説明

培養液供給装置及び培養装置

【課題】簡単な構成からなる培養容器を用いた培養装置の提供。
【解決手段】給液口54aを上板54に備えた排液タンク5と、給液口43aを上板43に備えると共に排液口42aを下板42に備え、排液タンク5の上板54上に配置された細胞保管容器4と、給液口34aを上板34に備えると共に排液口32aを下板32に備え、細胞保管容器4の上板43上に配置された供給液計量タンク3と、排液口22aを下板22に備えて供給液計量タンク3の上板34上に配置された供給液タンク2とを備えている。供給液タンク2は、排液口22aと給液口34aとが連通する位置と隔絶する位置との間で水平方向に回転時在に配置されている。細胞保管容器4は、排液口42aと給液口54aとが連通する位置と、排液口32aと給液口43aとが連通する位置との間で水平方向に回転時在に配置されている培養装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真核生物・原核生物の各種細胞を培養する培養容器に培養液を供給する培養液供給装置、及びこの培養液供給装置を備えた培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生物や医療の分野においては、原核生物である細菌や古細菌の細胞のみならず、真核細胞である動物細胞や植物細胞の培養が行われている。
これらの細胞は、細胞の種類毎に専用の組成の培養用の培養液(培地)を用いて、温度、湿度、二酸化炭素(CO2)等のガスの供給を調整して培養する必要がある。この細胞用の培養液は、細胞の栄養源となり、代謝物の排出先となるため、細胞の種類や培養方法に係る期間にて交換する必要がある。この培養液の交換の際には、他の微生物等のコンタミネーション(汚染)を防ぐために、無菌の安全キャビネット(biological safety cabinet)内で行う必要があり、無菌操作を行う必要があった。
【0003】
これら生物や医療の分野で細胞を小規模で培養する場合、培養容器として、プラスチック製のプレート、いわゆるペトリ皿(シャーレ)等を用いて、数mL〜数百mL程度の液体状の培養液を入れて細胞を蒔いて培養することがよく行われている。
この培養容器を用いて、細胞を培養する際には:
(1)蓋をしたプレートを安全キャビネット内に置いて、蓋を取り、古い培養液を吸引等で除き、滅菌された新鮮な培養液をスポイト等で入れる。
(2)プレートに蓋をする。
(3)蓋をしたプレートを、温度、湿度、ガスの濃度が、その細胞に合わせて一定に保たれたインキュベーター(恒温器)に静置する。
(4)所定の期間が過ぎた後、蓋をされたプレートをインキュベーターから取り出して、安全キャビネット内で培養液を交換する。
といったプレートの出し入れにより、培養液の交換を、研究者や実験員等の作業者が行う必要があった。
この培養液の交換は、特にフィーダー細胞等を用いて特殊な培養液にて培養する動物のES(Embryonic stem)細胞やIPS(Induced pluripotent stem)細胞の場合、数時間〜数日といった単位で頻繁に行う必要があり、作業者の作業負担が大きかった。
【0004】
ここで、従来の技術として、微生物や真核生物の細胞を培養する液体培養ユニットについて、下記の特許文献1を参照して説明する。この特許文献1の液体培養ユニットは、大規模な培養装置であり、培養容器にガス交換ライン、新鮮培地供給ライン、及び廃液抜出しラインが接続されている。ガス交換ラインでは培地が循環しており、成分の調整された培地が培養容器内に常時供給されている。培地交換時期になると、廃液抜出しラインから使用済の培地が排出され、培地タンクに貯蔵された培地が新鮮培地供給ラインから培養容器に供給される。
また、下記の特許文献2の培養観察装置では、インキュベーター部内の培養容器を観察するために、多関節ロボットで培養容器を搬送している。
【0005】
【特許文献1】特開平6−261736号公報
【特許文献2】特開2009−136233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来、培養容器を用いた細胞の培養を自動化するためには、培養液の成分調整や交換、培養容器内の細胞の観察のために大がかりな装置が必要とされていた。
しかしながら、生物や医学の実験分野では、上述のようなペトリ皿等を用いた小規模な培養を用いることが多い。
このような小規模な細胞の培養においては、従来の大がかりな装置を用いるのはコストがかかりすぎるという問題があった。
【0007】
本発明の目的は斯かる課題に鑑みてなされたもので、培養容器を用いた培養を簡単な構成で簡略化することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、本発明の培養液供給装置は、培養液を溜めておく供給液タンクと、該供給液タンクから滴下された培養液を計量して培養容器に滴下する供給液計量タンクと、該培養容器からの使用済み培養液を滴下される排液タンクとを備えることを特徴とする。
また、本発明の培養液供給装置は、給液口を天板に備えており、培養液の供給対象となる培養容器が前記天板上に配置される排液タンクと、給液口を天板に備えると共に排液口を底板に備え、前記培養容器の天板上に配置される供給液計量タンクと、排液口を底板に備えて前記供給液計量タンクの前記天板上に配置された供給液タンクと、を備え、前記供給液タンク及び前記供給液計量タンクは、前記供給液タンクの前記排液口と前記供給液計量タンクの前記給液口とが連通する位置と隔絶する位置との間で互いの位置を変更自在に配置され、前記供給液計量タンク及び前記培養容器は、前記供給液計量タンクの前記排液口と前記培養容器が天板に備えた給液口とが連通する位置と隔絶する位置との間で互いの位置を変更自在に配置され、前記培養容器及び前記排液タンクは、前記培養容器が底板に備えた排液口と前記排液タンクの前記給液口とが連通する位置と隔絶する位置との間で互いの位置を変更自在に配置されていることを特徴とする。
また、本発明は、前記供給液タンク、前記供給液計量タンク、及び前記排液タンクが一体化されており、全体として筒状を呈していることを特徴とする。
また、本発明は、前記培養容器から前記排液タンクに培養液を供給する廃液動作は、前記供給液計量タンクから前記培養容器に培養液を供給する給液動作が実行されてからタイマで所定時間が計時されると実行されることを特徴とする。
また、本発明の培養装置は、培養液を溜めておく供給液タンクと、該供給液タンクから滴下された培養液を計量して滴下する供給液計量タンクと、該供給液計量タンクから培養液を滴下される細胞保管容器と、該細胞保管容器からの使用済み培養液を滴下される排液タンクとを備えることを特徴とする。
また、本発明の培養装置は、給液口を天板に備えた排液タンクと、給液口を天板に備えると共に排液口を底板に備え、前記排液タンクの前記天板上に配置された細胞保管容器と、給液口を天板に備えると共に排液口を底板に備え、前記細胞保管容器の前記天板上に配置された供給液計量タンクと、排液口を底板に備えて前記供給液計量タンクの前記天板上に配置された供給液タンクと、を備え、前記供給液タンク及び前記供給液計量タンクは、前記供給液タンクの前記排液口と前記供給液計量タンクの前記給液口とが連通する位置と隔絶する位置との間で互いの位置を変更自在に配置され、前記供給液計量タンク及び前記細胞保管容器は、前記供給液計量タンクの前記排液口と前記細胞保管容器の前記給液口とが連通する位置と隔絶する位置との間で互いの位置を変更自在に配置され、前記細胞保管容器及び前記排液タンクは、前記細胞保管容器の前記排液口と前記排液タンクの前記給液口とが連通する位置と隔絶する位置との間で互いの位置を変更自在に配置されていることを特徴とする。
また、本発明は、前記供給液タンク、前記供給液計量タンク、前記細胞保管容器、及び前記排液タンクは一体化されており、全体として筒状を呈していることを特徴とする。
また、本発明は、前記供給液タンク、前記供給液計量タンク、及び前記細胞保管容器は、透明な材質から形成されていることを特徴とする。
また、本発明は、前記細胞保管容器から前記排液タンクに培養液を供給する廃液動作は、前記供給液計量タンクから前記細胞保管容器に培養液を供給する給液動作が実行されてからタイマで所定時間が計時されると実行されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、培養液の交換のための配管やタンクの設置スペースを省略し、簡単な構成で細胞の培養を簡略化することができる。また、細胞保管容器をインキュベーターから出し入れして作業員が培養液を交換する手間を省き、簡単な構成で細胞の培養を省力化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態の培養装置を示す図であり、(a)は平面図,(b)は側面図である。
【図2】供給液計量タンクで培養液を計量すると共に細胞保管容器から培養液を排出する状態を示した培養装置を示す図であり、(a)は平面図,(b)は縦断面図である。
【図3】細胞保管容器に培養液を供給する状態を示した培養装置を示す図であり、(a)は平面図,(b)は縦断面図である。
【図4】供給液計量タンクでの培養液の計量,細胞保管容器への培養液の供給,細胞保管容器からの培養液の排出を(a)〜(c)にかけて順に示す図であり、培養装置の水平方向に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。
図1は、本実施形態の培養装置を示す図であり、(a)は平面図,(b)は側面図である。図2は、供給液計量タンクで培養液を計量すると共に細胞保管容器から培養液を排出する状態を示した培養装置を示す図である。図3は、細胞保管容器に培養液を供給する状態を示した培養装置を示す図である。
【0012】
図1に示す培養装置1は、培養液が貯留される供給液タンク2と、供給液タンク2の上端開口部を塞ぐカバー6と、供給液タンク2から供給された培養液を計量するための供給液計量タンク3と、細胞が保管される細胞保管容器4と、使用済の培養液が貯留される排液タンク5とを備えており、例えば、ポリスチレンやアクリル樹脂等の透明な樹脂で形成されている。この培養装置1は、各部位を分離可能に構成している。また、培養装置1の全体又は各部は、オートクレーブ等で滅菌可能なように構成することが好適である。
また、培養装置1には、コンタミネーションを防ぐための、疎水性のメンブランフィルター等であるフィルター7aと7bとを備えている。
さらに、培養装置1には、図示しない開閉装置を備えている。この開閉装置は、電磁式のアクチュエータと、タイマ等を備えている。開閉装置は、タイマにより所定の期間を指定して、計量切替レバー23と排液操作レバー45を移動させて、後述する培養液の交換動作を行わせることができる。
加えて、培養装置1と開閉装置とは、携帯可能な大きさ・重さに構成されている。このため、安全キャビネット内で、培養液を入れた細胞保管容器4に細胞を播き、供給液タンク2に新鮮な培養液を入れた状態で、培養装置1と開閉装置とをインキュベーター内に配置することができる。
【0013】
図2及び図3に示すように、供給液タンク2は、円筒状の周壁部21の下端を円板状の下板22で塞いだ有底筒状を呈しており、下板22の周縁部には排液口22aを備えている。図示しないが、下板22の下面には、排液口22aを囲んでシール部材が設けられている。シール部材は、供給液計量タンク3の後述する上板34と下板22との間に介在させられる。このシール部材としては、シリコーンゴム等を用いることができる。また、このシール部材には、気体と液体を透過して細胞やウィルス等を通過させないメンブレンフィルタ等を備えていてもよい。供給液タンク2は、供給液計量タンク3の後述するタンク本体3Aが備える周壁部31に、軸心を中心として水平方向に回転自在に周壁部21が支持されている。
【0014】
周壁部21の外周面には、計量切替レバー23が設けられている。計量切替レバー23は、右回り又は左回り水平方向に操作されて、供給液タンク2を操作方向に回転させる。
【0015】
供給液計量タンク3は、有底筒状のタンク本体3A内に有底筒状のタンク蓋3Bを嵌め合わされて構成されている。タンク本体3Aは、円筒状の周壁部31の下端部を、円板状の下板32で塞いで構成されている。周壁部31の下端は、下板32の下方にまで延びている。下板32の周縁部には、排液口32aが備えられている。図示しないが、下板32の下面には、排液口32aを囲んでシール部材が設けられている。シール部材は、細胞保管容器4の後述する上板43と下板32との間に介在させられる。
【0016】
タンク蓋3Bは、円筒状の周壁部33の上端を円板状の上板34で塞いで構成されている。上板34の周縁部には、給液口34aが備えられている。また、上板34には、上板34の中央部から周縁部にかけて、周壁部34と同じ高さで延びた一対の隔壁35が形成されている。両隔壁は、上板34の中央部で互いの一端部を連結させて上板34の経方向に延び、他端部を周壁部33に連結させている。
【0017】
タンク蓋3Bは、タンク本体3A内に挿入されて、タンク本体3Aの周壁部31に周壁部33が嵌め合わされることで、タンク本体3Aと一体化されている。供給液計量タンク3は、図1に示すように、周壁部31が支持板12に固定されて支持されている。
【0018】
タンク本体3Aとタンク蓋3Bとが一体化された供給液計量タンク3には、タンク蓋3Bの周壁部33,隔壁35,及び上板34と、タンク本体3Aの下板32とで、計量室3Cが形成されている。タンク本体3Aの排液口32a、及び、タンク蓋3Bの給液口34aは、この計量室3C内に開口して、供給液計量タンク3の外部と計量室3Cとを連通している。供給液計量タンク3で計量される培養液の量は、計量室3Cの容量によって定められる。この計量される培養液の量は、細胞保管容器4で培養する細胞の種類により、数mL〜数百mLのような様々な容量を計測可能である。供給液計量タンク3は、細胞保管容器4に対する1回の培養液の供給量に応じて、計量室3Cの容量が異なるものが用いられる。
【0019】
細胞保管容器4は、有底筒状の容器本体4Aと、容器本体4Aの上端部を覆う蓋体4Bとから構成されている。容器本体4Aは、円筒状の周壁部41の下端部を円板状の下板42で塞いで構成されている。下板42の周縁部には、排液口42aが備えられている。図示しないが、下板42の下面には、排液口42aを囲んでシール部材が設けられている。シール部材は、排液タンク5の後述する上板54と下板42との間に介在させられる。
細胞保管容器4は、細胞を培養する培養容器であり、主に液体の培養液を用いて培養する各種細胞を入れておくことができる。各種細胞としては、細菌、古細菌、真核生物の各種細胞を含む。細菌としては、完全好気性細菌から嫌気性細菌までの細菌を含み、生物封じ込めレベルが高い細菌も扱うことができる。また、古細菌としては、高熱・高温環境が必要な細菌も用いることができる。また、細胞に感染する各種ウィルス、マイコプラズマ等も用いることができる。動物細胞としては、各種植物、動物、菌類の細胞を用いることができる。さらに、原生生物、粘菌、細胞性粘菌、C.elegans等のプレートで培養可能な小型の実験生物を用いることもできる。
さらに、培養する細胞に合わせて、各種の素材やコーティングの細胞保管容器4を用意することができる。たとえば、コラーゲンがコーティングされた細胞保管容器4に、フィーダー細胞を培養して、その上にES細胞やips細胞を培養することができる。
また、水分を透過可能なシリカゲルやアクアゲルや寒天培地等で覆われた細胞保管容器4に、菌や植物のカルス等を植えて、培養液を与えるように構成することもできる。
【0020】
蓋体4Bは、円板状の上板43と、上板43の下面から下方に延びた嵌合壁44とで構成されている。嵌合壁44は、上板43の周縁に沿って円環状に延びている。上板43の周縁部には、給液口43aが備えられている。
【0021】
細胞保管容器4は、容器本体4Aが備える周壁部41の上端部に、蓋体4Bの嵌合壁44が嵌合することで、容器本体4Aと蓋体4Bとが一体化される。細胞保管容器4は、供給液計量タンク3のタンク本体3Aが備える周壁部31、及び、排液タンク5の後述するタンク本体5Aが備える周壁部51に、軸心を中心として水平方向に回転自在に周壁部41が支持されている。
【0022】
周壁部41の外周面には、排液操作レバー45が設けられている。排液操作レバー45は、右回り又は左回りの水平方向に操作されて、細胞保管容器4を操作方向に回転させる。
【0023】
排液タンク5は、有底筒状のタンク本体5Aに有底筒状のタンク蓋5Bを嵌め合わせて構成されている。タンク本体5Aは、円筒状の周壁部51の下端部を円板状の下板52で塞いで構成されている。
【0024】
タンク蓋5Bは、円筒状の周壁部53の上端部を円板状の上板54で塞いで構成されている。上板54の周縁部には、給液口54aが備えられている。タンク蓋5Bは、タンク本体5A内に挿入されて、タンク本体5Aの周壁部51に周壁部53が嵌め合わされることで、タンク本体5Aと一体化されている。排液タンク5は、図1に示すように、周壁部51が支持板11に固定されて支持されている。
【0025】
タンク本体5Aが備える周壁部51の上端部は、タンク蓋5Bの上板54より上方に延びており、細胞保管容器4の容器本体4Aを、軸心を中心として水平方向に回転自在に、周壁部41の下端部で支持している。
【0026】
カバー6は、円筒状の周壁部61の上端部を円板状の上板62で塞いで構成された有底筒状を呈している。カバー6は、供給液タンク2の周壁部21が周壁部61内に挿入されて、周壁部21の上端開口部を上板62で塞ぐ。
【0027】
供給液計量タンク3が固定された支持板12と、排液タンク5が固定された支持板11とは、連結把持部13で連結されて、互いが一体化されている。支持板12は、供給液計量タンク3を支持板12と共に連結把持部13から取り外せるように、連結把持部13に着脱自在に固定されている。
【0028】
支持板11の上面からは、ストッパーパネル14が上方に延びている。ストッパーパネル14は、供給液タンク2,供給液計量タンク3,細胞保管容器4,排液タンク5の外周面に沿うように平板体を湾曲させた形状を有しており、水平方向に延びるガイド孔14a,14bを備えている。ガイド孔14a,14bは、水平方向に延びる長孔から形成されており、計量切替レバー23又は排液操作レバー45が挿通される。
【0029】
計量切替レバー23は、供給液タンク2の排液口22aが供給液計量タンク3の給液口34aと連通するまで左回り方向に移動すると、ガイド孔14aの端部と当接して、左回り方向への回転を規制される。
【0030】
排液操作レバー45は、供給液計量タンク3の排液口32aが細胞保管容器4の給液口43aと連通するまで左回り方向に回転すると、ガイド孔14bの端部と当接して左回り方向への回転を規制される。また、排液操作レバー45は、供排液タンク5の給液口54aが細胞保管容器4の排液口42aと連通するまで右回り方向に回転すると、ガイド孔14bの端部と当接して右回り方向への回転を規制される。計量切替レバー23及び排液操作レバー45は、図示しない開閉装置により右回り方向及び左回り方向に回転させられる。
この排液操作レバー45と、計量切替レバー23とは、開閉装置により別々に回転させることができる。このため、例えば、アクアゲルを備えた植物細胞の培養においては、常に排液操作レバー45を開いておき、計量切替レバー23を開閉して培養液を振りかけたあとで逐次廃液できるような構成としてもよい。
【0031】
本実施形態に係る培養装置1では、開閉装置が廃液動作,計量動作,給液動作を行うことで培養液の交換が行われる。廃液動作は、例えば、給液動作で培養液の供給が行われてから所定時間が経過する等して、開閉装置のタイマが、予め培養の作業者により設定された所定の時間になった場合に行われる。タイマで計時される上記所定の時間は、培養される細胞の種類や培養条件等に応じた時間に、分単位や時間単位で定められるようになっている。
この廃液動作としては、図4(a)に矢印Cで示すように排液操作レバー45が、開閉装置により右回り方向に操作されると、細胞保管容器4が右回り方向に回転させられる。これに伴い、下板42の排液口42aは、矢印Dで示すように右回り方向に移動する。図2に示すように、細胞保管容器4の排液口42aと排液タンク5の給液口54aとが連通し、供給液計量タンク3の排液口32aと細胞保管容器4の給液口43aとが隔絶されると、細胞保管容器4内の培養液が排液タンク5に排出される。
【0032】
次に、開閉装置は、計量動作を行う。
この計量動作としては、図2に示すように、供給液計量タンク3の排液口32aと細胞保管容器4の給液口43aとが隔絶された状態で、図4(b)に矢印Aで示すように計量切替レバー23が開閉装置により左回り方向に操作されると、供給液タンク2が左回り方向に回転させられる。これに伴い、下板22の排液口22aは、矢印Bで示すように左回り方向に移動する。図2に示すように、供給液タンク2の排液口22aと供給液計量タンク3の給液口34aとが連通すると、供給液計量タンク3の計量室3Cに供給液タンク2から培養液が供給される。計量室3Cが培養液で満たされた後、供給液タンク2が右回り方向に回転させられ、図3に示すように排液口22aと給液口34aとは隔絶された状態となる。
【0033】
その後、開閉装置は、給液動作を行う。
この給液動作としては、図4(c)に矢印Bで示すように排液操作レバー45が左回り方向に操作されると、細胞保管容器4が左回り方向に回転させられる。これに伴い、上板43の給液口43aは、矢印Bで示すように左回り方向に移動する。図3に示すように、供給液計量タンク3の排液口32aと細胞保管容器4の給液口43aとが連通し、細胞保管容器4の排液口42aと排液タンク5の給液口54aとが隔絶されると、計量室3Cから細胞保管容器4に培養液が供給される。
以上により、培養液の交換を終了する。
【0034】
このような培養液の交換動作は、開閉装置のタイマで指定した所定の回数行うことができる。この所定の回数としては、供給液タンク2に培養液の容量と、細胞の継代培養等を行う必要がない期間等を換算して作業者が開閉装置に設定することができる。
【0035】
本実施形態によれば、供給液タンク2が回転することで供給液タンク2と供給液計量タンク3の計量室3Cとが連通又は隔絶し、細胞保管容器4が回転することで細胞保管容器4が細胞保管容器4及び排液タンク5と連通又は隔絶する。このため、供給液タンク2及び細胞保管容器4を回転させることで、培養液の交換を行うことができる。従って、培養液の交換のための配管やタンクの設置スペースを省略し、簡単な構成で細胞の培養を簡略化することができる。
これにより、各種細胞の培養液の交換を省力化して、特に、ES細胞やips細胞のように、頻繁に培養液を交換する必要がある細胞の培養液の交換を簡単に行うことができる。 また、従来技術と比べた簡単な構成で培養液の交換が行えるため、開閉装置と合わせてCOインキュベーター内に配置することができる。このため、培養装置の環境のキャリブレーション(調整)等を行う必要がなく、必要な細胞を培養できる。
【0036】
しかも、細胞保管容器4の蓋体4Bを何度も開閉して培養液を交換する必要がないため、培養液を交換する際にコンタミネーションが生じるのを防止することができる。
すなわち、数日程度は空気やガスのみを供給して、細胞保管容器4を閉鎖系として培養することができる。これにより細胞培養の手間を減らし、人的コストを削減できる。
また、通常のインキュベーター内で、自動的に培養液の交換行うことができ、大規模な培養装置を用いる必要がなく、コストを下げられるという効果が得られる。
【0037】
また、本実施形態によれば、供給液タンク2、供給液計量タンク3、及び細胞保管容器4が透明であることから、供給液タンク2、供給液計量タンク3、及び排液タンク5と細胞保管容器4とが一体化された状態でも細胞保管容器4内の細胞を観察することができる。このため、細胞を観察するために培養装置1から細胞保管容器4を出し入れする手間を省き、簡単な構成で細胞の培養を簡略化することができる。
【0038】
なお、上記実施形態では、供給液タンク2の周壁部21を供給液計量タンク3の周壁部31で支持した場合について説明したが、供給液計量タンク3の上板34及び下板22に回転軸とその軸受けを設け、供給液タンク2を回転自在に支持する構成としてもよい。また、供給液タンク2の周壁部21を下板22の下方まで延出させ、供給液計量タンク3の周壁部31で周壁部21が内側から支持される構成としてもよい。
【0039】
また、上記実施形態では、細胞保管容器4の周壁部41を供給液計量タンク3の周壁部31及び排液タンク5の周壁部51で支持した場合について説明したが、排液タンク5の上板54及び下板42に回転軸とその軸受けを設けると共に、供給液計量タンク3の下板32及び上板43に回転軸とその軸受けを設け、細胞保管容器4を回転自在に支持する構成としてもよい。また、細胞保管容器4の周壁部41を上板43の上方及び下板42の下方まで延出させ、供給液計量タンク3の周壁部31及び排液タンク5の周壁部51で周壁部41が内側から支持される構成としてもよい。
【0040】
また、供給液計量タンク3及び排液タンク5は、有底筒状体に蓋体を嵌め合わせて構成されていてもよい。また、供給液タンク2、供給液計量タンク3、細胞保管容器4、及び排液タンク5の形状も任意であり、円筒状を呈しているものには限定されない。
【0041】
また、上記実施形態では、供給液計量タンク3が隔壁35で隔てられた計量室3Cで培養液を計量する場合について説明したが、供給液計量タンク3全体を計量室としてもよい。また、供給液計量タンク3(計量室3C)に供給された培養液の量をセンサ等で計測し、計測結果に基づき排液口22aと給液口34aとを断絶してもよい。
【0042】
開閉装置が、供給液タンク2及び細胞保管容器4を回転させる方法は任意であり、必ずしも計量切替レバー23及び排液操作レバー45を設ける必要はない。また、計量切替レバー23及び排液操作レバー45の操作は、必ずしも開閉装置で行う必要はなく、手動で行うこともできる。
手動で計量切替レバー23及び排液操作レバー45の操作を行ったとしても、無菌操作で安全キャビネット内で培養液を交換する必要がない。このため、細胞培養に習熟していない作業者であっても培養液を交換して細胞培養を続けられるという効果が得られる。
【0043】
また、排液口22a,32a,42a及び給液口34a,43a,54aの配置態様も上記実施形態でのものには限定されない。
【0044】
また、上記実施形態では、供給液タンク2の排液口22aと供給液計量タンク3の給液口34aとが連通することで、供給液タンク2から供給液計量タンク3への培養液の供給路が形成される場合について説明した。しかしながら、供給液タンク2及び供給液計量タンク3が所定の位置関係となるように配置されると、供給液タンク2から供給液計量タンク3への培養液の供給路を連通させるのであれば、連通方法は任意である。
【0045】
例えば、供給液タンク2と供給液計量タンク3とが供給液タンク2の下板22のみで隔てられている場合には、下板22に培養液の供給路を設け、この供給路を第1の連通手段で連通させるようにしてもよい。第1の連通手段は、供給液タンク2に設けられて供給路を開閉する開閉弁と、供給液計量タンク3に設けた係合部材から構成することができる。この構成では、供給液タンク2の回転に伴い開閉弁のスライド部材が係合部材に係合すると、スライド部材が開閉弁を開いて供給路を連通させ、この係合が解けると開閉弁が閉じて供給路が断絶される。
【0046】
また、供給液計量タンク3及び細胞保管容器4が所定の位置関係となるように配置されると、供給液計量タンク3から細胞保管容器4への培養液の供給路を連通させるのであれば、連通方法は任意である。
【0047】
例えば、供給液計量タンク3と細胞保管容器4とが下板32のみで隔てられている場合には、下板32に培養液の供給路を設け、この供給路を第2の連通手段で連通させるようにしてもよい。第2の連通手段は、供給液計量タンク3に設けられて供給路を開閉する開閉弁と、細胞保管容器4に設けた係合部材から構成することができる。この構成では、細胞保管容器4の回転に伴い開閉弁のスライド部材が係合部材に係合すると、スライド部材が開閉弁を開いて供給路を連通させ、この係合が解けると開閉弁が閉じて供給路が断絶される。
【0048】
また、細胞保管容器4及び排液タンク5が所定の位置関係となるように配置されると、細胞保管容器4から排液タンク5への培養液の供給路を連通させるのであれば、連通方法は任意である。
【0049】
例えば、細胞保管容器4と排液タンク5とが下板42のみで隔てられている場合には、下板42に培養液の供給路を設け、この供給路を第3の連通手段で連通させるようにしてもよい。第3の連通手段は、細胞保管容器4に設けられて供給路を開閉する開閉弁と、排液タンク5に設けた係合部材から構成することができる。細胞保管容器4の回転に伴い開閉弁のスライド部材が係合部材に係合すると、スライド部材が開閉弁を開いて供給路を連通させ、この係合が解けると開閉弁が閉じて供給路が断絶される。
【0050】
また、開閉装置には、無線LAN等に接続され、LEDライト等で培養装置1全体や、細胞保管容器4の状態を顕微鏡で撮像するネットワークカメラ機能、各種センサを備えることができる。これにより、計量切替レバー23や排液操作レバー45の回転に何らかの異常が生じた場合や、細胞の培養状態をインターネット等のネットワークにて監視することができる。これにより、培養細胞の状態を、外部から監視できる。
【0051】
なお、細胞保管容器4と供給液計量タンク3とが下板32のみで隔てられている場合には、第3の連通手段の係合部材を、供給液計量タンク3に設ける構成とすることもできる。
【0052】
また、供給液タンク2及び細胞保管容器4に対して供給液計量タンク3が右回り方向及び左回り方向に回転する構成とすることもできる。この場合、供給液タンク2と供給液計量タンク3とが下板22のみでのみで隔てられている場合には、第2の連通手段を構成する係合部材を供給液タンク2の下板22に設ける構成とすることができる。
【0053】
また、供給液計量タンク3が備える計量室3Cの数量は任意である。例えば、細胞保管容器4が細胞を培養するための複数の培養室を備え、各培養室で培養液の交換を行う必要がある場合には、各培養室毎に計量室3Cを備える構成としてもよい。また、容量の異なる計量室3Cを複数備え、培養条件等に応じて計量に用いる計量室3Cを選択できる構成としてもよい。
【0054】
上記実施形態では、フィルター7aがカバー6の上板62に備えられ、フィルター7bが排液タンク5の周壁部51,53に備えられている場合について説明したが、コンタミネーションを防ぎつつ、供給液タンク2,排液タンク5の換気を行えるのであれば、フィルター7a,7bの配設位置は任意である。
【0055】
また、開閉装置が実行する廃液動作は、開閉装置のタイマが所定の時間になった場合に限らず、例えば、センサ等での検知結果に基づき所定の廃液条件が満たされたと判別された場合に実行することもできる。また、計量動作は、給液動作で供給液計量タンク3から培養液が排液された状態であれば、必ずしも廃液動作の直後に実行される必要はない。また、給液動作は、廃液動作で細胞保管容器4から培養液が排液された状態であれば、必ずしも計量動作の直後に実行される必要はない。例えば、給液動作の直後に計量動作を実行し、計量された培養液を廃液動作の直後に給液する構成としてもよい。
また、給液動作や廃液動作について、滴下だけでなくサイフォンや圧力による押し出しを用いて給液、廃液を行うこともできる。
【符号の説明】
【0056】
1 培養装置
11 支持板
12 支持板
13 連結把持部
14 ストッパーパネル
14a ガイド孔
14b ガイド孔
2 供給液タンク(培養液供給装置)
21 周壁部
22 下板(底板)
22a 排液口
23 計量切替レバー
3 供給液計量タンク(培養液供給装置)
3A タンク本体
3B タンク蓋
3C 計量室
31 周壁部
32 下板(底板)
32a 排液口
33 周壁部
34 上板(天板)
34a 給液口
35 隔壁
4 細胞保管容器(培養容器)
4A 容器本体
4B 蓋体
41 周壁部
42 下板(底板)
42a 排液口
43 上板(天板)
43a 給液口
44 嵌合壁
45 排液操作レバー
5 排液タンク(培養液供給装置)
5A タンク本体
5B タンク蓋
51 周壁部
52 下板(底板)
53 周壁部
54 上板(天板)
54a 給液口
6 カバー(培養液供給装置)
61 周壁部
62 上板(天板)
7a、7b フィルタ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液を溜めておく供給液タンクと、
該供給液タンクから滴下された培養液を計量して培養容器に滴下する供給液計量タンクと、
該培養容器からの使用済み培養液を滴下される排液タンクとを備えることを特徴とする培養液供給装置。
【請求項2】
給液口を天板に備えており、培養液の供給対象となる培養容器が前記天板上に配置される排液タンクと、
給液口を天板に備えると共に排液口を底板に備え、前記培養容器の天板上に配置される供給液計量タンクと、
排液口を底板に備えて前記供給液計量タンクの前記天板上に配置された供給液タンクと、を備え、
前記供給液タンク及び前記供給液計量タンクは、前記供給液タンクの前記排液口と前記供給液計量タンクの前記給液口とが連通する位置と隔絶する位置との間で互いの位置を変更自在に配置され、
前記供給液計量タンク及び前記培養容器は、前記供給液計量タンクの前記排液口と前記培養容器が天板に備えた給液口とが連通する位置と隔絶する位置との間で互いの位置を変更自在に配置され、
前記培養容器及び前記排液タンクは、前記培養容器が底板に備えた排液口と前記排液タンクの前記給液口とが連通する位置と隔絶する位置との間で互いの位置を変更自在に配置されていることを特徴とする培養液供給装置。
【請求項3】
前記供給液タンク、前記供給液計量タンク、及び前記排液タンクは一体化されており、全体として筒状を呈していることを特徴とする請求項1又は2に記載の培養液供給装置。
【請求項4】
前記培養容器から前記排液タンクに培養液を供給する廃液動作は、前記供給液計量タンクから前記培養容器に培養液を供給する給液動作が実行されてからタイマで所定時間が計時されると実行されることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の培養液供給装置。
【請求項5】
培養液を溜めておく供給液タンクと、
該供給液タンクから滴下された培養液を計量して滴下する供給液計量タンクと、
該供給液計量タンクから培養液を滴下される細胞保管容器と、
該細胞保管容器からの使用済み培養液を滴下される排液タンクとを備えることを特徴とする培養装置。
【請求項6】
給液口を天板に備えた排液タンクと、
給液口を天板に備えると共に排液口を底板に備え、前記排液タンクの前記天板上に配置された細胞保管容器と、
給液口を天板に備えると共に排液口を底板に備え、前記細胞保管容器の前記天板上に配置された供給液計量タンクと、
排液口を底板に備えて前記供給液計量タンクの前記天板上に配置された供給液タンクと、を備え、
前記供給液タンク及び前記供給液計量タンクは、前記供給液タンクの前記排液口と前記供給液計量タンクの前記給液口とが連通する位置と隔絶する位置との間で互いの位置を変更自在に配置され、
前記供給液計量タンク及び前記細胞保管容器は、前記供給液計量タンクの前記排液口と前記細胞保管容器の前記給液口とが連通する位置と隔絶する位置との間で互いの位置を変更自在に配置され、
前記細胞保管容器及び前記排液タンクは、前記細胞保管容器の前記排液口と前記排液タンクの前記給液口とが連通する位置と隔絶する位置との間で互いの位置を変更自在に配置されていることを特徴とする培養装置。
【請求項7】
前記供給液タンク、前記供給液計量タンク、前記細胞保管容器、及び前記排液タンクは一体化されており、全体として筒状を呈していることを特徴とする請求項5又は6に記載の培養装置。
【請求項8】
前記供給液タンク、前記供給液計量タンク、及び前記細胞保管容器は、透明な材質から形成されていることを特徴とする請求項5〜7の何れかに記載の培養装置。
【請求項9】
前記細胞保管容器から前記排液タンクに培養液を供給する廃液動作は、前記供給液計量タンクから前記細胞保管容器に培養液を供給する給液動作が実行されてからタイマで所定時間が計時されると実行されることを特徴とする請求項5〜8の何れかに記載の培養液供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−5411(P2012−5411A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143809(P2010−143809)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(503341675)株式会社リプロセル (13)
【Fターム(参考)】