説明

培養装置

【課題】なるべく少ない光源でもって、個々の光源に関する光エネルギーの損失を極力抑えることにより、コストアップを招くことなく十分な光の照射を可能とし、また、微細藻類の生理反応の活性化を促す可能性も高く、藻類等の光合成生物の培養に極めて優れる培養装置を提供する。
【解決手段】中心軸が鉛直方向に延びる筒状に透光性素材より形成され、光合成生物を混ぜた培養液を収容する容器本体20と、該容器本体20の外周22に沿って所定間隔おきに配置され、該容器本体20内に向けて光を照射する光源30と、を備え、光源30の外側に、該光源30を取り囲む状態で容器本体20を略全周に亘って覆う筒状の外筒体40を設け、該外筒体40の内周面を、光源30の外側に漏れた光を容器本体20内に向けて反射する反射面41とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類等の光合成生物を培養液中で人工的に培養するための培養装置に関し、そのうち特に、魚介類の養殖時の飼料、あるいは有用物質を生産するバイオマス資源として利用可能な各種の緑藻やラン藻等の微細藻類を培養する培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微細藻類を人工的に培養する技術としては、一般に覆いカバーのない透明平型の大型水槽に培養液を満たし、高圧ナトリウムランプ等のHID光源(High Intensity Discharge Lamps)で水槽上部より光を照射し、空気や、二酸化炭素の散気によるエアレーションを行うものが知られている。ところが、この培養技術では、水面で多くの光が反射してしまい、光エネルギーの損失が大きいという問題のみならず、微細藻類の培養濃度が高くなると、光が遮られて水槽の底付近まで光が到達しないという問題もあった。
【0003】
このような容認しがたい問題を解決するために、例えば、培養容器が、空気や、炭酸ガスの気泡の上昇に伴い培養液を上昇させる第1の区域と、該区域と連通し、培養液を下降させて該区域に該培養液を循環させる第2の区域とを具備し、第2の区域内に配設した光照射手段により光照射を行う技術(例えば、特許文献1参照)や、培養タンクの外部に培養タンクの全周を囲むように複数の照明器具を互いに密接させて配置した技術(例えば、特許文献2参照)が既に提案されている。
【0004】
【特許文献1】特許第3283982号公報
【特許文献2】特開平11−275994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した特許文献1,2に記載された従来技術では、何れも培養液の全域に満遍なく十分に光を照射するためには、培養液内にあるいは培養液を囲むように多数の光源を設置しなければならず、しかも、個々の光源に関する光エネルギーの損失を低減する工夫にも乏しいものであり、設備費が嵩むと共に維持管理が面倒であり、コストアップを招くという問題があった。
【0006】
ところで、最近の微細藻類の生育に関する研究によれば、微細藻類に対して培養期間中に連続して光照射を行うのではなく、明期と暗期に周期的に遭遇させることにより、微細藻類の生理反応が活性化し、細胞分裂が促進されて増殖するため、結果として光合成効率が向上するような報告もなされている。
【0007】
本発明は、以上のような従来技術の有する問題点に着目してなされたものであり、なるべく少ない光源でもって、個々の光源に関する光エネルギーの損失を極力抑えることにより、コストアップを招くことなく十分な光の照射を可能とし、また、微細藻類の生理反応の活性化を促す可能性も高く、藻類等の光合成生物の培養に極めて優れる培養装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するための本発明の要旨とするところは、以下の各項の発明に存する。
[1]藻類等の光合成生物を培養液中で人工的に培養するための培養装置(10)において、
筒状に透光性素材より形成され、光合成生物を混ぜた培養液を収容する容器本体(20)と、該容器本体(20)の外周(22)に沿って所定間隔おきに配置され、該容器本体(20)内に向けて光を照射する光源(30)と、を備え、
前記光源(30)の外側に、該光源(30)を取り囲む状態で前記容器本体(20)を略全周に亘って覆う筒状の外筒体(40)を設け、該外筒体(40)の内周面を、前記光源(30)の外側に漏れた光を前記容器本体(20)内に向けて反射する反射面(41)としたことを特徴とする培養装置(10)。
【0009】
[2]藻類等の光合成生物を培養液中で人工的に培養するための培養装置(10)において、
筒状に透光性素材より形成され、光合成生物を混ぜた培養液を収容する容器本体(20)と、該容器本体(20)の外周(22)に沿って所定間隔おきに配置され、該容器本体(20)内に向けて光を照射する光源(30)と、を備え、
前記容器本体(20)の内部に、その中心軸方向に延びる筒状の中筒体(25)を設け、該中筒体(25)の外周面を、前記光源(30)より培養液中を透過して届いた光を再び培養液に向けて反射する反射面(26)としたことを特徴とする培養装置(10)。
【0010】
[3]藻類等の光合成生物を培養液中で人工的に培養するための培養装置(10)において、
筒状に透光性素材より形成され、光合成生物を混ぜた培養液を収容する容器本体(20)と、該容器本体(20)の外周(22)に沿って所定間隔おきに配置され、該容器本体(20)内に向けて光を照射する光源(30)と、を備え、
前記光源(30)の外側に、該光源(30)を取り囲む状態で前記容器本体(20)を略全周に亘って覆う筒状の外筒体(40)を設け、該外筒体(40)の内周面を、前記光源(30)の外側に漏れる光を前記容器本体(20)内に向けて反射する反射面(41)とし、
前記容器本体(20)の内部に、その中心軸方向に延びる筒状の中筒体(25)を設け、該中筒体(25)の外周面を、前記光源(30)より培養液中を透過して届いた光を再び培養液に向けて反射する反射面(26)としたことを特徴とする培養装置(10)。
【0011】
[4]前記中筒体(25)の上下端側にそれぞれ培養液中に連通する連通口(25a,25b)を設け、
前記中筒体(25)の下端内側にて散気を行い、中筒体(25)の内側に気泡上昇に伴う培養液の上昇流を生じさせる一方、中筒体(25)の外側には培養液の下降流を生じさせることにより、前記容器本体(20)の内部で培養液を循環させることを特徴とする[2]または[3]に記載の培養装置(10)。
【0012】
[5]前記容器本体(20)ないし前記光源(30)の上側および下側の少なくとも一方に、前記光源(30)より照射された光を容器本体(20)内に向けて反射する反射面(51,61)を有する反射体(50,60)を設けたことを特徴とする[1],[2],[3]または[4]に記載の培養装置(10)。
【0013】
[6]前記容器本体(20)の外周面(22)に沿って、透光性を有し熱線を遮断する熱反射シートを貼り付けたことを特徴とする[1],[2],[3],[4]または[5]に記載の培養装置(10)。
【0014】
本発明は、次のように作用する。
前記[1]に記載の培養装置(10)によれば、容器本体(20)内の培養液に対して、容器本体(20)の外周(22)に沿って配置した光源(30)より軸心方向に光が照射され、光源(30)の外側に漏れた光は、光源(30)を取り囲む筒状の外筒体(40)の内周面である反射面(41)に反射して、さらに容器本体(20)側へ照射される。
それにより、容器本体(20)の全周に亘り、多数の光源(30)を密に配置しなくても、外筒体(40)の光反射によって、所定間隔おきに配置した光源(30)それぞれの光エネルギーの損失を抑えることができ、より少ない光源(30)でも光合成生物が利用するのに十分な光照射を得ることが可能となる。
【0015】
前記[2]に記載の培養装置(10)によれば、前記外筒体(40)の代わりに、容器本体(20)の内部に中筒体(25)が設けられており、容器本体(20)の外周(22)に沿って配置した光源(30)より軸心方向に照射された光は、培養液中を透過して中筒体(25)の外周面まで到達すると、この外周面である反射面(26)に反射されて再び培養液中に戻される。これにより、培養液中における光の通過滞在時間が長くなり、より少ない光源(30)でも、光合成生物が利用するのに十分な光照射を得ることが可能となる。
【0016】
前記[3]に記載の培養装置(10)によれば、前記外筒体(40)および前記中筒体(25)を両方とも備えることにより、外筒体(40)による光反射によって、所定間隔おきに配置した光源(30)それぞれの光エネルギーの損失を抑えることができ、かつ中筒体(25)による光反射によって、培養液中における光の通過滞在時間が長くなり、少ない光源(30)で、よりいっそう十分な光照射を得ることが可能となる。
【0017】
また、前記[4]に記載したように、前記中筒体(25)の上下端側にそれぞれ培養液中に連通する連通口(25a,25b)を設け、中筒体(25)の下端内側で散気を行い、中筒体(25)の内側に気泡上昇に伴う培養液の上昇流を生じさせる一方、中筒体(25)の外側には培養液の下降流を生じさせると良い。かかる場合、容器本体(20)の内部を循環する培養液中の光合成生物にとって、中筒体(25)の内側を上昇する際は暗期となり、中筒体(25)の外側を下昇する際は明期となる。
【0018】
それにより、光源(30)を点滅させることなく、明暗周期を繰り返すことができ、微細藻類の生理反応の活性化を促す可能性も高くなる。なお、ここでの散気とは、通常の空気のみの散気に限られるものではなく、二酸化炭素あるいは二酸化炭素ないし炭酸ガスを含む空気等による散気も含まれる。
【0019】
また、前記[5]に記載したように、前記容器本体(20)ないし前記光源(30)の上側および下側の少なくとも一方に、光源(30)より照射された光を容器本体(20)内に向けて反射する反射面(51,61)を有する反射体(50,60)を設ければ、前記外筒体(40)および/または前記中筒体(25)による光反射と相俟って、なおさら上下方向に関しても光源(30)の光エネルギーの損失を十分に抑えることができる。
【0020】
さらにまた、前記[6]に記載したように、前記容器本体(20)の外周面(22)に沿って、透光性を有し熱線を遮断する熱反射シートを貼り付けるようにすれば、光合成生物に必要な光を遮ることなく、光源(30)からの放熱による培養液の不必要な温度上昇を低減させることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る培養装置によれば、容器本体の外周に沿って所定間隔おきに配置した光源の外側に、該光源を取り囲む状態で容器本体を略全周に亘って覆う筒状の外筒体を設け、該外筒体の内周面を、光源の外側に漏れた光を容器本体内に向けて反射する反射面としたから、なるべく少ない光源でもって、個々の光源に関する光エネルギーの損失を極力抑えることにより、コストアップを招くことなく十分な光の照射が可能となる。
【0022】
また、容器本体の内部に、その中心軸方向に延びる筒状の中筒体を設け、該中筒体の外周面を、容器本体の外周に沿って所定間隔おきに配置した光源より培養液中を透過して届いた光を再び培養液に向けて反射する反射面とした場合も、前記同様に、個々の光源に関する光エネルギーの損失を極力抑えることにより、コストアップを招くことなく十分な光の照射が可能となる。さらに、前記外筒体と前記中筒体とを併せて設けても良い。
【0023】
さらにまた、中筒体の上下端側にそれぞれ培養液中に連通する連通口を設け、中筒体の下端内側で二酸化炭素の散気を行い、中筒体の内側に気泡上昇に伴う培養液の上昇流を生じさせる一方、中筒体の外側には培養液の下降流を生じさせるようにすることで、容器本体の内部を循環する培養液中の光合成生物にとって明暗周期が繰り返されることになり、微細藻類の生理反応の活性化を促す可能性も高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に基づき本発明を代表する一実施の形態を説明する。
図1〜図5は、本発明の一実施の形態を示している。
本実施の形態に係る培養装置10は、藻類等の光合成生物を培養液中で人工的に培養するための装置であり、以下に、屋内施設として、微細藻類の培養に用いる場合を例に説明する。ここで微細藻類は具体的には例えば、クロレラ、クラミドモナス、ボツリオコッカス等の緑藻類や、スピルリナ、アナベナ等のラン藻類が該当する。
【0025】
図1に示すように培養装置10は、容器本体20と、光源30と、これら容器本体20や光源30等を設置する架台11と、そのほかの関連機器群から構成されている。架台11は、容器本体20や光源30を所定の向きや位置に設置できるフレーム材から組み立てられており、その下段部には後述する各種の関連機器等を収納できるようになっている。
【0026】
容器本体20は、微細藻類を混ぜた培養液を収容するものであり、中心軸が鉛直方向に延びる有底の略円筒状に形成されている。もちろん、容器本体20は円筒状に限られるものではなく、他に例えば、4角形、5角形等の多角形断面の筒状に形成しても良い。容器本体20全体は、基本的には次述する光源30の光を透過させることができるように、無色透明のガラスやアクリル樹脂等の透光性素材より形成されている。
【0027】
容器本体20の上部開口は、円板状の蓋体21で覆われており、容器本体20は全体的に閉鎖系とすることができるようになっている。蓋体21には、関連機器群のコードないし配管類を気密な状態で貫通させる挿入口(図示せず)が随所に設けられている。
【0028】
容器本体20の内部には、その中心軸方向に延びる筒状の中筒体25が設けられており、該中筒体の外周面は、光源30より培養液中を透過して届いた光を、再び培養液に向けて反射する反射面26として形成されている。ここで反射面26の態様としては、具体的には例えば、中筒体25自体の素材がステンレス等の金属であれば、その表面を精密研磨すれば良く、あるいは鏡面加工された金属箔で覆ったり、光反射性コーティング材や、光の反射率が高い白色塗料等を塗布すること等が考えられる。
【0029】
図2に示すように、中筒体25の下端口は、容器本体20の底部23の略中心に一体に固定されている。詳しく言えば、底部23の略中心には丸孔23aが開設されており、この丸孔23aに合致するように、外側よりソケット状のキャップ部材27が固定されている。丸孔23aに連通して容器本体20の内部を臨むキャップ部材27の内側に、中筒体25の下端口は、はめ込まれて固定されている。
【0030】
キャップ部材27の外側に突出する先端口27aには、容器本体20内の培養液を外部に排出するための開閉可能な排水管24(図5参照)が連結されている。また、中筒体25の下端側には、培養液中に連通する連通口25aが円周方向に複数設けられている。さらに、中筒体25の上端側にも、培養液中に連通する連通口25b(図1参照)が設けられている。
【0031】
中筒体25の下端内側には、図5に示すように、培養液中に空気を放出して対流現象を生じさせる散気管110と、培養液中で光合成により固定される二酸化炭素を補給するための補給管120の各先端口がそれぞれ配されている。散気管110の基端側は、フィルター111や流量計112を介して、エアーブロアー113に接続されている。補給管120の基端側は、レギュレータ121や流量計122を介して、COボンベ123に接続されている。
【0032】
散気管110および/または補給管120による散気により、中筒体25の内側では、気泡上昇に伴う培養液の上昇流が生じる一方、中筒体25の外側では、培養液の下降流が生じるように設定されている。また、これらの散気により、容器本体20の内部は陽圧に保たれ、外部からの空気流入を防止できるようになっている。なお、容器本体20に設置される他の関連機器についてはまとめて後述する。
【0033】
培養装置10の光源30は、前記容器本体20の外周22に沿って所定間隔おきに配置され、容器本体20内に向けて光を照射するものであり、本実施の形態では、具体的には直線状の複数の蛍光灯を採用している。図3に示すように、光源30である蛍光灯は、容器本体20の外周22より少し離隔した状態で沿うように、等間隔おきに合計6本配置されている。また、光源30の外側には、光源30を取り囲む状態で容器本体20の外周面22を略全周に亘って覆う筒状の外筒体40が設けられている。この外筒体の内周面は、光源30の外側に漏れた光を容器本体20内に向けて反射する反射面41として形成されている。
【0034】
図4、図3に示すように、光源30である各蛍光灯は、それぞれに対応して架台11上に立設された取付柱32に沿って鉛直方向に延びるように配置されている。詳しく言えば、各取付柱32の内側には、外筒体40の一部を成す細幅の反射板40aが予め固設されており、この反射板40aの反射面41側に、光源30である蛍光灯を支えるソケット31が取り付けられている。
【0035】
各取付柱32間の隙間には、各取付柱32に固設されている反射板40aの長手方向に亘る両側端縁に対して磁石等により着脱自在な太幅で円弧形断面の反射板40bが配されている。このように、固定されている各反射板40a間に、着脱自在な各反射板40bを連結させることで、反射板40aと反射板40bとが交互に連なり、筒状の外筒体40を形成するようになっている。
【0036】
各反射板40bの裏面側には、各反射板40bの取外しを容易にする取っ手33も取り付けられている。また、外筒体40を成す各反射板40aや各反射板40bのそれぞれの反射面41の態様としては、具体的には例えば、反射板40aや反射板40b自体の素材がステンレス等の金属であれば、その表面を精密研磨すれば良く、あるいは鏡面加工された金属箔で覆ったり、光反射性コーティング材や、光の反射率が高い白色塗料等を塗布すること等が考えられる。
【0037】
また、図1に示すように、容器本体20ないし光源30の下側には、容器本体20の底部23を載置する架台11の上面に、反射体50としての底板が設けられている。底板の上面側は、前記光源30より照射された光を容器本体20内に向けて反射する反射面51として形成されている。
一方、光源30の上側には、容器本体20の上部を貫通させた状態で光源30の上側を覆う位置に、反射体60としての天板が設けられている。天板の下面側も、前記光源30より照射された光を容器本体20内に向けて反射する反射面61として形成されている。これらの反射面51,61の具体的な態様は、前記中筒体25や外筒体40の反射面26,41と同様に構成すると良い。
【0038】
さらに、図5に示すように、培養装置10に対して、培養液を光合成生物の適した温度に維持するための温度制御システム130、培養液のpHを計測するpH計141に接続されたpHセンサ140、培養装置10に関する各種計測データ等を表示出力するための表示盤150等が関連機器として付設されている。図示しないが、培養液中のCO濃度を検出して所望の濃度に調整できるCO濃度の制御システム、光源30を調光点灯させて容器本体20に対する照射光量を調整できる調光点灯装置等を設けるようにしても良い。
【0039】
温度制御システム130は、容器本体20内の培養液を必要に応じて外部に循環させて冷却してから戻す冷却装置131と、容器本体20内に配され培養液を必要に応じて加温するヒータ132と、容器本体20内に配され培養液の温度を測定する温度センサ134と、この温度センサ134で検出した培養液温度の実測値を予め定めた微細藻類の最適温度に調整すべく、前記冷却装置131および前記ヒータ132の稼働を調整する温度コントローラ135とから成る。
【0040】
また、容器本体20の外周22と光源30との間には、容器本体20外側の周囲温度を測定する温度センサ136も設けられている。なお、培養装置10の関連設備として、屋外には、培養液に用いる海水を供給するための海水貯留水槽160や、真水を供給するための井戸170等も設けられている。
【0041】
次に、前記培養装置10の作用を説明する。
図5に示すように、先ず培養装置10に対して各種の関連機器をセットしてから、図1において、容器本体20内に中筒体25の上端側にある連通口25bの位置まで、微細藻類(光合成生物)を混ぜた培養液を収容する。微細藻類は後から培養液に混入しても良い。光源30を点灯させると、容器本体20内の培養液に対して、容器本体20の外周22に沿って配置した光源30より軸心方向に光が照射される。
【0042】
光源30の外側に漏れた光は、光源30を取り囲む筒状の外筒体40の内周面である反射面41に反射して、さらに容器本体20側へ照射される。これにより、容器本体20の全周に亘り多数の光源30を密に配置しなくても、外筒体40の光反射によって所定間隔おきに配置した光源30それぞれの光エネルギーの損失を抑えることができ、より少ない光源30でも微細藻類が利用するのに十分な光照射を得ることが可能となる。
【0043】
容器本体20の内部には中筒体25が設けられており、容器本体20の外周22に沿って配置した光源30より軸心方向に照射された光は、培養液中を透過して中筒体25の外周面まで到達すると、この外周面である反射面26に反射されて再び培養液中に戻される。これにより、培養液中における光の通過滞在時間が長くなり、より少ない光源30でも光合成生物が利用するのに十分な光照射を得ることが可能となる。
【0044】
しかも、容器本体20ないし光源30の下側には反射体50である底板が、光源30の上側には反射体60である天板が、それぞれ設けられており、前記外筒体40および前記中筒体25による光反射と相俟って、なおさら上下方向に関しても、光源30の光エネルギーの損失を十分に抑えることができる。以上のような光反射により、光源30から発せられた光は、容器本体20の内部で多重に反射し、培養液内のあらゆる角度に向かうので、培養液内を通過する間に平均化されるよう満遍なく拡散する。従って、培養液の全域に亘り微細藻類の光合成が促進される。
【0045】
微細藻類の光合成には、光のほか二酸化炭素が必要となるが、補給管120を通じてCOボンベ123から供給される二酸化炭素を容器本体20内に導入する。二酸化炭素の流入量の調整は、補給管120の途中にある流量計122で監視しながらレギュレータ121で行うことができる。また、pH計141に出力をもたせ、pHコントローラにより、二酸化炭素の補給管120の途中に設ける電磁弁の開閉を制御し、二酸化炭素の流入量を調整しても良い。補給管120の先端口や、培養液を撹拌するための散気管110の先端口は、中筒体25の下端内側に配されており、これらの散気により、容器本体20内の培養液は適度に循環し、二酸化炭素は培養液中に溶解する。
【0046】
溶解した二酸化炭素は、光源30からの光を受けた微細藻類による光合成作用によって固定化される。さらにまた、二酸化炭素や空気の散気によって、容器本体20の内部は適度な陽圧に保たれるので、容器本体20内部に対する外部からの空気流入を防止でき、コンタミネーションを防ぐことができる。
【0047】
培養液の循環に関しては、中筒体25の下端内側で散気を行うことにより、中筒体25の内側では、気泡上昇に伴う培養液の上昇流が生じる一方、中筒体25の外側では、培養液の下降流が生じる。このため、容器本体20の内部を循環する培養液中の微細藻類にとって、中筒体25の内側を上昇する際は暗期となり、中筒体25の外側を下昇する際は明期となる。これにより、光源30を点滅させることなく明暗周期を繰り返すことができ、微細藻類の生理反応の活性化を促す可能性も高くなる。
【0048】
培養液の温度に関しては、温度制御システム130によって微細藻類の最適温度に維持することができる。すなわち、冷却装置131により、容器本体20内の培養液を必要に応じて外部に循環させて冷却してから戻したり、ヒータ132により、容器本体20内の培養液を直接加温することができ、温度センサ134で検出した実測値を元にして、温度コントローラ135で冷却装置131やヒータ132の稼働が調整される。容器本体20内の培養水は前述したように循環しており、水温は偏りなく均一化する。なお、培養水のpHも、pHセンサ140からの実測値に基づき適宜調整すると良い。
【0049】
また、光源30が発する熱は培養液の温度上昇の原因となるが、その対策として、容器本体20の外周面22に沿って、透光性を有し熱線を遮断する熱反射シートを貼り付けるようにすれば、微細藻類に必要な光を遮ることなく、光源30からの放熱による培養液の不必要な温度上昇を低減させることが可能となる。ここで熱反射シートとは、光合成に必要な光の透過性をさほど遮ることなく、培養液の温度上昇の原因となる熱線(赤外線)の透過を遮断する素材から成るシートである。
【0050】
光源30の保守・点検を行う際には、図4において、外筒体40を成す各反射板40bを何れも容易に外すことができるので、反射板40bを外した隙間より内側に手を入れて、ソケット31から光源30を取り外すことも容易であり、このように光源30を交換する等の保守・点検を、外筒体40の存在に関わらず極めて簡単に行うことができる。
【0051】
以上、本発明の実施の形態に係る培養装置10を図面によって説明してきたが、具体的な構成は前述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。例えば、前記実施の形態では、容器本体20の内部の中筒体25と、光源30を取り囲む外筒体40とを両方とも備えるように構成したが、他の実施の形態として、例えば、中筒体25を備え外筒体40を備えないもの、あるいは中筒体25を備えず外筒体40を備えたもの、として構成しても良い。
【0052】
また、前記実施の形態では、光源30としてHIDランプ等に比べて安価な蛍光灯を用いることで、コスト低減を図っているが、光源の種類は蛍光灯に限られるものではなく、もちろん、水銀ランプ、メタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプ等、高効率・高輝度・長寿命なHIDランプを採用しても良い。また、光源の数も特に限定されるものではない。
【0053】
また、前記実施の形態では、容器本体20ないし光源30の下側および上側の両方に、それぞれ反射体として反射体50,60を設けたが、これらは何れか一方のみを設けるようにしても良く、あるいは両方とも省いて構成してもかまわない。また、反射体50,60は、必ずしも平面的な板状のものに限らず、円錐形のもので、その外周を反射面としたものであってもよい。
【0054】
さらにまた、前記筒状の外筒体40は、全体として必ずしも円筒形の形状に限らず、一部が切り欠かれたような略C字形断面の形状のものを含めるようにしても良い。もちろん、円筒形に限られることなく、他に例えば、4角形、5角形等の多角形断面の形状であっても良い。また、図5に示すシステムに関しては、1つの関連機器に対して本培養装置10を複数並列に接続するように構成しても良いことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施の形態に係る培養装置を概略的に示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る培養装置の容器本体の底部側を拡大して示す縦断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る培養装置を概略的に示す横断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る培養装置の光源および外筒体の取付部位を拡大して示す横断面図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る培養装置を含むシステム構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
10…培養装置
11…架台
20…容器本体
21…蓋体
22…外周面
23…底部
23a…丸孔
24…排水管
25…中筒体
25a…連通口
25b…連通口
26…反射面
27…キャップ部材
27a…先端口
30…光源
31…ソケット
32…取付柱
33…取っ手
40…外筒体
40a…反射板
40b…反射板
41…反射面
50…反射体
51…反射面
60…反射体
61…反射面
110…散気管
111…フィルター
112…流量計
113…エアーブロアー
120…補給管
121…レギュレータ
122…流量計
123…COボンベ
130…温度制御システム
131…冷却装置
132…ヒータ
134…温度センサ
135…温度コントローラ
136…温度センサ
140…pHセンサ
141…pH計
150…表示盤
160…海水貯留水槽
170…井戸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類等の光合成生物を培養液中で人工的に培養するための培養装置において、
筒状に透光性素材より形成され、光合成生物を混ぜた培養液を収容する容器本体と、該容器本体の外周に沿って所定間隔おきに配置され、該容器本体内に向けて光を照射する光源と、を備え、
前記光源の外側に、該光源を取り囲む状態で前記容器本体を略全周に亘って覆う筒状の外筒体を設け、該外筒体の内周面を、前記光源の外側に漏れた光を前記容器本体内に向けて反射する反射面としたことを特徴とする培養装置。
【請求項2】
藻類等の光合成生物を培養液中で人工的に培養するための培養装置において、
筒状に透光性素材より形成され、光合成生物を混ぜた培養液を収容する容器本体と、該容器本体の外周に沿って所定間隔おきに配置され、該容器本体内に向けて光を照射する光源と、を備え、
前記容器本体の内部に、その中心軸方向に延びる筒状の中筒体を設け、該中筒体の外周面を、前記光源より培養液中を透過して届いた光を再び培養液に向けて反射する反射面としたことを特徴とする培養装置。
【請求項3】
藻類等の光合成生物を培養液中で人工的に培養するための培養装置において、
筒状に透光性素材より形成され、光合成生物を混ぜた培養液を収容する容器本体と、該容器本体の外周に沿って所定間隔おきに配置され、該容器本体内に向けて光を照射する光源と、を備え、
前記光源の外側に、該光源を取り囲む状態で前記容器本体を略全周に亘って覆う筒状の外筒体を設け、該外筒体の内周面を、前記光源の外側に漏れる光を前記容器本体内に向けて反射する反射面とし、
前記容器本体の内部に、その中心軸方向に延びる筒状の中筒体を設け、該中筒体の外周面を、前記光源より培養液中を透過して届いた光を再び培養液に向けて反射する反射面としたことを特徴とする培養装置。
【請求項4】
前記中筒体の上下端側にそれぞれ培養液中に連通する連通口を設け、
前記中筒体の下端内側にて散気を行い、中筒体の内側に気泡上昇に伴う培養液の上昇流を生じさせる一方、中筒体の外側には培養液の下降流を生じさせることにより、前記容器本体の内部で培養液を循環させることを特徴とする請求項2または3に記載の培養装置。
【請求項5】
前記容器本体ないし前記光源の上側および下側の少なくとも一方に、前記光源より照射された光を容器本体内に向けて反射する反射面を有する反射体を設けたことを特徴とする請求項1,2,3または4に記載の培養装置。
【請求項6】
前記容器本体の外周に沿って、透光性を有し熱線を遮断する熱反射シートを貼り付けたことを特徴とする請求項1,2,3,4または5に記載の培養装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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