培養培地添加物及びその応用
【課題】無血清で、動物由来による汚染がなく、化学成分が明確で高効率にiPS細胞を取得可能な培養システムを提供する。
【解決手段】本発明の培養培地添加物は、ビタミンC及びグリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤を含む。本発明の培養培地添加物は、ビタミンC及びグリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤を含む以外に、さらに、ビタミンB12、インスリン、レセプターチロシンキナーゼ及び抗酸化剤を含んでもよい。本発明の培養培地添加物は、上述の2種の培養培地添加物と血清代替細胞成長促進剤との混合物でもよい。本発明は、ES細胞を誘導する完全培養培地をさらに提供する。完全培養培地は、基礎培養培地、血清及び血清代替添加物の中の少なくとも1つと、上述の数種の培養培地添加物と、からなるか、或いは、基礎培養培地と、上述の数種の培養培地添加物と、からなる。
【解決手段】本発明の培養培地添加物は、ビタミンC及びグリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤を含む。本発明の培養培地添加物は、ビタミンC及びグリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤を含む以外に、さらに、ビタミンB12、インスリン、レセプターチロシンキナーゼ及び抗酸化剤を含んでもよい。本発明の培養培地添加物は、上述の2種の培養培地添加物と血清代替細胞成長促進剤との混合物でもよい。本発明は、ES細胞を誘導する完全培養培地をさらに提供する。完全培養培地は、基礎培養培地、血清及び血清代替添加物の中の少なくとも1つと、上述の数種の培養培地添加物と、からなるか、或いは、基礎培養培地と、上述の数種の培養培地添加物と、からなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養培地に関し、特に、iPS細胞又は哺乳動物細胞の培養に用いることができる培養培地添加物に関する。
【背景技術】
【0002】
2008年、日本の科学者である山中らのグループが4つの転写因子(Oct4、Klf4、Sox2、c−Myc)を用い、マウス線維芽細胞をES細胞にリプログラミングすることに成功した。この技術は、iPS細胞技術と称する。その後、ヒト及び他の動物(大ねずみ、サル、ブタなど)の線維芽細胞もリプログラミングに成功した。この技術は、再生医療において、最も大きな躍進である。現在、マウスのリプログラミング過程において採用されている略全ての培養システムは、血清を含む。
【0003】
血清を含む培養システムは、以下(1)〜(3)に示す欠点を有する。
【0004】
(1)プログラミング過程が緩慢である:血清中には、例えば、トランスフォーミング成長因子−β(TGF−β)ファミリーなど、リプログラミングを抑制する物質が含まれることが証明されている。また、血清中の他の不明物質がプログラミング過程を緩慢にする可能性が極めて高い。これらの証明済み又は未証明の物質により、リプログラミング効率が低下する。
【0005】
(2)ロットによって血清成分が異なる:血清の作製過程によって各ロットの血清の成分が異なり、実験の再現性が低下する。
【0006】
(3)血清成分が不明なことがリプログラミングのメカニズムの研究及び薬剤のスクリーニングの障害となる:血清成分は複雑であり、iPS過程に有利な酵素反応も不利な酵素反応も起動される可能性がある。これは、iPSメカニズムの研究に極めて大きな障害となると共に、薬剤のスクリーニングの感度も低下する。
【0007】
血清代替物(KOSR)無血清培養培地の発明は、細胞培養技術において、大きな進歩である。このシステムは、血清を一切含まないと共に、システム中の略全ての成分が明確であり、実験の再現性が大幅に高められた。このシステムは、分化因子を殆ど含まないため、幹細胞の自己再生の維持に優れる。また、このシステムに血清を混合したものは、血清を単独で使用したものより、リプログラミング効率が高い。
【0008】
しかし、このシステムの成分は、完全に明確であるわけではない。例えば、高脂質ウシ血清アルブミン(AlbuMAX(登録商標))中には、多種の不明脂質が含まれる。これらの成分がリプログラミングに与える影響は、未だに分かっていない。また、血清代替物(KOSR)は、リプログラミング前期の細胞成長をサポートすることができない。また、マウスiPS細胞への誘導過程において、血清を混合しても、リプログラミング効率は高くない。
【0009】
そこで、無血清であり、成分が完全に明確であり、高効率なリプログラミングシステムは、iPSメカニズム、薬剤スクリーニング及びiPSの臨床応用にとって非常に重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、無フィーダー細胞の条件においても幹細胞の成長及び増殖を維持することができ、iPS進行を加速し、iPSの作製効率を高めることができる成分が明確で高効率にiPS細胞を取得することができる培養システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するために、本発明の培養培地添加物は、ビタミンC及びグリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤を含む。
【0012】
本発明の培養培地添加物は、ビタミンC及びグリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤を含む以外に、さらに、ビタミンB12、インスリン、レセプターチロシンキナーゼ及び抗酸化剤を含む。
【0013】
ビタミンCは、アスコルビン酸と、アスコルビン酸ナトリウムなど、その誘導体と、を含む。ビタミンCの安定形は、2リン酸アスコルビン酸である。ビタミンCは、好ましくは、2リン酸アスコルビン酸である。ビタミンCの作業濃度は、0〜100μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、50μg/mlである。ビタミンB12の作業濃度は、0〜2.8μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、1.4μg/mlである。
【0014】
インスリンは、抽出及び人工的に組換え合成された各種起源の生物活性を有するインスリンである。インスリンは、好ましくは、人工的に組換えされたインスリン(SIGMA社)である。インスリンの作業濃度は、0〜50μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、20μg/mlである。
【0015】
グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤は、Li+、CHIR99021、BIO及びSB216763の中の少なくとも1つを含む。Li+は、好ましくは、LiClである。Li+の作業濃度は、0〜10μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、5mmol/mlである。グリコーゲン合成酵素キナーゼは、セリン/トレオニンホスホリラーゼキナーゼであり、多種の信号経路の調整に参与する。その阻害剤は、好ましくは、CHIR99021である。グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤の作業濃度は、0〜12μmol/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、3μmol/mlである。
【0016】
レセプターチロシンキナーゼは、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、上皮成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子(IGF)及び肝細胞成長因子(HGF)の中の少なくとも1つを含む。レセプターチロシンキナーゼは、好ましくは、塩基性線維芽細胞成長因子である。レセプターチロシンキナーゼの作業濃度は、0〜100ng/mlであり、好ましくは、5ng/mlである。
【0017】
抗酸化剤は、チアミン、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、還元型グルタチオン、ビタミンE、アセチル化ビタミンE、リノール酸、リノレン酸及び亜セレン酸ナトリウムの中の少なくとも1つを含む。チアミンの作業濃度は、0〜36μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、9μg/mlである。スーパーオキシドジスムターゼの作業濃度は、0〜10μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、2.5μg/mlである。還元型グルタチオンの作業濃度は、0〜6μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、1.5μg/mlである。ビタミンEの作業濃度は、0〜16μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、1μg/mlである。アセチル化ビタミンEの作業濃度は、0〜16μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、1μg/mlである。リノール酸の作業濃度は、0〜4μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、1μg/mlである。エタノールアミンの作業濃度は、0〜16μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、1μg/mlである。
【0018】
本発明の培養培地添加物は、上述の2種の培養培地添加物に血清代替細胞成長促進剤を混合したものでもよい。血清代替細胞成長促進剤は、アルブミン加水分解物、トランスフェリン、トリヨードチロニン、アドレナロン、リポ酸、エタノールアミン、プロゲステロン、プトレシン及びビタミンAの中の少なくとも1つを含む。
【0019】
アルブミン加水分解物は、アルブミンを加水分解したものであり、その組成成分は、アミノ酸及びポリペプチドであり、具体的な成分が明確である。アルブミン加水分解物の使用濃度は、0〜10mg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、1mg/mlである。
【0020】
トランスフェリンは、鉄イオンを含むトランスフェリン及び鉄イオンを含まないトランスフェリンを含み、好ましくは、鉄イオンを含むトランスフェリンである。トランスフェリンの使用濃度は、0〜200μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、100μg/mlである。
【0021】
リポ酸の作業濃度は、0〜3.2μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、0.2μg/mlである。
【0022】
ビタミンAの作業濃度は、0〜1.6μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、0.1μg/mlである。
【0023】
本発明は、完全培養培地をさらに提供する。本発明の完全培養培地は、基礎培養培地、血清及び血清代替添加物中の少なくとも1つと、上述の数種の培養培地添加物と、からなる。或いは、基礎培養培地と、上述の数種の培養培地添加物と、からなる。また、表1に示す材料が基礎培養培地DMEM中に添加されることにより、化学成分が明確な完全培養培地iCD1が形成される。表1は、好ましい培養培地添加物の成分及び濃度を示す。
【0024】
本発明は、iPS細胞の完全培養培地をさらに提供する。本発明のiPS細胞の完全培養培地は、基礎培養培地、血清及び血清代替添加物中の少なくとも1つと、上述の2種の培養培地添加物と、から構成される。
【0025】
上述の基礎培養培地は、DMEM(Dulbecco‘s Modified Eagle’s Medium)、MEM(Minimal Essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、F−10、F−12、RPMI 1640、GMEM(Glasgow‘s Minimal Essential Medium)、αMEM(αMinimal Essential Medium)、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco‘s Medium)又はM199である(これに限定されない)。基礎培養培地は、好ましくは、DMEMである。
【0026】
血清代替添加物は、KOSR(Knock Out Serum Replacement)、N2、B27又はITS(Insulin−Transferrin−Selenium Supplement)である(これに限定されない)。
【0027】
表1に示す培養培地添加物が基礎培養培地DMEM中に添加されることにより、化学成分が明確な完全培養培地iCD1が形成される。表1は、好ましい培養培地添加物の成分及び濃度を示す。表2は、完全培養培地iCD1の好ましい成分及び濃度を示す。
【表1】
【0028】
【表2】
【発明の効果】
【0029】
本発明の培養システムは、無血清である上、成分が明確であり、体細胞からiPS細胞を高効率に取得する無血清培養システムに用いられ、無フィーダー細胞の条件において、線維芽細胞及び幹細胞の成長及び増殖を維持することができる。また、iPS進行を加速させ、iPSの作製効率を高めることができる。さらに、真核細胞の培養にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】aは、mES、mES+ビタミンC、KSR−BN及びBasal3.0の4種の培養条件において、SKO(Sox2、Klf4及びOct4)ウイルス感染後10日目の2万個の線維芽細胞から誘導したリプログラミングクローン数を示すグラフである。bは、mES、mES+ビタミンC、KSR−BN及びBasal3.0の4種の培養条件において、SKO(Sox2、Klf4及びOct4)ウイルス感染後10日目に測定したリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。
【図2】aは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示し、塩化リチウムの濃度範囲が0〜10mmol/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。bは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示し、塩化リチウムの濃度範囲が0〜10mmol/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミング細胞(緑色蛍光細胞)の比率を示すグラフである。cは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示し、ビタミンB12の濃度範囲が0〜2.8μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。dは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示し、ビタミンB12の濃度範囲が0〜2.8μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。eは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示し、塩基性線維芽細胞成長因子の濃度範囲が0〜7ng/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。fは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示し、塩基性線維芽細胞成長因子の濃度範囲が0〜7ng/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。gは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示し、ビタミンCの濃度範囲が0〜100μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。hは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示し、ビタミンCの濃度範囲が0〜100μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。iは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示し、インスリンの濃度範囲が0〜50μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。
【図3】aは、抗酸化剤の用量反応実験の結果を示し、ビタミンEの濃度範囲が0〜16μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。bは、抗酸化剤の用量反応実験の結果を示し、ビタミンEの濃度範囲が0〜16μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のフローサイトメトリーによって測定されたOct4−GFP陽性細胞の比率を示すグラフである。cは、抗酸化剤の用量反応実験の結果を示し、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の濃度範囲が0〜10μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。dは、抗酸化剤の用量反応実験の結果を示し、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の濃度範囲が0〜10μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のフローサイトメトリーによって測定されたOct4−GFP陽性細胞の比率を示すグラフである。eは、抗酸化剤の用量反応実験の結果を示し、還元型グルタチオンの濃度範囲が0〜6μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。fは、抗酸化剤の用量反応実験の結果を示し、還元型グルタチオンの濃度範囲が0〜6μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のフローサイトメトリーによって測定されたOct4−GFP陽性細胞の比率を示すグラフである。gは、抗酸化剤の用量反応実験の結果を示し、チアミンの濃度範囲が0〜36μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。hは、抗酸化剤の用量反応実験の結果を示し、チアミンの濃度範囲が0〜36μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のフローサイトメトリーによって測定されたOct4−GFP陽性細胞の比率を示すグラフである。
【図4】aは、成長支持物質の用量反応を示し、ビタミンAの濃度範囲が0〜16μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。bは、成長支持物質の用量反応を示し、ビタミンAの濃度範囲が0〜16μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のフローサイトメトリーによって測定されたOct4−GFP陽性細胞の比率を示すグラフである。cは、成長支持物質の用量反応を示し、エタノールアミンの濃度範囲が0〜16μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。dは、成長支持物質の用量反応を示し、エタノールアミンの濃度範囲が0〜16μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のフローサイトメトリーによって測定されたOct4−GFP陽性細胞の比率を示すグラフである。eは、成長支持物質の用量反応を示し、リノール酸の濃度範囲が0〜4μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。fは、成長支持物質の用量反応を示し、リノール酸の濃度範囲が0〜4μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のフローサイトメトリーによって測定されたOct4−GFP陽性細胞の比率を示すグラフである。gは、成長支持物質の用量反応を示し、リポ酸の濃度範囲が0〜3.2μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。hは、成長支持物質の用量反応を示し、リポ酸の濃度範囲が0〜3.2μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のフローサイトメトリーによって測定されたOct4−GFP陽性細胞の比率を示すグラフである。
【図5】aは、本発明の化学成分が明確な培養培地iCD1(Basal3.0にグリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤CHIR99021を添加)と、従来のリプログラミング培養培地と、のリプログラミング効率の比較を示すグラフである。bは、本発明の化学成分が明確な培養培地iCD1と、従来のリプログラミング培養培地と、のリプログラミング効率の比較を示し、図5aに示す複数の培養培地の感染後8日目のリプログラミングクローンを示す写真である。cは、本発明の化学成分が明確な培養培地iCD1と、従来のリプログラミング培養培地と、のリプログラミング効率の比較を示し、KSR−BN培養方式は、リプログラミング効率を高めることを示すグラフである(成分は後述する)。dは、本発明の化学成分が明確な培養培地iCD1と、従来のリプログラミング培養培地と、のリプログラミング効率の比較を示し、mES+ビタミンC培養方式は、リプログラミング効率を高めることを示すグラフである。eは、本発明の化学成分が明確な培養培地iCD1と、従来のリプログラミング培養培地と、のリプログラミング効率の比較を示し、mES→KSR培養方式は、リプログラミング効率を高めることを示すグラフである(mES→KSR培養方式の具体的な過程は後述する)。
【図6】aは、本発明の培養培地添加物中の6種の成分(塩基性線維芽細胞成長因子、ビタミンC、CHIR99021、塩化リチウム、ビタミンB12及びチアミン)がリプログラミング効率に与える影響を示すグラフである。bは、本発明の培養培地添加物中の6種の成分(塩基性線維芽細胞成長因子、ビタミンC、CHIR99021、塩化リチウム、ビタミンB12及びチアミン)がリプログラミング効率及び成長に与える影響を示し、感染後8日目の各培養条件におけるリプログラミングの様子を示す写真である。cは、本発明の培養培地添加物中の6種の成分(塩基性線維芽細胞成長因子、ビタミンC、CHIR99021、塩化リチウム、ビタミンB12及びチアミン)がリプログラミング効率及び成長に与える影響を示し、各培養条件における成長曲線を示すグラフである。
【図7】aは、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)の用量反応を示すグラフである。bは、bFGFの作用時間実験の結果を示すグラフである。cは、ビタミンCの用量反応を示すグラフである。dは、CHIR99021の用量反応を示すグラフである。eは、レセプターチロシンキナーゼがリプログラミングに与える効果を示すグラフである。
【図8】aは、化学成分が明確な培養培地iCD1において、ALK5(腫瘍壊死因子TGF−βの受容体)阻害剤A83−01、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤バルプロ酸(valproic acid)及びウシ胎児血清がOKSが誘導するリプログラミング効率を高めることができないことを証明する実験の結果を示し、マウス線維芽細胞にSKOウイルスを感染させた後、化学成分が明確な培養培地iCD1と、A83−01(0.5μM)が添加されたiCD1と、バルプロ酸(1mM)が添加されたiCD1と、2%のウシ胎児血清が添加されたiCD1と、において培養し、感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。bは、図8aの実験における典型的なリプログラミングクローンを示す写真である。
【図9】初期播種密度がリプログラミング効率に影響を与えることを証明する実験の結果を示すグラフである。
【図10】aは、iCD1培養条件における内因性多能性分子標識の発現結果を示し、リアルタイムPCRによって検出された内因性多能性分子標識の発現量を示すグラフである。bは、iCD1培養条件における内因性多能性分子標識の発現結果を示し、細胞培養プレート上に直接固定し、免疫蛍光法によって行った実験の結果を示す写真である。cは、iCD1培養条件における内因性多能性分子標識の発現結果を示し、イムノブロット法により、発現プロファイルを検出した結果を示す写真である。
【図11】iCD1培養システムにおけるリプログラミングの追跡を示す写真である。
【図12】aは、感染後8日目のリプログラミング効率及び関連する分子標識の発現を示し、Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にSKOウイルス及び外因性赤色蛍光蛋白DsRedウイルスを感染させた後、mES培養培地及びiCD1培養培地中において培養し、感染後8日目の2種の培養条件におけるリプログラミング細胞(緑色蛍光細胞)と未リプログラミング細胞(赤色蛍光細胞)との比率を示す図である。bは、感染後8日目のリプログラミング効率及び関連分子標識を示し、リアルタイム定量PCRにより測定した、SKOウイルスに感染後、8日培養したmESと、8日培養したiCD1と、8日培養したiCD1から分別した細胞集団と、における多能性分子標識の発現プロファイルを示すグラフである。
【図13】aは、キメラマウスを作製する過程に関する結果を示し、胚注射によって検出されたiCD1培養培地中のOSKによって誘導されたiPSC細胞の多能性を示す流れ図である。bは、キメラマウスを作製する過程に関する結果を示し、様々な誘導日数において、図13aに示す実験を行った結果を示す図である。cは、キメラマウスを作製する過程に関する結果を示し、8日目に取得したiPSC細胞を胞胚に注射することによって作製されたキメラマウスを示す写真である。
【図14】aは、iCD1培養システムにおいて、OK及びOSを用いて体細胞をリプログラミングする実験の結果を示し、iCD1培養条件において、OK及びOSを用いて体細胞をリプログラミングした初代クローン写真及び経過写真である。bは、iCD1培養システムにおいて、OK及びOSを用いて体細胞をリプログラミングする実験の結果を示し、免疫蛍光法により検出した、幹細胞特異の分子標識の発現プロファイルを示す。cは、iCD1培養システムにおいて、OK及びOSを用いて体細胞をリプログラミングする実験の結果を示し、iCD1培養システムにおいて、OK及びOSを用いてリプログラミングを行う実験の実施状況及び効率を示す図である。dは、iCD1培養システムにおいて、OK及びOSを用いて体細胞をリプログラミングする実験の結果を示し、奇形腫の切断面を示す写真であり、OK及びOSを用いたリプログラミングによって形成されたiPS細胞は、ES細胞の特徴を有することを示す。
【図15】aは、iCD1条件において、Oct4を用いてマウス胎児線維芽細胞(MEF)をリプログラミングする実験の結果を示し、感染後33日目にOct4によって誘導された初代クローン及び形成された細胞株を示す写真である。bは、iCD1条件において、Oct4を用いてマウス胎児線維芽細胞(MEF)をリプログラミングする実験の結果を示し、Oct4 iPSクローンが発現した多能性分子標識を示す写真である。cは、iCD1条件において、Oct4を用いてマウス胎児線維芽細胞(MEF)をリプログラミングする実験の結果を示し、リアルタイム定量PCRにより、選出されたクローンが何れも幹細胞特異の多能性分子標識を発現したことを示すグラフである。dは、iCD1条件において、Oct4を用いてマウス胎児線維芽細胞(MEF)をリプログラミングする実験の結果を示し、リアルタイム定量RCR法により、外因子遺伝子の発現プロファイルを分析した結果を示すグラフである。eは、iCD1条件において、Oct4を用いてマウス胎児線維芽細胞(MEF)をリプログラミングする実験の結果を示し、挿入鑑定分析により、選出されたクローンがOct4因子のみにより誘導されたものであり、汚染ではないことが確定されたことを示す図である。fは、iCD1条件において、Oct4を用いてマウス胎児線維芽細胞(MEF)をリプログラミングする実験の結果を示し、Oct4 iPSC細胞を胞胚に注射することによって作製されたキメラマウスを示す写真である。gは、iCD1条件において、Oct4を用いてマウス胎児線維芽細胞(MEF)をリプログラミングする実験の結果を示し、作製されたキメラマウスが生殖細胞系モザイク性能力を有することを示す写真である。
【図16】aは、Oct4−VP16(VP16は、ウイルス由来の遺伝子配列であり、転写因子と接続されることにより、転写因子の活性が増強される)、Klf4及びSox2に感染した条件において、iCD1がリプログラミング効率を高めることができる実験を示し、Oct4−GFPマウス胎児繊維芽細胞にOct4−VP16SKを感染させた後、mES培養培地、mES+ビタミンC培養培地及びiCD1培養培地において培養し、感染後10日目に計算した蛍光クローン数を示すグラフである。bは、Oct4−VP16、Klf4及びSox2に感染した条件において、iCD1がリプログラミング効率を高めることができる実験を示し、図16aの実験中の状態を示す写真である。
【図17】aは、iCD1培養システムにおいて、Oct4−VP16/Klf4及びOct4−VP16/Sox2を用いて体細胞をリプログラミングする実験を示し、Oct4−GFPマウス胎児繊維芽細胞にOct4−VP16/Klf4及びOct4−VP16/Sox2を感染させた後、それぞれ、iCD1システムにおいて培養し、様々な日数において計算したリプログラミングクローン数を示すグラフである。bは、iCD1培養システムにおいて、Oct4−VP16/Klf4及びOct4−VP16/Sox2を用いて体細胞をリプログラミングする実験を示し、Oct4−VP16/Klf4及びOct4−VP16/Sox2によって誘導されたiPSクローンを示す写真である。cは、iCD1培養システムにおいて、Oct4−VP16/Klf4及びOct4−VP16/Sox2を用いて体細胞をリプログラミングする実験を示し、Oct4−VP16/Klf4及びOct4−VP16/Sox2によって誘導されたiPS細胞が発現した典型的な多能性分子標識を示す写真である。
【図18】aは、iCD1培養システムにおいて、Oct4−VP16を用いて体細胞をリプログラミングする実験を示し、Oct4−VP16によって誘導されたiPSクローンを示す写真である。bは、iCD1培養システムにおいて、Oct4−VP16を用いて体細胞をリプログラミングする実験を示し、Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にOct4−VP16を感染させた後、それぞれ、mES、mES+ビタミンC及びiCD1培養培地において培養し、様々な培養日数において計算したリプログラミングクローン数を示すグラフである。cは、iCD1培養システムにおいて、Oct4−VP16を用いて体細胞をリプログラミングする実験を示し、Oct4−VP16によって誘導されたクローンが発現した多能性分子標識を示す写真である。dは、iCD1培養システムにおいて、Oct4−VP16を用いて体細胞をリプログラミングする実験を示し、Oct4−VP16によって誘導されたiPSクローンを胞胚に注射して作製したキメラマウスを示す写真である。
【図19】aは、iCD1のコア成分をmES培養培地中に添加し、リプログラミングを促進する実験を示し、Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にSKOウイルスを感染させた後、mES、mES+ビタミンC、SmES(mESにビタミンC、bFGF、CHIR99021、塩化リチウム及びB27を添加したもの)培養培地中において培養し、感染後8日目に計算したリプログラミングクローン数を示すグラフである。bは、iCD1のコア成分をmES培養培地中に添加し、リプログラミングを促進する実験を示し、SmES培養条件における8日目の典型的な蛍光クローンを示す写真である。cは、iCD1のコア成分をmES培養培地中に添加し、リプログラミングを促進する実験を示し、Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にOct4ウイルスを感染させた後、mES、mES+ビタミンC及びiCD1培養培地中において異なる日数培養して観察された蛍光クローン数を示す図である。dは、SmES培養システムにおいて、Oct4を用いて体細胞をリプログラミングした初代クローン及び継代クローンの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の目的、特徴および効果を示す実施形態を図面に沿って詳細に説明する。これらの実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0032】
ここで、本発明の実施形態中、特に説明がない限り、培養培地の用語及び成分は、以下のように定義される。
【0033】
基礎培養培地:人工的に作製された糖類、アミノ酸、無機塩、ビタミン、脂質などの細胞の成長に必要な栄養物質を含む培養培地。本発明の基礎培養培地は、DMEM(Dulbecco‘s Modified Eagle’s Medium)、MEM(Minimal Essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、F−10、F−12、RPMI 1640、GMEM(Glasgow‘s Minimal Essential Medium)、αMEM(αMinimal Essential Medium)、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco‘s Medium)又はM199である(これに限定されない)。基礎培養培地は、好ましくは、高糖度DMEMである。
【0034】
ウシ胎児血清:ウシ胎児の血液から分離抽出された細胞成長を支持する培養物であり、具体的な成分は未知である。ウシ胎児血清は、栄養物質及び成長因子を豊富に含み、様々な種類の細胞の成長を支持することができる。しかし、成分が不明である、ロットによる成分差が大きい、病原体を含むなどの欠点を有する。
【0035】
血清代替物:血清代替物は、血清の代わりに使用される商品化された培養物添加物であり、一般に、成分が明確である。本発明の血清代替物は、KSR(商品化された帯血清培養添加物)、N2(商品化された血清代替添加物であり、成分は、インスリン、トランスフェリン、プロゲステロン、プトレシン及び亜セレン酸ナトリウムである)、B27(神経細胞の培養に用いられる無血清培養添加物)などの血清代替培養添加物である(これに限定されない)。
【0036】
胚性幹細胞:略称は、ES細胞又はEK細胞である(以下ES細胞)。ES細胞は、早期胞胚(原腸胚期前)又は原始生殖腺から分離した細胞であり、体外培養によって無限増殖し、自己再生能力及び多能性を有する。マウスES細胞を体外で培養するには、フィーダー層細胞及びマウス白血病抑制因子が必要であり、これにより、多能性が維持される。研究により、体外培養の過程において、グリコーゲン合成酵素キナーゼ阻害剤及びMAPキナーゼ阻害剤を合わせて使用することにより、ES細胞の分化が抑制され、フィーダー層細胞及びマウス白血病抑制因子がない状況においても、ES細胞の多能性を維持することができることが発見された。
【0037】
グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(glycogen synthase kinase−3:GSK−3)は、多機能のセリン/トレオニンタンパク質キナーゼであり、細胞内の多種の信号伝達経路における重要な成分であり、細胞内の糖代謝、細胞増殖、細胞分化、アポトーシスなどの多種の生理過程に関与する。グリコーゲン合成酵素キナーゼ阻害剤は、主に、CHIR99021、BIO、SB216763などであり、好ましくは、CHIR99021である。化学式1に、その構造を示す。
【化1】
【0038】
iPS細胞:induced pluripotent stem cellの略称であり、誘導多能性幹細胞とも称す。分化細胞がリプログラミング因子によって処理されることにより、iPS細胞の状態に戻る。現在すでに、四倍体胞胚に注射する技術により、iPS細胞から完全なマウスを作製することができ、iPS細胞が多能性を有することが証明されている。
【0039】
リプログラミング因子とは、分化細胞を多能性の状態に戻す因子である。リプログラミング因子の多くが核転写因子であり、現在、リプログラミングに用いられる転写因子は、Sox2、Oct3、Klf4、Nanog、Lin28、c−Myc、Esrrb、Tbx3などである。本発明の転写因子は、上述の転写因子を含むがこれに限定されない。
【0040】
フィーダー層細胞培養培地(feeder medium)の組成成分は、高糖度基礎培養培地(DMEM:本発明の発明者が頭文字から命名した基礎培養培地)に10%のウシ胎児血清(FBS)(Hyclone)、2mMグルタミン(Glutamine)及び非必須アミノ酸(NEAA)を添加したものである。
【0041】
含血清ES細胞培養培地の成分は、高糖度基礎培養培地、15%のウシ胎児血清(FBS)(GIBCO)、2mMグルタミン(Glutamine)、非必須アミノ酸(NEAA)、ペニシリン/ストレプトマイシン、β−メルカプトエタノール及びピルビン酸ナトリウムである。
【0042】
mESは、従来の幹細胞培養培地であり、その成分は、高糖度DMEM培養培地に、15%のウシ胎児血清、非必須アミノ酸、グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシン、β−メルカプトエタノール、ピルビン酸及び白血病抑制因子(マウスの多能性状態を維持させる成長因子)を加えたものである。
【0043】
KSR無血清培養培地:KSRは、Knockout Serum Replaceの略称であり、商品化された血清代替幹細胞培養添加物である。本発明で使用するKSR完全培養培地は、2種である。1つは、iPSの誘導過程に用いられ、その組成成分は、高糖度基礎培養培地(DMEM)、10%のKSR添加物、2mMのグルタミン、非必須アミノ酸(NEAA)、ペニシリン/ストレプトマイシン、β−メルカプトエタノール及びピルビン酸ナトリウムである。もう1つの幹細胞又はiPSクローンの培養に用いられる完全KSR無血清培養培地の組成成分は、KNOCKOUT DMED(浸透圧が幹細胞の培養に適する基礎培養培地)、15%のKSR添加物、2mMのグルタミン、非必須アミノ酸(NEAA)、ペニシリン/ストレプトマイシン及びβ−メルカプトエタノールムである。全てのiPS過程及びクローン培養培地には、マウス白血病抑制因子LIF(ミリポア社のESGRO(登録商標)であり、マウス幹細胞の分化を抑制する成長因子)が添加され、添加される終濃度は1000U/mlである。
【0044】
KSR−BNとは、上述のiPS誘導過程に用いられるKSR完全培養培地に、塩基性線維芽細胞成長因子及びN2(商品化された血清代替添加物であり、成分は、インスリン、トランスフェリン、プロゲステロン、プトレシン及び亜セレン酸ナトリウムである)を添加したものである。
【0045】
Bassal3.0完全培養培地:本発明の培養培地の1種であり、具体的には、高糖度基礎培養培地(DMEM)に、ビタミンC、インスリン、塩化リチウム、ビタミンB12、抗酸化剤、レセプターチロシンキナーゼ成長因子、系列の成長支持物質などを添加したものである。具体的な成分は、表2に示し、CHIR99021を含まない。
【0046】
iCD1完全培養培地:本発明の培養培地中の1つである。表1に示す添加物と、高糖度基礎培養培地(DMEM)、グルタミン、非必須アミノ酸、ペニシリン/ストレプトマイシン、β−メルカプトエタノール、ピルビン酸ナトリウムなどと、を混合したものである。表1に示す添加物と他の成分との体積比は1:24である。具体的な成分及び濃度は、表2に示す。
【0047】
また、特に説明のない場合、マウス体細胞のリプログラミングは、以下の方式で行われる。
【0048】
リプログラミングに採用される体細胞は、何れもOG2マウス胎児線維芽細胞であり、継代数は、3代を超えない。OG2マウスは、幹細胞特異のOct4遺伝子のプロモーターが発現された後、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子が連結される遺伝子導入マウスである。リプログラミングの後期、OG2マウス胎児線維芽細胞の内因性Oct4が起動されたとき、緑色蛍光タンパク質が発現され、蛍光顕微鏡により、細胞又はリプログラミングされたクローンが緑色に見える。蛍光顕微鏡により、リプログラミングクローン(即ち、緑色蛍光クローン)の数を直接計算するか、或いは、フローサイトメトリーにより、GFP蛍光細胞の比率を分析する。研究者は、様々な条件におけるリプログラミング効率を比較することができる。
【0049】
細胞実験及びウイルスの準備過程を以下に示す。細胞播種は、12孔の壁面に配置された細胞培養プレート内に行われ、播種密度は、20000細胞/孔である。細胞播種の6〜18時間後、細胞密度及び状態に応じ、マウスリプログラミング因子を有するウイルスを感染させる。感染は、2回に分けて行う。1回目の感染から24時間後、2回目の感染を行う。2回目の感染から24時間後、ウイルス液を各種の被測定培養液に交換する。交換した当日を0日目(D0)とする。感染後、様々な時間点において、実験の必要に応じ、原孔内のGFP蛍光クローン数を計算したり、フローサイトメトリーにより、GFP蛍光細胞の比率を分析する。
【0050】
ウイルスの準備過程を以下に示す。PMXベクターにクローンしたリプログラミング因子プラスミドをウイルスパッケージング細胞(PlatE)にトランスフェクションする。トランスフェクションから12〜16時間後、培養液を新しい培養液に交換する。トランスフェクションから48時間経過後に収集した培養液を1次感染用ウイルス液とする。新しい培養液を添加し、24時間経過した後に収集した培養液を2次感染用ウイルス液とする。
【0051】
また、特に説明のない限り、略称は、以下のように解釈される。
【0052】
SKOは、Sox2、Klf4及びOct4の3つのウイルス又はSox2、Klf4及びOct4の3つのウイルスに感染した細胞を指す。また、3つの因子と同一の意味を有する。OKは、Oct4及びKlf4の2つのウイルス又はOct4及びKlf4の2つのウイルスに感染した細胞を指す。OSは、Oct4及びSox2の2つのウイルス又はOct4及びSox2の2つのウイルスに感染した細胞を指す。
【0053】
(実施例1)
B3.0のリプログラミング効率と他の培養方式のリプログラミング効率との比較と、成分濃度の最適化:
SKOウイルスを1:1:1で混合(各種0.5ml)した後、線維芽細胞(1孔に計2万個の線維芽細胞を有し、全部で12孔)に感染させ、37℃、5%のCO2の条件において、mES培養培地、mES+ビタミンC培養培地、KSR−BN培養培地及びBasal3.0培養培地中において培養した。次に、感染後10日目に蛍光顕微鏡により、リプログラミングクローン数を直接計算した。また、フローサイトメトリーにより、リプログラミング細胞の比率を分析した。図1aは、mES、mES+ビタミンC、KSR−BN及びBasal3.0の4種の培養条件において、感染後10日目の各2万個のOct4−GFP遺伝子導入マウス胎児線維芽細胞から誘導したリプログラミングクローン数を示すグラフである。図1a中、各実験反復回数n=3である。エラーバーは、標準偏差を示す。結果から、感染後10日目、Basal3.0培養条件において、1278個のリプログラミングクローンが発現した。KSR−BN培養条件においては、180個のリプログラミングクローンが発現した。mES+ビタミンC培養条件においては、113個のリプログラミングクローンが発現した。また、mES培養条件においては、リプログラミングクローンが略発現しなかった。図1bは、mES、mES+ビタミンC、KSR−BN及びBasal3.0の4種の培養条件において、感染後10日目に、フローサイトメトリーによって測定したOct4−GFP陽性細胞の比率を示すグラフである。実験反復回数n=3であり、エラーバーは、標準偏差を示す。結果は、感染後10日目、Basal3.0の培養システムにおいて、35.2%の細胞にリプログラミングが発生した。KSR−BN条件において、14.25%の細胞にリプログラミングが発生した。mES+ビタミンC条件において、3.9%の細胞にリプログラミングが発生した。この2種の実験の結果から、Basal3.0は、3つの因子(Oct4、Sox2、Klf4)のリプログラミングを誘導する非常に優れた培養システムであることが示された。
【0054】
Basal3.0中の物質がリプログラミングに与える影響と、最適な作業濃度範囲を確定させるために、iPS効率実験において、Basal3.0中の各物質を様々な濃度で使用した。測定物質がリプログラミングに与える影響を正確に判断するために、リプログラミングクローン数又はリプログラミング細胞比率の2種の評価指標を採用した。図2a〜図2iは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示す。図2aは、塩化リチウムの濃度範囲が0〜10mmol/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図2bは、図2aと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。図2cは、ビタミンB12の濃度範囲が0〜2.8μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図2dは、図2cと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。図2eは、塩基性線維芽細胞成長因子の濃度範囲が0〜7ng/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図2fは、図2eと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。図2gは、ビタミンCの濃度範囲が0〜100μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図2hは、図2gと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。図2iは、インスリンの濃度範囲が0〜50μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。以上の実験中、実験反復回数n=3である。誤差船は、標準偏差を示す。上述の物質は、実験過程においてリプログラミングへの影響が顕著であるため、Basal3.0中のリプログラミングに影響を与えるコア物質である。好適な作業濃度は、塩化リチウムが5mmol/ml、ビタミンB12が1.4μg/ml、塩基性線維芽細胞成長因子が5ng/ml、ビタミンCが50μg/ml、インスリンが50μg/mlである(これに限定されない)。
【0055】
図3a〜図3hは、抗酸化剤の用量反応実験の結果を示す。図3aは、ビタミンEの濃度範囲が0〜16μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図3bは、図3aと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。図3cは、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の濃度範囲が0〜10μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図3dは、図3cと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。図3eは、還元型グルタチオンの濃度範囲が0〜6μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図3fは、図3cと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。図3gは、チアミンの濃度範囲が0〜36μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図3hは、図3gと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。以上の実験中、実験反復回数n=3である。エラーバーは、標準偏差を示す。以上の物質の好適な作業濃度は、ビタミンEが1μg/ml、スーパーオキシドジスムターゼが2.5μg/ml、還元型グルタチオンが1.5μg/ml、チアミンが9μ/mlである。
【0056】
図4a〜図4hは、成長支持物質の用量反応を示す。図4aは、ビタミンAの濃度範囲が0〜16μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図4bは、図4aと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。 図4cは、エタノールアミンの濃度範囲が0〜16μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図4dは、図4cと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。図4eは、リノール酸の濃度範囲が0〜4μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図4fは、図4eと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。図4gは、リポ酸の濃度範囲が0〜3.2μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図4hは、図4gと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。以上の実験中、実験反復回数n=3である。エラーバーは、標準偏差を示す。以上の物質の好適な作業濃度は、ビタミンAが0.1μg/ml、エタノールアミンが1μg/ml、リノール酸が1μg/ml、リポ酸が0.2μg/mlである。
【0057】
(実施例2)Basal3.0の改良:
Basal3.0の濃度測定過程中、塩化リチウムのリプログラミングに対する顕著な影響から、グリコーゲン合成酵素キナーゼの阻害がリプログラミングを促進した原因であることが予測された。従って、CHIR99021、BIO、SB31xxxxなどの一系列のグリコーゲン合成酵素キナーゼ阻害剤を上述のiPS測定実験(リプログラミングクローン数及びリプログラミング細胞の比率の2種の指標がリプログラミング効率を評価する基準とする)を行うときの候補物質とした。結果、GSK3−β阻害剤CHIR99021がBasal3.0のリプログラミング効率を顕著に高めたため、改良されたBasal3.0には、グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3(GSK3−β)阻害剤CHIR99021を添加した。即ち、CH99021(これに限定されない)が添加された培養培地をiCD1と命名する。
【0058】
上述のiPS効率測定実験により、iCD1のリプログラミング効率と従来の好適な培養方式のリプログラミング効率とを比較した。従来の好適な培養方式は、mES+ビタミンC、mES→KSR(即ち、感染後4日目に、従来のES細胞培養培地(mES)から、商品化された無血清培養培地(KSR)に変換したもの)及びKSR−BNを含む。図5aは、本発明の化学成分が明確な培養培地iCD1のリプログラミング効率と、従来のリプログラミング培養培地のリプログラミング効率と、の比較を示すグラフである。上述の数種の培養方式において、感染後8日目の各2万個の胎児線維芽細胞から誘導されたリプログラミングクローン数を計算した。図中、各実験反復回数n=2であり、エラーバーは、標準偏差を示す。結果は、iCD1培養条件においては、1467.3個のリプログラミングクローンが発現した。mES+ビタミンCにおいては、32.3個のリプログラミングクローンが発現した。mES→KSRにおいては、20.7個のリプログラミングクローンが発現した。KSR−BNにおいては、68.3個のリプログラミングクローンが発現した。図5bは、図5aに示す数種の培養培地の感染後8日目のリプログラミングクローンを示す写真である。スケールバーは、2mmである。結果から、iCD1培養システムは、他の培養システムより優れることが示された。
【0059】
数種の培養条件における効率の差異をさらに客観的に比較するために、特許文献又は報道に基づき、KSR−BN、mES+ビタミンC及びmES→KSRの3種の条件の誘導によるリプログラミング効率の実験を反復して行い、様々な日数のリプログラミング効率の統計を行った。図5cは、KSR−BN培養培地は、リプログラミング効率が高まることを示すグラフである。Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞(MEFs)
にSox2/Klf4/Oct4(SKO)ウイルスを感染させた後、mES培養培地及びKSR−BN培養培地において培養した。異なる時間点において、フローサイトメトリーによって2種の培養システムにおけるリプログラミング細胞の比率を検出した。実験反復回数n=2であり、エラーバーは、標準偏差を示す。図5dは、mES+ビタミンC培養培地は、リプログラミング効率が高まることを示すグラフである。Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞(MEF)にSKOウイルスを感染させた後、mES培養培地及びmES+ビタミンC培養培地において培養した。異なる時間点において、フローサイトメトリーによって2種の培養システムにおけるリプログラミング細胞の比率を検出した。実験反復回数n=2であり、エラーバーは、標準偏差を示す。図5eは、mES→KSR培養培地は、リプログラミング効率が高まることを示すグラフである。Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞(MEF)にSKOウイルスを感染させた後、mES培養培地及びmES→KSR培養培地において培養した。mES→KSR培養方式は、感染後、前半の4日は、mES培養方式において培養し、4日目からKSR培養培地に変換する培養方式である。異なる時間点において、フローサイトメトリーによって2種の培養システムにおけるリプログラミング細胞の比率を検出した。実験反復回数n=2であり、エラーバーは、標準偏差を示す。実験の結果は、何れも特許文献又は報道と符合した。結果から、iCD1と他の数種の培養方式との比較結果は、事実であることが示された。
【0060】
(実施例3)iCD1の各成分がリプログラミングに与える影響:
iCD1中の主要成分がリプログラミング効率に与える影響を評価するために、ビタミンC、塩基性線維芽細胞成長因子、CHIR99021、塩化リチウム、ビタミンB12及びチアミンの中から各1つ又は全てiCD1中から除去してiPS効率測定実験を実施した。iCD1培養培地を全参照とし、mES培養培地を基本参照とした。感染後、8日目のリプログラミングクローン数を図33に示す。図6aは、本発明の培養培地添加物中の6種の成分(塩基性線維芽細胞成長因子、ビタミンC、CHIR99021、塩化リチウム、ビタミンB12及びチアミン)がリプログラミング効率及び成長に与える影響を示すグラフである。Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にSKOを感染させた後、完全なiCD1培養培地、ある成分を含まないiCD1培養培地、コア成分を全て含まないiCD1培養培地及び従来のmES培養培地において培養した。各細胞培地における、感染後8日目の各2万個の細胞から誘導されたリプログラミングクローン数を計算した。図中、各実験反復回数n=3であり、エラーバーは、標準偏差を示す。図6bは、図6aと同一の実験におけるリプログラミングの様子を示す写真であり、スケールバーは、2mmである。図6aに示すリプログラミングクローン数と図6bに示す写真から、ビタミンC、塩基性線維芽細胞成長因子、CHIR99021、塩化リチウム、ビタミンB12及びチアミンは、何れも、リプログラミング効率に一定の影響を与えることが示された。特に、ビタミンC、塩基性線維芽細胞成長因子及びCHIR99021は、リプログラミングに与える影響が明確である。塩基性線維芽細胞成長因子、ビタミンC、CHIR99021、塩化リチウム、ビタミンB12及びチアミンの6種の成分を添加しない場合、リプログラミングクローンは、略発現しなかった。
【0061】
上述の6種の物質がリプログラミングに与える影響が細胞成長依存性であるか、細胞成長非依存性であるか否かを確定させるために、リプログラミング因子SKOに感染後の胎児線維芽細胞をiCD1と、ビタミンC除去iCD1と、塩基性線維芽細胞成長因子除去iCD1と、CHIR99021除去iCD1と、塩化リチウム除去iCD1と、ビタミンB12除去iCD1と、チアミン除去iCD1と、塩基性線維芽細胞成長因子、ビタミンC、CHIR99021、塩化リチウム、ビタミンB12及びチアミン除去iCD1と、mESと、の9種の培養条件における成長曲線を記した。2万個の初期Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にSKOウイルスを感染させた後、上述の9種の培養培地中において培養した。感染液交換当日(D0)、感染後3日目及び6日目に細胞を消化し、各孔の細胞数を計算した。各実験反復回数n=3であり、エラーバーは、標準偏差を示す。図6cの結果から、塩基性線維芽細胞成長因子(bGFG)及びCHIR99021は、細胞成長にそれぞれ異なる程度の影響を与え、ビタミンCは、細胞成長に明らかな影響を与えないことが示された。
【0062】
塩基性線維芽細胞成長因子がリプログラミングに影響を与える最適濃度を確定させるために、様々な添加量の塩基性線維芽細胞成長因子をiCD1中に添加し、リプログラミングへの作用を検出した。図7aは、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)の用量反応を示すグラフである。1万個のOct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にSKOウイルスを感染させた後、0〜10ng/mlの様々な添加量のbFGFを添加したiCD1培養培地中において培養し、感染後10日目にリプログラミングクローン数を計算した。実験反復回数n=3であり、エラーバーは、標準偏差を示す。結果から、終濃度が5ng/ml以上の場合、塩基性線維芽細胞成長因子の濃度を上げてもリプログラミング効果が顕著に上がらないことが示された。図7bは、bFGFの作用時間効果の実験の結果を示すグラフである。1万個のOct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にSKOを感染させた後、iCD1培養培地で培養し、0〜10日の異なる時間にbFGFを添加し、感染後10日目に蛍光クローン数を計算した。実験反復回数n=6であり、エラーバーは、標準偏差である。図7bは、リプログラミング過程の異なる時間に塩基性線維芽細胞成長因子を添加する実験の結果を示し、結果から、iCD1培養条件において、塩基性線維芽細胞成長因子は、リプログラミング過程の0〜8日目まで作用し、それ以降は、リプログラミング効率を高める作用が軽微であることが示された。
【0063】
同様に、iCD1条件におけるビタミンC及びグリコーゲン合成酵素キナーゼ阻害剤CHIR99021の最適な作用濃度を確定させるために、様々な添加量のビタミンC及びグリコーゲン合成酵素キナーゼ阻害剤CHIR99021をiCD1中に添加し、最適濃度を確定させた。図7cは、ビタミンCの用量反応を示すグラフである。2万個のOct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にSKOウイルスを感染させた後、0〜100μg/mlの様々な添加量のビタミンCを添加したiCD1培養培地中において培養し、感染後10日目にリプログラミングクローン数を計算した。実験反復回数n=3であり、エラーバーは、標準偏差を示す。結果から、ビタミンC又はリン酸化ビタミンC(ビタミンCの安定形)の濃度が25μg/mlを超えた場合、ビタミンCの濃度をさらに上げても、リプログラミング効率が顕著に上がらないことが示された。図7dは、CHIR99021の用量反応を示すグラフである。1万個のOct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にSKOウイルスを感染させた後、0〜12mmol/mlの様々な添加量のCHIR99021を添加したiCD1培養培地中において培養し、感染後10日目にリプログラミングクローン数を計算した。実験反復回数n=3であり、エラーバーは、標準偏差を示す。結果から、グリコーゲン合成酵素キナーゼ阻害剤CHIR99021の最適濃度は、約3mmol/mlであることが示された。また、高添加量のグリコーゲン合成酵素キナーゼ阻害剤は、リプログラミング効率を抑制する作用があることが示された。以上の実験の結果を本発明の関連物質の作業濃度の参考とした。
【0064】
他のレセプターチロシンキナーゼファミリー成長因子がリプログラミングに影響を与えることを証明するために、上皮成長因子もリプログラミング効率測定実験に用いた。Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞をSKO感染させた後、レセプターチロシンキナーゼを添加しないiCD1培養培地と、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を添加したiCD1培養培地と、上皮成長因子(EGF)を添加したiCD1培養培地と、において培養した。図7eは、レセプターチロシンキナーゼがリプログラミングに与える効果を示すグラフであり、感染後10日目のリプログラミングクローン数の計算結果を示す。結果から、塩基性線維芽細胞成長因子のほか、他のレセプターチロシンキナーゼもリプログラミングを促進することが示された。
【0065】
(実施例4)A83−01、バルプロ酸及びウシ胎児血清がOKSによって誘導されるリプログラミング効率をさらに高めることができないことを証明する:
iCD1のリプログラミング効率をさらに高めるために、リプログラミング効率を高める物質であるとすでに報道されているALK5阻害剤A83−01と、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤バルプロ酸(VPA)と、従来のマウスES細胞の培養に使用されるウシ胎児血清と、をiCD1に添加してリプログラミング効率測定を行った。図8aは、マウス線維芽細胞にSKOウイルスを感染させた後、化学成分が明確な培養培地であるiCD1と、A83−01(0.5μM)が添加されたiCD1と、バルプロ酸(1mM)が添加されたiCD1と、2%のウシ胎児血清が添加されたiCD1と、において培養し、感染後10日目にリプログラミングクローン数を計算した結果を示すグラフである。結果から、ALK5阻害剤A83−01及びヒストン脱アセチル化酵素阻害剤バルプロ酸(VPA)は、何れもiCD1のリプログラミング効率をさらに高めることができないことが示された。また、ウシ胎児血清は、iCD1のリプログラミング効率に一定の抑制効果があることが示された。図8bは、図8aの実験における典型的なリプログラミングクローンを示す写真であり、スケールバーは、2mmである。実験の結果から、iCD1は、リプログラミングを誘導する非常に優れた培養システムであることが示された。
【0066】
(実施例5)初期播種密度がリプログラミング効率に与える影響:
初期播種密度がリプログラミング効率に与える影響を探求するために、Oct4−GFP遺伝子導入マウス胎児線維芽細胞をSKOウイルスに2回感染させた後、トリプシンを用いて消化し、様々な細胞密度で96孔プレート内に播種した。具体的には、5個/cm2、10個/cm2、50個/cm2、100個/cm2、200個/cm2、500個/cm2、1000個/cm2、2000個/cm2、5000個/cm2及び10000個/cm2である。iCD1を用いて8日培養した後、各播種密度におけるリプログラミング効率を計算した。リプログラミング効率の計算方式は、8日目のリプログラミングクローン数と初期細胞播種数との比較によって行った。実験反復数n=6であり、エラーバーは、標準偏差を示す。図9は、初期播種密度がリプログラミング効率に影響を与えることを証明する実験の結果を示すグラフである。結果から、初期細胞播種密度が2000個/cm2〜5000個/cm2の場合、リプログラミング効率が高いことが示された。
【0067】
(実施例6)iCD1培養条件においては、内因性多能性分子標識の発現が迅速に起動され、外因性因子が迅速に沈黙する:
分子レベルでiCD1培養システムが他の培養システムより優れることを証明するために、幹細胞特異に発現される多能性分子標識Nanogと、内因性Oct4と、の相対発現量により、細胞全体のリプログラミング進行速度を評価した。具体的な実施方法は、Oct4−GFP遺伝子導入マウス胎児線維芽細胞にSKOウイルスを2回感染させた後、mES培養培地、KSR−BN培養培地及びiCD1培養培地において培養した。感染液を交換した当日を0日とし、mES培養培地、KSR−BN培養培地及びiCD1培養培地の2日目、4日目、6日目及び8日目における培養物サンプルを収集し、各サンプルのリボヌクレオチドを抽出し、リアルタイムPCRにより、Nanog及び内因性Oct4の発現量を検出した。実験の結果は、図10aに示すように、iCD1培養条件におけるNanog及び内因性Oct4の起動は、mES及びKSB−BNより明らかに速かった。本実験の各実験反復数n=3であり、エラーバーは、標準偏差を示す。
【0068】
図10bは、タンパク質レベルでの多能性分子標識の発現結果を示す写真である。Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にSKOウイルスを感染させた後、iCD1中で8日連続培養し、細胞培養プレート上に直接固定し、免疫蛍光法による実験を行った。結果から、8日目の原プレートに発現したリプログラミングクローンには、多能性分子標識Cdh1、SSEA−1及びNanogが何れも発現した。図10bに示すスケールバーは、100μmである。図10cは、mES培養条件及びiCD1培養条件において、4日目及び8日目の培養物から総タンパク質を抽出し、イムノブロット法により、抗体を用いてNanogの発現プロファイルを検出した結果を示す。実験の結果から、感染後8日目のiCD1培養条件において、Nanaogが顕著に発現し、参照mES条件においては、Nanogは、発現しなかった。この結果から、iCD1培養条件におけるリプログラミング過程は、顕著に加速されることが証明された。
【0069】
外因性転写因子の沈黙は、リプログラミングの後期において非常に重要であり、完全なリプログラミングを判断する指標でもある。外因性転写因子の沈黙をさらに直観的に追跡するために、赤色蛍光タンパク質DsRedを採用し、外因性転写因子の沈黙のシュミレーションに用いた。具体的な実施方法は、赤色蛍光タンパク質DsRed及びSKOウイルスをOct4−GFP遺伝子導入マウス胎児線維芽細胞に感染させ、iCD1培養培地において培養し、蛍光顕微鏡を用いて細胞の緑光(内因性多能性分子標識Oct4の発現を示す)及び赤色光(外因性ウイルスの発現プロファイルを示す)の発現プロファイルを追跡観察した。図11は、iCD1培養システムにおけるリプログラミングの追跡を示す写真である。図11に示すように、感染後3日目、一部細胞から緑色蛍光細胞が発現し始めたが、同時に赤色光も発現し始めた。これは、内因性Oct4遺伝子がすでに起動し始めたが、外因性遺伝子は、まだ沈黙していないことを示す。感染後6日目、緑色蛍光が顕著に強くなり、赤色蛍光が弱くなり始めた。これは、内因性Octの発現が顕著に高くなり、外因性ウイルスが沈黙し始めたことを示し、細胞が完全なリプログラミングの後期段階に入り始めたことを示す。感染後8日目、多くのクローンは、リプログラミングのみを発現し、赤色蛍光を発現しなくなり、リプログラミング過程がすでに基本的に完了したことを示す。
【0070】
上述の緑色蛍光陽性赤色蛍光陰性の細胞集団が緑色赤色陽性の細胞集団及び緑色蛍光陰性赤色蛍光陽性の細胞集団よりリプログラミング程度が高いことをさらに証明するために、分別式フローサイトメーターにより、iCD1培養条件における8日目の培養物中の上述の3種の細胞集団を分別した。図12aは、フローサイトメトリーにより、2種の培養条件におけるリプログラミング細胞(GFP)と赤色蛍光細胞(DsRed)との比率を示すグラフである。図12aから分かるように、iCD1培養条件において、リプログラミングに入った細胞集団(緑色蛍光細胞集団)は、54.3%であった。その中で、リプログラミング陽性赤色蛍光陰性の細胞集団は、34.8%であった。mES培養システムにおいては、0.3%の細胞のみにリプログラミング陽性が示され、緑色蛍光陽性赤色蛍光陰性の細胞は、検出されなかった。分別した3種の細胞集団からリボヌクレオチドを抽出し、リアルタイム定量PCRにより、3種の細胞集団中の多能性分子標識である内因性Oct4、Nanog、Dppa3、Rex1の発現と、外因性Oct4の沈黙状態と、を検出した。mES及びiCD1の8日目の未分別培養物を全参照とした。図12b(感染後8日目のリプログラミング効率及び関連分子標識を示し、リアルタイム定量PCRにより測定した、SKOウイルスに感染後、8日培養したmESと、8日培養したiCD1と、8日培養したiCD1から分別した細胞集団と、における多能性分子標識の発現プロファイルを示すグラフ)から、3種の細胞集団中、緑色蛍光陽性赤色蛍光陰性の細胞集団の幹細胞特異の分子標識の発現レベルは、他の細胞集団よりも高く、外因子ウイルスの沈黙も完全であった。緑色蛍光赤色蛍光陽性の細胞集団の幹細胞特異の多能性分子の発現レベルは中間状態であり、外因子Oct4も未だ完全に沈黙していなかった。赤色蛍光陽性緑色蛍光陰性の細胞集団の幹細胞特異の多能性分子標識の発現量は極めて低く、外因性Oct4の発現量が極めて高かった。この実験の結果から、外因性の沈黙は、完全なリプログラミングの重要な条件であることが証明された。また、iCD1培養条件がリプログラミング過程を加速させることも証明された。
【0071】
(実施例7)iCD1培養条件において、8日目にマウス胎児線維芽細胞を完全にリプログラミングする実験:
キメラマウスを形成できるか否かは、マウスES細胞の重要な基準である。取得したリプログラミングクローンがES細胞と差異がないことをさらに厳格に検証するために、様々な方法で選出したリプログラミング細胞からキメラマウスを作製した。具体的な方法は、図13aに示す。3つの因子(Sox、Klf及びOct4)とDsRedとを混合し、Oct4−GFP遺伝子導入マウス胎児線維芽細胞に感染させる。感染後、iCD1培養培地中において培養する。感染後の8日目、11日目及び14日目に、機械又は手動で細胞を選出し、キメラマウスを作製する。機械選出の場合、原孔細胞を消化して遠心脱水した後、フローサイトメトリー法により、GFP陽性を分別し、DsRed陰性の細胞からキメラマウスを作製する。手動選出の場合、蛍光顕微鏡の下、壁からランダムにクローンを剥離し、クローンを培養培地中に浮遊させる。所定量剥離した後、クローン集団を含む培養培地を15ml遠心脱水管中に収集し、遠心脱水してクローン集団を収集する。PBSで洗浄後、上澄みを遠心脱水し、200ulの0.25%のトリプシンを加える。37℃で3〜5分培養する。血清を終了した後、遠心脱水し、mES培養培地で再び浮遊させる。その後、従来のキメラマウスの作製方法により、キメラマウスを作製する。図13bは、様々な誘導日数において、図13aに示す実験を行った結果を示す図である。図13cは、8日目に取得したiPS細胞を胞胚に注射することによって作製されたキメラマウスを示す写真である。結果から、iCD1条件においては、8日目にリプログラミングが完了することが有力に証明された。
【0072】
(実施例8)本発明の培養培地の因子が少ないことがリプログラミングに与える影響:
iCD1培養条件において、SKOの3つの転写因子が極めて高いリプログラミング効率を有するということは、転写因子がさらに少ない場合でも体細胞をリプログラミングできる可能性があることを示す。この仮定に基づき、様々なウイルスの組合せ(OK/OS/SK)をマウス線維芽細胞に感染させた。具体的な方法は、Oct4とKlf4とを1:1で混合(各0.5ml)し、細胞(各孔に2万個の細胞を有し、全部で12孔のプレート)に感染させた。また、Oct4とSox2とを1:1で混合(各0.5ml)し、細胞(各孔に3万個の細胞を有し、全部で12孔のプレート)に感染させた。また、KlfとSox2とを1:1で混合(各0.5ml)し、細胞(各孔に3万個の細胞を有し、全部で12孔のプレート)に感染させた。上述の3種の感染した細胞をiCD1培養培地又は従来のmES培養培地中において培養し、連続培養観察を行った。図14aは、iCD1培養条件において、OK及びOSを用いて体細胞をリプログラミングした初代クローン写真及び経過写真である。Oct4及びKlf4に感染したMEF中、iCD1培養システムにおいて培養した孔には、12〜15日内に、各孔に1〜6個の蛍光クローンが出現した。Oct4及びSox2に感染した培養培地においては、18〜25日内に、各孔に1〜3個の蛍光クローンが出現した。また、従来のmES培養条件においては、如何なるクローンも出現しなかった。また、Klf4及びSox2に感染した孔中、iCD1培養条件であっても、mES培養条件であっても、25日内に、リプログラミングクローンが全く出現しなかった。図14bは、OK及びOSを用いたリプログラミングによって取得したiPSクローンに、幹細胞特異の分子標識が出現したことを示す写真である。選出したOK及びOSクローンをフィーダー層細胞上で継代培養し、免疫蛍光法による検出の結果、選出したクローンが何れもNanog、Rex1などの多能性分子標識を出現していることを発見した。図14cは、Oct4/Klf4及びOct4/Sox2を用いたリプログラミング実験の結果を示し、図中、各実験において、リプログラミングクローンを計算した時間及び計算結果を示す。3回の試験結果から、試験は、好適な再現性を有することが示された。図14dは、OK及びOSクローンを注射したヌードマウスに発生した奇形腫の切断面を示す写真である。組織切断面中の明らかな3つの胚葉の組織から、OK及びOSクローンは、3つの胚葉細胞に分化する能力を有することが示された。
【0073】
(実施例9)iCD1培養条件において、Oct4は、マウス胎児線維芽細胞をリプログラミングすることができる:
iCD1中において、OK及びOSの何れもがリプログラミングクローンを作製することができる事実により、Oct4がリプログラミング過程中において、大きく作用していることが示された。そこで、Oct4単独がiCD1中において、リプログラミングクローンを作製することができるか否かは、確認する価値がある。そこで、3万個のOct4−GFP遺伝子導入マウス胎児線維芽細胞にOct4ウイルスを2回感染させた後、iCD1中で培養した。略30日連続培養した後、蛍光クローンは、出現しなかった。そこで、培養物をトリプシンで消化し、フィーダー層細胞上で継代培養し、iCD1において継続培養した。継代培養後の5日目に、緑色リプログラミングクローンが出現したのを発見した(図15a参照)。これらのOct4リプログラミングクローンを選出して継代培養し、免疫蛍光法により、抗体を用いて多能性分子標識の発現を検出した。これらのクローンには、何れもNanog、SSEA−1及びRex1などの多能性分子標識が発現したことが発見された(図15b参照)。リアルタイム定量PCRにより、Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞に関連する内因性多能性分子標識Oct4、Nanog、Dppa3、Rex1及びDnmt31の発現レベルが検出された。図15cの結果からも、これらのクローンの内因性Oct4、Nanog、rex1、Dppa3及びDnmt31を発現するレベルが標準的なES細胞R1と類似することが示された。図15dは、リアルタイム定量RCR法により、外因子遺伝子の発現プロファイルを分析した結果を示すグラフである。SKO感染後4日目のOct4−GFPマウス胎児線維芽細胞を陽性参照とする。結果から、選出されたこれらのリプログラミングクローンは、外因性転写因子が全てすでに沈黙していることが示された。挿入鑑定分析の結果(図15e)から、選出したクローンは、ウイルス汚染によるものではないことが示された。図15fは、Oct4リプログラミングクローン細胞を胞胚に注射することによって作製されたキメラマウスを示す写真である。作製されたキメラオスマウスと白色系統マウスとからは、全黒マウスが作製された(図15g参照)。この結果から、Oct4リプログラミングクローンは、生殖系キメラであることが証明された。上述の結果から、Oct4リプログラミング細胞は、ES細胞と類似することが証明された。従って、iCD1培養条件において、Oct4は、マウス胎児線維芽細胞を完全にリプログラミングできることが証明された。
【0074】
(実施例10)iCD1培養培地をOct4−VP16リプログラミングで応用:
Oct4−VP16は、Oct4遺伝子の後部にVP16配列が連結されたものである。Oct4−VP16の共発現により、Oct4の転写機能が強化される。実験により、Oct4−VP16、Sox2及びKlf4が体細胞をリプログラミングする能力は、Oct4、Sox2及びKlf4よりも高いことが証明された。Oct4−VP16が参与するリプログラミング過程中、iCD1が他の培養条件より優れることを証明するために、Oct4−VP16、Sox2及びKlf4を2万個のOct4−GFPマウス胎児線維芽細胞に感染させた後、mES、mES+ビタミンC及びiCD1培養システムにおいて培養し、感染後10日に、リプログラミングクローン数を計算した。各実験反復回数n=3であり、エラーバーは、標準偏差を示す。図16aに示す結果から、iCD1培養条件において、10日目に2500個のリプログラミングクローンが発現したことが発見された。また、mES+ビタミンCの孔中には、650個のリプログラミングクローンが発現した。mES条件においては、極めて少数のクローンしか発現しなかった。図16bは、3種の培養条件における蛍光クローンを示す写真である。同様に、iCD1条件において、Oct4−VP16及びSox2と、Oct4−VP16及びKlf4と、のリプログラミング能力を検出した。具体的な方法は、3万個のマウス胎児線維芽細胞にOct4−VP16及びSox2と、Oct4−VP16及びKlf4と、を感染させた後、iCD1条件において培養し、様々な日数におけるリプログラミングクローン数を計算した。各実験反復回数n=3であり、エラーバーは、標準偏差を示す。図17aに示す結果から、iCD1培養条件において、Oct4−VP16及びSox2と、Oct4−VP16及びKlf4とは、何れもマウス胎児線維芽細胞をリプログラミングすることができることが示された。感染後15日目のOct4−VP16及びSox2のリプログラミング効率は、約1%であり、Oct4−VP16及びKlf4のリプログラミング効率は、約0.15%であった。図17bは、Oct4−VP16/Klf4及びOct4−VP16/Sox2によって誘導されたiPSクローンを示す写真である。免疫蛍光法により、抗体を用いて多能性分子標識の発現を検出した結果、Nanog、Oct4、Rex1、SSEA−1などの多能性分子標識が何れも発現されたことが発見された(図17c参照)。図17cは、Oct4−VP16/Klf4によって誘導されたiPS細胞が発現した典型的な多能性分子標識と、Oct4−VP16/Sox2によって誘導されたiPS細胞が発現した典型的な多能性分子標識と、を示す写真である。
【0075】
Oct4は、iCD1条件において、成体幹細胞にリプログラミングすることが可能であるが、効率が極めて低い。また、継代培養が必要である。Oct4−VP16単一因子がリプログラミング効率を高めることができるか否かは、その特性と大きく関連性がある。これを検出するために、Oct4−VP16ウイルスを3万個のOct4−GFP遺伝子導入マウス胎児線維芽細胞に感染させ、mES、mES+ビタミンC及びiCD1培養培地中において培養した。結果から、感染後約10日目に、iCD1培養培地で培養する孔中から緑色リプログラミングクローンが出現したのが発見された(図18a参照)。しかし、mES及びmES+ビタミンCの孔にはなかった。感染後17日目、iCD1培養の孔内には、各孔に約10個のリプログラミングクローンが出現した。しかし、mES及びmES+ビタミンCの孔には、リプログラミングクローンがなかった。計算結果は、図18bに示す。選出したクローンを継代培養し、免疫蛍光法により、抗体を用いて多能性分子標識の発現を検出した。結果は、図18cに示すように、Oct4−VP16によって誘導されたクローンには、多能性分子標識が発現した。これらの選出したリプログラミングクローンには、何れもNanog、SSEA−1などの多能性分子標識が発現した。選出したクローンを胞胚内に注射し、代理妊娠用のマウス子宮に移植した結果、キメラマウスを作製することに成功した(図18d参照)。この結果から、Oct4−VP16を用いてiCD1から取得されたリプログラミング細胞は、ES細胞と類似する多能性を有することが証明された。
【0076】
以上の実験により、Oct4−VP16を用いてリプログラミングを行う条件において、iCD1培養培地は、他の培養培地よりも明らかに優れることが証明された。
【0077】
(実施例11)mES条件におけるiCD1のコア成分の応用:
iCD1中のコア成分の血清中における作用を測定するために、iCD1中のコア成分(ビタミンC、塩化リチウム、塩基性線維芽細胞成長因子、インスリン及びグリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤CHIR99021)をmES中に添加した。この培養培地をSmES(Super−mES)と命名した。SKO及び普通のOct4のSmES中におけるリプログラミング効果を検出した。mES培養培地及びmES+ビタミンC培養培地を参照とした。結果は、図19aに示すように、SKO感染後8日目、SmES培養の孔内から約400個のクローンが発現した。また、mES+ビタミンCの孔内から約20個のリプログラミングクローンが発現した。図19bは、SmES培養条件において、8日目の原孔内の蛍光クローンを示す写真である。同様に、Oct4単一因子がSmES培養培地のリプログラミング効果に与える影響も測定した(SmES培養システムの下において、Oct4は、体細胞をリプログラミングすることが可能である。Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にOct4ウイルスを感染させた後、mES培養培地、mES+ビタミンC培養培地及びiCD1培養培地において培養し、様々な日数で蛍光クローン数を観察した)。図19cに示す3回の独立実験の結果から、SmES条件において、Oct4は、マウス胎児線維芽細胞をリプログラミングすることが示された。図19dは、初代クローン及び継代クローンの写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養培地に関し、特に、iPS細胞又は哺乳動物細胞の培養に用いることができる培養培地添加物に関する。
【背景技術】
【0002】
2008年、日本の科学者である山中らのグループが4つの転写因子(Oct4、Klf4、Sox2、c−Myc)を用い、マウス線維芽細胞をES細胞にリプログラミングすることに成功した。この技術は、iPS細胞技術と称する。その後、ヒト及び他の動物(大ねずみ、サル、ブタなど)の線維芽細胞もリプログラミングに成功した。この技術は、再生医療において、最も大きな躍進である。現在、マウスのリプログラミング過程において採用されている略全ての培養システムは、血清を含む。
【0003】
血清を含む培養システムは、以下(1)〜(3)に示す欠点を有する。
【0004】
(1)プログラミング過程が緩慢である:血清中には、例えば、トランスフォーミング成長因子−β(TGF−β)ファミリーなど、リプログラミングを抑制する物質が含まれることが証明されている。また、血清中の他の不明物質がプログラミング過程を緩慢にする可能性が極めて高い。これらの証明済み又は未証明の物質により、リプログラミング効率が低下する。
【0005】
(2)ロットによって血清成分が異なる:血清の作製過程によって各ロットの血清の成分が異なり、実験の再現性が低下する。
【0006】
(3)血清成分が不明なことがリプログラミングのメカニズムの研究及び薬剤のスクリーニングの障害となる:血清成分は複雑であり、iPS過程に有利な酵素反応も不利な酵素反応も起動される可能性がある。これは、iPSメカニズムの研究に極めて大きな障害となると共に、薬剤のスクリーニングの感度も低下する。
【0007】
血清代替物(KOSR)無血清培養培地の発明は、細胞培養技術において、大きな進歩である。このシステムは、血清を一切含まないと共に、システム中の略全ての成分が明確であり、実験の再現性が大幅に高められた。このシステムは、分化因子を殆ど含まないため、幹細胞の自己再生の維持に優れる。また、このシステムに血清を混合したものは、血清を単独で使用したものより、リプログラミング効率が高い。
【0008】
しかし、このシステムの成分は、完全に明確であるわけではない。例えば、高脂質ウシ血清アルブミン(AlbuMAX(登録商標))中には、多種の不明脂質が含まれる。これらの成分がリプログラミングに与える影響は、未だに分かっていない。また、血清代替物(KOSR)は、リプログラミング前期の細胞成長をサポートすることができない。また、マウスiPS細胞への誘導過程において、血清を混合しても、リプログラミング効率は高くない。
【0009】
そこで、無血清であり、成分が完全に明確であり、高効率なリプログラミングシステムは、iPSメカニズム、薬剤スクリーニング及びiPSの臨床応用にとって非常に重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、無フィーダー細胞の条件においても幹細胞の成長及び増殖を維持することができ、iPS進行を加速し、iPSの作製効率を高めることができる成分が明確で高効率にiPS細胞を取得することができる培養システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するために、本発明の培養培地添加物は、ビタミンC及びグリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤を含む。
【0012】
本発明の培養培地添加物は、ビタミンC及びグリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤を含む以外に、さらに、ビタミンB12、インスリン、レセプターチロシンキナーゼ及び抗酸化剤を含む。
【0013】
ビタミンCは、アスコルビン酸と、アスコルビン酸ナトリウムなど、その誘導体と、を含む。ビタミンCの安定形は、2リン酸アスコルビン酸である。ビタミンCは、好ましくは、2リン酸アスコルビン酸である。ビタミンCの作業濃度は、0〜100μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、50μg/mlである。ビタミンB12の作業濃度は、0〜2.8μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、1.4μg/mlである。
【0014】
インスリンは、抽出及び人工的に組換え合成された各種起源の生物活性を有するインスリンである。インスリンは、好ましくは、人工的に組換えされたインスリン(SIGMA社)である。インスリンの作業濃度は、0〜50μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、20μg/mlである。
【0015】
グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤は、Li+、CHIR99021、BIO及びSB216763の中の少なくとも1つを含む。Li+は、好ましくは、LiClである。Li+の作業濃度は、0〜10μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、5mmol/mlである。グリコーゲン合成酵素キナーゼは、セリン/トレオニンホスホリラーゼキナーゼであり、多種の信号経路の調整に参与する。その阻害剤は、好ましくは、CHIR99021である。グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤の作業濃度は、0〜12μmol/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、3μmol/mlである。
【0016】
レセプターチロシンキナーゼは、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、上皮成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子(IGF)及び肝細胞成長因子(HGF)の中の少なくとも1つを含む。レセプターチロシンキナーゼは、好ましくは、塩基性線維芽細胞成長因子である。レセプターチロシンキナーゼの作業濃度は、0〜100ng/mlであり、好ましくは、5ng/mlである。
【0017】
抗酸化剤は、チアミン、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、還元型グルタチオン、ビタミンE、アセチル化ビタミンE、リノール酸、リノレン酸及び亜セレン酸ナトリウムの中の少なくとも1つを含む。チアミンの作業濃度は、0〜36μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、9μg/mlである。スーパーオキシドジスムターゼの作業濃度は、0〜10μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、2.5μg/mlである。還元型グルタチオンの作業濃度は、0〜6μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、1.5μg/mlである。ビタミンEの作業濃度は、0〜16μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、1μg/mlである。アセチル化ビタミンEの作業濃度は、0〜16μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、1μg/mlである。リノール酸の作業濃度は、0〜4μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、1μg/mlである。エタノールアミンの作業濃度は、0〜16μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、1μg/mlである。
【0018】
本発明の培養培地添加物は、上述の2種の培養培地添加物に血清代替細胞成長促進剤を混合したものでもよい。血清代替細胞成長促進剤は、アルブミン加水分解物、トランスフェリン、トリヨードチロニン、アドレナロン、リポ酸、エタノールアミン、プロゲステロン、プトレシン及びビタミンAの中の少なくとも1つを含む。
【0019】
アルブミン加水分解物は、アルブミンを加水分解したものであり、その組成成分は、アミノ酸及びポリペプチドであり、具体的な成分が明確である。アルブミン加水分解物の使用濃度は、0〜10mg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、1mg/mlである。
【0020】
トランスフェリンは、鉄イオンを含むトランスフェリン及び鉄イオンを含まないトランスフェリンを含み、好ましくは、鉄イオンを含むトランスフェリンである。トランスフェリンの使用濃度は、0〜200μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、100μg/mlである。
【0021】
リポ酸の作業濃度は、0〜3.2μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、0.2μg/mlである。
【0022】
ビタミンAの作業濃度は、0〜1.6μg/mlであり(これに限定されない)、好ましくは、0.1μg/mlである。
【0023】
本発明は、完全培養培地をさらに提供する。本発明の完全培養培地は、基礎培養培地、血清及び血清代替添加物中の少なくとも1つと、上述の数種の培養培地添加物と、からなる。或いは、基礎培養培地と、上述の数種の培養培地添加物と、からなる。また、表1に示す材料が基礎培養培地DMEM中に添加されることにより、化学成分が明確な完全培養培地iCD1が形成される。表1は、好ましい培養培地添加物の成分及び濃度を示す。
【0024】
本発明は、iPS細胞の完全培養培地をさらに提供する。本発明のiPS細胞の完全培養培地は、基礎培養培地、血清及び血清代替添加物中の少なくとも1つと、上述の2種の培養培地添加物と、から構成される。
【0025】
上述の基礎培養培地は、DMEM(Dulbecco‘s Modified Eagle’s Medium)、MEM(Minimal Essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、F−10、F−12、RPMI 1640、GMEM(Glasgow‘s Minimal Essential Medium)、αMEM(αMinimal Essential Medium)、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco‘s Medium)又はM199である(これに限定されない)。基礎培養培地は、好ましくは、DMEMである。
【0026】
血清代替添加物は、KOSR(Knock Out Serum Replacement)、N2、B27又はITS(Insulin−Transferrin−Selenium Supplement)である(これに限定されない)。
【0027】
表1に示す培養培地添加物が基礎培養培地DMEM中に添加されることにより、化学成分が明確な完全培養培地iCD1が形成される。表1は、好ましい培養培地添加物の成分及び濃度を示す。表2は、完全培養培地iCD1の好ましい成分及び濃度を示す。
【表1】
【0028】
【表2】
【発明の効果】
【0029】
本発明の培養システムは、無血清である上、成分が明確であり、体細胞からiPS細胞を高効率に取得する無血清培養システムに用いられ、無フィーダー細胞の条件において、線維芽細胞及び幹細胞の成長及び増殖を維持することができる。また、iPS進行を加速させ、iPSの作製効率を高めることができる。さらに、真核細胞の培養にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】aは、mES、mES+ビタミンC、KSR−BN及びBasal3.0の4種の培養条件において、SKO(Sox2、Klf4及びOct4)ウイルス感染後10日目の2万個の線維芽細胞から誘導したリプログラミングクローン数を示すグラフである。bは、mES、mES+ビタミンC、KSR−BN及びBasal3.0の4種の培養条件において、SKO(Sox2、Klf4及びOct4)ウイルス感染後10日目に測定したリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。
【図2】aは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示し、塩化リチウムの濃度範囲が0〜10mmol/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。bは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示し、塩化リチウムの濃度範囲が0〜10mmol/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミング細胞(緑色蛍光細胞)の比率を示すグラフである。cは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示し、ビタミンB12の濃度範囲が0〜2.8μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。dは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示し、ビタミンB12の濃度範囲が0〜2.8μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。eは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示し、塩基性線維芽細胞成長因子の濃度範囲が0〜7ng/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。fは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示し、塩基性線維芽細胞成長因子の濃度範囲が0〜7ng/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。gは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示し、ビタミンCの濃度範囲が0〜100μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。hは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示し、ビタミンCの濃度範囲が0〜100μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。iは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示し、インスリンの濃度範囲が0〜50μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。
【図3】aは、抗酸化剤の用量反応実験の結果を示し、ビタミンEの濃度範囲が0〜16μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。bは、抗酸化剤の用量反応実験の結果を示し、ビタミンEの濃度範囲が0〜16μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のフローサイトメトリーによって測定されたOct4−GFP陽性細胞の比率を示すグラフである。cは、抗酸化剤の用量反応実験の結果を示し、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の濃度範囲が0〜10μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。dは、抗酸化剤の用量反応実験の結果を示し、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の濃度範囲が0〜10μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のフローサイトメトリーによって測定されたOct4−GFP陽性細胞の比率を示すグラフである。eは、抗酸化剤の用量反応実験の結果を示し、還元型グルタチオンの濃度範囲が0〜6μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。fは、抗酸化剤の用量反応実験の結果を示し、還元型グルタチオンの濃度範囲が0〜6μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のフローサイトメトリーによって測定されたOct4−GFP陽性細胞の比率を示すグラフである。gは、抗酸化剤の用量反応実験の結果を示し、チアミンの濃度範囲が0〜36μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。hは、抗酸化剤の用量反応実験の結果を示し、チアミンの濃度範囲が0〜36μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のフローサイトメトリーによって測定されたOct4−GFP陽性細胞の比率を示すグラフである。
【図4】aは、成長支持物質の用量反応を示し、ビタミンAの濃度範囲が0〜16μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。bは、成長支持物質の用量反応を示し、ビタミンAの濃度範囲が0〜16μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のフローサイトメトリーによって測定されたOct4−GFP陽性細胞の比率を示すグラフである。cは、成長支持物質の用量反応を示し、エタノールアミンの濃度範囲が0〜16μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。dは、成長支持物質の用量反応を示し、エタノールアミンの濃度範囲が0〜16μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のフローサイトメトリーによって測定されたOct4−GFP陽性細胞の比率を示すグラフである。eは、成長支持物質の用量反応を示し、リノール酸の濃度範囲が0〜4μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。fは、成長支持物質の用量反応を示し、リノール酸の濃度範囲が0〜4μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のフローサイトメトリーによって測定されたOct4−GFP陽性細胞の比率を示すグラフである。gは、成長支持物質の用量反応を示し、リポ酸の濃度範囲が0〜3.2μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。hは、成長支持物質の用量反応を示し、リポ酸の濃度範囲が0〜3.2μg/mlの場合における、SKO感染後10日目のフローサイトメトリーによって測定されたOct4−GFP陽性細胞の比率を示すグラフである。
【図5】aは、本発明の化学成分が明確な培養培地iCD1(Basal3.0にグリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤CHIR99021を添加)と、従来のリプログラミング培養培地と、のリプログラミング効率の比較を示すグラフである。bは、本発明の化学成分が明確な培養培地iCD1と、従来のリプログラミング培養培地と、のリプログラミング効率の比較を示し、図5aに示す複数の培養培地の感染後8日目のリプログラミングクローンを示す写真である。cは、本発明の化学成分が明確な培養培地iCD1と、従来のリプログラミング培養培地と、のリプログラミング効率の比較を示し、KSR−BN培養方式は、リプログラミング効率を高めることを示すグラフである(成分は後述する)。dは、本発明の化学成分が明確な培養培地iCD1と、従来のリプログラミング培養培地と、のリプログラミング効率の比較を示し、mES+ビタミンC培養方式は、リプログラミング効率を高めることを示すグラフである。eは、本発明の化学成分が明確な培養培地iCD1と、従来のリプログラミング培養培地と、のリプログラミング効率の比較を示し、mES→KSR培養方式は、リプログラミング効率を高めることを示すグラフである(mES→KSR培養方式の具体的な過程は後述する)。
【図6】aは、本発明の培養培地添加物中の6種の成分(塩基性線維芽細胞成長因子、ビタミンC、CHIR99021、塩化リチウム、ビタミンB12及びチアミン)がリプログラミング効率に与える影響を示すグラフである。bは、本発明の培養培地添加物中の6種の成分(塩基性線維芽細胞成長因子、ビタミンC、CHIR99021、塩化リチウム、ビタミンB12及びチアミン)がリプログラミング効率及び成長に与える影響を示し、感染後8日目の各培養条件におけるリプログラミングの様子を示す写真である。cは、本発明の培養培地添加物中の6種の成分(塩基性線維芽細胞成長因子、ビタミンC、CHIR99021、塩化リチウム、ビタミンB12及びチアミン)がリプログラミング効率及び成長に与える影響を示し、各培養条件における成長曲線を示すグラフである。
【図7】aは、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)の用量反応を示すグラフである。bは、bFGFの作用時間実験の結果を示すグラフである。cは、ビタミンCの用量反応を示すグラフである。dは、CHIR99021の用量反応を示すグラフである。eは、レセプターチロシンキナーゼがリプログラミングに与える効果を示すグラフである。
【図8】aは、化学成分が明確な培養培地iCD1において、ALK5(腫瘍壊死因子TGF−βの受容体)阻害剤A83−01、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤バルプロ酸(valproic acid)及びウシ胎児血清がOKSが誘導するリプログラミング効率を高めることができないことを証明する実験の結果を示し、マウス線維芽細胞にSKOウイルスを感染させた後、化学成分が明確な培養培地iCD1と、A83−01(0.5μM)が添加されたiCD1と、バルプロ酸(1mM)が添加されたiCD1と、2%のウシ胎児血清が添加されたiCD1と、において培養し、感染後10日目のリプログラミングクローン数を示すグラフである。bは、図8aの実験における典型的なリプログラミングクローンを示す写真である。
【図9】初期播種密度がリプログラミング効率に影響を与えることを証明する実験の結果を示すグラフである。
【図10】aは、iCD1培養条件における内因性多能性分子標識の発現結果を示し、リアルタイムPCRによって検出された内因性多能性分子標識の発現量を示すグラフである。bは、iCD1培養条件における内因性多能性分子標識の発現結果を示し、細胞培養プレート上に直接固定し、免疫蛍光法によって行った実験の結果を示す写真である。cは、iCD1培養条件における内因性多能性分子標識の発現結果を示し、イムノブロット法により、発現プロファイルを検出した結果を示す写真である。
【図11】iCD1培養システムにおけるリプログラミングの追跡を示す写真である。
【図12】aは、感染後8日目のリプログラミング効率及び関連する分子標識の発現を示し、Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にSKOウイルス及び外因性赤色蛍光蛋白DsRedウイルスを感染させた後、mES培養培地及びiCD1培養培地中において培養し、感染後8日目の2種の培養条件におけるリプログラミング細胞(緑色蛍光細胞)と未リプログラミング細胞(赤色蛍光細胞)との比率を示す図である。bは、感染後8日目のリプログラミング効率及び関連分子標識を示し、リアルタイム定量PCRにより測定した、SKOウイルスに感染後、8日培養したmESと、8日培養したiCD1と、8日培養したiCD1から分別した細胞集団と、における多能性分子標識の発現プロファイルを示すグラフである。
【図13】aは、キメラマウスを作製する過程に関する結果を示し、胚注射によって検出されたiCD1培養培地中のOSKによって誘導されたiPSC細胞の多能性を示す流れ図である。bは、キメラマウスを作製する過程に関する結果を示し、様々な誘導日数において、図13aに示す実験を行った結果を示す図である。cは、キメラマウスを作製する過程に関する結果を示し、8日目に取得したiPSC細胞を胞胚に注射することによって作製されたキメラマウスを示す写真である。
【図14】aは、iCD1培養システムにおいて、OK及びOSを用いて体細胞をリプログラミングする実験の結果を示し、iCD1培養条件において、OK及びOSを用いて体細胞をリプログラミングした初代クローン写真及び経過写真である。bは、iCD1培養システムにおいて、OK及びOSを用いて体細胞をリプログラミングする実験の結果を示し、免疫蛍光法により検出した、幹細胞特異の分子標識の発現プロファイルを示す。cは、iCD1培養システムにおいて、OK及びOSを用いて体細胞をリプログラミングする実験の結果を示し、iCD1培養システムにおいて、OK及びOSを用いてリプログラミングを行う実験の実施状況及び効率を示す図である。dは、iCD1培養システムにおいて、OK及びOSを用いて体細胞をリプログラミングする実験の結果を示し、奇形腫の切断面を示す写真であり、OK及びOSを用いたリプログラミングによって形成されたiPS細胞は、ES細胞の特徴を有することを示す。
【図15】aは、iCD1条件において、Oct4を用いてマウス胎児線維芽細胞(MEF)をリプログラミングする実験の結果を示し、感染後33日目にOct4によって誘導された初代クローン及び形成された細胞株を示す写真である。bは、iCD1条件において、Oct4を用いてマウス胎児線維芽細胞(MEF)をリプログラミングする実験の結果を示し、Oct4 iPSクローンが発現した多能性分子標識を示す写真である。cは、iCD1条件において、Oct4を用いてマウス胎児線維芽細胞(MEF)をリプログラミングする実験の結果を示し、リアルタイム定量PCRにより、選出されたクローンが何れも幹細胞特異の多能性分子標識を発現したことを示すグラフである。dは、iCD1条件において、Oct4を用いてマウス胎児線維芽細胞(MEF)をリプログラミングする実験の結果を示し、リアルタイム定量RCR法により、外因子遺伝子の発現プロファイルを分析した結果を示すグラフである。eは、iCD1条件において、Oct4を用いてマウス胎児線維芽細胞(MEF)をリプログラミングする実験の結果を示し、挿入鑑定分析により、選出されたクローンがOct4因子のみにより誘導されたものであり、汚染ではないことが確定されたことを示す図である。fは、iCD1条件において、Oct4を用いてマウス胎児線維芽細胞(MEF)をリプログラミングする実験の結果を示し、Oct4 iPSC細胞を胞胚に注射することによって作製されたキメラマウスを示す写真である。gは、iCD1条件において、Oct4を用いてマウス胎児線維芽細胞(MEF)をリプログラミングする実験の結果を示し、作製されたキメラマウスが生殖細胞系モザイク性能力を有することを示す写真である。
【図16】aは、Oct4−VP16(VP16は、ウイルス由来の遺伝子配列であり、転写因子と接続されることにより、転写因子の活性が増強される)、Klf4及びSox2に感染した条件において、iCD1がリプログラミング効率を高めることができる実験を示し、Oct4−GFPマウス胎児繊維芽細胞にOct4−VP16SKを感染させた後、mES培養培地、mES+ビタミンC培養培地及びiCD1培養培地において培養し、感染後10日目に計算した蛍光クローン数を示すグラフである。bは、Oct4−VP16、Klf4及びSox2に感染した条件において、iCD1がリプログラミング効率を高めることができる実験を示し、図16aの実験中の状態を示す写真である。
【図17】aは、iCD1培養システムにおいて、Oct4−VP16/Klf4及びOct4−VP16/Sox2を用いて体細胞をリプログラミングする実験を示し、Oct4−GFPマウス胎児繊維芽細胞にOct4−VP16/Klf4及びOct4−VP16/Sox2を感染させた後、それぞれ、iCD1システムにおいて培養し、様々な日数において計算したリプログラミングクローン数を示すグラフである。bは、iCD1培養システムにおいて、Oct4−VP16/Klf4及びOct4−VP16/Sox2を用いて体細胞をリプログラミングする実験を示し、Oct4−VP16/Klf4及びOct4−VP16/Sox2によって誘導されたiPSクローンを示す写真である。cは、iCD1培養システムにおいて、Oct4−VP16/Klf4及びOct4−VP16/Sox2を用いて体細胞をリプログラミングする実験を示し、Oct4−VP16/Klf4及びOct4−VP16/Sox2によって誘導されたiPS細胞が発現した典型的な多能性分子標識を示す写真である。
【図18】aは、iCD1培養システムにおいて、Oct4−VP16を用いて体細胞をリプログラミングする実験を示し、Oct4−VP16によって誘導されたiPSクローンを示す写真である。bは、iCD1培養システムにおいて、Oct4−VP16を用いて体細胞をリプログラミングする実験を示し、Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にOct4−VP16を感染させた後、それぞれ、mES、mES+ビタミンC及びiCD1培養培地において培養し、様々な培養日数において計算したリプログラミングクローン数を示すグラフである。cは、iCD1培養システムにおいて、Oct4−VP16を用いて体細胞をリプログラミングする実験を示し、Oct4−VP16によって誘導されたクローンが発現した多能性分子標識を示す写真である。dは、iCD1培養システムにおいて、Oct4−VP16を用いて体細胞をリプログラミングする実験を示し、Oct4−VP16によって誘導されたiPSクローンを胞胚に注射して作製したキメラマウスを示す写真である。
【図19】aは、iCD1のコア成分をmES培養培地中に添加し、リプログラミングを促進する実験を示し、Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にSKOウイルスを感染させた後、mES、mES+ビタミンC、SmES(mESにビタミンC、bFGF、CHIR99021、塩化リチウム及びB27を添加したもの)培養培地中において培養し、感染後8日目に計算したリプログラミングクローン数を示すグラフである。bは、iCD1のコア成分をmES培養培地中に添加し、リプログラミングを促進する実験を示し、SmES培養条件における8日目の典型的な蛍光クローンを示す写真である。cは、iCD1のコア成分をmES培養培地中に添加し、リプログラミングを促進する実験を示し、Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にOct4ウイルスを感染させた後、mES、mES+ビタミンC及びiCD1培養培地中において異なる日数培養して観察された蛍光クローン数を示す図である。dは、SmES培養システムにおいて、Oct4を用いて体細胞をリプログラミングした初代クローン及び継代クローンの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の目的、特徴および効果を示す実施形態を図面に沿って詳細に説明する。これらの実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0032】
ここで、本発明の実施形態中、特に説明がない限り、培養培地の用語及び成分は、以下のように定義される。
【0033】
基礎培養培地:人工的に作製された糖類、アミノ酸、無機塩、ビタミン、脂質などの細胞の成長に必要な栄養物質を含む培養培地。本発明の基礎培養培地は、DMEM(Dulbecco‘s Modified Eagle’s Medium)、MEM(Minimal Essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、F−10、F−12、RPMI 1640、GMEM(Glasgow‘s Minimal Essential Medium)、αMEM(αMinimal Essential Medium)、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco‘s Medium)又はM199である(これに限定されない)。基礎培養培地は、好ましくは、高糖度DMEMである。
【0034】
ウシ胎児血清:ウシ胎児の血液から分離抽出された細胞成長を支持する培養物であり、具体的な成分は未知である。ウシ胎児血清は、栄養物質及び成長因子を豊富に含み、様々な種類の細胞の成長を支持することができる。しかし、成分が不明である、ロットによる成分差が大きい、病原体を含むなどの欠点を有する。
【0035】
血清代替物:血清代替物は、血清の代わりに使用される商品化された培養物添加物であり、一般に、成分が明確である。本発明の血清代替物は、KSR(商品化された帯血清培養添加物)、N2(商品化された血清代替添加物であり、成分は、インスリン、トランスフェリン、プロゲステロン、プトレシン及び亜セレン酸ナトリウムである)、B27(神経細胞の培養に用いられる無血清培養添加物)などの血清代替培養添加物である(これに限定されない)。
【0036】
胚性幹細胞:略称は、ES細胞又はEK細胞である(以下ES細胞)。ES細胞は、早期胞胚(原腸胚期前)又は原始生殖腺から分離した細胞であり、体外培養によって無限増殖し、自己再生能力及び多能性を有する。マウスES細胞を体外で培養するには、フィーダー層細胞及びマウス白血病抑制因子が必要であり、これにより、多能性が維持される。研究により、体外培養の過程において、グリコーゲン合成酵素キナーゼ阻害剤及びMAPキナーゼ阻害剤を合わせて使用することにより、ES細胞の分化が抑制され、フィーダー層細胞及びマウス白血病抑制因子がない状況においても、ES細胞の多能性を維持することができることが発見された。
【0037】
グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(glycogen synthase kinase−3:GSK−3)は、多機能のセリン/トレオニンタンパク質キナーゼであり、細胞内の多種の信号伝達経路における重要な成分であり、細胞内の糖代謝、細胞増殖、細胞分化、アポトーシスなどの多種の生理過程に関与する。グリコーゲン合成酵素キナーゼ阻害剤は、主に、CHIR99021、BIO、SB216763などであり、好ましくは、CHIR99021である。化学式1に、その構造を示す。
【化1】
【0038】
iPS細胞:induced pluripotent stem cellの略称であり、誘導多能性幹細胞とも称す。分化細胞がリプログラミング因子によって処理されることにより、iPS細胞の状態に戻る。現在すでに、四倍体胞胚に注射する技術により、iPS細胞から完全なマウスを作製することができ、iPS細胞が多能性を有することが証明されている。
【0039】
リプログラミング因子とは、分化細胞を多能性の状態に戻す因子である。リプログラミング因子の多くが核転写因子であり、現在、リプログラミングに用いられる転写因子は、Sox2、Oct3、Klf4、Nanog、Lin28、c−Myc、Esrrb、Tbx3などである。本発明の転写因子は、上述の転写因子を含むがこれに限定されない。
【0040】
フィーダー層細胞培養培地(feeder medium)の組成成分は、高糖度基礎培養培地(DMEM:本発明の発明者が頭文字から命名した基礎培養培地)に10%のウシ胎児血清(FBS)(Hyclone)、2mMグルタミン(Glutamine)及び非必須アミノ酸(NEAA)を添加したものである。
【0041】
含血清ES細胞培養培地の成分は、高糖度基礎培養培地、15%のウシ胎児血清(FBS)(GIBCO)、2mMグルタミン(Glutamine)、非必須アミノ酸(NEAA)、ペニシリン/ストレプトマイシン、β−メルカプトエタノール及びピルビン酸ナトリウムである。
【0042】
mESは、従来の幹細胞培養培地であり、その成分は、高糖度DMEM培養培地に、15%のウシ胎児血清、非必須アミノ酸、グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシン、β−メルカプトエタノール、ピルビン酸及び白血病抑制因子(マウスの多能性状態を維持させる成長因子)を加えたものである。
【0043】
KSR無血清培養培地:KSRは、Knockout Serum Replaceの略称であり、商品化された血清代替幹細胞培養添加物である。本発明で使用するKSR完全培養培地は、2種である。1つは、iPSの誘導過程に用いられ、その組成成分は、高糖度基礎培養培地(DMEM)、10%のKSR添加物、2mMのグルタミン、非必須アミノ酸(NEAA)、ペニシリン/ストレプトマイシン、β−メルカプトエタノール及びピルビン酸ナトリウムである。もう1つの幹細胞又はiPSクローンの培養に用いられる完全KSR無血清培養培地の組成成分は、KNOCKOUT DMED(浸透圧が幹細胞の培養に適する基礎培養培地)、15%のKSR添加物、2mMのグルタミン、非必須アミノ酸(NEAA)、ペニシリン/ストレプトマイシン及びβ−メルカプトエタノールムである。全てのiPS過程及びクローン培養培地には、マウス白血病抑制因子LIF(ミリポア社のESGRO(登録商標)であり、マウス幹細胞の分化を抑制する成長因子)が添加され、添加される終濃度は1000U/mlである。
【0044】
KSR−BNとは、上述のiPS誘導過程に用いられるKSR完全培養培地に、塩基性線維芽細胞成長因子及びN2(商品化された血清代替添加物であり、成分は、インスリン、トランスフェリン、プロゲステロン、プトレシン及び亜セレン酸ナトリウムである)を添加したものである。
【0045】
Bassal3.0完全培養培地:本発明の培養培地の1種であり、具体的には、高糖度基礎培養培地(DMEM)に、ビタミンC、インスリン、塩化リチウム、ビタミンB12、抗酸化剤、レセプターチロシンキナーゼ成長因子、系列の成長支持物質などを添加したものである。具体的な成分は、表2に示し、CHIR99021を含まない。
【0046】
iCD1完全培養培地:本発明の培養培地中の1つである。表1に示す添加物と、高糖度基礎培養培地(DMEM)、グルタミン、非必須アミノ酸、ペニシリン/ストレプトマイシン、β−メルカプトエタノール、ピルビン酸ナトリウムなどと、を混合したものである。表1に示す添加物と他の成分との体積比は1:24である。具体的な成分及び濃度は、表2に示す。
【0047】
また、特に説明のない場合、マウス体細胞のリプログラミングは、以下の方式で行われる。
【0048】
リプログラミングに採用される体細胞は、何れもOG2マウス胎児線維芽細胞であり、継代数は、3代を超えない。OG2マウスは、幹細胞特異のOct4遺伝子のプロモーターが発現された後、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子が連結される遺伝子導入マウスである。リプログラミングの後期、OG2マウス胎児線維芽細胞の内因性Oct4が起動されたとき、緑色蛍光タンパク質が発現され、蛍光顕微鏡により、細胞又はリプログラミングされたクローンが緑色に見える。蛍光顕微鏡により、リプログラミングクローン(即ち、緑色蛍光クローン)の数を直接計算するか、或いは、フローサイトメトリーにより、GFP蛍光細胞の比率を分析する。研究者は、様々な条件におけるリプログラミング効率を比較することができる。
【0049】
細胞実験及びウイルスの準備過程を以下に示す。細胞播種は、12孔の壁面に配置された細胞培養プレート内に行われ、播種密度は、20000細胞/孔である。細胞播種の6〜18時間後、細胞密度及び状態に応じ、マウスリプログラミング因子を有するウイルスを感染させる。感染は、2回に分けて行う。1回目の感染から24時間後、2回目の感染を行う。2回目の感染から24時間後、ウイルス液を各種の被測定培養液に交換する。交換した当日を0日目(D0)とする。感染後、様々な時間点において、実験の必要に応じ、原孔内のGFP蛍光クローン数を計算したり、フローサイトメトリーにより、GFP蛍光細胞の比率を分析する。
【0050】
ウイルスの準備過程を以下に示す。PMXベクターにクローンしたリプログラミング因子プラスミドをウイルスパッケージング細胞(PlatE)にトランスフェクションする。トランスフェクションから12〜16時間後、培養液を新しい培養液に交換する。トランスフェクションから48時間経過後に収集した培養液を1次感染用ウイルス液とする。新しい培養液を添加し、24時間経過した後に収集した培養液を2次感染用ウイルス液とする。
【0051】
また、特に説明のない限り、略称は、以下のように解釈される。
【0052】
SKOは、Sox2、Klf4及びOct4の3つのウイルス又はSox2、Klf4及びOct4の3つのウイルスに感染した細胞を指す。また、3つの因子と同一の意味を有する。OKは、Oct4及びKlf4の2つのウイルス又はOct4及びKlf4の2つのウイルスに感染した細胞を指す。OSは、Oct4及びSox2の2つのウイルス又はOct4及びSox2の2つのウイルスに感染した細胞を指す。
【0053】
(実施例1)
B3.0のリプログラミング効率と他の培養方式のリプログラミング効率との比較と、成分濃度の最適化:
SKOウイルスを1:1:1で混合(各種0.5ml)した後、線維芽細胞(1孔に計2万個の線維芽細胞を有し、全部で12孔)に感染させ、37℃、5%のCO2の条件において、mES培養培地、mES+ビタミンC培養培地、KSR−BN培養培地及びBasal3.0培養培地中において培養した。次に、感染後10日目に蛍光顕微鏡により、リプログラミングクローン数を直接計算した。また、フローサイトメトリーにより、リプログラミング細胞の比率を分析した。図1aは、mES、mES+ビタミンC、KSR−BN及びBasal3.0の4種の培養条件において、感染後10日目の各2万個のOct4−GFP遺伝子導入マウス胎児線維芽細胞から誘導したリプログラミングクローン数を示すグラフである。図1a中、各実験反復回数n=3である。エラーバーは、標準偏差を示す。結果から、感染後10日目、Basal3.0培養条件において、1278個のリプログラミングクローンが発現した。KSR−BN培養条件においては、180個のリプログラミングクローンが発現した。mES+ビタミンC培養条件においては、113個のリプログラミングクローンが発現した。また、mES培養条件においては、リプログラミングクローンが略発現しなかった。図1bは、mES、mES+ビタミンC、KSR−BN及びBasal3.0の4種の培養条件において、感染後10日目に、フローサイトメトリーによって測定したOct4−GFP陽性細胞の比率を示すグラフである。実験反復回数n=3であり、エラーバーは、標準偏差を示す。結果は、感染後10日目、Basal3.0の培養システムにおいて、35.2%の細胞にリプログラミングが発生した。KSR−BN条件において、14.25%の細胞にリプログラミングが発生した。mES+ビタミンC条件において、3.9%の細胞にリプログラミングが発生した。この2種の実験の結果から、Basal3.0は、3つの因子(Oct4、Sox2、Klf4)のリプログラミングを誘導する非常に優れた培養システムであることが示された。
【0054】
Basal3.0中の物質がリプログラミングに与える影響と、最適な作業濃度範囲を確定させるために、iPS効率実験において、Basal3.0中の各物質を様々な濃度で使用した。測定物質がリプログラミングに与える影響を正確に判断するために、リプログラミングクローン数又はリプログラミング細胞比率の2種の評価指標を採用した。図2a〜図2iは、添加物中のコア成分の用量反応実験の結果を示す。図2aは、塩化リチウムの濃度範囲が0〜10mmol/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図2bは、図2aと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。図2cは、ビタミンB12の濃度範囲が0〜2.8μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図2dは、図2cと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。図2eは、塩基性線維芽細胞成長因子の濃度範囲が0〜7ng/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図2fは、図2eと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。図2gは、ビタミンCの濃度範囲が0〜100μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図2hは、図2gと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。図2iは、インスリンの濃度範囲が0〜50μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。以上の実験中、実験反復回数n=3である。誤差船は、標準偏差を示す。上述の物質は、実験過程においてリプログラミングへの影響が顕著であるため、Basal3.0中のリプログラミングに影響を与えるコア物質である。好適な作業濃度は、塩化リチウムが5mmol/ml、ビタミンB12が1.4μg/ml、塩基性線維芽細胞成長因子が5ng/ml、ビタミンCが50μg/ml、インスリンが50μg/mlである(これに限定されない)。
【0055】
図3a〜図3hは、抗酸化剤の用量反応実験の結果を示す。図3aは、ビタミンEの濃度範囲が0〜16μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図3bは、図3aと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。図3cは、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の濃度範囲が0〜10μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図3dは、図3cと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。図3eは、還元型グルタチオンの濃度範囲が0〜6μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図3fは、図3cと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。図3gは、チアミンの濃度範囲が0〜36μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図3hは、図3gと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。以上の実験中、実験反復回数n=3である。エラーバーは、標準偏差を示す。以上の物質の好適な作業濃度は、ビタミンEが1μg/ml、スーパーオキシドジスムターゼが2.5μg/ml、還元型グルタチオンが1.5μg/ml、チアミンが9μ/mlである。
【0056】
図4a〜図4hは、成長支持物質の用量反応を示す。図4aは、ビタミンAの濃度範囲が0〜16μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図4bは、図4aと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。 図4cは、エタノールアミンの濃度範囲が0〜16μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図4dは、図4cと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。図4eは、リノール酸の濃度範囲が0〜4μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図4fは、図4eと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。図4gは、リポ酸の濃度範囲が0〜3.2μg/mlの場合における、感染後10日目のBasal3.0に誘導されて形成されたリプログラミングクローン数を示すグラフである。図4hは、図4gと同一の実験において測定されたリプログラミング細胞の比率を示すグラフである。以上の実験中、実験反復回数n=3である。エラーバーは、標準偏差を示す。以上の物質の好適な作業濃度は、ビタミンAが0.1μg/ml、エタノールアミンが1μg/ml、リノール酸が1μg/ml、リポ酸が0.2μg/mlである。
【0057】
(実施例2)Basal3.0の改良:
Basal3.0の濃度測定過程中、塩化リチウムのリプログラミングに対する顕著な影響から、グリコーゲン合成酵素キナーゼの阻害がリプログラミングを促進した原因であることが予測された。従って、CHIR99021、BIO、SB31xxxxなどの一系列のグリコーゲン合成酵素キナーゼ阻害剤を上述のiPS測定実験(リプログラミングクローン数及びリプログラミング細胞の比率の2種の指標がリプログラミング効率を評価する基準とする)を行うときの候補物質とした。結果、GSK3−β阻害剤CHIR99021がBasal3.0のリプログラミング効率を顕著に高めたため、改良されたBasal3.0には、グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3(GSK3−β)阻害剤CHIR99021を添加した。即ち、CH99021(これに限定されない)が添加された培養培地をiCD1と命名する。
【0058】
上述のiPS効率測定実験により、iCD1のリプログラミング効率と従来の好適な培養方式のリプログラミング効率とを比較した。従来の好適な培養方式は、mES+ビタミンC、mES→KSR(即ち、感染後4日目に、従来のES細胞培養培地(mES)から、商品化された無血清培養培地(KSR)に変換したもの)及びKSR−BNを含む。図5aは、本発明の化学成分が明確な培養培地iCD1のリプログラミング効率と、従来のリプログラミング培養培地のリプログラミング効率と、の比較を示すグラフである。上述の数種の培養方式において、感染後8日目の各2万個の胎児線維芽細胞から誘導されたリプログラミングクローン数を計算した。図中、各実験反復回数n=2であり、エラーバーは、標準偏差を示す。結果は、iCD1培養条件においては、1467.3個のリプログラミングクローンが発現した。mES+ビタミンCにおいては、32.3個のリプログラミングクローンが発現した。mES→KSRにおいては、20.7個のリプログラミングクローンが発現した。KSR−BNにおいては、68.3個のリプログラミングクローンが発現した。図5bは、図5aに示す数種の培養培地の感染後8日目のリプログラミングクローンを示す写真である。スケールバーは、2mmである。結果から、iCD1培養システムは、他の培養システムより優れることが示された。
【0059】
数種の培養条件における効率の差異をさらに客観的に比較するために、特許文献又は報道に基づき、KSR−BN、mES+ビタミンC及びmES→KSRの3種の条件の誘導によるリプログラミング効率の実験を反復して行い、様々な日数のリプログラミング効率の統計を行った。図5cは、KSR−BN培養培地は、リプログラミング効率が高まることを示すグラフである。Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞(MEFs)
にSox2/Klf4/Oct4(SKO)ウイルスを感染させた後、mES培養培地及びKSR−BN培養培地において培養した。異なる時間点において、フローサイトメトリーによって2種の培養システムにおけるリプログラミング細胞の比率を検出した。実験反復回数n=2であり、エラーバーは、標準偏差を示す。図5dは、mES+ビタミンC培養培地は、リプログラミング効率が高まることを示すグラフである。Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞(MEF)にSKOウイルスを感染させた後、mES培養培地及びmES+ビタミンC培養培地において培養した。異なる時間点において、フローサイトメトリーによって2種の培養システムにおけるリプログラミング細胞の比率を検出した。実験反復回数n=2であり、エラーバーは、標準偏差を示す。図5eは、mES→KSR培養培地は、リプログラミング効率が高まることを示すグラフである。Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞(MEF)にSKOウイルスを感染させた後、mES培養培地及びmES→KSR培養培地において培養した。mES→KSR培養方式は、感染後、前半の4日は、mES培養方式において培養し、4日目からKSR培養培地に変換する培養方式である。異なる時間点において、フローサイトメトリーによって2種の培養システムにおけるリプログラミング細胞の比率を検出した。実験反復回数n=2であり、エラーバーは、標準偏差を示す。実験の結果は、何れも特許文献又は報道と符合した。結果から、iCD1と他の数種の培養方式との比較結果は、事実であることが示された。
【0060】
(実施例3)iCD1の各成分がリプログラミングに与える影響:
iCD1中の主要成分がリプログラミング効率に与える影響を評価するために、ビタミンC、塩基性線維芽細胞成長因子、CHIR99021、塩化リチウム、ビタミンB12及びチアミンの中から各1つ又は全てiCD1中から除去してiPS効率測定実験を実施した。iCD1培養培地を全参照とし、mES培養培地を基本参照とした。感染後、8日目のリプログラミングクローン数を図33に示す。図6aは、本発明の培養培地添加物中の6種の成分(塩基性線維芽細胞成長因子、ビタミンC、CHIR99021、塩化リチウム、ビタミンB12及びチアミン)がリプログラミング効率及び成長に与える影響を示すグラフである。Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にSKOを感染させた後、完全なiCD1培養培地、ある成分を含まないiCD1培養培地、コア成分を全て含まないiCD1培養培地及び従来のmES培養培地において培養した。各細胞培地における、感染後8日目の各2万個の細胞から誘導されたリプログラミングクローン数を計算した。図中、各実験反復回数n=3であり、エラーバーは、標準偏差を示す。図6bは、図6aと同一の実験におけるリプログラミングの様子を示す写真であり、スケールバーは、2mmである。図6aに示すリプログラミングクローン数と図6bに示す写真から、ビタミンC、塩基性線維芽細胞成長因子、CHIR99021、塩化リチウム、ビタミンB12及びチアミンは、何れも、リプログラミング効率に一定の影響を与えることが示された。特に、ビタミンC、塩基性線維芽細胞成長因子及びCHIR99021は、リプログラミングに与える影響が明確である。塩基性線維芽細胞成長因子、ビタミンC、CHIR99021、塩化リチウム、ビタミンB12及びチアミンの6種の成分を添加しない場合、リプログラミングクローンは、略発現しなかった。
【0061】
上述の6種の物質がリプログラミングに与える影響が細胞成長依存性であるか、細胞成長非依存性であるか否かを確定させるために、リプログラミング因子SKOに感染後の胎児線維芽細胞をiCD1と、ビタミンC除去iCD1と、塩基性線維芽細胞成長因子除去iCD1と、CHIR99021除去iCD1と、塩化リチウム除去iCD1と、ビタミンB12除去iCD1と、チアミン除去iCD1と、塩基性線維芽細胞成長因子、ビタミンC、CHIR99021、塩化リチウム、ビタミンB12及びチアミン除去iCD1と、mESと、の9種の培養条件における成長曲線を記した。2万個の初期Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にSKOウイルスを感染させた後、上述の9種の培養培地中において培養した。感染液交換当日(D0)、感染後3日目及び6日目に細胞を消化し、各孔の細胞数を計算した。各実験反復回数n=3であり、エラーバーは、標準偏差を示す。図6cの結果から、塩基性線維芽細胞成長因子(bGFG)及びCHIR99021は、細胞成長にそれぞれ異なる程度の影響を与え、ビタミンCは、細胞成長に明らかな影響を与えないことが示された。
【0062】
塩基性線維芽細胞成長因子がリプログラミングに影響を与える最適濃度を確定させるために、様々な添加量の塩基性線維芽細胞成長因子をiCD1中に添加し、リプログラミングへの作用を検出した。図7aは、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)の用量反応を示すグラフである。1万個のOct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にSKOウイルスを感染させた後、0〜10ng/mlの様々な添加量のbFGFを添加したiCD1培養培地中において培養し、感染後10日目にリプログラミングクローン数を計算した。実験反復回数n=3であり、エラーバーは、標準偏差を示す。結果から、終濃度が5ng/ml以上の場合、塩基性線維芽細胞成長因子の濃度を上げてもリプログラミング効果が顕著に上がらないことが示された。図7bは、bFGFの作用時間効果の実験の結果を示すグラフである。1万個のOct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にSKOを感染させた後、iCD1培養培地で培養し、0〜10日の異なる時間にbFGFを添加し、感染後10日目に蛍光クローン数を計算した。実験反復回数n=6であり、エラーバーは、標準偏差である。図7bは、リプログラミング過程の異なる時間に塩基性線維芽細胞成長因子を添加する実験の結果を示し、結果から、iCD1培養条件において、塩基性線維芽細胞成長因子は、リプログラミング過程の0〜8日目まで作用し、それ以降は、リプログラミング効率を高める作用が軽微であることが示された。
【0063】
同様に、iCD1条件におけるビタミンC及びグリコーゲン合成酵素キナーゼ阻害剤CHIR99021の最適な作用濃度を確定させるために、様々な添加量のビタミンC及びグリコーゲン合成酵素キナーゼ阻害剤CHIR99021をiCD1中に添加し、最適濃度を確定させた。図7cは、ビタミンCの用量反応を示すグラフである。2万個のOct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にSKOウイルスを感染させた後、0〜100μg/mlの様々な添加量のビタミンCを添加したiCD1培養培地中において培養し、感染後10日目にリプログラミングクローン数を計算した。実験反復回数n=3であり、エラーバーは、標準偏差を示す。結果から、ビタミンC又はリン酸化ビタミンC(ビタミンCの安定形)の濃度が25μg/mlを超えた場合、ビタミンCの濃度をさらに上げても、リプログラミング効率が顕著に上がらないことが示された。図7dは、CHIR99021の用量反応を示すグラフである。1万個のOct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にSKOウイルスを感染させた後、0〜12mmol/mlの様々な添加量のCHIR99021を添加したiCD1培養培地中において培養し、感染後10日目にリプログラミングクローン数を計算した。実験反復回数n=3であり、エラーバーは、標準偏差を示す。結果から、グリコーゲン合成酵素キナーゼ阻害剤CHIR99021の最適濃度は、約3mmol/mlであることが示された。また、高添加量のグリコーゲン合成酵素キナーゼ阻害剤は、リプログラミング効率を抑制する作用があることが示された。以上の実験の結果を本発明の関連物質の作業濃度の参考とした。
【0064】
他のレセプターチロシンキナーゼファミリー成長因子がリプログラミングに影響を与えることを証明するために、上皮成長因子もリプログラミング効率測定実験に用いた。Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞をSKO感染させた後、レセプターチロシンキナーゼを添加しないiCD1培養培地と、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を添加したiCD1培養培地と、上皮成長因子(EGF)を添加したiCD1培養培地と、において培養した。図7eは、レセプターチロシンキナーゼがリプログラミングに与える効果を示すグラフであり、感染後10日目のリプログラミングクローン数の計算結果を示す。結果から、塩基性線維芽細胞成長因子のほか、他のレセプターチロシンキナーゼもリプログラミングを促進することが示された。
【0065】
(実施例4)A83−01、バルプロ酸及びウシ胎児血清がOKSによって誘導されるリプログラミング効率をさらに高めることができないことを証明する:
iCD1のリプログラミング効率をさらに高めるために、リプログラミング効率を高める物質であるとすでに報道されているALK5阻害剤A83−01と、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤バルプロ酸(VPA)と、従来のマウスES細胞の培養に使用されるウシ胎児血清と、をiCD1に添加してリプログラミング効率測定を行った。図8aは、マウス線維芽細胞にSKOウイルスを感染させた後、化学成分が明確な培養培地であるiCD1と、A83−01(0.5μM)が添加されたiCD1と、バルプロ酸(1mM)が添加されたiCD1と、2%のウシ胎児血清が添加されたiCD1と、において培養し、感染後10日目にリプログラミングクローン数を計算した結果を示すグラフである。結果から、ALK5阻害剤A83−01及びヒストン脱アセチル化酵素阻害剤バルプロ酸(VPA)は、何れもiCD1のリプログラミング効率をさらに高めることができないことが示された。また、ウシ胎児血清は、iCD1のリプログラミング効率に一定の抑制効果があることが示された。図8bは、図8aの実験における典型的なリプログラミングクローンを示す写真であり、スケールバーは、2mmである。実験の結果から、iCD1は、リプログラミングを誘導する非常に優れた培養システムであることが示された。
【0066】
(実施例5)初期播種密度がリプログラミング効率に与える影響:
初期播種密度がリプログラミング効率に与える影響を探求するために、Oct4−GFP遺伝子導入マウス胎児線維芽細胞をSKOウイルスに2回感染させた後、トリプシンを用いて消化し、様々な細胞密度で96孔プレート内に播種した。具体的には、5個/cm2、10個/cm2、50個/cm2、100個/cm2、200個/cm2、500個/cm2、1000個/cm2、2000個/cm2、5000個/cm2及び10000個/cm2である。iCD1を用いて8日培養した後、各播種密度におけるリプログラミング効率を計算した。リプログラミング効率の計算方式は、8日目のリプログラミングクローン数と初期細胞播種数との比較によって行った。実験反復数n=6であり、エラーバーは、標準偏差を示す。図9は、初期播種密度がリプログラミング効率に影響を与えることを証明する実験の結果を示すグラフである。結果から、初期細胞播種密度が2000個/cm2〜5000個/cm2の場合、リプログラミング効率が高いことが示された。
【0067】
(実施例6)iCD1培養条件においては、内因性多能性分子標識の発現が迅速に起動され、外因性因子が迅速に沈黙する:
分子レベルでiCD1培養システムが他の培養システムより優れることを証明するために、幹細胞特異に発現される多能性分子標識Nanogと、内因性Oct4と、の相対発現量により、細胞全体のリプログラミング進行速度を評価した。具体的な実施方法は、Oct4−GFP遺伝子導入マウス胎児線維芽細胞にSKOウイルスを2回感染させた後、mES培養培地、KSR−BN培養培地及びiCD1培養培地において培養した。感染液を交換した当日を0日とし、mES培養培地、KSR−BN培養培地及びiCD1培養培地の2日目、4日目、6日目及び8日目における培養物サンプルを収集し、各サンプルのリボヌクレオチドを抽出し、リアルタイムPCRにより、Nanog及び内因性Oct4の発現量を検出した。実験の結果は、図10aに示すように、iCD1培養条件におけるNanog及び内因性Oct4の起動は、mES及びKSB−BNより明らかに速かった。本実験の各実験反復数n=3であり、エラーバーは、標準偏差を示す。
【0068】
図10bは、タンパク質レベルでの多能性分子標識の発現結果を示す写真である。Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にSKOウイルスを感染させた後、iCD1中で8日連続培養し、細胞培養プレート上に直接固定し、免疫蛍光法による実験を行った。結果から、8日目の原プレートに発現したリプログラミングクローンには、多能性分子標識Cdh1、SSEA−1及びNanogが何れも発現した。図10bに示すスケールバーは、100μmである。図10cは、mES培養条件及びiCD1培養条件において、4日目及び8日目の培養物から総タンパク質を抽出し、イムノブロット法により、抗体を用いてNanogの発現プロファイルを検出した結果を示す。実験の結果から、感染後8日目のiCD1培養条件において、Nanaogが顕著に発現し、参照mES条件においては、Nanogは、発現しなかった。この結果から、iCD1培養条件におけるリプログラミング過程は、顕著に加速されることが証明された。
【0069】
外因性転写因子の沈黙は、リプログラミングの後期において非常に重要であり、完全なリプログラミングを判断する指標でもある。外因性転写因子の沈黙をさらに直観的に追跡するために、赤色蛍光タンパク質DsRedを採用し、外因性転写因子の沈黙のシュミレーションに用いた。具体的な実施方法は、赤色蛍光タンパク質DsRed及びSKOウイルスをOct4−GFP遺伝子導入マウス胎児線維芽細胞に感染させ、iCD1培養培地において培養し、蛍光顕微鏡を用いて細胞の緑光(内因性多能性分子標識Oct4の発現を示す)及び赤色光(外因性ウイルスの発現プロファイルを示す)の発現プロファイルを追跡観察した。図11は、iCD1培養システムにおけるリプログラミングの追跡を示す写真である。図11に示すように、感染後3日目、一部細胞から緑色蛍光細胞が発現し始めたが、同時に赤色光も発現し始めた。これは、内因性Oct4遺伝子がすでに起動し始めたが、外因性遺伝子は、まだ沈黙していないことを示す。感染後6日目、緑色蛍光が顕著に強くなり、赤色蛍光が弱くなり始めた。これは、内因性Octの発現が顕著に高くなり、外因性ウイルスが沈黙し始めたことを示し、細胞が完全なリプログラミングの後期段階に入り始めたことを示す。感染後8日目、多くのクローンは、リプログラミングのみを発現し、赤色蛍光を発現しなくなり、リプログラミング過程がすでに基本的に完了したことを示す。
【0070】
上述の緑色蛍光陽性赤色蛍光陰性の細胞集団が緑色赤色陽性の細胞集団及び緑色蛍光陰性赤色蛍光陽性の細胞集団よりリプログラミング程度が高いことをさらに証明するために、分別式フローサイトメーターにより、iCD1培養条件における8日目の培養物中の上述の3種の細胞集団を分別した。図12aは、フローサイトメトリーにより、2種の培養条件におけるリプログラミング細胞(GFP)と赤色蛍光細胞(DsRed)との比率を示すグラフである。図12aから分かるように、iCD1培養条件において、リプログラミングに入った細胞集団(緑色蛍光細胞集団)は、54.3%であった。その中で、リプログラミング陽性赤色蛍光陰性の細胞集団は、34.8%であった。mES培養システムにおいては、0.3%の細胞のみにリプログラミング陽性が示され、緑色蛍光陽性赤色蛍光陰性の細胞は、検出されなかった。分別した3種の細胞集団からリボヌクレオチドを抽出し、リアルタイム定量PCRにより、3種の細胞集団中の多能性分子標識である内因性Oct4、Nanog、Dppa3、Rex1の発現と、外因性Oct4の沈黙状態と、を検出した。mES及びiCD1の8日目の未分別培養物を全参照とした。図12b(感染後8日目のリプログラミング効率及び関連分子標識を示し、リアルタイム定量PCRにより測定した、SKOウイルスに感染後、8日培養したmESと、8日培養したiCD1と、8日培養したiCD1から分別した細胞集団と、における多能性分子標識の発現プロファイルを示すグラフ)から、3種の細胞集団中、緑色蛍光陽性赤色蛍光陰性の細胞集団の幹細胞特異の分子標識の発現レベルは、他の細胞集団よりも高く、外因子ウイルスの沈黙も完全であった。緑色蛍光赤色蛍光陽性の細胞集団の幹細胞特異の多能性分子の発現レベルは中間状態であり、外因子Oct4も未だ完全に沈黙していなかった。赤色蛍光陽性緑色蛍光陰性の細胞集団の幹細胞特異の多能性分子標識の発現量は極めて低く、外因性Oct4の発現量が極めて高かった。この実験の結果から、外因性の沈黙は、完全なリプログラミングの重要な条件であることが証明された。また、iCD1培養条件がリプログラミング過程を加速させることも証明された。
【0071】
(実施例7)iCD1培養条件において、8日目にマウス胎児線維芽細胞を完全にリプログラミングする実験:
キメラマウスを形成できるか否かは、マウスES細胞の重要な基準である。取得したリプログラミングクローンがES細胞と差異がないことをさらに厳格に検証するために、様々な方法で選出したリプログラミング細胞からキメラマウスを作製した。具体的な方法は、図13aに示す。3つの因子(Sox、Klf及びOct4)とDsRedとを混合し、Oct4−GFP遺伝子導入マウス胎児線維芽細胞に感染させる。感染後、iCD1培養培地中において培養する。感染後の8日目、11日目及び14日目に、機械又は手動で細胞を選出し、キメラマウスを作製する。機械選出の場合、原孔細胞を消化して遠心脱水した後、フローサイトメトリー法により、GFP陽性を分別し、DsRed陰性の細胞からキメラマウスを作製する。手動選出の場合、蛍光顕微鏡の下、壁からランダムにクローンを剥離し、クローンを培養培地中に浮遊させる。所定量剥離した後、クローン集団を含む培養培地を15ml遠心脱水管中に収集し、遠心脱水してクローン集団を収集する。PBSで洗浄後、上澄みを遠心脱水し、200ulの0.25%のトリプシンを加える。37℃で3〜5分培養する。血清を終了した後、遠心脱水し、mES培養培地で再び浮遊させる。その後、従来のキメラマウスの作製方法により、キメラマウスを作製する。図13bは、様々な誘導日数において、図13aに示す実験を行った結果を示す図である。図13cは、8日目に取得したiPS細胞を胞胚に注射することによって作製されたキメラマウスを示す写真である。結果から、iCD1条件においては、8日目にリプログラミングが完了することが有力に証明された。
【0072】
(実施例8)本発明の培養培地の因子が少ないことがリプログラミングに与える影響:
iCD1培養条件において、SKOの3つの転写因子が極めて高いリプログラミング効率を有するということは、転写因子がさらに少ない場合でも体細胞をリプログラミングできる可能性があることを示す。この仮定に基づき、様々なウイルスの組合せ(OK/OS/SK)をマウス線維芽細胞に感染させた。具体的な方法は、Oct4とKlf4とを1:1で混合(各0.5ml)し、細胞(各孔に2万個の細胞を有し、全部で12孔のプレート)に感染させた。また、Oct4とSox2とを1:1で混合(各0.5ml)し、細胞(各孔に3万個の細胞を有し、全部で12孔のプレート)に感染させた。また、KlfとSox2とを1:1で混合(各0.5ml)し、細胞(各孔に3万個の細胞を有し、全部で12孔のプレート)に感染させた。上述の3種の感染した細胞をiCD1培養培地又は従来のmES培養培地中において培養し、連続培養観察を行った。図14aは、iCD1培養条件において、OK及びOSを用いて体細胞をリプログラミングした初代クローン写真及び経過写真である。Oct4及びKlf4に感染したMEF中、iCD1培養システムにおいて培養した孔には、12〜15日内に、各孔に1〜6個の蛍光クローンが出現した。Oct4及びSox2に感染した培養培地においては、18〜25日内に、各孔に1〜3個の蛍光クローンが出現した。また、従来のmES培養条件においては、如何なるクローンも出現しなかった。また、Klf4及びSox2に感染した孔中、iCD1培養条件であっても、mES培養条件であっても、25日内に、リプログラミングクローンが全く出現しなかった。図14bは、OK及びOSを用いたリプログラミングによって取得したiPSクローンに、幹細胞特異の分子標識が出現したことを示す写真である。選出したOK及びOSクローンをフィーダー層細胞上で継代培養し、免疫蛍光法による検出の結果、選出したクローンが何れもNanog、Rex1などの多能性分子標識を出現していることを発見した。図14cは、Oct4/Klf4及びOct4/Sox2を用いたリプログラミング実験の結果を示し、図中、各実験において、リプログラミングクローンを計算した時間及び計算結果を示す。3回の試験結果から、試験は、好適な再現性を有することが示された。図14dは、OK及びOSクローンを注射したヌードマウスに発生した奇形腫の切断面を示す写真である。組織切断面中の明らかな3つの胚葉の組織から、OK及びOSクローンは、3つの胚葉細胞に分化する能力を有することが示された。
【0073】
(実施例9)iCD1培養条件において、Oct4は、マウス胎児線維芽細胞をリプログラミングすることができる:
iCD1中において、OK及びOSの何れもがリプログラミングクローンを作製することができる事実により、Oct4がリプログラミング過程中において、大きく作用していることが示された。そこで、Oct4単独がiCD1中において、リプログラミングクローンを作製することができるか否かは、確認する価値がある。そこで、3万個のOct4−GFP遺伝子導入マウス胎児線維芽細胞にOct4ウイルスを2回感染させた後、iCD1中で培養した。略30日連続培養した後、蛍光クローンは、出現しなかった。そこで、培養物をトリプシンで消化し、フィーダー層細胞上で継代培養し、iCD1において継続培養した。継代培養後の5日目に、緑色リプログラミングクローンが出現したのを発見した(図15a参照)。これらのOct4リプログラミングクローンを選出して継代培養し、免疫蛍光法により、抗体を用いて多能性分子標識の発現を検出した。これらのクローンには、何れもNanog、SSEA−1及びRex1などの多能性分子標識が発現したことが発見された(図15b参照)。リアルタイム定量PCRにより、Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞に関連する内因性多能性分子標識Oct4、Nanog、Dppa3、Rex1及びDnmt31の発現レベルが検出された。図15cの結果からも、これらのクローンの内因性Oct4、Nanog、rex1、Dppa3及びDnmt31を発現するレベルが標準的なES細胞R1と類似することが示された。図15dは、リアルタイム定量RCR法により、外因子遺伝子の発現プロファイルを分析した結果を示すグラフである。SKO感染後4日目のOct4−GFPマウス胎児線維芽細胞を陽性参照とする。結果から、選出されたこれらのリプログラミングクローンは、外因性転写因子が全てすでに沈黙していることが示された。挿入鑑定分析の結果(図15e)から、選出したクローンは、ウイルス汚染によるものではないことが示された。図15fは、Oct4リプログラミングクローン細胞を胞胚に注射することによって作製されたキメラマウスを示す写真である。作製されたキメラオスマウスと白色系統マウスとからは、全黒マウスが作製された(図15g参照)。この結果から、Oct4リプログラミングクローンは、生殖系キメラであることが証明された。上述の結果から、Oct4リプログラミング細胞は、ES細胞と類似することが証明された。従って、iCD1培養条件において、Oct4は、マウス胎児線維芽細胞を完全にリプログラミングできることが証明された。
【0074】
(実施例10)iCD1培養培地をOct4−VP16リプログラミングで応用:
Oct4−VP16は、Oct4遺伝子の後部にVP16配列が連結されたものである。Oct4−VP16の共発現により、Oct4の転写機能が強化される。実験により、Oct4−VP16、Sox2及びKlf4が体細胞をリプログラミングする能力は、Oct4、Sox2及びKlf4よりも高いことが証明された。Oct4−VP16が参与するリプログラミング過程中、iCD1が他の培養条件より優れることを証明するために、Oct4−VP16、Sox2及びKlf4を2万個のOct4−GFPマウス胎児線維芽細胞に感染させた後、mES、mES+ビタミンC及びiCD1培養システムにおいて培養し、感染後10日に、リプログラミングクローン数を計算した。各実験反復回数n=3であり、エラーバーは、標準偏差を示す。図16aに示す結果から、iCD1培養条件において、10日目に2500個のリプログラミングクローンが発現したことが発見された。また、mES+ビタミンCの孔中には、650個のリプログラミングクローンが発現した。mES条件においては、極めて少数のクローンしか発現しなかった。図16bは、3種の培養条件における蛍光クローンを示す写真である。同様に、iCD1条件において、Oct4−VP16及びSox2と、Oct4−VP16及びKlf4と、のリプログラミング能力を検出した。具体的な方法は、3万個のマウス胎児線維芽細胞にOct4−VP16及びSox2と、Oct4−VP16及びKlf4と、を感染させた後、iCD1条件において培養し、様々な日数におけるリプログラミングクローン数を計算した。各実験反復回数n=3であり、エラーバーは、標準偏差を示す。図17aに示す結果から、iCD1培養条件において、Oct4−VP16及びSox2と、Oct4−VP16及びKlf4とは、何れもマウス胎児線維芽細胞をリプログラミングすることができることが示された。感染後15日目のOct4−VP16及びSox2のリプログラミング効率は、約1%であり、Oct4−VP16及びKlf4のリプログラミング効率は、約0.15%であった。図17bは、Oct4−VP16/Klf4及びOct4−VP16/Sox2によって誘導されたiPSクローンを示す写真である。免疫蛍光法により、抗体を用いて多能性分子標識の発現を検出した結果、Nanog、Oct4、Rex1、SSEA−1などの多能性分子標識が何れも発現されたことが発見された(図17c参照)。図17cは、Oct4−VP16/Klf4によって誘導されたiPS細胞が発現した典型的な多能性分子標識と、Oct4−VP16/Sox2によって誘導されたiPS細胞が発現した典型的な多能性分子標識と、を示す写真である。
【0075】
Oct4は、iCD1条件において、成体幹細胞にリプログラミングすることが可能であるが、効率が極めて低い。また、継代培養が必要である。Oct4−VP16単一因子がリプログラミング効率を高めることができるか否かは、その特性と大きく関連性がある。これを検出するために、Oct4−VP16ウイルスを3万個のOct4−GFP遺伝子導入マウス胎児線維芽細胞に感染させ、mES、mES+ビタミンC及びiCD1培養培地中において培養した。結果から、感染後約10日目に、iCD1培養培地で培養する孔中から緑色リプログラミングクローンが出現したのが発見された(図18a参照)。しかし、mES及びmES+ビタミンCの孔にはなかった。感染後17日目、iCD1培養の孔内には、各孔に約10個のリプログラミングクローンが出現した。しかし、mES及びmES+ビタミンCの孔には、リプログラミングクローンがなかった。計算結果は、図18bに示す。選出したクローンを継代培養し、免疫蛍光法により、抗体を用いて多能性分子標識の発現を検出した。結果は、図18cに示すように、Oct4−VP16によって誘導されたクローンには、多能性分子標識が発現した。これらの選出したリプログラミングクローンには、何れもNanog、SSEA−1などの多能性分子標識が発現した。選出したクローンを胞胚内に注射し、代理妊娠用のマウス子宮に移植した結果、キメラマウスを作製することに成功した(図18d参照)。この結果から、Oct4−VP16を用いてiCD1から取得されたリプログラミング細胞は、ES細胞と類似する多能性を有することが証明された。
【0076】
以上の実験により、Oct4−VP16を用いてリプログラミングを行う条件において、iCD1培養培地は、他の培養培地よりも明らかに優れることが証明された。
【0077】
(実施例11)mES条件におけるiCD1のコア成分の応用:
iCD1中のコア成分の血清中における作用を測定するために、iCD1中のコア成分(ビタミンC、塩化リチウム、塩基性線維芽細胞成長因子、インスリン及びグリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤CHIR99021)をmES中に添加した。この培養培地をSmES(Super−mES)と命名した。SKO及び普通のOct4のSmES中におけるリプログラミング効果を検出した。mES培養培地及びmES+ビタミンC培養培地を参照とした。結果は、図19aに示すように、SKO感染後8日目、SmES培養の孔内から約400個のクローンが発現した。また、mES+ビタミンCの孔内から約20個のリプログラミングクローンが発現した。図19bは、SmES培養条件において、8日目の原孔内の蛍光クローンを示す写真である。同様に、Oct4単一因子がSmES培養培地のリプログラミング効果に与える影響も測定した(SmES培養システムの下において、Oct4は、体細胞をリプログラミングすることが可能である。Oct4−GFPマウス胎児線維芽細胞にOct4ウイルスを感染させた後、mES培養培地、mES+ビタミンC培養培地及びiCD1培養培地において培養し、様々な日数で蛍光クローン数を観察した)。図19cに示す3回の独立実験の結果から、SmES条件において、Oct4は、マウス胎児線維芽細胞をリプログラミングすることが示された。図19dは、初代クローン及び継代クローンの写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養培地添加物であって、
前記培養培地添加物は、ビタミンC及びグリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤を有することを特徴とする培養培地添加物。
【請求項2】
前記グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤は、リチウムイオン、CHIR99021、BIO及びSB216763の中の少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の培養培地添加物。
【請求項3】
前記培養培地添加物は、ビタミンB12、インスリン、レセプターチロシンキナーゼ及び抗酸化剤をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の培養培地添加物。
【請求項4】
前記レセプターチロシンキナーゼは、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、上皮成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子(IGF)及び肝細胞成長因子(HGF)の中の少なくとも1つであることを特徴とする請求項3に記載の培養培地添加物。
【請求項5】
前記抗酸化剤は、チアミン、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、還元型グルタチオン、ビタミンE、アセチル化ビタミンE、リノール酸、リノレン酸及び亜セレン酸ナトリウムの中の少なくとも1つであることを特徴とする請求項3に記載の培養培地添加物。
【請求項6】
前記培養培地添加物は、血清代替細胞成長促進剤をさらに有することを特徴とする請求項1又は3に記載の培養培地添加物。
【請求項7】
前記血清代替細胞成長促進剤は、アルブミン加水分解物、トランスフェリン、トリヨードチロニン、アドレナロン、リポ酸、エタノールアミン、プロゲステロン、プトレシン及びビタミンAの中の少なくとも1つであることを特徴とする請求項6に記載の培養培地添加物。
【請求項8】
完全培養培地であって、
前記完全培養培地は、基礎培養培地、血清及び血清代替添加剤の中の少なくとも1つと、請求項1、3又は6に記載の培養培地添加剤と、から構成されることを特徴とする完全培養培地。
【請求項9】
完全培養培地であって、
前記完全培養培地は、基礎培養培地と、請求項1、3又は6に記載の培養培地添加剤と、から構成されることを特徴とする完全培養培地。
【請求項10】
前記培養培地添加物又は前記完全培養培地は、ES細胞への誘導又は真核細胞の培養に応用されることを特徴とする請求項1、3又は6に記載の培養培地添加物、或いは、請求項8又は9に記載の完全培養培地。
【請求項1】
培養培地添加物であって、
前記培養培地添加物は、ビタミンC及びグリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤を有することを特徴とする培養培地添加物。
【請求項2】
前記グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤は、リチウムイオン、CHIR99021、BIO及びSB216763の中の少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の培養培地添加物。
【請求項3】
前記培養培地添加物は、ビタミンB12、インスリン、レセプターチロシンキナーゼ及び抗酸化剤をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の培養培地添加物。
【請求項4】
前記レセプターチロシンキナーゼは、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、上皮成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子(IGF)及び肝細胞成長因子(HGF)の中の少なくとも1つであることを特徴とする請求項3に記載の培養培地添加物。
【請求項5】
前記抗酸化剤は、チアミン、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、還元型グルタチオン、ビタミンE、アセチル化ビタミンE、リノール酸、リノレン酸及び亜セレン酸ナトリウムの中の少なくとも1つであることを特徴とする請求項3に記載の培養培地添加物。
【請求項6】
前記培養培地添加物は、血清代替細胞成長促進剤をさらに有することを特徴とする請求項1又は3に記載の培養培地添加物。
【請求項7】
前記血清代替細胞成長促進剤は、アルブミン加水分解物、トランスフェリン、トリヨードチロニン、アドレナロン、リポ酸、エタノールアミン、プロゲステロン、プトレシン及びビタミンAの中の少なくとも1つであることを特徴とする請求項6に記載の培養培地添加物。
【請求項8】
完全培養培地であって、
前記完全培養培地は、基礎培養培地、血清及び血清代替添加剤の中の少なくとも1つと、請求項1、3又は6に記載の培養培地添加剤と、から構成されることを特徴とする完全培養培地。
【請求項9】
完全培養培地であって、
前記完全培養培地は、基礎培養培地と、請求項1、3又は6に記載の培養培地添加剤と、から構成されることを特徴とする完全培養培地。
【請求項10】
前記培養培地添加物又は前記完全培養培地は、ES細胞への誘導又は真核細胞の培養に応用されることを特徴とする請求項1、3又は6に記載の培養培地添加物、或いは、請求項8又は9に記載の完全培養培地。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図9】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図9】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公表番号】特表2012−524551(P2012−524551A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512195(P2012−512195)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際出願番号】PCT/CN2010/075551
【国際公開番号】WO2011/134210
【国際公開日】平成23年11月3日(2011.11.3)
【出願人】(511250839)中国科学院広州生物醫薬與健康研究院 (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際出願番号】PCT/CN2010/075551
【国際公開番号】WO2011/134210
【国際公開日】平成23年11月3日(2011.11.3)
【出願人】(511250839)中国科学院広州生物醫薬與健康研究院 (1)
【Fターム(参考)】
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