説明

培養液中の溶存酸素濃度を制御、管理できる水耕栽培システム

【解決手段】水耕栽培において、気体溶解装置3を用いて、培養液1中の溶存酸素濃度を高め、栽培作物の生育時期、生育条件に応じた溶存酸素濃度を維持することにより、作物の生育を促進する。作物の酸素消費量は成長時期、日照時間、水温等により変化するので、常時培養液1中の溶存酸素濃度を測定しながら、気体溶解装置3の運転を制御して、所要の培養液1中の酸素濃度を維持する。
【効果】本発明で開示する水耕栽培装置、システムを用いれば、培養液中の溶存酸素濃度を栽培作物根部の生育状況に適応したレベルに制御、管理することが可能となり、水耕栽培の生産性向上に寄与できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌を使わずに作物を成育させる水耕栽培装置において、栽培作物の根に生育に必要な酸素を十分に供給するため、培養液中の溶存酸素濃度を高めて、維持することにより効率的に作物を栽培することができる水耕栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
作物の根は呼吸作用を行い、養分吸収や成長のためのエネルギ−を得ている。呼吸作用には基質(糖類)と酸素が必要で、一部の通気組織が発達している作物を除き、根は直接酸素を吸収している。根の成長や働きが不良になると、その影響は速やかに地上部の生育に及ぶので、呼吸活性に影響する根域の酸素レベルは植生を決定する重要な要因の一つである。水耕栽培における根は常に培養液中にあり、呼吸に必要な酸素はその液中から求める。
【0003】
例えば、トマトは溶存酸素が3〜4ppmになると成長不良となり、キュウリは2ppm以下で生育制御が起き、またメロンでは2ppm以下になると根の呼吸が著しく阻害されると言われている。培養液への酸素補給は、液表面から自然に混入されるが、作物が大きくなるとそれだけでは不十分であり、溶液中に酸素を積極的に供給する必要がある。
【0004】
水耕栽培において培養液中に酸素を供給する方法、システムに関する特許としては、水耕栽培槽内の培養液を常に流動させて溶存酸素を高める方法、根全体あるいは大部分を空気中に曝して、そこから酸素を供給する方法、マイクロバブルを混合する酸素供給装置、吸排水パイプの中で水と空気を混合する装置、溶液栽培ベットの底部に備えられたフイルタ−を適宜空気中に露出させる装置、および気体分離膜で得られた酸素富化空気を培養液中に供給する方法がある。
【特許文献1】特開2002−14258 水耕栽培酸素供給システム
【特許文献2】特開2000−236762 マイクロバブル水耕栽培システム
【特許文献3】特開平8−71388 酸素飽和溶液栽培装置
【特許文献4】特開平7−313005 水耕栽培用酸素及び微細気泡供給方法と装置
【特許文献5】特開平5−30870 水の溶存酸素供給方法及びこれを用いた水耕 栽培装置
【特許文献6】特開2002−291358 水耕栽培
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記文献による方法では、培養液中の溶存酸素濃度を一定、又はある領域に維持することは困難である。
【0006】
作物の根は呼吸によって得られるエネルギ−を自身の成長や養水分吸収などの生理的機能に役立たせている。根の成長や働きが不良になると、その成長は速やかに地上部の生育に及ぶので、呼吸活性に影響する根域の酸素レベルは植生を決定する重要な要因の一つである。水耕栽培における作物の根は、常に培養液中にあり、呼吸に必要な酸素は液中から求めるため酸素不足が起こりやすい。
【0007】
作物の根1g・1時間当たり酸素要求量は0.2mg〜0.3mgであると言われている。溶液1 Lに10gの根が存在する場合、酸素を補給しないと溶存酸素は2〜3時間で枯渇し、作物は生育不良をおこす。
【0008】
根や培養液中の微生物の呼吸による酸素消費量は高温ほど大きくなるので、液温が高くなる夏季に酸素不足になりやすい。
【0009】
野菜によっては酸素要求性が高いもの、溶存酸素濃度に敏感な種類がある。それら野菜の水耕栽培を行う場合、溶存酸素の効率的な供給が必要不可欠である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、水耕栽培の培養液槽の一箇所ないし数箇所においてパイプで繋がった気体溶解装置と、その気体溶解装置とパイプで繋がれた酸素発生装置、および培養液の循環ポンプの運転を電気的に制御する電気制御盤、および培養液中の溶存酸素濃度、水温、流速を測定する溶存酸素計、温度計、流速計などから構成されている。
【0011】
本発明は、水耕栽培の培養液槽の一箇所ないし数箇所においてパイプで繋がれた気体溶解装置にコンプレッサ−で得られる高圧空気を供給することが可能である。
【0012】
水耕栽培槽内の培養液を循環ポンプで気体溶解装置に送り込み、同時に酸素発生装置から発生した酸素、またはコンプレッサ−の高圧空気を気体溶解装置に吹き込むと、気体溶解装置内で培養液は空気、または酸素が激しく衝突、撹乱して、培養液の溶存酸素濃度は高くなる。その高濃度酸素溶液を水耕栽培槽に送り込むと栽培作物の根に十分な酸素を供給できる。
【0013】
培養液の溶存酸素濃度を水耕栽培槽に取り付けられた溶存酸素計で常時測定して、当該溶存酸素計の測定値で培養液の溶存酸素濃度を一定値に維持するよう送水ポンプ、酸素発生器、コンプレッサ−の運転を制御する。
【0014】
トマト、キュウリ、メロンなど栽培作物の種類に応じて、水耕栽培槽の溶存酸素濃度を維持する。例えば、前記したようにトマトは溶存酸素が3〜4ppmになると成長不良となり、キュウリは2ppm以下で成育制御が起き、またメロンは2ppm以下になると根の呼吸が著しく阻害されると言われているので、これらの値以上に溶存酸素濃度を維持する。
【0015】
また、作物の生育時期、水温等の生育状況に適応した培養液の溶存酸素濃度を管理することにより、作物の根の生理活性を高め、作物の生育を促進する。
【発明の効果】
【0016】
本発明で開示する水耕栽培装置、システムを用いれば、培養液中の溶存酸素濃度を栽培作物根部の生育状況に適応したレベルに制御、管理することが可能となり、水耕栽培の生産性向上に寄与できる。
【0017】
気体溶解効率が高い気体溶解装置を用いると、水耕栽培における酸素消費量から試算して酸素や酸素富化空気を用いなくても、空気のみで溶存酸素濃度の制御、管理は可能であり、設備費もランニングコストも安くすることができる。
【0018】
気体溶解効率が高い気体溶解装置を用いると、短時間で溶存酸素濃度を高めることが可能であるので、酸素発生装置やコンプレッサ−の運転時間や送風量を調整することで、培養液の溶存酸素濃度を一定範囲内に維持することができ、作物の安定した生産が可能となる。
【0019】
作物の成長時期、日照時間・強度、水温等による飽和溶存酸素濃度変化等に対しても気体溶解装置、循環ポンプ、酸素発生装置、またはコンプレッサ−の運転を制御することで、溶存酸素濃度の制御、管理は可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
水耕栽培槽の中にセットした溶存酸素計、水温計で培養液中の酸素濃度、溶液温度を測定して、気体溶解装置の運転時間、酸素発生装置、またはコンプレッサ−からの送風量をon−off制御、比例、ファジィ制御する。
【実施例1】
【0021】
気体溶解装置で溶存酸素濃度を高めた試験区と、対照区として通常の方法による試験区を設けて、ネギ(品種、夏彦)の生育実験を行い、両区で収穫したネギの収量を比較した。育苗試験にはロックウ−ルマットを用い、1穴に7〜8粒を播いた。播種してから25日目に定植し、32目に収穫を行なった。日中の培養液の酸素濃度は、試験区が10〜20ppm以上であり、対照区は試験区より7〜13ppm低くかった。両区のネギ生育状況を比較すると、試験区が草丈は高く、1本重も重く、根長も長かった、また乾物重も地上部、地下部とも重かった。試験区、対照区のネギの成育状況(平均値)を次表に示す。

【実施例2】
【0022】
酸素発生装置で発生した酸素を気体溶解装置に送入して溶存酸素濃度を高めた培養液用原水と培養液を、それぞれ別のタンクに貯蔵して溶存酸素濃度(ppm)を測定したところ、原水、培養液とも一定期間高濃度に維持できた。その結果を次表に示す。

【産業上の利用可能性】
【0023】
ハウス栽培農家、及び野菜、果実の効率的生産を目指すアグリビジネスでの活用が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】は培養液中の溶存酸素濃度を制御、管理できる水耕栽培システムの概念図である。
【符号の説明】
【0025】
1.培養液
2.循環ポンプ
3.気体溶解装置
4.酸素発生装置又はコンプレッサ−
5.制御盤
6.培養液タンク
7.溶存酸素濃度センサ
8.各種センサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培作物を水耕栽培するにあたって、培養液等の液体と酸素あるいは空気等の気体を金属あるいは樹脂製の特殊容器に送入して高圧状態下で液体と気体を急激に攪拌、衝突させて液体の中に気体を溶解させる気体溶解装置を用いて、前記培養液中の溶存酸素濃度を栽培作物の種類や生育状況に応じて制御、管理することを特徴とする水耕栽培システム。
【請求項2】
請求項1において、酸素発生装置から得た酸素と培養液を気体溶解装置に送入して、培養液の溶存酸素濃度を高めることを特徴とする水耕栽培システム。
【請求項3】
請求項1において、コンプレッサ−で得られる高圧空気と培養液を気体溶解装置に送入して、培養液の溶存酸素濃度を高めることを特徴とする水耕栽培システム。
【請求項4】
請求項1において、酸素発生装置から得た酸素、またはコンプレッサ−で得られる高圧空気と、水道水、地下水などを気体溶解装置に送り込んで高濃度酸素溶解水を製造し、その溶解水を培養液に混入して、培養液の溶存酸素濃度を制御、管理することを特徴とする水耕栽培システム。
【請求項5】
請求項1において、水耕栽培槽の溶存酸素濃度を制御するのに、培養液内に取り付けられた溶存酸素計の計測値で気体溶解装置の運転をon-off制御、または比例制御することを特徴とする水耕栽培システム。
【請求項6】
請求項1において、水耕栽培槽の溶存酸素濃度を制御するのに、気体溶解装置の運転を、水温計、照度計の値を上乗せして、培養液の溶存酸素濃度を比例制御、またはファジィ制御が出来ることを特徴とする水耕栽培システム。









【図1】
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【公開番号】特開2007−6859(P2007−6859A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−195015(P2005−195015)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(500500446)松江土建株式会社 (11)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【出願人】(305006680)山陰エレベータ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】