説明

地下構造体接合構造

【課題】下側の地下構造体の上記想定地震時における健全性を簡便に確保できる地下構造体接合構造を提供すること。
【解決手段】地下で上下に積層される既存杭3と新設基礎5とを接合する地下構造体接合構造であって、既存杭3と新設基礎5との当接面の少なくとも一方には、両者間に空隙部を形成する上側凹部20が形成され、この上側凹部20の下面には、上側凹部20の下面から下方に延びる下部穴12が形成され、上側凹部20の上面のうち下部穴12と対向する位置には、上側凹部20の上面から上方に延びる上部孔21が形成され、上側凹部20内には、一端部が上部孔21に挿入されるとともに他端部が下部穴12に挿入されて非固定とされたダボ鋼材30が配置されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、構造物を建て替える際に、残存する地下構造体としての既存杭と、この既存杭の上に構築される新設構造物の地下構造体としての新設基礎と、を接合する地下構造体接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物を取り壊して新たな建物に建て替える場合に、地中に残存した既存建物の杭を、所定の箇所に増設する新設杭とともに新設建物の杭として再利用すれば、当該既存杭の撤去や埋め戻しに要する多大の手間を省くことができて経済的であるとともに、多量の廃棄物の発生も防ぐことができ、環境への負担低減の観点からも好ましい。
【0003】
ところが、現行基準においては、上記杭に対して、新設建物の存続期間中に一回程度遭遇する可能性の高い地震(以下、想定地震という。)に対する損傷防止が義務づけられており、他方上記既存杭は、一般に当該基準が制定されていなかった施工当時の旧基準に則って設計されているために、所望の鉛直支持能力は有するものの、上記想定地震に対する水平抵抗能力が不足しており、この結果上記新設杭と同じ荷重負荷条件によって再利用することができない場合が多い。
【0004】
この問題を解決するため、既存杭と新設基礎との間にデバイスを介在させ、杭頭接合部をピン接合またはローラ接合とする方法が提案されているが、デバイスの製造および設置を要するので、経済性および施工性に問題があった。
【0005】
このため、例えば下記特許文献1においては、既存杭には鉛直荷重のみを負担させ、新設杭には鉛直荷重と水平荷重の双方を負担させることを特徴とする新設杭と既存杭とを併用した新設建物の基礎構造が提案されている。
【0006】
また、下記特許文献2においては、上部構造を構築するにあたって、上部構造の底面と既存杭の上端部との間を上下に離間させて、これらの間に緩衝材を介装することにより、上部構造の荷重を新設杭にのみ支持させ、かつ既存杭の上端部と上部構造との間に、これらの間で水平力を伝達できる丸棒等からなるシヤーキーを設けることにより、既存杭を、地震時に上部構造の水平力を負担させるために用いるようにした建物の建て替え方法が提案されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の従来の基礎構造にあっては、既存杭に水平荷重を全く負担させない構造であり、他方特許文献2に記載の建物の建て替え方法にあっては、既存杭に鉛直荷重を負担させない構造であるために、いずれも新設建物の構築にあたって打設すべき新設杭の杭径や本数が増加することになり、よって施工性や経済性の面で種々の問題点があった。
【0008】
また、既存杭に水平荷重を負担させる特許文献2に記載の建て替え方法においては、シヤーキーが圧縮された緩衝材によって囲繞されているために、地震時に上部構造と既存杭との間に水平方向の相対変位が生じた際に、大きな変形性能を得ることができず、よって所望のせん断歪を生じる前に破断することにより、上記水平力を負担させることができないという問題点もあった。
【0009】
そこで、下記特許文献3においては、一端部が既存杭に固定され、他端部が新設基礎に固定されるせん断力伝達部材の周囲に空隙部を形成して、その変形性能を高めた既存杭と新設杭とを用いた基礎構造が提案されている。
【0010】
特許文献3に示された提案によれば、既存杭に新設基礎からの鉛直荷重を負担させることができるとともに、地震時に水平力が作用した際には、上記せん断力伝達部材によって既存杭に水平力を負担させることができる。さらに、新設基礎と既存杭等との間に水平方向の相対変位が生じた場合にも、当該せん断力伝達部材を降伏させて、その履歴エネルギー吸収により新設基礎上に構築された新設構造物全体の地震時安全性も向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平09−060007号公報
【特許文献2】特開2002−256571号公報
【特許文献3】特開2009−91730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献3では、せん断力伝達部材が想定地震によって塑性化すると、ひずみ硬化によって強度が増加するので、既存杭にその水平抵抗能力を超える水平力が作用するおそれがあった。また、せん断力伝達部材が疲労破壊する可能性もあった。
【0013】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、既存杭および新設基礎のように地下で上下に積層される地下構造体同士を接合する地下構造体接合構造において、下側の地下構造体の上記想定地震時における健全性を簡便に確保できる地下構造体接合構造を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、地下で上下に積層される地下構造体同士を接合する地下構造体接合構造であって、前記上下の地下構造体同士の当接面の少なくとも一方には、両者間に空隙部を形成する凹部が形成され、当該凹部の下面には、当該凹部の下面から下方に延びる下部穴が形成され、当該凹部の上面のうち前記下部穴と対向する位置には、当該凹部の上面から上方に延びる上部孔が形成され、当該凹部内には、一端部が前記上部孔に挿入されるとともに他端部が前記下部穴に挿入されて非固定とされたせん断力伝達部材が配置されることを特徴とするものである。
【0015】
ここで、上記せん断力伝達部材としては、極低降伏点鋼を用いた棒状部材が好適であるが、上記凹部の深さ等によっては、普通鋼等の鋼材からなる棒状部材や太径の鉄筋を用いることもできる。
また、上記凹部内に配置するせん断力伝達部材の本数、材質、断面、長さ等の諸元は、上記既存杭が負担する水平力がその耐力に達する前に降伏するように選択することが好ましい。
【0016】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記凹部は、前記上下の地下構造体同士の当接面の少なくとも一方の中央部に形成されていることを特徴とするものである。
【0017】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記凹部の内部であって、かつ前記せん断力伝達部材の配設位置よりも外周側には、一端部が前記上下の地下構造体のうちの一方に固定されるとともに、他端部が前記凹部内において前記当接面のレベルよりも突出するストッパが設けられていることを特徴とするものである。
【0018】
ちなみに、上記ストッパの他端部と、当該ストッパに対して相対変位する上記上下の地下構造体のうちの他方との間隔は、上述した現行基準による想定地震よりも大きな地震が発生して、この他方の地下構造体との間に相対変位が生じた際に、ストッパが相対変位する地下構造体に当接してその水平変位を阻止する寸法に設定することが好ましい。
【0019】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記上下の地下構造体同士の間には、両者間の摩擦を低減する摩擦低減部材が介装されていることを特徴とするものである。
【0020】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記下側の地下構造体は、既存構造物を撤去することにより地中に残存した既存杭または既存基礎であり、前記上側の地下構造体は、前記既存杭または既存基礎上に構築される新設基礎であることを特徴とするものである。
【0021】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記下側の地下構造体は、新設杭であり、前記上側の地下構造体は、前記新設杭上に構築される新設基礎であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
請求項1〜6のいずれかに記載の発明によれば、上下の地下構造体同士の当接面の少なくとも一方に、両者間に空隙部を形成する凹部を形成し、この上部に新設基礎を貫通する上部孔と、これと対向する位置の凹部の下部に有底の下部穴を形成し、かつ当該凹部内に、上端部が上部孔に挿入されて、下端部が下部穴に挿入されて非固定とされた複数本のせん断力伝達部材を配置しているために、上記凹部が形成されていない両者の当接面を介して、下側の地下構造体に上側の地下構造体からの鉛直荷重を負担させることができる。
【0023】
また、地震時に水平力が作用した際には、上記せん断力伝達部材によって上側の地下構造体から下側の地下構造体へとせん断力を伝達することができる。この際に、せん断力伝達部材は、凹部内に形成されている空隙部に配置されているために、大きな変形性能を確保することができる。このため、せん断歪みを抑制して早期に破断することを防ぐことができるとともに、せん断力伝達部材の強度を調整することにより、上側の地下構造体と下側の地下構造体との間に大きな相対変位が生じた場合にも、当該せん断力伝達部材を降伏させて、その履歴エネルギー吸収により新設基礎上に構築された新設構造物全体の地震時安全性も向上させることができる。
【0024】
さらに、せん断力伝達部材を上部孔と下部穴に挿入して非固定としているために、地震後に、せん断力伝達部材の強度が塑性化に伴うひずみ硬化によって増加した場合においても、せん断力伝達部材の一部を取り外すことにより、せん断力伝達部材によって伝達される水平力を所定の数値以下に保つことが容易となる。また、せん断力伝達部材に塑性変形が繰り返し発生して、疲労破壊するおそれがある場合には、これを新しいものに交換することも可能である。よって、下側の地下構造体の上記想定地震時における健全性を確実かつ簡便に確保できる。
【0025】
この結果、下側の地下構造体にも相応の鉛直荷重および水平荷重を負担させることができるとともに、上記想定地震に対する下側の地下構造体の損傷を防止して、その性能を十分に生かした再利用を図ることができる。またこれにより、杭を新設する場合には、新設杭が負担すべき鉛直荷重や水平力を小さくすることができるために、その断面や鉄筋量を縮減することができ、よって構築に要する資源や工期あるいはコストの縮減化を図ることができる。
また、せん断力伝達部材の取外しや交換を容易にかつ騒音を発生させずに行えるので、地震後のメンテナンス作業が合理化される。
【0026】
ここで、請求項2に記載の発明のように、上記凹部を上下の地下構造体同士の当接面の少なくとも一方の中央部に形成すれば、上側の地下構造体からの鉛直荷重を広い面積で、かつ均等に下側の地下構造体に伝達させることができて好適である。
【0027】
また、請求項3に記載の発明においては、上記凹部の内部であって、かつ上記せん断力伝達部材の配設位置よりも外周側にストッパを設けているために、上述した想定地震よりも大きな地震が発生した場合においても、当該ストッパが、相対変位する上側あるいは下側の地下構造体の水平変位を拘束することにより、せん断力伝達部材が過度に変形して破断することを防止することができる。
【0028】
さらに、柱直下にある既存杭のように、高い軸力が作用する既存杭については、上記当接面における摩擦力が大きくなり、この結果上記せん断力伝達部材によるせん断力の伝達やその降伏による履歴エネルギー吸収が円滑に行われなくなる虞がある。このような箇所については、請求項4に記載の発明のように、互いの当接面間に摩擦低減部材を介装すれば、上記摩擦力を低減化させて、せん断力伝達部材に所望の機能を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る既存建物の既存杭および新設杭の配置を示す縦断面図である。
【図2】前記実施形態に係る建物の杭伏図である。
【図3】前記実施形態に係る建物の既存杭と新設基礎との接合部分の縦断面図である。
【図4】前記実施形態に係る建物の既存杭と新設基礎との接合部分の横断面図である。
【図5】前記実施形態に係る建物の既存杭と新設基礎との接合部分を構築する手順を説明するための断面図(その1)である。
【図6】前記実施形態に係る建物の既存杭と新設基礎との接合部分を構築する手順を説明するための断面図(その2)である。
【図7】前記実施形態に係る建物の既存杭と新設基礎との接合部分を構築する手順を説明するための断面図(その3)である。
【図8】前記実施形態に係る建物の地震発生時の挙動を示す縦断面図である。
【図9】本発明の第1の変形例に係る建物の既存杭と新設基礎との接合部分の縦断面図である。
【図10】本発明の第2の変形例に係る建物の既存基礎と新設基礎との接合部分の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る建物2の既存杭および新設杭の配置を示す縦断面図である。図2は、建物2の杭伏図である。
建物2の基礎構造は、例えば図1に示すように、地上6階建ての既存構造物としての既存建物1を撤去して地上9階建ての建物2に建て替える際に適用したもので、地中に残存した既存建物1の下側の地下構造体としての既存杭3と、これら既存杭3から離間した所定位置に打設された新設杭4と、これら既存杭3および新設杭4の上に構築された上側の地下構造体としての新設基礎5とを備えている。
【0031】
図3および図4は、既存杭3と新設基礎5との接合部分の縦断面図および横断面図である。
既存杭3は、杭頭部分が所定の深さまで斫られて主筋および帯筋が撤去されており、新設基礎5は、この杭頭部分が撤去された既存杭3の上に構築されている。
【0032】
既存杭3の新設基礎5に当接する当接面3aの中央部には、所定の深さ寸法を有する平面視方形状の下側凹部10が形成されている。この下側凹部10はグラウト材が充填されて塞がれて、これにより、グラウト材充填部11が形成されている。このグラウト材充填部11と既存杭3の当接面3aとは面一となっている。
また、新設基礎5の既存杭3に当接する当接面5aにも、下側凹部10よりも平面寸法が幾分大きな上側凹部20が形成されている。
【0033】
グラウト材充填部11には、このグラウト材充填部11の表面つまり上側凹部20の下面から下方に延びる下部穴12が形成されている。この下部穴12は、既存杭3の下側凹部10の底面近傍まで延びている。
上側凹部20の上面のうち下部穴12と対向する位置には、この上側凹部20の上面から上方に延びて新設基礎5を貫通する上部孔21が形成されている。
【0034】
新設基礎5と既存杭3との間には、一端部が上部孔21に挿入されるとともに他端部が下部穴12に挿入されて非固定とされた複数本(本実施形態では3×4=12本)のせん断力伝達部材としてのダボ鋼材30が配置される。
ここで、各ダボ鋼材30は、極低降伏点鋼からなる断面矩形状の棒状部材である。
また、上部孔21の上端部は、着脱可能な止水栓22で閉塞されている。
【0035】
さらに、既存杭3の平面矩形状であるグラウト材充填部11の四辺に沿ってかつダボ鋼材30よりも外周側には、ストッパ31が配設されている。
これらストッパ31は、長方形の鋼板や鉄筋あるいはコンクリート等からなるもので、ストッパ31の側面が下側凹部10の内側面に平行な状態で、下側凹部10の内側面から所定間隔をおいた位置に配置されている。
また、各ストッパ31は、グラウト材充填部11の表面から新設基礎5の上側凹部20内に突出している。そして、ストッパ31の下部は、グラウト材充填部11に固定されている。
【0036】
ここで、ダボ鋼材30の断面寸法や上側凹部20の深さ寸法は、上述の想定地震が発生した際に既存杭3が負担する水平力が、当該既存杭3の耐力に達する前に降伏するように設定されている。
このダボ鋼材30の断面形状や上側凹部20の平面形状は、矩形状に限らず、円形など他の形状でもよい。
【0037】
また、ストッパ31の上部と新設基礎5の上側凹部20の内側面との間隔は、上記想定地震時においてもストッパ31と上側凹部20の内側面とが接触することがなく、かつ、上記想定地震よりも大きな地震が発生して、既存杭3と新設基礎5との間に大きな水平変位が生じた際には、ストッパ31が水平変位した新設基礎5の上側凹部20の内側面に当接してその水平変位を阻止するような寸法に設定されている。
【0038】
以上の構成からなる建物2の基礎構造は、以下の手順で構築される。
すなわち、図5に示すように、先ず既存建物1を解体した後に、既存杭3の杭頭を所定深さまで斫り、主筋を切断して帯筋を撤去するとともに、当該既存杭3の上面中央に設けた下側凹部10を形成する。
次に、この下側凹部10内に、ストッパ31を所定の位置およびレベルに設置するとともに、ダボ鋼材30よりも大きい内径を有する筒状の下部筒状部材13を、所定位置に設置する。
【0039】
次に、図6に示すように、グラウトを既存杭3の当接面3aのレベルまで充填して固化させ、グラウト材充填部11を形成する。なお、グラウトに代えて、コンクリートあるいはモルタルを充填しても良い。これにより、下部筒状部材13の内部が下部穴12となる。
【0040】
次に、グラウト材充填部11の上面に、スペーサ14を被せる。このスペーサ14は、上側凹部20を形成するためのもので、箱状のものである。この際に、スペーサ14に代えて、スチロールやスタイロフォームなどの発泡材を用いることもできる。
さらに、ダボ鋼材30よりも大きい内径を有する筒状の上部筒状部材15を、スペーサ14上に載せて、下部筒状部材13に対向する位置に設置し、上部筒状部材15の内部をスペーサ14内部に連通させておく。この上部筒状部材15の高さは、新設基礎5を貫通する程度の高さとする。
【0041】
次に、図7に示すように、新設基礎5の配筋を行った後に、コンクリートを打設して新設基礎5を構築する。これにより、新設基礎5の下面には、スペーサ14によって画成された空隙部となる上側凹部20が形成されるとともに、上部筒状部材15の内部が上部孔21となる。
【0042】
次に、ダボ鋼材30を、上部筒状部材15からなる上部孔21を通して下部筒状部材13からなる下部穴12に挿入し、その後、止水栓22を上部孔21の上端部に嵌め込む。
【0043】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
既存杭3と新設基礎5との当接面3a、5aのうちの新設基礎5側の当接面5aに、両者間に空隙部を形成する上側凹部20を形成し、この上側凹部20内に、上端部が新設基礎5に固定されるとともに下端部が既存杭3の下側凹部10を塞ぐグラウト材充填部11内に固定された複数本のダボ鋼材30を配置しているために、凹部が形成されていない部分の当接面3a、5aを介して、既存杭3に新設基礎5からの鉛直荷重を負担させることができる。
【0044】
また、図8に示すように、地震時に水平力が作用した際には、ダボ鋼材30を介して新設基礎5から既存杭3へとせん断力を伝達することができる。この際に、ダボ鋼材30は、空隙部となる上側凹部20内に配置されているために、大きな変形性能を確保することができる。このため、せん断歪みを抑制して早期に破断することを防ぐことができるとともに、新設基礎5と既存杭3との間に大きな相対変位が生じた場合にも、これらダボ鋼材30を降伏させて、その履歴エネルギー吸収により新設基礎5上に構築された建物2全体の地震時安全性も向上させることができる。
【0045】
さらに、ダボ鋼材30を上部孔21と下部穴12に挿入して非固定としているために、地震後に、ダボ鋼材30の強度が塑性化に伴うひずみ硬化によって増加した場合においても、ダボ鋼材30の一部を取り外すことにより、ダボ鋼材30によって伝達される水平力を所定の数値以下に保つことが容易となる。また、ダボ鋼材30に塑性変形が繰り返し発生して、疲労破壊するおそれがある場合には、これを新しいものに交換することも可能である。よって、既存杭3の上記想定地震時における健全性を確実かつ簡便に確保できる。
【0046】
加えて、下側凹部10内の外周側であって、かつダボ鋼材30の配設位置よりも外周側にストッパ31を設けているために、上述した想定地震よりも大きな地震が発生した場合においても、ストッパ31が相対変位する新設基礎5の上側凹部20の内側面に当接してその水平変位を拘束することにより、ダボ鋼材30が過度に変形して破断することを防止することができる。
【0047】
また、上側凹部20を既存杭3と新設基礎5との当接面3aの中央部に形成したので、新設基礎5からの鉛直荷重を広い面積で、かつ均等に既存杭3に伝達させることができる。
【0048】
この結果、既存杭3にも相応の鉛直荷重および水平荷重を負担させることができるとともに、上記想定地震に対する既存杭3の損傷を防止して、その性能を十分に生かした再利用を図ることができる。これにより、新設杭4が負担すべき鉛直荷重や水平力を小さくすることができために、その断面や鉄筋量を縮減することができ、よって構築に要する資源や工期あるいはコストの縮減化を図ることができる。
また、ダボ鋼材30の取外しや交換を容易にかつ騒音を発生させずに行えるので、地震後のメンテナンス作業が合理化される。
【0049】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0050】
例えば、本実施形態においては、いずれも既存杭3が中実の杭である場合についてのみ説明したが、これに限るものではなく、図9に示すように、既存杭7が中空断面の杭である場合には、予め杭頭の内部にコンクリートを充填し、当該充填したコンクリートの上面に上記下側凹部10を形成してダボ鋼材30やストッパ31を配置することもできる。
【0051】
さらに、既存杭3の上面に、直接新設基礎5を構築して両者間に上記地下構造体接合構造を適用する場合に限らず、図10に示すように、既存建物1が既存杭3上に既存基礎6を有している場合には、この既存基礎6も残存させて、その上面に新設基礎5を構築することも可能である。この場合には、既存基礎6の上面に、同様に下側凹部10を形成してダボ鋼材30やストッパ31を配置すればよい。
【0052】
さらに、上記上側凹部20についても、必ずしも新設基礎5側に設ける場合に限定されるものではなく、既存杭3または既存基礎6の上面に形成してもよく、あるいは既存杭3(または既存基礎6)と新設基礎5との両者に互いに連通する凹部を形成することもできる。また、本発明に係る地下構造体接合構造においては、上述した既存杭3または既存基礎6と、新設基礎5との間に、水平力を伝達するダボ鋼材30を設けているが、さらに新設杭4と新設基礎との間にも、同様にダボ鋼材30を設けることも可能である。
【0053】
また、本願発明の上記構成は、新設杭のみで構成される地下構造体接合構造において、特に地震時における損傷を防止したい新設杭と新設基礎との間の構造として転用することができるものである。
【符号の説明】
【0054】
1…既存建物(既存構造物)
2…建物
3、7…既存杭(下側の地下構造体)
3a…当接面
4…新設杭
5…新設基礎(上側の地下構造体)
5a…当接面
6…既存基礎
10…下側凹部
11…グラウト材充填部
12…下部穴
13…下部筒状部材
14…スペーサ
15…上部筒状部材
20…上側凹部
21…上部孔
22…止水栓
30…ダボ鋼材(せん断力伝達部材)
31…ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下で上下に積層される地下構造体同士を接合する地下構造体接合構造であって、
前記上下の地下構造体同士の当接面の少なくとも一方には、両者間に空隙部を形成する凹部が形成され、
当該凹部の下面には、当該凹部の下面から下方に延びる下部穴が形成され、
当該凹部の上面のうち前記下部穴と対向する位置には、当該凹部の上面から上方に延びる上部孔が形成され、
当該凹部内には、一端部が前記上部孔に挿入されるとともに他端部が前記下部穴に挿入されて非固定とされたせん断力伝達部材が配置されることを特徴とする地下構造体接合構造。
【請求項2】
前記凹部は、前記上下の地下構造体同士の当接面の少なくとも一方の中央部に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の地下構造体接合構造。
【請求項3】
前記凹部の内部であって、かつ前記せん断力伝達部材の配設位置よりも外周側には、一端部が前記上下の地下構造体のうちの一方に固定されるとともに、他端部が前記凹部内において前記当接面のレベルよりも突出するストッパが設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の地下構造体接合構造。
【請求項4】
前記上下の地下構造体同士の間には、両者間の摩擦を低減する摩擦低減部材が介装されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の地下構造体接合構造。
【請求項5】
前記下側の地下構造体は、既存構造物を撤去することにより地中に残存した既存杭または既存基礎であり、
前記上側の地下構造体は、前記既存杭または既存基礎上に構築される新設基礎であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の地下構造体接合構造。
【請求項6】
前記下側の地下構造体は、新設杭であり、
前記上側の地下構造体は、前記新設杭上に構築される新設基礎であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の地下構造体接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−177250(P2012−177250A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40314(P2011−40314)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】