説明

型締装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、型締装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、射出成形機においては、射出装置の射出ノズルから樹脂を射出し、金型装置のキャビティ空間に充填(てん)し、固化させることによって成形品を得ることができるようになっている。そして、前記金型装置は、固定金型、該固定金型に対して進退自在に配設された可動金型、及び該可動金型を移動させて前記金型装置の型閉じ、型締め及び型開きを行う型締装置を有する。
【0003】該型締装置には、油圧シリンダに油を供給することによって駆動される油圧式の型締装置、及び電動機によって駆動される電動式の型締装置があるが、該電動式の型締装置は、制御性が高いだけでなく、クリーンであり、エネルギー効率が高いことから次第に使用されつつある。この場合、電動機を駆動してボールねじを回転させて推力を発生させ、該推力をトグル機構によって拡大し、大きな型締力を発生させるようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記従来の電動式の型締装置においては、トグル機構を使用するようになっているので、該トグル機構の特性上、型締力を変更することが困難であり、応答性及び安定性が低下し、成形中に型締力を制御することができない。
【0005】そこで、ボールねじによって発生させられた推力を型締力として直接使用することができるようにした型締装置が提供されている。この場合、電動機のトルクと型締力とが比例するので、成形中に型締力を制御することができる。ところが、型締めに伴ってボールねじに大きな荷重が加わるので、大きな型締力を発生させることができない。また、電動機に発生するトルクリップルによって型締力が変動してしまう。さらに、型締力を発生させるために、電動機に電流を常時供給する必要があり、電動機の消費電力量及び発熱量が多くなってしまう。したがって、電動機の定格出力を大きくする必要があり、型締装置のコストが高くなってしまう。
【0006】本発明は、前記従来の型締装置の問題点を解決して、型締力を容易に変更することができ、成形中に型締力を制御することができ、しかも、大きな型締力を安定して発生させることができ、コストを低くすることができる型締装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】そのために、本発明の型締装置においては、固定プラテンと、該固定プラテンに取り付けられた固定金型と、前記固定プラテンと所定の間隔を置いて配設されたリヤプラテンと、前記固定プラテンとリヤプラテンとの間に架設されたタイバーに沿って進退自在に配設された可動プラテンと、該可動プラテンに取り付けられた可動金型と、電磁石及び吸着板から成り、電磁石及び吸着板のうちの一方の部材が前記リヤプラテンの背面に固定され、他方の部材が移動自在に配設された電磁石・吸着板ユニットと、一端が前記他方の部材に、他端が前記可動プラテンにそれぞれ固定された加圧ピストンと、正方向及び逆方向に駆動することができる電動機と、該電動機と前記加圧ピストンとの間に配設され、かつ、成形機フレームに支持され、電動機の回転運動を直線運動に変換し、直線運動を加圧ピストンに伝達する運動方向変換手段とを有する。そして、前記他方の部材と加圧ピストンとの間に型厚調整ナットが配設され、該型厚調整ナットを回転させることによって、加圧ピストンに対する他方の部材の位置が調整される。
【0008】本発明の他の型締装置においては、さらに、前記電磁石及び吸着板はそれぞれ電磁積層鋼板を備える。本発明の更に他の型締装置においては、さらに、前記運動方向変換手段は、前記加圧ピストンの後端の内周に固定されたボールナット、及び該ボールナットと螺合させられるボールねじから成る。そして、該ボールねじの後端は、軸受によって前記成形機フレームに対して回転自在に支持されるとともに、前記電動機に連結される。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明の実施の形態における型締装置の型開き状態を示す図、図2R>2は本発明の実施の形態における型締装置の型締め状態を示す図である。図において、11は固定プラテンであり、該固定プラテン11と所定の間隔を置いてリヤプラテン13が配設され、前記固定プラテン11とリヤプラテン13との間に4本のタイバー14(図においては、2本のタイバー14だけを示す。)が架設される。そして、該タイバー14に沿って固定プラテン11と対向させて可動プラテン12が進退(図における左右方向に移動)自在に配設される。
【0010】また、前記固定プラテン11には固定金型15が、前記可動プラテン12には可動金型16がそれぞれ固定され、前記可動プラテン12の進退に伴って固定金型15と可動金型16とが接離させられる。なお、固定金型15と可動金型16とが接触させられると、固定金型15と可動金型16との間に図示しないキャビティ空間が形成され、該キャビティ空間に射出に伴って樹脂が充填される。
【0011】前記リヤプラテン13の背面(図における左面)には電磁石18が一方の部材として固定され、該電磁石18は、電磁積層鋼板19、該電磁積層鋼板19を前記リヤプラテン13に固定する電磁石フレーム20、及び起磁力を発生させるコイル21から成る。そして、前記電磁石18と対向させて、かつ、レール51に沿って移動自在に吸着板22が他方の部材として配設される。該吸着板22は、電磁積層鋼板52、及び該電磁積層鋼板52を支持する吸着板フレーム23から成る。この場合、前記電磁石18及び吸着板22によって電磁石・吸着板ユニットが構成される。なお、54はリニアガイドである。
【0012】本実施の形態においては、リヤプラテン13の背面に電磁石18を固定し、吸着板22を移動自在に配設しているが、リヤプラテン13の背面に吸着板22を固定し、電磁石18を移動自在に配設することもできる。また、前記吸着板22には筒状の加圧ピストン17の一端、すなわち、後端(図における左端)が固定され、該加圧ピストン17は、固定プラテン11に向けて延び、電磁石18及びリヤプラテン13を貫通し、他端、すなわち、前端(図における右端)が前記可動プラテン12に固定される。したがって、前記吸着板22が移動するのに伴って可動プラテン12が進退させられる。
【0013】ところで、前記吸着板フレーム23と加圧ピストン17との間には型厚調整ナット24が配設され、該型厚調整ナット24は吸着板フレーム23に対して回転自在に支持され、かつ、軸方向(型開閉方向)においては吸着板フレーム23に拘束され、共に進退させられる。また、前記型厚調整ナット24と加圧ピストン17とは螺(ら)合させられ、ギヤ25を介して型厚調整ナット24を回転させることによって、加圧ピストン17に対する吸着板22の位置を調整することができる。したがって、固定金型15及び可動金型16の厚さに対応させて、電磁石18と吸着板22との間のギャップを最適な値にし、十分に大きな型締力を発生させることができる。
【0014】そして、前記コイル21に電流を供給すると、電磁石18の吸引力によって吸着板22が電磁石18に吸引される。この場合、該電磁石18に電磁積層鋼板19が、吸着板22に電磁積層鋼板52がそれぞれ備えられるので、吸引時の型締装置の応答性及び安定性を向上させることができる。また、前記加圧ピストン17の後端の内周には、ボールナット56が固定され、該ボールナット56とボールねじ26とが螺合させられる。そして、ボールナット56及びボールねじ26によって運動方向変換手段が構成される。この場合、電動機としてのサーボモータ27によって発生させられ、ボールねじ26に伝達された回転運動は、前記運動方向変換手段によって直線運動に変換されて加圧ピストン17に伝達される。そのために、前記ボールねじ26の後端は、軸受28によって成形機フレーム29に対して回転自在に支持されるとともに、サーボモータ27に連結される。また、前記ボールねじ26の前端は前記加圧ピストン17内に進入させられる。
【0015】本実施の形態においては、前記ボールねじ26とサーボモータ27とは直接連結されているが、図示しないプーリ、ベルト等を介して連結することもできる。次に、前記構成の型締装置の動作について説明する。図1の状態において、サーボモータ27を正方向に駆動してボールねじ26を正回転させると、該ボールねじ26と螺合させられたボールナット56が前進(図における右方に移動)させられ、該ボールナット56の前進に伴って、加圧ピストン17及び吸着板22が前進させられ、更に可動プラテン12が前進させられる。そして、図2に示すように、固定金型15と可動金型16とが接触させられ、型閉じが行われる。なお、該型閉じに必要な力は型締力と比較して十分に小さい。
【0016】また、型閉じが終了したときに、電磁石18と吸着板22との間に一定のギャップが形成されるように、型厚調整ナット24によって加圧ピストン17に対する吸着板22の位置があらかじめ調整される。次に、図2の状態において、コイル21に電流を供給すると、吸着板22が電磁石18の吸引力によって吸引され、このとき、電磁石18の吸引力は、電磁積層鋼板52、吸着板フレーム23、型厚調整ナット24、加圧ピストン17及び可動プラテン12に順に伝達され、型締力となって可動金型16を固定金型15に押し付け、型締めが行われる。前記型締力は、型開きが行われるまで保持される。
【0017】この場合、前記コイル21に供給される電流の値を変更することによって、成形中において型締力を変更することができる。なお、該型締力は、加圧ピストン17によって受けられ、ボールねじ26には加わらないので、該ボールねじ26を型閉じに必要なだけの強度にすることができる。したがって、型締装置のコストを低くし、かつ、耐久性を向上させることができる。
【0018】また、型締力はもっぱら電磁石18の吸引力によって発生させられるので、サーボモータ27にトルクリップルが発生しても、型締力が変動することはない。さらに、型締め時においてサーボモータ27を停止させておくことができるので、サーボモータ27に電流を常時供給する必要がなくなる。したがって、サーボモータ27の消費電力量及び発熱量を少なくすることができ、サーボモータ27の定格出力を小さくすることができ、型締装置のコストを低くすることができる。
【0019】続いて、図示しないキャビティ空間に樹脂が充填され、冷却されて固化すると、電磁石18に供給されていた電流が遮断される。その結果、吸引力がなくなるとともに、型締力もなくなる。この状態でサーボモータ27を逆方向に駆動し、ボールねじ26を逆回転させると、ボールねじ26と螺合させられたボールナット56が後退(図における左方に移動)させられ、ボールナット56の後退に伴って、加圧ピストン17及び吸着板22が後退させられ、更に可動プラテン12が後退させられる。そして、図1に示すように、固定金型15と可動金型16とが離され、型開きが行われる。
【0020】なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0021】
【発明の効果】以上詳細に説明したように、本発明によれば、型締装置においては、固定プラテンと、該固定プラテンに取り付けられた固定金型と、前記固定プラテンと所定の間隔を置いて配設されたリヤプラテンと、前記固定プラテンとリヤプラテンとの間に架設されたタイバーに沿って進退自在に配設された可動プラテンと、該可動プラテンに取り付けられた可動金型と、電磁石及び吸着板から成り、電磁石及び吸着板のうちの一方の部材が前記リヤプラテンの背面に固定され、他方の部材が移動自在に配設された電磁石・吸着板ユニットと、一端が前記他方の部材に、他端が前記可動プラテンにそれぞれ固定された加圧ピストンと、正方向及び逆方向に駆動することができる電動機と、該電動機と前記加圧ピストンとの間に配設され、かつ、成形機フレームに支持され、電動機の回転運動を直線運動に変換し、直線運動を加圧ピストンに伝達する運動方向変換手段とを有する。そして、前記他方の部材と加圧ピストンとの間に型厚調整ナットが配設され、該型厚調整ナットを回転させることによって、加圧ピストンに対する他方の部材の位置が調整される。
【0022】この場合、電動機を駆動して運動方向変換手段を作動させると、加圧ピストン及び他方の部材が前進させられ、更に可動プラテンが前進させられ、固定金型と可動金型とが接触させられ、型閉じが行われる。続いて、電磁石のコイルに電流を供給すると、他方の部材が一方の部材に吸引され、このとき、一方の部材の吸引力は、他方の部材、型厚調整ナット、加圧ピストン及び可動プラテンに順に伝達され、型締力となって可動金型を固定金型に押し付け、型締めが行われる。
【0023】この場合、成形中において、前記コイルに供給される電流の値を変更することによって、型締力を変更することができる。また、該型締力は、加圧ピストンによって受けられ、運動方向変換手段には加わらないので、運動方向変換手段の強度を型閉じに必要なだけの強度にすることができる。したがって、型締装置のコストを低くし、かつ、耐久性を向上させることができる。
【0024】また、型締力はもっぱら電磁石の吸引力によって発生させられるので、電動機にトルクリップルが発生しても、型締力が変動することはない。さらに、型締力を発生させるために、電動機に電流を常時供給する必要がないので、電動機の消費電力量及び発熱量を少なくすることができる。したがって、電動機の定格出力を小さくすることができ、型締装置のコストを低くすることができる。そして、前記型厚調整ナットを回転させることによって、加圧ピストンに対する他方の部材の位置を調整することができるので、電磁石と吸着板との間のギャップを最適な値にし、十分に大きな型締力を発生させることができる。
【0025】本発明の他の型締装置においては、さらに、前記電磁石及び吸着板はそれぞれ電磁積層鋼板を備える。この場合、電磁積層鋼板によって、吸引時の型締装置の応答性及び安定性を向上させることができる。
【0026】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態における型締装置の型開き状態を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における型締装置の型締め状態を示す図である。
【符号の説明】
11 固定プラテン
12 可動プラテン
13 リヤプラテン
14 タイバー
15 固定金型
16 可動金型
17 加圧ピストン
18 電磁石
19、52 電磁積層鋼板
22 吸着板
24 型厚調整ナット
26 ボールねじ
27 サーボモータ
56 ボールナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (a)固定プラテンと、(b)該固定プラテンに取り付けられた固定金型と、(c)前記固定プラテンと所定の間隔を置いて配設されたリヤプラテンと、(d)前記固定プラテンとリヤプラテンとの間に架設されたタイバーに沿って進退自在に配設された可動プラテンと、(e)該可動プラテンに取り付けられた可動金型と、(f)電磁石及び吸着板から成り、電磁石及び吸着板のうちの一方の部材が前記リヤプラテンの背面に固定され、他方の部材が移動自在に配設された電磁石・吸着板ユニットと、(g)一端が前記他方の部材に、他端が前記可動プラテンにそれぞれ固定された加圧ピストンと、(h)正方向及び逆方向に駆動することができる電動機と、(i)該電動機と前記加圧ピストンとの間に配設され、かつ、成形機フレームに支持され、電動機の回転運動を直線運動に変換し、直線運動を加圧ピストンに伝達する運動方向変換手段とを有するとともに、(j)前記他方の部材と加圧ピストンとの間に型厚調整ナットが配設され、該型厚調整ナットを回転させることによって、加圧ピストンに対する他方の部材の位置が調整されることを特徴とする型締装置。
【請求項2】 前記電磁石及び吸着板はそれぞれ電磁積層鋼板を備える請求項1に記載の型締装置。
【請求項3】 (a)前記運動方向変換手段は、前記加圧ピストンの後端の内周に固定されたボールナット、及び該ボールナットと螺合させられるボールねじから成り、(b)該ボールねじの後端は、軸受によって前記成形機フレームに対して回転自在に支持されるとともに、前記電動機に連結される請求項1に記載の型締装置。

【図1】
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【図2】
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【特許番号】特許第3153775号(P3153775)
【登録日】平成13年1月26日(2001.1.26)
【発行日】平成13年4月9日(2001.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−313889
【出願日】平成8年11月25日(1996.11.25)
【公開番号】特開平10−151651
【公開日】平成10年6月9日(1998.6.9)
【審査請求日】平成10年3月31日(1998.3.31)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【参考文献】
【文献】特開 平5−237893(JP,A)
【文献】特開 平9−48051(JP,A)