説明

圧電振動式角速度センサの励振回路

【目的】 本発明の目的は、圧電振動式角速度センサの励振回路において、圧電振動子の励振側脚部を確実に安定して発振させることにある。
【構成】 圧電振動式角速度センサの励振回路で、励振側脚部に印加する信号電荷が電圧変換回路と信号調整回路と増幅回路を経由した励振信号で駆動し、更に増幅回路からの信号を、自動振幅制御回路から増幅回路に帰還させた制御信号で増幅回路の増幅率を制御することにより課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】圧電振動式角速度センサの励振回路において、圧電振動子の励振側脚部を確実に安定して励振させる(励振用)発振回路構成に関する。
【0002】
【従来の技術】圧電振動子を発振させるには通常、位相と増幅率が一定の条件を満たすことが必要である。その条件として位相に関しては、圧電振動子を含んだ発振回路の帰還ループを一巡したときの位相のずれθが0度または360度であることが必要である。一方、増幅率に関しては、圧電振動子を含んだ発振回路の帰還ループのループ利得が1以上になることが必要である。また、圧電振動子の固有周波数だけが確実に発振すれば良く、それ以外の周波数はむしろ不要波(スプリアス)とした位置づけで捉えられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、圧電振動式角速度センサに使用される圧電振動子では、角速度を検出するために必要な特徴を有しているため、圧電振動子が目的の振動モードで確実に安定して発振する事が困難であるという課題が存在する。
【0004】すなわち、圧電振動式角速度センサは少なくとも2つの脚部の一方の脚部に交流電圧を印加して励振(発振)させ、圧電振動子の他方の脚部からコリオリの力による振動を、検出するように圧電振動子が動作する。言い換えれば、X、Y、Zの3軸を持つ空間上において、圧電振動子をX軸に平行に振動させながら、Y軸を中心に回転させると、X軸に垂直なZ軸方向にコリオリの力が発生し、Z軸方向にコリオリの力に比例した大きさの振動成分を持つことになる。そこで、Z軸方向の振動成分により発生する電荷量を計測したり、振動の変位量を検出することで、コリオリの力の大きさを検知することが可能となるものである。
【0005】そのため、発振している一方の脚部の振動が他方の脚部に伝わり、この脚部で確実に安定して振動させ、微弱なコリオリの力に比例した大きさの振動成分を持ち、かつこの振動成分を検出しなければならない。このため、圧電振動式角速度センサの圧電振動子は共振特性が極めて弱く、従って共振周波数での位相ずれやインピーダンス変化も小さく、角速度を検出するための振動モード以外にも多数の振動モードが強く発生するという現象が存在するため、圧電振動式角速度センサの圧電振動子では、目的の振動モードで確実に安定して発振する事が困難である。
【0006】
【課題を解決するための手段】そこで本発明は、圧電振動式角速度センサに使用する圧電振動子において、圧電振動子が角速度センサとして動作する振動モードで確実に発振させるための発振回路構成について、圧電振動子を発振させるための一定条件(位相と増幅率)を満足させ、かつ振動モードを選別するためのものである。圧電振動式角速度センサの励振側脚部を発振させるためには、励振側脚部の信号電荷を、それぞれ独立した電圧変換回路と信号調整回路と増幅回路を経由させた信号で励振側脚部を駆動する事で、圧電振動子を含んだ発振回路の帰還ループを構成する。さらに増幅回路の増幅率を自動振幅制御回路によって制御する。このような手段によって励振側脚部の発振に必要な位相ずれと増幅率を確保し、かつ目的とする振動モードと振動周波数を得ることによって、課題を解決することができた。
【0007】
【背景】圧電振動式角速度センサは、少なくとも2つの脚部の一方の脚部に交流電圧を印加して励振(発振)させ、圧電振動子の他方の脚部から、コリオリの力による振動を検出するように圧電振動子が動作する。言い換えれば、X、Y、Zの3軸を持つ空間上において、圧電振動子をX軸に平行に振動させながらY軸を中心に回転させるとX軸に垂直なZ軸方向にコリオリの力が発生し、Z軸方向にコリオリの力に比例した大きさの振動成分を持つことになる。そこで、Z軸方向の振動成分により発生する電荷量を計測したり、振動の変位量を検出することで、コリオリの力の大きさを検知することが可能となるものである。
【0008】前述の動作原理を利用し、コリオリの力は角速度の大きさに比例して定まることから、コリオリの力によるの撓み変位量として間接的に、圧電素子の圧電効果、容量変化などで直接的に測定すれば、振動子のY軸方向のまわりに作用した回転角速度の大きさを求めることができる。これらの特徴を利用することで、振動する振動子を角速度検出用素子として車両や航空機などに搭載し、その走行あるいは飛行軌跡を記録したり、旋回時に発生するヨーレイトを検出することが行われている。また、この角速度検出素子をロボットに搭載して、その姿態制御などにも適応することができる。
【0009】しかしながら、前述するように角速度センサは、励振側の脚部の振動を利用して検出側の脚部を振動させ、検出側の脚部に働くコリオリの力によって角速度の大きさを検出するため、励振側の脚部を確実に振動させないと検出側脚部で角速度の検出感度が落ちてしまう。本発明では励振側の脚部を確実に振動させるために、励振側脚部の信号電荷を、それぞれ独立した電圧変換回路と信号調整回路と増幅回路を経由した信号で励振側脚部を駆動する事で、圧電振動子を含んだ発振回路の帰還ループを構成し、さらに増幅回路の増幅率を自動振幅制御回路によって制御することを特徴とし、課題を解決することができた。
【0010】
【実施例】以下、添付図面に従ってこの発明の実施例を説明する。なお、各図において同一の符号は同様の対象を示すものとする。図1に本発明の角速度センサの励振側脚部を発振させる励振回路7のブロック図を示す。
【0011】圧電振動子の励振側脚部を発振させる励振回路7で、励振脚部に発生する信号電荷が電圧変換回路1と信号調整回路2と増幅回路3を経由した励振信号で圧電振動子を駆動し、更に増幅回路3からの信号から自動振幅制御回路4によって作られた制御信号を増幅回路3に帰還させて励振信号の振幅を自動制御する励振回路7である。
【0012】要するに、励振側脚部において、圧電振動子が歪むことによって発生する信号電荷は極めて微弱なため、信号電荷を効率良く検出できように独立した電圧変換回路1によって電圧信号に変換され、この電圧信号は信号調整回路2に入力される。信号調整回路2によって、圧電振動子が発振するように、圧電振動子を含んだ発振回路の帰還ループを一巡したときの位相ずれが0度または360度になるように、圧電振動子の足りない位相ずれの分を発振回路で補っている。また、位相ずれと利得の周波数特性を制御して、角速度センサとして動作するために必要な振動モード以外では、発振条件を満たさないようにして、その他の不要な振動モードでの発振や、自励発振を防止している。
【0013】信号調整回路2によって調整された電圧信号は増幅回路3に入力される。増幅回路3によって、角速度センサとして動作するために必要な振動モードでの共振周波数において、圧電振動子を含んだ発振回路の帰還ループのループ利得が1以上となるように、電圧信号を増幅し、圧電振動子を駆動する。また、圧電振動子の振動が一定の振幅の正弦波状の振動になるように、増幅回路3の増幅率を自動振幅制御回路4で自動制御している。
【0014】図2から図4は本発明の他の実施形態を示すブロック図である。基本的な回路構成は図1と同じであるが、図2においては増幅回路3と圧電振動子の間に駆動回路5を挿入している。要するに、増幅回路3と圧電振動子の間に駆動回路5を付加することで、増幅回路5は圧電振動子を駆動する必要がなくなり増幅回路3の能力に余裕が得られる。また、独立した駆動回路5を付加することにより、より大きな駆動力を得ることができ、圧電振動子の発振をより安定させることが実現できる。
【0015】図3においては、信号調整回路2と増幅回路3の間に直流成分をカットするフィルタ6を挿入したものである。要するに、電圧変換回路1から出力される信号は元来が交流成分の信号であるため直流成分の信号は不要信号として、増幅回路3での増幅の妨げになってしまう。励振信号は非常に小さく敏感であるため、交流成分信号に直流成分が混在することは、必要とする増幅率を得る上で障害となってしまう。
【0016】図4においては、前記の図2と図3の回路構成を合成したもので、信号調整回路2と増幅回路3の間に直流成分をカットするフィルタ6を挿入し、増幅回路3と圧電振動子の間に駆動回路5を挿入した回路構成である。要するに、電圧変換回路1からの信号の直流成分を除去して、増幅回路3で増幅し、その信号を駆動回路5によって、安定して圧電振動子を駆動することができる回路構成としたものである。
【0017】
【発明の効果】本発明により圧電振動子として確実に励振させることにより、検出信号である角速度に比例したコリオリの力による振動を確実に検出することができる。この励振回路により、角速度センサで使われる圧電振動子は、発振の容易性より角速度の検出性能を重要視する設計が可能となり、角速度センサとしての感度や安定性などの性能を大幅に向上させることができる。また、角速度センサの歩留まりも大幅に向上させることができるとともに、圧電振動子の製造コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の圧電振動式角速度センサの発振回路のブロックである。
【図2】本発明の他の実施形態である増幅回路と圧電振動子の間に駆動回路を挿入した励振回路のブロックである。
【図3】本発明の他の実施形態である信号調整回路と増幅回路の間に直流成分をカットするフィルタを挿入した励振回路のブロックである。
【図4】本発明の他の実施形態である信号調整回路と増幅回路の間に直流成分をカットするフィルタを挿入し、増幅回路と圧電振動子の間に駆動回路を挿入した励振回路のブロックである。
【符号の説明】
1 電圧変換回路
2 信号調整回路
3 増幅回路
4 自動振幅制御回路
5 駆動回路
6 フィルタ
7 励振回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも2つの脚部を持つ圧電振動子の一方の脚部に交流電圧を印加して該圧電振動子を励振させ、該圧電振動子を回転させることにより該圧電振動子の他方の脚部から、コリオリの力として角速度を検出する圧電振動式角速度センサの励振回路において、該励振側脚部の信号電荷を電圧変換回路と信号調整回路と増幅回路を経由した励振信号で駆動し、更に該増幅回路からの信号を自動振幅制御回路から該増幅回路に帰還させた制御信号で増幅率を制御することで該圧電振動子を励振することを特徴とする圧電振動式角速度センサの励振回路。
【請求項2】 前記圧電振動式角速度センサの励振回路において、該増幅回路と該圧電振動子の間に駆動回路を挿入したことを特徴とする請求項1記載の圧電振動式角速度センサの励振回路。
【請求項3】 前記圧電振動式角速度センサの励振回路において、該信号調整回路と該増幅回路の間に直流成分をカットするフィルタを挿入したことを特徴とする請求項1記載の圧電振動式角速度センサの励振回路。
【請求項4】 前記圧電振動式角速度センサの励振回路において、該信号調整回路と該増幅回路の間に直流成分をカットする該フィルタを挿入し、該増幅回路と該圧電振動子の間に該駆動回路を挿入したことを特徴とする請求項1記載の圧電振動式角速度センサの励振回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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