説明

培養装置

【課題】小型培養容器とマニピュレータのそれぞれの要素に対して、それぞれ好ましい環境を設定し、自動で培養作業ができる自動培養装置を提供する。
【解決手段】本発明の培養装置では、第1室と培養室たる第2室が備えられ、第2室内にのみ湿気を発生させる手段を設ける。これにより、第1室の湿度環境と第2室の湿度環境を異ならしめ、第2室の外部に配置され、第2室に対してアクセスするマニュピレータが湿気によって悪影響を受けることを回避することができる。また、第2室はスライド扉を有し、第2室の設けられた開口部を塞ぐように扉駆動手段によって開閉制御される。マニュピレータは、培養容器に対して作用する作用部と、この作用部を駆動する駆動部と、作用部と駆動部との間に距離を取るための補助部材と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養装置に関し、特に、例えば動物細胞の組織培養(自動培養)を行うための培養装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療や医療に関連する分野等においては、生体から分離した各種の細胞の培養が盛んに行なわれている。この種の細胞培養を効率よく行うためには、培養環境を当該細胞が分離前に存在していた生体内環境に限りなく近づける必要がある。また、細胞の培養においては、汚染を防止しなければならない。特に人間は最大の汚染源となりうるため、人間の介在を極力避けるのが望ましい。
【0003】
例えば、特許文献1には、第1チャンバと細胞を培養するための第2のチャンバを有する培養装置が開示されている。この培養装置では、第1のチャンバには複数個のエアロック式の出入り口が設けられ、第1のチャンバ内には遠隔制御または自動制御で作動するマニピュレータが配置されている。そして、このマニピュレータはエアロック式の出入り口と第2のチャンバの双方にアクセスする。これにより、培養装置の人間からの汚染をなくすことができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−236514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の培養装置では、温度や湿度環境の徹底した制御については言及されていない。培養装置内における、細胞を培養する環境は、通常湿度100%の状態である。従って、特許文献1の培養装置では、湿度100%の環境にマニピュレータのようなモータなどの可動部を持つ機械装置が晒されることになるため、結露やそれによる腐食などの影響があり、好ましくない。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、小型培養容器とマニピュレータのそれぞれの要素に対して、それぞれ好ましい環境を設定し、自動で培養作業ができる培養装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明の培養装置では、第1室と培養室たる第2室が備えられ、第2室内にのみ湿気を発生させる手段を設けている。これにより、第1室の湿度環境と第2室の湿度環境を異ならしめ、第2室の外部に配置され、第2室に対してアクセスするマニュピレータが湿気によって悪影響を受けることを回避することができる。
【0008】
湿気を発生させる手段は、培養室内の床(底)に供給された水によって湿度を所定湿度に維持する。また、この水の水温を所定温度に保持するためのヒータとその水温をモニタする温度センサを有し、温度センサの情報に基づきそれぞれのヒータの発熱量を制御する。さらに、この水が少なくなったら供給するようにすれば、比較的長期間に及ぶ培養処理にも対応でき、良い培養環境を長期間保つことができる。
【0009】
また、第2室の内部に培養容器を温めるためのヒータを設け、より安定に培養環境を維持できる。
【0010】
さらに、マニピュレータに関し、第2室に入る部分(作用部)以外の箇所に駆動用モータを配置すれば、マニュピレータが湿気によって影響を受けることを防止することができる。
【0011】
つまり、上記課題を解決するために、本発明による培養装置は、培養容器を用いて細胞を培養する培養装置であって、第1室と、前記第1室内の温度を制御する手段と、前記第1室の内部に収められ、扉部を具備する第2室と、前記第2室の内部を加湿するための湿気発生手段と、前記第2室の内部に収められ、細胞を収める培養容器を保持する保持手段と、前記第2室の外部に配置され、前記第2室に対し、前記扉部を介して前記容器を出し入れするマニュピレータと、を備えることを特徴とする。第2室の湿度は、第1室の湿度よりも高い。
【0012】
さらに、この培養装置は、前記第2室の内部に収められ、前記培養容器を温めるための第1のヒータを備える。
【0013】
さらに、この培養装置は、前記第1室内を所定の温度に維持するための温度維持手段を備える。
【0014】
さらに、この培養装置は、一定温度で大気圧よりも高い状態の空気を供給する空気供給手段を備え、内部の空気が前記第1室の微小な隙間から漏れるように構成されている。
【0015】
また、前記マニピュレータは、前記第2室に入る部分以外に駆動のモータを有している。
【0016】
そして、前記湿気発生手段の一形態は、前記第2室に供給された加湿用水を温めるための第2のヒータと、前記加湿用水の水温を検知する水温検知手段と、前記水温検知手段によって検知された水温に応じて前記第2のヒータの熱量を制御する熱量制御手段と、を備え、さらに、前記加湿用水の量を検知する水量検知手段と、加湿用水を供給する加湿用水供給手段と、前記水量検知手段の検知結果に基づいて、前記加湿用水供給手段による水の補給を制御する水量制御手段と、を備えるようにしてもよい。
【0017】
前記湿気発生手段の別の形態は、加湿用水を温めるためのヒータを有し、前記第2室に所定温度の加湿用水を供給し、循環させる加湿用水循環手段と、前記加湿用水の水温を検知する水温検知手段と、前記水温検知手段の結果に基づいて、前記加湿用水循環手段に設けられた前記ヒータの発熱量を制御して前記加湿用水の温度を調整する水温制御手段と、を備える。
【0018】
前記保持手段は、複数の培養容器を保持する棚で構成され、前記扉部は前記棚に対して個別に開閉可能に設けられた複数の小扉を有し、前記複数の培養容器を個別に取り出すことができるように構成されている。
【0019】
培養装置は、さらに、前記第2室内に設けられ、前記第2室内の空気を攪拌するに充分な風量を発生するファンを備える。
【0020】
本発明による培養装置は、培養容器を用いて細胞を培養する培養装置であって、第1室と、前記第1室の内部に収められ、扉部を具備する第2室と、前記第2室の内部を加湿するための湿気発生手段と、前記第2室の内部に収められ、細胞を収める培養容器を保持する保持手段と、前記培養容器を温めて、一定の温度に保つための温度制御手段と、前記第2室の外部に配置され、前記第2室に対し、前記扉部を介して前記容器を出し入れするマニュピレータと、を備えることを特徴とする。
【0021】
また、本発明による培養装置は、培養容器を用いて細胞を培養する培養装置であって、第1室と、前記第1室の内部に収められ、扉部を具備する第2室と、
前記扉部を開閉するための扉駆動手段と、前記第2室の内部を加湿するための湿気発生手段と、前記第2室の内部に収められ、細胞を収める培養容器を保持する保持手段と、前記第2室の外部に配置され、前記第2室に対し、前記扉部を介して前記容器を出し入れするマニュピレータと、を備え、前記扉部はスライド扉であり、前記第2室の設けられた開口部を塞ぐように前記扉駆動手段によって開閉制御され、前記マニュピレータは、前記培養容器に対して作用する作用部と、この作用部を駆動する駆動部と、前記作用部と前記駆動部との間に距離を取るための補助部材と、を有していることを特徴とする。
【0022】
さらなる本発明の特徴は、以下本発明を実施するための形態および添付図面によって明らかになるものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の培養装置によれば、小型培養容器とマニピュレータのそれぞれの要素に対して、それぞれ好ましい環境を設定し、自動で培養作業ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1の実施形態による培養装置1の概略構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態において培養室2の扉3が開いた状態を示す図である。
【図3】第2の実施形態による培養装置1の概略構成を示す図である。
【図4】第2の実施形態による培養装置1が湿気用水を供給する手段(自動液面維持手段)を備えた概略構成を示す図である。
【図5】第2の実施形態による培養装置1において、第1の実施形態とは異なる別の湿度発生手段を備えた構成を示す図である。
【図6】第3の実施形態による培養装置1の概略構成を示す図である。
【図7】第3の実施形態による培養装置1において、第1の実施形態とは異なる別の扉部を備えた構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の培養装置の実施形態(自動培養装置)について、図を参照しながら具体的に説明する。ただし、図に示された構成はほんの一例に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
【0026】
<第1の実施形態>
図1及び図2は、本発明の第1の実施形態に係る自動培養装置の概略構成を示している。
【0027】
図1において、第1室である自動培養装置1の内部には、扉部3を持つ閉空間になる第2室である培養室2と、小型培養容器Pをハンドリングし、培地交換などの作業を行うマニピュレータ5とが設けられている。自動培養装置1の外壁は、内部の熱を極力逃がさないように断熱材であることが望ましい。また、培養室2の外壁には断熱材や金属等を用いることができる。外壁に断熱材を用いた場合には培養室2内部の熱を逃がしにくくなり、内部の温度を個別に制御することができるという利点がある。また、外壁に金属等を用いた場合には、培養室2外部の温度をその内部に熱を伝えやすくなると共に、培養室2内部の温度を外部にも伝えることができ、第1及び第2室の温度環境を共に培養温度に制御しやすくなるという利点がある。
【0028】
さらに、第1室には、自動培養装置1内部を所定の温度に維持するための放熱器6と、ファン7と、ヒータ12とが設けられている。第1室の温度が培養室2の外側に設置した温度センサ22により計測されて、それが所定の温度、ここでは培養時の温度(培養温度:例えば、37℃)に保たれるように、ヒータ12の発熱量が図示しない外部にある制御装置によって制御される。
【0029】
培養室2の内部には、小型培養容器Pを収容するターンテーブル4と、ターンテーブル4を温めるヒータ10と、ターンテーブルの温度を検知する温度センサ20とが設けられている。ヒータ10の発熱量は、温度センサ20の温度信号に基づいて図示しない外部にある制御装置により、ターンテーブル4(及び、小型培養容器P)が所定の温度、ここでは培養時の温度に保たれるように制御される。
【0030】
培養室2の床面には、加湿用の水Wと、これを温めるヒータ11と、水温を検知する温度センサ21とが設けられている。ヒータ11の発熱量は、温度センサ21の温度信号に基づいて図示しない外部にある制御装置により、水Wが所定の温度、ここでは培養時の温度に保たれるように制御される。
【0031】
マニピュレータ5は、作業に必要な自由度のための駆動部(アクチュエータA)と、先端にはエンドエフェクタEとを備えている。
【0032】
培養室2の内部に小型培養容器Pを収容して培養している状態では、培養室2の内部は培養温度に保たれ、培養室2床面の水は培養温度で蒸発している。さらに、培養室2の外部雰囲気は、培養装置1内部のヒータ12により培養温度に保たれているため、培養室2の内部は、培養温度かつ湿度100%に維持されている。そして、扉部3によって、第1室と培養室(第2室)2とは隔てられているので、培養室2の湿度は第1室の湿度よりも高くなっている。
【0033】
一方、図1に示されるように、マニピュレータ5は、培養室2の外に設置されており、培養室2の扉3は閉じているため、培養室2内部の湿度はその外部には影響しない。よって、マニピュレータ5に対する結露やそれによる腐食などの問題を解決することができる。
【0034】
また、培養装置1は、外部より清浄で一定温度の空気が大気圧より少し高い状態で供給する空気供給部13を備えており、内部の気体が培養装置1の微小な隙間(図示せず)から漏れるようになっている。このため、絶えず微量の空気が漏れるようになっており、培養装置1内部の空気は微小量ずつ交換される。
【0035】
培地交換などの作業が発生する場合、図2に示されるように、培養室2の扉3が開かれる。この扉3の開閉動作は、図示しない外部制御装置からの指令により、図示しない培養室2の外側に設置した駆動部により実行される。図2のように扉3が開いた状態で、マニピュレータ5が移動しエンドエフェクタEが小型培養容器Pを保持し、培養室2の内部、もしくは外部において、所定の作業を実行する。培地交換の場合、エンドエフェクタEまで設けたチューブ(図示せず)を介して培地を供給し、廃液を回収する。
【0036】
なお、扉3が開いている状態では、内部の湿気が第1室に漏れてくるが、培地交換の時間は短いため、培養装置1内部の湿度が培養室2の内部と同じ100%湿度になることはない。さらに、このとき漏れた湿気は、培養装置1内の清浄空気供給により、徐々に元の状態に戻るので、漏れた湿度による影響は無視できるものである。
【0037】
作業終了後、元の位置に小型培養容器Pを戻し、マニピュレータ5が退避し、扉3を締めて、培養環境に戻ることになる。
【0038】
以上のような構成及び機能を備える自動培養装置1によれば、小型培養容器Pにとって好ましい100%湿度環境を提供できると共に、作業のためのマニピュレータ5にとっても好ましい低湿度環境を維持できるようになる。
【0039】
<第2の実施形態>
以下、図3乃至図5を参照して本発明の第2の実施形態について説明する。図3は、本発明の第2の実施形態に係る自動培養装置1の概略構成を示している。図3の自動培養装置では、培養装置1内部の温度維持手段の構成が第1の実施形態とは異なる。
【0040】
図3において、培養装置1内部の各部屋の壁に隙間9a、9b、9cが設けられている。この図では隙間9aに、ファン7とフィルタ8とヒータ12とを設置し、ファン7は、ヒータ12に向かって送風するようにしている。ヒータ12の発熱量は、図1と同様に、培養室2の外部に設けた温度センサ22の温度情報により一定温度になるように、外部から制御されている。この状態を維持することにより、隙間9b、9cを介して空気が循環し、温度が一定になっていくとともに、フィルタにより内部の微細粒子が捕獲され、培養装置1内部の清浄度を高めることができる。
【0041】
また、第2の実施形態に係る自動培養装置は、図4に示されるように、湿度維持のための培養室2の床面にある水の量を自動的に一定に保つ手段を備えている。つまり、水面検知センサ30により、水面の位置をモニタし、蒸発、そして、扉3が開いたときに漏れる湿度により水分が蒸発して減量した水の量を検知し、図示しない外部の制御装置で水の補給量を判断し、外部にある水のリザーバタンク33より、ポンプ32を駆動させ、供給チューブ31を介して水Wを補給する。通常、細胞培養は数週間に及ぶ培養期間を必要とするため、長期において自動的に水供給できることは、自動培養装置にとっては必要な機能となる。
【0042】
さらに、第2の実施形態に係る自動培養装置は、図5に示されるように、第1の実施形態とは異なる構成の湿度発生手段を備えている。図5において、培養室2の床面の温水は排水側チューブ41及び43を経てサーキュレータと呼ばれる定温水装置45に入り内部の温度調整系、ポンプを経て、供給側チューブ44及び42を経て培養室2内に戻る。これにより、水を循環させ、その水の温度をサーキュレータ45内部に設けられた図示しないヒータによって温めて、水温が一定になるように維持されるとともに、培養室2内では水の蒸発により湿度が100%に保たれるようになっている。また、培養室2内部の温度センサ21によって培養室2内の水温をモニタし、水温が所定温度よりも下がっている場合には、図示しない外部制御装置によってサーキュレータ45のヒータの発熱量を調整することにより、効率的に温度制御できるようになる。なお、温度センサをサーキュレータ45内部に設けて水の温度制御するようにしてもよい。
【0043】
<第3の実施形態>
図6及び図7を用いて第3の実施形態に係る自動培養装置について説明する。図6は、小型培養容器Pの収容方法が第1の実施形態とは異なる自動培養装置1の構成を示している。図6において、培養室2は、複数の小型培養容器Pを多段で収容する棚が設けてあり、それぞれの棚は個別に開閉可能な扉3a、3b、3cを備えている。この扉は、個別でなく、一度に全部開いても、一枚にしても良い。ただ、個別に開閉させれば、培養室2の開口部の面積を小さくすることができるので、湿度によるマニピュレータ5への影響をより小さくすることができる。
【0044】
さらに、培養室2には、内部の空気を攪拌して内部の湿度の不均一を低減し、かつ培養室2内の温度を所定の培養温度に保つため、適当な風量を発生するファン52と、温度を所定の培養温度に保つためのヒータ51と、制御するための温度センサ50とが設置されている。なお、図示していないが、湿度ムラを防止するため、ファン52から出た風を拡散し、導くためのフィンや固定整流版などを設けても良い。
【0045】
小型培養容器Pに培地交換などの処理を行う場合、例えば、扉3aを開き、マニピュレータ5のエンドエフェクタEが培養室2内部に進入し、小型培養容器Pを把持し培養室2内部において、もしくは外部に出して、処理を行う。処理終了後、元の位置に小型培養容器Pを設置し、マニピュレータ5は培養室2から退避する。他の位置にある小型培養容器Pに対しても同じように対応する扉を開き処理を行う。このようにすることで、湿度100%の状態にある培養室2内部と、マニピュレータ5を設置してある培養装置1内部を隔絶し、それぞれの機能に合う環境を維持するものである。
【0046】
図7は、第1の実施形態とは異なる構造の扉を有する自動培養装置1を示している。図7において、培養室2の隔壁に空隙(開口部)60を設け、これを塞ぐように配置された扉63(例えば、スライド扉)がある。この扉63を上下駆動機構61により、可動部62を上下に動かし、この可動部62に一体で固定した扉63を上下に動かすことで、扉機能が提供されている。この扉機構に対応して、マニピュレータ5においては、エンドエフェクタEとそれを駆動するアクチュエータAの間に支持部材(補助部材)Fを設け、扉63をあけて、エンドエフェクタEを培養室2内部に進入させたとき、駆動部であるアクチュエータAを培養室2内部から出来るだけ遠くに配置できる構成になっている。このように支持部材FによってエンドエフェクタEをアクチュエータAから一定以上の距離を取る構成を採用しているので、マニピュレータの中でも特に湿度などの影響を受けやすいアクチュエータAを出来るだけ高湿度環境から遠ざけることができ、より効果的に湿度の影響を防止することができる。図3の構成と比較すれば良く理解できるように、アクチュエータとエンドエフェクタとの距離は、図7に示す構成の方が長く取ることができるようになっている。
【0047】
なお、図示してはいないが、培養装置1内部の所定の場所に、扉開時に漏れる湿気を吸収する吸湿材などを配置することで、よりマニピュレータ5(特にアクチュエータA)に適した環境を維持することも可能である。
【0048】
また、アクチュエータAを樹脂等の保護部材により覆うようにすれば、さらに湿気による悪影響を防止することができる。
【0049】
さらに、第1乃至第3の実施形態では、培養室2の床面(底面)に水を供給して温め、湿度を100%にしているがこれに限られず、100%の湿度の空気を培養室2に対して与えるようにしてもよい。この場合、培養室2に内部の湿度をモニタする手段を設け、その結果により湿気を含む培養温度の空気を培養室2内に送り込むような構成を採ればよい。
【0050】
<まとめ>
以上、本実施形態による培養装置によれば、第1室と培養室(第2室)を分離し、第2室にのみ湿気発生手段を設け、両室とも培養温度に保っているので、小型培養容器にとっては培養温度及び湿度100%の環境に設置(保つ)することができる一方、培養作業用のマニピュレータにとっては培養温度で、低湿度の環境に設置しておくことができる。よって、マニュピレータ全体が高湿度の領域に晒されることを防ぎ、マニュピレータの腐食などを回避することができる。また、マニピュレータにおいて湿度の影響がある駆動部分をマニピュレータの高湿度領域内で機能する部分例えばエンドエフェクタ部分など以外の位置に配置することで、より湿度の影響を低減できるという効果がある。
【0051】
さらに、ターンテーブルにも温度ヒータを設けたことで、ターンテーブル(及び培養容器)の温度制御が迅速に出来るため、扉を開閉してもなお温度を一定に維持することが容易になる。また、湿度供給用の水が自動供給でき、培養期間にわたり、自動で環境を維持できる。
【0052】
また、第1室内を所定の温度に維持するための温度維持手段を備えるようにしているので、第1室と第2室とを同一の温度に制御することが容易になる。
【0053】
さらに、本実施形態による培養装置は、一定温度で大気圧よりも高い状態の空気を供給する空気供給手段を備え、内部の空気が第1室の微小な隙間から漏れるように構成されているので、扉部を開けて第2室の湿気が第1室に漏れたとしても湿気のない空気が第1室に提供され、マニュピレータの湿気からの影響を抑えることができる。
【0054】
このマニピュレータは、第2室に入る部分以外に駆動のモータを有していれば、モータと培養容器との距離を取ることができるので、モータに対する湿気の影響を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
細胞を培養して治療に役立て、或いは検査をする再生医療は、研究者による実験室レベルでは画期的な効果を示した例が報告されるようになってきているが、広く一般の治療として普及していくためには、如何に安全に品質の高い培養組織を効率的に作るかが大きなポイントである。このためには、人手による培養だけでなく、自動培養による効率的な培養が必要であり、産業として成り立つためにも、自動培養技術の確立は急務である。自動培養技術においては、機械による培養処理が必然であり、この場合、培養で必要になる環境と機械に必要となる設置環境は必ずしも同じではなく、それぞれに適した環境を維持しつつ処理が行える本発明の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0056】
1・・・自動培養装置、2・・・培養室、3・・・培養室の扉、4・・・ターンテーブル、5・・・マニピュレータ、6・・・放熱器、7・・・ファン、10・・・ターンテーブル用ヒータ、11・・・水温維持用ヒータ、12・・・空気温度維持用ヒータ、20・・・ターンテーブル用温度センサ、21・・・水温用温度センサ、22・・・外部温度用温度センサ、P・・・小型培養容器、E・・・エンドエフェクタ、W・・・湿度発生用水、30・・・液面センサ、32・・・送液ポンプ、33・・・リザーバタンク、45・・・サーキュレータ装置、50・・・培養室内温度センサ、51・・・培養室内用ヒータ、52・・・送風ファン、60・・・培養室空隙(開口部)、61・・・上下駆動機構、62・・・接続部材、63・・・扉部(別の構成)、F・・・支持部材、A・・・アクチュエータ、9a、9b、9c・・・空隙(開口部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養容器を用いて細胞を培養する培養装置であって、
第1室と、
前記第1室の内部に収められ、扉部を具備する第2室と、
前記第2室の内部を加湿するための湿気発生手段と、
前記第2室の内部に収められ、細胞を収める培養容器を保持する保持手段と、
前記培養容器を温めて、一定の温度に保つための温度制御手段と、
前記第2室の外部に配置され、前記第2室に対し、前記扉部を介して前記容器を出し入れするマニュピレータと、
を備えることを特徴とする培養装置。
【請求項2】
培養容器を用いて細胞を培養する培養装置であって、
第1室と、
前記第1室の内部に収められ、扉部を具備する第2室と、
前記扉部を開閉するための扉駆動手段と、
前記第2室の内部を加湿するための湿気発生手段と、
前記第2室の内部に収められ、細胞を収める培養容器を保持する保持手段と、
前記第2室の外部に配置され、前記第2室に対し、前記扉部を介して前記容器を出し入れするマニュピレータと、を備え、
前記扉部はスライド扉であり、前記第2室の設けられた開口部を塞ぐように前記扉駆動手段によって開閉制御され、
前記マニュピレータは、前記培養容器に対して作用する作用部と、この作用部を駆動する駆動部と、前記作用部と前記駆動部との間に距離を取るための補助部材と、を有していることを特徴とする培養装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−233582(P2010−233582A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167281(P2010−167281)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【分割の表示】特願2006−238924(P2006−238924)の分割
【原出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/組織再生移植に向けたナノバイオインターフェイス技術の開発(再)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】