説明

圧電素子の周波数調整装置、及び周波数調整方法

【課題】圧電素子の周波数調整装置において、予め実験によって周波数シフト量を求める必要がなく、条件出しの時間を大幅に短縮することができ、かつ、多品種少量生産にも対応できる装置を提供する。
【解決手段】圧電素子をイオンビームエッチングするためのイオンガン、イオンガンの出力を制御する制御手段、及び制御手段に制御情報を提供する演算手段を備え、圧電素子をエッチングして圧電素子の共振周波数を調整する圧電素子の周波数調整装置において、演算手段が、エッチングされる圧電素子の材料特性及び照射されるイオンビームの電力に基づいて圧電素子における熱応力分布を導出するとともに、熱応力分布に基づいてエッチング後に発生する共振周波数のシフト量を制御情報として計算し、制御手段が、シフト量に基づいて共振周波数の調整量を補正するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子の製造に利用される周波数調整装置、及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子、セラミック振動子、SAWフィルター等の圧電素子は周波数制御、選択用電子部品の中核をなすもので、最近の情報通信・電子機器には、欠くことのできないデバイスとなっている。
水晶振動子では水晶ブランクと電極の厚みによって周波数が決まるので、これらの制御が重要となる。そのため、水晶振動子の製造工程では、個々の周波数を測定しながら個々の周波数を合わせ込む周波数調整工程があり、他の電子デバイスに見られない特徴的な工程である。ここでは、切り出された水晶ブランクにスパッタ成膜等によって電極形成した後、ケースに組み込まれるが、この段階では数100〜3000ppm程度の周波数バラツキが生じ、これを±2ppm以下の周波数バラツキとするため周波数調整工程が必要となる。
【0003】
水晶振動子の周波数調整では、個々の周波数を測定しながら、その電極膜厚を変化させることにより、所望の周波数に合わせ込む方法が採られる。電極膜厚を変化させる方法としては、真空蒸着法とイオンビームエッチング法の2種類があり、抵抗加熱蒸発源を用いた真空蒸着法が早期に実用化された。
【0004】
蒸着式の周波数調整方法では、水晶片上に形成されたベース電極膜に、金属マスクを介して調整用の電極膜を抵抗加熱蒸発源より蒸着させる。構造が比較的単純で、高い蒸着速度から低い蒸着速度まで制御しやすい特長がある。短所として、ベース電極膜上に調整電極膜が形成される多層構造となり、特に調整電極膜の密着性や充填密度等が悪くなりがちであり、水晶振動子が小型化するにつれて電極が小さくなると蒸着式ではベース電極膜と調整膜との位置ズレが生じ易くなる等、何れもデバイス特性の悪化をもたらす。また、蒸着材料の補給や蒸着物の汚染による清掃のために連続運転時間は8時間以内に限られてしまう。
【0005】
一方、イオンビームエッチングによる周波数調整方法では、電極膜が多層にならないことや、ベース電極膜と調整膜との位置ズレが生じても金属電極膜のエッチングレートに比べて水晶のエッチングレートが極端に低いため電極膜が選択的にエッチングされることから、蒸着式と比べ原理的に周波数調整時のデバイス特性の悪化が少ない。さらに、蒸発材の補給が不要なため長時間の連続運転が可能であること等が蒸着式に比べてイオンビームエッチング式が有利な点である。
【0006】
このため早くからイオンビームエッチング式が有望視され1980年代には、様々な水晶デバイスメーカー、装置メーカーによって研究・開発が開始された。ところがイオンビームエッチング式では、周波数調整直後に周波数がシフトする現象が生じ、これが実用化を妨げる大きな原因となって、イオンビームエッチング式の周波数調整装置が普及し始めるのは1999年以降である。
【0007】
図9は周波数シフトの例である。ここでは2secから4secまでのイオンビームエッチングを行っている。イオンビームエッチングによって水晶振動子電極がエッチングされるため周波数が高くなっていく。エッチングを終了するとその直後に周波数が下がる現象が生じている。この時のシフト量は300ppmにもなっており、目標としている±2ppmよりも遙かに大きく、調整レートを大きくする程シフト量は大きくなる傾向にあるため短時間で高精度に調整することが困難であった。
【0008】
そこで、周波数調整量とエッチング後の周波数シフト量が1次式で近似できることに着目し、予め周波数調整量とエッチング後の周波数シフト量のデータを実験によって取得しておき、近似式を求め、これを用いて周波数調整前の周波数測定結果からエッチングを終了させる点をオフセットさせることによって所望する周波数に対しての周波数バラツキを小さくする方法が用いられている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−204236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような方法では、事前に実験によって周波数調整量とエッチング後の周波数シフト量の関係を求めておかなければならない。この周波数調整量とエッチング後の周波数シフト量の関係は、周波数によって異なり、周波数が同じでも圧電基板形状、電極サイズ、イオンビーム照射エリア、調整レート等が異なると周波数調整量とエッチング後の周波数シフト量の関係も異なってしまう。そのため、圧電素子品種が変わる毎にこのデータを取り直す必要が生じる。このようなデータの取得、条件出しには技術者が関与する必要があり、一般の作業者のみでは装置能力を十分に引き出すことが困難となる。また、サンプル品のような元々個数の少ない場合では条件出しに数を割くことが困難であり、条件出しが出来なければ所望の調整精度が得られず、歩留まりが悪くなって最終的に得られる個数が更に減少してしまう。少品種大量生産であれば、それほど問題とはならないが多品種少量生産には、この条件出しは無視できない問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の側面は、圧電素子をエッチングするためのエッチング源、エッチングの量を制御する制御手段、及び制御手段に制御情報を提供する演算手段を備え、圧電素子をエッチングして圧電素子の共振周波数を調整する圧電素子の周波数調整装置であって、演算手段が、エッチングされる圧電素子の材料特性及びエッチングのための電力に基づいて圧電素子における熱応力分布を導出するとともに、熱応力分布に基づいてエッチング後に発生する共振周波数のシフト量を制御情報として計算し、制御手段が、シフト量に基づいて共振周波数の調整量を補正するように構成された周波数調整装置である。ここで、エッチング源をイオンビームエッチングするためのイオンガンとし、エッチングのための電力をイオンビームの電力とした。
【0011】
本発明第2の側面は、圧電素子をイオンビームエッチングするためのイオンガン、エッチングの開始/終了を制御する制御手段、圧電素子の共振周波数を検出して制御手段に出力する周波数モニタ、及び制御手段に制御情報を提供する演算手段を備え、圧電素子をエッチングして圧電素子の共振周波数を調整する圧電素子の周波数調整装置であって、周波数モニタによって検出される周波数について、圧電素子の調整前の共振周波数をfr、エッチングによる調整前後での共振周波数の差をΔfrとした場合に、制御手段が少なくともΔfrに基づいて共振周波数の調整量Dを算出し、演算手段が、エッチングされる圧電素子の材料特性及び照射されるイオンビームの電力に基づいて圧電素子における熱応力分布を導出し、熱応力分布に基づいて目標調整量Dxに対するシフト量ΔDxを計算するとともに、Dx及びΔDxを制御情報として制御手段に提供し、制御手段が、Dと(Dx+ΔDx)とを比較して、D=(Dx+ΔDx)となった時点でエッチングを終了するように構成された周波数調整装置である。
【0012】
本発明第3の側面は、圧電素子をイオンビームエッチングするためのイオンガン、エッチングの開始/終了を制御する制御手段、圧電素子の共振周波数を検出して制御手段に出力する周波数モニタ、及び制御手段に制御情報を提供する演算手段を備え、圧電素子をエッチングして圧電素子の共振周波数を調整する圧電素子の周波数調整装置であって、周波数モニタによって検出される周波数について、圧電素子の調整前の共振周波数をfr、エッチングによる調整前後での共振周波数の差をΔfrとした場合に、制御手段が少なくともΔfrに基づいて共振周波数の調整量Dを算出し、演算手段が、エッチングされる圧電素子の材料特性及び照射されるイオンビームの電力に基づいて圧電素子における熱応力分布を導出し、熱応力分布に基づいてエッチング開始からのイオンビームの照射時間tに対する調整量Dのシフト量ΔD(t)を導出するとともに、ΔD(t)及び目標調整量Dxを制御情報として制御手段に提供し、制御手段が、Dと(Dx+ΔD(t))とを比較し、D=(Dx+ΔD(t))となった時にエッチングを終了するように構成された周波数調整装置である。
【0013】
ここで、上記第1から第3の側面において、材料特性が圧電素子の物理定数データ及び形状を表す形状特性データからなり、電力がエッチングレートから計算され、演算手段が、複数の種類の圧電素子の物理定数データが記憶されたメモリを備え、複数の種類のうち選択された種類に対応する物理定数データ、並びに入力された形状特性データ及びエッチングレートからシフト量を演算するように構成した。
また、圧電素子が水晶振動子であり、形状特性データを、水晶振動子を構成する水晶及び電極の形状に関する寸法並びにカットアングルの種類とした。
【0014】
本発明第4の側面は、圧電素子をエッチングするためのエッチング源、エッチングの量を制御する制御手段、及び制御手段に制御情報を提供する演算手段を備え、圧電素子をエッチングして圧電素子の共振周波数を調整する方法であって、演算手段によって、エッチングされる圧電素子の材料特性及びエッチングのための電力に基づいて圧電素子における熱応力分布を導出するとともに、熱応力分布に基づいてエッチング後に発生する共振周波数のシフト量を制御情報として計算するステップ、制御手段がエッチングを開始するステップ、及び制御手段が、目標調整量及び計算されたシフト量に基づいてエッチングの終了点を決定しエッチングを終了ステップからなる方法である。ここで、エッチング源をイオンビームエッチングするためのイオンガンとし、エッチングのための電力をイオンビームの電力とした。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、予め実験によって周波数シフト量を求める必要が無く、条件出しの時間を大幅に短縮することができ、多品種少量生産にも対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施例1.
図1は本発明の実施例を示すブロック図である。図において、22は水晶振動子、15は水晶振動子22をイオンビームエッチングするためのイオンガン、30はイオンガン15をオン/オフする等してエッチングを開始/終了させる制御部、11は水晶振動子22の共振周波数を測定するための周波数モニタ、10は制御部30に対して後述の制御情報を提供する演算手段である。後述するように、制御部30は周波数モニタ11と演算手段10から入力される情報に基づいて、エッチングを終了するタイミングを決定する。
【0017】
図2は本発明による水晶振動子の3室のインライン構造となっている周波数調整装置を示す概略図である。仕込室1、エッチング室2、取出室3の3室インライン構成となっており、仕込室1の搬送レール9には、複数の水晶振動子22を搭載したキャリア27がセットされ、仕込室1を10-3Pa以下に排気後、仕切弁12を開き、キャリア27に搭載された水晶振動子22をイオンガン15の前まで搬送する。エッチング室2には、水晶振動子のエッチング時間を短くする為に、複数台(本実施例では3台)のイオンガン15が設けられ、上流(左側)より、H(高レート用)、M(中レート用)、L(低レート用)となっており、それぞれにシャッター7、水晶振動子22とのコンタクト機構8、及び水晶振動子22の共振周波数の周波数モニタ(ネットワークアナライザー)11が設けられている。これらは制御部30によってコントロールされ、水晶振動子22は所望の周波数に調整される。
エッチング室2で周波数調整された水晶振動子22は、仕切弁13を開き搬送レール9によってキャリア27毎、取出室3へ送られ、仕切弁13を閉じて取出室3を大気圧とした後取出される。制御部30は演算手段10に接続されている。
【0018】
図3は、図2中に用いられているイオンガン15の概略図である。イオンガン内部に円筒状の陽極18と、熱陰極17と、イオン引き出し用の加速グリッド21と、遮蔽グリッド20とが設けられている。不活性ガス導入パイプ16がイオンガン本体15に接続されている。トランスの中点と、イオンガン本体15と、遮蔽グリッド20は、同電位になっている。この電位と陽極18との間に低電圧直流放電電源E1と放電電流モニタ機構25が接続されている。この放電電流モニタ機構25の放電電流モニタ出力は、熱陰極17の電力制御用の交流電力調整器26を制御する放電電流制御回路24に印可されている。また、遮蔽グリッド20と、加速グリッド21との間に定電圧直流高電圧電源E2が接続されている。即ち、放電電流モニタ出力に応答する放電電流制御回路24が、放電電流が一定になるよう熱陰極への電力の供給を制御している。放電電流制御回路24は制御部30からの信号に基づいてイオンガン15をオン/オフする。また、シャッター7の開閉動作も制御部30によって制御される。
【0019】
ところで、上述したような周波数シフトが生じるメカニズムについては、長年解明されないままであったが、イオンビーム照射による温度上昇分布によって生じる熱応力が、圧電基板の弾性定数の変化をもたらして周波数シフトを生じさせることを見いだした。
例として図4のようなφ7.4、周波数25MHzの水晶振動子で、電極径3φにビーム電圧300Vイオンビーム電流密度1mA/cm2のイオンビームを照射したときの周波数変動の計算結果を示す。
【0020】
ビーム電圧300Vイオンビーム電流密度1mA/cm2のイオンビームの電力密度は300mW/cm2であり、3φの電極内に照射すると21mWになり、これによってφ7.4の水晶が温度上昇する。
図5は、この時の差分法による温度分布変化シミュレーション結果である。ここでは水晶振動子はサポートによって支持されているが、この部分の熱伝導は小さく熱的にはフローティングであると仮定している。ビーム照射によって中心付近の温度が上昇し、しだいに周辺に拡散していくが、中心付近と周辺部では温度差が生じていることが分かる。
【0021】
この温度分布によって生じる熱応力は、円柱座標系を用いて中実円板の熱応力として、
【数1】

により位置rの熱応力を求めることが出来る。ここで、αは水晶の熱膨張率、Eは水晶のヤング率、bは水晶素板の半径、τは位置rでの温度上昇である。
図6(a)及び(b)は図5の温度分布から式(1)(2)によって求めた熱応力分布である。
【0022】
次に、得られた熱応力分布から周波数変化を求める。
基本となる波動方程式は、
【数2】

である。ここで、u:粒子変位、φ:電気ポテンシャル、ρ:密度、c:弾性定数、e:圧電定数、ε:誘電率である。圧電性を持つ解から、共振周波数frは基板の厚さをHとして、
【数3】

で与えられ、共振での変移成分は、
【数4】

となる。
【0023】
Thurstonの理論より、応力P下での水晶内の音波の伝搬速度Wは、U:変異方向単位ベクトル、N:伝搬方向単位ベクトル、M:圧縮応力の単位ベクトルとして、
【数5】

で与えられ、応力による弾性常数の変化は、
【数6】

となる。
【0024】
摂動法から求まる共振周波数の変化は、
【数7】

で与えられる。圧電定数と誘電率の変化は小さいので無視し、積分範囲をV=電極面積×基板厚さとすると、
【数8】

となる。
【0025】
図7は式(3)から求めた周波数25MHzのATcutとBTcutの共振周波数の変化、即ち、シフト量の計算結果と実測値との比較を示すものである。実測値の周波数変化は、膜厚変化から換算される周波数変化を差し引いて示してある。計算値と実測値がよく一致していることが分かる。
なお、さらに式(3)を整理すると、
【数9】

となる。ここで、M、Mはそれぞれ圧縮応力ベクトルMのx軸方向、y軸方向の単位ベクトルであり、Sはコンプライアンス、Cは材料変換後の弾性定数である。
上式からわかるように、共振周波数の変化Δω/ωは、熱応力Mを対象となる形状に関して全方向に積分した結果に深く関連している。
【0026】
さらに、図8は、エッチング直後で共振周波数がシフトする前の前測定周波数(調整量)に対する、その後に共振周波数がシフトした後の後測定周波数(シフト量)との関係を示す図である。図中の点線は上述した計算結果を示す線であり、ビーム電圧と調整レートについて下から、(1000V、1600ppm/s)、(900V、1300ppm/s)、(800V、1000ppm/s)、(700V、700ppm/s)、及び(500V、400ppm/s)に対応する線となっている。図中の各点は実測値であり、計算による線とほぼ一致するものとなっている。
したがって、水晶振動子の水晶形状、寸法と水晶の膨張率、ヤング率、弾性定数等の材料定数と水晶振動子の電極形状、寸法とイオンビーム照射面積、イオンビーム照射量が分かれば予め計算によって周波数シフトを予測することが可能となる。
【0027】
次に、図1に戻り、演算手段10について説明する。演算手段10は上記の原理を用いて予めΔDを導出しておくための手段である。演算手段10内のメモリ101には水晶の物理定数データ(膨張率α、ヤング率E、密度ρ、弾性定数c、圧電定数e、誘電率ε等)が予め記憶されている。これらは既知の値である。また、所望のエッチング調整レートに対して、イオンビームの電流密度、印加電圧及びそれによって決まる電力Xpが(公知の方法で)計算される。そして、エッチングしようとする水晶振動子における水晶及び電極の形状並びに水晶のカットアングルに関する情報(以下、「形状特性データXs」という)が、エッチングを開始する前に作業者によって演算手段10に入力される。
【0028】
ここで、形状特性データXsとは、例えば、水晶が円形である場合はその径、水晶が四角形である場合はその辺の長さ等である。また、水晶振動子22の調整前の共振周波数をfr、調整前後の共振周波数の差をΔfrとして、調整量DをD=Δfr/frと定義し、Dのシフト量をΔDとし、値は全て絶対値とする。また、前段落に加えて更に、調整量Dの目標値である目標調整量Dxが作業者によって入力される。
【0029】
演算手段10は、上記の各物理定数、計算された電力Xp、及び入力された形状特性データXsから、上述した原理に基づいて熱応力分布関数Mを計算するとともに、その熱応力分布関数Mに基づいて目標調整量Dxに対するシフト量ΔDxを演算し、そのDxとΔDxの値を制御部30に与える。その後、制御部30がイオンガン15をオンし、入力されたエッチングレート(電力Xp)でエッチングが開始される。制御部30は、周波数モニタ11によって検出された共振周波数からΔfr及び調整量D{D=Δfr/fr}を算出する。もちろん、検出された共振周波数からΔfr又はDを求める計算を制御部30ではなく周波数モニタ11で行ってもよい。制御部30はDと(Dx+ΔDx)とを比較し、両者が等しくなった時点でエッチングを終了すべくイオンガン15をオフする。
【0030】
例えば、図8を参照すると、(ビーム電圧、調整レート)を(1000V、1600ppm/s)として、目標調整量Dxを|−1500|=1500(ppm)とした場合、そのシフト量ΔDxは|−200|=200(ppm)と計算されるから、周波数モニタ11で検出された共振周波数から算出されるDが1700(ppm)となるまでエッチングを行えば、目標の1500ppmの調整ができることになる。
【0031】
なお、本実施例では基本的にはエッチングの開始/終了をイオンガン15のオン/オフにより行っているが、シャッター7によるビームの開放/遮断で行ってもよい。また、調整量D=Δfr/fr(割合)と規定したが、D=Δfr等(絶対量)で規定しても上記の原理は利用できる。
【0032】
実施例2.
実施例1では、イオンビームの電力Xp及び目標調整量Dxからそれに対応するシフト量ΔDxを導出し、演算手段10から制御部30へ提供される制御情報をDx及びΔDxとしたが、本実施例では、イオンビームの電力Xpとエッチング開始からのイオンビームの照射時間tからシフト量ΔDをtの関数ΔD(t)として導出し、Dx及び関数ΔD(t)を制御情報とするものを示す。
本実施例の基本的な構成は図1〜3に示した実施例1と同様であるが、制御部30は内部にタイマー回路を有している必要がある。
【0033】
本実施例では、制御部30は(図示しない)内部のタイマー回路を利用してΔD(t)の値を計算しつつ、D=(Dx+ΔD(t))となった時点でイオンガン15をオフしてエッチングを終了する。なお、ΔDをtの関数とする替わりに、ΔDを印加した総電力W(t){W(t)=Xp×t}の関数として、Dx及びΔD(W(t))を制御情報としてもよい。
なお、本実施例では調整前の共振周波数が事前に分かっていれば周波数モニタ11は不要である。また、調整において、最終的に絶対的な共振周波数を得る必要がない場合、即ち、調整前後の相対値のみを必要とする場合は、やはり周波数モニタ11は不要となる。
【0034】
いずれの実施例においても共通しているのは、演算手段がエッチング開始から終了までに発生した熱応力分布、あるいはエッチング終了時に発生している熱応力分布に関連してシフト量を求め、制御部がそのシフト量を補正すべくイオンガンを制御することである。そして、相違するのは、最初の実施例ではシフト量を水晶振動子側の調整量の関数として制御情報を構成するのに対し、後に示した実施例ではシフト量をイオンガン側の出力値の関数として制御情報を構成するものである。
【0035】
なお、本実施例では好適な例として圧電素子に水晶振動子を用いるものを示したが、他の種類の圧電素子であってもよい。言い換えると、圧電素子に用いる材料の物理定数(膨張率α、ヤング率E、密度ρ、弾性定数c、圧電定数e、誘電率ε等)さえ分かっていれば、その圧電素子の形状特性及びエッチングレート(イオンビーム電力)から熱応力分布を導出できる。もちろん、予め複数の種類の材料について、メモリに各物理定数データを入力しておき作業者が選択した材料に応じて対応する物理定数データを読み出すようにしてもよい。そして、その熱応力分布に基づいて調整量シフトを求め、エッチングの終了点を決定するという本発明の原理を適用することができる。従って、初めて扱う種類の圧電素子であっても、それが公知の材料からなるものであれば、事前の測定・実験データの取得なしに、単に既知の値を入力するだけで周波数調整の工程を開始することができる。
【0036】
また、本実施例ではイオンビームエッチングを用いるものを示したが、反応性プラズマエッチングを用いるものでも同様の原理を利用することができる。この場合、上記の電力Xpに相当するものとしてプラズマ生成用に投入される電力(印加電圧であってもよい)等を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の水晶振動子周波数調整装置を示すブロック図
【図2】本発明によるイオンガンを用いた水晶振動子周波数調整装置の概略図
【図3】本発明によるイオンガンの概略図
【図4】本発明を説明するための図
【図5】本発明を説明するための温度分布の図
【図6】本発明を説明するための熱応力分布の図
【図7】本発明における周波数変化の計算結果と実測値とを比較する図
【図8】本発明を説明するための図
【図9】共振周波数のシフトを説明する図
【符号の説明】
【0038】
1.仕込室
2.エッチング室
3.取出室
7.シャッター
8.コンタクト機構
9.搬送レール
10.演算手段
11.周波数モニタ
12.仕切弁1
13.仕切弁2
15.イオンガン
16.ガス導入パイプ
17.熱陰極
18.陽極
19.磁石
20.遮蔽グリッド
21.加速グリッド
22.水晶振動子
24.放電電流制御回路
25.放電電流モニタ機構
26.交流電圧調整器
27.キャリア
30.制御部
101.メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子をエッチングするためのエッチング源、エッチングの量を制御する制御手段、及び該制御手段に制御情報を提供する演算手段を備え、該圧電素子をエッチングして該圧電素子の共振周波数を調整する圧電素子の周波数調整装置であって、
該演算手段が、エッチングされる圧電素子の材料特性及びエッチングのための電力に基づいて該圧電素子における熱応力分布を導出するとともに、該熱応力分布に基づいてエッチング後に発生する共振周波数のシフト量を該制御情報として計算し、
該制御手段が、該シフト量に基づいて共振周波数の調整量を補正するように構成された周波数調整装置。
【請求項2】
請求項1記載の周波数調整装置において、前記エッチング源がイオンビームエッチングするためのイオンガンであり、前記エッチングのための電力がイオンビームの電力である周波数調整装置。
【請求項3】
圧電素子をイオンビームエッチングするためのイオンガン、エッチングの開始/終了を制御する制御手段、該圧電素子の共振周波数を検出して該制御手段に出力する周波数モニタ、及び該制御手段に制御情報を提供する演算手段を備え、該圧電素子をエッチングして該圧電素子の共振周波数を調整する圧電素子の周波数調整装置であって、
該周波数モニタによって検出される周波数について、該圧電素子の調整前の共振周波数をfr、エッチングによる調整前後での共振周波数の差をΔfrとした場合に、該制御手段が少なくともΔfrに基づいて共振周波数の調整量Dを算出し、
該演算手段が、エッチングされる圧電素子の材料特性及び照射されるイオンビームの電力に基づいて該圧電素子における熱応力分布を導出し、該熱応力分布に基づいて目標調整量Dxに対するシフト量ΔDxを計算するとともに、Dx及びΔDxを該制御情報として該制御手段に提供し、
該制御手段が、Dと(Dx+ΔDx)とを比較して、D=(Dx+ΔDx)となった時点でエッチングを終了するように構成された周波数調整装置。
【請求項4】
圧電素子をイオンビームエッチングするためのイオンガン、エッチングの開始/終了を制御する制御手段、該圧電素子の共振周波数を検出して該制御手段に出力する周波数モニタ、及び該制御手段に制御情報を提供する演算手段を備え、該圧電素子をエッチングして該圧電素子の共振周波数を調整する圧電素子の周波数調整装置であって、
該周波数モニタによって検出される周波数について、該圧電素子の調整前の共振周波数をfr、エッチングによる調整前後での共振周波数の差をΔfrとした場合に、該制御手段が少なくともΔfrに基づいて共振周波数の調整量Dを算出し、
該演算手段が、エッチングされる圧電素子の材料特性及び照射されるイオンビームの電力に基づいて該圧電素子における熱応力分布を導出し、該熱応力分布に基づいてエッチング開始からのイオンビームの照射時間tに対する調整量Dのシフト量ΔD(t)を導出するとともに、ΔD(t)及び目標調整量Dxを該制御情報として該制御手段に提供し、
該制御手段が、Dと(Dx+ΔD(t))とを比較し、D=(Dx+ΔD(t))となった時にエッチングを終了するように構成された周波数調整装置。
【請求項5】
請求項1から4いずれか一項に記載の周波数調整装置において、前記材料特性が圧電素子の物理定数データ及び形状を表す形状特性データからなり、前記電力がエッチングレートから計算され、
前記演算手段が、複数の種類の圧電素子の該物理定数データが記憶されたメモリを備え、該複数の種類のうち選択された種類に対応する該物理定数データ、並びに入力される形状特性データ及びエッチングレートから前記シフト量を演算するように構成された周波数調整装置。
【請求項6】
請求項5記載の周波数調整装置において、前記圧電素子が水晶振動子であり、
前記形状特性データが、該水晶振動子を構成する水晶及び電極の形状に関する寸法並びにカットアングルの種類である周波数調整装置。
【請求項7】
圧電素子をエッチングするためのエッチング源、エッチングの開始/終了を制御する制御手段、及び該制御手段に制御情報を提供する演算手段を備え、該圧電素子をエッチングして該圧電素子の共振周波数を調整する方法であって、
該演算手段によって、エッチングされる圧電素子の材料特性及びエッチングのための電力に基づいて該圧電素子における熱応力分布を導出するとともに、該熱応力分布に基づいてエッチング後に発生する共振周波数のシフト量を該制御情報として計算するステップ、
該制御手段がエッチングを開始するステップ、及び
該制御手段が、目標調整量及び該計算されたシフト量に基づいてエッチングの終了点を決定しエッチングを終了するステップ
からなる方法。
【請求項8】
請求項7の方法において、前記エッチング源がイオンビームエッチングするためのイオンガンであり、前記エッチングのための電力がイオンビームの電力である方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−221243(P2007−221243A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36782(P2006−36782)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000146009)株式会社昭和真空 (72)
【Fターム(参考)】