説明

地盤変状防止方法

【課題】 交差点の直下をアンダーパスするトンネルを構築する際に、トンネル区間の両端部にシールド機による土被りの地盤変状が生じるのを防止する。
【解決手段】 シールド機を用いて道路等をアンダーパスするトンネルを構築する際に、トンネル区間の地盤変状を防止するための地盤変状防止方法であって、トンネル区間4の軸方向両端部5、5に位置する土被り厚さが所定の厚さよりも薄い部分、及びその部分に連続する両側部8、8に対して、それぞれ地盤改良方法により地盤改良を施し、その部分を補強する。シールド機によりトンネル区間4を掘進する際に、地盤変状の問題が生じることがないので、トンネル3の全区間に対してシールド機により安定した掘進を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤変状防止方法に関し、特に、道路等をアンダーパスするトンネルをシールド工法により構築する際に、低土被り区間の地盤変状を防止するのに有効な地盤変状防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法は、道路等を開削することなく、道路等をアンダーパスするトンネルを構築することができるので、工期を短縮することができるとともに、工事費を削減することができるものである。また、交通を遮断する必要がないので、周辺の住宅環境に影響を与えることもないものである(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平10−184268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、土被り区間の両端部においては、構造上、土被りの厚さが薄い部分(超低土被り区間)が生じてしまうため、その部分においては、切羽圧力、排出量、裏込注入等の掘進管理を適切に実施することが困難になり、地表面に沈下、隆起等の地盤変状が発生し、この地盤変状が適正に掘進管理を行うことができる部分や、施工箇所の側部にも伝播してしまう。
【0004】
このため、上記のような地盤変状の発生する可能性の高い部分においては、地上占有を行って第三者への影響を防止する必要がある。また、占有部分に既設道路がある場合には迂回路を設ける必要があり、特に、交差点付近においては、右左折レーンを確保する必要があるが、迂回路のための用地を確保することが非常に困難となる。さらに、超低土被り区間で掘進が不安定になった場合、十分な土被りが確保できる区間に入っても、掘進の状態を安定させるまでに時間を要することがある。
【0005】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、道路等をアンダーパスするトンネルを構築する場合に、低土被り区間を掘進する際に、十分な土被り厚さを確保できない部分においても、地盤変状が発生するのを確実に防止することができ、これにより、交差点直下をアンダーパスする区間を施工する場合においても、既設道路の迂回路を設けたり、迂回路のための用地を確保したりする必要がない地盤変状防止方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するために、以下のような手段を採用している。
【0007】
すなわち、請求項1に係る発明は、シールド機を用いて道路等をアンダーパスするトンネルを構築する際に、土被り区間の地盤変状を防止するための地盤変状防止方法であって、トンネル区間の両端部に位置する土被り厚さが所定の厚さよりも薄い部分に地盤改良を施したことを特徴とする。
本発明による地盤変状防止方法によれば、トンネル区間の土被り厚さが所定の厚さよりも薄い両端部を地盤改良により補強することができるので、トンネル区間の全区間において地盤変状が生じるのを防止でき、トンネル区間の全区間においてシールド機による安定した掘進を行うことができる。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の地盤変状防止方法であって、前記地盤改良区間は、前記トンネルの径をDとしたときに、土被り厚さが0.5D〜0.7Dとなる位置を後端とし、その後端からトンネル区間の始端に向かう所定の区間(例えば10m程度)、すなわち土被り区間の地盤変状を防止し得る程度の区間であることを特徴とする。
本発明による地盤変状防止方法によれば、地盤変状が発生する可能性の高い土被り厚さが0.5D〜0.7D以下のトンネル区間の両端部が地盤改良によって補強されることになるので、トンネル区間の全区間において地盤変状が生じるのを防止でき、トンネル区間の全区間においてシールド機による安定した掘進を行うことができる。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の地盤変状防止方法であり、前記シールド機として、複数の主シールドを縦横に所定の配列で組み合わせて、各々の主シールドを独立して駆動可能としたものを用いた地盤変状防止方法であって、前記トンネルの径Dは、前記複数の主シールドのうちの最上段に位置する主シールドの径であることを特徴とする。
本発明による地盤変状防止方法によれば、主シールドの径がシールド機全体の径よりも小さいため、地盤改良が必要な領域を小さくすることができる。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の地盤変状防止方法であって、前記トンネル区間の両端部に位置する土被り厚さが所定の厚さよりも薄い部分の幅方向両側部に地盤改良を施したことを特徴とする。
本発明による地盤変状防止方法によれば、トンネル区間の両端部に位置する土被り厚さが所定の厚さよりも薄い部分の幅方向両側部を地盤改良によって補強することができるので、その部分が崩壊するのを防止できることになる。
【発明の効果】
【0011】
以上、説明したように、本発明の地盤変状防止方法によれば、道路等をアンダーパスするトンネルを構築する場合、トンネル区間の土被り厚さが所定の厚さよりも薄い両端部を地盤改良により補強することができることになる。従って、トンネル区間の全区間において、シールド機による地盤変状が生じるのを防止できるので、トンネル区間の全区間において、シールド機による安定した掘進を行うことができ、工期の短縮化、工事費の削減を図ることができる。
【0012】
また、本発明による地盤変状防止方法によれば、地盤変状が発生する可能性の高い土被り厚さが0.5D〜0.7D以下のトンネル区間の両端部を地盤改良によって補強することができることになる。従って、トンネル区間の全区間において、シールド機による地盤変状が生じるのを防止できるので、トンネル区間の全区間において、シールド機による安定した掘進を行うことができる。本発明において、シールド機として、複数の主シールドを縦横に所定の配列で組み合わせて、各々の主シールドを独立して駆動可能としたものを用いた場合であって、複数の主シールドのうちの最上段に位置する主シールドの径をトンネルの径Dとすることにより、主シールドの径をシールド機全体の径よりも小さくなるため、地盤改良が必要な領域を小さくすることができる。
【0013】
さらに、本発明による地盤変状防止方法によれば、前記トンネル区間の両端部に位置する土被り厚さが所定の厚さよりも薄い部分の幅方向両側部を地盤改良によって補強することができることになる。従って、当該土被り厚さが所定の厚さよりも薄い部分の幅方向両側部が崩壊するのを防止できることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に示す本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図7には、本発明による地盤変状防止方法の一実施の形態が示されていて、図1は地盤変状防止箇所の全体を示す断面図、図2はシールド機の例を示す斜視図、図3は図1の拡大された部分断面図、図4は図3の縦断面図、図5は図3のA−A線断面図、図6は図3のB−B線断面図、図7は図3のC−C線断面図、図8はトンネル区間の両端部に位置する土被り厚さが所定の厚さよりも薄い部分の幅方向両側部における地盤変状防止箇所を示す断面図である。
【0015】
すなわち、この実施の形態に示す地盤変状防止方法は、図1に示すように、道路1をアンダーパスするトンネル3をシールド工法により構築する場合に適用したものであって、特に、交差点2の直下をアンダーパスするトンネル区間4を掘進する際に有効なものである。なお、図中の7,7は、トンネル区間4の両側に形成されるアプローチ区間である。
【0016】
本実施の形態では、シールド機として、例えば、図2に示されるものが採用される。同図のシールド機100は、矩形筒状の前胴体101と、前胴体101内に縦横に所定の組合せで配列されるとともに、各々が独立して前胴体101から出没可能、かつ各々が独立して駆動可能な複数の矩形状の主シールド102と、幅方向の両端の主シールド102と前胴体101との間に設けられるとともに、各々が独立して前胴体101から出没可能、かつ各々が独立して駆動可能な複数の主シールド102よりも小幅にして縦長の矩形状の側部シールド103とを備えている。
【0017】
道路1の交差点2の直下をアンダーパスするトンネル区間4は、図3〜図5に示すように、シールド機による土被りの地盤変状を防止するため、土被りの厚さが0.5D〜0.7D(D;トンネルの径、シールド機が断面円形であるときは直径、断面矩形であるときは一辺の長さ、以下、同じ。)以上に設定される。本実施の形態におけるトンネルの径Dは、複数の主シールド101のうちの最上段に位置する主シールドの径である。
【0018】
ところで、トンネル区間4の両端部5、5においては、構造上、例えば0.5Dよりも薄い部分が生じるため、その部分に地盤変状の問題が生じることは避けられない。また、図3及び図4に示すように、トンネル区間4の両端部5、5に位置する土被り厚さが所定の厚さよりも薄い部分の幅方向両側部8、8では、トンネル区間4の地盤変状に起因する崩壊が生じることがある。
【0019】
このため、この実施の形態においては、トンネル区間4の軸方向両端部5、5に位置する土被り厚さが所定の厚さよりも薄い部分に対して地盤改良を施し、この地盤改良部6によって当該部分を補強している。地盤改良方法としては、周知の薬液注入工法、高圧噴射攪拌工法(例えば、CJG工法(商品名):http://www.raito.co.jp/construction/ground/cjg.html)等の地盤改良方法を用いることができる。薬液としては、例えば、水ガラスと硬化剤とを組み合わせたものを使用することができ、薬液を地盤改良部分に注入して硬化させることにより、その部分を補強することができる。
【0020】
地盤改良部6は、図1、図3〜5に示すように、後端を土被りの厚さが0.5D〜0.7Dとなる位置とし、先端をトンネル区間4の始端に向かう所定の区間とする範囲内とする。この範囲は、土質、トンネル径等に基づいて、掘削時にトンネル区間4に地盤変状が生じないものとなる値を計算することにより求めることができる。そして、その範囲内の全体に薬液を注入して硬化させることにより、その部分に直方体状の補強された地盤を形成することができる。
【0021】
地盤改良部6のさらにトンネル軸方向両側には、地盤改良部6と連続して、トンネル幅方向両側部8,8に地盤改良を施すことが好ましい。さらに、トンネル幅方向両側部に位置する地盤改良部9、9は、図1、図2〜図8に示すように、セグメントSの上部に位置する地盤改良部9aと連続しトンネル軸方向と直交する鉛直断面がL字形状となっていることが好ましい。
【0022】
ここで、トンネル幅方向両側部8,8の地盤改良部9、9の始端は、トンネル軸方向と直交する鉛直断面において、トンネル幅方向における工事占有部分を画定する境界線と、掘削部分の開口上縁(セグメントSの外側上角部)とのなす角度が所定角度(例えば45度)を超えない位置とするものとする。この角度が例えば45度を超えると、トンネル掘削の際、地盤が変状する領域が工事占有部分を超えるおそれがあるから、上記角度を超えない位置を地盤改良部9,9の始端とすることにより、トンネル掘削に際して地盤変状部分が工事占有部分を超えることがない。
【0023】
そして、上記のように、トンネル区間4の軸方向両端部5、5に位置する土被り厚さが所定の厚さよりも薄い部分に対して地盤改良を施した地盤改良部6と、トンネル幅方向両側部8,8に位置する地盤改良部9、9とを備えることにより、シールド機によりアプローチ区間7及びトンネル区間4の掘進を行う際、トンネル区間4に土被りの地盤変状に伴う地盤の変状の問題が生じることがなく、トンネル3となる部分の全区間に対して、シールド機により安定した掘進を効率良く行うことができることになる。
【0024】
従って、交差点2の直下をアンダーパスする区間を施工する場合においても、既設道路の迂回路を設けたり、迂回路のための用地を確保したりする必要がなくなり、工期の短縮化、工事費の削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による地盤変状防止方法の一実施の形態を示したものであって、地盤変状防止箇所の全体を示す断面図である。
【図2】シールド機の例を示す斜視図
【図3】図1の拡大された部分断面図である。
【図4】図3の縦断面図である。
【図5】図3のA−A線断面図である。
【図6】図3のB−B線断面図である。
【図7】図3のC−C線断面図である。
【図8】トンネル幅方向の地盤改良位置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 道路
2 交差点
3 トンネル
4 トンネル区間
5 端部
6 地盤改良部
8 側部
9 地盤改良部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド機を用いて道路等をアンダーパスするトンネルを構築する際に、土被り区間の地盤変状を防止するための地盤変状防止方法であって、
トンネル区間の両端部に位置する土被り厚さが所定の厚さよりも薄い部分に地盤改良を施したことを特徴とする地盤変状防止方法。
【請求項2】
前記地盤改良区間は、前記トンネルの径をDとしたときに、土被り厚さが0.5D〜0.7Dとなる位置を後端とし、その後端からトンネル区間の始端に向かう所定の区間であることを特徴とする請求項1に記載の地盤変状防止方法。
【請求項3】
前記シールド機として、複数の主シールドを縦横に所定の配列で組み合わせて、各々の主シールドを独立して駆動可能としたものを用いた地盤変状防止方法であって、
前記トンネルの径Dは、前記複数の主シールドのうちの最上段に位置する主シールドの径であることを特徴とする請求項2に記載の地盤変状防止方法。
【請求項4】
前記トンネル区間の両端部に位置する土被り厚さが所定の厚さよりも薄い部分の幅方向両側部に地盤改良を施したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の地盤変状防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−16962(P2006−16962A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−176769(P2005−176769)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【分割の表示】特願2004−197172(P2004−197172)の分割
【原出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】