説明

地下水位低下工法

【課題】ポンプ流量を任意の値設定が可能となることで、従来のフロート水位管理のように余分に水位を低下させることがなく、周辺地下水位低下量および地下水揚水量を最小限に抑えることができ、周辺への環境影響を低減でき、地下水処理に関するコスト縮減を図ることがで、また、ポンプへの負担を小さくできて、電気使用量を最小限に抑えることができる。
【解決手段】揚水用のポンプ15をインバータ制御によるものとし、ディープウェル13と水位観測孔14を常時監視し、設定された管理水位値に若干の変動が生じた時にはインバータ制御盤16によりポンプ15の回転数を制御し、揚水流量を調整して水位を管理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木、建築工事において地下掘削を行う場合のディープウェル(揚水井戸)による地下水位低下工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地下掘削を行う場合、地下水位が高いと地下水が掘削部に噴出することがあり、この様な事態を想定し地下水位低下工法を採用しているが、従来の地下水位低下方法としては、次のような手段が用いられている。
【0003】
能力の高いポンプを用意し、ポンプ吐出口に水量調整弁を取り付け、目的の水位になるように吐出水量の調整を行ない、監視員を張り付けて管理を行う。
【0004】
または、観測井、揚水井の水位をフロートスイッチまたはフロートレススイッチを用いて検出し、検出結果から直接ポンプ電源回路の電磁スイッチを介してポンプのオン・オフ運転を行う。または、シーケンサーを通じ、電磁スイッチをオン・オフすることによりポンプのオン・オフ運転を行う。やはり、監視員を張り付けて管理を実施する。
【0005】
しかし、このような方法では、連続運転または初期設置(固定制御)運転のため、理想的水位内での運転が困難であり、設定水位の変更ができず、故障に対する信頼性を人に頼っており、故障原因の発見、想定が困難である。さらに、水位の変化状況、運転状況を把握しづらく、また、他の工事等への展開ができない。
【0006】
これに対して下記特許文献では、複数の揚水井のポンプを個別に運転すると共に、主観測井における検出水位が設定水位より高くなると、予め設定されている揚水井の稼働優先順位に従って各揚水井のポンプを順次運転することで、理想的水位内でのポンプ自動運転が可能で、設定水位の変更も容易にできるとしている。
【特許文献1】特開平4−14521公報
【0007】
この特許文献1は、図5に示すように、揚水井1に設置されたN台の水中ポンプ2、水中ポンプ起動盤3、M個の集水槽4、N個の観測井5に配置された連続水位検出器および常時指令用の間隙水圧計6および緊急指令用のフロートレススイッチ7、パーソナルコンピュータ8から構成し、受電設備9に自動切換装置10および非常用電源11を設け、停電時に自動的にバックアップできるようにし、さらにパーソナルコンピュータ8にも短時間用のバックアップ電源12を設け、瞬時も電気が絶えない状態を確保する。
【0008】
前記連続水位検出器からの検出信号をマイクロコンピュータに入力し、このマイクロコンピュータにより前記検出水位が設定水位となるように各揚水井1のポンプ2を個別に運転すると共に、主観測井における検出水位が設定水位より高くなると、予め設定されている揚水井の稼働優先順位に従って各揚水井1のポンプ2を順次運転し、主観測井における検出水位が設定水位より低くなると、前記稼働優先順位とは逆の順位で各揚水井1のポンプ2を順次停止させることにより、水位を一定に保持し、前記水位検出スイッチの指令により直接複数のポンプ2をオン・オフ制御するようにしたものである。
【0009】
また、下記特許文献2,3では、電磁弁の開度の調整によりポンプ揚水量を調整するものとして、電磁弁開度の精度を上げることで、適切な制御が実現できるものとしている。
【特許文献2】特開2001−323477公報
【特許文献3】特開2003−13436公報
【0010】
前記特許文献2は、少数点配置の電動弁付設の揚水井戸、揚水井戸に合わせて少数点配置の観測井戸の夫々の孔内水位を水圧計等で計測し、設定水位と計測水位の差を解消するよう電動弁の開度を全開100%に対して0.1%の精度でリアルタイムに自動制御し、揚水井戸のケーシング内外の水位差(井戸ロス)が大きい場合、地下水位の低下速度が遅い場合は、各井戸の揚水量を電磁流量計等にて計測し、揚水流量と地下水位の関係の推定に必要な地盤の浸透特性を、システム運転時の揚水井戸の揚水量と観測井戸A内水位の計測値より逆解析し自動算定し、揚水量の計測値から現状地下水位を推定し、設定水位との差を解消するよう電動弁の開度を全開100%に対して0.1%の精度でリアルタイムに自動制御するとしたものである。
【0011】
前記特許文献3は、揚水井から過剰な揚水をすることなく施工上の安全性を確保するものとして、複数の揚水井内から揚水管を介して揚水される地下水の揚水量を該各揚水井ごとに計測する流量センサーと、各揚水管に設置された開閉バルブと、複数の観測井内にそれぞれ設置された水位計と、該水位計で計測された水位データ及び流量センサーで計測された流量データを用いて各観測井の水位が所定の水位にそれぞれ維持されるように各開閉バルブを操作して揚水量を制御する制御部とで構成してあるものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記特許文献1のようなフロート水位管理では、目標設定管理水位より余分に水位を低下させなければならない。そのため、周辺地下水位低下量が大きくなるなど周辺環境へ与える影響が大きくなる。
【0013】
また、設定管理水位より余分に水位を低下させなければならない。そのため、地下水揚水量が大きくなり、地下水処理に要する費用が大きくなる。
【0014】
しかも、透水性の高い(揚水量が多い)地盤では、フロートスイッチの作動間隔が短くなることから、ポンプに負担がかかる。また、電磁弁によるポンプ制御では、ポンプが常に稼動した状態となるため、電気使用量が多くなる。
【0015】
特許文献2や特許文献3のような電磁弁によるポンプ制御では、電磁弁の開度の調整により電磁弁開度の全開100%に対して0.1%の精度で制御できるが、ポンプ制御の精度を向上させることにより、さらに効率的な地下水揚水が可能となることが考えられる。
【0016】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、ポンプ流量を任意の値設定が可能となることで、従来技術のフロート水位管理のように余分に水位を低下させることがなく、周辺地下水位低下量および地下水揚水量を最小限に抑えることができ、周辺への環境影響を低減でき、地下水処理に関するコスト縮減を図ることがで、また、ポンプへの負担を小さくできて、電気使用量を最小限に抑えることができる地下水位低下工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するため請求項1記載の本発明は、揚水用のポンプをインバータ制御によるものとし、ディープウェルと水位観測孔を常時監視し、設定された管理水位値に若干の変動が生じた時にはインバータ制御盤によりポンプの回転数を制御し、揚水流量を調整して水位を管理することを要旨とするものである。
【0018】
請求項1記載の本発明によれば、ディープウェルポンプの回転数をインバータ制御することにより、ポンプ揚水量を任意でかつ無段階に流量の設定が可能となるので効率的で経済的な地下水揚水が可能となる。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように本発明の地下水位低下工法は、ポンプ流量を任意の値(無段階)に設定が可能となるため、従来技術のフロート水位管理のように余分に水位を低下させることがない。
【0020】
また、周辺地下水位低下量および地下水揚水量を最小限に抑えることができ、周辺への環境影響を低減でき、地下水処理に関するコスト縮減を図ることができる。
【0021】
さらに、ポンプの回転数がインバータにより制御されることにより、ポンプへの負担を小さくでき、電気使用量を最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の地下水位低下工法の1実施形態を示す説明図、図2は同上フロー図で、図中13は揚水井戸であるディープウェル、14は観測井である水位観測孔である。
【0023】
ディープウェル13に設ける揚水用のポンプ15としては、インバータ制御可能なものを設置するものとし、これにポンプ制御盤としてのインバータ制御盤16を接続し、また、ディープウェル13や水位観測孔14には間隙水圧計17を設置した。
【0024】
ポンプ15からの配管18には電磁流量計19と電磁弁20a,20bを設け、電磁弁20aの先はリチャージウエル又は水路等の放流料金の掛からない放流先への放流とし、また、電磁弁20bの先は公共下水道への放流として、放流先を2分できるものとした。
【0025】
本発明では、パソコンはポンプ・電磁弁制御PC21の制御系PCと、流量データ処理PC22と水位データ処理PC23の測定系PCとをそれぞれ独立したシステムとして、万が一システムに一部にトラブルが発生しても全体がダウンしないように配慮した。
【0026】
前記ポンプ・電磁弁制御PC21には、端子盤24およびI/Oボード25を介して電磁弁20a,20bへの制御ケーブル26と、ジャンクションボックス27およびD/Aボード28を介してインバータ制御盤16への制御ケーブル29が接続される。
【0027】
流量データ処理PC22には、ジャンクションボックス27およびD/Aボード28を介して電磁流量計19への信号ケーブル29が接続される。
【0028】
水位データ処理PC23には、測定器30を介して間隙水圧計17のネットワークモジュール31への中継ケーブル32および水路への放流での水位計のネットワークモジュール31への中継ケーブル33が接続される。
【0029】
図中34はポンプ・電磁弁制御PC21に接続され、トラブル発生時に担当者に自動通報する電話機である。
【0030】
図2に示すように、ディープウェル13での井戸内水位と水位観測孔14での観測井水位を常時監視し、設定された管理水位値に若干の変動が生じた時にはインバータ制御盤16によりポンプ15の回転数を制御し、揚水流量を調整して水位を管理する。
【0031】
各PCの制御及び指示命令は下記の通りである。
(1) ポンプ・電磁弁制御PC21
水位データ処理PC23から送信された設定流量と現状測定流量の差分流量をなくすように、ポンプ・電磁弁制御PC21では各井戸の流量を増減させるインバータ制御命令を送る。
(2) 流量データ処理PC22
流量計から送信された各井戸流量を水位データ処理PC23に送信する。
(3) 水位データ処理PC23
水位データ処理PC23には下記の3つの機能を持たせる。
1) 水位データおよび流量データ処理機能
ディープウェルと観測井戸の水位データ測定器からを受け取る。
流量データ処理PC22から各井戸流量データを受け取る。
2)現状解析
手動操作による命令を受け、現状の水位・流量データから、透水係数と影響圏半径の適値を計算する。
3)各井戸必要揚水流量の計算
手動操作により入力された必要水位低下量に対応した各井戸揚水流量の計算および結果の確認・補正を行い、流量データをポンプ・電磁弁制御PC21へ送信する。
(4)異常時に警報を発令し、ポンプ、の緊急停止あるいは休止井戸の再稼動命令を送信する。
【0032】
このようにディープウェル13内(水位観測孔14内)水位をタイムリーに把握して適正に制御することで、過剰な揚水及び水位低下を防止することにより、下水道使用料金の削減が実現できる。
【0033】
特に、従来工法では、ポンプの運転をフロートにて管理するため、フロートの運転および停止レベルを設定することになり、また、ポンプ運転停止のタイムラグを考慮しなければならないため余剰揚水が必要となるが、本発明ではこのような余剰揚水が必要ないため、揚水量の低減が可能となる。
【0034】
揚水量低減効果の算定を示すと概略では下記のごとくになる。

【0035】
また、その他に電力量の削減・周辺地域への影響の軽減・ディープウェル13の停止等による緊急時の安全対策にも効果がある。
【0036】
水位データ処理PC23では、各ディープウェル13の揚水能力の把握、水理定数の把握(地盤の透水係数・影響圏半径)、周辺への影響範囲の把握・表示を行うために図3に示すような水位低下影響範囲平面コンタ図や図4に示す水位低下影響範囲断面図(3D)をパソコンモニターに表示する。
【0037】
これにより、水位低下量変更時の揚水流量の予測を行い、また、揚水井戸能力の低下を検知し自動的に付近井戸の揚水流量を増加させる。または、停止しているディープウェル13を自動的に運転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の地下水位低下工法の1実施形態を示す説明図である。
【図2】本発明の地下水位低下工法の1実施形態を示すフロー図である。
【図3】水位データ処理PCでの出力例を示す水位低下影響範囲平面コンタ図である。
【図4】水位データ処理PCでの出力例を示す水位低下影響範囲断面図である。
【図5】従来例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0039】
1 揚水井 2 水中ポンプ
3 水中ポンプ起動盤 4 集水槽
5 観測井 6 間隙水圧計
7 フロートレススイッチ 8 パーソナルコンピュータ
9 受電設備 10 自動切換装置
11 非常用電源 12 バックアップ電源
13 ディープウェル 14 水位観測孔
15 ポンプ 16 インバータ制御盤
17 間隙水圧計 18 配管
19 電磁流量計 20a,20b 電磁弁
21 ポンプ・電磁弁制御PC 22 流量データ処理PC
23 水位データ処理PC 24 端子盤
25 I/Oボード 26 制御ケーブル
27 ジャンクションボックス 28 D/Aボード
29 制御ケーブル 30 測定器
31 ネットワークモジュール 32、33 中継ケーブル
34 電話機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揚水用のポンプをインバータ制御によるものとし、ディープウェルと水位観測孔を常時監視し、設定された管理水位値に若干の変動が生じた時にはインバータ制御盤によりポンプの回転数を制御し、揚水流量を調整して水位を管理することを特徴とする地下水位低下工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−239286(P2007−239286A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62219(P2006−62219)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(500518131)近畿基礎工事株式会社 (1)
【出願人】(000206196)大成基礎設計株式会社 (12)