説明

坩堝

【課題】蒸着材料による開口部の閉塞を防止し、安定した成膜レートで高品質な膜を成膜することが可能な坩堝を提供する。
【解決手段】本発明の坩堝1は、同軸的に設けられた内筒部12と外筒部11とを有し、内筒部12と外筒部11との間に挟まれた環状空間の内部に蒸着材料Mを装填可能な有底筒状の蒸着セル10と、内筒部12を挿通可能な開口部30aを有し、蒸着セル10の上部に装着された蓋部材30と、内筒部12の内壁面に設けられた中央加熱部21と外筒部11の外壁面に設けられた周辺加熱部22とを含む加熱装置20と、を備え、中央加熱部21が、少なくとも内筒部12の底部から蓋部材30の開口部30aと同じ高さまで配設され、内筒部12を蒸着材料Mの蒸着温度以上の温度に加熱するように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坩堝に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抵抗加熱や誘導加熱を用いた蒸着装置では、坩堝内に装填された蒸着材料を加熱し、これを蒸発させて基板上に薄膜を形成する。坩堝には、蒸着材料が装填される蒸着セルの上部に所定の開口部を有する蓋部材が設けられており、この蓋部材を介して蒸着セルの内部から蒸着材料の蒸気が排出される。
【0003】
一般に、蒸着セルの外周面にはヒーター等の加熱装置が設けられており、この加熱装置により蒸着セルの内部に装填された蒸着材料を加熱する。このとき蓋部材の開口部は加熱部から離れているため十分に加熱されず、蒸着材料が付着して開口部を塞いでしまうことがある。そのため、特許文献1,2では、開口部に熱遮蔽板を設けたり、蒸着セルの開口部近傍を蛇腹構造にして開口部の温度が低下しないようにした坩堝が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005―54270号公報
【特許文献2】特開2006―9134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2の構造は、坩堝内部の保温性を高めて間接的に蓋部材の開口部を加熱しているに過ぎない。そのため、必ずしも十分に開口部を加熱することできず、上記の問題を解決するための対策としては不十分であった。
【0006】
加熱装置の温度を高くして開口部の温度を高めることもできるが、その場合、蒸着セルの内部に大きな温度分布が発生し、成膜レートの制御が難しくなる場合がある。また、有機材料を蒸着する場合には、蒸着セルの外壁面近傍に設けた有機材料が加熱装置の熱によって劣化してしまい、成膜後の品質に問題を生じる場合がある。
【0007】
一方、蓋部材に直接高温の加熱源を接続することも考えられるが、その場合、蓋部材の取り付け作業や取り外し作業が煩雑になり、メンテナンス時に問題となる。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、蒸着材料による開口部の閉塞を防止し、安定した成膜レートで高品質な膜を成膜することが可能な坩堝を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の坩堝は、同軸的に設けられた内筒部と外筒部とを有し、前記内筒部と前記外筒部との間に挟まれた環状空間の内部に蒸着材料を装填可能な有底筒状の蒸着セルと、前記内筒部を挿通可能な開口部を有し、前記蒸着セルの上部に装着された蓋部材と、前記内筒部の内壁面に設けられた中央加熱部と前記外筒部の外壁面に設けられた周辺加熱部とを含む加熱装置と、を備え、前記中央加熱部が、少なくとも前記内筒部の底部から前記蓋部材の開口部と同じ高さまで配設され、前記内筒部を前記蒸着材料の蒸着温度以上の温度に加熱するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、蒸着セルの中央部に蓋部材の開口部に達する高さの加熱部(中央加熱部)を設けているので、蓋部材の開口部を十分に加熱することができ、加熱不足による開口部の閉塞を確実に防止することができる。
【0011】
すなわち、本発明の坩堝では、中央加熱部によって蓋部材の開口部を蒸着材料の蒸着温度以上の温度に加熱するので、蓋部材の開口部に蒸着材料が付着しても、これを再び蒸発させることができる。そのため、開口部の開口面積が一定に保たれ、成膜レートが安定する。
【0012】
また、蒸着セルの内部を中央加熱部と周辺加熱部の双方で加熱するので、蒸着セルの内部の温度分布が均一になり、更に成膜レートの安定化に寄与すると共に、蒸着セルの中央部と外周部で蒸着材料の使用量が均一化されるので、蒸着材料の利用効率が高まる。
【0013】
また、本発明の坩堝では、蓋部材の開口部に中央加熱部を挿通させて該開口部を加熱する構造としているため、蓋部材に直接高温の加熱装置を接続する場合に比べて、加熱装置の取り付けや取り外しの作業が不要となり、メンテナンスも容易となる。
【0014】
本発明の坩堝においては、前記中央加熱部の温度が前記周辺加熱部の温度と同じ温度に制御されることが望ましい。
【0015】
この構成によれば、蒸着セルの内筒部と外筒部が同じ温度となるので、蒸着セルの内部全体が略均一な温度で加熱されることになる。そのため、更に成膜レートが安定し、材料の利用効率も高まる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の坩堝の一実施形態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明の坩堝の一実施形態を示す概略構成図である。図1(a)は坩堝1の平面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A′線に沿う断面図である。
【0018】
本実施形態の坩堝1は、蒸着材料Mを装填可能な有底筒状の蒸着セル10と、蒸着セル10の上部に装着された蓋部材30と、蒸着セル10の側面に設けられた中央加熱部21及び周辺加熱部22からなる加熱装置20と、を有する。
【0019】
蒸着セル10は、同軸的に設けられた内筒部12と外筒部11とを有する。内筒部12と外筒部11とは底部(底面部15)で接続され、内筒部12と外筒部11と底面部15とによって囲まれた環状空間が、蒸着材料Mを装填可能な空間となっている。
【0020】
蓋部材30は、中央部に蒸着材料Mの蒸気(分子や原子の蒸気流)を排出可能な開口部30aを有する。開口部30aは内筒部12と同軸的に設けられ、内筒部12と一定の間隔を有した状態で内筒部12を内側に挿通可能となっている。蓋部材30は、内筒部12と外筒部11との間の環状空間に嵌装可能に構成され、その外周部が、外筒部11の上端部に形成された支持部13上に支持されるようになっている。
【0021】
本実施形態の場合、内筒部12と外筒部11と開口部30aはいずれも平面視円形状であり、それらが同心円状に配置される構成となっている。
【0022】
内筒部12の内壁面には、電熱線等の発熱体からなる中央加熱部21が設けられている。中央加熱部21は、内筒部12の底部(底面部15)から内筒部12の上部まで配設されている。中央加熱部21の上端部は、少なくとも蓋部材2の開口部30aと同じ高さまで配設されている。
【0023】
外筒部11の外壁面には、ヒーター等の発熱体からなる周辺加熱部22が設けられている。周辺加熱部22は、外筒部11の底部(底面部15)から外筒部11の上部まで配設されている。周辺加熱部22の高さは、蒸着材料Mを十分に加熱可能な高さであれば良く、本実施形態の場合は蓋部材30と同じ高さまで配設されている。
【0024】
中央加熱部21と周辺加熱部22は、図示略の加熱制御装置に接続されている。加熱制御装置では、中央加熱部21と周辺加熱部22を蒸着材料Mの蒸着温度以上、すなわち、蒸着材料Mが蒸発・昇華する温度以上に加熱する。加熱制御装置は、坩堝1の温度を熱電対などで監視しながら発熱体への給電を制御する。
【0025】
中央加熱部21と周辺加熱部22は異なる温度で別々に制御しても良いし、同じ温度で共通に制御しても良い。本実施形態では、中央加熱部21と周辺加熱部22を同じ温度で制御する。こうすることで、蒸着セル20の内部の温度分布を均一にすることができ、成膜レートの均一化や蒸着材料Mの利用効率の向上が図られる。
【0026】
例えば、中央加熱部21を周辺加熱部22に比べて極端に高い温度にした場合、内筒部12近傍の蒸着材料Mが早く消費されるため、蒸発量は時間と共に低下していくことになる。一方、中央加熱部21と周辺加熱部22の温度を等しくした場合、内筒部12近傍の蒸着材料Mと外筒部11近傍の蒸着材料Mは同じ量ずつ蒸発していくので、最後まで蒸発量は変わらない。
【0027】
上記構成の坩堝1によれば、蒸着セル10の中央部に蓋部材30の開口部30aに達する高さの加熱部(中央加熱部21)を設けているので、蓋部材30の開口部30aを十分に加熱することができ、加熱不足による開口部30aの閉塞(蒸着材料Mが開口部30aに付着することにより生じる閉塞)を確実に防止することができる。
【0028】
すなわち、本実施形態の坩堝1では、中央加熱部21によって蓋部材30の開口部30aを蒸着材料Mの蒸着温度以上の温度に加熱するので、蓋部材の開口部に蒸着材料が付着しても、これを再び蒸発させることができる。そのため、開口部30aの開口面積が一定に保たれ、成膜レートが安定する。
【0029】
また、蒸着セル10の内部を中央加熱部21と周辺加熱部22の双方で加熱するので、蒸着セル10の内部の温度分布が均一になり、更に成膜レートの安定化に寄与すると共に、蒸着セル10の中央部と外周部で蒸着材料Mの使用量が均一化されるので、蒸着材料Mの利用効率が高まる。
【0030】
また、本実施形態の坩堝1では、蓋部材30の開口部30aに中央加熱部21を挿通させて開口部30aを加熱する構造としているため、蓋部材30に直接高温の加熱装置を接続する場合に比べて、加熱装置の取り付けや取り外しの作業が不要となり、メンテナンスも容易となる。
【符号の説明】
【0031】
1…坩堝、10…蒸着セル、11…外筒部、12…内筒部、20…加熱装置、21…中央加熱部、22…周辺加熱部、30…蓋部材、30a…開口部、M…蒸着材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸的に設けられた内筒部と外筒部とを有し、前記内筒部と前記外筒部との間に挟まれた環状空間の内部に蒸着材料を装填可能な有底筒状の蒸着セルと、
前記内筒部を挿通可能な開口部を有し、前記蒸着セルの上部に装着された蓋部材と、
前記内筒部の内壁面に設けられた中央加熱部と前記外筒部の外壁面に設けられた周辺加熱部とを含む加熱装置と、を備え、
前記中央加熱部が、少なくとも前記内筒部の底部から前記蓋部材の開口部と同じ高さまで配設され、前記内筒部を前記蒸着材料の蒸着温度以上の温度に加熱するように構成されていることを特徴とする坩堝。
【請求項2】
前記中央加熱部の温度が前記周辺加熱部の温度と同じ温度に制御されることを特徴とする請求項1に記載の坩堝。

【図1】
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【公開番号】特開2010−229444(P2010−229444A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75915(P2009−75915)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】