説明

垂直磁気ディスク

【課題】Ni系合金からなる前下地層の結晶配向性をさらに向上させることにより、SNRの向上と高記録密度化を図った垂直磁気ディスクを提供する。
【解決手段】本発明にかかる垂直磁気ディスクの代表的な構成は、基板110上に、軟磁性層130と、軟磁性層130の上に設けられたTa合金層140と、Ta合金層140の上に設けられたNi合金層142と、Ni合金層142の上に設けられたRuを主成分とする下地層150と、下地層150の上に設けられたグラニュラ磁性層160とを備え、Ta合金層140は、Taを10at%以上45at%以下含む非晶質かつ軟磁気特性を有する層であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気ディスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率60%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径の磁気記録媒体にして、320GByte/プラッタを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請にこたえるためには500GBit/Inchを超える情報記録密度を実現することが求められる。
【0003】
垂直磁気ディスクの高記録密度化のために重要な要素としては、トラック幅の狭小化によるTPI(Tracks per Inch)の向上、及び、BPI(Bits per Inch)向上時のシグナルノイズ比(SNR:Signal to Noise Ratio)やオーバーライト特性(OW特性)などの電磁変換特性の確保、さらには、前記により記録ビットが小さくなった状態での熱揺らぎ耐性の確保、などが上げられる。中でも、高記録密度条件でのSNRの向上は重要である。
【0004】
近年主流になっているグラニュラ構造の磁性層は、柱状に成長したCoCrPt合金を主成分とする磁性粒子の周囲に酸化物を主成分とする非磁性物質が偏析して粒界部が形成されている。この構成では磁性粒子同士が分離されているためにノイズが低減され、高SNRに有効である。さらにSNRを高めるための重要な要素は、結晶配向性を高めることである。Coはhcp構造(六方細密格子構造)を取り、c軸方向(結晶格子である六角柱の軸方向)が磁化容易軸となる。したがって、より多くの結晶のc軸をより垂直方向に配向させることにより、ノイズが低減し、またシグナルが強くなって、相乗効果的にSNRを向上させることができる。
【0005】
スパッタによってhcp構造の金属を成膜するとき、膜厚が厚くなるほど結晶配向性は向上する傾向にある。そこでグラニュラ磁性層の結晶配向性を初期成長段階から高めるために、従来からhcp構造の金属であるRuで下地層を成膜し、その上にグラニュラ磁性層を成膜することが行われている。そしてさらに、Ru下地層の下に結晶性の前下地層(シード層とも呼ばれている)を設け、Ru下地層の結晶配向性を向上させることが行われている。
【0006】
特許文献1には、裏打ち層を構成する軟磁性膜を非晶質構造、下地膜(本願でいう前下地層に相当する)をNiW合金、中間膜(本願でいう下地層に相当する)をRu合金とする構成が記載されている。特許文献1によれば、下地膜をNiW合金、中間膜をRu合金とすることにより、生産性に優れ、かつ高密度の情報の記録再生が可能であると述べている。
【0007】
しかし軟磁性層より上に層を増やした結果として、膜厚が増大すると、磁性層と軟磁性層の間の距離(以下、「中間層膜厚」という。)が大きくなる。中間層膜厚が大きくなると、軟磁性層とヘッドの距離が遠くなり、軟磁性層がヘッドから出る書込み磁界を充分引き込めなくなる。その結果、媒体のオーバーライト特性(OW特性)が悪くなり、書き込みの信号品質が劣化し、ひいては読み出しの信号品質(SNR)が劣化する。
【0008】
オーバーライト特性とSNRの劣化を低減するために、軟磁性層に前下地層の機能を持たせて軟磁性層より上部の膜厚を低減することが検討されている。特許文献2には、軟磁性材料でシード層(前下地層)を形成することによって、中間層を薄くする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−179598号公報
【特許文献2】特開2005−196898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
今後、さらなる高記録密度化を図るために、さらにSNRを向上させる必要がある。SNR向上のための1つの手段としては中間層膜厚の低減が考えられる。しかし、特許文献2の構成では中間層膜厚は低減できるものの、SNRの改善が進まなかった。これは、軟磁性を有する前下地層では、結晶配向性の向上が難しかったためと考えられる。
【0011】
そこで本発明は、Ni系合金からなる前下地層の結晶配向性をさらに向上させることにより、SNRの向上と高記録密度化を図った垂直磁気ディスクを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
軟磁性を有する前下地層について発明者が鋭意研究したところ、前下地層の軟磁性材料としてCoFe合金を用いると表面が粗くなりやすく、結晶配向性を低下させる原因となっていることがわかった。そこで軟磁性材料からなる膜の表面粗さを低減すべくさらに研究を重ね、本発明の完成に至った。
【0013】
すなわち本発明にかかる垂直磁気ディスクの代表的な構成は、基板上に、軟磁性層と、軟磁性層の上に設けられたTa合金層と、Ta合金層の上に設けられたNi合金層と、Ni合金層の上に設けられたRuを主成分とする下地層と、下地層の上に設けられたグラニュラ磁性層とを備え、Ta合金層は、Taを10at%以上45at%以下含む非晶質かつ軟磁気特性を有する層であることを特徴とする。
【0014】
上記範囲のTaを含有させた非晶質のTa合金層は、高い非晶質性を確保し、表面の平坦な膜を形成することができる。このため、その上に成膜したNi合金層の結晶配向性を向上させることができる。また、Ta合金層が軟磁性を有することにより、Ta合金層が軟磁性層の一部として振舞うことで中間層膜厚を低減させることができる。換言すれば、これまで前下地層は結晶配向のためだけに使用されていたので中間層膜厚を増大させていたが、Ta合金層が軟磁性層の役割の一部を担うことにより、中間層膜厚に含まれなくなった。これらのことからSNRを向上させることができ、高記録密度化を図ることができる。
【0015】
Ta合金層は、FeCo系合金、FeNi系合金、またはCo系合金にTaを含有させてなることが好ましい。
【0016】
上記いずれの系の合金であっても、上記範囲のTaを含有させることにより、その表面を平坦にすることができる。また、これらの系の合金を用いることにより、軟磁性層の機能と前下地層の機能を両立させることができる。
【0017】
軟磁性層は、Taを5at%以下含むFeCo系合金であることが好ましい。
【0018】
軟磁性層に飽和磁化Msの高いFeCo系合金を用いることにより、軟磁性層のAFC結合(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)が強くなり、高いHexを得ることができる。AFC結合が弱いと、軟磁性層の磁化方向が局所的に揺らいでしまうので軟磁性層のノイズが大きくなる。一方、AFC結合が強いと、磁化の方向はしっかりと固定され、上下の軟磁性層で磁化は完全に打ち消されるため軟磁性層に起因するノイズが低下し、結果としてSNRが改善する。
【0019】
すなわち、軟磁性層においては強いAFC結合を得るために大きなMsが必要であるが、オーバーライト改善のためだけであればさほど大きなMsは必要ないため、軟磁性層ではTaを少量にして高いMsを得て、Ta合金層ではMsが低下する代わりに高い平坦性を得ている。このように軟磁性層とTa合金層で機能分離することにより、飽和磁化と平坦性の両立を図ることができる。
【0020】
Ta合金層の膜厚は1nm以上10nm未満であることが好ましい。
【0021】
1nm以下では、平坦化の効果が得られないためである。また10nm以上ではもはや効果の向上が見られず、それ以上厚くすると軟磁性層のAFCカップリングが弱くなり、トラック幅が増加してしまうためである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、軟磁性を有する非晶質のTa合金層によって、軟磁性層の役割の一部を担いつつ、平坦化を図って結晶配向性を向上させることができる。これにより、オーバーライト特性を改善しつつSNRを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】垂直磁気ディスクの構成を説明する図である。
【図2】実施例と比較例を説明する図である。
【図3】Ta合金層の磁性材料を検討する図である。
【図4】軟磁性層のTaの濃度(Ta合金層ではない)を検討する図である。
【図5】Ta合金層の膜厚を検討する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0025】
(垂直磁気ディスク)
図1は、第1実施形態にかかる垂直磁気ディスク100の構成を説明する図である。図1に示す垂直磁気ディスク100は、基板110、付着層120、軟磁性層130(第1軟磁性層132、スペーサ層134、第2軟磁性層136)、Ta合金層140、Ni合金層142、下地層150、グラニュラ磁性層160、分断層170、補助記録層180、保護層190、潤滑層200で構成されている。
【0026】
基板110は、例えばアモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型したガラスディスクを用いることができる。なおガラスディスクの種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。ガラスディスクの材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどが挙げられる。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性の基板110を得ることができる。
【0027】
基板110上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて付着層120から補助記録層180まで順次成膜を行い、保護層190はCVD法により成膜することができる。この後、潤滑層200をディップコート法により形成することができる。以下、各層の構成について説明する。
【0028】
付着層120は基板110に接して形成され、この上に成膜される軟磁性層130と基板110との密着強度を高める機能を備えている。付着層120は、例えばCrTi系非晶質合金、CoW系非晶質合金、CrW系非晶質合金、CrTa系非晶質合金、CrNb系非晶質合金等のアモルファス(非晶質)の合金膜とすることが好ましい。付着層120の膜厚は、例えば2〜20nm程度とすることができる。付着層120は単層でも良いが、複数層を積層して形成してもよい。
【0029】
軟磁性層130は、垂直磁気記録方式において信号を記録する際、ヘッドからの書き込み磁界を収束することによって、磁気記録層への信号の書き易さと高密度化を助ける働きをする。軟磁性層130は、基板110側に配置された第1軟磁性層132と、表面側に配置された第2軟磁性層136との間に、Ruからなる薄膜のスペーサ層134が配置されている。この構造により第1軟磁性層132と第2軟磁性層136の間にはAFC結合を構成している。こうすることで磁化の垂直成分を極めて少なくすることができるため、軟磁性層130から生じるノイズを低減することができる。スペーサ層134を介在させた構成の場合、軟磁性層130の膜厚は、スペーサ層が0.3〜0.9nm程度、その上下の軟磁性材料の層をそれぞれ10〜50nm程度とすることができる。
【0030】
軟磁性材料としては、Taを5at%以下含むFeCo系合金とすることが好ましい。軟磁性層に飽和磁化Msの高いFeCo系合金を用いることにより、軟磁性層のAFC結合(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)が強くなり、高いHexを得ることができる。ここで、仮にTa濃度を増大させるとMsが急激に低下し、AFC結合が消失し、軟磁性層からのノイズが増大してしまう。
【0031】
Ta合金層140は軟磁性層130の上に設けられ、Taを10at%以上45at%以下含む非晶質かつ軟磁気特性を有する層である。上記範囲のTaを含有させた非晶質のTa合金層140は、高い非晶質性を確保し、表面の平坦な膜を形成することができる。Taは非晶質性を高める働きを有しており、極めて表面の平坦な膜を形成することができる。このため、その上に成膜したNi合金層142の結晶配向性を向上させることができる。
【0032】
また、Ta合金層140が軟磁性を有することにより、Ta合金層が軟磁性層の一部として振舞うことでスペーシングロスを低減させることができる。換言すれば、これまで前下地層は結晶配向のためだけに使用されていたので中間層膜厚が大きかったが、Ta合金層が軟磁性層の役割の一部を担うことにより、中間層膜厚に含まれなくなった。これらのことからSNRを向上させることができ、高記録密度化を図ることができる。
【0033】
Ta合金層の組成としては、FeCo系合金、FeNi系合金、またはCo系合金にTaを含有させてなることが好ましい。上記いずれの系の合金であっても、10at%以上45at%以下のTaを含有させることにより、非晶質化を促進してその表面を平坦にすることができる。また、これらの系の合金を用いることにより、軟磁性層130の機能と前下地層の機能を両立させることができる。
【0034】
Ta合金層140の膜厚は1nm以上10nm未満であることが好ましい。1nm以下では、平坦化の効果が得られないためである。また10nm以上ではもはや効果の向上が見られず、それ以上厚くすると軟磁性層130のAFCカップリングが弱くなり、ノイズが増大してしまうためである。
【0035】
Ni合金層142は、この上方に形成される下地層150の結晶配向性を促進する機能と、粒径等の微細構造を制御する機能とを備える。Ni合金層142は、fcc結晶構造(面心立方構造)のNi系合金からなり、(111)面が基板110の主表面と平行となるよう配向している。Ni合金層142の材料としては、例えば、Niを主成分として、V、Cr、Mo、W、Ta、等を1つ以上添加させた合金とすることができる。具体的には、NiV、NiCr、NiTa、NiW、NiVCr等を好適に選択することができる。なお主成分とは、最も多く含まれている成分をいう。Ni合金層142の膜厚は1〜20nm程度とすることができる。
【0036】
ここで、軟磁性層130の上にNi合金層142を直接を成膜した場合よりも、軟磁性層130の上にTa合金層140を成膜してからNi合金層142を成膜した方が結晶配向性を向上させることができる。上述したように、5at%以下のTaを含むFeCo系合金の軟磁性は、大きな飽和磁化Msを得られる代わりに、表面粗さが粗い。一方、10at%以上45at%以下のTaを含有するTa合金層140は、非晶質化が促進されてその表面が平坦となっているため、Ni合金層142の結晶が精緻に成長するため、結晶配向性が向上する。
【0037】
なお、軟磁性層130においては、強いAFC結合を得るために大きなMsが必要であるが、オーバーライト特性改善のためだけであればさほど大きなMsは必要ない。そこで上記構成のように、軟磁性層130ではTaを少量にして高いMsを得て、Ta合金層140ではTaを多くして低いMsの代わりに高い平坦性を得ている。このように軟磁性層130とTa合金層140で機能分離することにより、強いAFC結合と高い平坦性(結晶配向性)の両立を図ることができる。
【0038】
下地層150はhcp構造であって、この上方に形成されるグラニュラ磁性層160のhcp構造の磁性結晶粒子の結晶配向性を促進する機能と、粒径等の微細構造を制御する機能とを備え、グラニュラ構造のいわば土台となる層である。RuはCoと同じhcp構造をとり、また結晶の格子間隔がCoと近いため、Coを主成分とする磁性粒を良好に配向させることができる。したがって、下地層150の結晶配向性が高いほど、グラニュラ磁性層160の結晶配向性を向上させることができる。また、下地層150の粒径を微細化することによって、グラニュラ磁性層の粒径を微細化することができる。下地層150の材料としてはRuが代表的であるが、さらにCr、Coなどの金属や、酸化物を添加することもできる。下地層150の膜厚は、例えば5〜40nm程度とすることができる。
【0039】
また、スパッタ時のガス圧を変更することにより下地層150を2層構造としてもよい。具体的には、下地層150の上層側を形成する際に下層側を形成するときよりもArのガス圧を高圧にすると、上方のグラニュラ磁性層160の結晶配向性を良好に維持したまま、磁性粒子の粒径の微細化が可能となる。
【0040】
グラニュラ磁性層160は、Co−Pt系合金を主成分とする強磁性体の磁性粒子の周囲に、酸化物を主成分とする非磁性物質を偏析させて粒界を形成した柱状のグラニュラ構造を有している。例えば、CoCrPt系合金にSiO2や、TiO2などを混合したターゲットを用いて成膜することにより、CoCrPt系合金からなる磁性粒子(グレイン)の周囲に非磁性物質であるSiO2や、TiO2が偏析して粒界を形成し、磁性粒子が柱状に成長したグラニュラ構造を形成することができる。
【0041】
なお、上記に示したグラニュラ磁性層160に用いた物質は一例であり、これに限定されるものではない。CoCrPt系合金としては、CoCrPtに、B、Ta、Cu、Ruなどを1種類以上添加してもよい。また、粒界を形成するための非磁性物質としては、例えば酸化珪素(SiO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化ジルコン(ZrO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化コバルト(CoOまたはCo3O4)、等の酸化物を例示できる。また、1種類の酸化物のみならず、2種類以上の酸化物を複合させて使用することも可能である。
【0042】
分断層170は、グラニュラ磁性層160と補助記録層180の間に設けられ、これらの層の間の交換結合の強さを調整する作用を持つ。これによりグラニュラ磁性層160と補助記録層180の間、およびグラニュラ磁性層160内の隣接する磁性粒子の間に働く磁気的な相互作用の強さを調節することができるため、HcやHnといった熱揺らぎ耐性に関係する静磁気的な値は維持しつつ、オーバーライト特性、SNR特性などの記録再生特性を向上させることができる。
【0043】
分断層170は、結晶配向性の継承を低下させないために、hcp結晶構造を持つRuやCoを主成分とする層であることが好ましい。Ru系材料としては、Ruの他に、Ruに他の金属元素や酸素または酸化物を添加したものが使用できる。また、Co系材料としては、CoCr合金などが使用できる。具体例としては、Ru、RuCr、RuCo、Ru−SiO2、Ru−WO3、Ru−TiO2、CoCr、CoCr−SiO2、CoCr−TiO2などが使用できる。なお分断層170には通常非磁性材料が用いられるが、弱い磁性を有していてもよい。また、良好な交換結合強度を得るために、分断層170の膜厚は、0.2〜1.0nmの範囲内であることが好ましい。
【0044】
また分断層170の構造に対する作用としては、上層の補助記録層180の結晶粒子の分離の促進である。例えば、上層が酸化物のように非磁性物質を含まない材料であっても、磁性結晶粒子の粒界を明瞭化させることができる。
【0045】
補助記録層180は基板主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した磁性層である。補助記録層180は、グラニュラ磁性層160に対して磁気的相互作用(交換結合)を有するため、保磁力Hcや逆磁区核形成磁界Hn等の静磁気特性を調整することが可能であり、これにより熱揺らぎ耐性、オーバーライト特性、およびSNRの改善を図ることを目的としている。補助記録層180の材料としてはCoCrPt合金を用いることができ、さらに、B、Ta、Cu、Ru等の添加物を加えてもよい。具体的には、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtTa、CoCrPtCu、CoCrPtCuBなどとすることができる。また、補助記録層180の膜厚は、例えば3〜10nmとすることができる。
【0046】
なお、「磁気的に連続している」とは、磁性が途切れずにつながっていることを意味している。「ほぼ連続している」とは、補助記録層180全体で観察すれば必ずしも単一の磁石ではなく、部分的に磁性が不連続となっていてもよいことを意味している。すなわち補助記録層180は、複数の磁性粒子の集合体にまたがって(かぶさるように)磁性が連続していればよい。この条件を満たす限り、補助記録層180において例えばCrが偏析した構造であっても良い。
【0047】
保護層190は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気ディスク100を防護するための層である。保護層190は、カーボンを含む膜をCVD法により成膜して形成することができる。一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気ディスク100を防護することができるため好適である。保護層190の膜厚は、例えば2〜6nmとすることができる。
【0048】
潤滑層200は、垂直磁気ディスク100の表面に磁気ヘッドが接触した際に、保護層190の損傷を防止するために形成される。例えば、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により塗布して成膜することができる。潤滑層200の膜厚は、例えば0.5〜2.0nmとすることができる。
【0049】
(実施例1)
上記構成の垂直磁気ディスク100の有効性を確かめるために、以下の実施例と比較例を用いて説明する。
【0050】
実施例として、基板110上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、付着層120から補助記録層132まで順次成膜を行った。なお、断らない限り成膜時のArガス圧は0.6Paである。付着層120はCr−50Tiを10nm成膜した。第1軟磁性層132は92(40Fe−60Co)−3Ta−5Zrを18nm成膜した。スペーサ層134はRuを0.7nm成膜した。第2軟磁性層136は第1軟磁性層132と同じ組成で15nm成膜した。Ta合金層140はTaを含む40Fe−60Co系合金を用いて6nm成膜した。Ni合金層142はNi−5Wを8nm成膜した。下地層150は0.6PaでRuを10nm成膜した上に5PaでRuを10nm成膜した。グラニュラ磁性層160は、3Paで90(70Co−10Cr−20Pt)−10(Cr2O3)を2nm成膜した上に、さらに3Paで90(72Co−10Cr−18Pt)−5(SiO2)−5(TiO2)を12nm成膜した。分断層170はRuを0.3nm成膜した。補助記録層180は62Co−18Cr−15Pt−5Bを6nm成膜した。保護層190はCVD法によりC2H4を用いて4.0nm成膜し、表層を窒化処理した。潤滑層200はディップコート法によりPFPEを用いて1nm形成した。
【0051】
図2は実施例と比較例を説明する図である。比較例および実施例はいずれもTaを含む40Fe−60Co系合金であって、Taの濃度を増減させている。Taの濃度が増減した分は、FeとCoの比率を維持したまま増減させている。例えば比較例1は95(40Fe−60Co)−5Ta、実施例1は90(40Fe−60Co)−10Taである。同様にして実施例2、実施例3、実施例4、比較例2は、それぞれTaの濃度が15at%、25at%、40at%、55at%である。
【0052】
図2において下地層のΔθ50とは、X線回折装置を用いてロッキングカーブ法により測定した、Ru結晶の結晶配向性である。この値は、結晶子の配向のバラつきの大きさを表す配向分散(c軸分散角)であり、小さいほど配向性が優れていることを示す。図2を参照すると、Taの濃度が増大するほどにΔθ50が小さくなっていて、結晶配向性が高くなっていることがわかる。これは、Taの濃度が増大するほどその表面の平坦性が向上し、Ta合金層140より後に成膜されるNi合金層142等の結晶配向性が向上するためと考えられる。
【0053】
図2のOWは、グラニュラ磁性層160等も成膜して垂直磁気ディスク100を完成させた状態でオーバーライト特性(書き込みやすさ)を測定したものである。図2を参照すると、Taの濃度が増大するほどにオーバーライト特性が低下していることがわかる。なおΔθ50は40at%以上で飽和傾向が若干見られたが、オーバーライト特性は25at%近傍から飽和傾向が見られる。Taの濃度に応じてオーバーライト特性が低下するのは、Ta合金層の磁性が弱くなったことによるものと考えられる。
【0054】
図2のSNRは、グラニュラ磁性層160等も成膜して垂直磁気ディスク100を完成させた状態でのSNRを測定したものである。比較例1の5at%から実施例1の10at%になったところで大幅な向上が見られるが、実施例2の15at%でピークを有して徐々に低下しはじめ、比較例2の55at%では大幅に低下してしまっている。Taが15at%より多くなるとSNRが低下していくのは、Ta合金層140の磁性が弱くなっていくために軟磁性層の一部としての機能を失っていくためと考えられる。またTaが5at%より小さいと下地層の結晶配向が悪くなり、磁性層のノイズが増加するためSNRが低下すると考えられる。
【0055】
上記結果を参酌すると、Taの濃度は10at%以上45at%以下であることが好ましいことがわかる。すなわち、比較例1の5at%ではΔθ50、SNRのいずれも特性向上の効果が少ない。一方、比較例2の55at%ではSNRとオーバーライト特性が低下してしまっている。そして、Taの濃度を上記範囲とすることにより、Ta合金層140を軟磁性層130の一部として機能させて中間層膜厚を低減し、かつ、Ni合金層142より上の層の結晶配向性を向上させてSNRを向上させることができる。
【0056】
図3はTa合金層の磁性材料を検討する図である。比較例3はTaのみ、実施例5はCo系合金の例として90Co−10Ta、実施例6はFeNi系合金の例として90(68Fe−42Ni)−10Ta、実施例2はFeCo系合金の例として85(40Fe−60Co)−15Taを用いている。
【0057】
図3を参照すれば、非磁性であるTaを用いた比較例3では、オーバーライト特性およびSNRの両方が実施例5、実施例6、実施例2のいずれよりも低い。これは、比較例3の構成では軟磁性層の一部としての機能を有しないために中間層膜厚が大きくなっているためと考えられる。一方、実施例5、実施例6、実施例2の結果により、上記いずれの系の合金であっても、軟磁性層の機能と前下地層の機能を両立させることができることが確認された。
【0058】
図4は軟磁性層のTaの濃度(Ta合金層ではない)を検討する図である。軟磁性層130の組成は(95−X)(40Fe−60Co)−5Zr−X(Ta)とし、Taの濃度が増減した分は、FeとCoの比率を維持したまま増減させている。実施例7はTaを含んでおらず、実施例8は1at%、実施例9は3at%、実施例2は5at%、実施例10は7at%のTaを含んでいる。なお、このときのTa合金層140の構成は、実施例2と同様のものとする。
【0059】
図4を参照すると、軟磁性層が含むTaの濃度を高くするほど、オーバーライト特性およびSNRの両方が低下していくことがわかる。これは、飽和磁化Msの高いFeCo系合金であっても、Taの濃度を高くするほどMsが低下してAFC結合が弱くなり、ノイズが大きくなってしまうためである。そして7at%のTaを含む実施例10では、図2に示した比較例2と同程度のSNRになってしまっている。このことから、軟磁性層130が含むTaは5at%以下がよいことがわかる。なお、Ta合金層140の効果を得る上においては、軟磁性層130にTaを含んでいる必要はない(軟磁性層130のTaは0at%でもよい)。
【0060】
図5はTa合金層の膜厚を検討する図である。比較例4はTa合金層140を成膜しないものであり、実施例11は1nm、実施例12は3nm、実施例2は6nm、実施例13は10nm、実施例14は13nmのTa合金層140を成膜している。
【0061】
図5を参照すれば、実施例11と比較例4を比較すると、Δθ50、オーバーライト特性、SNRのいずれも大幅な向上が見られる。したがってTa合金層140は、1nm成膜しただけでも有意な効果が見られる。Ta合金層140を3nm、6nmと厚くしていくと特性はさらに向上する。しかし、SNRは6nmをピークとしてそれ以上厚くすると特性が低下し、13nmの比較例14では比較例4と同程度になってしまっている。これは、Ta合金層140をある程度以上厚くすると軟磁性層のAFCカップリングが弱くなり、ノイズが増大してしまうためと考えられる。このことから、Ta合金層140の膜厚は1nm以上10nm未満であることが好ましいことが確認された。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDDなどに搭載される垂直磁気ディスクおよびその製造方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
100…垂直磁気ディスク、110…基板、120…付着層、130…軟磁性層、132…第1軟磁性層、134…スペーサ層、136…第2軟磁性層、140…Ta合金層、142…Ni合金層、150…下地層、160…グラニュラ磁性層、170…分断層、180…補助記録層、190…保護層、200…潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、
軟磁性層と、
前記軟磁性層の上に設けられたTa合金層と、
前記Ta合金層の上に設けられたNi合金層と、
前記Ni合金層の上に設けられたRuを主成分とする下地層と、
前記下地層の上に設けられたグラニュラ磁性層とを備え、
前記Ta合金層は、Taを10at%以上45at%以下含む非晶質かつ軟磁気特性を有する層であることを特徴とする垂直磁気ディスク。
【請求項2】
前記Ta合金層は、FeCo系合金、FeNi系合金、またはCo系合金にTaを含有させてなることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気ディスク。
【請求項3】
前記軟磁性層は、Taを5at%以下含むFeCo系合金であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気ディスク。
【請求項4】
前記Ta合金層の膜厚は1nm以上10nm未満であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の垂直磁気ディスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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