説明

垂直磁気記録媒体

【課題】磁気記録層の磁気特性を低下させることなしに結晶粒径の低減を可能とすることにより、低ノイズ化、SNR向上、記録容易性(Write−ability)向上といった性能向上を可能とする垂直磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】非磁性基体上に少なくとも下地層、中間層、垂直磁気記録層が順次積層された垂直磁気記録媒体であって、前記下地層がグラフェンシート層であることを特徴とする垂直磁気記録媒体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は垂直磁気記録媒体に関する。より詳細には、コンピューター、AV機器等の外部記憶装置として用いられるハードディスクドライブ(HDD)等の各種磁気記録装置に搭載される垂直磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
1997年以降、HDDの記録密度は年率60〜100%の割合で急速に増加してきた。このような著しい成長の結果、これまで用いられてきた面内記録方式が高密度化の限界に近づこうとしている。このような状況から、近年、高密度化が可能な垂直記録方式が注目を浴び、盛んにその研究開発がなされてきた。そしていよいよ2005年より、一部の機種で垂直記録方式を採用したHDDの製品化が始まっている。
【0003】
垂直磁気記録媒体は、主に、硬質磁性材料の磁気記録層と、磁気記録層を目的の方向に配向させるための下地層、磁気記録層の表面を保護する保護層、および磁気記録層への記録に用いられる磁気ヘッドが発生する磁束を集中させる役割を担う軟磁性材料の裏打ち層から構成される。
【0004】
媒体の基本的な特性を向上させるには、信号出力−ノイズ比(SNR)を向上させることが必要である。すなわち、媒体からの信号出力を向上させ、ノイズを低減することが必要となる。信号出力低下およびノイズ増加の原因の1つに、磁気記録層の配向分散(結晶配向のバラツキ)の増大がある。垂直磁気記録媒体では磁気記録層の磁化容易軸を媒体面と垂直に配向させる必要があるが、その磁化容易軸の配向分散が大きくなると、垂直方向の磁束の低下により信号出力が低下する。また、本発明者らの検討によれば、配向分散の大きな媒体では、結晶粒の磁気的な分離性が低下して磁気クラスタサイズが増加し、ノイズが増加するという結果が得られている(非特許文献1参照)。
【0005】
磁気特性の向上および軟磁性裏打ち層に起因するノイズの低減による電磁変換特性の向上を目的として、磁気記録層と軟磁性裏打ち層との間にFe、Cr、Co合金とRuとの2層の下地層を配設した垂直磁気記録媒体が提案されている(特許文献1参照)。また、前述の目的のために、CoFe合金からなる軟磁性裏打ち層、および磁気記録層と軟磁性裏打ち層との間にRuの下地層を配設した垂直磁気記録媒体が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
また、磁気記録層における配向分散の減少、初期成長層の低減、結晶粒径の低減などを目的として、軟磁性裏打ち層と磁気記録層との間に、軟磁性パーマロイ系材料からなる下地層、ならびにRuまたはRu基合金からなる比較的に厚い膜厚を有する非磁性中間層を配設した垂直磁気記録媒体が提案されている(特許文献3および4参照)。さらに、軟磁性裏打ち層と磁気記録層との間に軟磁性パーマロイ系材料の下地層ならびにRuまたはRu基合金材料の中間層を配設した垂直磁気記録媒体において、下地層と中間層の間に軟磁性Co層または軟磁性Co基合金層を挿入することが提案されている(特許文献5参照)。これは、中間層の膜厚を低減させると同時に、磁気記録層の保磁力および角型比を増大させ、従来用いられている記録密度における記録信号のSNRを向上させるものである。
【0007】
さらに、ノイズ特性および熱揺らぎ耐性の向上を目的とした、磁気記録層を第1および第2垂直磁性膜に分離し、それらの間に下地膜および非磁性中間膜を挿入した構成の垂直磁気記録媒体が提案されている(特許文献6参照)。この構成においては、第1および第2垂直磁性膜は磁気的に結合しており、下層である第1垂直磁性膜の磁気異方性エネルギーを上層である第2垂直磁性膜の磁気異方性エネルギーよりも大きくして、第2垂直磁性膜の磁化揺らぎを防止すること、および第2垂直磁性膜の記録磁区の境界を直線的とすることによって、ノイズの低減が図られている。また、垂直磁気異方性エネルギーの大きい第1垂直磁性膜によって、熱揺らぎ耐性を向上させることを可能としている。
【0008】
また、ノイズ特性およびSNRの向上を目的として、軟磁性裏打ち層と磁気記録層との間に第1下地層、第1非磁性中間層、第2下地層および第2非磁性中間層を配設し、第1下地層を少なくともNiおよびFeを含むfcc構造を有する材料で形成し、第2下地層を少なくともCoを含むfcc構造を有する軟磁性材料で形成した垂直磁気記録媒体が提案されている(特許文献7参照)。この構成においては、第1非磁性中間層、第2下地層および第2非磁性中間層の積層構造を設けることによってこれら各層の結晶成長を抑制して結晶粒径を微細化し、少なくともNiおよびFeを含むfcc構造を有する材料で形成される第1下地層がもたらす結晶粒径の微細化効果を、磁気記録層の結晶粒径の微細化に利用している。
【0009】
しかしながら、さらなる高記録密度化に向けて、高密度記録時においても高い信号出力と低いノイズとを実現し、高いSNRを達成することができる垂直磁気記録媒体に対する要求が依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−100030号公報
【特許文献2】特開2002−298323号公報
【特許文献3】特開2002−358617号公報
【特許文献4】特開2003−123239号公報
【特許文献5】特開2004−288348号公報
【特許文献6】特開2001−101643号公報
【特許文献7】特開2008−117506号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】竹野入俊司、酒井泰志、榎本一雄、渡辺貞幸、上住洋之、「CoPtCr−SiO2垂直磁気記録媒体の開発と課題」、応用磁気学会第135回研究会予稿集(2004年3月12日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
垂直磁気記録媒体の信号出力の増大およびノイズの低減によって高いSNRを実現するためには、磁気記録層の配向分散を可能な限り小さくする必要がある。
【0013】
上記の点に加え、垂直磁気記録媒体の低ノイズ化のためには、磁気記録層の結晶粒径を縮小することが必要である。なぜなら、磁気記録層の結晶粒径が大きくなると、ビットの遷移領域がギザギザになり、遷移ノイズが増加するためである。したがって、結晶粒径を縮小してビットの遷移領域を直線的にすることによって、遷移ノイズを低下させることが必要となる。
【0014】
さらに、垂直磁気記録媒体の記録密度向上の観点からも、ビットの遷移領域におけるノイズを低減する必要がある。そのためには、急峻な記録磁界を確保して、遷移をできる限り直線的にすることが有効である。ここで、急峻な記録磁界を得るためには軟磁性裏打ち層と磁気ヘッドとの間の距離を、できる限り小さくする必要がある。また、記録密度が向上するにつれて磁気ヘッドの記録磁界が低下するため、十分な記録磁界を確保するためにも軟磁性裏打ち層と磁気ヘッドとの間の距離を短縮する必要がある。一般に、磁気記録層と軟磁性裏打ち層との間には、非磁性の下地層および/または中間層が設けられる。しかしながら、現時点において、この非磁性下地層および/または中間層の膜厚は20〜30nm程度と厚く、軟磁性裏打ち層−磁気ヘッド間距離を増加させる要因となっている。実際、前述のように現在提案されている構成においては、非磁性下地層および/または中間層の膜厚が大きく(たとえば、特許文献1および特許文献2に記載の構成において35nm以上)、磁気ヘッドと軟磁性裏打ち層との間の距離を短縮して、高密度記録時に高いSNRを得るという点では不十分であった。
【0015】
さらに、下地層または中間層は、その上に形成される磁気記録層の結晶性、配向性および結晶粒径などを制御する機能を有し、磁気記録層の特性に影響を及ぼすことが知られている。特に、下地層または中間層の上にエピタキシャル成長によって磁気記録層を形成する場合、磁気記録層材料の結晶粒径が下地層または中間層の材料の結晶粒径に従うことがよく知られている。したがって、磁気記録層材料の結晶粒径を低減させるためには、下地層または中間層の結晶粒径を低減させることが有効である。しかしながら、下地層または中間層の膜厚を減少させた場合、磁気記録層材料の結晶配向性の低下、磁性結晶粒間の磁気的分離の阻害が起こり、磁気記録層の磁気特性が低下することが知られている。以上の点を考慮すると、下地層または中間層は、単に膜厚を減少させるのではなく、磁気記録層の磁気特性を維持ないし向上させると同時に、膜厚の減少を行う必要がある。
【0016】
したがって、本発明の課題は、磁気記録層の磁気特性を低下させることなしに結晶粒径の低減を可能とすることにより、低ノイズ化、SNR向上、記録容易性(Write−ability)向上といった性能向上を可能とする垂直磁気記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような状況に鑑み、本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、非磁性基体上に少なくとも下地層、中間層、垂直磁気記録層が順次積層された垂直磁気記録媒体において、前記下地層がグラフェンシート層であることが望ましいことを明らかにした。
【0018】
好ましくは、中間層がRu、Re、もしくはこれらを主成分とする合金であり、垂直磁気記録層がCoを主成分とする合金からなり、垂直磁気記録層が、Pt、Cr及びOをさらに含んでいる。好ましくは、前記下地層と前記非磁性基体との間に、軟磁性裏打ち層をさらに設けている。好ましくは、前記下地層の膜厚が0.5nm以上10nm以下である。好ましくは、前記垂直磁気記録媒体の1590cm-1付近のバンドピークをGバンドピークとし、1350cm-1付近のバンドピークをDバンドピークとしたとき、DバンドピークとGバンドピークとの間のピーク強度比が、0.2以下である。
【0019】
このようなグラフェンシート層を下地層として用いることにより、シート内の六角形構造はきれいに出来上がることになる。それゆえ、1層のグラフェンだけでも従来の下地層よりも表面の結晶性に優れており、下地層および中間層の薄膜化が可能となり、記録密度の高密度化に重要である、ヘッド−軟磁性裏打ち層間距離を大幅に縮めることが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る垂直磁気記録媒体の一例を説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好ましい形態を説明する。図1は本発明に係る垂直磁気記録媒体の一例を説明するための断面模式図である。図1に示すように、本発明の好ましい実施形態において、垂直磁気記録媒体は、非磁性基体10、軟磁性裏打ち層20、下地層30、中間層40、垂直磁気記録層50、保護層60、液体潤滑層70をこの順に有する。これらの層のうち、軟磁性裏打ち層20、保護層60および液体潤滑層70は、必要に応じて配設することができる層である。
【0022】
非磁性基体10としては、当該技術分野において知られている、表面が平滑である様々な基体を用いることができる。例えば、磁気記録媒体に用いられる、NiPメッキを施したAl合金、強化ガラス、結晶化ガラス、またはシリコン基板などを、非磁性基体10として用いることができる。
【0023】
軟磁性裏打ち層20はヘッドからの磁束還流のため、必要に応じて適宜設けられる層である。軟磁性裏打ち層20は、FeTaC、センダスト(FeSiAl)合金のような結晶性材料、またはCoZrNb、CoTaZrのようなCo合金を含む非晶質材料を用いて形成することができる。軟磁性裏打ち層20の膜厚の最適値は、記録に使用する磁気ヘッドの構造および特性に依存して変化する。しかしながら、生産性の観点から、軟磁性裏打ち層20は、おおむね10nm以上500nm以下の膜厚を有することが望ましい。
【0024】
下地層30は、グラフェンシート層である。グラフェンシート層は、グラフェンを構成要素(成分)として含む薄膜である。グラフェンシート層は、別の転写板上に成長させた膜を転写することにより形成しても良いし、バルクのグラファイトからグラフェンを機械的や化学的に剥離した後、塗布法などにより基板に転写することにより形成しても良い。従来は、グラフェン薄膜を基板上に成長させる必要があり、ガラスやAlなど耐熱温度の低い基板に製膜することは困難であったが、転写・塗布技術の進展によりグラフェン薄膜の利用が可能となっている。また、シリコン基板のような耐熱温度の高い基板の場合、CuやNi膜などを下地としてCVD法などにより直接グラフェンシート層を形成することも可能である。なお、本願のグラフェンシート層は、全てグラフェンからなる層であることが好ましいが、後述の検出法によりグラフェンが確認され得る程度に含まれている層であっても良い。また、グラフェンシート層の下部に用いる軟磁性裏打ち層20としては、表面が平坦であることが好ましく、このために非晶質材料であることが好ましい。また、グラフェンシート層の上部に用いる中間層40はc軸配向の六方細密充填構造、もしくは<111>配向の面心立方構造であることが好ましい。
【0025】
グラフェンシート層の膜厚は、望ましくは0.5nm以上10nm以下であり、より望ましくは0.5nm以上5nm以下である。これは、媒体基板を完全に覆うためには少なくとも0.5nm以上であることが好ましく、またSUL−ヘッド間距離をある程度に保つためには10nm以下であることが好ましいからである。
【0026】
グラフェンシート層中のグラフェンは、ラマンスペクトルを用いて確認することができる。すなわち、純粋なグラフェンは、約1590cm-1付近にGバンドピークを有する。Gバンドピークは炭素のsp2結合に由来するピークであり、ラマンスペクトルにおいてかかる波数のピークの存在を確認することによってグラフェンの生成を確認することができる。グラフェンの結晶性は、約1350cm-1付近に存在するDバンドピークとGバンドピークとの比(ピーク強度比)(ID/IG)、および約2700cm-1付近に存在するG’バンドピークから評価することができる。Dバンドピークは結晶構造の欠陥や乱れ具合に由来するピークであり、ID/IGが小さいほど結晶性が高いといえる。G’バンドピークは、Dバンドピーク(約1350cm-1)の倍音に相当し、sp2結合を有する炭素材料に現れ、電子構造を反映したピークである。このG’バンドピークの強度が大きいほどグラフェンシェルの結晶性が高いことを意味する。ただし、G’バンドピークは、層の厚さとも相関関係があるため、一般的にはID/IGを使用するのが好ましい。本発明において、ID/IGは0.2以下であることが望ましい。これは、ID/IGが0.2を超えると結晶欠陥が多くなり中間層、磁性層の結晶性の低下を招くためである。ここでDバンドピークとGバンドピークとの比(ピーク強度比)(ID/IG)の算出方法を説明すると、次のとおりである。すなわち、測定したラマンスペクトルからベースラインを差し引いた後、DバンドピークとGバンドピークともにガウス分布と仮定してフィッティングを行ない、それぞれのピーク強度IDおよびIGを求め、その比を計算した。
【0027】
中間層40は、Ru、Re、もしくはこれらを主成分とする合金を用いて形成される単層膜とすることができる。中間層44は、好ましくは3nm以上30nm以下、より好ましくは3nm以上20nm以下の範囲内の膜厚を有する。このような範囲内の膜厚とすることによって、垂直磁気記録層50の磁気特性および電磁変換特性を劣化させることなしに、高密度記録に必要な特性を垂直磁気記録層50に付与することが可能となる。中間層の膜厚を3nm未満とした場合、中間層の結晶性が悪くなりSNR特性が低下する。逆に、非磁性中間層の膜厚を30nmより大きくすると、軟磁性裏打ち層20と垂直磁気記録層50との間の距離が長くなり、軟磁性裏打ち層20の機能(磁気ヘッドが発生する磁束を垂直磁気記録層50に集中させる機能)が低下する。
【0028】
垂直磁気記録層50は、好ましくはCoを主成分とする合金の強磁性材料を用いて形成することができる。本願の垂直磁気記録媒体においては、垂直磁気記録層50の材料の磁化容易軸(六方最密充填(hcp)構造のc軸)が非磁性基体10表面に対して垂直に配向していることが必要である。垂直磁気記録層50として、たとえばCoPt、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtTaなどの合金材料の単層膜、あるいはCo膜とPt膜との交互積層膜([Co/Pt]n)、Co膜とPd膜との交互積層膜([Co/Pd]n)などの多層積層膜を使用することができる。
【0029】
あるいはまた、垂直磁気記録層50は、非磁性酸化物または非磁性窒化物のマトリクス中に磁性結晶粒子が分散されているグラニュラー構造を有する材料を用いて、単層または多層から形成されることがさらに好ましい。用いることができるグラニュラー構造を有する材料は、CoPt−SiO2、CoCrPtO、CoCrPt−SiO2、CoCrPt−TiO2、CoCrPt−Al23、CoPt−AlN、CoCrPt−Si34などを含むが、これらに限定されるものではない。本願においては、グラニュラー構造を有する材料を用いることによって、垂直磁気記録層50内で近接する磁性結晶粒間の磁気的分離を促進し、ノイズの低減、SNRの向上および記録分解能の向上といった媒体特性の改善を図ることができる。
【0030】
垂直磁気記録層50の膜厚は、特に限定されるものではない。しかしながら、生産性および高密度記録の観点から、垂直磁気記録層50は、好ましくは40nm以下、より好ましくは20nm以下の膜厚を有することができる。
【0031】
任意選択的に設けることができる保護層60は、その下にある垂直磁気記録層50よりも下側の各構成層を保護するための層である。保護層60として、たとえば、カーボンを主成分とする薄膜を用いることができる。その他にも、当該技術において磁気記録媒体保護層用の材料として知られている種々の薄膜材料を使用して、保護層60を形成してもよい。
【0032】
任意選択的に設けることができる液体潤滑層70は、記録/読み出し用ヘッドが磁気記録媒体上を浮上または接触する際の潤滑を付与するための層である。液体潤滑層70は、たとえば、パーフルオロポリエーテル系の液体潤滑剤、または当該技術分野において知られている種々の液体潤滑剤を使用して形成することができる。
【0033】
非磁性基体10の上に積層される各層は、磁気記録媒体の分野で通常用いられる様々な成膜技術によって形成することが可能である。軟磁性裏打ち層20から保護層60までの各層の形成には、たとえば、スパッタ法(DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法などを含む)、真空蒸着法などを用いることが出来る。また、カーボンを主成分とする保護層60の形成には、前記の方法に加えてプラズマCVD法を用いることもできる。一方、液体潤滑層70の形成には、たとえば、ディップ法、スピンコート法などを用いることができる。
【0034】
任意選択的に、非磁性基体10と軟磁性裏打ち層20との間に、軟磁性裏打ち層20の磁区を制御する磁区制御層を設けてもよい。あるいは、非磁性基体10と軟磁性裏打ち層20との密着性を改良する密着層を設けてもよい。
【0035】
本願の垂直磁気記録媒体においては、グラフェンシート層を下地層として用いることにより、グラフェンシート層内のhcp構造がきれいに出来上がっているので、1層だけでも従来の下地層よりも表面の結晶性に優れている。そのため、下地層および中間層の薄膜化が可能となり、記録密度の高密度化に重要であるヘッド−軟磁性裏打ち層間距離を縮めることが可能となっている。
【実施例】
【0036】
以下に本発明の実施例および比較例を説明する。なお、実施例は本発明の代表例に過ぎず、本発明は実施例の記載に限定されるものではない。
【0037】
[実施例1]
表面が平滑な化学強化ガラス基板(HOYA社製N−5ガラス基板)を洗浄し、非磁性基体10として用いた。非磁性基体10をDCマグネトロンスパッタ装置内に導入し、圧力0.67PaのArガス中にてCo3Zr5Nb(全原子を基準として、3at%のZr、5at%のNbおよび残余のCoで構成される。以下同様。)ターゲットを用いて、膜厚40nmのCoZrNb非晶質軟磁性裏打ち層20を成膜した。
【0038】
次に、下地層としてのグラフェンシート層を転写法により形成した。まず、転写元となるグラフェンシート層を熱CVD法により形成するため、転写板としてCu箔を準備した。原料ガス流量をメタン20sccmおよび水素2sccmとし、成膜室圧力を30Torrとした状態で、転写板の温度を1000℃まで上げた。昇温は1000℃まで15分、30分保持した後100℃まで10分で降温し、膜厚約2nmのグラフェンシート層を転写板上に作製した。作製したグラフェンシート層をラマン分光により評価した。Gバンドピークの存在を確認することができ、所望の特性をもったグラフェンシート層が作製できた。実施例1においてはID/IGは0.05であった。
【0039】
次に、得られたグラフェンシート層上に、10重量%のポリメタクリル酸メチル(PMMA)をスピン塗布し、80℃で乾燥した後180℃でベーキングすることで、厚さ10μmのPMMA膜を成膜した。その後、24g/lの硝酸鉄水溶液中にPMMAでコートされたグラフェンシート層を24時間浸漬して、転写板であるCu箔をエッチング除去した。
【0040】
次に、PMMAでコートされたグラフェンシート層を、グラフェンシート層が媒体基板(軟磁性裏打ち層20が形成された非磁性基体10)に密着するように転写し、これを定着させるため再びPMMAを塗布した。この時のPMMA溶液は4重量%であり、80℃での乾燥工程のみを行った。
【0041】
最後に、グラフェンシート層のついた媒体基板をアセトン中に浸漬することで、PMMA膜を除去した。その後、グラフェンシート層が転写された媒体基板を、真空中300℃で加熱して余分な溶媒を除去した。このようにして、下地層として膜厚2nmのグラフェンシートを作製した。
【0042】
引き続いて、圧力4.0PaのArガス中でRuターゲットを用いて、膜厚8nmのRu膜を成膜して非磁性の中間層40を形成した。
【0043】
引き続いて、圧力5.3Paにて92(Co12Cr18Pt)−8SiO2ターゲットを用いて、膜厚8nmのCoCrPt−SiO2第1磁気記録層を成膜した。次に、圧力1.2Paにて96(Co20Cr12Pt)−4SiO2ターゲットを用いて膜厚8nmのCoCrPt−SiO2第2磁気記録層を成膜し、総膜厚16nmの2層構成の垂直磁気記録層50を得た。次に、圧力0.13Paにおいて、エチレンを材料ガスとするプラズマCVD法により、膜厚4nmのカーボンからなる保護層60を成膜した。保護層60以下の層を形成した積層体を、真空装置から取り出した。最後に、保護層60の上に膜厚2nmのパーフルオロポリエーテルからなる液体潤滑層70をディップ法により形成し、垂直磁気記録媒体を得た。
【0044】
[比較例1]
下地層としてグラフェンシート層の替わりに膜厚6nmのNi8W膜を用いたことを除いて実施例1と同じ条件で、垂直磁気記録媒体を作製した。ここで、Ni8W膜は、圧力0.67PaのArガス中にてNi8Wターゲットを用いて成膜した。
【0045】
[比較例2]
中間層Ruの膜厚を14nmとしたことを除いて比較例1と同じ条件で、垂直磁気記録媒体を作製した。
【0046】
[評価]
リード・ライトテスタを用いて垂直磁気記録媒体のSNR、オーバーライト特性(O/W)、垂直磁気記録層の配向分散Δθ50を測定した。
【0047】
SNRおよび媒体ノイズの評価は、記録密度510kfciの信号を用いて行った。媒体ノイズは、信号出力に対して規格化した値を示す。
【0048】
O/Wは、最初に、トラックに記録密度510kfciの第1信号を記録し、その信号の信号出力(T1)を測定し、次いで、同一トラックに記録密度68kfciの第2信号を上書きし、上書き後の第1信号の消し残り信号出力(T2)を測定し、以下の式(「log」は常用対数を示す)によって得られる値として評価した。
【0049】
O/W=−20×log(T2/T1) [単位:dB]
このように高密度記録信号上に低密度記録信号を上書きするO/Wは、リバースオーバーライトと呼ばれ、垂直磁気記録媒体における記録容易性を明確に評価できる指標となっている。
【0050】
Δθ50は、X線回折装置でθ−2θ測定を行ない、垂直磁気記録層の(002)ピークの2θ値を固定してθスキャンを行なったピークの半値幅である。
【0051】
実施例1および比較例2について、垂直磁気記録媒体のSNR、O/Wおよび垂直磁気記録層の配向分散Δθ50を測定した結果を第1表に示す。
【0052】
第1表 垂直磁気記録媒体のSNR、オーバーライト特性(O/W)および垂直磁気記録層の配向分散Δθ50
【0053】
【表1】

【0054】
上記の実施例1および比較例1、2で得られた垂直磁気記録媒体について、抗磁界を5.5kOeとした垂直磁気記録媒体が得られるかを検討した。ここで、比較例2は従来からの構造の垂直磁気記録媒体であり、比較例1は比較例2から中間層Ruを実施例1と同じ膜厚まで薄くした条件である。その結果、実施例1および比較例2では所望の特性(5.5kOe程度)を持った媒体が作製できたが、比較例1では磁気特性が高々4.3kOe程度までしか上がらず、所望の特性を持った磁気記録媒体が作製できなかった。これは、従来の下地層では中間層が8nmと薄い場合は垂直磁気記録層の結晶性が悪く、所望の磁気特性が得られないことを示している。逆に、実施例1で形成されたグラフェンシート層では、分子骨格が既に定まっているため、膜厚2nmの下地層の上に膜厚8nmの中間層を形成した条件においても垂直磁気記録層の結晶性が良好であり、所望の磁気特性が得られている。ここで、実施例1と比較例2の特性を比較してみる。実施例1は比較例2よりも下地層膜厚と中間層膜厚の和として10nmも薄いにも関わらず、垂直磁気記録層のΔθ50は同等であることがわかる。その結果として、実施例1の垂直磁気記録媒体は比較例2の垂直磁気記録媒体よりも優れた電磁変換特性が得られており、下地層としてグラフェンシート層が優秀であることがわかる。
【符号の説明】
【0055】
10 非磁性基体
20 軟磁性裏打ち層
30 下地層
40 中間層
50 磁気記録層
60 保護膜
70 液体潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基体上に少なくとも下地層、中間層、垂直磁気記録層が順次積層された垂直磁気記録媒体であって、前記下地層がグラフェンシート層であることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記中間層がRu、Re、もしくはこれらを主成分とする合金であることを特徴とする請求項1の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記垂直磁気記録層がCoを主成分とする合金からなることを特徴とする請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記垂直磁気記録層が、Pt、Cr及びOをさらに含んでいることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
前記下地層と前記非磁性基体との間に、軟磁性裏打ち層をさらに設けたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
前記下地層の膜厚が0.5nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
前記垂直磁気記録媒体の1590cm-1付近のバンドピークをGバンドピークとし、1350cm-1付近のバンドピークをDバンドピークとしたとき、DバンドピークとGバンドピークとの間のピーク強度比が0.2以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体。

【図1】
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