説明

垂直磁気記録ヘッド

【課題】 主磁極の残留磁化によって生じるデータ消去を防止し、製品の製造歩留まりを向上させ、かつ磁極の高飽和磁束密度を犠牲にすることなく高密度記録を可能にする垂直磁気記録ヘッドを提供する。
【解決手段】 先端磁極部10aが設けられた主磁極10を備える垂直磁気記録ヘッドにおいて、前記主磁極10と同一平面内に、前記主磁極10を囲む配置にシールドヨーク16が設けられるとともに、該シールドヨーク16と一体に、先端部が前記先端磁極部を挟む配置に一対のサイドシールド部16a、16bが設けられ、前記シールドヨーク16には、前記サイドシールド部16a、16b間に、前記先端磁極部10aに残留する磁化を記録媒体のトラック幅方向に向けるバイアス磁場を励磁する励磁コイル18a、18bが設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気ディスク装置の記録再生用ヘッドに用いられる垂直磁気記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置等の情報記録再生装置においては、記録媒体に情報を記録する記録方式として垂直記録方式がある。垂直磁気記録ヘッドでは、主磁極の先端から記録媒体に向けて磁場を作用させ、記録媒体内を通過した磁場がリターンヨーク(トレーリングシールド)に戻る作用を利用して記録媒体に情報を記録する。図5は、垂直記録方式において使用する垂直磁気記録ヘッドの主磁極10の先端部の構成を示す。垂直記録方式は面内記録方式とくらべて高密度記録が可能とされているものであるが、そのため、主磁極10の先端を細幅に形成し、媒体に対して磁場を絞り込んで作用させることができるように形成される。
【0003】
このように垂直記録方式で使用される垂直磁気記録ヘッドは、主磁極10の先端が形状異方性を備えていることから、記録ヘッドに作用させるコイルの電流を切った後でも、主磁極10の先端部に、媒体に向かう向きの磁化が残留し、この残留磁化によって記録媒体に記録されている情報が消去されてしまうという問題がある。このような残留磁化によるデータ消去の問題を解消する方法として、主磁極の先端部を軟磁性多層膜とする方法(たとえば、特許文献1参照)、主磁極先端近傍に導電層を設け、コイルの電流を切った後に導電層に電流を流して主磁極の磁化をトラック幅方向に向ける方法(たとえば、特許文献2参照)、リターンヨークの磁歪を制御して残留磁化を低減させる方法(たとえば、特許文献3参照)等が提案されている。
【特許文献1】特開2004−199816号公報
【特許文献2】特開2004−62946号公報
【特許文献3】特開2004−86961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、垂直磁気記録ヘッドにおける残留磁化を抑える従来方法では、製品の歩留まりが低下したり、磁極の飽和磁束密度が抑制されるという問題がある。すなわち、主磁極を多層膜として形成する場合は、スパッタリング法によって成膜することになるが、スパッタリング法によって成膜した場合はイオンミリングによって主磁極を形成するため、磁極の形状ばらつきが生じやすい。また、電流磁場を利用する方法の場合は、十分な強度の磁場を発生させることが困難であり、大電流を流すと発熱を招くことになる。また、磁極の磁歪を利用する方法の場合には磁極の高飽和磁束密度と両立させることが困難であり、磁極の高飽和磁束密度が犠牲になるという問題がある。
【0005】
本発明は、これらの課題を解決すべくなされたものであり、主磁極の残留磁化の磁化方向を記録媒体のトラック幅方向に向けることにより、残留磁化によって生じるデータ消去を防止することができるとともに、製品の製造歩留まりを向上させ、かつ磁極の高飽和磁束密度を犠牲にすることなく高密度記録を可能にする垂直磁気記録ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため次の構成を備える。
すなわち、先端磁極部が設けられた主磁極を備える垂直磁気記録ヘッドにおいて、前記主磁極と同一平面内に、前記主磁極を囲む配置にシールドヨークが設けられるとともに、該シールドヨークと一体に、先端部が前記先端磁極部を挟む配置に一対のサイドシールド部が設けられ、前記シールドヨークには、前記サイドシールド部間に、前記先端磁極部に残留する磁化を記録媒体のトラック幅方向に向けるバイアス磁場を励磁する励磁コイルが設けられていることを特徴とする。
【0007】
また、前記サイドシールド部は、前記先端磁極部の側面に各々先端部を対向させて設けられていることを特徴とする。
また、前記励磁コイルは、前記主磁極の後部側の位置で前記シールドヨークに設けられていることを特徴とする。
また、前記励磁コイルは、ヘリカル型または面内型のコイルとして形成することができる。
また、前記シールドヨークは、軟磁性体からなることにより、バイアス磁場により先端磁極部に残留する磁化をトラック幅方向に効果的に向けることができるとともに、記録媒体に情報を記録する際に、主磁極から横方向に漏洩する磁場を遮断して、的確な書き込みを行うことができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る垂直磁気記録ヘッドによれば、励磁コイルに通電することによって、主磁極に設けられた先端磁極部に残留する磁化を記録媒体のトラック幅方向に向けることができ、先端磁極部に残留する磁化によって記録媒体に記録された情報が消去されるという問題を解消することができる。また、シールドヨークに設けたサイドシールド部は、主磁極によって記録媒体に情報を記録する際に主磁極から横方向に漏洩する磁場をシールドする作用を有し、これによって記録ヘッドによる高密度記録が可能になる。また、本発明に係る垂直磁気記録ヘッドは、シールドヨークを形成する他は、従来の垂直磁気記録ヘッドの構成を変更する必要がなく、高飽和磁束密度を有する磁性材を用いて主磁極を形成することができ、高密度記録が可能な垂直磁気記録ヘッドの特性が損なわれないという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施の形態について、添付図面とともに詳細に説明する。
図1(a)は、本発明に係る垂直記録ヘッドの構成を読み出しヘッドの構成とともに示した側面断面図であり、図1(b)は垂直磁気記録ヘッドおよび読み出しヘッドを浮上面側から見た状態を示す。
図1(a)において、読み出しヘッド5は、磁性層からなる下部シールド層6および上部シールド層7と、下部シールド層6および上部シールド層7との間に形成されたMR素子8からなる。
【0010】
読み出しヘッド5の上に形成される垂直磁気記録ヘッド20は、主磁極10と、リターンヨークとしてのトレーリングシールド層12と、コイル14と、主磁極10と同一面内で、主磁極10を囲むように形成されたシールドヨーク16とを備える。
図1(b)に示すように、主磁極10の先端磁極部10aは細幅に絞った形状に形成され、シールドヨーク16には、先端磁極部10aを挟む配置にサイドシールド部16a、16bが設けられる。なお、主磁極10とコイル14との間、コイル14とトレーリングシールド層12との間には絶縁層が設けられる。図1では、各層間の絶縁層を省略している。
【0011】
図2は、シールドヨーク16の平面配置を示す。
主磁極10は、主磁極10の本体部分から浮上面に向けて徐々に幅狭となる平面形状に形成され、主磁極10の突端に先端磁極部10aが形成されている。
シールドヨーク16は主磁極10を、平面配置で矩形状に囲むように形成され、主磁極10の先端磁極部10aが形成された部位では、各々のサイドシールド部16a、16bの先端が、先端磁極部10aの端部から僅かに離間して先端磁極部10aの側面に対向するように配置されている。シールドヨーク16のサイドシールド部16a、16bを主磁極10の先端磁極部10aを挟んで先端磁極部10aに対向させて配置する構成は、図2(a)、(b)ともに共通である。
【0012】
図2(a)、(b)に示すように、シールドヨーク16の、主磁極10の後部側に配置される連結ヨーク部16cには、励磁コイルが設けられる。図2(a)は、連結ヨーク部16cにヘリカル型の励磁コイル18aを設けた例、図2(b)は、連結ヨーク部16cに面内型の励磁コイル18bを設けた例である。
連結ヨーク部16cにヘリカル型の励磁コイル18aを設ける場合は、磁気ヘッドの各層を成膜して形成する際に、励磁コイル18aの下半部と上半部とを別工程で形成し、ヘリカル状に接続するようにすればよい。連結ヨーク部16cに面内型の励磁コイル18bを設ける場合は、励磁コイル18bで連結ヨーク部16cと交差する部分のみ別工程で形成すればよい。
【0013】
シールドヨーク16は主磁極10と同一平面に形成するから、主磁極10を所定のパターンに形成する際に、同時にシールドヨーク16を形成することができる。主磁極10としてはできるだけ飽和磁束密度が大きな磁性材、たとえばNiFe、CoNiFe等の軟磁性材を使用する。これによって主磁極10による高密度記録が可能となる。シールドヨーク16は主磁極10を形成する軟磁性材と同一の材料を用いて形成してかまわない。もちろん、主磁極10とは異なる軟磁性材を用いてシールドヨーク16を形成することもできる。
【0014】
本実施形態の垂直磁気記録ヘッド20では、主磁極10の先端磁極部10aを挟む配置にサイドシールド部16a、16bを配置し、サイドシールド部16a、16bは連結ヨーク部16cを介して励磁コイル18a、18bによって励磁されるように構成されていることから、主磁極10を励磁するコイル14に通電されていない際には、シールドヨーク16の励磁コイル18aまたは18bに通電して、サイドシールド部16a、16b間にバイアス磁場を発生させることにより、主磁極10の先端磁極部10aに残留する磁化を記録媒体の媒体面と平行方向に向くようにすることができる。
【0015】
図3は、シールドヨーク16の励磁コイルに通電することによって、サイドシールド部16a、16bを結ぶ向きのバイアス磁場が発生すること、このバイアス磁場によって先端磁極部10aに残留する磁化がバイアス磁場と同じ方向に向けられることを示す。
このように、主磁極10の先端磁極部10aに残留する磁化を記録媒体の媒体面と平行な方向(トラック幅方向)に向けることにより、先端磁極部10aの残留磁化によって記録媒体に記録されているデータが消去される作用を確実に防止することができる。
【0016】
なお、シールドヨーク16に設けられたサイドシールド部16a、16bは、主磁極10のコイル14に通電して記録媒体に情報を記録する際に、先端磁極部10aから横方向に漏れる磁場をシールドする作用を合わせ有している。この先端磁極部10aから漏洩する磁場をシールドする作用は、垂直磁気記録ヘッドによる記録用の磁場をより急峻に作用させるように働き、記録媒体に対する高密度記録を可能にする。
【0017】
すなわち、本発明に係る垂直磁気記録ヘッドによれば、サイドシールド部16a、16bを有する励磁コイル付きのシールドヨーク16を備えたことにより、主磁極の残留磁化によって記録媒体に記録されたデータが消去されるという問題を解消すると同時に、主磁極による記録精度を向上させ、情報の高密度記録を可能にする。
【0018】
また、本発明に係る垂直磁気記録ヘッドは、シールドヨーク16および励磁コイル18a、18bを設ける製造工程の他は従来の製造工程をそのまま適用して製造することができ、主磁極10を高飽和磁束密度を有する磁性材を用いて、従来と同様にめっきによって形成するといったことが可能になる。すなわち、本発明に係る垂直磁気記録ヘッドによれば、主磁極を高飽和磁束密度を有する磁性材を用いて形成することが可能となり、これによって高密度記録が可能な垂直磁気記録ヘッドとして提供することができる。
【0019】
本発明に係る垂直磁気記録ヘッド20は、読み出しヘッド5とともに、磁気ディスク装置の磁気ヘッドアセンブリを構成するヘッドスライダーに組み込まれ、記録媒体への情報の記録、再生に用いることができる。図4は、上記垂直磁気記録ヘッド20と読み出しヘッド5を搭載したヘッドスライダー30の例を示す。上記垂直磁気記録ヘッド20と読み出しヘッド5は、ヘッドスライダー30の浮上面31の空気流出端側の成膜部32に設けられている。浮上面31の両側縁には、記録媒体が回転することによって生じる気流によってヘッドスライダー30を記録媒体の媒体面から浮上させるように作用するレール33、33が設けられている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る垂直磁気記録ヘッドの構成を示す側面断面図(a)、および垂直磁気記録ヘッドの浮上面側の端面図(b)である。
【図2】シールドヨークの構成例を示す平面図である。
【図3】シールドヨークの作用を示す説明図である。
【図4】垂直磁気記録ヘッドを搭載したヘッドスライダーの斜視図である。
【図5】垂直磁気記録ヘッドに生じる残留磁化を示す説明図である。
【符号の説明】
【0021】
10 主磁極
10a 先端磁極部
12 トレーリングシールド層
14 コイル
16 シールドヨーク
16a、16b サイドシールド部
16c 連結ヨーク部
18a、18b 励磁コイル
20 垂直磁気記録ヘッド
30 ヘッドスライダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端磁極部が設けられた主磁極を備える垂直磁気記録ヘッドにおいて、
前記主磁極と同一平面内に、前記主磁極を囲む配置にシールドヨークが設けられるとともに、該シールドヨークと一体に、先端部が前記先端磁極部を挟む配置に一対のサイドシールド部が設けられ、
前記シールドヨークには、前記サイドシールド部間に、前記先端磁極部に残留する磁化を記録媒体のトラック幅方向に向けるバイアス磁場を励磁する励磁コイルが設けられていることを特徴とする垂直磁気記録ヘッド。
【請求項2】
前記サイドシールド部は、前記先端磁極部の側面に各々先端部を対向させて設けられていることを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録ヘッド。
【請求項3】
前記励磁コイルは、前記主磁極の後部側の位置で前記シールドヨークに設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の垂直磁気記録ヘッド。
【請求項4】
前記励磁コイルは、ヘリカル型または面内型のコイルであることを特徴とする請求項3記載の垂直磁気記録ヘッド。
【請求項5】
前記シールドヨークは、軟磁性体からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の垂直磁気記録ヘッド。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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