説明

埋設型枠

【課題】水による侵食や水圧等に対する耐久性に優れた曲げ強度や圧縮強度等を有し、且つ防食性等にも優れ、セメントコンクリート製の埋設型枠に比べて断面厚さを薄くすることも可能な、特に、海洋又は河川土木・建設構造物用として有効な埋設型枠を提供すること。
【解決手段】本発明の埋設型枠は、コンクリートが打設される側の内表面と、それに対向する外表面とを有する埋設型枠であって、少なくとも外表面を含む外側が改質硫黄固化体により形成され、該固化体が、改質硫黄と、粒径1mm以下の微粉末と、金属製繊維とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋設型枠、特に、海洋又は河川土木・建設構造物用として有効な、水による侵食や水圧等に対する耐久性及び防食性等にも優れる高強度な埋設型枠に関する。
【背景技術】
【0002】
埋設型枠は、壁、柱、梁等の構造物の施工において、コンクリート打設時には型枠として作用し、コンクリート打設後は型枠を解体することなく構造物の一部として使用する、通常、板状を組合せた形態の型枠として良く知られている。
このような埋設型枠においては、構造物として維持しうるように、優れた圧縮強度、曲げ強度等の機械的強度や、防食性等が望まれ、更には、コンクリートとの剥離を抑制しうる一体性も要求されている。
従来、埋設型枠を構成する材料としては、主に、セメントコンクリートが使用されてきた。しかし、その施工場所等によっては、セメントコンクリートの防食性が問題になることがあるため、塗布型ライニング法やシートライニング法等により樹脂層が設けられることも行われている。また、防食性に優れる樹脂製の埋設型枠も知られている。
更に、特許文献1には、硫黄固化体パネルを用いた埋設型枠が提案されている。
しかし、該文献においては、硫黄固化体パネルとして、具体的な材料等についての検討はなされていない。
【特許文献1】特開2005−90016号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の課題は、水による侵食や水圧等に対する耐久性に優れた曲げ強度や圧縮強度等を有し、且つ防食性等にも優れ、セメントコンクリート製に比べて断面厚さを薄くすることもでき、特に、海洋又は河川土木・建設構造物用として有効な埋設型枠を提供することにある。
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明によれば、コンクリートが打設される側の内表面と、それに対向する外表面とを有する埋設型枠であって、少なくとも外表面を含む外側が改質硫黄固化体により形成され、該固化体が、改質硫黄と、粒径1mm以下の微粉末と、金属製繊維とを含むことを特徴とする埋設型枠が提供される。
【発明の効果】
【0005】
本発明の埋設型枠は、改質硫黄と、粒径1mm以下の微粉末と、金属製繊維とを含む改質硫黄固化体により少なくとも外表面を含む外側が形成されているので、水による侵食や水圧等に対する耐久性に優れた曲げ強度や圧縮強度等を有し、且つ改質硫黄による優れた遮水性及び耐酸性により、塩害が防止でき、防食性等にも優れ、更には、セメントコンクリート製の埋設型枠に比べて断面厚さを薄くすることもできる。従って、特に、海洋又は河川土木・建設構造物用の埋設型枠として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の埋設型枠は、コンクリートが打設される側の内表面と、それに対向する外表面とを有する板状、ボックス状、該ボックス状の内部が仕切られた形態等の公知の埋設型枠の形態を有し、少なくとも外表面を含む外側が改質硫黄固化体により形成されている。好ましくは、実質的に型枠全体が改質硫黄固化体により形成され、内表面側に、後述するコンクリートとの接着性を向上させる部材等が設けられていても良い。埋設型枠の断面厚さは、通常、30〜200mm、好ましくは50〜100mmとすることができる。
【0007】
本発明の埋設型枠が備える改質硫黄固化体は、改質硫黄、特定の微粉末及び金属製繊維を必須成分として含む。
前記改質硫黄は、例えば、天然産又は、石油や天然ガスの脱硫によって生成した硫黄等を硫黄改質剤により重合したものであって、硫黄と硫黄改質剤との反応物である。
【0008】
硫黄改質剤としては、例えば、炭素数4〜20のオレフィン系炭化水素又はジオレフィン系炭化水素、具体的には、リモネン、ピネン等の環状オレフィン系炭化水素、スチレン、ビニルトルエン、メチルスチレン等の芳香族炭化水素、ジシクロペンタジエン及びそのオリゴマー、シクロペンタジエン、テトラヒドロインデン、ビニルシクロヘキセン、ビニルノルボルネン、エチリデンノルボルネン、シクロオクタジエン等のジエン系炭化水素等の1種又は2種以上の混合物が挙げられる。
改質硫黄は、硫黄と硫黄改質剤とを溶融混合することにより得ることができる。この際、硫黄改質剤の使用割合は、硫黄と硫黄改質剤との合計量に対して、通常0.1〜20質量%、特に、1.0〜10質量%の割合が好ましい。
硫黄改質材の割合が、0.1質量%未満では、充分に硫黄を改質することができず、所望の機械的強度や防食性が発揮されない恐れがある。
【0009】
前記特定の微粉末は、粒径1mm以下、好ましくは100μm以下の微粉末であって、例えば、天然石粉、砂、珪砂、フェロニッケルスラグ、石炭灰、燃料焼却灰、電気集塵灰、シリカヒューム、アルミナ粉、石英粉、活性炭、貝殻粉末及びガラス粉末等からなる群より選択される1種又は2種以上の微粉末が挙げられる。
前記微粉末の他に、粒径25mm以下の骨材を混合しても良いが、その場合の粒径は、埋設型枠の断面厚さの1/3以下であることが望ましい。このような骨材としては、例えば、天然石、砂、砂利、れき、珪砂、フェロニッケルスラグ、高炉スラグ、溶融スラグ及び貝殻等からなる群より選択される1種又は2種以上が挙げられる。
微粉末や骨材としては、埋設型枠の防食性を更に向上させるために、少なくともCa及びSiを含み、微粉末中のCa、Si、Alを酸化物換算したCaO/(SiO2+Al2O3)の割合が、質量比で0.2以下の無機微粉末の使用が好ましい。前記微粉末中のCaO/(SiO2+Al2O3)の割合は、Ca量をCaOに換算し、Si量をSiO2に換算して、Al量をAl2O3に換算してそれぞれ質量比により決定できる。この際、Alは必ずしも含まれなくて良い。
このような微粉末としては、例えば、石炭灰、珪砂、シリカヒューム、石英粉、砂、ガラス粉末、電気集塵灰等のシリカ成分を主体とする微粉末の1種又は2種以上が挙げられる。
【0010】
前記微粉末の含有割合は、改質硫黄100質量部に対して、通常、10〜500質量部、特に30〜100質量部が好ましい。また、骨材を混合する場合は改質硫黄と微粉末の混合物100質量部に対して、通常、10〜500質量部、特に、100〜200質量部が望ましい。
【0011】
前記金属製繊維は、改質硫黄固化体の曲げ強度等を高め、特に、海洋又は河川等における水による侵食や水圧等に対する耐久性を向上させることができる成分として重要である。
金属製繊維としては、例えば、鋼繊維、ステンレス繊維、アモルファス繊維等が挙げられ、形態としては、直線状、曲線状、網目状もしくはドックボーン型等が挙げられるが、中でもその形態が、両端にフック又は径が太い部分を有する骨型、いわゆるドックボーン型形状の金属製繊維の使用が好ましい。
金属製繊維の径は、通常0.1〜3.0mm、長さは、通常、5〜50mm程度であることが好ましい。但し、ドックボーン型形状の金属製繊維のように、径が一定である必要はない。
前記金属製繊維の含有割合は、改質硫黄100質量部に対して、通常0.1〜20質量部、更には0.1〜10質量部、特に1〜5質量部が好ましい。該金属製繊維の含有割合が0.1質量部未満では、所望の機械的強度の向上が望めない恐れがあり、20質量部を超えると、型枠の経済性が低下する。
【0012】
前記改質硫黄固化体には、上記改質硫黄、微粉末、金属製繊維、骨材の他に、本発明の所望の目的を損なわない範囲で、例えば、有機質繊維、薄片状粒子等や各種添加剤を適量含有させることもできる。
有機質繊維としては、例えば、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、アラミド繊維、カーボンファイバー又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0013】
本発明の埋設型枠は、上記改質硫黄固化体により実質的に形成することができるが、例えば、公知のスレートボード、繊維強化石膏板、珪酸カルシウム板、繊維強化セメントボード、耐熱性プラスチック板、FRP板等であって、許容曲げ応力度135kgf/cm2cm以上、ヤング率70000kgf/cm2以上、前記改質硫黄固化体との付着力1.0kgf/cm2以上を有する基体の外層に、上記改質硫黄固化体の層を設けた型枠であっても良い。
【0014】
本発明の埋設型枠において、上記改質硫黄固化体の製造は、例えば、改質硫黄溶融物と、前記特定の微粉末及び金属製繊維とを含む原材料を120〜160℃で混合し、所望の形態の型枠に導入し、振動等を与えながら冷却固化することにより得ることができる。
改質硫黄溶融物は、硫黄と硫黄改質剤とを公知の各種加温可能なミキサー等を用いて、120〜160℃の範囲で溶融混合し、例えば、硫黄を充分に改質させるために、140℃における粘度が通常0.05〜1.0Pa・s、好ましくは0.05〜0.5Pa・s程度となるように混合することにより得ることができる。
改質硫黄溶融物、微粉末及び金属製繊維を含む原材料の混合は、微粉末及び金属製繊維を予め120〜155℃程度に加熱し、必要により骨材等の他の材料とともに改質硫黄溶融物と溶融状態を維持する所望温度で混合することにより行うことができる。
【0015】
本発明の埋設型枠において、コンクリートが打設される側の内表面には、打設されるコンクリートと埋設型枠との接着性を向上させるために、該内表面に、凹凸形状及び/又は不織布を設けることができる他、複数のアンカー材を一体的に突設されて設けることもできる。
内表面への凹凸形状の形成は、例えば、内表面を含む内側も改質硫黄固化体により形成されている場合には、該内表面を研磨剤等により物理的に荒らす方法、改質硫黄固化体の冷却固化時に、砕石等を、該内表面に固定する方法、該冷却固化時に、金網等を内表面に押し当てる方法、改質硫黄固化体を成形固化する際の型枠の表面に凹凸を設ける方法等が挙げられる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例1
密閉型撹拌混練機に固体硫黄50kgを入れ、120℃で溶融後、130℃に保持した。この際の粘度をB型粘度計で測定したところ0.018Pa・sであった。続いて、テトラハイドロインデン2kgをゆっくり添加し、撹拌した。反応が始まり発熱反応により系の温度が約145℃となった。その後、温度上昇が終了したことを確認し、その際の反応系の粘度を測定したところ約0.1Pa・s程度であった。
次に上記状態において、粒径1mm以下の石炭灰25kg、粒径0.3〜5.0mmのフェロニッケルスラグ225kg及びステンレススチール製のドックボーン型金属繊維(長さ3.5cm、中心繊維径1mm、両端の太い部分の径2mm)15kgからなる140℃に予熱した材料を投入し混合を開始した。混合物の温度を150℃に制御し20分間混合した。混合終了後、得られた溶融状態の改質硫黄含有物を、予め140℃に加熱した、縦1200mm、横2000mm、厚さ50mmの埋設型枠用の、ジャケット式加熱器を備える金属製型枠に導入した。導入前、型枠のジャケットはスチームにて約140℃に保持した。導入中、型枠には振動を与えた。
改質硫黄含有物の導入後、型枠ジャケットのスチームを抜き徐冷した後、脱型して埋設型枠用板を製造した。
【0017】
得られた埋設型枠用板の圧縮強度及び曲げ強度をJIS A1108により測定したところ、圧縮強度80N/mm2であり、曲げ強度14N/mm2であった。
また、比較のため、同一形態の金属製型枠を用いて、該型枠に、水24kg、セメント80kg、細骨材160kg、混和材0.8kg及びドッグボーン型金属繊維22.5kgの、水/セメント比が30%程度のコンクリート組成物を導入し、28日間養生して、セメントコンクリート製の埋設型枠用板を製造した。得られた型枠板の圧縮強度は20N/mm2であり、曲げ強度12N/mm2であった。
上記実施例で製造した型枠板及び比較のために製造した型枠板の耐摩耗性をASTMC779−82Aによる測定した。その結果、実施例1の型枠板は、比較のためのセメントコンクリート製の型枠板よりも約30%高い耐摩耗性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートが打設される側の内表面と、それに対向する外表面とを有する埋設型枠であって、
少なくとも外表面を含む外側が改質硫黄固化体により形成され、該固化体が、改質硫黄と、粒径1mm以下の微粉末と、金属製繊維とを含むことを特徴とする埋設型枠。
【請求項2】
前記改質硫黄固化体が、改質硫黄100質量部に対して、粒径1mm以下の微粉末100〜500質量部及び金属製繊維0.1〜20質量部を含む請求項1記載の埋設型枠。
【請求項3】
微粉末が、天然石粉、砂、珪砂、フェロニッケルスラグ、石炭灰、燃料焼却灰、電気集塵灰、シリカヒューム、アルミナ粉、石英粉、活性炭、貝殻粉末及びガラス粉末からなる群より選択される1種又は2種以上からなる請求項1又は2記載の埋設型枠。
【請求項4】
金属製繊維が、直線状、曲線状、網目状もしくはドックボーン型であり、且つ長さが5〜50mmである請求項1〜3のいずれか1項記載の埋設型枠。
【請求項5】
コンクリートが打設される側の内表面に、凹凸形状及び/又は不織布を有する請求項1〜4のいずれか1項記載の埋設型枠。
【請求項6】
コンクリートが打設される側の内表面に、複数のアンカー材が一体に突設されている請求項1〜4のいずれか1項記載の埋設型枠。
【請求項7】
海洋又は河川土木・建設構造物用であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の埋設型枠。

【公開番号】特開2007−277912(P2007−277912A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105192(P2006−105192)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】