説明

地中構造物の直下地盤の液状化対策設備並びに盛土の直下地盤の液状化対策設備及び工法

【課題】 地盤の液状化によって地中構造物の沈下・浮き上がりや盛土の崩壊を、過剰間隙水圧の消散効果と地盤補強効果によって、地盤の液状化で生じる土の回り込みを効果的に抑制して防止し、巨大地震時における対策地盤の安定性を十分確保することができる地中構造物の直下地盤、更に盛土の直下地盤の液状化対策設備を提供すること。
【解決手段】 地中構造物14の長手方向の側面近傍の地表側17から、又は盛土34の長手方向におけるのり尻39部分から、前記長手方向に沿って所定間隔毎に、排水部を有するドレーン管が地盤中に打設されていると共に、該ドレーン管は鉛直方向に打設された鉛直ドレーン管11と鉛直方向と一定角度をなす傾斜方向に打設された傾斜ドレーン管12とが対を成して構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の液状化による地中構造物の浮き上がりを防止する対策としての地中構造物の直下地盤の液状化対策設備及び工法、更に地盤の液状化による盛土の崩壊を防止する対策としての盛土の直下地盤の液状化対策設備及び工法に関する。
【背景技術】
【0002】
兵庫県南部地震を契機として、社会資本による耐震性の向上が強く求められている。下水道施設などの地中構造物の地震の被害は、地盤の液状化によるものが最も多いため、地盤の液状化による被害を軽減するための対策が求められている。
【0003】
また、兵庫県南部地震、新潟中越地震などの巨大地震において、盛土は、甚大な被害を受けた。震災調査報告書には、道路の崩壊箇所には盛土の部分が多数存在し、その崩壊箇所の周辺は、地下水位が高く、水分を多く含んだ状態であったと報告されている。これまでの盛土の設計は、復旧の容易性やコスト面から、耐震設計がなされていなかったが、盛土に対しても、緊急時の物資輸送や避難経路を確保する等の理由から、液状化対策を含む十分な耐震性を持たせることが重要であると考えられている。
【0004】
ここで、道路の補強に関する最重要課題は、最小限の費用で必要とされる機能を発揮する工法及び設備の選定である。道路の性質上、1箇所が崩壊していれば、他の箇所が崩壊していなかったとしても、緊急輸送の道路としての機能に大きな障害が生じるため、経路全体に少なくとも最小限の補強が必要だからである。これは鉄道においても同様である。従って、耐震強度が不足している盛土の耐震補強を簡易かつ安価に実施可能である工法及び設備が、地震の防災対策を推進する点で望まれる。
【0005】
一般に地盤の液状化現象とは、地震時に地盤の間隙水圧が上昇すると共に、地盤が剪断変形して地盤が流動化する現象を意味している。地下水で緩く飽和していた砂層等の地盤が地震動によって激しくゆらされた場合、砂の粒子のかみ合わせがはずれて砂の粒子が浮遊した液体状態となり、間隙水圧が上昇する(過剰間隙水圧)ことによって、砂や水が地表に噴出し、地表面が沈下して、種々の被害が発生する。
【0006】
地盤の液状化対策として、従来から様々な方法が提案されているが、これらの原理を大別すると、地盤が液状化しても構造物が安全なように設計する対策と、地盤の液状化の発生を防止する対策に分類される。前者の液状化しても構造物が安全なように設計する方法の代表例として、液状化の程度を考慮した杭基礎工法等が挙げられる。一方後者については、液状化の原理に基いていくつかの対策が提案されている。このうち、既設の地中構造物や盛土を対象とした場合の代表例としては、鋼矢板等で地盤を囲み、地震時あるいは液状化時の地盤のせん断変形を抑制する鋼矢板壁工法等が挙げられる。
【0007】
また、特許文献1には、構造物のフーチングに、その上面から下面に抜けるように設けた貫通孔と、この貫通孔からフーチングの直下地盤に挿入され、フーチングの直下地盤の液状化予測層からフーチングの上面に達するドレーンを形成する透水性の排水管とを備えたことを特徴とする構造物直下地盤の液状化対策装置が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2000−154551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、鋼矢板壁工法では、地震時に矢板に作用する土圧に対して矢板が健全であることが前提となるが、巨大地震にも対処し得る状態にすると、矢板の曲げ剛性及び支持地盤への貫入長が大きくなるため、経済性が損なわれてしまう問題がある。また、路面下の地中構造物を対象とした場合においては、鋼矢板壁工法では、地上部まで鋼矢板が残置するため、この撤去作業に多くの時間とコストがかかり、交通規制による渋滞を引き起こすという問題がある。
【0010】
また、鋼矢板壁工法の浮き上がり量は、矢板内での回り込みによる浮き上がり量と矢板たわみによる浮き上がり量の和で予測されるため、構造物との離隔と矢板の剛性が対策効果の決め手となるが、地中構造物の場合には、通常マンホール、枝管等があり、所々で矢板壁の欠損箇所が生じるため、対策効果が十分発揮されないことも生じ得る問題がある。
【0011】
また、自立式の鋼矢板壁工法は、施工が容易で経済的な工法であるが、矢板壁が自立式となるため、巨大地震に対しては、矢板の曲げ剛性および支持地盤への貫入長を大きくする必要が生じることから、経済性が損なわれる場合がある。また、鋼矢板壁を補強するためにタイロッドを併用する工法では、自立式の鋼矢板壁工法に比べ、矢板の曲げ剛性および支持地盤への貫入長を小さくすることができるが、既設盛土ののり尻を水平方向に貫通させるため、施工性に課題が残る。さらに、いずれの場合も盛土のせん断変形による沈下の被害を抑えることはできない問題がある。
【0012】
一方、特許文献1に記載された発明においては、地盤の液状化によって地盤が流動することによる地中構造物の沈下・浮き上がりの問題について、更に地盤液状化による盛土の崩壊の問題については全く考慮されていない。
【0013】
本発明の目的は、地盤の液状化によって地盤が流動することによる地中構造物の沈下・浮き上がりや盛土の崩壊を、過剰間隙水圧の消散効果と地盤補強効果によって、地盤の液状化で生じる土の回り込みを効果的に抑制して防止し、巨大地震時における対策地盤の安定性を十分確保することができると共に、施工の効率化及び建設費の低減に寄与する地中構造物の直下地盤の液状化対策設備及び工法、更に盛土の直下地盤の液状化対策設備及び工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様に係る地中構造物の直下地盤の液状化対策設備は、地中構造物の長手方向の側面近傍の地表側から、前記長手方向に沿って所定間隔毎に、排水部を有するドレーン管が地盤中に打設されていると共に、該ドレーン管は鉛直方向に打設された鉛直ドレーン管と鉛直方向と一定角度をなす傾斜方向に打設された傾斜ドレーン管とが対を成して構成されていることを特徴とするものである。
【0015】
共同溝、下水道管、専用配線管等のライフライン等の構造物を地中に設置する場合、地中にはこれら地中構造物を確実に固定する手段がなく、孤立した状態となる。地盤が流動しなければ、地中構造物の移動は起こりえないが、巨大地震による地盤の液状化によって地中に存在する土の移動が起こると、この土の移動に起因して、地中構造物の浮き上がりや沈下が発生する。
【0016】
本発明によれば、地中構造物の長手方向の側面近傍の地表側から、排水部を有する鉛直ドレーン管と傾斜ドレーン管が対を成して地盤中に打設されているため、鉛直ドレーン管と傾斜ドレーン管とで挟まれた(囲まれた)領域は、最も水が排出されやすくなることから、最も液状化が起こりにくい部分となる。巨大地震の際には、この領域が液状化されずに一種の壁となって存在し続け、この壁の両側(周囲)の液状化した土の流れを阻止する働きをする。
すなわち、ドレーン管の過剰間隙水圧の消散作用に基づく前記壁の働きと、更に該ドレーン管自体の地盤補強効果によって、液状化地盤が地中構造物の下側へ回り込むことを効果的に防止し、以て地中構造物の浮き上がりや沈下を防止し、巨大地震時における対策地盤の安定性を十分確保することができるようになる。
【0017】
また、本発明によれば、従来の鋼矢板工法では大型の施工機械が必要となり、近接施工も困難な場合が多いが、鋼矢板を用いずに、ドレーン管を用いるため、小型機械での施工及び近接施工が可能となるだけでなく、低振動、低騒音となり、周辺環境への影響が少なく、民家等が近い箇所でも施工することが可能となる。さらに、局限的な適用性も高くなることから、施工の効率化及び建設費の低減に寄与するのに加え、マンホール、枝管等により、矢板壁の場合には欠損箇所が生じる場所であっても、過剰間隙水圧の消散効果を簡易かつ経済的に得ることができるようになる。さらに、従来工法では困難である路面から下2.5m以内の撤去作業も当該ドレーン管を用いたことにより容易であるため、将来の他の工事計画などに支障が生じない。
【0018】
本発明の第2の態様に係る地中構造物の直下地盤の液状化対策設備の発明は、第1の態様において、前記鉛直ドレーン管と前記傾斜ドレーン管とが交互に千鳥状に配列されていることを特徴とするものである。
本発明によれば、第1の態様による作用効果に加えて、鉛直ドレーン管と傾斜ドレーン管が交互に千鳥状に配列されているため、前記液状化しない壁を効率的に形成することができ、以て一層効果的に液状化地盤の地中構造物下方への回り込みが抑制されるようになる。
【0019】
本発明の第3の態様に係る地中構造物の直下地盤の液状化対策設備の発明は、第1又は第2の態様において、前記ドレーン管は、その先端に位置する打込みヘッドの先端付近が平面視で菱形形状に形成されていることを特徴とするものである。
本発明によれば、第1又は第2の態様による作用効果に加えて、ドレーン管の打込みヘッドの先端付近が平面視で菱形形状に形成されているため、引き抜き抵抗力による地盤補強効果がより強固となる。
【0020】
本発明の第4の態様に係る地中構造物の直下地盤の液状化対策設備の発明は、第1から第3のいずれかの態様において、前記ドレーン管には、前記ドレーン管を補強する補強材を備えていることを特徴とする。
本発明によれば、第1から第3のいずれかの態様による作用効果に加えて、ドレーン管は補強材により補強されているため、巨大地震においても地盤補強効果が確実に発揮され、液状化地盤の回り込みも一層抑制されるようになる。
【0021】
本発明の第5の態様に係る盛土の直下地盤の液状化対策工法の発明は、地中構造物の長手方向の側面近傍の地表側から、前記長手方向に沿って所定間隔毎に、排水部を有するドレーン管を地盤中に打設すると共に、該ドレーン管は鉛直方向に打設する鉛直ドレーン管と鉛直方向と一定角度をなす傾斜方向に打設する傾斜ドレーン管とが対を成すように構成することを特徴とするものである。
本発明に係る工法によれば、第1の態様と同様の作用効果を得ることができる。
【0022】
本発明の第6の態様に係る盛土の直下地盤の液状化対策設備の発明は、盛土の長手方向におけるのり尻部分から、前記長手方向に沿って所定間隔毎に、排水部を有するドレーン管が地盤中に打設されていると共に、該ドレーン管は鉛直方向に打設された鉛直ドレーン管と鉛直方向と一定角度をなす傾斜方向に打設された傾斜ドレーン管とが対を成して構成されていることを特徴とするものである。
【0023】
本発明によれば、盛土ののり尻部分から、排水部を有する鉛直ドレーン管と傾斜ドレーン管が対を成して地盤中に打設されているため、鉛直ドレーン管と傾斜ドレーンとで挟まれた(囲まれた)領域は、最も水が排出されやすくなることから、最も液状化が起こりにくい部分となる。巨大地震の際には、この領域が液状化されずに一種の壁となって存在し続け、この壁の両側(周囲)の液状化した土の流れを阻止する働きをする。
【0024】
すなわち、ドレーン管の過剰間隙水圧の消散作用に基づく前記壁の働きと、更に該ドレーン管自体の地盤補強効果によってのり尻がしっかり抑えられて、のり尻の崩落が抑制される。従って、地盤の液状化による盛土の崩壊が効果的に防止され、巨大地震時における対策地盤の安定性を十分確保することができるようになる。このように本発明によれば、従来の盛土のみ又は液状化対策のみを対象とした場合と異なって、地盤の液状化対策と盛土の安定化を同時に行うことができる。
【0025】
また、本発明によれば、鋼矢板の代わりに、ドレーン管を用いるため、小型機械での施工及び近接施工が可能となり、盛土近傍に厳しい用地制限がある場合であっても、のり面上での小型機械の施工が可能となって、用地制限内での施工が可能となることに加え、低振動、低騒音となり、周辺環境への影響が少なく、民家等が近い箇所でも施工することができる。
【0026】
さらに、局限的な適用性が高く、盛土の軸方向に直交するボックスカルバート、管渠等の近傍や橋台背面、切盛境等の路面沈下の生じやすく段差が問題となる箇所に、限定して適用することもできることから、施工の効率化及び建設費の低減に寄与する。さらに、従来工法では困難である路面から下2.5m以内の撤去作業も容易であるため、将来の計画などに支障が生じない。
【0027】
本発明の第7の態様に係る盛土の直下地盤の液状化対策設備の発明は、第6の態様において、前記鉛直ドレーン管と前記傾斜ドレーン管とが交互に千鳥状に配列されていることを特徴とするものである。
本発明によれば、第6の態様による作用効果に加えて、鉛直ドレーン管と傾斜ドレーン管が交互に千鳥状に配列されているため、前記液状化しない壁を効率的に形成することができ、以て一層効果的に盛土の崩落が防止されるようになる。
【0028】
本発明の第8の態様に係る盛土の直下地盤の液状化対策設備の発明は、第6又は第7の態様において、前記ドレーン管は、その先端に位置する打込みヘッドの先端付近が平面視で菱形形状に形成されていることを特徴とするものである。
本発明によれば、第6又は第7の態様による作用効果に加えて、ドレーン管の打込みヘッドの先端付近が平面視で菱形形状に形成されているため、引き抜き抵抗力による地盤補強効果がより強固となる。
【0029】
本発明の第9の態様に係る盛土の直下地盤の液状化対策設備の発明は、第6から第8のいずれかの態様において、前記ドレーン管には、前記ドレーン管を補強する補強材を備えていることを特徴とする。
本発明によれば、第6から第8のいずれかの態様による作用効果に加えて、ドレーン管は補強材により補強されているため、巨大地震においても地盤補強効果が確実に発揮され、地盤の回り込みも一層抑制されて、盛土本体がさらに安定する。
【0030】
本発明の第10の態様に係る盛土の直下地盤の液状化対策工法の発明は、盛土の長手方向におけるのり尻部分から、前記長手方向に沿って所定間隔毎に、排水部を有するドレーン管を地盤中に打設すると共に、該ドレーン管は鉛直方向に打設された鉛直ドレーン管と鉛直方向と一定角度をなす傾斜方向に打設された傾斜ドレーン管とが対を成すように構成することを特徴とするものである。
本発明に係る工法によれば、第6の態様と同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の地中構造物の直下地盤の液状化対策設備または工法によれば、地中構造物の長手方向の側面近傍の地表側から、排水部を有する鉛直ドレーン管と傾斜ドレーン管が対を成して地盤中に打設されているため、鉛直ドレーン管と傾斜ドレーン管とで挟まれた(囲まれた)領域は、最も水が排出されやすくなることから、最も液状化が起こりにくい部分となる。巨大地震の際には、この領域が液状化されずに一種の壁となって存在し続け、この壁の両側(周囲)の液状化した土の流れを阻止する働きをする。すなわち、ドレーン管の過剰間隙水圧の消散作用に基づく前記壁の働きと、更に該ドレーン管自体の地盤補強効果によって、液状化地盤が地中構造物の下側へ回り込むことを効果的に防止し、以て地中構造物の浮き上がりや沈下を防止し、巨大地震時における対策地盤の安定性を十分確保することができるようになる。
【0032】
本発明の盛土の直下地盤の液状化対策設備または工法によれば、盛土ののり尻部分から、排水部を有する鉛直ドレーン管と傾斜ドレーン管が対を成して地盤中に打設されているため、鉛直ドレーン管と傾斜ドレーンとで挟まれた(囲まれた)領域は、最も水が排出されやすくなることから、最も液状化が起こりにくい部分となる。巨大地震の際には、この領域が液状化されずに一種の壁となって存在し続け、この壁の両側(周囲)の液状化した土の流れを阻止する働きをする。すなわち、ドレーン管の過剰間隙水圧の消散作用に基づく前記壁の働きと、更に該ドレーン管自体の地盤補強効果によってのり尻がしっかり抑えられて、のり尻の崩落が防止される。従って、地盤の液状化による盛土の崩壊が効果的に防止され、巨大地震時における対策地盤の安定性を十分確保することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。まず、本発明の地中構造物の直下地盤の液状化対策設備の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の地中構造物の直下地盤の液状化対策設備の一実施形態を示す縦断面図である。図2は、図1と同じ液状化対策設備の平面図である。図3は、本発明に用いられるドレーン管の一例を示す概略図である。図4は、本発明に用いられるドレーン管における排水部としてのスクリーン管の他の一例を示す両端の一部を断面で示した平面図(a)とA−A線断面図である。図5は、本発明に用いられるドレーン管における排水部としてのスクリーン管の更に他の一例を示す両端の一部を断面で示した平面図(a)とB−B線断面図である。図6は、本発明に用いられるドレーン管における排水部としてのスクリーン管の更に他の一例を示す両端の一部を断面で示した平面図(a)とC−C線断面図である。である。
【0034】
図1に示すように、地中構造物の直下地盤の液状化対策設備10は、地盤における透水層15に配設されている地中構造物14の長手方向の側面近傍の地表側17に溝9を設け、該溝9の底部から、所定間隔毎に、鉛直ドレーン管11と地中構造物14の外側下方に傾斜した傾斜ドレーン管12が、図2に示したように交互に千鳥状に打設されている。鉛直ドレーン管11と傾斜ドレーン管12は透水層15内で交差する位置関係で配設されているが、最上部が大きく離間せず略同じ位置にあれば両ドレーン11と12は必ずしも交差していなくてもよい しかし、図1のように両ドレーン11と12を交差構造に配置するのが好ましい。
ここで、鉛直ドレーン管11と傾斜ドレーン管12とを対を成して打設するのは、同じ本数のドレーン管を鉛直方向のみ打設した場合に比べ、地盤の液状化が生じた際に、地盤の流動を機械的に抑制するに際して、より効果的だからである。
【0035】
鉛直ドレーン管11は真に鉛直である必要は無く、ほぼ鉛直であれば足りる。本実施の形態では、傾斜ドレーン12の傾きは鉛直方向に対して5〜60度、望ましくは30〜45度であり、各ドレーン管11と12の隣り合う間隔は、500〜1500mmである。鉛直ドレーン管11及び傾斜ドレーン管12は、その先端(下端)が透水層15を貫通して不透水層16に到達するように設けられている。各ドレーン管11,12を地盤中に打設した後は、前記溝9に砕石13が敷設されて排水路6が形成される。
【0036】
鉛直ドレーン管11及び傾斜ドレーン管12は、図3(a)に示すように、先端に打込みヘッド21が設けられ、打込みヘッド21の後方に螺旋状の溝穴22cを有する排水部としてのスクリーン管22が設けられ、スクリーン管22の後方に無孔鋼管の開口端23が設けられた構造となっている。打込みヘッド21の先端付近は、本実施の形態では平面視で菱形形状部21aとなっており、この形状に基づく引き抜き抵抗力による地盤補強効果がより増大した状態となっている。尚、引き抜き抵抗力を高める形状は、上記菱形に限定されず、銛形状等の他の形状でもよい。排水部としてのスクリーン管22は、図3(b)に示すように、円形を成すように複数本が配列された円形断面の芯材22bの外周に、断面三角形の線材22aが頂部を内側にして螺旋状に巻かれて一体化された構成となっている。線材22aは、螺旋状に巻かれて隣り合う線材間に溝穴22cが形成されている。スクリーン管22の内径は、50〜150mmである。
【0037】
スクリーン管22としては、図4(a)(b)に示すように、芯材22bが円形では無く頂部を有する形状であり、線材22aが断面円形のものであってもよい。また、図5(a)(b)に示すように、芯材22bの内側にストレーナ処理された有孔管22fが補強材として配置されていてもよく、図6(a)(b)に示すように、芯材22bの内側に十字形鋼22hが補強材として配置されていてもよい。スクリーン管22の両端部には、雌ねじ22dと雄ねじ22eが切られ、有効管又は十字形鋼と溶接により接合されている。無孔鋼管の開口端23は、スクリーン管22とねじで接合されている関係上、容易に分離可能であるため、従来工法では困難である路面から下2.5m以内の撤去作業も容易であり、将来の計画などに支障が生じないようになっている。
【0038】
ドレーン管20は、図3(a)に示すように、打込みヘッド21が不透水層16に配置され、排水部としてのスクリーン管22が透水層15及び排水路6としての砕石13の層に配置され、開口端23が埋戻し部27に配置される。
【0039】
次に、上記実施の形態の作用を説明する。本実施の形態によれば、地中構造物14の長手方向の側面近傍の地表側17から、排水部(22)を有する鉛直ドレーン管11と傾斜ドレーン管12が対を成して地盤中に打設されているため、鉛直ドレーン管11と傾斜ドレーン管12とで挟まれた(囲まれた)領域8は、最も水が排出されやすくなることから、最も液状化が起こりにくい部分となる。巨大地震の際には、この領域8が液状化されずに一種の壁7となって存在し続け、この壁7の両側(周囲)の液状化した土の流れを阻止する働きをする。
【0040】
すなわち、ドレーン管11,12の過剰間隙水圧の消散作用に基づく前記壁7の働きと、更に該ドレーン管11,12自体の地盤補強効果によって、液状化地盤が地中構造物14の下側へ回り込むことを効果的に防止し、以て地中構造物14の浮き上がりや沈下を防止し、巨大地震時における対策地盤の安定性を十分確保することができるようになる。
【0041】
更に具体的に説明すると、各ドレーン管11,12におけるスクリーン管22の周囲に存在する水は、液状化層となる透水層15に接するスクリーン管22の螺旋状の溝穴22cからドレーン管20の中に浸入する。ドレーン管20に浸入した水は、ドレーン管20の内部を通過して、排水路6としての砕石13の層に接するスクリーン管22の螺旋状の溝穴22cから溢れ出て、排水路6から排出される。それ故、スクリーン管22で挟まれた領域8は、最も水が排出されやすくなるため、最も液状化が起こりにくい部分となり、この領域8が液状化されずに一種の壁7となって、巨大地震の際に、矢示18で示した方向の液状化した土が流れることを阻止する。
【0042】
すなわち本実施の形態では、両ドレーン管11,12自体と、これら鉛直ドレーン管11と傾斜ドレーン管12の間に挟まれた液状化されにくい地盤とによって強固な壁7が形成されていると言うことになる。これにより、該壁7が液状化地盤の流動を阻止し、地盤の液状化により地中構造物14が沈下したり浮き上がるのを効果的に防止する。
【0043】
なお、本発明の地中構造物の直下地盤の液状化対策設備は、共同溝、下水道管、専用配線管等のライフライン等に適用可能であるが、局限的な適用性が高いため、例えば、下水道施設、水道施設、下水処理場施設、浄水場などにも有効である。
【0044】
次に、本発明の盛土の直下地盤の液状化対策設備の一実施形態について説明する。上述した地中構造物の直下地盤の液状化対策設備の実施形態と同様の構成部分については同一符合を付してその説明は省略する。図7は、本発明の盛土の直下地盤の液状化対策設備の一実施形態を示す縦断面図である。図8は、図7と同じ液状化対策設備の平面図である。図9は、本発明の盛土の直下地盤の液状化対策設備の他の一実施形態を示す正面図である。
【0045】
図7に示すように、盛土の直下地盤の液状化対策設備30は、盛土34の長手方向におけるのり尻39部分から、長手方向に沿って所定間隔毎に、鉛直ドレーン管11と盛土34の内側に傾斜した傾斜ドレーン管12とが、交互に千鳥状に打設されている(図8)。鉛直ドレーン管11と傾斜ドレーン管12とで挟まれた(囲まれた)領域8は、最も水が排出されやすくなることから、最も液状化が起こりにくい部分となる。巨大地震の際には、この領域8が液状化されずに一種の壁7となって存在し続け、この壁7の両側(周囲)の液状化した土の流れを阻止する働きをする。両ドレーン管11,12を地盤中に打設した後は、排水路6としての砕石13が敷設され、掘削土等で地表面まで埋め戻される(埋戻し部、不図示)。
【0046】
次に作用を説明する。盛土34ののり尻39近傍から、排水部(22)を有する鉛直ドレーン管11と傾斜ドレーン管12が対を成して地盤中に打設されているため、鉛直ドレーン管11と傾斜ドレーン12とで挟まれた(囲まれた)領域8は、最も水が排出されやすくなることから、最も液状化が起こりにくい部分となる。巨大地震の際には、この領域8が液状化されずに一種の壁7となって存在し続け、この壁7の両側(周囲)の液状化した土の流れを阻止する働きをする。すなわち、各ドレーン管11,12の過剰間隙水圧の消散作用に基づく前記壁7の働きと、更に該ドレーン管11,12自体の地盤補強効果によってのり尻39がしっかり抑えられて、のり尻39の崩落が防止される。従って、地盤の液状化による盛土34の崩壊が効果的に防止され、巨大地震時における対策地盤の安定性を十分確保することができるようになる。
【0047】
なお、本発明の盛土の直下地盤の液状化対策設備は、局限的な適用性が高く、図9に示すように、盛土34の長手(軸)方向に直交するボックスカルバート38、管渠等の近傍や橋台背面、切盛境等の路面沈下の生じやすく段差が問題となる箇所に、限定して適用することもできる。
【0048】
本発明は上記実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本願発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の地中構造物の直下地盤の液状化対策設備の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1と同じ液状化対策設備の平面図である。
【図3】本発明に用いられるドレーン管の一例を示す図であり、(a)はドレーン管を打設した後の側面図、(b)はドレーン管の排水部としてのスクリーン管の一部切欠の要部拡大斜視図を示す。
【図4】本発明に用いられるドレーン管における排水部としてのスクリーン管の他の一例を示す図であり、(a)は両端の一部を断面で示した平面図、(b)はA−A断面の断面図を示す。
【図5】本発明に用いられるドレーン管における排水部としてのスクリーン管の更に他の一例を示す図であり、(a)は両端の一部を断面で示した平面図、(b)はB−B断面の断面図を示す。
【図6】本発明に用いられるドレーン管における排水部としてのスクリーン管の更に他の一例を示す図であり、(a)は両端の一部を断面で示した平面図、(b)は、C−C断面の断面図を示す。
【図7】本発明の盛土の直下地盤の液状化対策設備の一実施形態を示す縦断面図である。
【図8】図7と同じ液状化対策設備の平面図である。
【図9】本発明の盛土の直下地盤の液状化対策設備の他の一実施形態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0050】
6 排水路、7 壁、8 液状化されにくい領域、10 地中構造物の液状化対策設備、11 鉛直ドレーン管、12 傾斜ドレーン管、13 砕石、14 地中構造物、
15 透水層、16 不透水層、17 地表側、21 打込みヘッド、21a 銛形状部22 スクリーン管、22a 線材、22b 芯材、22c 溝穴、22d 雌ねじ、
22e 雄ねじ、22f 有孔管、22h 十字形鋼、23 開口端、27 埋戻し部、
30 盛土の液状化対策設備、34 盛土、38 ボックスカルバート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中構造物の長手方向の側面近傍の地表側から、前記長手方向に沿って所定間隔毎に、排水部を有するドレーン管が地盤中に打設されていると共に、該ドレーン管は鉛直方向に打設された鉛直ドレーン管と鉛直方向と一定角度をなす傾斜方向に打設された傾斜ドレーン管とが対を成して構成されていることを特徴とする地中構造物の直下地盤の液状化対策設備。
【請求項2】
請求項1において、前記鉛直ドレーン管と前記傾斜ドレーン管とが交互に千鳥状に配列されていることを特徴とする地中構造物の直下地盤の液状化対策設備。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記ドレーン管は、その先端に位置する打込みヘッドの先端付近が平面視で菱形形状に形成されていることを特徴とする地中構造物の直下地盤の液状化対策設備。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項において、前記ドレーン管には、前記ドレーン管を補強する補強材が設けられていることを特徴とする地中構造物の直下地盤の液状化対策設備。
【請求項5】
地中構造物の長手方向の側面近傍の地表側から、前記長手方向に沿って所定間隔毎に、排水部を有するドレーン管を地盤中に打設すると共に、該ドレーン管は鉛直方向に打設する鉛直ドレーン管と鉛直方向と一定角度をなす傾斜方向に打設する傾斜ドレーン管とが対を成すように構成することを特徴とする地中構造物の直下地盤の液状化対策工法。
【請求項6】
盛土の長手方向におけるのり尻部分から、前記長手方向に沿って所定間隔毎に、排水部を有するドレーン管が地盤中に打設されていると共に、該ドレーン管は鉛直方向に打設された鉛直ドレーン管と鉛直方向と一定角度をなす傾斜方向に打設された傾斜ドレーン管とが対を成して構成されていることを特徴とする地中構造物の直下地盤の液状化対策設備。
【請求項7】
請求項6において、前記鉛直ドレーン管と前記傾斜ドレーン管とが交互に千鳥状に配列されていることを特徴とする地中構造物の直下地盤の液状化対策設備。
【請求項8】
請求項6又は7において、前記ドレーン管は、その先端に位置する打込みヘッドの先端付近が平面視で菱形形状に形成されていることを特徴とする地中構造物の直下地盤の液状化対策設備。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか1項において、前記ドレーン管には、前記ドレーン管を補強する補強材が設けられていることを特徴とする地中構造物の直下地盤の液状化対策設備。
【請求項10】
盛土の長手方向におけるのり尻部分から、前記長手方向に沿って所定間隔毎に、排水部を有するドレーン管を地盤中に打設すると共に、該ドレーン管は鉛直方向に打設された鉛直ドレーン管と鉛直方向と一定角度をなす傾斜方向に打設された傾斜ドレーン管とが対を成すように構成することを特徴とする地中構造物の直下地盤の液状化対策工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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