説明

培養装置

【課題】外部の温度変化に影響されず培養容器内の温湿度条件を一定に保つことができる培養装置を提供する。
【解決手段】細胞を培養するための容器部とその容器部に連通する口部とを有する箱状の培養容器3と、上記容器部および上記口部の外形に沿って形成され、上記培養容器の外側に間隙を設けて配置される箱状の外装体2と、上記培養容器3および上記外装体の口部を開放可能に封止し得る蓋体6とを備えてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦鞭毛藻、ミドリムシ、珪藻等の微細藻類の培養に好適な培養装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人間の生存に不可欠な食料生産、空気や水の浄化、物質リサイクルなどを宇宙空間等の閉鎖環境下で行なう装置を閉鎖生態系生命維持システム(CELSS)と呼んでおり、このCELSSは食料生産システムと環境制御システムとに大別されている。
【0003】
上記食料生産システムは、植物栽培、魚類飼育および家畜飼育システムからなり、他方、環境制御システムはガス、水および廃棄物の処理システムからなる。
【0004】
上記植物栽培システムには、微細藻類や水生植物の培養システムも含まれており、それら微細藻類および水生植物は、陸上植物と同様に、COからOへのガス交換、食料生産、水質浄化などの重要な役割を持っている。
【0005】
上記微細藻類の研究が進めば、これまで未使用であった微細藻類の有効化学成分を医薬用途、食品用途、医療用材料用途、工業品用途にも展開することが可能になると考えられている。
【0006】
そこで、微細藻類を培養するシステムがCELSS内で効率良く機能する環境条件を探索するための各種実験がなされており、また、実験用の微細藻類培養装置も開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
上記微細藻類の培養は、培地量が数mL程度である小規模実験レベルから培地量が数tに至る大量生産用大規模レベルまであるが、最適培養条件、具体的には、光環境、温度、ガス濃度、栄養塩、添加物等の探索は、一般的に小規模実験レベルで行なわれることが多く、環境調節が可能な閉鎖系内で行なわれている。
【特許文献1】特開2006−57号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した微細藻類の培養は、従来、二枚の透明材質の板で挟まれた容積数十mlの閉鎖空間を持つ培養容器内で、片側の板表面に付着させた微量の液体培地(水滴)で行なわれる。
【0009】
詳しくは、微細藻類の細胞を含む水滴をアクリル板表面に付着させる培養準備を行なった後、その閉鎖空間内のガス組成を調節することによりガス濃度を調節している。
【0010】
また、最適な培地栄養塩、添加物濃度等の探索は、水滴ごとに栄養塩、添加物質等の溶質濃度を変化させることにより行なっており、微細藻類の計数は、培養器を顕微鏡下に移動させ目視で行なっている。
【0011】
しかしながら、上記した培養容器では1〜2℃の外部温度変化によって、具体的には、培養容器が設置されている環境の温度が変化したり、観察・計測時の移動に伴って培養に適した環境とは異なる環境に長く置かれると、培養容器内部の温度が上昇して水滴が蒸発したり、或いは培養容器内部の温度が降下して結露が生じたりすることにより、水滴の環境(栄養塩濃度等)が変化してしまうという問題がある。
【0012】
本発明は以上のような従来の培養容器における課題を考慮してなされたものであり、第一の目的は、外部の温度変化に影響されず培養容器内の温湿度条件を一定に保つことができる培養装置を提供することにあり、第二の目的は、培養容器内のガス濃度の調節が簡単に行なえ、しかも培養試験の準備に要する作業時間、労力を軽減することができる培養装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、細胞を培養するための容器部とその容器部に連通する口部とを有する箱状の培養容器と、上記容器部および上記口部の形状に沿って形成され、上記培養容器の外側に間隙を設けて配置される箱状の外装体と、上記培養容器および上記外装体の口部を開放可能に封止し得る蓋体とを備えてなる培養装置である。
【0014】
本発明において、上記培養容器の口部端部と上記外装体の口部端部とを接続し、上記間隙が真空引きされていることが好ましい。
【0015】
また、上記蓋体に、上記培養容器内にガスを導入するためのガス導入管および排気管を備えることができる。
【0016】
また、上記培養容器と上記外装体の各上面、および各下面の少なくともいずれか一方の各面に、光を透過させるための光透過部を有することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の培養装置によれば、外部の温度変化に影響されず培養容器内の温湿度条件を一定に保つことができる。
【0018】
また、ガス導入管および排気管を備えた培養装置によれば、培養容器内のガス濃度の調節が簡単に行なえ、しかも培養試験の準備に要する作業時間、労力を軽減することができるという長所を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に示した一実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明に係る培養装置の構成を断面図で示したものである。
【0021】
培養装置1は、水槽内に浸漬させることができるように密閉可能な容器構造であるとともに、外部の温度変化が培養装置1内部の環境に影響を与えないよう真空二重構造となっている。
【0022】
詳しくは、培養装置1は、1気圧の圧力差に耐え得ることができる、外側容器(外装体)2およびその外側容器2内に収納される内側容器(培養容器)3を有している。
【0023】
各容器2,3は、全体が光透過部として機能する透明部材(例えばガラス等)で構成することができるが、少なくとも内側容器3における水滴付着部およびそれに対応する範囲の外側容器2が、光透過部として機能する透明部材で構成されているものであってもよい。
【0024】
内側容器3は、細胞を培養するための容器部3aとその容器部3aに連通する管状の口部3bとから構成され、外側容器2は内側容器3の外形に沿って形成された容器部4aと口部3bの外側に同心円上に配置された口部4bとから構成されている。
【0025】
両口部3b,4bの端部3c,4cは接合されて一体化されており、それにより、内側容器3と外側容器2は二重構造となっている。また、内側容器3と外側容器2との間に形成される間隙Aは真空引きされることによって真空となっている。
【0026】
上記内側容器3は底板部3dと、側板部3eと、上板部3fとによって箱状に形成されており、一方の側板部3eに上記する口部3bが形成され、後述するシリンジを挿通させるようになっている。
【0027】
また、上記底板部3dにおける長さLにわたる範囲は、水滴付着部3gであり、さらに、外側容器2において上記水滴付着部3gと対向する範囲(図2に示す範囲S参照)は、上記したように透明部材2aである必要がある。
【0028】
上記水滴付着部3gの上面に、培養液を注入するようになっている。
【0029】
また、4面すべての側板部3eの上部には、内側容器3の肉厚を若干薄くした薄肉部3iが全周にわたって形成されており、その結果、薄肉部3iと側板部3eとの境界部分に段差部3jが形成されている。
【0030】
上記薄肉部3iは、加湿用の水を含ませるための繊維状マット5を収納する収納部を構成しており、収納された繊維状マット5の下側周縁は上記段差部3jによって係止され脱落しないようになっている。
【0031】
上記繊維状マット5は、容器部3a内の湿度を100%に保持することができるものであれば、特に制約はなく、例えばスポンジや吸水布等から構成することができる。
【0032】
また、上記口部4bには容器部3aを密閉するための蓋体としてのシール蓋6が嵌着されるようになっており、このシール蓋6には、そのシール蓋6を貫通した状態でガス導入管7および排気管8が取り付けられている。
【0033】
それにより、口部4bをシール蓋6で閉栓した後、上記ガス導入管7および排気管8を利用して、組成の調節されたガスを容器部3a内に充填することができるようになっている。
【0034】
なお、シール蓋6の嵌合部分の内壁6aには、口部4bを密閉できる例えばOリング等のシール材(図示しない)が備えられており、このシール材を備えたシール蓋6と、口部4bとが嵌合されることによって、培養装置1は、容器部3a内部と外部の環境との間で熱の出入を遮断する高断熱性を確保することができるようになっている。
【0035】
上記したように本実施形態に係る真空二重構造の培養装置1によれば、計測のために培養装置1を異なる環境に移動させても、容器部3aの内部で急激な温度変化の発生することを防止することができる。すなわち、容器部3aの内部温度が上昇して水滴が蒸発したり、また、温度低下に伴って結露の発生することが防止され、水滴の環境(栄養塩濃度等)が変化することを防止することができる。
【0036】
図3および図4は本発明の培養装置1の使用方法を示したものである。
【0037】
なお、両図において図1と同じ符号は同じ構成要素を示している。
【0038】
a.試験準備
図3において、微細藻(数μm〜数十μm)を含む培養液を、シリンジ9を用いて水滴付着部3gに順番に注入する。注入量はシリンジのタイプによって異なるが例えば0.01〜0.1mLの範囲内である。なお、図中のBは注入された培養液を示している。
【0039】
次いで、濃度が調節されたCOガスを容器部3a内に導入し、培養液B中にCOガスを十分溶け込ませる。
【0040】
このようにして、容器部3a内で所定濃度のCOガスが溶解された培養液を生成することにより、細胞の増殖に必要な栄養素の含まれた培養液が得られる。
【0041】
次いで、繊維マット5に加湿用の水を含ませ、容器部3a内の湿度を100%にする。
【0042】
この状態でシール蓋6(図1参照)を装着して培養装置1を密閉する。
【0043】
b.培養試験
図4において、照光装置10が上方にある場合、培養装置1の姿勢を図3に示した状態から上下逆にする。なお、照光装置10が培養装置1の下方にある場合は姿勢を変えずに培養を行なう。
【0044】
この状態で培養装置1の内部環境は、CO、O濃度および温度が一定であり、湿度は100%となっている。
【0045】
上記照光装置10は、発熱による温度上昇を防止するため赤外線放射量の少ない例えばLED等の光源を使用することが好ましい。また、各水滴毎に遮光率を変更できるよう、外側容器3における透明部材2aの外壁に遮光率の異なるフィルタを設けることもできる。それにより、一つの培養装置1でさまざまな光環境条件を設定することが可能になる。
【0046】
なお、上記フィルタは透明部材2aに貼着する等の簡単な方法で取り付けることができる。
【0047】
また、培養装置1内のガス濃度については、ガス導入管7および排気管8を利用して調節することができる。
【0048】
上記構成を有する培養装置1を用いて微細藻のミドリムシの増殖速度を最大にする条件を調べた。
【0049】
その結果、増殖を最大にし得る条件は、温度27〜31℃、PPFD 90〜120μmol m−2 s−1、青色光と赤色光の光量子束比が1:4、CO濃度 4%、酸素濃度 20%であった。
【0050】
なお、上記実施形態において、小規模で培養試験を行なう場合、上記培養装置1を浅い水槽内に浸漬させることが好ましい。
【0051】
培養装置1を比較的温度変化の少ない水中に浸漬させれば、室内全体の温度を調節する必要がなくなり、限られた設置場所でも培養試験を行なうことが可能になり、また、設備費も軽減することができる。
【0052】
一方、培養試験を室温で行なう場合であっても、本発明の培養装置1は真空二重構造で構成されているため、室温が変動してもその影響を受けることは少なく、容器部3aの内部温度が上昇して水滴が蒸発したり、また、温度低下に伴って結露の発生することがない。
【0053】
本発明の培養装置1によれば、従来のように二枚のアクリル板を中子枠に固定して密閉環境を構築する作業を必要としないため、培養試験の準備のために要する作業時間、労力を大幅に軽減することができる。
【0054】
また、本発明の培養装置1は、上記実施形態では真空二重構造で構成したが、光を透過させる透明部材部分を除き、二重構造の内側容器3と外側容器2との間隙に、例えば発泡ポリウレタンホーム等の発泡樹脂を充填して断熱構造とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る培養装置の構成を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す培養装置の平面図である。
【図3】本発明に係る培養装置の準備状態を示す説明図である。
【図4】本発明に係る培養装置の試験状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1 培養装置
2 外側容器
2a 透明部材
3 内側容器
3a 容器部
3b 口部
3c 端部
3d 底板部
3e 側板部
3f 上板部
3g 水滴付着部
3i 薄肉部
3j 段差部
4a 容器部
4b 口部
4c 端部
5 繊維状マット
6 シール蓋
7 ガス導入管
8 排気管
9 シリンジ
10 照光装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を培養するための容器部とその容器部に連通する口部とを有する箱状の培養容器と、
上記容器部および上記口部の外形に沿って形成され、上記培養容器の外側に間隙を設けて配置される箱状の外装体と、
上記培養容器および上記外装体の口部を開放可能に封止し得る蓋体とを備えてなることを特徴とする培養装置。
【請求項2】
上記培養容器の口部端部と上記外装体の口部端部とが接続され、上記間隙が真空引きされている請求項1記載の培養装置。
【請求項3】
上記蓋体に、上記培養容器内にガスを導入するためのガス導入管および排気管が備えられている請求項1または2記載の培養装置。
【請求項4】
上記培養容器と上記外装体の各上面、および各下面の少なくともいずれか一方の各面に、光を透過させるための光透過部を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の培養装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−283871(P2008−283871A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129201(P2007−129201)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】