説明

地下室の二重止水工法及び該工法に用いる発泡剤注入用中空管

【課題】従来の地下室防止工法は、基本的にコンクリート外壁周辺に防水剤を塗布した断熱保温板を設けているが、地下室内部への水の侵入を完全には防止できなかった他に、断熱保温板等にコストがかかっていた。
【解決手段】本発明工法は、安価な薬液である発砲剤を発泡剤注入用中空管1に注入して土壌11と外壁との空間、或いは土壌11自体の隙間に浸透させて密封し、土壌11中の水分や地上からの水分がコンクリート壁材を浸透して地下室内部に入らないようにコンクリート外壁部で止水させ、併せて断熱性や防音性に優れた効果を有する新規な地下室の二重止水工法を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下室等の止水工法に関し、さらに詳しくは、地下室外壁からセパレート筋の腐敗隙間を介して進入する水の二重止水工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地下室の築造構造としては、敷地面積が広い場合には建家敷地を広く掘削して地下室土台や側壁を組立ててから周囲を埋め戻していたが、この工法では費用と作業日数が多くかかっていた。
【0003】
また従来の工法では、地下室の基礎底盤の上に多量の鉄筋を配筋して型枠を組み付け、外壁厚が厚くなるように大量のコンクリートを打設して建物自体の強度を保ようにすると共に、コンクリート外壁面には雨や地下水の侵入を防止するために念入りな防水加工が施されているが、この工法の場合、多くの工程や大量の建築材料を要する等の問題があった。
【0004】
このうち特開平10−266428号「捨型枠」には、「現場打用の捨型枠であって、該捨型枠は高強度モルタルにて形成され、且つ、相互に対峙する縦型枠の所定箇所に隆起部を設けると共に、該隆起部に相手方型枠との間に架設競られるセパレート筋をするための孔を開穿し、且つ、一方の型枠には前記セパレート筋の先端部を螺着するための雌螺子部を有するインサートを埋設して成る捨型枠」を開示して、現場打ちコンクリートの型枠をセットするとき、揚重機を用いることなく、且つ、セットの作業性が良好であって、充分な強度及び剛性を有する捨型枠を得ることができるとしている。
【0005】
上記の捨型枠を用いた工法では、従来の様に揚重機を用いることなく、人手で簡易にセットできる為に作業性が良好であってが、長い経時変化を受けるとコンクリート内部のセパレート筋表面が腐敗により隙間を生じ、この隙間から外部の雨水等が内壁方面に侵入するという恐れがあった。
【0006】
このため従来の工法では、外壁に沿って高価な薬剤を用いて念入りな防水加工が施されていたが、特に土壌と直接接触する地下室の外壁においては埋め戻し前に施工された防水加工が一度のみであり、長い経時変化を受けると防水効果が段々と薄れざるを得なかった。
【0007】
本出願人は、先に特開2004−263495号「地下室防水工法」において、水とは反応するが水には不溶性の薬液である発泡剤を用いて土壌と外壁との空間、或いは土壌自体の隙間に浸透させて密封し、土壌中の水分や地上からの水分がコンクリート壁材を浸透して地下室内部に入らないようにコンクリート外壁部で止水させる工法を開示しており、それなりの効果を得ている。
【特許文献1】特開平10−266428号
【特許文献2】特開2004−263495号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上記特開2004−263495号「地下室防水工法」においては、小孔を有するパイプや中空形状の筒体を介して、流し込み器であるスカインを用いて発泡剤を流しているが、この場合、中空形状の筒体は先端部が養生されているためにコンクリート打設後に、筒体内部に鉄棒を打ち込み筒体先端部を開放しなければならないために、相当な労力を要していた。
【0009】
また、小孔を有するパイプの場合には、縦状にパイプを配列するためにある程度長さが必要と成り、コストがかかるという課題を有していたため、水とは反応するが水には不溶性の薬液である発泡剤を利用する工法の利点を利用しながら簡易に施工できる手段の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は係る課題を解決するために鋭意研究したところ、コンクリート内部に配設されるセパレート筋の腐敗を防止すると共に、外壁面を密封処理するために、セパレート筋の間に特殊形状の中空管を配設し、該中空管の後端部から発泡剤を注入して先端部を中心に埋め土内で発砲させることによって外壁面を密封し、外壁面からの雨水の浸入を防止できる止水工法を見いだし、本発明の地下室の二重止水工法及び該工法に用いる発泡剤注入用中空管を提供することができた。
【0011】
すなわち本発明の第一は、地下室設置予定地の周囲に鋼枠材を打設した後に、矢板材又は捨型枠を用いてコンクリートを流し込んでコンクリート壁を得る地下室工法において、
セパレート筋及び中空管を装着する為の孔を有する矢板材又は捨型枠を相対峙してセットする第一工程と、
次いで、セパレート筋及び中空管を装着した矢板材又は捨型枠内にコンクリートを打設する第二工程と、
外側矢板材又は捨型枠と土壌との間に埋め土を埋める第三工程と、
内側矢板材又は捨型枠を撤去後、中空管先端部に設けた止め部を引き抜いた後に、水とは反応するが水には不溶性の薬液である発泡剤を、該中空管後端部から注入して該先端部を中心に埋め土内で発砲させる第四工程とからなり、
上記発泡剤は、外側矢板材又は捨型枠面にそって埋め土内を密封することを特徴とする地下室の二重止水工法である。
【0012】
本発明の第二は、上記捨型枠は、ベニヤ板又は高強度モルタル材からなる縦型枠であることを特徴とする請求項1記載の地下室の二重止水工法である。
【0013】
本発明の第三は、中空形状を有する長手棒からなる本体部と、該本体部の先端部に装着するワイヤーつき止め部と、該本体部の後端部に螺旋状に装着される螺旋部とから構成され、中空管先端部に設けた止め部を引き抜いた後に、水とは反応するが水には不溶性の薬液である発泡剤を先端部から発砲することを特徴とする発泡剤注入用中空管である。
【発明の効果】
【0014】
本発明工法においては、コンクリート打設後に容易に外壁と接触する埋め戻し土壌内に発泡剤を注入することで、外壁面全体を発泡剤で密封して止水効果を高めており、これによりコンクリート内部に配設されているセパレート筋の腐敗をも防止している。
【0015】
また本発明工法において使用する発泡剤注入用中空管は、構造が簡易であるがコンクリート打設後に本体部の後端部に螺旋状に装着される螺旋部を外して、先端部の止め部をワイヤーで引き出して外壁部に先端を開口させるものであり、次いで、発泡剤を注入すると先端部から発泡剤が土壌内部に浸透しながら拡大して外壁面を密封する為に、作業は簡易にできるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
通常、地下室を構築するには、建物の配置と基準になるゼロレベルの位置を確定した後、アースドリルを装着した重機によって土の崩落を防止するH型鋼枠が所定間隔で地中に打設され、さらにH型鋼の貫入部に鉄板を被せて安全を確保している。
【0017】
掘削部分の周辺の補強を行った後に、重機が敷地内に入り掘削を行うが、この場合、最下面まで掘削した後に、基礎より深い部分に雨水タンクと汚水タンクを埋設するための竪穴を掘って埋設し、その後に防湿用や新鮮な空気取入れ用の配管を埋設する。
【0018】
次いで、底盤の整地と共に砕石を強いた後に転圧をかけ、さらに底部に一定厚の捨てコンクリートを打設し、耐圧基礎底盤の配筋作業を行ってから矢板材又は捨型枠を相対峙させてコンクリート打設の準備を行っている。
【0019】
図1は、本発明工法において使用する特殊形状の発泡剤注入用中空管1を示す断面図である。本実施例では外径13mm径で、長さ30cmの中空形状の金属管本体部2を用い、該本体部の先端側にはスコッチブライト(商品名)の様な厚みが約3cm程度の多孔性材質3と針金等のワイヤー5に結ばれたビニールシート体4からなる止め材を被覆している。
【0020】
金属管本体部2の後端部側には、後端部から10mm程度の幅にわたって内筒に螺旋状窪みを設けて、外径8mm、長さ20mmの円筒状螺旋部6を挿着している。該螺旋部6の先端には、ビニールシート体4を結ぶワイヤー5が接続されている。
【実施例1】
【0021】
予め準備された地下室の耐圧基礎底盤の配筋作業のあと、図2に示すように縦2m、横1mのベニヤ板を捨型枠7として用いて相対峙させながら底盤から所定の高になるように配設し、次いで、基礎底盤から伸びる鉄筋8に約50cm間隔で長さ30cmのセパレート筋9を外側及び内側の捨型枠の穴部に挿通させて先端部をボルト固定した。
【0022】
次いで、図3に示すように4本のセパレート筋の中心部に発泡剤注入用中空管1を同様に外側及び内側の捨型枠の穴部に挿通させて、順次先端部を溶接固定し、コンクリートを打設した。
【0023】
コンクリートを養生した後に、外側の捨型枠7と土壌との空間部を埋め戻し、さらに内側の捨型枠7を外して、発泡剤注入用中空管1の螺旋部6を取り出すと共にワイヤ5を引き、該中空管の先端部に被覆したビニールシート体4のみを引き抜いた。
【0024】
次いで、水と反応するが水には不溶性の薬液である発泡剤を、流し込み器であるスカイン(図示せず)を用いて前記発泡剤注入用中空管1の後端部から注入すると、先端部に被覆したスコッチブライト(商品名)からなる多孔物質3の多孔部を通過しながら外壁と土壌の間に発砲しながら分散する。
【0025】
本実施例で用いた発泡剤は、水とは反応するが水に溶けない性質を有する薬液であるタックス(TACSS商品名)であるが、この薬液は、疎水性のイソシアネート化合物が主成分であり、構造物や地中の水と反応して水に不溶性のポリ尿素ゲル(ウレタン樹脂)を生成するものである。
【0026】
この発泡剤は、非飽水ゲルであり、地下室外壁と土壌との間の隙間に浸透しながら中空管の先端部を中心にその周囲を密封することになり、順次、この発砲処理を繰り返すことによって外壁面に沿って全面が密封されることになる。
【0027】
なお、上記タックス(TACSS商品名)のみだけでなく、水分の存在下で発砲する性質を有する発泡剤ならば、本発明工法に使用でき、さらに、上記発泡剤の他に、粒径の細かいアルミニウム粉末や他の金属粉末と、反応促進剤として水酸化カルシウムや苛性ソーダと反応させて、水素ガスを発生させながら発砲することによって、地下室外壁と土壌との隙間に浸透させながら密封することも可能である。
【0028】
このようにして得られた密封体は、防水性に優れているために土壌側からの水分をコンクリート外壁に届かない止水効果を有する為、コンクリート内部に設けたセパレート筋の外側表面も密封体で被覆されて、水分が接触しないようになっている。
【0029】
また上記密封体は、断熱特性や防音性に優れているために、従来、外壁側周辺に用いていた約5cmの断熱保温板を使用しなくても同等の効果を得ることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明工法において使用する発泡剤注入用中空管を示す断面図である。
【図2】捨型枠を用いた配筋状態を示す断面図である。
【図3】図2における部分拡大図である。
【符号の説明】
【0031】
1・・・発泡剤注入用中空管
2・・・金属管本体部
3・・・多孔性材質
4・・・ビニールシート体
5・・・ワイヤー
6・・・螺旋部
7・・・捨型枠
8・・・鉄筋(縦筋)
9・・・セパレート筋
10・・土台
11・・土壌
12・・溶接物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下室設置予定地の周囲に鋼枠材を打設した後に、矢板材又は捨型枠を用いてコンクリートを流し込んでコンクリート壁を得る地下室工法において、
セパレート筋及び中空管を装着する為の孔を有する矢板材又は捨型枠を相対峙してセットする第一工程と、
次いで、セパレート筋及び中空管を装着した矢板材又は捨型枠内にコンクリートを打設する第二工程と、
外側矢板材又は捨型枠と土壌との間に埋め土を埋める第三工程と、
内側矢板材又は捨型枠を撤去後、中空管先端部に設けた止め部を引き抜いた後に、水とは反応するが水には不溶性の薬液である発泡剤を、該中空管後端部から注入して該先端部を中心に埋め土内で発砲させる第四工程とからなり、
上記発泡剤は、外側矢板材又は捨型枠面にそって埋め土内を密封することを特徴とする地下室の二重止水工法。
【請求項2】
上記捨型枠は、ベニヤ板又は高強度モルタル材からなる縦型枠であることを特徴とする請求項1記載の地下室の二重止水工法。
【請求項3】
中空形状を有する長手棒からなる本体部と、該本体部の先端部に装着するワイヤーつき止め部と、該本体部の後端部に螺旋状に装着される螺旋部とから構成され、中空管先端部に設けた止め部を引き抜いた後に、水とは反応するが水には不溶性の薬液である発泡剤を先端部から発砲することを特徴とする発泡剤注入用中空管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−92358(P2007−92358A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281909(P2005−281909)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(595171761)株式会社小高商会 (6)
【Fターム(参考)】