地山補強工法
【課題】例えばトンネルや地下空洞等を掘削する際に前方地山を補強する先受け工や鏡補強工等の地山補強工法に係り、補強材としての補強管の定着を図るセメント系固結材の弱材齢時の付着力が向上し、湧水が生じる場合においても固結材の流出や逸走を防止し、かつ剛性の向上により補強効果を高めて、脆弱な地山状況においても高い定着力を得る。
【解決手段】トンネル掘削空間T内から切羽前方地山1内に所定の仰角で削孔hを施すと同時に、周壁に固結材の吐出孔を有する単一の管または複数本の管を順次接続して形成される補強管6を上記削孔h内に打設し、その補強管6内に固結材を注入して該補強管6内およびその周囲の地山1内に定着または固結領域8を形成して補強する地山補強工法において、上記固結材としてセメントミルクやセメントモルタル等のセメント系固結材中にガラス繊維を混入したものを用いることを特徴とする。
【解決手段】トンネル掘削空間T内から切羽前方地山1内に所定の仰角で削孔hを施すと同時に、周壁に固結材の吐出孔を有する単一の管または複数本の管を順次接続して形成される補強管6を上記削孔h内に打設し、その補強管6内に固結材を注入して該補強管6内およびその周囲の地山1内に定着または固結領域8を形成して補強する地山補強工法において、上記固結材としてセメントミルクやセメントモルタル等のセメント系固結材中にガラス繊維を混入したものを用いることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトンネルや地下空洞等を掘削する際に前方地山を補強する先受け工や鏡補強工等の地山補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地質条件の悪い脆弱な地山等でトンネルを掘削する際には、切羽前方地山を補強しながらトンネルを掘り進めることが行われている。このような切羽前方地山を先行して補強しながらトンネルを掘削する地山補強工法(切羽補強工法)には、下記特許文献1,2のように、トンネルの掘削に先立って天端部の剥落を防止するために切羽から前方地山のトンネル外周に、補強管を用いてアーチ状の地山補強体である先受け材を形成する先受け工と、切羽前方の押出し挙動を抑制するために切羽鏡部の前方地山であるトンネル掘削領域を補強する鏡補強工がある。
【0003】
これらの地山補強工法は、一般に山岳トンネル工法に使用する油圧ドリルジャンボなどの標準的な掘削機械設備を用いて、筒状の削孔ロッドと、その周囲に配置した補強管とのいわゆる二重管方式により削孔を施すと同時に該削孔内に補強管を収容配置して地山を補強することが行われている。すなわち、先端部に削孔用ビットを装着した筒状の削孔ロッドで切羽前方地山内に所定の仰角で削孔を施すと同時に、その削孔ロッドの前進に伴って、その周囲に配置した補強管を上記削孔内に順次引き込んだ後、上記補強管内にセメント系やレジン系等の固結材を注入して該補強管内およびその周囲の地山内に固結領域を形成して補強するものである。この場合、上記補強管としては、周壁に固結材の吐出孔を有する鋼管または樹脂管が用いられ、例えば直径100mm、長さ3000mm程度の複数本の管を順次継ぎ足しながら上記削孔内に引き込むか、或いは長尺の単一の管で補強管を形成することもある。
【0004】
図9は上記のような地山補強工法を先受け工Aに適用した従来例を示すもので、トンネル掘削空間Tにおける切羽1aの前方上部の地山1内に、上記のような二重管方式等により削孔hを施すと同時に該削孔h内に鋼管等よりなる補強管6を収容配置し、その補強管6内およびその周囲の地山1内に固結領域8を形成して切羽1aの前上部の地山を補強したものである。また図10は上記のような地山補強工法を鏡補強工Bに適用した従来例を示すもので、トンネル掘削空間Tの切羽1aの前方の地山1内に、上記のような二重管方式等により削孔hを施すと同時に該削孔h内に樹脂管等よりなる補強管6を収容配置し、その補強管6内およびその周囲の地山1内に固結領域8を形成して前方地山を補強したものである。これらの先受け工および鏡補強工は、切羽前方地山を長尺にわたって拘束することにより、地山の先行ゆるみを抑制することを目的とし、地山1内に形成した削孔h内に補強管6を打設することで前方地山を補強すると共に、その補強管6を通して孔壁周囲の地山1内に固結材を注入することによって、地山の拘束性を高めるものである。
【0005】
上記のような固結材の注入に際しては、補強管が所定位置に設置された後、事前に削孔hの開口端側の補強管6の端部外周にウエスやウレタン系コーキングシール等を配置して上記開口端を閉塞したり、或いは上記補強管6の端部外周に布袋等よりなるパッカーを配置し、そのパッカー内にウレタン系樹脂等を注入し、膨張させて隔壁を形成することによって、上記開口端側からの固結材のリークを抑制している。また上記固結材としては、セメント系またはウレタン系その他のレジン系固結材を用いて、補強管と孔壁周囲の地山を定着させ軸方向の応力を抑制して、トンネル掘削時における切羽前方地山の安定性を高めるようにしている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−121073号公報
【特許文献2】特開平4−357293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、未固結または軟岩等の脆弱な地山にトンネルを掘進する際には、そのトンネル掘削時の応力開放に伴う地山の緩みによって、図11(a)の破線領域1sの地山1を切羽1a側に押し出す方向の地山挙動(押出し挙動)が生じる。そのため、上記のような削孔内に打設した補強管に固結材を注入して、該補強管内およびその周囲の地山内に固結領域を形成して定着させる工法においては、図11(a)のように前方地山を先受け工Aや鏡補強工Bで補強した状態はもとより同図(b)のように次のトンネル掘削領域が掘削された後も上記補強管が切羽前方地山に定着させた状態が維持されて、該補強管の軸剛性、剪断剛性を効果的に発揮させる必要がある。
【0008】
しかし、上記の補強管等を定着させる固結材としては、一般にセメント系の固結材が多く用いられ、その固結材が充分に固まるまでには比較的長い養生時間を必要とするが、実施工時に固結材を注入してから次のトンネル掘削までの養生時間を長くすると、施工能率が大幅に低下するため充分な養生時間を確保するのは難しい。そのため、地山状況によっては充分な付着強度が得られていない状態、または孔壁周囲に充分に大きな地山固結領域を確保できない状態で、また地山との定着は僅かな範囲の浸透領域が確保された程度で、トンネル掘削を進行しなければならず、定着不良が生じて充分な補強効果が得られないおそれがある。
【0009】
そこで、強度発現が早く、定着効果が高いウレタン系固結材を用いる方法があるが、以下のような不具合がある。特に補強管を設置した孔壁から湧水が生じるような場合には、従来のセメント系固結材のみを用いると、それが凝結または硬化する前に上記固結材が湧水によって上記削孔内から流出したり、孔壁の亀裂等に逸走して定着不良が生じるおそれがあるが、ウレタン系固結材を用いると、上記の不具合を解消もしくは低減することができる。しかし、上記のウレタン系固結材はセメント系固結材と比較して高価であるため、施工コストが増大する等の問題がある。
【0010】
さらに、一般に固結材の若材齢時の強度が足りないと、付着強度が不足し、トンネルの掘削開始時点で地山を充分に支えることができないが、初期強度の発現に重きをおいたウレタン系または超早強セメント系固結材は、施工性に難がある。即ち、強度発現が早いということは硬化開始が早いということで、例えば極端な場合には注入作業完了時点で既にポンプや注入管内で硬化が始まるため、ハンドリング(取扱い)に細心の注意が必要となる。
【0011】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、上記のような補強管の定着を図るセメント系固結材の弱材齢時の付着力が向上し、湧水が生じる場合においても固結材の流出や逸走を防止し、かつ固結材の剛性の向上により補強効果を高めて、脆弱な地山状況においてもセメント系固結材によって容易に高い定着力を得ることのできる地山補強工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために本発明による地山補強工法は、以下の構成としたものである。即ち、トンネル掘削空間内から切羽前方地山内に所定の仰角で削孔を施すと同時に、周壁に固結材の吐出孔を有する単一の管または複数本の管を順次接続して形成される補強管を上記削孔内に打設し、その補強管内に固結材を注入して該補強管内およびその周囲の地山内に定着または固結領域を形成して補強する地山補強工法において、上記固結材としてセメントミルクやセメントモルタル等のセメント系固結材中にガラス繊維を混入したものを用いることを特徴とする。
【0013】
上記のガラス繊維としては、例えば長さ2〜10mmのものを上記セメント系固結材中に0.3〜5重量%、より好ましくは1.0〜2.0重量%の割合で混入することが好ましい。また上記補強管を形成する単一の管または複数本の管としては、例えば鋼管または合成樹脂管、特にGFRP管(ガラス繊維強化樹脂管)等のFRP管(繊維強化樹脂管)を用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
上記のように本発明によれば、トンネル掘削時の脆弱な地山状況における切羽補強工の注入固結材として、セメント系固結材中にガラス繊維を混入したものを用いるため、削孔内に打設した補強管内とその周囲の地山内に上記固結材を浸透させて定着させる際に、上記固結材中のガラス繊維が分散した状態で、ガラス繊維同士またはガラス繊維と補強管もしくは地山とが互いに絡み付きつつ凝結および硬化する。そのため、固結材の若材齢時およびその後の強度や剛性ならびに付着抵抗力を確実に高めることができる。
【0015】
また上記のガラス繊維として、長さ2〜10mmのものを、セメント系固結材中に0.3〜5重量%、より好ましくは1.0〜2.0重量%の割合で混入すれは、孔壁に存する開口亀裂等の空隙を良好に閉塞してセメント系固結材の流出や逸走を抑制することができる。また固結材が凝結および硬化する前に湧水の影響を受けた場合にも、ガラス繊維によってセメント系固結材の流通抵抗が高められているので湧水と共に流失するのを可及的に低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明による地山補強工法を、図に示す実施形態に基づいて具体的に説明する。図1(a)は本発明による地山補強工法により先受け工と鏡補強工とを施工している状態のトンネルの縦断面図、同図(b)はその横断面図、図2は上記先受け工と鏡補強工の一部の拡大縦断面図である。
【0017】
本実施形態は脆弱な地山にトンネルを掘削するに当たり、切羽1aの安定性を確保するために切羽1aの前方地山1に削孔hを施して該削孔h内に挿入した補強材としての補強管6により地山1を拘束する長尺先受け工Aと長尺鏡補強工Bに適用したもので、上記補強管6内にガラス繊維を含むセメント系固結材を注入して該補強管6内およびその周囲の地山内に上記固結材による固結領域8を形成して切羽1aの前方地山1を補強するようにしたものである。
【0018】
図の実施形態ではトンネル掘削時の切羽挙動を抑制すべく、切羽前方地山には既に長尺鏡補強工が打設されている。トンネル上半盤切羽近傍にはドリルジャンボ9が配置され、そのドリルジャンボ9のガイドシェル9aの先端は、既にトンネル掘削後の切羽鏡部直近に建て込まれた鋼製支保工の下にセットされている。この実施形態では既に掘削したトンネル掘削空間Tの切羽鏡部1aには所定厚さの一次吹付けコンクリート2が施され、トンネル掘削空間Tの上部に建て込まれた鋼製支保工4b・4b間には二次吹付けコンクリート4aが施されている。
【0019】
上記ガイドシェル9aには、削孔ロッド3が削岩機5に連結された状態で装着され、その削孔ロッド3の先端に設けた不図示の削孔用ビットにより切羽1a側の鋼製支保工4bの下側から所定の仰角で前方地山1に削孔hを施すと同時に、上記削孔ロッド3の前進動作に伴って該削孔ロッド3の周囲に配置した補強管6が上記削孔h内に順次引き込まれて打設されている。上記のように構成された先受け工Aの下側の鏡補強工Bにも上記と同様の要領で補強管6が打設されている。上記先受け工Aおよび鏡補強工Bの各補強管6の材質および長さは適宜であるが、本実施形態においては、長さは13.5mのFRP管(繊維強化樹脂管)、特にGFRP管(ガラス繊維強化樹脂管)が用いられている。
【0020】
また本実施形態においては、上記先受け工Aおよび鏡補強工Bの各補強管6の後端部(切羽1a側の端部)に、リーク抑制のためにバルクヘッド形成用の多孔管6aが添設され、その多孔管6a内に設けた不図示のパッカー内に不図示のパッカー用注入管から浸透性の高いパッカー用ウレタンを注入することによって、上記多孔管6aの周囲の地山内にバルクヘッド領域7が形成されている。そして上記多孔管6aよりも孔奥側の各補強管6内に注入管10から固結材を注入して、その各補強管6内およびその各補強管6の周壁に形成した吐出孔から削孔h内を経て、その周囲の地山1内に上記の固結材を浸透固化させて固結領域8を形成したものである。図中、12は上記補強管6内に固結材を注入する際に該補強管6内および削孔h内に残留する空気を削孔hの外に排出するための排気パイプである。
【0021】
そして上記の固結材として、本発明においてはセメントミルクやセメントモルタル等のセメント系固結材中にガラス繊維を混入したものを用いるようにしたもので、上記実施形態においてはプレミックスモルタルよりなるセメント系固結材中に、長さ2〜10mmのガラス繊維を0.5〜5重量%の割合で混入したものを用いたものである。
【0022】
上記のように先受け工Aや鏡補強工B等の地山補強工法に用いる固結材として、セメント系固結材中にガラス繊維を混入したものを用いると、上記削孔h内に打設した補強管6内とその周囲の地山1内に上記固結材を浸透させて定着させる際に、上記固結材中のガラス繊維が分散した状態で、ガラス繊維同士またはガラス繊維と補強管もしくは地山とが互いに絡み付きつつ凝結および硬化する。それによって上記補強管6と地山1とが強固に一体化した固結領域8が形成されると共に、上記ガラス繊維によって固結材の若材齢時およびその後の強度や剛性ならびに付着抵抗力を確実に高めることができる。
【0023】
また上記のガラス繊維として上記のように長さ2〜10mmのものをセメント系固結材中に0.3〜5重量%、より好ましくは1.0〜2.0重量%の割合で混入すると、上記削孔hの孔壁に開口亀裂等の空隙があっても、その空隙を上記繊維が良好に閉塞してセメント系固結材の流出や逸走を抑制することができると共に、上記固結材が凝結および硬化する前に湧水の影響を受けた場合にも、ガラス繊維によってセメント系固結材の流れ抵抗が高められているので湧水と共に上記固結材が削孔内等から流失するのを可及的に低減することができる。
【0024】
しかも、上記のようなガラス繊維を混入したセメント系固結材を用いると、前記図11(a)のように切羽1aの前方地山を先受け工Aや鏡補強工Bで補強した状態で図の破線領域1sの地山1が切羽1a側に押し出されるような地山挙動(押出し挙動)を良好に抑制することができると共に、同図(b)のように次のトンネル掘削領域を掘削した後も上記補強管6の定着および固結材による切羽前方地山が補強された状態を良好に維持して上記補強管6の軸剛性、剪断剛性を効果的に発揮させることができる。
【0025】
さらに図3は各種の固結材を上記のような補強管内に注入するときの時間と強度との関係を示す経時硬化特性であり、図中のAは従来の標準的な固結材、Bはウレタン系や超早強セメント系等の初期強度の発現に重点をおいた固結材、Cはセメント系等の初期ハンドリングに重点をおいた固結材の特性を表す。そして図中のDが固結材を補強管内に注入してから次のトンネル掘削開示時期までの理想的な経時硬化特性であり、上記のようなガラス繊維を混入したセメント系固結材を用いると、上記の理想的な経時硬化特性に近づけることができるものである。
【0026】
なお、上記実施形態は、補強管6として長さ13.5mのGFRP管を用いたが、それよりも短い管をカプラ等で順次継ぎ足して補強管6を形成してもよい。また上記セメント系固結材に混入するガラス繊維との相性(例えば絡み合うことによって付着力が増す)という観点からはGFRP管がより好ましいが、鋼管を用いた場合にも上記のガラス繊維によって付着力を増大させることができる。
【0027】
また上記補強管6は必ずしも横断面円形の管状のものに限られるものではなく、例えばフラットバーを組み合わて管状に形成したものでもよい。図4および図5はその一例を示すもので、本例は幅40mm、厚さ6mmのGFRPよりなるフラットバー61を複数枚(図の場合は3枚)組み合わせて横断面多角形状(図の場合は三角形状)の筒状の補強管6を形成し、その補強管6を本実施形態においては長さ12mに形成して前記実施形態と同様に切羽1aから前方地山に向かって形成した削孔h内に挿入配置したものである。
【0028】
上記複数枚のフラットバー61は、図5(a)および(b)に示すように多角形状(図の場合は三角形状)の保持部材62の周囲に配置すると共に、紐やバンド等の結束部材63によって筒状に保持されている。上記保持部材62の中央部には貫通孔62aが形成され、その貫通孔62aに図5(c)に示す注入管10を挿入して該注入管10から上記のフラットバー61よりなる補強管6内に固結材を注入する構成であり、その補強管6内に注入した固結材が補強管の周囲の削孔h内およびその周囲の地山内に浸透させるために、周方向に隣り合うフラットバー61・61間には固結材が流通可能な隙間Sが形成されている。
【0029】
また上記のフラットバー61よりなる補強管6の後端部には、バルクヘッド形成用のパッカー11と、そのパッカーを膨らませるパッカー用注入管11aが装填され、そのパッカー用注入管11aから上記パッカー11内に浸透性の高いパッカー用ウレタンを注入してバルクヘッドを形成した後、上記フラットバー61よりなる補強管6に前記実施形態と同様のガラス繊維を混入したセメント系固結材を注入して固結領域8を形成することによって鏡補強工Bを施工したものである。上記と同様の構成で先受け工Aを施工することも可能であり、その先受け工Aおよび上記の鏡補強工Bにおいても前記と同様の作用効果が得られる。
【0030】
なお、上記各実施形態は補強管6の後端部側にバルクヘッド領域やバルクヘッドを形成したが、必ずしも形成しなくてもよく、そのような場合には前記のような多孔管6aを省略して補強管全長をGFRP管等の合成樹脂管や鋼管もしくは前記フラットバー製補強管等よりなる単一の管または複数本の管を順次接続して形成すればよい。
【実施例】
【0031】
本発明の具体的な実施例に代わる試験例として本発明で用いる固結材の特性を調べるために以下のような試験を行った。先ず、図6(a)に示すような容器30にセメント系固結材としてのドライモルタルに繊維長3mmのガラス繊維を、それぞれドライモルタル重量に対して0、0.7、1.0、1.4、1.7、2.0、2.5、3.0重量%の割合で添加した固結材に、それぞれ上記セメント系固結材としてのドライモルタルに対する水量(W/C)が60重量%となるように水を加えて図6(b)に示すような攪拌機31によって撹拌し、混練して練上量6.5リットルの練上モルタルを作製した。
【0032】
次いで、その各練上モルタルを図6(c)に示すような外径114.3mm×高さ200mmの鋼製筒体32に充填すると共に、その鋼製筒体32内に幅40mm×厚6mmの標準フラットバーからなる供試片33を挿入し、各練上モルタルを固化させ定着させて図6(d)に示すような試験体34を作製した。図中、33aは上記供試片32の鋼製筒体31内への挿入深さを規制するストッパ、35は鋼製筒体31の下面側に溶接等で一体的に固着した底板、36はその底板35の下面中央部に溶接等で一体的に固着した支持杆である。
【0033】
上記のようにしてセメント系固結材へのガラス繊維の添加量を異ならせて作製した上記各試験体34を用いて付着力(引き抜き強度)の試験を行なうと共に、上記各試験体34の作成時にそれぞれ採取した各固結材の一軸圧縮強度試験を行った。それらの結果を下記表1にまとめて示す。なお、下記表1中のフロー値は、JIS規格に基づくPロート試験の測定値であり、また一軸圧縮強度は、上記各固結材を用いて直径5cm×高さ10cmの円柱モールド(円柱供試体)を作製して24時間後に軸線方向一端側から圧縮したときの圧縮強度(耐荷重)である。さらに付着力は、上記各試験体34の供試片32の上部と支持杆36とをそれぞれ試験機のクランプに把持させて、互いに反対方向に引っ張って抜けるときの引き抜き荷重を測定したものである。
【0034】
【表1】
【0035】
上記表1のデータから、ガラス繊維添加量に対する付着力を表したものが図7のグラフであり、ガラス繊維添加量に対する付着力比(付着力/圧縮強度)を表したものが図8のグラフである。なお、上記図7および図8中の◆印は実際の測定値の分布状態を示し、曲線は各添加量毎の測定値の平均値曲線である。
【0036】
上記の試験結果から各固結材の付着力は、ガラス繊維添加量が1.0〜2.0重量%のときに増大傾向を示し、特に、1.7重量%のときにピークを示している。また、通常の固結材の概念では、圧縮強度が高くなれば付着力が増すが、本実施例を用いた試験結果によれば、圧縮強度に対する付着力の比率も、ガラス繊維添加量が1.0〜2.0重量%のときに増大傾向を示し、特に、1.7%のときにピークを示すことがわかった。従って、ガラス繊維の添加量は多ければ多いほど付着力が増大するのではなく、セメント系固結材であるドライモルタルの重量に対してガラス繊維を1.0〜2.0重量%の割合で添加したときに、過度に硬化してしまうことなく付着力を増大させ、補強材としての補強管の地山定着効果を効率的に高めることができる。
【0037】
なお、上記以外にも種々の試験を行った結果、セメント系固結材中に少なくともガラス繊維を0.5重量%以上添加すると、添加しない場合よりもフロー値が増大することが確認されている。またガラス繊維の添加量を増やすほどフロー値が増大する傾向にあり、それによって固結材の流動性が低下してリーク等が発生しずらくなるが、あまり多いと、ハンドリングがしづらくなったり、材料コストが増大して不経済であるため、ガラス繊維の添加量は5重量%以下とするのが望ましい。また前記のようにセメント系固結材中にガラス繊維を1.0〜2.0重量%の割合で添加すると付着力が増し、特に1.7〜2.0重量%の割合で混入させたセメント系固結材によるGFRP補強材(例えば前記図1および図2の実施形態で用いたGFRP管、前記図1および図2の実施形態で用いたGFRPよりなるフラットバーで形成した補強管など)との付着力は、ガラス繊維を混入していない場合に比べて19〜55%程度向上することが確認されている。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように本発明による地山補強工法によれば、補強材としての補強管と、その周囲の地山を定着させるための固結材としてセメント系固結材にガラス繊維を混入したものを用いることによって、上記固結材中のガラス繊維が分散した状態でガラス繊維同士またはガラス繊維と補強管もしくは地山とが互いに絡み付きつつ凝結および硬化することで確実に固結材の剛性と付着抵抗力を高めることができる。特に、上記のガラス繊維として長さ2〜10mmのものをセメント系固結材中に0.5〜5重量%、より好ましくは1.0〜2.0重量%の割合で混入すれば、補強管を収容配置する削孔の孔壁に開口亀裂等の空隙が存在する場合にも、それらを良好に塞ぐことができ、セメント系固結材の流出、逸走を抑制するとともに、固結材の凝結および硬化する前には湧水の影響を殆ど受けることなく固化して定着性や補強性能を改善することができる。そのため、トンネルの先受け工や鏡補強工に限らず、各種の地山補強工法として産業上も有効に利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)は本発明による地山補強工法をトンネル先受け工と鏡補強工に適用した一実施形態のトンネルの縦断面図、(b)はその横断面図。
【図2】上記実施形態の一部の拡大縦断面。
【図3】各種固結材の経時硬化特性を示すグラフ。
【図4】本発明による地山補強工法を鏡補強工に適用した他の実施形態のトンネルの縦断面図。
【図5】(a)は上記実施形態に用いたフラットバーよりなる補強管の斜視図、(b)はフラットバーを管状の保持する保持部材の斜視図、(c)は注入管の斜視図。
【図6】(a)〜(d)は固結材の評価用試験体の形成プロセスを示す説明図。
【図7】セメント系固結材へのガラス繊維添加量と付着力との関係を示すグラフ。
【図8】セメント系固結材へのガラス繊維添加量に対する付着力比を示すグラフ。
【図9】(a)は従来の先受け工の一例を示すトンネルの縦断面図、(b)はその横断面図、(c)は一部の拡大縦断面図。
【図10】(a)は従来の鏡補強工の一例を示すトンネルの縦断面図、(b)はその横断面図、(c)は一部の拡大縦断面図。
【図11】(a)、(b)はトンネル切羽部の地山挙動を示す説明図。
【符号の説明】
【0040】
A 先受け工
B 鏡補強工
T トンネル掘削空間
h 削孔
1 地山
1a 切羽
2 鏡部吹付コンクリート
3 削孔ロッド
4a 吹付コンクリート
4b 鋼製支保工
5 削岩機
6 補強管
6a 多孔管
7 バルクヘッド領域
8 固結領域
9 ドリルジャンボ
9a ガイドシェル
10 注入管
11 パッカー
11a パッカー用注入管
12 排気パイプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトンネルや地下空洞等を掘削する際に前方地山を補強する先受け工や鏡補強工等の地山補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地質条件の悪い脆弱な地山等でトンネルを掘削する際には、切羽前方地山を補強しながらトンネルを掘り進めることが行われている。このような切羽前方地山を先行して補強しながらトンネルを掘削する地山補強工法(切羽補強工法)には、下記特許文献1,2のように、トンネルの掘削に先立って天端部の剥落を防止するために切羽から前方地山のトンネル外周に、補強管を用いてアーチ状の地山補強体である先受け材を形成する先受け工と、切羽前方の押出し挙動を抑制するために切羽鏡部の前方地山であるトンネル掘削領域を補強する鏡補強工がある。
【0003】
これらの地山補強工法は、一般に山岳トンネル工法に使用する油圧ドリルジャンボなどの標準的な掘削機械設備を用いて、筒状の削孔ロッドと、その周囲に配置した補強管とのいわゆる二重管方式により削孔を施すと同時に該削孔内に補強管を収容配置して地山を補強することが行われている。すなわち、先端部に削孔用ビットを装着した筒状の削孔ロッドで切羽前方地山内に所定の仰角で削孔を施すと同時に、その削孔ロッドの前進に伴って、その周囲に配置した補強管を上記削孔内に順次引き込んだ後、上記補強管内にセメント系やレジン系等の固結材を注入して該補強管内およびその周囲の地山内に固結領域を形成して補強するものである。この場合、上記補強管としては、周壁に固結材の吐出孔を有する鋼管または樹脂管が用いられ、例えば直径100mm、長さ3000mm程度の複数本の管を順次継ぎ足しながら上記削孔内に引き込むか、或いは長尺の単一の管で補強管を形成することもある。
【0004】
図9は上記のような地山補強工法を先受け工Aに適用した従来例を示すもので、トンネル掘削空間Tにおける切羽1aの前方上部の地山1内に、上記のような二重管方式等により削孔hを施すと同時に該削孔h内に鋼管等よりなる補強管6を収容配置し、その補強管6内およびその周囲の地山1内に固結領域8を形成して切羽1aの前上部の地山を補強したものである。また図10は上記のような地山補強工法を鏡補強工Bに適用した従来例を示すもので、トンネル掘削空間Tの切羽1aの前方の地山1内に、上記のような二重管方式等により削孔hを施すと同時に該削孔h内に樹脂管等よりなる補強管6を収容配置し、その補強管6内およびその周囲の地山1内に固結領域8を形成して前方地山を補強したものである。これらの先受け工および鏡補強工は、切羽前方地山を長尺にわたって拘束することにより、地山の先行ゆるみを抑制することを目的とし、地山1内に形成した削孔h内に補強管6を打設することで前方地山を補強すると共に、その補強管6を通して孔壁周囲の地山1内に固結材を注入することによって、地山の拘束性を高めるものである。
【0005】
上記のような固結材の注入に際しては、補強管が所定位置に設置された後、事前に削孔hの開口端側の補強管6の端部外周にウエスやウレタン系コーキングシール等を配置して上記開口端を閉塞したり、或いは上記補強管6の端部外周に布袋等よりなるパッカーを配置し、そのパッカー内にウレタン系樹脂等を注入し、膨張させて隔壁を形成することによって、上記開口端側からの固結材のリークを抑制している。また上記固結材としては、セメント系またはウレタン系その他のレジン系固結材を用いて、補強管と孔壁周囲の地山を定着させ軸方向の応力を抑制して、トンネル掘削時における切羽前方地山の安定性を高めるようにしている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−121073号公報
【特許文献2】特開平4−357293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、未固結または軟岩等の脆弱な地山にトンネルを掘進する際には、そのトンネル掘削時の応力開放に伴う地山の緩みによって、図11(a)の破線領域1sの地山1を切羽1a側に押し出す方向の地山挙動(押出し挙動)が生じる。そのため、上記のような削孔内に打設した補強管に固結材を注入して、該補強管内およびその周囲の地山内に固結領域を形成して定着させる工法においては、図11(a)のように前方地山を先受け工Aや鏡補強工Bで補強した状態はもとより同図(b)のように次のトンネル掘削領域が掘削された後も上記補強管が切羽前方地山に定着させた状態が維持されて、該補強管の軸剛性、剪断剛性を効果的に発揮させる必要がある。
【0008】
しかし、上記の補強管等を定着させる固結材としては、一般にセメント系の固結材が多く用いられ、その固結材が充分に固まるまでには比較的長い養生時間を必要とするが、実施工時に固結材を注入してから次のトンネル掘削までの養生時間を長くすると、施工能率が大幅に低下するため充分な養生時間を確保するのは難しい。そのため、地山状況によっては充分な付着強度が得られていない状態、または孔壁周囲に充分に大きな地山固結領域を確保できない状態で、また地山との定着は僅かな範囲の浸透領域が確保された程度で、トンネル掘削を進行しなければならず、定着不良が生じて充分な補強効果が得られないおそれがある。
【0009】
そこで、強度発現が早く、定着効果が高いウレタン系固結材を用いる方法があるが、以下のような不具合がある。特に補強管を設置した孔壁から湧水が生じるような場合には、従来のセメント系固結材のみを用いると、それが凝結または硬化する前に上記固結材が湧水によって上記削孔内から流出したり、孔壁の亀裂等に逸走して定着不良が生じるおそれがあるが、ウレタン系固結材を用いると、上記の不具合を解消もしくは低減することができる。しかし、上記のウレタン系固結材はセメント系固結材と比較して高価であるため、施工コストが増大する等の問題がある。
【0010】
さらに、一般に固結材の若材齢時の強度が足りないと、付着強度が不足し、トンネルの掘削開始時点で地山を充分に支えることができないが、初期強度の発現に重きをおいたウレタン系または超早強セメント系固結材は、施工性に難がある。即ち、強度発現が早いということは硬化開始が早いということで、例えば極端な場合には注入作業完了時点で既にポンプや注入管内で硬化が始まるため、ハンドリング(取扱い)に細心の注意が必要となる。
【0011】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、上記のような補強管の定着を図るセメント系固結材の弱材齢時の付着力が向上し、湧水が生じる場合においても固結材の流出や逸走を防止し、かつ固結材の剛性の向上により補強効果を高めて、脆弱な地山状況においてもセメント系固結材によって容易に高い定着力を得ることのできる地山補強工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために本発明による地山補強工法は、以下の構成としたものである。即ち、トンネル掘削空間内から切羽前方地山内に所定の仰角で削孔を施すと同時に、周壁に固結材の吐出孔を有する単一の管または複数本の管を順次接続して形成される補強管を上記削孔内に打設し、その補強管内に固結材を注入して該補強管内およびその周囲の地山内に定着または固結領域を形成して補強する地山補強工法において、上記固結材としてセメントミルクやセメントモルタル等のセメント系固結材中にガラス繊維を混入したものを用いることを特徴とする。
【0013】
上記のガラス繊維としては、例えば長さ2〜10mmのものを上記セメント系固結材中に0.3〜5重量%、より好ましくは1.0〜2.0重量%の割合で混入することが好ましい。また上記補強管を形成する単一の管または複数本の管としては、例えば鋼管または合成樹脂管、特にGFRP管(ガラス繊維強化樹脂管)等のFRP管(繊維強化樹脂管)を用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
上記のように本発明によれば、トンネル掘削時の脆弱な地山状況における切羽補強工の注入固結材として、セメント系固結材中にガラス繊維を混入したものを用いるため、削孔内に打設した補強管内とその周囲の地山内に上記固結材を浸透させて定着させる際に、上記固結材中のガラス繊維が分散した状態で、ガラス繊維同士またはガラス繊維と補強管もしくは地山とが互いに絡み付きつつ凝結および硬化する。そのため、固結材の若材齢時およびその後の強度や剛性ならびに付着抵抗力を確実に高めることができる。
【0015】
また上記のガラス繊維として、長さ2〜10mmのものを、セメント系固結材中に0.3〜5重量%、より好ましくは1.0〜2.0重量%の割合で混入すれは、孔壁に存する開口亀裂等の空隙を良好に閉塞してセメント系固結材の流出や逸走を抑制することができる。また固結材が凝結および硬化する前に湧水の影響を受けた場合にも、ガラス繊維によってセメント系固結材の流通抵抗が高められているので湧水と共に流失するのを可及的に低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明による地山補強工法を、図に示す実施形態に基づいて具体的に説明する。図1(a)は本発明による地山補強工法により先受け工と鏡補強工とを施工している状態のトンネルの縦断面図、同図(b)はその横断面図、図2は上記先受け工と鏡補強工の一部の拡大縦断面図である。
【0017】
本実施形態は脆弱な地山にトンネルを掘削するに当たり、切羽1aの安定性を確保するために切羽1aの前方地山1に削孔hを施して該削孔h内に挿入した補強材としての補強管6により地山1を拘束する長尺先受け工Aと長尺鏡補強工Bに適用したもので、上記補強管6内にガラス繊維を含むセメント系固結材を注入して該補強管6内およびその周囲の地山内に上記固結材による固結領域8を形成して切羽1aの前方地山1を補強するようにしたものである。
【0018】
図の実施形態ではトンネル掘削時の切羽挙動を抑制すべく、切羽前方地山には既に長尺鏡補強工が打設されている。トンネル上半盤切羽近傍にはドリルジャンボ9が配置され、そのドリルジャンボ9のガイドシェル9aの先端は、既にトンネル掘削後の切羽鏡部直近に建て込まれた鋼製支保工の下にセットされている。この実施形態では既に掘削したトンネル掘削空間Tの切羽鏡部1aには所定厚さの一次吹付けコンクリート2が施され、トンネル掘削空間Tの上部に建て込まれた鋼製支保工4b・4b間には二次吹付けコンクリート4aが施されている。
【0019】
上記ガイドシェル9aには、削孔ロッド3が削岩機5に連結された状態で装着され、その削孔ロッド3の先端に設けた不図示の削孔用ビットにより切羽1a側の鋼製支保工4bの下側から所定の仰角で前方地山1に削孔hを施すと同時に、上記削孔ロッド3の前進動作に伴って該削孔ロッド3の周囲に配置した補強管6が上記削孔h内に順次引き込まれて打設されている。上記のように構成された先受け工Aの下側の鏡補強工Bにも上記と同様の要領で補強管6が打設されている。上記先受け工Aおよび鏡補強工Bの各補強管6の材質および長さは適宜であるが、本実施形態においては、長さは13.5mのFRP管(繊維強化樹脂管)、特にGFRP管(ガラス繊維強化樹脂管)が用いられている。
【0020】
また本実施形態においては、上記先受け工Aおよび鏡補強工Bの各補強管6の後端部(切羽1a側の端部)に、リーク抑制のためにバルクヘッド形成用の多孔管6aが添設され、その多孔管6a内に設けた不図示のパッカー内に不図示のパッカー用注入管から浸透性の高いパッカー用ウレタンを注入することによって、上記多孔管6aの周囲の地山内にバルクヘッド領域7が形成されている。そして上記多孔管6aよりも孔奥側の各補強管6内に注入管10から固結材を注入して、その各補強管6内およびその各補強管6の周壁に形成した吐出孔から削孔h内を経て、その周囲の地山1内に上記の固結材を浸透固化させて固結領域8を形成したものである。図中、12は上記補強管6内に固結材を注入する際に該補強管6内および削孔h内に残留する空気を削孔hの外に排出するための排気パイプである。
【0021】
そして上記の固結材として、本発明においてはセメントミルクやセメントモルタル等のセメント系固結材中にガラス繊維を混入したものを用いるようにしたもので、上記実施形態においてはプレミックスモルタルよりなるセメント系固結材中に、長さ2〜10mmのガラス繊維を0.5〜5重量%の割合で混入したものを用いたものである。
【0022】
上記のように先受け工Aや鏡補強工B等の地山補強工法に用いる固結材として、セメント系固結材中にガラス繊維を混入したものを用いると、上記削孔h内に打設した補強管6内とその周囲の地山1内に上記固結材を浸透させて定着させる際に、上記固結材中のガラス繊維が分散した状態で、ガラス繊維同士またはガラス繊維と補強管もしくは地山とが互いに絡み付きつつ凝結および硬化する。それによって上記補強管6と地山1とが強固に一体化した固結領域8が形成されると共に、上記ガラス繊維によって固結材の若材齢時およびその後の強度や剛性ならびに付着抵抗力を確実に高めることができる。
【0023】
また上記のガラス繊維として上記のように長さ2〜10mmのものをセメント系固結材中に0.3〜5重量%、より好ましくは1.0〜2.0重量%の割合で混入すると、上記削孔hの孔壁に開口亀裂等の空隙があっても、その空隙を上記繊維が良好に閉塞してセメント系固結材の流出や逸走を抑制することができると共に、上記固結材が凝結および硬化する前に湧水の影響を受けた場合にも、ガラス繊維によってセメント系固結材の流れ抵抗が高められているので湧水と共に上記固結材が削孔内等から流失するのを可及的に低減することができる。
【0024】
しかも、上記のようなガラス繊維を混入したセメント系固結材を用いると、前記図11(a)のように切羽1aの前方地山を先受け工Aや鏡補強工Bで補強した状態で図の破線領域1sの地山1が切羽1a側に押し出されるような地山挙動(押出し挙動)を良好に抑制することができると共に、同図(b)のように次のトンネル掘削領域を掘削した後も上記補強管6の定着および固結材による切羽前方地山が補強された状態を良好に維持して上記補強管6の軸剛性、剪断剛性を効果的に発揮させることができる。
【0025】
さらに図3は各種の固結材を上記のような補強管内に注入するときの時間と強度との関係を示す経時硬化特性であり、図中のAは従来の標準的な固結材、Bはウレタン系や超早強セメント系等の初期強度の発現に重点をおいた固結材、Cはセメント系等の初期ハンドリングに重点をおいた固結材の特性を表す。そして図中のDが固結材を補強管内に注入してから次のトンネル掘削開示時期までの理想的な経時硬化特性であり、上記のようなガラス繊維を混入したセメント系固結材を用いると、上記の理想的な経時硬化特性に近づけることができるものである。
【0026】
なお、上記実施形態は、補強管6として長さ13.5mのGFRP管を用いたが、それよりも短い管をカプラ等で順次継ぎ足して補強管6を形成してもよい。また上記セメント系固結材に混入するガラス繊維との相性(例えば絡み合うことによって付着力が増す)という観点からはGFRP管がより好ましいが、鋼管を用いた場合にも上記のガラス繊維によって付着力を増大させることができる。
【0027】
また上記補強管6は必ずしも横断面円形の管状のものに限られるものではなく、例えばフラットバーを組み合わて管状に形成したものでもよい。図4および図5はその一例を示すもので、本例は幅40mm、厚さ6mmのGFRPよりなるフラットバー61を複数枚(図の場合は3枚)組み合わせて横断面多角形状(図の場合は三角形状)の筒状の補強管6を形成し、その補強管6を本実施形態においては長さ12mに形成して前記実施形態と同様に切羽1aから前方地山に向かって形成した削孔h内に挿入配置したものである。
【0028】
上記複数枚のフラットバー61は、図5(a)および(b)に示すように多角形状(図の場合は三角形状)の保持部材62の周囲に配置すると共に、紐やバンド等の結束部材63によって筒状に保持されている。上記保持部材62の中央部には貫通孔62aが形成され、その貫通孔62aに図5(c)に示す注入管10を挿入して該注入管10から上記のフラットバー61よりなる補強管6内に固結材を注入する構成であり、その補強管6内に注入した固結材が補強管の周囲の削孔h内およびその周囲の地山内に浸透させるために、周方向に隣り合うフラットバー61・61間には固結材が流通可能な隙間Sが形成されている。
【0029】
また上記のフラットバー61よりなる補強管6の後端部には、バルクヘッド形成用のパッカー11と、そのパッカーを膨らませるパッカー用注入管11aが装填され、そのパッカー用注入管11aから上記パッカー11内に浸透性の高いパッカー用ウレタンを注入してバルクヘッドを形成した後、上記フラットバー61よりなる補強管6に前記実施形態と同様のガラス繊維を混入したセメント系固結材を注入して固結領域8を形成することによって鏡補強工Bを施工したものである。上記と同様の構成で先受け工Aを施工することも可能であり、その先受け工Aおよび上記の鏡補強工Bにおいても前記と同様の作用効果が得られる。
【0030】
なお、上記各実施形態は補強管6の後端部側にバルクヘッド領域やバルクヘッドを形成したが、必ずしも形成しなくてもよく、そのような場合には前記のような多孔管6aを省略して補強管全長をGFRP管等の合成樹脂管や鋼管もしくは前記フラットバー製補強管等よりなる単一の管または複数本の管を順次接続して形成すればよい。
【実施例】
【0031】
本発明の具体的な実施例に代わる試験例として本発明で用いる固結材の特性を調べるために以下のような試験を行った。先ず、図6(a)に示すような容器30にセメント系固結材としてのドライモルタルに繊維長3mmのガラス繊維を、それぞれドライモルタル重量に対して0、0.7、1.0、1.4、1.7、2.0、2.5、3.0重量%の割合で添加した固結材に、それぞれ上記セメント系固結材としてのドライモルタルに対する水量(W/C)が60重量%となるように水を加えて図6(b)に示すような攪拌機31によって撹拌し、混練して練上量6.5リットルの練上モルタルを作製した。
【0032】
次いで、その各練上モルタルを図6(c)に示すような外径114.3mm×高さ200mmの鋼製筒体32に充填すると共に、その鋼製筒体32内に幅40mm×厚6mmの標準フラットバーからなる供試片33を挿入し、各練上モルタルを固化させ定着させて図6(d)に示すような試験体34を作製した。図中、33aは上記供試片32の鋼製筒体31内への挿入深さを規制するストッパ、35は鋼製筒体31の下面側に溶接等で一体的に固着した底板、36はその底板35の下面中央部に溶接等で一体的に固着した支持杆である。
【0033】
上記のようにしてセメント系固結材へのガラス繊維の添加量を異ならせて作製した上記各試験体34を用いて付着力(引き抜き強度)の試験を行なうと共に、上記各試験体34の作成時にそれぞれ採取した各固結材の一軸圧縮強度試験を行った。それらの結果を下記表1にまとめて示す。なお、下記表1中のフロー値は、JIS規格に基づくPロート試験の測定値であり、また一軸圧縮強度は、上記各固結材を用いて直径5cm×高さ10cmの円柱モールド(円柱供試体)を作製して24時間後に軸線方向一端側から圧縮したときの圧縮強度(耐荷重)である。さらに付着力は、上記各試験体34の供試片32の上部と支持杆36とをそれぞれ試験機のクランプに把持させて、互いに反対方向に引っ張って抜けるときの引き抜き荷重を測定したものである。
【0034】
【表1】
【0035】
上記表1のデータから、ガラス繊維添加量に対する付着力を表したものが図7のグラフであり、ガラス繊維添加量に対する付着力比(付着力/圧縮強度)を表したものが図8のグラフである。なお、上記図7および図8中の◆印は実際の測定値の分布状態を示し、曲線は各添加量毎の測定値の平均値曲線である。
【0036】
上記の試験結果から各固結材の付着力は、ガラス繊維添加量が1.0〜2.0重量%のときに増大傾向を示し、特に、1.7重量%のときにピークを示している。また、通常の固結材の概念では、圧縮強度が高くなれば付着力が増すが、本実施例を用いた試験結果によれば、圧縮強度に対する付着力の比率も、ガラス繊維添加量が1.0〜2.0重量%のときに増大傾向を示し、特に、1.7%のときにピークを示すことがわかった。従って、ガラス繊維の添加量は多ければ多いほど付着力が増大するのではなく、セメント系固結材であるドライモルタルの重量に対してガラス繊維を1.0〜2.0重量%の割合で添加したときに、過度に硬化してしまうことなく付着力を増大させ、補強材としての補強管の地山定着効果を効率的に高めることができる。
【0037】
なお、上記以外にも種々の試験を行った結果、セメント系固結材中に少なくともガラス繊維を0.5重量%以上添加すると、添加しない場合よりもフロー値が増大することが確認されている。またガラス繊維の添加量を増やすほどフロー値が増大する傾向にあり、それによって固結材の流動性が低下してリーク等が発生しずらくなるが、あまり多いと、ハンドリングがしづらくなったり、材料コストが増大して不経済であるため、ガラス繊維の添加量は5重量%以下とするのが望ましい。また前記のようにセメント系固結材中にガラス繊維を1.0〜2.0重量%の割合で添加すると付着力が増し、特に1.7〜2.0重量%の割合で混入させたセメント系固結材によるGFRP補強材(例えば前記図1および図2の実施形態で用いたGFRP管、前記図1および図2の実施形態で用いたGFRPよりなるフラットバーで形成した補強管など)との付着力は、ガラス繊維を混入していない場合に比べて19〜55%程度向上することが確認されている。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように本発明による地山補強工法によれば、補強材としての補強管と、その周囲の地山を定着させるための固結材としてセメント系固結材にガラス繊維を混入したものを用いることによって、上記固結材中のガラス繊維が分散した状態でガラス繊維同士またはガラス繊維と補強管もしくは地山とが互いに絡み付きつつ凝結および硬化することで確実に固結材の剛性と付着抵抗力を高めることができる。特に、上記のガラス繊維として長さ2〜10mmのものをセメント系固結材中に0.5〜5重量%、より好ましくは1.0〜2.0重量%の割合で混入すれば、補強管を収容配置する削孔の孔壁に開口亀裂等の空隙が存在する場合にも、それらを良好に塞ぐことができ、セメント系固結材の流出、逸走を抑制するとともに、固結材の凝結および硬化する前には湧水の影響を殆ど受けることなく固化して定着性や補強性能を改善することができる。そのため、トンネルの先受け工や鏡補強工に限らず、各種の地山補強工法として産業上も有効に利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)は本発明による地山補強工法をトンネル先受け工と鏡補強工に適用した一実施形態のトンネルの縦断面図、(b)はその横断面図。
【図2】上記実施形態の一部の拡大縦断面。
【図3】各種固結材の経時硬化特性を示すグラフ。
【図4】本発明による地山補強工法を鏡補強工に適用した他の実施形態のトンネルの縦断面図。
【図5】(a)は上記実施形態に用いたフラットバーよりなる補強管の斜視図、(b)はフラットバーを管状の保持する保持部材の斜視図、(c)は注入管の斜視図。
【図6】(a)〜(d)は固結材の評価用試験体の形成プロセスを示す説明図。
【図7】セメント系固結材へのガラス繊維添加量と付着力との関係を示すグラフ。
【図8】セメント系固結材へのガラス繊維添加量に対する付着力比を示すグラフ。
【図9】(a)は従来の先受け工の一例を示すトンネルの縦断面図、(b)はその横断面図、(c)は一部の拡大縦断面図。
【図10】(a)は従来の鏡補強工の一例を示すトンネルの縦断面図、(b)はその横断面図、(c)は一部の拡大縦断面図。
【図11】(a)、(b)はトンネル切羽部の地山挙動を示す説明図。
【符号の説明】
【0040】
A 先受け工
B 鏡補強工
T トンネル掘削空間
h 削孔
1 地山
1a 切羽
2 鏡部吹付コンクリート
3 削孔ロッド
4a 吹付コンクリート
4b 鋼製支保工
5 削岩機
6 補強管
6a 多孔管
7 バルクヘッド領域
8 固結領域
9 ドリルジャンボ
9a ガイドシェル
10 注入管
11 パッカー
11a パッカー用注入管
12 排気パイプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル掘削空間内から切羽前方地山内に所定の仰角で削孔を施すと同時に、周壁に固結材の吐出孔を有する単一の管または複数本の管を順次接続して形成される補強管を上記削孔内に打設し、その補強管内に固結材を注入して該補強管内およびその周囲の地山内に定着または固結領域を形成して補強する地山補強工法において、
上記固結材としてセメントミルクやセメントモルタル等のセメント系固結材中にガラス繊維を混入したものを用いることを特徴とする地山補強工法。
【請求項2】
上記ガラス繊維として長さ2〜10mmのものを上記セメント系固結材中に0.5〜5重量%の割合で混入してなる請求項1に記載の地山補強工法。
【請求項3】
上記補強管を形成する単一の管または複数本の管として鋼管または繊維強化樹脂管を用いる請求項1または2に記載の地山補強工法。
【請求項1】
トンネル掘削空間内から切羽前方地山内に所定の仰角で削孔を施すと同時に、周壁に固結材の吐出孔を有する単一の管または複数本の管を順次接続して形成される補強管を上記削孔内に打設し、その補強管内に固結材を注入して該補強管内およびその周囲の地山内に定着または固結領域を形成して補強する地山補強工法において、
上記固結材としてセメントミルクやセメントモルタル等のセメント系固結材中にガラス繊維を混入したものを用いることを特徴とする地山補強工法。
【請求項2】
上記ガラス繊維として長さ2〜10mmのものを上記セメント系固結材中に0.5〜5重量%の割合で混入してなる請求項1に記載の地山補強工法。
【請求項3】
上記補強管を形成する単一の管または複数本の管として鋼管または繊維強化樹脂管を用いる請求項1または2に記載の地山補強工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−263882(P2009−263882A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111107(P2008−111107)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【Fターム(参考)】
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