説明

培養槽の制御装置及び培養装置

【課題】流れの数値シミュレーションにより培養槽内の任意の点の状態を計算して好適に運転できる、培養槽の制御装置及び培養装置の提供。
【解決手段】培地中の栄養成分、酸素濃度、二酸化炭素濃度及びバイオマス濃度を測定する測定手段からの測定データを入力する入力手段と、上記入力手段で入力した測定データから単位バイオマス量あたりの栄養成分消費速度、酸素消費速度、二酸化炭素排出速度を算出し、輸送方程式から算出される乱流エネルギーk並びに乱流エネルギー散逸率εと拡散係数Dとから物質移動容量係数kLaを算出し、算出した栄養成分消費速度、酸素消費速度、二酸化炭素排出速度及び物質移動容量係数kLaから培地成分の時間変化を記述する微分方程式を数値的に積分するアルゴリズムを用いて培養槽内の任意の領域における栄養成分濃度、溶存酸素濃度及び溶存二酸化炭素濃度を算出する演算手段を備えた、制御装置及び培養装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞あるいは微生物などのバイオマスを培養する培養槽を制御する制御装置及び培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的な培養においては、グルコースやグルタミンなどの栄養成分を含む培養液中にて、バイオマスが必要とする酸素を気泡状の通気ガスにより、あるいは、自由液面への通気として供給しつつ、しばしば培養液の攪拌を行いつつ、バイオマスを増殖せしめ、バイオマスが生産する有用物質を収穫している。培養にはバイオマスの増殖に好適な槽内条件を整える必要があるが、培養槽の構造と運転条件は、しばしば、好適な槽内条件を逸脱する。
【0003】
培養槽内で酸素の移動容量係数kLaの増大と、溶存酸素濃度と栄養成分の均一な混合性を得るため、攪拌翼による攪拌を行うが、粘度の高い培養液においては高いkLaと十分な均一性が得にくい。培養槽ごとに、酸素移動容量係数kLaを実験的に求めることが試みられているが、これらの実験的手法(特許文献1参照)では、kLaが培養槽の槽径、気泡径、翼径、攪拌回転数などによって変わり、常に個々の培養槽構造に依存するため、一般性に欠く。また、自由液面からの通気と液中気泡通気を併用している場合、両者の比率が条件によって変わり、一般性のある知見を得にくい。kLaの増大や均一性を強化するためには攪拌翼の回転数を上げればよいが、通常は攪拌動力の制約を受ける。また、動物細胞の培養においては、攪拌が強すぎると細胞が死滅するという問題がある。実験的な制約から逃れるため、流れの数値シミュレーションを利用して、培養槽構造を設計することが試みられるが(特許文献2参照)、いかなる流動場がバイオマスの増殖にとって好適かを知るに致っていない。また、流れの数値シミュレーションを制御に反映する方法は確立していない。
【0004】
培養プロセスにおいて栄養成分の枯渇はバイオマスの増殖を阻害する。また、副生産物として生成する乳酸、アンモニア、あるいはアルコールなどは、しばしばバイオマスの増殖を抑制し、有用産生物の収率を低下させる。したがって、培地中の成分を計測し、また、運転中に栄養成分を補給することは常に重要である。しかしながら測定結果を培養槽の制御に適切に反映する技術は十分に確立していない。バイオオマスの増殖プロセスを反応動力学的微分方程式でモデル化する試みがあるが、これと培養槽内の流体力学的条件とを合わせた培養槽の計算機制御方法は確立していない。
【0005】
【特許文献1】特開2001-231544号
【特許文献2】特開2001-75947号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明では、流れの数値シミュレーションを利用し、好適な培養槽の運転条件を合理的に見出すことでバイオマス及び/又はバイオマス産生成分を高収率で得ることができる培養槽の制御装置及び培養装置を提供することを目的とする。
【0007】
又、本発明では、流れの数値シミュレーションにより、培養槽内の任意の点の状態を計算して好適に運転できる培養槽の制御装置及び培養装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成した本発明は以下を包含する。
本発明の培養槽の制御装置は、動物細胞あるいは微生物などを培養する培養槽と、該培養槽の状態量を測定する測定装置と、培養槽を制御する駆動制御装置と、前記培養槽の状態量を計算する演算処理装置と、培養槽に関する形状データ、運転条件、初期の培養液成分濃度、バイオマス濃度を含む初期値データから前記演算処理装置により演算された前記培養槽の状態量の時間変化および空間分布計算値を表示する表示装置を備える。
【0009】
本発明を適用した培養槽の制御装置は、培養液中に酸素ガスを通気、攪拌しつつバイオマスを培養する培養槽に接続され、培地中の栄養成分、酸素濃度、二酸化炭素濃度及びバイオマス濃度を測定する測定手段からの測定データを入力する入力手段と、上記入力手段で入力した測定データから単位バイオマス量あたりの栄養成分消費速度、酸素消費速度、二酸化炭素排出速度を算出し、輸送方程式から算出される乱流エネルギーk並びに乱流エネルギー散逸率εと拡散係数Dとから物質移動容量係数kLaを算出し、算出した栄養成分消費速度、酸素消費速度、二酸化炭素排出速度及び物質移動容量係数kLaから培地成分の時間変化を記述する微分方程式を数値的に積分するアルゴリズムを用いて培養槽内の任意の領域における栄養成分濃度、溶存酸素濃度及び溶存二酸化炭素濃度を算出する演算手段と、上記演算手段で算出した培養槽内の任意の領域における栄養成分濃度、溶存酸素濃度及び溶存二酸化炭素濃度から、培養槽内の栄養成分分布、溶存酸素分布及び溶存二酸化炭素分布を表示する表示手段とを備える。
【0010】
本発明は、培地成分の時間変化を記述する微分方程式を流体力学的運動方程式に連立して、数値的、離散的、代数的に解くことにより、培養槽内の培地成分の時間変化と空間分布を計算する。これにより、培養槽内の任意の位置において、バイオマスがどのように増殖するかを知り、いかなる流動場が、バイオマスの増殖に好適かを知る。また、本発明は、乱流場の物質移動係数と乱流エネルギーkおよび乱流エネルギー散逸率εとの相関に関する実験的研究に基づき、物質移動容量係数kLaをkとεおよび拡散係数Dの関数kLa (k,ε,D)として与える。これにより、物質移動容量係数kLaが培養槽の構造に依存することなく、乱流場の特性およびガスの物性値のみで与えられ、任意の形状の培養槽の任意の位置におけるkLaを算出できる。これにより、上記培地成分の他、酸素、二酸化炭素などの濃度を培養槽内の任意の点を計算でき、バイオマスの増殖に好適な培養槽構造を決定できる。さらに培地成分の時間微分方程式に基づき、動的計画法により培養槽の栄養供給制御アルゴリズムを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る培養槽の制御装置及び培養槽装置は、溶存酸素濃度分布及び溶存二酸化炭素濃度分布を表示装置に表示することで、培養槽内のバイオマスの増殖に好適な諸条件を決定することができる。
【0012】
又、培養槽内の流動状態とバイオマス代謝物質に関する分布を計算により求めて制御目標値を求め制御するので、細胞の死滅を極力少なくし効率的な培養が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施例に係る培養槽の制御装置を、図面を参照して詳細に説明する。図1に示すように、本発明を適用した制御装置は、バイオマスを所定の条件下で培養する培養槽1を備える培養槽装置を制御する。培養槽装置は、培養槽1と、培養槽1内に酸素ガスを供給する通気装置2と、培養槽1内部の培養液を攪拌する攪拌翼3と、培養液中における酸素濃度や栄養成分濃度、バイオマス濃度等を測定する測定装置4と、培養液に栄養成分を供給する栄養成分供給装置5と、培養槽1における通気装置2、攪拌翼3及び栄養成分供給装置5に対して駆動制御信号を出力する駆動制御装置6とを具備している。ここで、通気装置2や栄養成分供給装置5は培養槽に1又は数箇所限定された箇所に設けられる。
【0014】
本実施例に係る制御装置は、図1に示すように、培養槽1に関する形状データに基づいて培養槽1のメッシュデータを生成するメッシュデータ生成装置7と、運転制御プログラムに従って演算処理を実行する演算処理装置8と、運転制御プログラムを格納した記憶装置9と、演算処理装置8で演算された結果を表示する出力表示装置10とを具備している。本発明に係る制御装置は、培養槽1における測定装置4からの出力データを入力するためのインターフェイスと、培養槽1に関する形状データ等を入力するための入力装置と、CPU等の演算手段と、ハードディスクや不揮発性メモリ、揮発性メモリ等の記憶手段と、ディスプレイ等の表示手段といったハードウェア資源を用いて具体的に実現される。また、本発明に係る制御装置は、培養槽装置に組み込まれた一体型として実現することもできる。すなわち、本実施例は、培養槽の制御装置を備える培養槽装置として実現することができる。
【0015】
駆動制御装置6は、PID(Proportional Integral Differential)制御系が組まれており、例えば、インターフェイスを介して測定装置4より入力された測定値を用いて演算処理装置8が制御目標値を演算し、算出された制御目標値に基づいて駆動制御信号を出力する。
【0016】
測定装置4は、例えば、サンプラーによってサンプリングされた培養液に含まれるバイオマス濃度、細胞増殖に正に関与する成分及び細胞増殖に負に関与する成分を測定でき、また、ガスクロマトグラフ装置によって培養液に含まれる溶存酸素濃度及び溶存二酸化炭素濃度を測定することができる。ここで、細胞増殖に正に関与する成分とは、培養において消費する成分のことであり、例えば、グルコースやグルタミン酸等の栄養成分を含む意味である。細胞増殖に負に関与する成分とは、培養において生成する成分のことであり、例えば、培養に伴って産生される乳酸や二酸化炭素等の物質を含む意味である。ここで、サンプラーは培養槽に1又は数箇所限定された箇所に設けられる。
【0017】
また、メッシュデータ生成装置7は、入力手段によって計算すべき対象の入力データを入力し、メッシュデータを生成して演算処理装置8へ送る。ここで、入力データとは、培養槽の直径、高さ、攪拌翼の直径、幅、翼枚数などの形状データ、攪拌翼回転数、散気管ガス流量などの運転条件、および初期の培養液中成分濃度、初期バイオマス濃度などの初期値データである。ここで生成されたメッシュデータは、入力データ表示装置に出力でき、例えば、図2(a)及び(b)のごとく、解析対象を確認できる。
【0018】
演算処理装置8は記憶装置9に格納されたプログラムに従い演算を行う。当該プログラムは、図3に示すように、時間についての微分方程式を逐次、数値的、離散的、代数的に積分するアルゴリズムからなる。すなわち、t=t0と初期設定するステップ1、タイムステップをtn+1に更新するステップ2、A(tn+1)=A(tn)+Δt・f(A(tn))を演算するステップ3、n=nmaxを判断するステップ4から構成される。
【0019】
ここで、演算処理装置8で積分される微分方程式は、
【数1】

で表される、流れの流速uf(m/s)の運動方程式(ナビエ・ストークス方程式)である。(1)式においてρは流体の密度(kg/m3)、Pは圧力(Pa)、gは重力加速度(m/s2)、νtは渦動粘性係数(m2/s)である。
【0020】
また、演算処理装置8で積分される微分方程式は、
【数2】

で表される、乱流エネルギーk(m2/s2)の輸送方程式及び
【数3】

で表される乱流エネルギー散逸率ε(m2/s3)の輸送方程式である。乱流エネルギー生成項PK(m2/s3)は
【数4】

で表される(4)式で計算される。渦動粘性係数νt
【数5】

で表される(5)式で計算される。なお、(4)式および(5)式においてC、C及びCμは乱流モデルのモデル定数である。
【0021】
また、培養液中の気泡体積割合αb
【数6】

で計算される。(6)式によれば、気泡は流れの流速uf(m/s)とは異なる流速ug(m/s)で運動しているものとしている。ug
【0022】
【数7】

で与えられる。(7)式において、udは気泡径に依存する気泡の終端速度であり、しばしば、入力データあるいは、気泡径をパラメータとする関数式で入力される。なお、気泡の流速ugを(1)式と同様の運動方程式により求める方法もあるが、気泡径が小さい場合には(7)式の計算によるのが簡使である。(1)式から(7)式によって培養槽内の流速分布と気泡体積割合分布が計算される。
【0023】
さらにまた、演算処理装置8で積分される、流速ufで輸送される細胞数密度(Xa)(cells/mL)の輸送方程式は
【数8】

で表される。(8)式においてμは比増殖速度(1/s)であり、Kdは示す速度(1/s)である。また、演算処理装置8で積分される、流速ufで輸送される培地成分の輸送方程式としては、例えば、流速ufで輸送されるグルコース(Glc)について
【数9】

で表される。同様に、培地成分の輸送方程式としては、例えば、流速ufで輸送されるグルタミン(Gln)について
【数10】

で表される。また、培地成分の輸送方程式としては、例えば、流速ufで輸送される乳酸(Lac)について
【数11】

で表される。さらに、培地成分の輸送方程式としては、例えば、流速ufで輸送されるアンモニア(Amm)について、
【数12】

で表される。なお、培地成分については、これらに限定されず、動物細胞培養における生物学的代謝に関わる物質であれば如何なる物質についても輸送方程式を規定することができる。
【0024】
(8)〜(12)式における右辺は、代謝による細胞((8)式)および培地成分の増殖、生成、消滅((9)〜(12)式)を記述する反応動力学モデル式となっている。これらの反応モデルは培養する菌株や細胞株により異なるが、以下には動物細胞培養一般に適用しうるモデルを例示する。
【0025】
上記(8)〜(12)式において、動物細胞の反応方程式部分のみを取り出した式は
【数13】

と表される。ここで、
【数14】

であり、
【数15】

である。
【0026】
また、
【数16】

である。
【0027】
また、演算処理装置8で演算処理されるべき溶存酸素の輸送方程式は、
【数17】

で表される。また、同様に演算処理装置8で演算処理されるべき溶存二酸化炭素の輸送方程式は、
【数18】

で表される。(13)及び(14)式いずれにおいても、左辺が流れ場による輸送項、右辺が気液界面の物質移動および代謝による生成・消滅項である。式中、q02は単位細胞当り酸素消費速度(mg/cell・s)であり、qC02は単位細胞当り二酸化炭素吐出し速度(mg/cell・s)である。気液界面の物質移動に関しては、物質移動容量係数kLaは気液界面の物質移動速度KLと比表面積aの積として与えられ、これらは、さらに、気泡と液相の界面に関するものと、自由液面上のガスと培養液の界面に関するものに分けられる。下付添字bを気泡に関するもの、下付添字Sを自由液面に関するもとのして使い分ける。比表面積as(1/m)は、自由液面の面積Ssurf(m2)を培養槽体積Vol(m3)で割って求められる(as=Ssurf/Vol)。比表面積abは、液中の気泡体積割合数密度αbと気泡径Dp(m)を用いて、ab=6α/Dpで与えられる。また、気泡体積割合αbは上記(6)式から求められる。Sαは、散気管から単位時間に投入される気泡堆積である。
【0028】
上述した式において、
【数19】

は、反応動力学モデルの実験定数であり
【数20】

は、それぞれ、気泡中の酸素分圧に平衡する溶存酸素濃度、液面の酸素分圧に平衡する溶存酸素濃度、気泡中の二酸化炭素分圧に平衡する溶存二酸化炭素濃度、液面の二酸化炭素分圧に平衡する溶存二酸化炭素濃度である。(13)式においては、気泡および自由液面の酸素ガスが酸素移動容量係数KL,o,bb、およびKL,o,ssにより液中に溶け込み、単位時間当たり細胞1個当たりqo2の酸素が細胞に消費される。(14)式においては、単位時間当たり細胞1個当たりqco2の二酸化炭素が細胞から吐き出され、液中から気泡および自由液面にガスとして二酸化炭素移動容量係数KL,co2,bb、およびKL,co2,ssで移動し、培養槽1の外に排気される。
【0029】
ここに、各々の物質移動速度KL,i,j ( i =O,CO2、j=b,S)は、乱流エネルギーkと乱流エネルギー散逸率ε、および、物性値である拡散係数Di( i =O,CO2)の関数として与えられており、培養槽1の寸法や気泡径には直接依存しない。乱流エネルギーkと乱流エネルギー散逸率εはアルゴリズム中の(2)式と(3)式で計算されるため実験によらず、計算にて、任意の培養槽1の任意の点について算出できる。
【0030】
これらの物質移動容量係数を用いて、本実施例によると任意の形状の培養槽内の流動状態とバイオマス代謝物質の濃度分布、および通気中ガス濃度、液中溶存ガス濃度等の分布を計算により知ることができるため、バイオマスの培養に好適な培養槽1の形状と培養条件を求めることができる。
【0031】
このように、培養槽内の任意の点で流動状態とバイオマス代謝物質に関する分布が計算できるので、培養槽に1又は数箇所限定された箇所に設けられたサンプラーだけでは把握できない培養槽内の任意の点の状態が分り、例えば細胞の死滅を極力少なくした運転が可能となる。
【0032】
演算処理装置8で計算された結果は、表示装置10に送られ表示される。表示装置10では、計算結果を分布画像表示及び/又はグラフ表示することができる。分布画像表示の一例を図4−1(a)〜(d)及び図4−2(e)〜(h)に示す。図4−1(a)は流速ベクトルを画像表示した例であり、図4−1(b)はガス体積割合を画像表示した例であり、図4−1(c)は乱流エネルギーkの分布を画像表示した例であり、図4−1(d)は乱流エネルギー散逸率εの分布を画像表示した例であり、図4−2(e)は酸素移動容量係数Klaの分布を画像表示した例であり、図4−2(f)はコルモゴルフスケールの分布を画像表示した例であり、図4−2(g)は酸素濃度分布を画像表示した例であり、図4−2(h)は二酸化炭素濃度分布を画像表示した例である。
【0033】
また、グラフ表示の一例を図5(a)及び(b)に示す。図5(a)は攪拌翼の回転数と乱流エネルギーk及び乱流エネルギー散逸率εとの関係をグラフ表示した例であり、図5(b)は攪拌翼の回転数と全体の酸素移動容量係数Kla、液面の酸素移動容量係数Kla,s及び気泡の酸素移動容量係数Kla,bとの関係をグラフ表示した例である。
【0034】
このように、本実施例に係る制御装置は、演算処理装置8で計算した結果を表示することで、培養槽1内の定量的知見を得ることができる。例えば、本実施例に係る制御装置によれば、図4−1及び図4−2に示すように、乱流エネルギーk、乱流エネルギー散逸率εは攪拌翼のまわりで比較的大きな値をとり、酸素移動容量係数KL,o,b abはこれらの関数として、再び翼のまわりで大きくなることが判明する。また、図5(a)に示すように、攪拌翼の回転数が大きくなると、槽内流速が大きくなり、kとεは大きくなるが、乱流エネルギーkは回転数の2乗に比例して大きくなり、乱流エネルギー散逸率εは回転数の3乗に比例して大きくなることが判明する。さらに、図5(b)に示すように、酸素移動容量係数は、気泡におけるKL,o,bbと自由液面におけるKL,o,SSの回転数依存性は異なるものとなる。これは、培養槽1内平均のk、ε値と自由液面近傍のk、εの回転数依存性が異なるためである。
【0035】
また、本実施例に係る制御装置によれば、上記(8)〜(12)式における培地成分の時間変化を記述する微分方程式を、対象とする培養条件ごとに適切な微分方程式に設定しなおすことが望ましい。すなわち、培養している細胞株および培養環境に依存して培地成分の時間変化特性が異なるため、適切な微分方程式となるよう実験定数を決定することが望ましい。
【0036】
これを実現するため、演算処理装置8は、培養槽1に設置された測定装置4から送られてくる時系列測定データを処理して、この時系列測定データを最もよく再現する微分方程式の実験定数を決定する。ここで微分方程式の実験定数には空間的な分布はないものと解釈される。また、実際の培養槽1で測定される成分濃度は概ね培養槽1の平均値を与えるもので、詳細な空間分布を得ることは、上記(1)〜(7)式の流体力学的計算によらなければならない。したがって、ここで考える微分方程式は、空間的な培地成分の平均濃度の変化を記述するものとみなす。
【0037】
具体的に演算処理装置8は、培地成分の微分方程式を数値積分して得られる成分濃度の履歴曲線の計算値と実測された履歴曲線の差をとり、その差を最小にする実験定数を決定する。例えば、上記(8)〜(12)式における微分方程式における成分の組をXi (i=細胞数密度、グルコース、グルタミン、乳酸、アンモニア)、実験定数の組をKj (j=1,m)として、微分方程式の組を形式的に
【数21】

とあらわす。観測データをXiobs (t)、計算値をXical (t)とおくと、計算値は、
【数22】

となる。実測値と計算値の差の2乗をとり、関数Gを
【数23】

のように作ると、関数Gは、実験定数Kj(j=1,m)の関数となる。よって、関数Gを最小化するモデル定数Kj(j=1,m)は、逐次2次計画法や共役勾配法などの極値探索法により求めることができる。この方法は、微分方程式がいくつかの実験定数を含んで定式化されていれば適用できるもので、微分方程式の具体形には影響を受けない。そのほか、逐次的に実験定数を求める方法としてカルマンフィルターを構成する方法も適用できる。このようにして求められた実験定数を、上記(1)〜(12)式に基づく計算に用いることにより、実際の培養槽条件に近い計算結果を得ることができるので、これは培養槽の制御精度を高めるのに有効である。
【0038】
また、本実施例に係る制御装置は、演算処理装置8が制御目標値を算出し、駆動制御装置6が制御目標値に基づいて駆動制御信号を生成するものであることが望ましい。本発明に係る制御装置で生成された駆動制御信号は、培養槽1における通気装置2、攪拌翼3及び栄養成分供給装置5を制御して、培養槽1内において所望の培養条件を実現することができる。
【0039】
通気装置2を制御して培養槽1に導入する酸素ガス通気量は、以下のように決定される。
先ず、予め定められた溶存酸素濃度の目標値に対して、制御目標値を次のようにして算出する。細胞数密度Xaと攪拌回転数rpmを固定して、通気酸素量Soを増加すると微分方程式を積分して求められる溶存酸素濃度Doは、通気量酸素量Soの関数として単調増加関数となるから、例えば、図6に示す、はさみうち法のアルゴリズムにより、通気酸素量Soを求めることができる。すなわち、操作者が入力手段を用いてバイオマス量(X)、攪拌翼3の回転数(rpm)、溶存酸素濃度の目標値(Do)を設定し(ステップ10)、予め設定されている最大通気量Smax(例えばSmax=1018)及び最小通気量Smin(例えばSmin=0)を読み出し(ステップ11)、通気量So(例えばSo=(Smax+Smin)/2)を設定する(ステップ12)。次に、演算処理装置8により上記(13)式で示す微分方程式に基づいて培養槽1内の溶存酸素濃度Doを計算する(ステップ13)。次に、計算した溶存酸素濃度Doとステップ10で設定した目標値とを比較し(ステップ14)、計算した溶存酸素濃度が目標値と一致している場合には処理を終了し、一致しておらず計算した溶存酸素濃度が目標値を超えている場合(ステップ15)には、Smaxに通気量Soの値を設定し(ステップ16)、計算した溶存酸素濃度が目標値を超えていない場合(ステップ15)には、Sminに通気量Soの値を設定する(ステップ16)。その後、ステップ11以降を、計算した溶存酸素濃度Doとステップ10で設定した目標値となるまで繰り返す。
【0040】
このように、溶存酸素濃度を目標値に制御する場合に、通気酸素量の制御目標値が設定できるので、適切に通気装置の制御を行うことができる。
【0041】
また、攪拌翼3の攪拌回転数については、培養対象のバイオマスに好適な値を設定することができる。一般に攪拌翼3の回転数を増加すると乱流エネルギーkと乱流エネルギー散逸率εは増加し、酸素移動容量係数も増加するため、酸素ガスの培養液への溶け込みは早くなる。したがって、例えば、微生物培養においては、攪拌回転数の制御目標値は、攪拌動力の制約のもとで最大回転数に設定してさしつかえない。
【0042】
一方、動物細胞培養においては、攪拌回転数の制御目標値は、せん断応力による細胞の死滅と溶存二酸化炭素の蓄積の2つの要因から決定されなければならない。攪拌回転数を増大し培養槽1内の流速が増大すると、流体力学的なせん断応力により死滅する細胞が現れる。このため、あまりに速い回転数で攪拌翼を回すことは、動物細胞培養では好ましくない。細胞死滅の起こる指標として流れのせん断速度γ
【数24】

やコルモゴロフのEddy length scaleη
【数25】

が知られている。培養槽内流速場においてγがある値γmaxを超えると細胞の死滅が起こると判断され、同じくコルモゴロフのEddy length scale.ηが細胞の大きさのスケールηcよりも小さくなると細胞の死滅がおこると判断される。ここで、γmax或はスケールηcはバイオマス死滅の指標となる値である。本発明においては、流れの速度勾配∂ui/∂xjも、乱流エネルギー散逸率εもすべて数値的に求められるので、γおよびηのいずれでも、培養槽内の任意の点で値を求めることができる。この値を参照することで細胞死滅の可能性を検討できる。
【0043】
なお、本実施例に係る制御装置によって算出したコルモゴロフスケール分布を画像表示した例を図4−2(f)に示したが、回転数をパラメータとしたときのコルモゴロフスケールをグラフ表示した例を図8に示す。回転数が上がると、体積割合のピークはコルモゴロフスケールの小さいほうへ移り、回転数が下がると体積割合のピークはコルモゴロフスケールの大きいほうへ移る。もし、ηcを75μmと設定すると、本実施例に係る制御装置においては、体積割合のピークがηcよりも小さい回転数30rpmは、細胞死滅が起こると判断され、体積割合のピークがηcよりも大きい回転数20rpmは、細胞死滅が起こらないと判断されて、運転回転数は30rpm未満の範囲になるように設定される。このように、図8に示したグラフに基づいて、攪拌翼3の攪拌回転数による細胞死滅の可能性を検討でき、攪拌翼3の攪拌回転数を設定することができる。
【0044】
また、攪拌翼3の攪拌回転数は、培養液中の溶存二酸化炭素濃度に影響する。培養液中の溶存二酸化炭素濃度が大きくなると細胞の増殖性が悪化する。図9に示すように、細胞数密度Xaと、溶存酸素濃度Doを一定とした条件で、攪拌翼3の回転数をパラメータとして、微分方程式を解いて求めた培養槽1内の溶存二酸化炭素濃度を示す。図9より、攪拌翼3の回転数を増加させる時、培養槽1内の溶存二酸化炭素濃度は減少することがわかる。これは、回転数の増加とともに気泡および自由液面での二酸化炭素の移動容量係数が大きくなるため、バイオマスから吐き出された溶存二酸化炭素が気相へ移動し自由液面を通じて培養槽1から排出される速度が大きくなることによる。細胞死滅の観点から培養槽内の溶存二酸化炭素濃度は100mg/L以下であることが望ましく、図9に示したグラフに基づいて、回転数25rpm以上、溶存酸素濃度3.6mg/L以下に設定すべきことが把握される。このように本発明に係る制御装置においては、図9に示したグラフに基づいて、回転数による細胞死滅の可能性を検討でき、攪拌翼3の攪拌回転数を設定することができる。
【0045】
なお、図7に示したコルモゴロフスケールを示すグラフと図8に示した溶存二酸化炭素濃度を示すグラフとに基づいて、せん断応力によって細胞が死滅することが極力少ない条件下で溶存二酸化炭素濃度を100mg/L以下とする攪拌翼3の回転数として回転数25−30rpmを決定することができる。
【0046】
このように、細胞が死滅するのを極力少なくして運転できる回転数範囲を設定した運転制御が行える。
【0047】
さらにまた、本実施例に係る制御装置における演算処理装置8は、培養槽1に対する通気量と攪拌翼3の回転数の制御目標値を決定するだけでなく、栄養供給制御の制御目標値を決定することもできる。栄養供給制御は、培養の過程で消費した栄養成分を新鮮培地とともに追加的に供給しながら培養を続けるものであり、流加培養法と呼ばれる。流加培養では培地が注ぎ足されるのみであり、培地の引き抜きは行わないので、培養の進行とともに液量は増加する。動物細胞培養においては、供給栄養成分(細胞増殖に正に関与する成分)は、グルコース、グルタミン、アミノ酸、血清などである。培地の引き抜きは行わないので、乳酸やアンモニアは減少することなく蓄積していく。
【0048】
上記(9)〜(12)式に示す培地成分の時間変化を記述する微分方程式をみると、定性的につぎのことがわかる。グルコースおよびグルタミンが減少すると細胞増殖速度が減少し、細胞数の増加が抑えられる。生産物の収量は細胞数に比例すると考えるならば、グルコースおよびグルタミンを十分に供給したほうが生産物の収量は増えると考えられる。一方、乳酸とアンモニアの時間変化を記述する微分方程式をみると、グルコースおよびグルタミンが増えると、乳酸およびアンモニア濃度は増加すると考えられるが、乳酸およびアンモニア(細胞増殖に負に関与する成分)の増加は細胞増殖速度を抑制する。したがって、細胞数を最大化し、生産物の収量を最大となるようにするためには、適切なグルタミンおよびグルコース濃度が存在すると考えられる。本実施例に係る制御装置は、グルコースおよびグルタミン等の培地成分に関して最適供給制御することが好ましい。具体的には、演算処理装置8は、上記(9)〜(12)式の微分方程式を用いて次の手順に示す動的計画法により制御目標値を算出する。算出された制御目標値は駆動制御装置6に入力される。駆動制御装置6は、入力した制御目標に基づいて駆動制御信号を生成し、栄養成分供給装置5による培地成分の供給を制御する。
【0049】
先ず、(9)〜(12)式の微分方程式が与えられたとき、細胞数密度、乳酸、アンモニア(細胞増殖に負に関与する成分)の組を状態変数とみなして、
【数26】

とおく。グルコースとグルタミン(細胞増殖に正に関与する成分)を栄養供給装置から与えるものとし、これらの濃度を制御変数とみなして、
【数27】

とおく。すると、(9)〜(12)式の微分方程式の組は、形式的に
【数28】

と書き表せる。時間軸を時系列的にN個に分割すると、時刻n+1における状態ベクトルは、時刻nでの値を用いて
【数29】

となる。生産物の収量は、細胞数密度に比例すると考えられるから、目的関数を
【数30】

とおいて、Gを最大化する制御vn=v(xn)〔n=0,1….N〕を求める。ここに、g(xn,vn)は、離散化された微小領域の積分値で、
【数31】

である。Gの最大値を与える式として、
【数32】

を定義する。X0は状態変数の初期値である。このとき、
【数33】

が成り立つが、この関係式は、一般性を失うことなく、任意の時刻nについて、
【数34】

なる再帰式を導く。
【0050】
動的計画法の計算アルゴリズムは、上記の再帰式を用いて次のようになる。状態変数Xの取り得る変域をx∈Ω3、制御変数Vの取り得る変域をv∈Λ2とする。数値計算を行うために、状態変数の変域Ω3と制御変数の変域Λ2を計算機の記憶容量が許すかぎり離散化する。これは具体的には、例えば、細胞数密度を106個/mLから107個/mLまで、106個/mLごとに10分割し、乳酸を0から1000mg/Lまで100mg/Lごとの領域に10分割し、アンモニアを0から100mg/Lまで10mg/Lごとの領域に10分割するなどを意味する。これによると変域Ω3は、1000の部分領域Ω3i(i=1,…1000)に分割されることになる。同じく制御変数の変域Λ2も、例えば、グルコースを0から2000mg/Lまで10分割し、グルタミンを0から1000mg/Lまで10分割するものとすれば、Λ2は100の部分領域Λ2j(j=1,…100)に分割されることになる。はじめに、すべてのx∈Ω3iについて、
【数35】

を求める。このとき最大値を与えるvN∈Λ2jはxN∈Ω3iごとに異なるから最大値を与えるvNはxNの関数vN=vN(xN)となる。これをメモリー上に記憶しておく。
【0051】
次に、すべてのxN-1∈Ω3iについて、
【数36】

を求める。このとき、右辺第2項は、
【数37】

であるからすでに求まっている。xN-1∈Ω3iごとに最大値を与えるvN-1=vN-1(xN-1)を記憶しておく。以下、同様に、
【数38】

と最大値を与えるvN-n=vN-n(xN-n)を求め、最後に
【数39】

とv0=v0(x0)を求めて、一連の計算を終わる。
【0052】
以上の計算プロセスを通じて、メモリーに記憶されている、vn=v(xn)〔n=0,1….N〕が求める制御であり、xn〔n=0,1….N〕が状態変数の描く軌道であり、FN(x0)が目的関数の最大値である。細胞培養において培養期間を10日程度とし、1日当たりを10に時間分割するとすれば、時間軸の分割数Nは100であり、状態変数の変域Ω3を1000分割するとすれば、上記の計算プロセスにおいてすべての制御vn=v(xn)〔n=1….N〕を記憶するためには、105個の配列変数が必要となる。これは非常に大きな記憶容量であるが、今日の計算機の能力において十分に実施可能なレベルにある。
【0053】
このように、培地成分が時間的に変化することを考慮して生産物の収量を最大となるように、グルタミン、グルコースなどの培地成分の供給量の制御目標値を求め、培地成分供給装置を時間的に変化する制御目標値に一致するように制御することができるので、効率のよい培養槽の制御が行える。
【0054】
本実施例に係る制御装置においては、上述した計算プロセスを演算処理装置8で実行することにより、グルコースおよびグルタミン等の培地成分の供給量を制御する際に使用される制御目標値を算出することができる。演算処理装置8で算出された制御目標値は、駆動制御装置6に入力される。駆動制御装置6では、入力した制御目標値と測定装置4で測定測定値とから、例えばPID制御系により駆動制御信号を生成する。駆動制御信号は、栄養成分供給装置6に出力され、栄養成分供給装置6による栄養成分の供給量を制御する。これにより、本発明に係る制御装置では、バイオマスの増殖を最大となるような条件下で培養槽を駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明を適用した培養槽の制御装置及び培養槽装置の構成を示すブロック図である。
【図2】メッシュデータ生成装置で生成した培養槽内部のメッシュデータを表示した図である。
【図3】時間についての微分方程式を逐次、数値的、離散的、代数的に積分するアルゴリズムを説明するフローチャートである。
【図4−1】表示装置に表示する計算結果の表示例であり、(a)は流速ベクトルの表示例、(b)はガス体積割合の表示例、(c)は乱流エネルギーkの分布表示例、(d)は乱流エネルギー散逸率εの分布表示例である。
【図4−2】表示装置に表示する計算結果の表示例であり、(e)は酸素移動容量係数KLaの分布表示例、(f)コルモゴロフスケールの分布表示例、(g)は酸素濃度分布の画像表示例、(h)は二酸化炭素濃度分布の画像表示例である。
【図5】表示装置に表示する計算結果のグラフ表示例であり、(a)は攪拌翼の回転数と乱流エネルギーk及び乱流エネルギー散逸率εとの関係をグラフ表示例、(b)は攪拌翼の回転数と全体の酸素移動容量係数Kla、液面の酸素移動容量係数Kla,s及び気泡の酸素移動容量係数Kla,bとの関係のグラフ表示例である。
【図6】酸素の通気量を求める、はさみうち法のアルゴリズムを説明するフローチャートである。
【図7】回転数をパラメータとしたときのコルモゴロフスケールの特性図である。
【図8】細胞数密度Xaと溶存酸素濃度Doを一定とした条件で、攪拌翼3の回転数をパラメータとして、微分方程式を解いて求めた培養槽内の溶存二酸化炭素濃度を示す特性図である。
【符号の説明】
【0056】
1…培養槽、2…通気装置、3…攪拌翼、4…測定装置、5…栄養成分供給装置、6…駆動制御装置、7…メッシュデータ生成装置、8…演算処理装置、9…記憶装置、10…出力表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物細胞あるいは微生物などを培養する培養槽と、該培養槽の状態量を測定する測定装置と、培養槽を制御する駆動制御装置と、前記培養槽の状態量を計算する演算処理装置と、培養槽に関する形状データ、運転条件、初期の培養液成分濃度、バイオマス濃度を含む初期値データから前記演算処理装置により演算された前記培養槽の状態量の時間変化および空間分布計算値を表示する表示装置を備えたことを特徴とする培養槽の制御装置。
【請求項2】
バイオマスを培養する培養槽に関する形状データ、運転条件、初期の培養液成分濃度、バイオマス濃度を含む初期値データから培地成分の輸送モデル及び培地成分の増殖、生成、消滅を記述する反応動力学モデルにより前記培養槽内の培地成分の流動状態、バイオマス代謝物の空間分布及び時間的変化を求め、該培養槽内の培地成分の流動状態、バイオマス代謝物の空間分布及び時間的変化から制御目標値を算出し、該算出された制御目標値により前記培養槽の運転制御を行うことを特徴とする培養槽の制御装置。
【請求項3】
バイオマスを培養する培養槽に関する形状データ、運転条件、初期の培養液成分濃度、バイオマス濃度を含む初期値データから培地成分の輸送モデル及び培地成分の増殖、生成、消滅を記述する反応動力学モデルにより前記培養槽内の培地成分の流動状態、バイオマス代謝物の空間分布を求め、該培養槽内の培地成分の流動状態、バイオマス代謝物の空間分布から制御目標値を算出し、該算出された制御目標値により前記培養槽の運転制御を行うことを特徴とする培養槽の制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の培養槽の制御装置において、培養槽の状態量が、培地中の、基質成分、産生成分、細胞数密度、酸素濃度、2酸化炭素濃度、pH、および培養槽排気ガス成分のいづれか1つ以上を含み、前記演算処理装置は、前記培養槽の形状を空間的に分割された計算格子を用いて、培養液およびガスの流体力学的運動方程式、及び流れの乱流特性量である乱流エネルギーkと乱流エネルギー散逸率εの輸送方程式を数値的、離散的、代数的に解き、前記乱流エネルギーkと乱流エネルギー散逸率εの関数として、酸素、2酸化炭素を含む気相液相間の物質移動容量係数kLa を算出し、代謝プロセスの化学反応方程式を数値的に計算することにより、細胞の増殖速度、死滅速度、単位時間当りに消費する酸素と基質成分の消費速度、単位時間当りに吐き出す2酸化炭素と産生成分の生成速度を算出し、前記算出された酸素消費速度、2酸化炭素生成速度、基質成分消費速度、産生成分生成速度、および物質移動容量係数から、培養槽内の溶存酸素濃度、ガス中酸素濃度、溶存2酸化炭素濃度、ガス中2酸化炭素濃度、基質成分濃度、および産生成分濃度を算出することを特徴とする培養槽の制御装置。
【請求項5】
請求項2に記載の培養槽の制御装置において、前記制御目標値が通気酸素量であって、前記運転条件として設定された溶存酸素濃度と一致するように演算された溶存酸素濃度から前記通気酸素量の制御目標値を算出することを特徴とする培養槽の制御装置。
【請求項6】
請求項1、2又は4に記載の培養槽の制御装置において、前記制御目標値が攪拌翼の回転数であって、前記演算された培地成分の流動状態、溶存二酸化炭素濃度から前記攪拌翼の回転数の制御目標値を算出することを特徴とする培養槽の制御装置。
【請求項7】
請求項1又は4に記載した培養槽の制御装置において、培養液中のグルコース、グルタミン、乳酸、アンモニアおよびアミノ酸を時系列的にオンラインで計測し、該オンラインで計測された時系列計測データを処理して、化学反応方程式に含まれるモデル定数を求める培養槽の制御装置。
【請求項8】
請求項1又は4に記載した培養槽の制御装置において、培地中の成分をオンラインで計測しつつ、モデル定数が求められた化学反応微分方程式の組に対し、収穫すべき産生物の収量を与える式を目的関数として、この目的関数を最大化する、基質成分の培養中の時系列的供給量を算出する最適制御アルゴリズムを有する培養槽の制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載した最適制御アルゴリズムにおいて、細胞数密度、乳酸濃度、アンモニア濃度を状態変数とし、グルコース濃度、グルタミン濃度を制御変数として、状態変数のとりうる3次元変域Ω3を有限個の3次元部分領域Ω3i(i=1….N)に分割し、制御変数のとりうる2次元変域Λ2を有限個の2次元部分領域Λ2j(j=1….M)に分割して、動的計画法により、グルタミンとグルコースの時系列的供給量を決定することを特徴とする培養槽の制御装置。
【請求項10】
バイオマスを培養する培養槽と、該培養槽内に酸素ガスを供給する通気装置と、前記培養槽内の培養液を攪拌する攪拌翼と、培養液に栄養成分を供給する栄養成分供給装置と、
前記培養槽に関する形状データ、運転条件、初期の培養液成分濃度、バイオマス濃度を含む初期値データから培地成分の輸送モデル及び培地成分の増殖、生成、消滅を記述する反応動力学モデルにより前記培養槽内の培地成分の流動状態、バイオマス代謝物の空間分布を求め、該培養槽内の培地成分の流動状態、バイオマス代謝物の空間分布から制御目標値を算出し、該算出された制御目標値により前記通気装置、攪拌翼の回転数、栄養成分供給装置を制御する制御装置を備えた培養槽装置。
【請求項11】
培養液中に酸素ガスを通気、攪拌しつつバイオマスを培養する培養槽に接続され、培地中の栄養成分、酸素濃度、二酸化炭素濃度及びバイオマス濃度を測定する測定手段からの測定データを入力する入力手段と、
上記入力手段で入力した測定データから単位バイオマス量あたりの栄養成分消費速度、酸素消費速度、二酸化炭素排出速度を算出し、輸送方程式から算出される乱流エネルギーk並びに乱流エネルギー散逸率εと拡散係数Dとから物質移動容量係数kLaを算出し、算出した栄養成分消費速度、酸素消費速度、二酸化炭素排出速度及び物質移動容量係数kLaから培地成分の時間変化を記述する微分方程式を数値的に積分するアルゴリズムを用いて培養槽内の任意の領域における栄養成分濃度、溶存酸素濃度及び溶存二酸化炭素濃度を算出する演算手段と、
上記演算手段で算出した培養槽内の任意の領域における栄養成分濃度、溶存酸素濃度及び溶存二酸化炭素濃度から、培養槽内の栄養成分分布、溶存酸素分布及び溶存二酸化炭素分布を表示する表示手段とを備える、培養槽の制御装置。
【請求項12】
上記演算手段は、算出した溶存酸素濃度と予め設定された溶存酸素濃度の目標値とを比較して、培養槽に供給する酸素ガス量を制御する制御信号を生成することを特徴とする請求項11記載の培養槽の制御装置。
【請求項13】
上記演算手段は、バイオマス死滅の指標となる値を算出し、培養槽内の攪拌翼の回転数を制御する制御信号を生成することを特徴とする請求項11記載の培養槽の制御装置。
【請求項14】
上記微分方程式が実験定数を含み、上記演算手段は、上記入力手段で入力した測定データと、上記微分方程式を数値的に積分して得られる測定値データとを最小二乗法で一致させるように上記実験定数を算出し、上記微分方程式を再設定することを特徴とする請求項11記載の培養槽の制御装置。
【請求項15】
上記入力手段は、バイオマス濃度、培養において消費する成分及び培養において生成する成分の測定データを測定し、
上記演算手段は、収穫すべき産生物の収量を与える式を目的関数として、細胞数密度、培養において生成する成分の濃度を状態変数とし、培養において消費する成分濃度を制御変数として、状態変数のとりうる変域を有限個の部分領域に分割し、制御変数のとりうる変域を有限個の部分領域に分割し、動的計画法により、目的関数を最大化する培養において消費する成分の時系列的供給制御信号を生成することを特徴とする請求項11記載の培養槽の制御装置。
【請求項16】
培養液中に酸素ガスを通気、攪拌しつつバイオマスを培養する培養槽と、
上記培養槽に接続され、培養槽内部の培地中の栄養成分、酸素濃度、二酸化炭素濃度及びバイオマス濃度を測定する測定手段と、
少なくとも、上記測定手段で測定した培養槽内部の培地中の栄養成分、酸素濃度、二酸化炭素濃度及びバイオマス濃度に関する測定データを入力する入力手段と、
上記入力手段で入力した測定データから単位バイオマス量あたりの栄養成分消費速度、酸素消費速度、二酸化炭素排出速度を算出し、輸送方程式から算出される乱流エネルギーk並びに乱流エネルギー散逸率εと拡散係数Dとから物質移動容量係数kLaを算出し、算出した栄養成分消費速度、酸素消費速度、二酸化炭素排出速度及び物質移動容量係数kLaから培地成分の時間変化を記述する微分方程式を数値的に積分するアルゴリズムを用いて培養槽内の任意の領域における栄養成分濃度、溶存酸素濃度及び溶存二酸化炭素濃度を算出する演算手段と、
上記演算手段で算出した培養槽内の任意の領域における栄養成分濃度、溶存酸素濃度及び溶存二酸化炭素濃度から、培養槽内の栄養成分分布、溶存酸素分布及び溶存二酸化炭素分布を表示する表示手段とを備える、培養装置。
【請求項17】
上記演算手段が算出した溶存酸素濃度と、予め設定された溶存酸素濃度の目標値とを比較して、培養槽に供給する酸素ガス量を制御する制御信号に基づいて酸素ガスを培養槽に供給する酸素ガス供給装置を更に有することを特徴とする請求項16記載の培養装置。
【請求項18】
上記演算手段がバイオマス死滅の指標となる値を算出し、上記演算手段が生成する制御信号に基づいて培養槽内の攪拌翼の回転数を制御することを特徴とする請求項16記載の培養装置。
【請求項19】
上記微分方程式が実験定数を含み、上記演算手段は、上記入力手段で入力した測定データと、上記微分方程式を数値的に積分して得られる測定値データとを最小二乗法で一致させるように上記実験定数を算出し、上記微分方程式を再設定することを特徴とする請求項16記載の培養装置。
【請求項20】
培養槽内に細胞増殖に正に関与する成分を供給する供給装置を更に有し、
上記測定装置はバイオマス濃度、培養において消費する成分及び細胞増殖に負に関与する成分の測定データを測定し、上記演算手段は収穫すべき産生物の収量を与える式を目的関数として、細胞数密度、培養において生成する成分の濃度を状態変数とし、培養において消費する成分濃度を制御変数として、状態変数のとりうる変域を有限個の部分領域に分割し、制御変数のとりうる変域を有限個の部分領域に分割し、動的計画法により、目的関数を最大化する培養において消費する成分の時系列的供給制御信号を生成し、上記供給装置が時系列的供給制御信号に従って培養において消費する成分を培養槽に供給することを特徴とする請求項16記載の培養装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4−1】
image rotate

【図4−2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate