説明

垂直磁気記録媒体用記録層、垂直磁気記録媒体、及び強磁性金属膜の作製方法

【課題】 グラニュラー構造を採用していない高記録密度を有する垂直磁気記録媒体用記録層、該記録層を備えた垂直磁気記録媒体、及び強磁性金属膜作製方法の提供。
【解決手段】 基板面に対してほぼ垂直方向に磁化容易軸を有する強磁性金属粒子と、強磁性金属粒子とは固溶しない金属粒子とからなる垂直磁気記録媒体用記録層であって、強磁性金属粒子がFe、Co等から選ばれた金属、これらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなり、固溶しない金属粒子がZn、In等から選ばれた金属、これらの金属から選ばれた少なくとも2種の合金からなる。この記録層を有する記録媒体。強磁性金属粒子を含む膜に、強磁性金属粒子とは固溶しない金属粒子を、強磁性金属粒子に対して0.5〜2.2at%添加し、強磁性金属粒子の粒界に固溶しない金属粒子が均一に分散している磁区形成領域を有する強磁性金属膜を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体用記録層、この記録層を用いる垂直磁気記録媒体、及びこの記録層として用いることができる強磁性金属膜の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)等の磁気記録媒体における記録方式には、面内磁気記録方式や垂直磁気記録方式があり、近年、面内磁気記録方式から垂直磁気記録方式へと開発の方向が移りつつある。この面内磁気記録方式では、例えば、面内に結晶磁化容易軸が配向した、面内異方性を持つCo−Cr基の合金薄膜が用いられており、このような媒体がリングヘッドの漏洩磁界によって面内方向で磁化されていく。この面内磁気記録方式では、記録ビット間の反磁界の影響で高密度化と共に膜厚を薄くしていくことが必要であるため、それに伴ってヘッド信号が微弱となり、記録密度が低くなるという問題がある。
【0003】
一方、ビットの磁化が記録媒体の垂直方向となる垂直磁気記録方式では、磁化容易軸を面に垂直に配向させた媒体構造を用いる。この場合、磁化は、ビットサイズがナノスケールになっても静磁気相互作用により不安定化しないので、原理的には、面内磁気記録方式よりもはるかに記録密度が高くなるという長所がある。この垂直磁気記録方式の場合、面内磁気記録方式と同様の原理で結晶粒界にCrを偏析させて、各結晶粒を磁気的に孤立させる方式から、近年、マトリクス中にCo系合金等からなる柱状粒子を埋め込んだグラニュラー構造を有する垂直磁化膜からなる記録層を備えた垂直磁気記録媒体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このグラニュラー構造とは、強磁気記録材料の粒界に絶縁性の物質が偏析している構造である。
【0004】
しかしながら、上記のようなグラニュラー構造を採用したとしても、高い記録密度を有する記録層を構成するのは、現状では極めて困難であると言われている。例えば、CoCrPt粒子の周りにSiOやTiOのような絶縁性酸化物を偏析せしめ、極薄壁で強磁性結晶粒子を孤立化せしめるグラニュラー構造の場合、この極薄壁を均一に偏析させる工程で、強磁性結晶粒子を微細化するほど、酸化物からなる極薄壁の均一性が悪化し、基板面内で磁気記録特性の分布を維持することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−353256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、グラニュラー構造を採用することなく、高記録密度を有する垂直磁気記録媒体用記録層、この記録層を備えた垂直磁気記録媒体、及びこの記録層として用いることができる強磁性金属膜の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の垂直磁気記録媒体用記録層は、基板面に対してほぼ垂直方向に磁化容易軸を有する複数の強磁性金属粒子と、該強磁性金属粒子とは固溶しない金属粒子とからなる垂直磁気記録媒体用記録層であって、該強磁性金属粒子が、Fe、Co、Pt、Ni及びTaからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなり、また、該固溶しない金属粒子が、Zn、In、Pb及びBiからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の合金からなることを特徴とする。
【0008】
本発明の垂直磁気記録媒体用記録層はまた、基板上に形成されたRu又はRu合金からなる下地層と、この下地層上に形成された記録層とを備え、該下地層が、基板面に対して垂直方向に成長し、互いに離隔されてなる結晶粒子からなり、該記録層が、基板面に対してほぼ垂直方向に磁化容易軸を有する複数の強磁性金属粒子で、Fe、Co、Pt、Ni及びTaからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなる強磁性金属粒子を有している垂直磁気記録媒体の記録層であって、該記録層が、さらに該強磁性金属粒子とは固溶しない金属粒子で、Zn、In、Pb及びBiからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなる金属粒子を含んでいることを特徴とする。
【0009】
前記記録層において、固溶しない金属粒子が、強磁性金属粒子に対して0.5〜2.2at%含まれていることを特徴とする。
【0010】
前記記録層中に含まれている金属粒子が、0.5at%未満であり、かつ2.2at%を超えると、保持力が低く、記録層として有効に機能しない。
【0011】
本発明の垂直磁気記録媒体は、基板上に形成されたRu又はRu合金からなる下地層と、この下地層上に形成された記録層とを備え、該下地層が、基板面に対して垂直方向に成長し、互いに離隔されてなる結晶粒子からなり、該記録層が、基板面に対してほぼ垂直方向に磁化容易軸を有する複数の強磁性金属粒子で、Fe、Co、Pt、Ni及びTaからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなる強磁性金属粒子と、該強磁性金属粒子とは固溶しない金属粒子で、Zn、In、Pb及びBiからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなる金属粒子とを含んでいることを特徴とする。
【0012】
前記垂直磁気記録媒体において、固溶しない金属粒子が、強磁性金属粒子に対して0.5〜2.2at%含まれていることを特徴とする。
【0013】
前記記録層において、強磁性金属粒子の粒界に固溶しない金属粒子が均一に分散している磁区形成領域を有していることを特徴とする。
【0014】
本発明の強磁性金属膜の作製方法は、基板面に対してほぼ垂直方向に磁化容易軸を有する複数の強磁性金属粒子を含む膜に、該強磁性金属粒子とは固溶しない金属粒子を、該強磁性金属粒子に対して0.5〜2.2at%添加することにより、該強磁性金属粒子の粒界に該固溶しない金属粒子が均一に分散している磁区形成領域を有する強磁性金属膜を作製することを特徴とする。
【0015】
本発明の強磁性金属膜の作製方法はまた、基板面に対してほぼ垂直方向に磁化容易軸を有する複数の強磁性金属粒子を含む膜であって、Fe、Co、Pt、Ni及びTaからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなる強磁性金属粒子を含む膜に、該強磁性金属粒子とは固溶しない金属粒子であって、Zn、In、Pb及びBiからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の合金からなる固溶しない金属粒子を、該強磁性金属粒子に対して0.5〜2.2at%添加することにより、該強磁性金属粒子の粒界に該固溶しない金属粒子が均一に分散している磁区形成領域を有する強磁性金属膜を作製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、強磁性金属を有する層に、強磁性金属とは固溶しない金属を所定量添加することにより、この固溶しない金属を粒界に均一に分散せしめて、磁気的に安定な微細磁気ドット領域の形成された高記録密度を有する記録層及び垂直磁気記録媒体を提供することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明によれば、強磁性金属粒子の粒界に、この強磁性金属粒子とは固溶しない金属粒子が均一に分散している磁区形成領域を有し、磁気的に安定な、かつ高記録密度を有する強磁性金属膜を提供できるので、この膜を垂直磁気記録媒体で高記録密度を有する記録層として用いることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の記録層を作製するために用いるDCマグネトロンスパッタリング装置の一構成例を示す模式的構成図。
【図2】実施例1で作製された記録層に対する磁気特性(M−H)のヒステリシスを示すグラフ。
【図3】実施例1で作製された記録層に対する、In量(at%)の変動による磁気特性変化を示し、(a)はIn量の変動による保持力(Hc)の変化を示すグラフ、(b)はIn量の変動による磁気モーメント(Ms)の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る垂直磁気記録媒体用記録層の実施の形態によれば、基板面に対してほぼ垂直方向に磁化容易軸を有する複数の強磁性金属粒子と、強磁性金属粒子を相互に離隔する強磁性金属粒子とは固溶しない金属粒子とからなる垂直磁気記録媒体用記録層であって、強磁性金属粒子が、Fe、Co、Pt、Ni及びTaからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなり、また、固溶しない金属粒子が、Zn、In、Pb及びBiからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の合金からなり、この固溶しない金属粒子を、強磁性金属粒子に対して0.5〜2.2at%、好ましくは0.65〜2.0at%含んでいる。この場合、TEM写真及び図2に示す結果によれば、強磁性金属粒子の粒界に固溶しない金属粒子が均一に分散している磁区形成領域が形成されていることが分かる。固溶しない金属が3重点部分で析出する。
【0020】
記録層中に含まれる固溶しない金属の量が、0.5at%未満であり、かつ2.2at%を超えると、上記したように保持力が低く、記録層として有効に機能しない。下限が0.65at%であると、0.5at%の場合よりも保持力が高く、また、上限が2.0at%であると、2.2at%の場合より保持力が高く、記録層としてより有効に機能する。
【0021】
本発明に係る垂直磁気記録媒体用記録層の別の実施の形態によれば、基板上に形成されたRu又はRu合金からなる下地層と、この下地層上に形成された記録層とを備え、下地層が、基板面に対して垂直方向に成長し、互いに離隔されてなる結晶粒子からなり、記録層が、基板面に対してほぼ垂直方向に磁化容易軸を有する複数の強磁性金属粒子で、Fe、Co、Pt、Ni及びTaからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなる強磁性金属粒子を有している垂直磁気記録媒体の記録層であって、この記録層が、さらに強磁性金属粒子を相互に離隔する強磁性金属粒子とは固溶しない金属粒子で、Zn、In、Pb及びBiからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなる金属粒子を、強磁性金属粒子に対して0.5〜2.2at%、好ましくは0.65〜2.0at%含んでいる。この場合も、強磁性金属粒子の粒界に固溶しない金属粒子が均一に分散している磁区形成領域が形成されている。固溶しない金属が3重点部分で析出する。
【0022】
本発明に係る垂直磁気記録媒体の実施の形態によれば、基板上に形成されたRu又はRu合金からなる下地層と、この下地層上に形成された記録層とを備え、この下地層が、基板面に対して垂直方向に成長し、互いに離隔されてなる結晶粒子からなっている記録媒体であって、記録層は、基板面に対してほぼ垂直方向に磁化容易軸を有する複数の強磁性金属粒子で、Fe、Co、Pt、Ni及びTaからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなる強磁性金属粒子と、強磁性金属粒子を相互に離隔する強磁性金属粒子とは固溶しない金属粒子で、Zn、In、Pb及びBiからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなる金属粒子とからなり、この金属粒子が強磁性金属粒子に対して0.5〜2.2at%、好ましくは0.65〜2.0at%含まれている。
【0023】
本発明に係る強磁性金属膜の作製方法の実施の形態によれば、基板面に対してほぼ垂直方向に磁化容易軸を有する複数の強磁性金属粒子を含む膜であって、Fe、Co、Pt、Ni及びTaからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなる強磁性金属粒子を含む膜に、強磁性金属粒子とは固溶しない金属粒子であって、Zn、In、Pb及びBiからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の合金からなる固溶しない金属粒子を、強磁性金属粒子に対して0.5〜2.2at%、好ましくは0.65〜2.0at%添加することにより、強磁性金属粒子の粒界に固溶しない金属粒子が均一に分散している磁区形成領域を有する強磁性金属膜が作製される。
【0024】
上記において、Fe、Co、Pt、Ni及びTaから選ばれた少なくとも2種の金属の合金としては、例えば、Co−Pt、Co−Fe、Co−Ni等の合金を挙げることができ、また、Zn、In、Pb及びBiから選ばれた少なくとも2種の金属の強磁性金属とは固溶しない合金としては、例えばIn−Zn、In−Pb、In−Bi等の合金を挙げることができる。
【0025】
以下、図1を参照し、基板面に対してほぼ垂直方向に磁化容易軸を有し、Fe、Co、Pt、Ni及びTaからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなる複数の強磁性金属粒子と、この強磁性金属粒子を相互に離隔する強磁性金属粒子とは固溶しない、Zn、In、Pb及びBiからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなる金属粒子を、強磁性金属粒子に対して0.5〜2.2at%、好ましくは0.65〜2.0at%含んでいる記録層をDCマグネトロンスパッタ法に従って作製する方法について説明する。
【0026】
図1は、DCマグネトロンスパッタ装置の構成例を模式的に示す構成図である。この装置の下方には回転自在の基板ステージ11が配置され、この基板ステージ11の上には、記録層を形成するための処理対象基板Sが載置される。
【0027】
装置の上方には、基板Sと対向して、強磁性金属をスパッタして膜を基板S上に形成するためのDCマグネトロンスパッタカソード12及び強磁性金属とは固溶しない金属をスパッタして膜を形成するためのDCマグネトロンスパッタカソード13が配置されており、カソード12及び13の先端部には、それぞれ、強磁性金属から構成されたスパッタリングターゲット12a及び強磁性金属とは固溶しない金属から構成されたスパッタリングターゲット13aが埋め込まれている。このように2つのカソードから同時に同一基板へ成膜できる共デポシステムとすると共に、上記したように、基板面内での組成のバラつきを抑制するために、基板を載置する基板ステージは回転自在に構成されている。
【0028】
図1では、スパッタカソードを2つ用いてスパッタ膜を形成する場合を示しているが、このカソードの数は制限されず、スパッタ膜の組成によっては、3つ以上のカソードを適宜の位置に設置しても良い。
【0029】
上記カソード12と13とは、基板S上に所望の組成を有する記録層を形成できるように配置されている。例えば、カソード12は、基板Sの表面に対して垂直に対向して配置され、基板Sの表面にスパッタ粒子が垂直入射できるように構成され、また、カソード13は、基板Sの表面に対して角度を持って斜めに対向して配置され、基板の表面にスパッタ粒子が斜めから入射できるように構成されている。
【0030】
カソード12及び13の各ターゲット12a及び13aの表面と基板Sの表面との距離(T/S)は、ターゲット13aと基板との距離の方が、ターゲット12aと基板Sとの距離より長くなるように設定することが好ましい。これは、固溶しない金属粒子の入射量の調整を助けるためであるが、この入射量の調整は、主としては、DC電力供給装置によるカソード13への供給電力の調整により行われる。
【0031】
また、DCマグネトロンスパッタカソード12及び13の基板S側の口径は、前者の口径の方が後者の口径よりも大きいことが必要である。これは、DCマグネトロンスパッタ法により、主材料の強磁性金属をスパッタして基板S上に強磁性金属膜を形成しながら、基板に堆積中の強磁性金属膜内に、強磁性金属には固溶しない金属の極微量をスパッタして入射せしめ、目的とする記録層を形成するためである。
【0032】
DCマグネトロンスパッタ法において用いるスパッタリングガスとしては、特に制限はなく、既知のスパッタリングガスであればよく、例えば、Ar、Kr及びXe等を挙げることができる。
【0033】
次に、図1に示すDCマグネトロンスパッタ装置を用いて、本発明の記録層(強磁性金属膜)を作製する方法について説明する。
【0034】
装置内の基板ステージ11上に基板Sを載置する。スパッタリングプロセスは、基板Sを回転させながら行う。DCマグネトロンスパッタ法に従って、スパッタリングガス雰囲気中で、図示していないDC電力供給装置からカソード12に所定の電力(300〜500W)を投入し、スパッタリングターゲット12aから、基板S上に、強磁性金属のスパッタ粒子を入射せしめ、強磁性金属膜を形成させる。この強磁性金属膜を形成させながら、カソード12より口径の小さいカソード13に所定の電力(5〜15W)を投入し、スパッタリングターゲット13aから、基板S上の強磁性金属膜に強磁性金属には固溶しない金属のスパッタ粒子を入射せしめ、固溶しない金属粒子を、強磁性金属粒子に対して0.5〜2.2at%、好ましくは0.65〜2at%ドーピングし、目的とする記録層(強磁性金属膜)を作製する。この際、カソード13に投入する電力を調整することにより、固溶しない金属の析出量を調整することができる。
【0035】
基板Sとしては、垂直磁気記録媒体で用いることのできるものであれば良く、例えば、プラスチック基板、ガラス(結晶化及び強化ガラス)基板、金属(Si及びAl合金)基板、ポリエステルフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリイミドフィルム等を用いることができる。
【0036】
上記下地層としては、強磁性金属粒子の磁化容易軸を基板面に対して垂直方向に配向させるために、例えば、Ru又はRu−Co、Ru−Cr、Ru−Fe、Ru−Ni等のRu合金からなる層を、そして結晶性や配向性などの観点から、例えば2〜16nm程度の膜厚で形成すればよい。
【0037】
本発明の垂直磁気記録媒体は、例えば、上記したようにして作製された記録層を利用し、公知のプロセスに従い、次のようにして作製することができる。まず、真空プロセスチャンバ内にガラス製円盤状基板を導入し、その基板表面を既知方法によりクリーニングし、クリーニングされた基板上に既知方法により下地層を形成し、その上にSUL層(面内磁化膜)を形成した後、上記した磁気記録層をスパッタ法により形成する。磁気記録層形成後は、引き続き真空プロセスチャンバ内にて保護層としての既知DLC層を形成し、得られた垂直磁気記録媒体を大気中に取り出す。かくして作製された垂直磁気記録媒体は、強磁性金属粒子の粒界に固溶しない金属粒子が均一に分散した(すなわち、固溶しない金属粒子が3重点部分に析出した)、磁気モーメントを維持しながら、適度の保持力を持っている領域を有する磁気的に安定な微細磁区領域が形成されている高記録密度を有する記録層を用いているので、有用な記録媒体である。
【実施例1】
【0038】
本実施例では、図1に示すDCマグネトロンスパッタ装置を用いてCo(90at%)−Fe(10at%)の強磁性合金膜を形成する際に、この強磁性合金には固溶しないInを微量ドーピングして作製した記録層(強磁性金属膜)について、その磁気特性を評価した。この場合、スパッタリングターゲット12aと基板Sの表面との距離T/Sを200mmに設定し、また、スパッタリングターゲット13aと基板Sの表面との距離T/Sを300mmに設定した装置を用いた。
【0039】
装置内の基板ステージ11上にφ=2.5インチガラス基板Sを載置し、基板Sを回転させながら、DCマグネトロンスパッタ法に従って、Arガス雰囲気中で、図示していないDC電力供給装置からカソード12(φ:5インチ)に所定の電力(200W)を投入し、スパッタリングターゲット12aから、基板S上に、Co−Fe粒子を入射せしめ、Co−Fe膜を形成させた。このCo−Fe膜を形成させながら、図示していないDC電力供給装置からカソード13(φ:2インチ)に所定の電力(0〜60W)を投入し、スパッタリングターゲット13aから、基板S上のCo−Fe膜にIn粒子を入射せしめ、Co−Feに対して所定量のInを含んでいる記録層(膜厚:20nm)を作製した。作製された記録層において、Co−Fe粒子の粒界にIn粒子が均一に分散していることが、TEM写真により確認された。Inが3重点部分で析出していた。
【0040】
かくして得られた記録層に対して、公知の方法により磁気特性(M−H)を評価し、その結果を図2に示す。また、その際のIn量(at%)による保持力(Hc)の変化と磁気モーメント(Ms)の変化とを評価し、その結果を図3(a)及び(b)に示す。Inで構成されたスパッタリングターゲット13aへの投入電力を変化させることで、すなわち記録層中のIn量を変化させることで、磁気モーメントと保持力との変化を評価した。
【0041】
図2から明らかなように、投入電力(In量)を変動(電力:0〜60W;In量:0〜3at%)させた場合、投入電力が10W、15W、及び30Wで、即ちIn量が0.5at%、0.75at%、及び1.5at%で磁気特性のヒステリシスの高さが変わっていないことが分かる。このことから、Inが磁性粒子の粒界に存在しているものと考えられる。すなわち、図2に示されているように、ヒステリシスの上下の高さ(Ms)に大きな差が現れていないので、Inが粒界に均一に分散している状態が示唆されているものと考えられる。Inが膜中に分散している場合には、この上下の高さが低下してくるからである。
【0042】
図3(a)及び(b)から明らかなように、磁気モーメントを維持しながら、保持力が大きくなる領域があり、その領域外では磁気モーメントは急激に低下し、保持力も低下することが分かる。このように磁気モーメントが変化しない領域が存在するということは、Co−Feのような強磁性金属膜中に含まれるInのような固溶しない金属が、所定の量であれば、粒界に均一に分散している結果であると共に、強磁性金属膜を形成する結晶粒子が微細化している結果であると考えられる。所定量を超える量の固溶しない金属が添加された場合には、固溶しない金属は、強磁性金属膜中への混入が始まって合金化し、その結果、磁気モーメントの低下を引き起こし、さらには磁気記録に必要な保持力を消失させるものと考えられる。
【0043】
従って、図3(a)及び(b)から、磁気モーメントを維持しながら、適度の保持力を有する領域は、Inのような強磁性金属に固溶しない金属を、強磁性金属に対して、保持力Hc:22.5Oe以上で、磁気モーメントMsが一定である範囲として、0.5〜2.2at%、また、好ましい範囲として、Hcが25Oe以上で、0.65〜2.0at%含んでいれば良いことが分かる。
【実施例2】
【0044】
本実施例では、Co−Fe合金の代わりにCo−Pt合金を用い、また、Inの代わりにZn、Pb、Bi、In−Zn、In−Pb、及びIn−Biを用いて実施例1のプロセスを繰り返した。かくして得られた強磁性金属膜に対する磁気特性は、実施例1と同様であった。
【0045】
(比較例1)
実施例1におけるInの代わりに、強磁性金属には固溶しない非磁性材料であるSiOを用いて実施例1のプロセスを繰り返した。得られた層においてSiOは粒界に均一に分散しなかった。
【実施例3】
【0046】
実施例1で作製した垂直磁気記録媒体用記録層を用い、上記した公知プロセスを経て垂直磁気記録媒体を作製する。かくして作製された垂直磁気記録媒体は、Co−Fe粒子の粒界にIn粒子が均一に分散した(すなわち、Inが3重点部分に析出した)、磁気モーメントを維持しながら、適度の保持力を持っている領域を有する磁気的に安定な微細磁区領域が形成されている高記録密度を有する記録層を用いているので、有用な記録媒体である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、磁気的に安定な極微細磁区領域の形成された、高記録密度を有する記録層(強磁性金属膜)及び垂直磁気記録媒体が提供されるので、本発明は磁気記録媒体の技術分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0048】
11 基板ステージ
12、13 DCマグネトロンスパッタカソード
12a、13a スパッタリングターゲット
S 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板面に対してほぼ垂直方向に磁化容易軸を有する複数の強磁性金属粒子と、該強磁性金属粒子とは固溶しない金属粒子とからなる垂直磁気記録媒体用記録層であって、該強磁性金属粒子が、Fe、Co、Pt、Ni及びTaからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなり、また、該固溶しない金属粒子が、Zn、In、Pb及びBiからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の合金からなることを特徴とする垂直磁気記録媒体用記録層。
【請求項2】
前記固溶しない金属粒子が、強磁性金属粒子に対して0.5〜2.2at%含まれていることを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録媒体用記録層。
【請求項3】
前記強磁性金属粒子の粒界に前記固溶しない金属粒子が均一に分散している磁区形成領域を有していることを特徴とする請求項1又は2記載の垂直磁気記録媒体用記録層。
【請求項4】
基板上に形成されたRu又はRu合金からなる下地層と、この下地層上に形成された記録層とを備え、該下地層が、基板面に対して垂直方向に成長し、互いに離隔されてなる結晶粒子からなり、該記録層が、基板面に対してほぼ垂直方向に磁化容易軸を有する複数の強磁性金属粒子で、Fe、Co、Pt、Ni及びTaからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなる強磁性金属粒子を有している垂直磁気記録媒体の記録層であって、該記録層が、さらに該強磁性金属粒子とは固溶しない金属粒子で、Zn、In、Pb及びBiからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなる金属粒子を含んでいることを特徴とする垂直磁気記録媒体用記録層。
【請求項5】
前記固溶しない金属粒子が、強磁性金属粒子に対して0.5〜2.2at%含まれていることを特徴とする請求項4記載の垂直磁気記録媒体用記録層。
【請求項6】
前記強磁性金属粒子の粒界に前記固溶しない金属粒子が均一に分散している磁区形成領域を有していることを特徴とする請求項4又は5記載の垂直磁気記録媒体用記録層。
【請求項7】
基板上に形成されたRu又はRu合金からなる下地層と、この下地層上に形成された記録層とを備え、該下地層が、基板面に対して垂直方向に成長し、互いに離隔されてなる結晶粒子からなり、該記録層が、基板面に対してほぼ垂直方向に磁化容易軸を有する複数の強磁性金属粒子で、Fe、Co、Pt、Ni及びTaからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなる強磁性金属粒子と、該強磁性金属粒子とは固溶しない金属粒子で、Zn、In、Pb及びBiからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなる金属粒子とを含んでいることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項8】
前記固溶しない金属粒子が、強磁性金属粒子に対して0.5〜2.2at%含まれていることを特徴とする請求項7記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項9】
前記強磁性金属粒子の粒界に前記固溶しない金属粒子が均一に分散している磁区形成領域を有していることを特徴とする請求項7又は8記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項10】
基板面に対してほぼ垂直方向に磁化容易軸を有する複数の強磁性金属粒子を含む膜に、該強磁性金属粒子とは固溶しない金属粒子を、該強磁性金属粒子に対して0.5〜2.2at%添加することにより、該強磁性金属粒子の粒界に該固溶しない金属粒子が均一に分散している磁区形成領域を有する強磁性金属膜を作製することを特徴とする強磁性金属膜の作製方法。
【請求項11】
基板面に対してほぼ垂直方向に磁化容易軸を有する複数の強磁性金属粒子を含む膜であって、Fe、Co、Pt、Ni及びTaからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の金属の合金からなる強磁性金属粒子を含む膜に、該強磁性金属粒子とは固溶しない金属粒子であって、Zn、In、Pb及びBiからなる群から選ばれた金属又はこれらの金属から選ばれた少なくとも2種の合金からなる固溶しない金属粒子を、該強磁性金属粒子に対して0.5〜2.2at%添加することにより、該強磁性金属粒子の粒界に該固溶しない金属粒子が均一に分散している磁区形成領域を有する強磁性金属膜を作製することを特徴とする強磁性金属膜の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−81873(P2011−81873A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233928(P2009−233928)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】