示している。図において、Rは中立面での曲率半径、aは2枚のバルク圧電材料を張り合わせたとき、すなわち図5(b)から(c)に変化させたときに圧電材料の長さの変化しない面から中立面までの距離、Hはバルク圧電材料全体の厚みを示す。なお、ここで中立面とは、変形の前後において長さの変化が無い面を意味する。
【0021】図5(c)に示すように変形した際、中立面からaの位置での歪みεは ε=a/R=E/H・d ・・・(6)
で表すことができる。ここで、Eは被測定体に印加する電圧、dは圧電定数である。
【0022】図6は、図5(c)に示したバルク圧電材料の一端を固定したときの変形状態を示す。図6においてXは固定端からの距離、Yは固定端から距離Xの位置でのたわみ量を示す。たわみ量Yは、 Y=X2 /2R ・・・(7)
で表すことができる。(6)式中の曲率半径Rを(7)式に代入すると Y=(X2 ・E・d)/(2a・H) ・・・(8)
が得られる。
【0023】図5(c)に示すように、極性の異なる2枚の圧電材料を接合するさい、接合剤の厚みが圧電材料の厚みと比較して十分小さい場合、 a=H/3 ・・・(9)
が成り立つ。前記(9)式を前記(8)式のaに代入すると、 Y=(3X2 ・E・d)/2H2 ・・・(10)
が得られる。
【0024】(5)式のたわみ量yは(10)式のたわみ量Yと等しく、(5)式の固定端からの距離Lは(10)式の固定端からの距離Xと等しいので、(5)式および(10)式から圧電定数dを求めると、 d=(△S・H2 )/(6L・l・E) ・・・(11)
が得られる。即ち、被測定体への電圧印加に伴う光電素子面上でのレーザビームの移動距離△Sを測定することにより圧電定数dを得ることができる。しかし、△Sは微小な変位であるため、実際には△Sの長さを直接的に計測するものではなく、光電素子上での光量の変化から△Sを算出する。
【0025】次に△Sの計測方法について説明する。図7R>7は本実施の形態で用いる光電素子を示すものである。(a)に示すように、光電素子はA、Bの二つの独立した素子から構成され、素子A、B面上に当たった光線の光強度に比例した出力(電圧)を得るものである。光電素子はあらかじめAの出力−Bの出力=光電素子の出力となるように配線されている。まず、(a)に示すように、素子A、Bの境界に光線の中心が来るように初期設定を行う。この状態では、レーザビームスポットは素子A、Bの境界線を中心に左右対称となり、光電素子から得られる出力はゼロとなる。次に、(b)に示すように、強制的に光電素子を17μm移動させる。こうすると、レーザビームスポットの左右のバランスは崩れ、Aの出力−Bの出力≠0となる。このときの出力をEv(V)とすると、1μmの変位が生じた時の出力はEv/17となる。次に、被測定材料に電圧を印加して、得られた光電素子の出力をM(V)とする。このときの光電素子面上のレーザービームの移動距離は△Sであるので、1μmの変位が生じた時の出力はM/△Sとなり、以下の関係が成り立つ。
Ev/17=M/△S ・・・(12)
(12)式を△Sについて解くと、 △S=17M/Ev ・・・(13)
が得られる。以上のようにして△Sを算出することができる。
【0026】次に、本実施の形態の方法による具体的な実験例を示す。本実施の形態で使用する被測定体は、下部電極、被測定材料、上部電極の順に積層されており、電極としてAu:0.1μmとNi:0.9μmを被着、被測定材料として長さ20mm、幅5mm、厚さ0.25mmのバイモルフ型バルク圧電材料を2枚重ねたものを用いた(接合層の厚さは0.02mm)。また、レーザ光源1として、波長633nm、出力5mWのHe−Neレーザを用い、固定端から13.6mmの位置にレーザビームを照射した。また、被測定体の上下両電極に印加する電圧は、周波数0.1Hz、±5Vの三角波とした。
【0027】図8は本実施の形態1による圧電定数測定方法で測定した結果を示した図である。(a)は光電素子に取り付けらているピエゾ素子を用いて光電素子を17μm強制的に移動させたときの光電素子面上での光量の変化、(b)は被測定体に電圧を印加したときの光電素子面上での光量の変化をそれぞれ示している。図においてEvとMは上述したものであり、光電素子の出力を表している。
【0028】被測定材料の圧電定数を、従来から用いられている手法を用いて、電気機械結合定数および誘電率から求めると、圧電定数dは77×10-12 m/Vであった。一方、本発明の圧電定数測定方法を用いて得られた図7の結果から圧電定数dを求めると76×10-12 m/Vであった。
【0029】圧電定数を求める手法として、従来から用いられている電気機械結合定数から求めた値と、本発明により求めた値とは非常によい一致が見られ、本発明の測定法が妥当であることが分かった。
【0030】実施の形態2.上記実施の形態1では、被測定材料にバイモルフ型バルク圧電材料を用いたが、本実施の形態では被測定材料に薄膜材料を用いて、これを基板上に成膜させたものを測定した場合について説明する。
【0031】まず、測定値△Sと被測定材料の圧電定数dとの関係について説明する。上記被測定体のような、基板に薄膜を形成して成る複合板のたわみについて、ティモシェンコの関係式が成り立つ。
σ=(Esub ・t2 )/(6(1−νsub )・r・dt)・・・(14)
式において、tは基板厚、Esub は基板のヤング率、νsub は基板のポワソン比、dtは被測定材料の厚み、rは基板の曲率を示している。
【0032】たわみが薄膜の電歪λによる伸縮のみに起因するものとすれば、 σ=(Esub ・t2 )/(6(1−νsub )・r・dt)=Ef ・λ ・・・(15)
が得られる。式において、Ef は被測定材料のヤング率を示している。
【0033】電歪λと印加電圧E、圧電定数dの関係は、λ=E・d/dt ・・・(16)
となる。
【0034】曲率rと測定値△Sの関係は、上記図3から、r=2l・L/△S ・・・(17)
となる。
【0035】(15)式に(16)式、(17)式を代入し、dについて解くとd=(Esub ・t2 ・△S)/(Ef ・E・l・L・12(1−νsub ))
・・・(18)
が得られる。
【0036】従って光電素子面上でのレーザビームの移動距離△Sを測定することにより、被測定材料の圧電定数dを求めることができる。ただし、基板のヤング率、ポワソン比、および被測定材料のヤング率が必要となる。なお、△Sは、上記実施の形態1の方法と同様にして求めることができる。
【0037】次に、本実施の形態の方法による具体的な実験例を示す。厚さ0.25mmのSi基板に、下部電極としてPt/Tiを真空蒸着によりPtを0.1μm、Tiを0.05μm被着、この下部電極の上に被測定材料である(Pb、La)TiO3 をスパッタリングにより1μm被着させ、この被測定材料の上にさらに上部電極を前記下部電極と同様に被着させたものを用いた。レーザビームの入射位置は固定端から17.95mm、被測定体3への印加電圧は、周波数0.15Hz、±3Vのサイン波であり、あとは上記実施の形態1と同様にして被測定材料の圧電定数dを測定した。
【0038】図9は本実施の形態2による圧電定数測定方法で測定した結果を示した図である。(a)はピエゾ素子を用いて光電素子を17μm強制的に移動させたときの光電素子面上での光量の変化、(b)は被測定体に電圧を印加したときの光電素子面上での光量の変化をそれぞれ示している。図においてEvとMは上述したものであり、光電素子の出力を表している。図8の結果から被測定材料の圧電定数dを求めると、1.91×10-12 m/Vが得られた。
【0039】実施の形態3.図10は、上記図2で示した上部保持治具9の被測定体固定面にガイド溝を設けた保持治具15である。図に示すように、被測定体の厚みより浅いガイド溝を設けることにより、所定の位置に確実に試料が装着される。さらに、被測定体の長手方向が常に水平方向に保たれるため測定精度を向上させることができる。
【0040】実施の形態4.本実施の形態では、上記実施の形態2において、基板材料であるシリコンを透過する波長を有するInGaAsP系の半導体レーザ光源を基板側からレーザビームを照射し、基板と被測定材料との間に被着させた下部電極でレーザビームを反射させることにより、上記実施の形態1と同様にして被測定材料の圧電定数を測定した。これにより、被測定材料の表面状態に影響されることなく、圧電定数の測定を行うことができる。
【0041】実施の形態5.本実施の形態では、上記実施の形態4において、被測定体上にデバイスを被着させ、完成したデバイスの状態、またはシリコン基板上に作られたデバイスの状態で被測定材料の圧電定数を測定した。これにより、被測定体が実際にデバイスに適用された状態で、被測定材料の圧電定数を測定することができ、本発明の圧電定数測定方法は製品の検査方法として使用することができる。
【0042】実施の形態6.本実施の形態では、上記実施の形態1において、同一ロットから切り出した被測定体の長さを20mm一定とし、幅を3mm、5mm、8mm、10mmとした4種類の被測定体を作製し、被測定体への印加電圧を±5Vのサイン波にして、上記実施の形態1と同様にして圧電定数を測定した。
【0043】図11はこの発明の実施の形態6の圧電定数測定方法による測定結果を示す図である。被測定体の幅が8mmより大きい場合、すなわち被測定体の縦横のアスペクト比が2.5より小さい場合、本発明の方法を用いて測定した結果が、被測定材料の圧電定数d=77×10-12 m/Vと異なる結果となっていることが分かる。
【0044】これは上記(10)式を導出する際、被測定体の幅方向の歪みを無視しているためであり、アスペクト比が小さくなると、幅方向の歪み量が長手方向の歪み量と同程度になり、幅方向の変形が長手方向の変形に影響を与え、固定端からXの位置でのたわみ量Yは前記(10)式で表すことができなくなるためである。従って、被測定体の形状は、その縦横のアスペクト比が2.5以上、好ましくは4以上になるように設定することにより、横方向の歪の影響を無視することができ、被測定体の均一な変形が得られ、測定精度を向上させることができる。ただし、形状に関する補正係数を用いる場合はこの限りではない。
【0045】実施の形態7.本実施の形態では、上記実施の形態1において、同一ロットから切り出した被測定体の長さを20mm一定とし、幅を3mm、10mmとした2種類の被測定体を作製し、レーザビームの固定端から照射点までの距離をパラメータとして、被測定体への印加電圧を±5Vのサイン波にして、上記実施の形態1と同様にして圧電定数を測定した。
【0046】図12は、この発明の実施の形態7による圧電定数測定方法の圧電定数と光線照射位置(測定位置)との関係を示す図である。上記図10において、幅3mmの被測定体は測定位置に関係なく一定の圧電定数を示しているが、幅10mmの被測定体は測定位置により圧電定数が異なる値を示している。
【0047】以上の結果からも、被測定体のアスペクト比は大きいことが好ましいことが分かる。ただし、図11R>1から、幅10mmの被測定体が示している圧電定数は固定端に近いほど大きな値を示しており、測定位置との相関関係が見られ、補正係数を用いれば、小さいアスペクト比の被測定体でも本発明の方法を用いて測定は可能である。
【0048】実施の形態8.図13はこの発明の実施の形態8による圧電定数測定方法の光電素子上の光線移動量とシリコン基板厚との関係を示す図である。なお、被測定材料の膜厚は1μm、圧電定数は2×10-12 m/V、光線照射位置は固定端から15mm、被測定体への印加電圧は1Vで行った。図から分かるように、光電素子上での光線の移動量△Sは、シリコン基板が厚くなるに従って急激に小さくなっている。シリコン基板厚が500μmより大きくなると△Sは1μm以下となり、十分な測定精度を確保することが困難となる。よって、基板の厚さを500μm以下、好ましくは200μm以下にすることにより、被測定薄膜材料の変形による基板のたわみが増大し、光電素子面上での光線の移動量が大きくなり、測定精度を向上させることができる。
【0049】実施の形態9.本実施の形態では、上記実施の形態1において、同一ロットから長さ24mm、幅8mmの被測定材料を切り出し、電極形状を変えた被測定体を作製し、被測定体への印加電圧を±5Vのサイン波にして、上記実施の形態1と同様にして圧電定数を測定した。
【0050】図14はこの発明の実施の形態9の圧電定数測定方法による測定結果を示す図である。図中の斜線部は電極形状を示す。図から分かるように、長手方向の電極長さを短くしたものと、被測定材料全面に電極が被着しているものとの圧電定数を比較すると、大きな違いは確認できない。これに対して幅方向の電極長さを短くしたものと、被測定材料全面に電極が被着しているものとの圧電定数を比較すると測定値に大きな違いが見られ、幅方向の電極が短い場合の圧電定数は小さい値を示している。
【0051】以上の結果から、幅方向の電極長さが被測定材料の幅より小さい場合は、これに対する補正が必要となる。従って、測定精度を向上させるには、電極面積と被測定材料面積と基板面積とを同一にして、被測定材料に電圧を印加した際に均一な変形を得る必要がある。即ち、被測定材料の全面に電極が必要となるわけだが、被測定材料の全面に電極を被着させる場合、被測定材料は薄膜ゆえに材料端部において上下電極間の短絡が起きる可能性がある。従って、真空蒸着などを用いることにより、被着される電極材料が指向性良く飛来し成膜される必要がある。
【0052】実施の形態10.本実施の形態では、上記実施の形態2の被測定体に使用した基板を、波長633nmのHe−Neレーザビームが透過できるガラス基板に変え、基板側からレーザビームを照射して、上記実施の形態1と同様にして、被測定材料の圧電定数を測定した。被測定体の基板の材質を、レーザビームの波長が透過できるものを用いることにより、基板裏側からレーザビームを照射して、基板と被測定材料の間にある下部電極により反射させることができる。従って、被測定体の表面状態の影響を受けることなく、均一な反射光が光電素子に到達するため、測定精度を向上させることができる。
【0053】
【発明の効果】以上のように請求項1記載の発明によれば、被測定体の上下両電極間に電圧を印加して変形させ、被測定体に光線を照射し反射光を光電素子で受光して、前記変形による反射光の位置変化量を光電素子によって検出し、この検出値と印加電圧の値とから被測定材料の圧電定数を算出するので、測定精度が高く、また測定可能範囲が大きいにも関わらず構成が簡単なため、安価に圧電定数を測定できる効果が得られる。
【0054】また、請求項2記載の発明によれば、被測定体のアスペクト比は2.5以上であるので、被測定体の幅方向の変形を無視することができ、精度良く圧電定数を測定できる効果が得られる。
【0055】また、請求項3記載の発明によれば、被測定体は保持治具に設けられたガイド溝に着脱自在に保持されるように構成したので、被測定体と保持治具との位置関係が再現性良く実現でき、測定精度が向上する効果が得られる。
【0056】また、請求項4記載の発明によれば、被測定体が基板上に設けられているため、被測定材料が薄膜材料のようなものでも、圧電定数を測定できる効果が得られる。
【0057】また、請求項5記載の発明によれば、基板を透過する波長の光線を基板側から照射して下部電極で反射させるので、被測定体の表面状態に影響を受けることなく圧電定数を測定できる効果が得られる。また、完成したデバイス形態で圧電定数を測定できる効果も得られる。
【0058】また、請求項6記載の発明によれば、基板の厚さは500μm以下であるので、光電素子上でのレーザビームの変位が大きくなり、精度良く圧電定数を測定できる効果が得られる。
【0059】また、請求項7記載の発明によれば、基板、被測定材料、上下両電極のそれぞれの面積が同一であるので、電圧の印加により被測定体全体で伸縮がおこり、特殊な補正係数を用いることなく圧電定数を測定できる効果が得られる。
【0060】また、請求項8記載の発明によれば、基板は光線を透過できる材質であるので、被測定体の表面状態の影響を受けることなく、圧電定数を測定できる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施の形態1による圧電定数測定方法を実施するための装置を示す図である。
【図2】 この発明の実施の形態1による圧電定数測定方法に用いる保持治具を示す模式図である。
【図3】 この発明の実施の形態1による圧電定数測定方法を説明するための模式図である。
【図4】 この発明の実施の形態1による圧電定数測定方法を説明するための模式図である。
【図5】 この発明の実施の形態1による圧電定数測定方法を説明するための模式図である。
【図6】 この発明の実施の形態1による圧電定数測定方法を説明するための模式図である。
【図7】 この発明の実施の形態1による圧電定数測定方法を説明するための模式図である。
【図8】 この発明の実施の形態1による圧電定数測定方法によって測定した結果を示す図である。
【図9】 この発明の実施の形態2による圧電定数測定方法によって測定した結果を示す図である。
【図10】 この発明の実施の形態3による圧電定数測定方法に用いる保持治具を示す模式図である。
【図11】 この発明の実施の形態6による圧電定数測定方法によって測定した結果を示す図である。
【図12】 この発明の実施の形態7による圧電定数測定方法によって測定した結果を示す図である。
【図13】 この発明の実施の形態8による圧電定数測定方法によって測定した結果を示す図である。
【図14】 この発明の実施の形態9による圧電定数測定方法によって測定した結果を示す図である。
【図15】 従来の圧電定数測定方法を示す図である。
【符号の説明】
1 レーザ光源、2 保持治具、3 被測定体、4 ファンクションジェネレータ、5 光電素子、6 ピエゾ素子、7 増幅器、8 パーソナルコンピュータ、9 上部保持治具、10 下部保持治具、16 レーザ共振器、17 集光レンズ、18 ビームスプリッター、19 被測定体、20 ミラー、21 フォトディテクター、22 フィードバックシステム、23 デジタルロックインアンプ、24 コンピュータ、25 直流電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下部電極、被測定材料、上部電極の順に積層されてなる被測定体の上下両電極間に電圧を印加して変形させ、前記被測定体に光線を照射し反射光を光電素子で受光して圧電定数を測定する圧電定数測定方法であって、前記変形による反射光の位置変化量を前記光電素子によって検出しこの検出値と前記印加電圧の値とから前記被測定材料の圧電定数を算出することを特徴とする圧電定数測定方法。
【請求項2】 被測定体のアスペクト比は2.5以上であることを特徴とする請求項1記載の圧電定数測定方法。
【請求項3】 被測定体は、保持治具に設けられたガイド溝に着脱自在に保持されるように構成したことを特徴とする請求項1または2記載の圧電定数測定方法。
【請求項4】 被測定体が基板上に設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の圧電定数測定方法。
【請求項5】 基板を透過する波長を有する光線を基板側から照射して、下部電極で反射させることを特徴とする請求項4記載の圧電定数測定方法。
【請求項6】 基板の厚さは500μm以下であることを特徴とする請求項4または5記載の圧電定数測定方法。
【請求項7】 基板、被測定材料、上下両電極のそれぞれの面積が同一であることを特徴とする請求項4から6のいずれか一項に記載の圧電定数測定方法。
【請求項8】 基板は光線を透過できる材質であることを特徴とする請求項4から7のいずれか一項に記載の圧電定数測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図11】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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