説明

垂直磁気ディスク

【課題】補助記録層としての機能を維持しつつ薄膜化を図り、SNRの向上およびオーバーライト特性の向上を図る。
【解決手段】本発明に係る垂直磁気ディスクの代表的な構成は、基板上に、グラニュラ磁性層160と、該グラニュラ磁性層160より上方に配置された補助記録層180とを備え、グラニュラ磁性層160は柱状に成長したCoCrPt合金を主成分とする磁性粒子の周囲に酸化物を主成分とする非磁性物質が偏析して粒界部が形成されたグラニュラ構造を有し、補助記録層180はCoCrPtRu合金を主成分とし、膜厚が1.5nm〜4.0nmであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気ディスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率60%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径の磁気記録媒体にして、320GByte/プラッタを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請にこたえるためには500GBit/Inchを超える情報記録密度を実現することが求められる。
【0003】
垂直磁気ディスクの高記録密度化のために重要な要素としては、トラック幅の狭小化によるTPI(Tracks per Inch)の向上、及び、BPI(Bits per Inch)向上時のシグナルノイズ比(SNR:Signal to Noise Ratio)やオーバーライト特性(OW特性)などの電磁変換特性の確保、さらには、前記により記録ビットが小さくなった状態での熱揺らぎ耐性の確保、などが上げられる。中でも、高記録密度条件でのSNRの向上は重要である。
【0004】
近年主流になっているグラニュラ構造の磁性層は、柱状に成長したCoCrPt合金を主成分とする磁性粒子の周囲に酸化物を主成分とする非磁性物質が偏析して粒界部が形成されている。この構成では磁性粒子同士が分離されているためにノイズが低減され、高SNRに有効である。さらにSNRを高めるための重要な要素は、結晶配向性を高めることである。Coはhcp構造(六方細密格子構造)を取り、c軸方向(結晶格子である六角柱の軸方向)が磁化容易軸となる。したがって、より多くの結晶のc軸をより垂直方向に配向させることにより、ノイズが低減し、またシグナルが強くなって、相乗効果的にSNRを向上させることができる。
【0005】
スパッタによってhcp構造の金属を成膜するとき、膜厚が厚くなるほど結晶配向性は向上する傾向にある。そこでグラニュラ磁性層の結晶配向性を初期成長段階から高めるために、従来からhcp構造の金属であるRuで下地層(中間層とも呼ばれている)を成膜し、その上にグラニュラ磁性層を成膜することが行われている。そしてさらに、Ru下地層の下に結晶性の前下地層(シード層とも呼ばれている)を設け、Ru下地層の結晶配向性を向上させることが行われている。
【0006】
特許文献1には、裏打ち層を構成する軟磁性膜を非晶質構造、下地膜(本願でいう前下地層に相当する)をNiW合金、中間膜(本願でいう下地層に相当する)をRu合金とする構成が記載されている。特許文献1によれば、下地膜をNiW合金、中間膜をRu合金とすることにより、生産性に優れ、かつ高密度の情報の記録再生が可能であると述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−179598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
今後、さらなる高記録密度化を図るために、磁性粒子、ひいてはその土台であるところの下地層の結晶配向性をさらに改善し、SNRを向上させる必要がある。
【0009】
そこで本発明は、Ni系合金からなる前下地層の結晶配向性をさらに向上させることにより、SNRの向上と高記録密度化を図った垂直磁気ディスクを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る垂直磁気ディスクの代表的な構成は、基板上に、非晶質合金層と、非晶質合金層の上に設けられる前下地層と、前下地層の上に設けられたhcp結晶構造のRuまたはRu系合金からなる下地層と、下地層の上に設けられたグラニュラ磁性層とを備え、非晶質合金層はTaを含み、前下地層は、微結晶のTiまたはTi合金からなる第1前下地層と、fcc結晶構造のNi系合金からなる第2前下地層とを含むことを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、非晶質合金層にTaを含ませることによって高い非晶質性を確保し、表面の平坦な膜を形成することができる。次に、TiまたはTi合金の微結晶からなる第1前下地層を形成することによって、高い平坦性を維持しつつ微細構造の土台を作ることができる。このとき、Ta含有膜上にTiまたはTi合金の薄膜を形成するため、他の元素を積層する場合のように界面の荒れがないため、平坦性が保たれる。
【0012】
さらに、fcc結晶構造の第2前下地層を形成することによって、前述の2つの層で形成された平坦性と微細構造を引き継ぎ、結晶配向性と微細構造に優れたfcc結晶構造の層を得ることができる。ここで、Tiの微結晶からなる層は、Ni系合金の結晶配向性を向上させる事ができる。これにより下地層およびグラニュラ磁性層の磁性粒の結晶配向性を向上させて、SNRを向上させることができる。
【0013】
非晶質合金層は、Taを30at%以上含むことが好ましい。これにより有効に非晶質化を促進し、表面の平坦化を図ることができる。
【0014】
第1前下地層の膜厚は1nm以上5nm以下であることが好ましい。第1前下地層の膜厚が1nm〜5nmの間でSNRにピークを有するため、この間の膜厚で微結晶になっていると考えられるからである。1nm未満で特性向上が見られないのは、薄すぎて第1前下地層が非晶質構造になっているためと考えられる。5nmより厚いと特性(SNR)が却って低下してしまうのは、Tiがhcp結晶構造を形成してしまい、Tiを含有する第1前下地層の結晶粒が肥大化し、この事により下地層、グラニュラ磁性層の粒が肥大化したためと考えられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、Taを含む非晶質合金層によって平坦化を図り、次に微結晶の第1前下地層によって、fcc結晶構造の第2前下地層の結晶配向性の向上を図ることができる。さらに磁性粒の結晶配向性が改善されることにより、SNRを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】垂直磁気ディスクの構成を説明する図である。
【図2】Tiの膜厚とX線回折強度を示す図である。
【図3】第1前下地層の膜厚と下地層のΔθ50およびSNRの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
(垂直磁気ディスク)
図1は、第1実施形態にかかる垂直磁気ディスク100の構成を説明する図である。図1に示す垂直磁気ディスク100は、基板110、付着層120、軟磁性層130、非晶質合金層138、前下地層140(第1前下地層142および第2前下地層144を含む)、下地層150、グラニュラ磁性層160、分断層170、補助記録層180、保護層190、潤滑層200で構成されている。
【0019】
基板110は、例えばアモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型したガラスディスクを用いることができる。なおガラスディスクの種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。ガラスディスクの材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどが挙げられる。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性の基板110を得ることができる。
【0020】
基板110上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて付着層120から補助記録層180まで順次成膜を行い、保護層190はCVD法により成膜することができる。この後、潤滑層200をディップコート法により形成することができる。以下、各層の構成について説明する。
【0021】
付着層120は基板110に接して形成され、この上に成膜される軟磁性層130と基板110との密着強度を高める機能を備えている。付着層120は、例えばCrTi系非晶質合金、CoW系非晶質合金、CrW系非晶質合金、CrTa系非晶質合金、CrNb系非晶質合金等のアモルファス(非晶質)の合金膜とすることが好ましい。付着層120の膜厚は、例えば2〜20nm程度とすることができる。付着層120は単層でも良いが、複数層を積層して形成してもよい。
【0022】
軟磁性層130は、垂直磁気記録方式において信号を記録する際、ヘッドからの書き込み磁界を収束することによって、磁気記録層への信号の書き易さと高密度化を助ける働きをする。軟磁性材料としては、CoTaZrなどのコバルト系合金の他、FeCoCrB、FeCoTaZr、FeCoNiTaZrなどのFeCo系合金や、NiFe系合金などの軟磁気特性を示す材料を用いることができる。また、軟磁性層130のほぼ中間にRuからなるスペーサ層を介在させることによって、AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することができる。こうすることで磁化の垂直成分を極めて少なくすることができるため、軟磁性層130から生じるノイズを低減することができる。スペーサ層を介在させた構成の場合、軟磁性層130の膜厚は、スペーサ層が0.3〜0.9nm程度、その上下の軟磁性材料の層をそれぞれ10〜50nm程度とすることができる。
【0023】
非晶質合金層138は、Taを含み、表面の平坦性を担保する層である。Taは非晶質性を高める働きを有しており、極めて表面の平坦な膜を形成することができる。Taの高い非晶質性を確保するために、Taは30at%以上含むことが好ましい。具体例としては、NiTa、CrTaとすることができる。またTaを含む非晶質合金層138の上に次に述べる第1前下地層142を成膜しても界面が荒れることがなく、平坦性が確保される。
【0024】
前下地層140は、第1前下地層142および第2前下地層から構成される。前下地層140は、この上方に形成される下地層150の結晶配向性を促進する機能と、粒径等の微細構造を制御する機能とを備える。
【0025】
第1前下地層142は、TiまたはTi合金からなる微結晶構造を有している。微結晶構造とは、微細な結晶の集合によって形成されている状態である。微結晶構造となっているかどうかは、X線回折(XRD:X-ray diffaction)で測定したときに回折線のピークがほぼ現れないことによって確認することができる。Ti合金としては、Tiの比率が高いほど微結晶を形成しやすく好ましい。さらには、意図しない不純物を除けばTiであることが好ましい。
【0026】
第1前下地層142が微結晶であることにより、Tiの微結晶の上に第2前下地層144のNi系合金の結晶が成長するため、第2前下地層144の結晶配向性を向上させることができる。これにより、SNRの向上を図ることができる。仮に第1前下地層142が非晶質であるとすると、第2前下地層144は何もないところから結晶成長を開始するため、fccの結晶配向性が整うまでに多くの膜厚を要する。この事により粒の肥大化が懸念される。一方、第1前下地層142が結晶質であると、第2前下地層144はその結晶構造を継承しながら成長しようとするため、格子マッチングに支障をきたし、結晶配向性が低下してしまう場合もある。
【0027】
第1前下地層の膜厚は1nm以上5nm以下であることが好ましい。第1前下地層142の膜厚が1nm〜5nmの間でSNRにピークを有するため、この間の膜厚で微結晶になっていると考えられるからである。1nm未満で特性向上が見られないのは、薄すぎて第1前下地層142が非晶質構造になっているためと考えられる。5nmより厚いと特性が却って低下してしまうのは、Tiが結晶構造を形成してしまうためと考えられる。
【0028】
第2前下地層144は、fcc結晶構造(面心立方構造)のNi系合金からなり、(111)面が基板110の主表面と平行となるよう配向している。第2前下地層144の材料としては、例えば、Niを主成分として、V、Cr、Mo、W、Ta、等を1つ以上添加させた合金とすることができる。具体的には、NiV、NiCr、NiTa、NiW、NiVCr等を好適に選択することができる。なお主成分とは、最も多く含まれている成分をいう。第2前下地層144の膜厚は1〜20nm程度とすることができる。
【0029】
下地層150はhcp構造であって、この上方に形成されるグラニュラ磁性層160のhcp構造の磁性結晶粒子の結晶配向性を促進する機能と、粒径等の微細構造を制御する機能とを備え、グラニュラ構造のいわば土台となる層である。RuはCoと同じhcp構造をとり、また結晶の格子間隔がCoと近いため、Coを主成分とする磁性粒を良好に配向させることができる。したがって、下地層150の結晶配向性が高いほど、グラニュラ磁性層160の結晶配向性を向上させることができる。また、下地層150の粒径を微細化することによって、グラニュラ磁性層の粒径を微細化することができる。下地層150の材料としてはRuが代表的であるが、さらにCr、Coなどの金属や、酸化物を添加することもできる。下地層150の膜厚は、例えば5〜40nm程度とすることができる。
【0030】
また、スパッタ時のガス圧を変更することにより下地層150を2層構造としてもよい。具体的には、下地層150の上層側を形成する際に下層側を形成するときよりもArのガス圧を高圧にすると、上方のグラニュラ磁性層160の結晶配向性を良好に維持したまま、磁性粒子の粒径の微細化が可能となる。
【0031】
グラニュラ磁性層160は、Co−Pt系合金を主成分とする強磁性体の磁性粒子の周囲に、酸化物を主成分とする非磁性物質を偏析させて粒界を形成した柱状のグラニュラ構造を有している。例えば、CoCrPt系合金にSiOや、TiOなどを混合したターゲットを用いて成膜することにより、CoCrPt系合金からなる磁性粒子(グレイン)の周囲に非磁性物質であるSiOや、TiOが偏析して粒界を形成し、磁性粒子が柱状に成長したグラニュラ構造を形成することができる。
【0032】
なお、上記に示したグラニュラ磁性層160に用いた物質は一例であり、これに限定されるものではない。CoCrPt系合金としては、CoCrPtに、B、Ta、Cu、Ruなどを1種類以上添加してもよい。また、粒界を形成するための非磁性物質としては、例えば酸化珪素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化クロム(Cr)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)、酸化コバルト(CoOまたはCo)、等の酸化物を例示できる。また、1種類の酸化物のみならず、2種類以上の酸化物を複合させて使用することも可能である。
【0033】
分断層170は、グラニュラ磁性層160と補助記録層180の間に設けられ、これらの層の間の交換結合の強さを調整する作用を持つ。これによりグラニュラ磁性層160と補助記録層180の間、およびグラニュラ磁性層160内の隣接する磁性粒子の間に働く磁気的な相互作用の強さを調節することができるため、HcやHnといった熱揺らぎ耐性に関係する静磁気的な値は維持しつつ、オーバーライト特性、SNR特性などの記録再生特性を向上させることができる。
【0034】
分断層170は、結晶配向性の継承を低下させないために、hcp結晶構造を持つRuやCoを主成分とする層であることが好ましい。Ru系材料としては、Ruの他に、Ruに他の金属元素や酸素または酸化物を添加したものが使用できる。また、Co系材料としては、CoCr合金などが使用できる。具体例としては、Ru、RuCr、RuCo、Ru−SiO、Ru−WO、Ru−TiO、CoCr、CoCr−SiO、CoCr−TiOなどが使用できる。なお分断層170には通常非磁性材料が用いられるが、弱い磁性を有していてもよい。また、良好な交換結合強度を得るために、分断層170の膜厚は、0.2〜1.0nmの範囲内であることが好ましい。
【0035】
また分断層170の構造に対する作用としては、上層の補助記録層180の結晶粒子の分離の促進である。例えば、上層が酸化物のように非磁性物質を含まない材料であっても、磁性結晶粒子の粒界を明瞭化させることができる。
【0036】
補助記録層180は基板主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した磁性層である。補助記録層180は、グラニュラ磁性層160に対して磁気的相互作用(交換結合)を有するため、保磁力Hcや逆磁区核形成磁界Hn等の静磁気特性を調整することが可能であり、これにより熱揺らぎ耐性、OW特性、およびSNRの改善を図ることを目的としている。補助記録層180の材料としてはCoCrPt合金を用いることができ、さらに、B、Ta、Cu等の添加物を加えてもよい。具体的には、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtTa、CoCrPtCu、CoCrPtCuBなどとすることができる。また、補助記録層180の膜厚は、例えば3〜10nmとすることができる。
【0037】
なお、「磁気的に連続している」とは、磁性が途切れずにつながっていることを意味している。「ほぼ連続している」とは、補助記録層180全体で観察すれば必ずしも単一の磁石ではなく、部分的に磁性が不連続となっていてもよいことを意味している。すなわち補助記録層180は、複数の磁性粒子の集合体にまたがって(かぶさるように)磁性が連続していればよい。この条件を満たす限り、補助記録層180において例えばCrが偏析した構造であっても良い。
【0038】
保護層190は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気ディスク100を防護するための層である。保護層190は、カーボンを含む膜をCVD法により成膜して形成することができる。一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気ディスク100を防護することができるため好適である。保護層190の膜厚は、例えば2〜6nmとすることができる。
【0039】
潤滑層200は、垂直磁気ディスク100の表面に磁気ヘッドが接触した際に、保護層190の損傷を防止するために形成される。例えば、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により塗布して成膜することができる。潤滑層200の膜厚は、例えば0.5〜2.0nmとすることができる。
【0040】
(実施例1)
上記構成の垂直磁気ディスク100の有効性を確かめるために、以下の実施例と比較例を用いて説明する。
【0041】
実施例として、基板110上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、付着層120から補助記録層132まで順次成膜を行った。なお、断らない限り成膜時のArガス圧は0.6Paである。付着層120はCr−50Tiを10nm成膜した。軟磁性層130は、0.7nmのRu層を挟んで、92(40Fe−60Co)−3Ta−5Zrをそれぞれ20nm成膜した。非晶質合金層138は50Ni−50Taで2.0nm成膜した。第1前下地層142はTiを用いて、下記のように様々な膜厚で成膜した。第2前下地層144はNi−5Wを8nm成膜した。下地層150は0.6PaでRuを10nm成膜した上に5PaでRuを10nm成膜した。グラニュラ磁性層160は、3Paで90(70Co−10Cr−20Pt)−10(Cr)を2nm成膜した上に、さらに3Paで90(72Co−10Cr−18Pt)−5(SiO)−5(TiO)を12nm成膜した。分断層170はRuを0.3nm成膜した。補助記録層180は62Co−18Cr−15Pt−5Bを6nm成膜した。保護層190はCVD法によりCを用いて4.0nm成膜し、表層を窒化処理した。潤滑層200はディップコート法によりPFPEを用いて1nm形成した。
【0042】
図2はTiの膜厚とX線回折強度を示す図である。図に示すように、Ti薄膜は5nm以上でTi(002面)のX線回折ピークが観測される(36.5〜37°近傍)。このことから、Tiは5nmより厚くなると結晶化が進み、5nm以下では微結晶であることがわかる。
【0043】
図3は第1前下地層の膜厚と下地層のΔθ50およびSNRの関係を示す図である。ここで非晶質下地層150は50Ni−50Ta、第2前下地層144はNi−5Wとし、第1前下地層の材料を、Ti(実施例1−1〜1−5、実施例3、実施例4)、55Co−Cr40−5AL(比較例1−1〜比較例1−4)、55Co−Cr40−5Cu(比較例2−1〜比較例2−4)に変えて比較した。また第1前下地層142を有さないものを比較例3、非晶質合金層138を有さないものを比較例4とする。
【0044】
図3からわかるように、実施例の構成では、第1前下地層142の膜厚が厚くなるほどΔθ50が向上している(小さくなる)。一方、比較例1−1〜比較例1−4、比較例2−1〜比較例2−4の構成では、第1前下地層142の膜厚が厚くなるほどΔθ50が劣化している。このように、CoもTiと同様にhcp構造の元素であるが、上記のように挙動が異なることから、hcp系の材料であればよいわけではないことがわかる。したがって、他の材料よりもTiがよいことが確認できる。
【0045】
さらに実施例の中での動きを観察すれば、膜厚が厚くなるほどΔθ50が改善する。このことから、第1前下地層142の結晶性が向上するほどに結晶配向性が向上することがわかる。
【0046】
また図3においてSNRに着目すると、第1前下地層142の膜厚が5nm以下の実施例1−1〜実施例1−4で、膜厚が0nmの比較例3よりもSNRが向上している。一方、第1前下地層142の膜厚が5nmよりも厚くなる実施例1−5では急速にSNRが低下し、比較例3よりも低くなっていることがわかる。これは第1前下地層142が膜厚5nmを超えると微結晶から結晶質に成長し、第2前下地層144の結晶粒子が成長しすぎて肥大化してしまったためと考えられる。そして比較例1−1〜比較例1−4、比較例2−1〜比較例2−4では、第1前下地層の膜厚が厚くなるほどSNRが低下する傾向にある。これらのことは、Δθ50の傾向と挙動に対応している。
【0047】
これらのことから、Ni系合金からなる第2前下地層144の下にTiからなる第1前下地層142を設け、微結晶となる5nm以下の膜厚とすることにより、SNRを向上させられることが確認できた。
【0048】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDDなどに搭載される垂直磁気ディスクおよびその製造方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
100…垂直磁気ディスク、110…基板、120…付着層、130…軟磁性層、138…非晶質合金層、140…前下地層、142…第1前下地層、144…第2前下地層、150…下地層、160…グラニュラ磁性層、170…分断層、180…補助記録層、190…保護層、200…潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、非晶質合金層と、非晶質合金層の上に設けられる前下地層と、前下地層の上に設けられたhcp結晶構造のRuまたはRu系合金からなる下地層と、前記下地層の上に設けられたグラニュラ磁性層とを備え、
前記非晶質合金層はTaを含み、
前記前下地層は、微結晶のTiまたはTi合金からなる第1前下地層と、fcc結晶構造のNi系合金からなる第2前下地層とを含むことを特徴とする垂直磁気ディスク。
【請求項2】
前記非晶質合金層は、Taを30at%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気ディスク。
【請求項3】
前記第1前下地層の膜厚は1nm以上5nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気ディスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−216162(P2011−216162A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83980(P2010−83980)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(510210911)ダブリュディ・メディア・シンガポール・プライベートリミテッド (53)
【Fターム(参考)】