説明

垂直磁気記録媒体

【課題】低ノイズ特性、熱安定性および書きこみ特性に優れ、高密度記録が可能であって、かつ低コストの垂直磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】非磁性基体1上に、少なくとも下地層3、磁性層4、保護層5を順次形成してなる垂直磁気記録媒体において、前記磁性層4は、CoPt合金を主成分とする強磁性結晶粒と、それを取り囲む酸化物を主成分とする非磁性粒界とからなるグラニュラー構造を備え、かつ前記下地層3は、Cu, Pd, Auのいずれかの元素、または、Cu, Pd, Pt, Ir, Auのいずれかの二種以上の元素の合金からなるものとする。また、前記下地層3は、上記に代えて、Cu, Pd, Ir, Pt, Auのいずれかの元素を少なくとも25at%以上含むRu合金からなるもの、もしくは、少なくともNiとFeを含む合金からなるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気記録媒体、特にコンピュータの外部記憶装置を初めとする各種磁気記録装置に使用される垂直磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録の高密度化を実現する技術として、従来の長手磁気記録方式に代えて、垂直磁気記録方式が注目されつつある。垂直磁気記録方式は、従来の長手磁気記録方式に比べて、高密度で高い熱安定性を有するとともに、高い保磁力の記録媒体にも十分書き込みが可能であるという利点があり、長手磁気記録方式の記録密度の限界を超えることが可能となるからである。
【0003】
垂直磁気記録媒体の磁気記録層(磁性層)用材料としては、現在、主にCoPt系合金結晶質膜が検討されており、垂直磁気記録に用いるために、六方最密充填(hcp)構造をもつCoPt系合金のc軸が膜面に垂直(c面が膜面に平行)になるように結晶配向を制御している。CoPt系合金の今後の更なる高密度化、特に媒体ノイズの低減のために、このCoPt系結晶粒の微細化,粒径分布の低減,粒間の磁気的な相互作用の低減等の試みが行なわれている。
【0004】
磁性層構造制御の一方式として、一般にグラニュラー磁性層と呼ばれる、強磁性結晶粒の周囲を酸化物や窒化物のような非磁性非金属物質で囲んだ構造をもつ磁性層が、垂直磁気記録媒体においても提案されている。このようなグラニュラー磁性膜は、非磁性非金属の粒界相が強磁性粒子を物理的に分離するため、強磁性粒子間の磁気的な相互作用が低下し、記録ビットの遷移領域に生じるジグザグ磁壁の形成を抑制するので、低ノイズ特性が得られると考えられている。
【0005】
磁性層がCoPt系合金からなる場合、そのhcp構造のc軸を膜面に垂直方向に配向させることが、低ノイズ特性の実現には重要であり、例えば、特許文献1には、Ta層/NiFe合金シード層、Ru下地層を順次積層した後に、hcp構造を有する磁性層を成膜することが提案されている。さらに、特許文献2には、同様の層構成において、グラニュラー磁性膜を有する垂直磁気記録媒体が開示されている。
【0006】
上記垂直磁気記録媒体においては、前述のような結晶配向制御、並びにグラニュラー構造の形成等に基づく強磁性結晶粒間の相互作用の低減により、低ノイズ特性を実現すると共に、高い熱安定性を有することが求められる。媒体の熱安定性を向上するためには、記録磁化が不可逆的に反転する際のエネルギー障壁(活性化エネルギー)ΔEを増加させることが重要である。このエネルギー障壁ΔEは、記録磁性層構成粒子の体積V,材料自身が有する単位体積当りの磁気異方性エネルギーe K = Ku1sin2θ (θは磁化と媒体面法線方向のなす角度),そして記録磁化が受ける反磁場Hd に支配される。ここでΔEは記録磁性層構成粒子の体積Vに比例するので、ΔE = Keff Vと記すと、係数KeffはKu1とHdの関数で実効的異方性に相当する量となる。熱揺らぎはこのエネルギー障壁ΔE = Keff Vと熱エネルギーkT(kはボルツマン定数、Tは絶対温度)の比 KeffV/kTで決まり、熱安定性の良い指標となる。
したがって、熱安定性の向上にはKeffVを高める必要があるが、先述のように低ノイズ特性の実現には強磁性結晶粒の体積Vを低下させることが求められるため、どうしてもKeffを増加させることが不可欠となる。そのためには,Keffを強く支配するKu1を増加させ、熱安定性指標KeffV/kTを高めることが必要となる。
【0007】
一方、強磁性結晶粒間の磁気的な相互作用が十分に低下した場合、その結晶粒の磁化を反転させるために必要な磁場は、結晶粒の飽和磁化をMsとして、異方性磁界Hk=2Ku1/Msの値に近づくことが知られている。即ち、低ノイズ化の促進と熱安定性の確保のため、Vを低下させつつKu1を増加させた場合、Hkの増大を招くことになる。Hkの増大は、結晶粒の磁化反転を困難にし、媒体の書きこみ性能が劣化することを意味しており、高密度媒体の実現においては、このような低ノイズ特性、熱安定性、書きこみ特性の三者を良好にすることが益々困難になっている。
【0008】
ところで、本発明のCoPt系合金のc軸が膜法線方向にあり、その方向が磁化容易軸となる。結晶格子の空間対称性を考慮した場合の磁気異方性エネルギーの一般的表現は、薄膜という形状効果を除けば、e K = Ku1sin2θ+Ku2sin4θ+・・・・となる。従来は、磁気異方性として上述の2次項係数Ku1のみで磁気挙動や熱揺らぎの議論がなされ、他の高次項は殆ど無視されてきた。しかしながら、例えば非特許文献1あるいは非特許文献2に記載されているように、実際の磁気異方性項としては2次項成分Ku1と共に4次項成分Ku2が存在し、Ku1とKu2の値を適切に制御することによって、低ノイズ特性、熱安定性および書きこみ特性の三者を良好にすることができる可能性が指摘されている。
【0009】
その理由は、上述の熱安定性の指標であるKeffV/kT値のKeffには、近似的にKu1とKu2の和が寄与するのに対し、書きこみ能力を示すHk=2K/MsのKには、ほぼKu1のみで決まることに起因している。即ち、Ku1に対しKu2の値をある程度高く保持することによって、Hkを増大させずにKeffV/kTを維持することが可能となる。したがって、低ノイズ化を促進しつつ熱安定性を確保した場合でも、書きこみ特性を劣化させない垂直磁気記録媒体が実現でき、さらなる高密度記録が可能となりうる。
【0010】
一方、非特許文献3においては、垂直磁気異方性を有するCoPtCr合金磁性層をRu下地層上に形成した場合には、Ku2がKu1に比べて非常に小さいのに対して、Pt下地層上に形成した場合には、比較的大きなKu2が出現することが報告されている。非特許文献3は、例えば(Co90Cr10)65 Pt35合金磁性層をPt下地層上に形成した場合、Ku2/Ku1=0.4という非常に高い値が得られることを開示している。この開示は、上記観点からKu2値を制御する場合、磁性層の材料だけでなく下地層の材料を適切に選択することが有用であることを示唆している。
【0011】
なお、前記Ku1及びKu2の値は、例えば、非特許文献4又は5に記載された、磁気カー効果あるいはホール効果を利用した一般化されたサックスミス−トンプソン法(GST法)などにより測定することができる。
【特許文献1】特開2002−358617号公報
【特許文献2】特開2003−77122号公報
【非特許文献1】Osamu KITAKAMI et al., "Energy Baririer Enhanced by Higher Order Magnetic Anisotropy Terms", Jpn.J .Appl.Phys., Vol.42 (2003) pp.L455-L457(1 May 2003)
【非特許文献2】Osamu KITAKAMI et al., "Sharrock Relation for Perpendicular Recording Media with Higher-Order Magnetic Anisotropy Terms", Jpn.J.Appl.Phys., Vol.43 No.1A/B(2003) pp.L115-L117
【非特許文献3】Takehito SHIMATSU et al., "Magnetic Anisotropy of CoPtCr-SiO2 Perpendicular Recording Media for High Density Recording", Digests of PMRC 2004 , The Seventh Perpendicular Magnetic Recording Conference, May31-June2,2004, pp.253-254
【非特許文献4】Satoshi Okamoto et al., "Enhancement of magnetic surface anisotropy of Pd/Co/Pd trilayers by the addition of Sm", J. Appl.Phys., Vol.90 No.8(15 Oct.2001) pp.4085-4088
【非特許文献5】S. Okamoto et al., "Chemical-order-dependent magnetic anisotropy and exchange stiffness constant of FePt(001) epitaxial films", PHYSICAL REVIEW B66, 024413(2002) pp. 66 024413 1-9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述のように、非特許文献1あるいは非特許文献2には、Ku2値を適切に制御することにより、低ノイズ特性、熱安定性および書きこみ特性に優れた高密度垂直磁気記録媒体の実現可能性が開示されているが、具体的にどのような材料及び層構成の媒体を形成すれば所望のKu2/Ku1の値が得られるか否かは記載されていない。
【0013】
また、非特許文献3には、特許文献1及び2に示されたRu層をグラニュラー磁性層の下地層として使用した場合には、Ku2値がほぼ0になるのに対し、Pt下地層を用いた場合には、比較的高いKu2値が得られることが開示されている。しかしながら、周知のとおり、Ptは非常に高価であり、垂直磁気記録媒体の生産コストを低減するためには、より安価な材料を用いて高いKu2値を得ることが必要不可欠である。
【0014】
この発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、本発明の課題は、低ノイズ特性、熱安定性および書きこみ特性に優れ、高密度記録が可能であって、かつ低コストの垂直磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、以下により達成される。即ち、本発明によれば、非磁性基体上に、少なくとも下地層、磁性層、保護層を順次形成してなる垂直磁気記録媒体において、前記磁性層は、CoPt合金を主成分とする強磁性結晶粒と、それを取り囲む酸化物を主成分とする非磁性粒界とからなるグラニュラー構造を備え、かつ前記下地層は、Cu, Pd, Auのいずれかの元素、または、Cu, Pd, Pt, Ir, Auのいずれかの二種以上の元素の合金からなることを特徴とする(請求項1)。
【0016】
また、本発明によれば、非磁性基体上に、少なくとも下地層、磁性層、保護層を順次形成してなる垂直磁気記録媒体において、前記磁性層は、CoPt合金を主成分とする強磁性結晶粒と、それを取り囲む酸化物を主成分とする非磁性粒界とからなるグラニュラー構造を備え、かつ前記下地層は、Cu, Pd, Ir, Pt, Auのいずれかの元素を少なくとも25at%以上含むRu合金からなることを特徴とする(請求項2)。
【0017】
さらに、本発明によれば、非磁性基体上に、少なくとも下地層、磁性層、保護層を順次形成してなる垂直磁気記録媒体において、前記磁性層は、CoPt合金を主成分とする強磁性結晶粒と、それを取り囲む酸化物を主成分とする非磁性粒界とからなるグラニュラー構造を備え、かつ前記下地層は、少なくともNiとFeを含む合金からなることを特徴とする(請求項3)。
【0018】
前記請求項1ないし3の各発明によれば、Ku2/Ku1の値を増大することが可能であり、高価なPt下地層を用いることなく、低ノイズ特性、熱安定性および書きこみ特性に優れ、高密度記録が可能な垂直磁気記録媒体が得られる。詳細は後述する。
【0019】
また、前記請求項1ないし3の発明の実施態様としては、下記請求項4ないし5の発明が好ましい。即ち、前記請求項1ないし3のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体において、前記非磁性基体と下地層との間に、B,C,Si,Ge,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのいずれかの元素、またはこれらの元素同士の合金からなるシード層を備えることを特徴とする(請求項4)。前記シード層を設けることにより、磁性結晶粒の結晶配向性が向上でき、低ノイズ特性の向上が図れる。
【0020】
さらに、前記請求項1ないし4のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体において、磁化と媒体面法線方向のなす角度をθとして前記磁性層の単位体積当りの磁気異方性エネルギーをEK = Ku1 sin2θ+ Ku2 sin4θと表現した場合に、4次項係数Ku2と2次項係数Ku1との比(Ku2/Ku1)が、0.10以上であることを特徴とする(請求項5)。前記0.10は、目安となる数値ではあるが、0.10以上とした場合に、高密度記録が可能な垂直磁気記録媒体を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、Ku2/Ku1を増大させた垂直磁気記録媒体が作製でき、特にKu2/Ku1が0.10以上の場合には、低ノイズ特性、熱安定性、並びに書きこみ特性の三者に優れ、高密度記録が可能な垂直磁気記録媒体を実現することが可能となる。さらに、本発明による下地層はいずれも、非特許文献3に開示されたPt単体金属に比べて安価な材料であることから、磁気記録媒体の低生産コスト化にも寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、この発明の実施形態に関して、図1および図2に基いて説明する。図1は本発明の実施形態に係る垂直磁気記録媒体の模式的断面図である。また、図2は、図1とは異なる本発明の実施形態に係る垂直磁気記録媒体の模式的断面図である。
【0023】
図1に示す本発明の垂直磁気記録媒体は、非磁性基体1上に少なくとも下地層3、磁性層4及び保護層5が順に形成された構造を有する。図2に示す垂直磁気記録媒体の実施形態は、下地層3と非磁性基体1との間に、下地層3の結晶配向性や結晶粒径の制御の目的でシード層2を設けた実施形態を示す。
【0024】
前記非磁性基体1としては、通常の磁気記録媒体用に用いられる、NiPメッキを施したAl合金や強化ガラス、結晶化ガラス等を用いることができるほか、ポリカーボネート,ポリオレフィンや、その他のプラスチック樹脂を射出成形することにより作製した基板をも用いることができる。
【0025】
次に、保護層5としては、例えばカーボンを主体とする膜厚5nm以下の薄膜が用いられる。なお、保護層5上に、例えばパーフルオロポリエーテル等からなる液体潤滑剤を塗布してもよい。また、図1に示す垂直磁気記録媒体の場合には、非磁性基体1と下地層3との間に、図2に示す垂直磁気記録媒体の場合には、非磁性基体1とシード層2との間に、軟磁性裏打ち層とよばれる膜厚100nm程度もしくはそれ以上の厚さの軟磁性膜を形成しても、本発明の効果は損なわれない。
【0026】
次に、磁性層について述べる。磁性層4は、強磁性を有する結晶粒とそれを取り囲む非磁性粒界からなり、かつその非磁性粒界が、金属の酸化物を主体とする、いわゆるグラニュラー磁性層であることが必要である。このような構造は、例えば非磁性粒界を構成する酸化物を含有する強磁性金属をターゲットとして、スパッタリングにより成膜する方法や、強磁性金属をターゲットとして酸素を含有するArガス中で反応性スパッタリングにより成膜する方法により作製することができる。
【0027】
強磁性を有する結晶を構成する材料は特に制限されないが、CoPt系合金が好適に用いられる。特に、CoPt合金に、Cr, Ni, Ta, Bのうちの少なくとも1つの元素を添加することが、媒体ノイズ低減のためには望ましい。一方、非磁性粒界を構成する材料としては、Cr, Co, Si, Al, Ti, Ta, Hf, Zrのうちの少なくとも1つの元素の酸化物を用いることが、安定なグラニュラー構造を形成する上で特に望ましい。磁性層の膜厚は特に制限されるものではないが、記録再生時に十分なヘッド再生出力と記録再生分解能を得るための膜厚が必要とされる。
【0028】
次に、下地層について述べる。下地層3の材料としては、請求項1のようにCu, Pd, Auのいずれかの元素、または、Cu, Pd, Pt, Ir, Auのいずれかの二種以上の元素からなる合金、または請求項2のように、Cu, Pd, Ir, Pt, Auのいずれかの元素を少なくとも25at%以上含むRu合金、または請求項3のように、少なくともNiとFeを含む合金とする。
【0029】
これらの材料は、いずれも面心立方格子(fcc)、あるいは六方最密充填(hcp)のいずれかの結晶構造を有しており、fcc構造の場合はその(111)面が、hcp構造の場合はその(002)面が膜面に平行に優先配向していることが、磁性層結晶粒のc軸を膜面垂直方向に優先配向させるために必要である。これらの材料を下地層として用いることにより、磁性層結晶粒の構造を適切に制御でき、大きなKu2/Ku1値を導出することが可能となる。
【0030】
また、これらの下地層材料はいずれも、非特許文献3に開示されたPt単体金属よりも安価な材料であることから、磁気記録媒体の低生産コスト化にも寄与する。
【0031】
下地層の膜厚としては、2nm以上、好ましくは5nm以上とすることが、磁性層結晶粒の配向を制御するためには望ましいが、生産コスト、並びに磁性層と軟磁性裏打層の距離を低減するという目的からは、磁性層結晶粒の配向を制御できる範囲でなるべく薄いことが望ましい。
【0032】
次に、図2に示す垂直磁気記録媒体におけるシード層2について述べる。シード層2は、B,C,Si,Ge,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのいずれかの元素、またはこれらの元素同士の合金であることが必要とされる。これらの材料からなるシード層は、下地層3の結晶配向性を向上させ、磁性層結晶粒のc軸の配向性を更に向上させる役割を有する。その膜厚は、3nm以上、好ましくは5nm以上であることが、配向制御のために望ましい。
【0033】
なお、図2に示す垂直磁気記録媒体における下地層3とシード層2との間、あるいは図1に示す垂直磁気記録媒体における下地層3と非磁性基体1との間における下地層3の直下に、さらにNiFe合金などからなる配向制御層を付与してもよい。
【実施例】
【0034】
次に、図3および4に基づき、本発明の実施例について述べる。なお、以後の説明において、圧力をTorrの単位で表記するが、これをSI単位であるPa(パスカル)に変換する場合には、1Torr=133Paにより換算すればよい。さらに、磁気異方性エネルギーの2次項係数Ku1値を、erg/cm3 の単位で表記するが、これをSI単位であるJ/m3 に変換する場合には、1erg/cm3 =0.1 J/m3 により換算すればよい。
(実施例1)
図3は、以下に述べる実施例1に使用した、比較例を含む各種下地層材料と、各材料に対応するKu1値およびKu2/Ku1値の一覧を示す図である。非磁性基体として、強化ガラス基板(2.5"ディスク形状、HOYA株式会社製N5)を用い、これを洗浄後スパッタ装置内に導入し、図3に示す各種下地層材料をターゲットとして、DCマグネトロンスパッタリング法により、膜厚20nmの下地層を、Arガス圧5mTorr下で形成した。さらに、前記下地層の上に、SiO2を10mol%添加したCo70Cr10Pt20ターゲットを用い、RFスパッタ法によりArガス圧15mTorr下でグラニュラー磁性層15nmを形成し、ついでカーボン保護層5nmを積層した後、真空中から取り出し、図1に示すような構成の垂直磁気記録媒体を作製した。
【0035】
図3は、下地層の材料と、ホール効果を利用したGST法で測定したそれぞれの媒体のKu1値、及びKu2/Ku1値を示す。図3によれば、下地層が、Cu, Pd, Auのいずれかの元素、または、Cu, Pd, Pt, Ir, Auのいずれかの二種以上の元素からなる合金、またはCu, Pd, Ir, Pt, Auのいずれかの元素を少なくとも25at%以上含むRu合金、または少なくともNiとFeを含む合金の場合には、Ku2/Ku1値が0.1を超えているのに対し、図3の下方に示した比較例のように、下地層がRu、あるいはRuを75at%以上含む、即ち、Ru 以外の合金成分が25at%未満のPtRuやPdRu合金等の場合には、Ku2/Ku1値が0.1未満となっており、高密度垂直磁気記録媒体としては不適当であることがわかる。
(実施例2)
本実施例2は、請求項4の発明に関わる実施例であり、図4は、以下に述べる実施例2に使用した、比較例を含む各種シード層材料と、各材料に対応するKu1値およびKu2/Ku1値ならびに後述するロッキングカーブの半値幅Δθ50の一覧を示す図である。
【0036】
下地層をPt50Ru50とし、下地層の成膜前に、図4に示す各種シード層材料をターゲットとして、DCマグネトロンスパッタリング法により、膜厚5nmのシード層をArガス圧5mTorr下で形成した以外は、実施例1と同様にして、図2に示すような構成の垂直磁気記録媒体を作製した。
【0037】
図4は、シード層の材料と、ホール効果を利用したGST法で測定したそれぞれの媒体のKu1値、Ku2/Ku1値と、X線回折法により求めた磁性層のCoCrPt-hcp(002)回折線のロッキングカーブの半値幅Δθ50値を示す。Δθ50の値は小さいほど磁性層の(002)配向性が強いことを示す量である。
【0038】
図4には比較のため、図4の下段に「なし」と表示した比較例、即ち、シード層を付与していない場合の値も示した。いずれの媒体も0.1以上のKu2/Ku1値を示しているが、シード層としてB,C,Si,Ge,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのいずれかの元素、またはこれらの元素同士の合金を用いた場合には、シード層を用いない比較例に比べて、Δθ50の値が小さくなっており、磁性層の結晶配向性が向上していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明の実施形態に係る垂直磁気記録媒体の模式的断面図。
【図2】この発明の図1とは異なる実施形態に係る垂直磁気記録媒体の模式的断面図。
【図3】この発明の実施例1に使用した、比較例を含む各種下地層材料と、各材料に対するKu1値及びKu2/Ku1値の一覧を示す図。
【図4】この発明の実施例2に使用した、比較例を含む各種シード層材料と、各材料に対するKu1値,Ku2/Ku1値及びロッキングカーブの半値幅Δθ50の一覧を示す図。
【符号の説明】
【0040】
1 非磁性基体
2 シード層
3 下地層
4 磁性層
5 保護層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基体上に、少なくとも下地層、磁性層、保護層を順次形成してなる垂直磁気記録媒体において、前記磁性層は、CoPt合金を主成分とする強磁性結晶粒と、それを取り囲む酸化物を主成分とする非磁性粒界とからなるグラニュラー構造を備え、かつ前記下地層は、Cu, Pd, Auのいずれかの元素、または、Cu, Pd, Pt, Ir, Auのいずれかの二種以上の元素の合金からなることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
非磁性基体上に、少なくとも下地層、磁性層、保護層を順次形成してなる垂直磁気記録媒体において、前記磁性層は、CoPt合金を主成分とする強磁性結晶粒と、それを取り囲む酸化物を主成分とする非磁性粒界とからなるグラニュラー構造を備え、かつ前記下地層は、Cu, Pd, Ir, Pt, Auのいずれかの元素を少なくとも25at%以上含むRu合金からなることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
非磁性基体上に、少なくとも下地層、磁性層、保護層を順次形成してなる垂直磁気記録媒体において、前記磁性層は、CoPt合金を主成分とする強磁性結晶粒と、それを取り囲む酸化物を主成分とする非磁性粒界とからなるグラニュラー構造を備え、かつ前記下地層は、少なくともNiとFeを含む合金からなることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体において、前記非磁性基体と下地層との間に、B,C,Si,Ge,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wのいずれかの元素、またはこれらの元素同士の合金からなるシード層を備えることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体において、磁化と媒体面法線方向のなす角度をθとして前記磁性層の単位体積当りの磁気異方性エネルギーをEK = Ku1 sin2θ+ Ku2 sin4θと表現した場合に、4次項係数Ku2と2次項係数Ku1との比(Ku2/Ku1)が、0.10以上であることを特徴とする垂直磁気記録媒体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−85825(P2006−85825A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−269588(P2004−269588)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】