説明

垂直磁気記録媒体

【課題】高記録密度に対応できる記録再生特性に優れた媒体を実現する。
【解決手段】基板11上に密着層12、軟磁性下地層13、シード層14、中間層15、記録層16を順次形成する。シード層14は第一シード層141と第二シード層142の積層構造とし、第一シード層141はCoFe合金からなる面心立方格子(fcc)構造を有する磁性合金で構成し、第二シード層142はNiW合金からなるfcc構造を有する非磁性合金で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大容量の情報記録が可能な磁気記録媒体に係り、特に高密度磁気記録に好適な磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
垂直磁気記録方式は、隣接する磁化が向き合わないために記録状態が安定であり、本質的に高密度記録に適した方式である。垂直磁気記録媒体は、主に軟磁性下地層と中間層、磁気記録層を積層した構造からなる。軟磁性下地層は磁気ヘッドから発生する磁界の広がりを抑え、効率的に磁気記録層を磁化する役割をもつ。中間層は軟磁性下地層と磁気記録層を磁気的に分離する役割とともに、磁気記録層の配向を制御する役割をもつ。磁気記録層には、一般的にCoCrPt合金にSiO2等の酸化物を添加したグラニュラ型の記録層が用いられており、従来のCoCrPt系媒体に比較して、媒体ノイズが低く熱減磁にも強いとされている。
【0003】
性能や記録密度をさらに向上させる為には、磁気記録層のノイズ低減に加えて軟磁性下地層と磁気ヘッドとの距離を低減する必要がある。上記したように軟磁性下地層は記録ヘッドから発生する磁束の広がりを防止し、磁気記録層への書き込みを補助する役割を有している。そのため両者間の距離を縮めることにより、記録ヘッドの磁界勾配を急峻にし、より効率的に記録することが出来る。軟磁性下地層と磁気ヘッドの距離を縮める方法として、磁気ヘッドの浮上量を低減すること、保護膜や潤滑膜、更に磁気記録層や中間層の膜厚を薄くすることが挙げられる。保護膜や潤滑膜の膜厚を低減するのは信頼性の観点から限界がある。また、磁気記録層の膜厚低減は熱揺らぎ耐性の劣化、ノイズの増大、信号品質の劣化に繋がるため問題がある。中間層は、磁気記録層の配向性や結晶性を制御するのに重要な役割を持つため、磁気記録層の特性を維持しつつ、中間層の膜厚を如何に薄くするかが重要な課題であった。中間層の材料としては幅広く提案されているが、一般的にはRuあるいはRu合金が用いられている。Ruの結晶性や配向性を向上する為に、TaやTi合金のような下地層をRu中間層の下に形成する方法が提案されている。また、中間層の一部に軟磁性下地層材料を用いることによって、軟磁性下地層の役割と中間層の結晶配向の両方を制御する方法が提案されている。例えばNiFe系下地層とRu中間層を用いる方法が特許文献1に、NiW系下地層とRu中間層を用いる方法が特許文献2に、NiFe系とCoFe系の軟磁性層の上にRu中間層を用いる方法が特許文献3に提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−123239号公報
【特許文献2】特開2007−179598号公報
【特許文献3】特開2004−288348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来提案された媒体構成は中間層の膜厚が厚く、単純に中間層を薄くすると記録層の特性が劣化し、記録再生特性に優れた磁気記録媒体を得るには不十分であった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものでシード層の材料や構造の組み合わせを選ぶことよって、中間層の薄い記録再生特性に優れた磁気記録媒体を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の垂直磁気記録媒体は、基板上に軟磁性下地層、シード層、中間層、磁気記録層、保護層が順次積層された構造を有する。シード層は、下層の第一シード層と上層の第二シード層からなる積層構造を有し、第一シード層はCoFe合金からなる面心立方格子(fcc)構造を有する磁性合金で構成し、第二シード層はNiW合金からなるfcc構造を有する非磁性合金で構成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、CoFeを含むfcc構造を有する軟磁性材と、NiW合金からなるfcc構造を有する非磁性材で構成された二層構造からなるシード層を選択することによって、生産性、信頼性に優れ、さらに高記録密度が可能な垂直磁気記録媒体を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の垂直磁気記録媒体は、基板上に密着層が形成され、密着層上に軟磁性下地層が形成され、軟磁性下地層上にシード層が形成され、シード層上に中間層が形成され、中間層上に垂直磁気記録層が形成されている。
【0010】
密着層の材料としては、基板との密着性、表面平坦性に優れていれば特に限定するものではないが、Ni,Al,Ti,Ta,Cr,Zr,Co,Hf,Si,Bの少なくとも二種の金属を含む合金で構成することが好ましい。より具体的には、NiTa,AlTi,AlTa,CrTi,CoTi,NiTaZr,NiCrZr,CrTiAl,CrTiTa,CoTiNi,CoTiAl等を用いることができる。
【0011】
軟磁性層下地層は、飽和磁束密度(Bs)が少なくとも1テスラ以上で、ディスク基板の半径方向に一軸異方性が付与されており、ヘッド走行方向に測定した保磁力が1.6kA/m以下で、さらに表面平坦性に優れていれば特に材料を限定するものではない。具体的には、CoもしくはFeを主成分とし、これにTa,Hf,Nb,Zr,Si,B,C等を添加した非晶質合金或いは微結晶質合金を用いると上記特性が得られやすい。その膜厚は磁気ヘッドの構造や特性によって最適値が異なるが、概ね20nm〜100nmの範囲であることが好ましい。膜厚が20nm未満であると、磁気ヘッドからの磁束を十分に吸収せず書き込みが不十分となる。一方、100nmより厚くなると逆に書き広がりが生じ、記録再生特性が劣化する。
【0012】
軟磁性下地層のノイズをより低減するために、軟磁性下地層に非磁性層を挿入し、この非磁性層を介して上下の軟磁性層を反強磁性的或いは静磁気的に結合させる。非磁性層の上側の軟磁性層と下側の軟磁性層の磁気モーメントを等しくすると両層の間で磁束が還流し、両層の磁区状態がより安定化されるので好ましい。非磁性層に用いる材料としてはRu,Cr或いはCuを用いることが望ましい。上下軟磁性下地層の結合の大きさは磁気ヘッドの構造や特性によって最適値が異なる。この場合、非磁性層の膜厚を変えて調整するか、或いは上記非磁性層にCo,Fe等の第3元素を添加して調整することができる。
【0013】
シード層は基板側から第一のシード層と第二のシード層の二層構造からなる。基板側に形成された第一のシード層は、軟磁性下地層の役割と中間層の結晶性を制御することを目的としており、CoFe合金からなるfcc構造を有する磁性材料を用いる。具体的には、CoFeにTa,Nb,W,B,V等を添加した材料を用いることが望ましい。また、CoFe合金は、飽和磁束密度(Bs)が少なくとも0.8テスラ以上で、ディスク基板の半径方向に一軸異方性が付与されており、保磁力が0.8kA/m以下であることが好ましい。第一シード層に良好な軟磁気特性の材料を用いることによって、記録再生特性が改善できる。第一シード層の膜厚は、第二シード層、中間層或いは磁気記録層の材料や膜厚、評価に用いるヘッドとの組み合わせによって最適値が異なってくるが、概ね1nm〜10nmの範囲であることが好ましい。1nmより薄いとシード層としての効果が不十分となり、10nmより厚くなるとノイズが増大し、結晶サイズも大きくなるので好ましくない。
【0014】
記録層側に形成された第二シード層は、中間層の配向性と結晶性を制御することを目的としており、NiW合金からなるfcc構造を有する非磁性材料を用いることができる。具体的には、NiW或いはNiWにCr,V,B,Nb,Ta等を添加したNiW合金を用いることが望ましい。第二シード層の膜厚は、第一シード層と同様、中間層や磁気記録層の材料や膜厚、評価に用いるヘッドとの組み合わせによって最適値が異なってくるが、概ね1nm〜10nmの範囲であることが望ましい。1nmより薄いと中間層としての効果が不十分となり、10nmより厚くなると結晶サイズが大きくなるので好ましくない。
【0015】
磁気ヘッドからの磁束をより吸収するために、軟磁性下地層と第一シード層との間に非磁性層を挿入することもできる。これにより軟磁性下地層と第一のシード層との強磁性結合を分断させる。非磁性層はその上に形成される第一シード層の結晶性、配向性を損なわなければ、特に材料を限定するものではない。具体的には、NiTa,Ta等の非晶質合金、Pd,Ti等のfcc構造や六方稠密格子(hcp)構造の合金を用いることが出来る。膜厚は概ね1nm〜5nmが好ましい。1nmより薄いと、軟磁性下地層と第一シード層との結合が切れず、5nmより厚いとノイズが増大し記録再生特性が劣化するので好ましくない。
【0016】
中間層としては、Ru単体か、Ruを主成分とし、これにCr,Ti,Ta,B等を添加したhcp構造やfcc構造の合金、或いはグラニュラ構造を有する合金を用いることができる。また、中間層は単層膜でもよいが、結晶構造の異なる材料を用いた積層膜でもよい。膜厚は16nm以下であることが好ましい。上記シード層と組み合わせることにより、磁気記録層の特性を劣化させることなくRu中間層の膜厚を薄くすることが出来る。
【0017】
垂直磁気記録層としては、少なくともCoとPtを含む合金を用いることができる。またCoCrPtを主成分とし、それに酸化物を添加したグラニュラ構造を有する合金、具体的にはCoCrPt−SiO2,CoCrPt−MgO,CoCrPt−TaO,CoCrPt−CoO,CoCrPt−TiOなどを用いることができる。さらに、(Co/Pd)多層膜、(CoB/Pd)多層膜、(Co/Pt)多層膜、(CoB/Pt)多層膜等の人工格子膜を用いることができる。また、前記グラニュラ構造膜或いは人工格子膜からなる記録層の上にCoCrPt或いはCpCrPtにB,Ta,Ti等を添加した合金を形成した2層構造を用いることができる。
【0018】
垂直磁気記録層の保護層としては、カーボンを主体とする厚さ2nm以上、8nm以下の膜を形成し、さらにパーフルオロアルキルポリエーテル等の潤滑層を用いることが好ましい。これにより信頼性の高い垂直記録媒体が得られる。
【0019】
基板はガラス基板、NiPめっき膜をコーティングしたAl合金基板、セラミックス基板、さらにテクスチャ加工により表面に同心円状の溝が形成された基板を用いることができる。
【0020】
記録層及び軟磁性下地層の磁気特性は、ネオアーク製のKerr効果磁力計を用いて評価した。記録再生特性は日立ハイテクノロジーズ製スピンスタンド評価装置を用いて評価した。評価に用いたヘッドは、トレーリングシールド型記録素子と、スピンバルブ型再生素子を併せ持つ複合磁気ヘッドである。最大線記録密度は43.8kfc/mmとした。媒体S/Nは18.8kfc/mmの信号を記録したときの再生出力と積分ノイズの比として求めた。オーバーライト(OW)特性は2.59kfc/mmの信号に,20.9kfc/mmの信号を上書きした後の、最初の信号の減衰比から求めた。
【0021】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、図面を参照して説明する。
[実施例1]
図1に、本実施例の垂直磁気記録媒体の層構成を示す。基板11には厚さ0.635mm、直径65mm(2.5インチ型)のガラスディスク基板を用い、スパッタリング法により密着層12、軟磁性下地層13、シード層14、中間層15、記録層16、保護層17を順次形成した。軟磁性下地層13は、第一軟磁性層131、非磁性層132、第二軟磁性層133の積層膜である。シード層14は、第一シード層141と第二シード層142の積層膜である。また、記録層16は、第一記録層161と第二記録層162の積層膜である。表1に、本実施例で用いたターゲット組成とArガス圧及び膜厚を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
まず、基板11上に密着層12であるNiTaを10nm、その上に第一軟磁性層131であるFeCoTaZrを15nm、非磁性層132であるRuを0.4nm、第二軟磁性層133であるFeCoTaZrを5.5nm、順に形成した。さらに第一シード層141であるCoFeTaを7nm、第二シード層142であるNiWを3nm、中間層15であるRuをAr圧力1Paで4nm、Ar圧力5Paで8nm形成し、第一記録層161であるCoCrPt−SiO2を13nm、第二記録層162であるCoCrPtBを3nm、保護層17であるカーボンを3nm形成した。その後、パーフルオロアルキルポリエーテル系の材料をフルオルカーボン材で希釈した潤滑剤を塗布し、表面にバニッシュをかけて本実施例である垂直記録媒体1−1を作製した。スパッタガスとしてはArを使用し、磁気記録層を形成する際には酸素を20mPaの分圧で添加した。保護層17を形成する時は、製膜時のAr圧力0.6Paに対し窒素を50mPaの分圧で添加した。
【0024】
(比較例1)
本実施例の比較として、中間層が厚い従来の媒体1−2を用意した。媒体1−2は、第一シード層にNiTaを3nm、第二シード層にNiWを7nm、中間層であるRuをAr圧力1Paで9nm、Ar圧力5Paで9nm形成している。さらに実施例1−1と同じ層構成で、第一シード層141であるCoFeTaのみを7nm作成した媒体1−3と、第二シード層142であるNiWのみを3nm形成した媒体1−4、軟磁性下地層13の上にNiWを3nm形成し、その上にCoFeTaを7nm形成した媒体1−5を用意した。
【0025】
これら実施例及び比較例の磁気記録媒体について、磁気特性と記録再生特性を評価した。結果を表2に示す。表には軟磁性層から記録層までの距離(非磁性シード層と中間層の膜厚)を示している。本実施例の媒体1−1は、従来の中間層が厚い比較例媒体1−2と比較して、同程度の高い媒体S/Nと、OW特性の大幅な改善が見られた。一方、比較例媒体1−3〜1−5は、本実施例の媒体に比較して媒体S/Nが1dB以上低かった。OW特性が改善して見えるのは、軟磁性層と記録層との距離が近くなることにより、ヘッド磁界強度が高まったためである。これらのことから、第一シード層にCoFeTa、第二シード層にNiWを用いることによって、中間層Ruの膜厚が12nmと薄い場合でも、優れた記録再生特性が得られることがわかった。
【0026】
【表2】

【0027】
次に、本実施例の媒体1−1と同じ層構成で、第一シード層CoFeTaの膜厚を変化させて、記録層の磁気特性と媒体S/Nの関係を調べた。その結果を表3に示す。CoFeTa以外の膜厚は全て固定している。膜厚5nmまでは膜厚とともにHcは増大する。膜厚が5nm以上の場合は、膜厚に関わらずHcは殆ど変化しない。一方、媒体S/NはHcの増大とともに改善の傾向がみられ、膜厚3〜9nmの間は膜厚の増加に関わらず18dB以上の優れた特性が得られた。さらに膜厚が厚くなると媒体S/Nは劣化した。これは膜厚の増加によってノイズが増大したためである。
【0028】
本実施例では、第一シード層であるCoFeTaの膜厚は3nm〜9nmが最適であっが、第二シード層、中間層或いは磁気記録層の材料や膜厚、評価に用いるヘッドとの組み合わせによってその最適値は異なる。
【0029】
【表3】

【0030】
[実施例2]
実施例1−1と同じ層構成で第一シード層であるCoFeTaのCo,Fe及びTaの組成を変化させて、CoFeTaの結晶構造と媒体S/Nとの関係を調べた。膜厚はいずれも7nmと固定している。また、下記の式に示すように、第二軟磁性層の飽和磁束密度(Bs2)と膜厚(t2)の積と、第一シード層の飽和磁束密度(Bs3)と膜厚(t3)の積との和が、第一軟磁性層の飽和磁束密度(Bs1)と膜厚(t1)の積と等しくなるように、第二軟磁性層の膜厚(t2)を変化させた。
(Bs1)×(t1)=(Bs2)×(t2)+(Bs3)×(t3)
【0031】
結果を表4に示す。Ta含有量が3及び7at%の媒体3−1,3−2は良好な媒体S/Nが得られたが、Ta含有量が9at%の媒体3−3は媒体S/Nが劣化した。またFe含有量が14at%の媒体3−4は高い媒体S/Nであったが、Fe含有量が25at%の媒体3−5は媒体S/Nが劣化した。それぞれの組成についてX線回折測定を行い、CoFeTaの結晶構造を調べた。その結果、良好な媒体S/Nが得られた媒体はいずれもfcc構造であり、媒体S/Nが劣化した媒体は非晶質構造やbcc構造であることがわかった。
つまり記録再生特性に優れた媒体を得るためのCoFeTaの組成の比率は、CoFeTaがfcc構造を有する結晶質合金となる範囲内で決まる。
【0032】
【表4】

【0033】
[実施例3]
実施例1−1と同じ層構成で第一シード層141の材料を、CoFe,CoFeNb,CoFeW,CoFeBに変えた媒体4−1〜4−4を作成した。第一シード層の膜厚は7nm、第二シード層のNiWの膜厚は3nmと固定している。
【0034】
(比較例2)
本実施例の比較として、実施例1−1と同じ層構成で、第一シード層141の材料として、特許文献1や特許文献2に提案されている代表的な軟磁性材料であるNiFe,NiFeTa,CoNiW,CoNiTaを用いた場合の比較例媒体4−5〜4−8を用意した。いずれも膜厚は7nmと固定している。また、本実施例及び比較例のいずれの媒体も、実施例2に示したように、非磁性層132の上側の軟磁性層(第二軟磁性層と第一シード層)と下側の軟磁性層(第一軟磁性層)の磁気モーメントが等しくなるように、第二軟磁性層の膜厚を変えている。
【0035】
表5に、実施例媒体と比較例媒体の磁気特性と記録再生特性を示す。本実施例の媒体4−1〜4−4はいずれも媒体1−1と同様、高い媒体S/Nと良好なOW特性が得られていることがわかる。これらの材料の中でも特にCoFeTa,CoFeNb,CoFeBを第一シード層に用いた場合に優れた記録再生特性が得られている。一方、比較例媒体4−5〜4−8は、実施例媒体1−1に比較して、媒体S/Nが1dB程度、OW特性が3〜5dB劣化している。
【0036】
【表5】

【0037】
劣化の原因を詳しく調べるため、ガラス基板上にNiTaを10nm形成し、その上に上記シード材を20nm形成したサンプルを用意して、シード材の結晶構造、表面平坦性を調べた。いずれの結晶構造もfcc構造で(111)配向しているが、比較例に用いたシード材は、実施例に用いたシード材に比較して結晶粒径が大きく、表面平坦性が悪いことが分かった。シード材の結晶粒径が大きくなることで、その上に形成されるNiWの粒サイズも大きくなり、中間層Ruとのマッチングが悪くなって記録層にサブグレインが発生する。そのため記録層の粒径分散が大きくなって、記録再生特性が劣化したものと考える。
【0038】
さらに上記サンプルを用いて、シード材の軟磁気特性を調べた。その結果を表5に併せて示す。本実施例及び比較例で用いたシード材はいずれも半径方向を容易軸とする一軸異方性を有している。特に記録再生特性が優れていたCoFeTa,CoFeNb及びCoFeBは、いずれも容易軸方向の保磁力Hcが小さく、良好な軟磁気特性であることがわかった。一方、NiFe合金は容易軸方向のHcは小さいものの面内異方性が弱く、CoNi合金は容易軸方向のHcが大きいことがわかった。つまり優れた記録再生特性を得るためには、第一シード材に良好な軟磁気特性を有する材料を用いることが重要であることがわかった。
【0039】
本実施例では、CoFe合金にTa,Nb,W,Bを添加したが、本実施例で組み合わせた添加元素以外でも、fcc構造を有する合金であること、半径方向を容易軸とする一軸異方性を有し、良好な軟磁気特性であることという条件を満たしていれば同様な効果が得られるし、本実施例で示した以外の組成でも上記条件を満たしていれば同様な効果が得られる。
【0040】
[実施例4]
実施例1−1と同じ層構成で、第二シード層142の材料をNiWCr、NiWB、NiWNbに変えた媒体5−1〜5−3を作成した。第一シード層の膜厚は7nm、第二シード層の膜厚は3nmとしている。記録層の磁気特性、記録再生特性を調べた結果を表6に示す。本実施例媒体1−1と同様、優れた記録再生特性が得られることがわかった。
【0041】
【表6】

【0042】
[実施例5]
実施例1−1と同じ層構成で非磁性層132であるRuの膜厚を0.6nm、1.2nmと変えた媒体6−1,6−2を作成した。さらに軟磁性下地層の材料をTaとZrの含有量を変えて微結晶質合金とした媒体6−3を作成した。ここで媒体6−3のFeCoTaZrが微結晶であるかどうかは断面TEM解析により確認している。このときの非磁性層132であるRuの膜厚は0.4nmとしている。
【0043】
(比較例3)
本実施例の比較として、実施例の媒体1−1と同じ層構成で、非磁性層132であるRuを形成しない媒体6−4と軟磁性下地層の材料を結晶質合金であるCoFeTaに変えた媒体6−5を用意した。ここで媒体6−5の非磁性層132の膜厚は0.8nmとした。
【0044】
これら実施例及び比較例の磁気記録媒体について、第一軟磁性層と第二軟磁性層との反強磁性結合と記録再生特性を評価した。結果を表7に示す。
【0045】
【表7】

【0046】
本実施例の媒体6−1〜6−3は媒体1−1と同様高い媒体S/Nと良好なOW特性が得られた。非磁性層Ruの膜厚が厚くなってOW特性に改善が見られるのは、第一軟磁性層と第二軟磁性層との間の反強磁性結合が弱まって実効的な透磁率が上がるためである。一方、非磁性層Ruを形成しない比較例媒体6−4は、OW特性には改善が見られるものの、軟磁性下地層のノイズが増大したために媒体S/Nは劣化した。軟磁性下地層を全て結晶質合金で作成した媒体6−5は、媒体S/N、OW特性いずれも劣化して見えた。実施例媒体6−2と比較例媒体6−4は、反強磁性結合がゼロであるにもかかわらず、媒体S/Nには差が見られる。これは、実施例媒体6−2は第一軟磁性層と第二軟磁性層とが静磁気的に結合しているため、比較例媒体6−4に比べてノイズが低減するためである。
【0047】
つまり優れた記録再生特性を得るためには、軟磁性下地層は第一軟磁性層と第二軟磁性層とが反強磁性的或いは静磁気的に結合していることが好ましく、またその材料は非晶質合金或いは微結晶質合金であることが望ましいことがわかった。軟磁性下地層の透磁率を決める反強磁性結合の大きさは、軟磁性下地層の膜厚や、中間層或いは磁気記録層の材料や膜厚、評価に用いるヘッドとの組み合わせによってその最適値は異なる。
【0048】
[実施例6]
図2に、本実施例の垂直磁気記録媒体の層構成を示す。基板11には厚さ0.635mm、直径65mm(2.5インチ型)のガラスディスク基板を用い、スパッタリング法により密着層12、軟磁性下地層13、分断層18、シード層14、中間層15、記録層16、保護層17を順次形成した。軟磁性下地層13は、第一軟磁性層131と非磁性層132と第二軟磁性層133の積層膜、シード層14は第一シード層141と第二シード層142の積層膜、記録層16は第一記録層161と第二記録層162の積層膜である。表8に、本実施例で用いたターゲット組成とArガス圧及び膜厚を示す。
【0049】
【表8】

【0050】
まず、基板11上に密着層12であるNiTaを10nm、その上に第一軟磁性層131であるCoFeTaZrを15nm、非磁性層132であるRuを0.4nm、第二軟磁性層133であるCoFeTaZrを15nm順に形成した。さらに分断層18であるNiTaを2nm、第一シード層141であるCoFeTaを7nm、第二シード層142であるNiWを5nm、中間層15であるRuをAr圧力1Paで2nm、Ar圧力5Paで8nm形成し、その上に第一記録層161であるCoCrPt−SiO2を13nm、第二記録層162であるCoCrPtBを3nm、保護層17であるカーボンを3nm形成した。その後、パーフルオロアルキルポリエーテル系の材料をフルオルカーボン材で希釈した潤滑剤を塗布し、表面にバニッシュをかけて本実施例である垂直記録媒体7−1を作製した。スパッタガスとしてはArを使用し、磁気記録層を形成する際には酸素を20mPaの分圧で添加した。保護層17を形成する時は、製膜時のAr圧力0.6Paに対し窒素を50mPaの分圧で添加した。
【0051】
本実施例の磁気記録媒体について記録再生特性を評価したところ、実施例媒体1−1と同様高い媒体S/Nが得られた。
【0052】
次に、分断層18であるNiTaの膜厚を変化させて、磁気特性と記録再生特性の関係を調べた。結果を表9に示す。
【0053】
【表9】

【0054】
NiTaを1nm以上挿入することによって、OW特性が改善する。軟磁性下地層の軟磁気特性を調べたところ、NiTa膜厚が0.5nmまでは第二軟磁性層であるFeCoTaZrと第一シード層であるCoFeTaは強磁性的に結合しているが、膜厚が1nm以上厚くなると強磁性結合が切れることがわかった。OW特性が改善されたのは、FeCoTaZrとCoFeTaの強磁性結合が切れて、外部磁界に対してCoFeTaの磁化が自由に動くためと思われる。記録再生特性を更に詳しく調べてみると、NiTaを挿入した媒体は電流に対する出力の立ち上がりが良くなっている。これは少しの電流でも十分に書き込めることを意味しており、狭トラック幅の磁気ヘッドに有利と考える。また、NiTa膜厚が2nmまでは、膜厚とともに僅かに媒体S/Nが改善するが、4nmより厚くなると逆に媒体S/Nは劣化する。上記媒体についてRu(0002)回折のロッキングカーブの半値幅Δθ50を調べた。その結果、NiTa有り無しでRuの結晶配向に優位差は見られなかった。本実施例において媒体S/Nが改善されたのは、Ru結晶配向改善による記録層の特性向上によるものではなく、軟磁性下地層の一部をフリーにしたことによってOW特性が改善したためである。また、非磁性層であるNiTaの膜厚は1〜4nmが好ましいことが分かった。
【0055】
[実施例7]
実施例媒体7−1と同じ層構成で分断層18の材料を、Pd及びTiに変えた媒体8−1,8−2を作成した。分断層18の膜厚は2nmと固定している。表10に、磁気記録層の磁気特性と記録再生特性を示す。
【0056】
【表10】

【0057】
いずれも実施例媒体7−1と同様、高い媒体S/Nと良好なOW特性が得られていることがわかる。第一シード層141であるCoFeTaの軟磁気特性とRuの結晶配向を調べた結果、こちらも実施例媒体7−1と同様、良好な特性が得られることがわかった。Pd及びTiはそれぞれfcc構造、hcp構造を有する代表的な材料である。これらの事から、非磁性層はその上に形成される第一シード層の結晶性、配向性を損なわなければ、非晶質材料、結晶質材料いずれも用いることができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施例の垂直磁気記録媒体の構造を示す図
【図2】本発明の一実施例の垂直磁気記録媒体の構造を示す図
【符号の説明】
【0059】
11…基板、12…密着層、13…軟磁性下地層、14…シード層、15…中間層、16…記録層、17…保護層、18…分断層、131…第一軟磁性層、132…非磁性層、133…第二軟磁性層、141…第一シード層、142…第二シード層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に順次積層された軟磁性下地層、シード層、中間層、磁気記録層、及び保護層を有し、
前記シード層は基板側の第一シード層とその上に形成された第二シード層からなり、前記第一シード層はCoFe合金からなるfcc結晶構造をもつ磁性材料からなり、前記第二シード層はNiW合金からなるfcc結晶構造をもつ非磁性材料からなり、
前記軟磁性下地層は非晶質構造或いは微結晶質構造を有し、
前記中間層はRu或いはRu合金からなることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
請求項1記載の垂直磁気記録媒体において、前記CoFe合金はTa,W,Nb,B,Vのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性下地層は非磁性層を挟んで積層された第一の軟磁性層と第二の軟磁性層からなることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
基板上に順次積層された軟磁性下地層、シード層、中間層、磁気記録層、及び保護層を有し、
前記シード層は基板側の第一シード層とその上に形成された第二シード層からなり、前記第一シード層はCoFe合金からなるfcc結晶構造をもつ磁性材料からなり、前記第二シード層はNiW合金からなるfcc結晶構造をもつ非磁性材料からなり、
前記軟磁性下地層は非晶質構造或いは微結晶質構造を有し、
前記中間層はRu或いはRu合金からなり、
前記軟磁性下地層と前記第一シード層との間に非磁性層が形成されていることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
請求項4記載の垂直磁気記録媒体において、前記非磁性層は非晶質構造を有することを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項4記載の垂直磁気記録媒体において、前記非磁性層はfcc結晶構造或いはhcp結晶構造を有することを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項記載の垂直磁気記録媒体において、前記CoFe合金はTa,W,Nb,B,Vのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項記載の垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性下地層は非磁性層を挟んで積層された第一の軟磁性層と第二の軟磁性層からなることを特徴とする垂直磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−113762(P2010−113762A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285661(P2008−285661)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】