説明

地山の補強方法

【課題】 長尺鋼管を精度よく打設するとともに、地山を確実に補強することのできる方法を提供する。
【解決手段】 長尺鋼管12の打設に先行して、上記長尺鋼管12の径よりも径が大きな、塩化ビニル管などの樹脂製のガイド管11を地山50の切羽面に打ち込んだ後、このガイド管11の中に長尺鋼管12を挿入して、切羽前方の地山50を削孔しながら、上記長尺鋼管12を地山50内に打ち込み、更に、長尺鋼管12の後端部に押し切り削孔用のダミー管16を接続し、上記長尺鋼管12の後端部を上記ガイド管11の先端部近傍にくるまで打設するとともに、地盤固化剤の注入前に、上記長尺鋼管12内に注入用のダブルパッカー30を挿入して地盤固化剤を注入し、上記長尺鋼管12とガイド管11との隙間に地盤固化剤を注入して長尺鋼管12とガイド管11との隙間を予め塞いた後、周囲の地山50を補強するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル掘削に先立って切羽前方の地山に複数の長尺鋼管を打設して、この鋼管から注入材を地山に注入して地山を補強する地山の補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、軟弱な地盤にトンネルを掘進する際には、トンネル掘削に先立って切羽前方の地山を補強する地山先受工が行われている。地山先受工の一例としては注入式長尺先受工法がある。この工法は、図7(a)に示すように、切羽前方の地山50に、トンネル掘削に一般に使用されるドリルジャンボ等の掘削機60を用い、支保工51の背面から5度程度の仰角を付けて複数の鋼管52を接続しながら打ち込み、この鋼管52内に図示しない注入管を挿入して上記地山50内に地盤固化剤を注入し、上記地山50を補強するもので、図7(b)に示すように、上記長尺の鋼管53を、切羽天端部に沿って必要な補強の範囲(例えば、仰角θが120度である範囲)に打設した後、上記鋼管53内に充填材を充填して補強する。
上記長尺の鋼管53を打設する際には、図8(a)に示すように、上記鋼管52内に、先端部に削孔用の拡径ビット13aを備えた削孔ロッド13を挿入し、この削孔ロッド13の他端側を上記掘削機60のガイドセル62に搭載された削岩機61に接続し、上記地山50を削孔しながら上記鋼管52を上記地山50内へ挿入する。このとき、上記鋼管52としては、3m程度の長さのものを順次継ぎ足して長尺の鋼管53を打設する。また、支保工51を延長して構築するためには、上記鋼管52の上記支保工51から下の部分を撤去する必要があることから、撤去作業を容易にするため、図8(b)に示すように、長尺の鋼管53の最後端部の管54を、鋼管52に代えて、塩化ビニル管などの破砕し易い樹脂製の管としている(例えば、特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開2000−186490号公報
【特許文献2】特開2003−155888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の注入式長尺先受工法では、複数本の鋼管52を継ぎ足して長尺の鋼管53としているため、所望の打設角度が得られないなど、長尺の鋼管53を精度よく打設することが困難であるだけでなく、鋼管52,52の接続作業に時間と手間がかかるので、作業効率が悪いといった問題点があった。
そこで、長尺の鋼管を打設する際に、上記長尺鋼管よりも径の大きなガイド管を予め地山内へ打設して上記長尺鋼管の推進をガイドしながら打設した後、上記長尺鋼管の後端部にダミー管を接続して上記長尺鋼管を上記鋼管の後端部が上記ガイド管の先端部近傍まで挿入するするようにすれば、上記長尺鋼管を精度よく打設することが可能と考えられるが、上記長尺鋼管とガイド管の間には隙間があるため、上記隙間から土砂や水が浸入したり、地山に注入した地盤固化材が洩れてきたりする恐れがあるため、地山を十分に補強できないといった問題点がある。
【0004】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、長尺鋼管を精度よく打設するとともに、地山を確実に補強することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の請求項1に記載の発明は、切羽前方の地山に打設されたガイド管内に長尺鋼管を挿入して上記地山を削孔しながら上記長尺鋼管を地山内に打設し、更に、上記長尺鋼管の後端部にダミー管を接続して上記長尺鋼管を上記鋼管の後端部が上記ガイド管内の所定の位置にくるまで上記鋼管を上記ガイド管内に挿入した後、上記鋼管の内部から周囲の地山に地盤固化剤を注入して上記地山を補強する地山の補強方法において、上記地盤固化剤の注入前に、上記長尺鋼管と上記ダミー管との接続部に注入用のダブルパッカーを挿入し、上記鋼管と上記ダミー管との接続部に地盤固化剤を注入するようにしたことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の地山の補強方法において、上記ガイド管を樹脂製の管としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ガイド管を用いて長尺鋼管を地山内に打設し、更に、上記長尺鋼管の後端部にダミー管を接続して上記長尺鋼管を上記鋼管の後端部が上記ガイド管内の所定の位置にくるまで上記鋼管を上記ガイド管内に挿入した後、上記鋼管の内部から周囲の地山に地盤固化剤を注入して上記地山を補強する際、上記地盤固化剤の注入前に、上記長尺鋼管と上記ダミー管との接続部に注入用のダブルパッカーを挿入し、上記鋼管と上記ダミー管との接続部に地盤固化剤を注入するようにしたので、長尺鋼管を精度よく打設することができるとともに、長尺鋼管とガイド管との隙間を予め塞ぐことができるので、ダミー管を回収した後の長尺鋼管とガイド管との隙間から土砂や水の浸入を防ぐことができるとともに、地山に注入した地盤固化材の洩もなくすことができるので、上記地盤を確実に補強することができる。
また、上記ガイド管を樹脂製の管としておけば、これを支保工構築時に撤去する最後端部の管として利用できるので、作業効率を更に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の最良の形態について説明する。
図1(a)〜(e)は、本発明の最良の形態に係る長尺先受工法の作業手順の概要を示す模式図で、本例では、まず、図1(a)に示すように、長尺鋼管12の打設に先行して、上記長尺鋼管12の径よりも径が大きく、長さが3m程度の、通常使用される鋼管と同じ長さのガイド管11を地山50の切羽面に最も近い位置の支保工51の背面から5度程度の仰角を付けて打ち込み、このガイド管11をガイドとして長尺鋼管12を打設する。このとき、上記ガイド管11が地山50の既に打設された長尺鋼管12により補強されていない部分に露出しないように、上記ガイド管11を、ガイド管11全体が、既に打設された長尺鋼管12の下側(支保工51側)に位置するような箇所に打込むことが好ましい。
本例では、上記ガイド管11として塩化ビニル管などの樹脂製の管を用いている。そして、図2(a)に示すように、通常使用される鋼管(以下、普通鋼管という)52の外側に上記ガイド管11を被せ、上記普通鋼管52内に、先端部に削孔用の拡径ビット13aを備え、基端部13bが、カップリング14を介して、削孔装置20の削岩機21の出力軸21aに接続される削孔ロッド13を挿入するとともに、上記削岩機21をガイドセル22に沿って前進させ、切羽前方の地山50を削孔しながら上記普通鋼管52を推進する。このとき、削岩機21の打撃が直接上記ガイド管11に伝わらないように、防震装置付きのズレ止め金具15を取付けておくことが好ましい。
上記ガイド管11の打設完了後には、上記ズレ止め金具15を取外して上記普通鋼管52を回収するとともに、上記拡径ビット13aの径を縮小して、上記削孔ロッド13を回収する。これにより、切羽前方の地山50に樹脂製のガイド管11を打設することができる。なお、ガイド管11の打設後には、上記ガイド管11の引き抜け防止用のため、吹付けコンクリートにより口元コーキングを行う。
次に、図1(b)に示すように、上記ガイド管11の中に長さ9m(図では、長さを短くしてある)の長尺鋼管12を挿入する。具体的には、図2(b),(c)に示すように、削孔装置20の削岩機21を搭載してスライドさせるガイドセル22に、上記長尺鋼管12を把持する把持部23n,24nと、ガイドセル22に取付けられ、上記把持部23n,24nとガイドセル22との距離を伸縮させる昇降手段23m,24mとを備えたスライドセントライザー23,24を、上記ガイドセル22に沿って移動可能に取付けるとともに、削岩機21の上面にも保持部材25を設置して、上記スライドセントライザー23,24と上記保持部材25とにより、長尺鋼管12を上記削岩機21の上部に支持した後、後部のスライドセントライザー24を前方(切羽側)にスライドさせて上記長尺鋼管12を上記ガイド管11内に挿入する。このとき、上記挿入された長尺鋼管12内に、予め延長した削孔ロッド13を挿入し、上記長尺鋼管12の後端部に、上記削岩機21と接続するためのカップリング14を取付けておく。
なお、上記長尺鋼管12の長さは、トンネルの大きさや、用いる削孔装置20のストロークの長さ等により適宜設定されるもので、必ずしも9mである必要はない。
【0008】
長尺鋼管12の挿入後には、図1(c)に示すように、上記長尺鋼管12内に図示しない削孔ロッドの拡径ビットにより、切羽前方の地山50を削孔しながら、上記長尺鋼管12を地山50内に打ち込む。詳細には、図3(a)に示すように、上記削岩機21を前方にスライドさせて上記カップリング14近傍まで移動させた後、ガイドセル用昇降手段26により上記ガイドセル22を上昇させるとともに、昇降手段23m,24mを作動させて、上記スライドセントライザー23,24の把持部23n,24nとガイドセル22との距離を縮め、削岩機21の中心と長尺鋼管12の中心、すなわち、上記削岩機21の出力軸21aと上記カップリング14の接続部との高さを一致させた後、上記削岩機21の位置を調整して、上記削岩機21と上記カップリング14とを接続する。
なお、上記作業中には、上記長尺鋼管12に余分な力がかからないように、把持部23n,24nとガイドセル22との距離が縮まる速度を、ガイドセル22の上昇速度に同調させるようにする必要がある。これにより、長尺鋼管12の挿入角度を保持したまま、上記長尺鋼管12と削岩機21とを確実に接続することができる。
その後、図3(b)に示すように、削岩機21を稼動させながら上記削岩機21を前方にスライドさせることにより、上記長尺鋼管12を地山50内に打ち込む。
この段階では、上記長尺鋼管12は、ほとんどの部分が切羽前方の地山50内に挿入されるが、後部の3m程度は上記ガイド管11の中にある。そこで、図1(d)に示すように、上記長尺鋼管12の後端部に押し切り削孔用のダミー管16を接続し、上記長尺鋼管12の後端部を上記ガイド管11内の所定の位置にくるまで上記長尺鋼管12を上記ガイド管11内に挿入し打設する。本例では、上記長尺鋼管12を有効利用するため、上記長尺鋼管12の後端部をガイド管11の先端部近傍にくるまで挿入するようにしている。
【0009】
すなわち、図4(a)に示すように、上記カップリング14を取外して上記削岩機21を後方にスライドさせた後、削孔ロッド13を延長するとともに、上記長尺鋼管12の後端部に上記ダミー管16を接続する。そして、上記ダミー管16の後端部と削岩機21の出力軸21aとを上記カップリング14により接続した後、図4(b)に示すように、削岩機21を駆動させつつ前方にスライドさせ、上記長尺鋼管12を切羽前面の地山50内に更に挿入する。これにより、上記長尺鋼管12の後端部を上記ガイド管11の先端部近傍にくるまで上記地山50内に挿入することができる。なお、上記カップリング14を省略して、ダミー管16の後端部と削岩機21の出力軸21aとを当接させた状態で上記長尺鋼管12を挿入するようにしてもよい。
次に、図1(e)に示すように、上記長尺鋼管12内に注入用のダブルパッカー30を挿入して地盤固化剤を注入する。図5(a)〜(c)は、本例の注入方法の詳細を示す図で、まず、長尺鋼管12とダミー管16との接続部に注入用のダブルパッカー30を設置し、上記接続部に地盤固化剤を注入し、上記長尺鋼管12とガイド管11との隙間を予め塞いで長尺鋼管12とガイド管11との隙間から土砂や水の浸入を防ぐ処理を行った後、上記ダブルパッカー30を上記長尺鋼管12内に移動して、上記長尺鋼管12の側面に予め設けられた逆止弁付注入孔12hから、長尺鋼管12の周囲の地山50に地盤固化剤を注入して、上記地山50を補強する。図6は、上記注入用のダブルパッカー30の一構成例を示す図で、図示しない注入液移送管に接続された注入装置本体31と、この注入装置本体の注入孔の前,後にそれぞれ設けられた2つのパッカー32(32a,32b)と走行手段である挿入用のキャスター33とを備えたもので、上記パッカー32a,32bに図示しない空気管から空気を導入してこれを膨らまして上記長尺鋼管12とダミー管16との接続部の内空部を区切った後、、上記注入液移送管から送られた地盤固化剤を、上記注入孔を介して、上記長尺鋼管12とガイド管11との隙間から地山50中に注入する。この地盤固化剤は上記地山50に浸透し固化するので、上記長尺鋼管12とガイド管11との隙間を予め塞いで長尺鋼管12とガイド管11との隙間から土砂や水の浸入を防ぐことができるとともに、地山に注入した地盤固化材の洩もなくすことができる。したがって、単に、長尺鋼管12から地盤固化剤を注入した場合に比較して、地山50を確実に補強することができる。
その後、上記ダブルパッカー30とダミー管16とを回収し、鋼管内充填用の塩化ビニル管17を用いて、上記長尺鋼管12内に充填材を注入する。最後に、図示しない支保工から下の部分に相当する位置に打設された上記ガイド管11を切断するなどして撤去し、次の支保工を構築する。上記ガイド管11は塩化ビニル管などの樹脂製の管なので、撤去作業を容易に行うことができる。
【0010】
このように、本最良の形態によれば、長尺鋼管12の打設に先行して、上記長尺鋼管12の径よりも径が大きな、塩化ビニル管などの樹脂製のガイド管11を地山50の切羽面に打ち込んだ後、このガイド管11の中に長尺鋼管12を挿入して、切羽前方の地山50を削孔しながら、上記長尺鋼管12を地山50内に打ち込み、更に、長尺鋼管12の後端部に押し切り削孔用のダミー管16を接続し、上記長尺鋼管12の後端部を上記ガイド管11の先端部近傍にくるまで打設するようにしたので、長尺鋼管12を精度よく打設することができる。また、地盤固化剤の注入前に、上記長尺鋼管12内に注入用のダブルパッカー30を挿入して地盤固化剤を注入して上記長尺鋼管12とガイド管11との隙間に地盤固化剤を注入して長尺鋼管12とガイド管11との隙間を予め塞いた後、周囲の地山50を補強するようにしたので、上長尺鋼管12とガイド管11との隙間から土砂や水の浸入を防ぐことができるとともに、地山に注入した地盤固化材の洩もなくすことができる。したがって、単に、長尺鋼管12から地盤固化剤を注入した場合に比較して、地山50を確実に補強することができる。
また、本例では、上記ガイド管11を樹脂製の管とし、これを、支保工51の構築時に撤去する最後端部の管としてそのまま利用できるようにしたので、樹脂管の接続作業や打ち込みあるいは推進作業を省略でき、作業効率を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、大型の掘削機を用いることなく、長尺鋼管を高精度で打設することのできるだけでなく、地山を効率よくかつ確実に補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の最良の形態に係る長尺先受工法の作業手順の概要を示す模式図である。
【図2】本最良の形態に係る長尺鋼管の打設方法を示す図である。
【図3】本最良の形態に係る長尺鋼管の打設方法を示す図である。
【図4】本最良の形態に係る長尺鋼管の打設方法を示す図である。
【図5】本最良の形態に係る薬剤の注入方法を示す図である。
【図6】ダブルパッカーの一構成例を示す図である。
【図7】従来の長尺先受工法の概要を示す図である。
【図8】従来の長尺鋼管の打設方法を示す図である。
【符号の説明】
【0013】
11 ガイド管、12 長尺鋼管、12h 逆止弁付注入孔、13 削孔ロッド、
13a 拡径ビット、13b 削孔ロッドの基端部、14 カップリング、
15 ズレ止め金具、16 押し切り削孔用のダミー管、
20 削孔装置、21 削岩機、21a 出力軸、22 ガイドセル、
23,24 スライドセントライザー、23m,24m 昇降手段、
23n,24n スライドセントライザーの把持部、25 保持部材、
30 ダブルパッカー、50 地山、51 支保工、52 普通鋼管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切羽前方の地山に打設されたガイド管内に長尺鋼管を挿入して上記地山を削孔しながら上記長尺鋼管を地山内に打設し、更に、上記長尺鋼管の後端部にダミー管を接続して上記長尺鋼管を上記鋼管の後端部が上記ガイド管内の所定の位置にくるまで上記鋼管を上記ガイド管内に挿入した後、上記鋼管の内部から周囲の地山に地盤固化剤を注入して上記地山を補強する地山の補強方法において、上記地盤固化剤の注入前に、上記長尺鋼管と上記ダミー管との接続部に注入用のダブルパッカーを挿入し、上記鋼管と上記ダミー管との接続部に地盤固化剤を注入するようにしたことを特徴とする地山の補強方法。
【請求項2】
上記ガイド管を樹脂製の管としたことを特徴とする請求項1に記載の地山の補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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