説明

基板加熱構造体

【課題】 基板加熱構造体の発熱部およびサセプターおよびリフレクターの少なくともどれか1つに、面内方向で熱伝導調整部を設け、被加熱物を目的とする平面温度分布に加熱することを課題とする。
【解決手段】 被加熱物を加熱するための基板加熱構造体において、被加熱物の温度分布を均一にするため、発熱部の他に、サセプターもしくはリフレクターの少なくともどちらか1つを有し、発熱部およびサセプターおよびリフレクターの少なくともどれか1つに、面内方向で熱伝導調整部を設け、被加熱物を目的とする温度分布に加熱する基板加熱構造体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスの製造工程におけるCVD装置やスパッタ装置、又は、生成薄膜をエッチングするエッチング装置等に使用される、被加熱物である半導体ウェハを加熱するための基板加熱構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程における半導体ウェハの加熱に使用される基板加熱構造体には、ウェハ面内に一様なCVD、スパッタリング、エッチング処理などを施すために、温度分布の均一性が必要である。
特許文献1においては、セラミックス基体内に、厚さ方向に2層の抵抗発熱体を埋設し、各層の抵抗発熱体に内周または外周に発熱密度増加部を設け、かつ、層相互間で、互いに異なる部分にその発熱密度増加部を配置することによって発熱量の均一化を図っている。また、特許文献2では、コイルスプリング状の巻回体からなり、巻き径の異なる二つの抵抗発熱体を加熱面に対して略平行な平面の沿ってパターン配置して埋設することで、セラミックヒーター内の構造欠陥部に基づく平面内の温度差および厚さ方向の温度変化を少なくする構造としている。
【0003】
しかし、このような発熱部が埋設された一体型のヒーターでは、基体の熱容量が大きくなり、温度上昇に時間がかかってしまう。また、加工寸法の精度から、機能性を有する孔(ガス供給孔、リフトピン挿入孔など。特許文献2においては「構造欠陥部」)の近くに発熱部を設けることが困難であり、その近傍がコールドスポットになりやすい。
【0004】
このような一体型ヒーターが存在する一方で、発熱部に対向する位置にサセプター(均熱板)及びリフレクター(遮熱板)を配置し、これらを保持基材に組み込んだアセンブリー構造としたヒーター(以下、基板加熱構造体とする)も作製されている(非特許文献1参照)。
【0005】
このような基板加熱構造体は、それぞれの熱容量を小さくすることができ、発熱部などに問題が生じても、部分的に交換することができるため、コストダウンにも繋がる。この基板加熱構造体に、独立して制御することが可能な発熱回路を複数設けることにより、コールドスポットを選択的に加熱することで、低温領域の温度を上昇させることも行われてきた(ここで、低温領域とはエッジ部や給電端子、ガス供給孔、リフトピン挿入孔の近傍などである)。
【0006】
しかし、サセプターおよび発熱部およびリフレクターの面内方向の熱伝導により、全体の温度分布は均一になるものの、発熱部において低温領域を選択的に加熱しようとした場合、その局所的な加熱もサセプター、リフレクターの熱伝導により、低温領域外の範囲に伝熱してしまうため、結果として低温領域外の範囲が高温となってしまうことがあった。特にエッジ部近傍を発熱部により選択的に加熱すると、サセプター、リフレクターの熱伝導により、エッジ部よりも内側が高温となってしまう。
つまり、エッジ部や給電端子、ガス供給孔、リフトピン挿入孔の近傍においては、低温領域が発生しやすく、周囲と比較して温度が低くなってしまう場合が多い。その対応として、特にエッジ部において選択的に加熱しようとしても、サセプターおよびリフレクターの熱伝導により、エッジ部よりも内側の範囲に熱が伝導してしまうため、結果としてエッジ部よりも内側の範囲がより高温となってしまうことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−102157号公報
【特許文献2】特許第4026761号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】小坂井 守;「SiCヒーターの有限要素法による熱解析について」;大阪住友セメント テクニカルレポート 1996年版,pp.6−9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みて、基板加熱構造体の発熱部およびサセプターおよびリフレクターの少なくともどれか1つに、面内方向で熱伝導を調整するための熱伝導調整部を設け、被加熱物を目的とする温度分布に加熱することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は鋭意検討を重ねた結果、基板加熱構造体において、サセプター、リフレクターの均熱性を活かしつつ、ウェハの低温領域を選択的に加熱するために、発熱部およびサセプターおよびリフレクターに溝や穴を設けることにより、発熱部およびサセプターおよびリフレクターの面方向の熱伝導を抑制することができ、選択的に低温領域を加熱して、目的とする温度分布に加熱することができることを知見して、本発明にいたった。
すなわち、本発明の基板加熱構造体は、被加熱物の温度分布を均一にするため、発熱部の他に、サセプターもしくはリフレクターの少なくともどちらか1つを有し、発熱部およびサセプターおよびリフレクターの少なくともどれか1つに、面内方向で熱伝導を調整するための熱伝導調整部を設け、被加熱物を目的とする温度分布に加熱することを特徴とする。
【0011】
前記熱伝導調整部は、発熱部、サセプター、リフレクター内に設けられた溝または穴であること、前記発熱部は、熱伝導調整部を境にして単位面積当たりの発熱密度が異なるよう複数の発熱領域からなること、前記発熱部およびサセプターもしくはリフレクターの少なくとも1つが、面方向の熱伝導率aと厚さ方向の熱伝導率bの比a/bが25以上の異方性材料からなること、前記サセプターは、窒化物セラミックス、酸化物セラミックス、もしくは黒鉛やニッケル、クロム、タンタル、モリブデン、タングステンなどの耐熱基材を、前記の窒化物セラミックス、酸化物セラミックスを素材とする絶縁性の膜でコーティングした材料からなること、前記リフレクターは、黒鉛、窒化物セラミックス、酸化物セラミックス、またはニッケル、クロム、タンタル、モリブデン、タングステン、白金、金等の高融点金属、さらには前記黒鉛、窒化物セラミックス、酸化物セラミックスを前記高融点金属でコーティングした材料からなること、さらに、前記異方性材料が熱分解窒化ホウ素であること、が、それぞれ好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、低温領域を選択的に加熱することで、被加熱物たるシリコンウェハを800℃において±1%の温度範囲に均一に加熱することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施例1の熱伝導調整部が溝である場合の基板加熱構造体を示す説明図である。
【図2】図2は、本発明の実施例2の熱伝導調整部の穴部分を示した拡大説明図である。
【図3】図3は、本発明の基板加熱構造体を組み込んだ加熱装置を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の基板加熱構造体について、図面をも参照しつつ、詳細に説明する。
図1は、本発明の実施例1の、熱伝導調整部が溝である場合の基板加熱構造体を示すものであり、図2は、本発明の実施例2の熱伝導調整部の穴部分を示すものであり、図3は、本発明の基板加熱構造体を組み込んだ加熱装置を示したものである。
図において、1は発熱部、2はサセプター、3はリフレクター、4は熱伝導調整部たる溝であり、5は仮想の被加熱物たるウェハである。6は熱伝導調整部たる穴である。そして、7は、加熱装置における保持部材である。
【0015】
本発明によれば、被加熱物の温度分布を均一にするために、発熱部の他にサセプターもしくはリフレクターの少なくともどちらか1つを併せ備え、発熱部およびサセプターおよびリフレクターの少なくとも一つに、面内方向で熱伝導を調整するための熱伝導調整部を設ける。熱伝導調整部は、発熱部およびサセプターおよびリフレクターに温度の高低差を作り出すために設けられ、この場所は特には限定されるものではない。低温領域近傍に設けることにより、その部分以外での面方向の均熱効果を活かしつつ、低温領域を選択的に外部からの加熱をすることが可能である。
【0016】
熱伝導調整部は、溝または穴などの、表面に沿う熱伝導が抑制できる形状であり、これは、機械的加工によって形成されてもよいし、または、鋳込みなどによって形成されてもよい。このように個体表面の伝導伝熱のパスが減少あるいは遮断することで、境界を越えた熱伝導が悪くなり、境界の両側で温度の差が生じた場合には、その温度の高低差を保存することができ、それを是正するために選択的に低温領域を加熱しても、高温領域の方に熱量が移動することなく(そこの温度を変化させることなく)低温領域の温度のみを上昇させることができるので、被加熱物の温度分布を全体として均一にすることが可能である。
【0017】
選択的に低温領域の温度を上昇させるには、熱伝導調整部を境にして片側をより加熱する必要がある。発熱部に独立して制御可能な複数の回路を設けて、境界の片側で単位面積当たりの発熱密度を高くすることで、高温領域の温度を上昇させることなく、低温領域を加熱することが可能である。
このような熱伝導調整部となる溝または穴などに関しては、溝の場合は、狭幅のリング状ないし閉曲線状の連続溝でも、また、断続する溝でも良い。また、孔の場合には、発熱部を貫通するものとするので、狭幅のリング状ないし閉曲線状の断続する「穴」とする。断続部の長さ(長穴に沿う長さ)は、周の長さの1/8〜1/16、その個数は、制限的ではないが、均等分布させて4〜8個とすると良い。断続部の肉厚を減肉することもできる。
【0018】
発熱部およびサセプターおよびリフレクターの材料としては、熱伝導率に異方性を持つ材料を使用することで、より面内の均熱性を向上させることができる。面内方向での熱伝導率aと厚さ方向での熱伝導率bの比a/bが25以上であることが好ましい。a/bが25未満では、温度差が大となり、面内の均熱性の効果が現れ難い。
特に、熱分解窒化硼素では、面内方向での熱伝導率50W・m-1・K-1と厚さ方向での熱伝導率2W・m-1・K-1であり、a/bが25以上であり、好ましい。
一方で、これに熱伝導調整部を設けることで、低温領域を加熱して、その他の領域では均熱性の高い発熱部およびサセプターおよびリフレクターとすることができる。
【0019】
サセプターおよびリフレクターの材料については、異方性材料でなくとも、熱伝導率の高いアルミナなどの酸化物セラミックス、また、窒化アルミニウム、窒化珪素などの窒化物セラミックス、もしくは、酸化物膜あるいは窒化物膜等の絶縁性の膜でコーティングした高融点金属基材などを選択することが好ましい。特にリフレクターにおいては、金属板やセラミックスなどの耐熱基材をスパッタやCVDなどで金属膜をコーティングした材料を選択することも、反射率が高いため好ましい場合がある。なお、発熱部、サセプターおよびリフレクターの素材に関しては、その組み合わせに格別の制限はない。
【実施例1】
【0020】
直径340mm、厚さ3mmの熱分解窒化硼素(Pyrolytic boron nitride)基材に熱分解黒鉛層(Pyrolytic graphite)(厚さ0.1mm)を化学気相成長法により形成し、加工により内外2ゾーン(内と外で独立して制御可能)の発熱パターンを作製した。
次に、同様の大きさ(直径340mm、厚さ3mm)で熱分解窒化硼素サセプター及び熱分解窒化硼素リフレクター素材を作製し、加工により熱伝導調整部となる溝を形成してサセプター及びリフレクターを作製した(図1)。図1に示される溝は、発熱部およびサセプターおよびリフレクターのいずれも深さ1.5mm、幅1mmとし、発熱部の内外2ゾーンの境界(直径250mm)と同様の位置に作製した。
【0021】
比較例として、同様の材質、大きさで溝を形成しない発熱部およびサセプターおよびリフレクターも用意した。
これら発熱部およびサセプターおよびリフレクターを保持部材に組込むことで図2に示す基板加熱構造体とした。
【0022】
以上、実施例及び比較例の基板加熱構造体上(サセプター上)に、φ300mmシリコンウェハを載置し、発熱部の内外2ゾーンにそれぞれ電力を供給して加熱することで、800℃におけるウェハ面内温度分布を測定した。ウェハエッジ部付近の温度が低くなりやすいため、外ゾーンの発熱を内側よりも30%大きくなるように電力を調整した。
その結果を、中心部に対するエッジ部の温度低下として測定し、表1に示す。
【0023】
表1に示すウェハ温度分布より、比較例よりも実施例の方が、外ゾーンの余分に加えた熱が内ゾーンに伝熱しないため、選択的にウェハエッジ部を加熱することができ、エッジ部の温度低下はΔT=5℃程度であり、良好な温度分布を得ることができた。
以上より、ヒーター及びサセプター及びリフレクターに溝を形成することで、溝両側での伝熱を抑制することができることが判明した。これより、2ゾーンヒーターの外ゾーンの発熱を選択的にウェハエッジ部に供給することで、エッジ部の温度低下を抑制することが可能となった。
【0024】
また、窒化アルミニウム及びカーボン基材を熱分解窒化硼素でコーティングしたサセプター、リフレクターを作製し、加工により熱伝導調整部となる溝を形成した。上述同様に800℃におけるウェハ面内温度分布を測定した。エッジ部の温度低下はそれぞれΔT=4℃、ΔT=8℃程度であり、良好な温度分布を得ることができた。
以上より、窒化アルミニウムやカーボン基材を熱分解窒化硼素でコーティングした材質においても、熱分解窒化硼素同様の効果を得ることができた。
【0025】
【表1】

【実施例2】
【0026】
実施例1と同様に発熱部およびサセプターおよびリフレクターを作製し、加工により熱伝導調整部となる穴を作製した。図2に示される穴は、幅1mmで、断続部の長さ(弧の長さ)は32mm、個数は均等分して4個とし、発熱部の内外2ゾーンの境界(直径250mm)と同様の位置に作製した。
比較例として、同様の材質、大きさで溝を形成しない発熱部およびサセプターおよびリフレクターも用意した。これら発熱部およびサセプターおよびリフレクターを保持部材に組込むことで、実施例1と同様、基板加熱構造体とした。
【0027】
以上、実施例及び比較例の基板加熱構造体上(サセプター上)に、φ300mmシリコンウェハを載置し、発熱部の内外2ゾーンにそれぞれ電力を供給して加熱することで、800℃におけるウェハ面内温度分布を測定した。
その結果を、中心部に対するエッジ部の温度低下として測定し、表2に示す。
表2に示すウェハ径方向温度分布より、比較例よりも実施例の方が、ウェハエッジ部の温度低下がΔT=10℃前後であり、良好な温度分布を得ることができた。
以上より、ヒーター及びサセプター及びリフレクターに穴を形成することでも、穴両側での熱伝導を抑制することができることが分かった。
【0028】
【表2】

【符号の説明】
【0029】
1:発熱部
2:サセプター
3:リフレクター
4:熱伝導調整部(溝)
5:ウェハ
6:熱伝導調整部(穴)
7:保持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を加熱するための基板加熱構造体において、被加熱物の温度分布を均一にするため、発熱部の他に、サセプターもしくはリフレクターの少なくともどちらか1つを有し、発熱部およびサセプターおよびリフレクターの少なくともどれか1つに、面内方向で熱伝導を調整するための熱伝導調整部を設け、被加熱物を目的とする温度分布に加熱することを特徴とする基板加熱構造体。
【請求項2】
前記熱伝導調整部は、発熱部、サセプター、リフレクター内に設けられた溝または穴である請求項1に記載する基板加熱構造体。
【請求項3】
前記発熱部は、熱伝導調整部を境にして単位面積当たりの発熱密度が異なるように複数の発熱領域からなる請求項1または2に記載の基板加熱構造体。
【請求項4】
前記発熱部およびサセプターもしくはリフレクターの少なくとも1つが、面方向の熱伝導率aと厚さ方向の熱伝導率bの比a/bが25以上の異方性材料からなる請求項3記載の基板加熱構造体。
【請求項5】
前記異方性材料が熱分解窒化ホウ素である請求項4に記載の基板加熱構造体。
【請求項6】
前記サセプターは、窒化物セラミックス、酸化物セラミックス、もしくは黒鉛やニッケル、クロム、タンタル、モリブデン、タングステンなどの耐熱基材を、前記の窒化物セラミックス、酸化物セラミックスを素材とする絶縁性の膜でコーティングした材料からなる請求項1から3のいずれかに記載の基板加熱構造体。
【請求項7】
前記リフレクターは、黒鉛、窒化物セラミックス、酸化物セラミックス、またはニッケル、クロム、タンタル、モリブデン、タングステン、白金、金等の高融点金属、さらには前記黒鉛、窒化物セラミックス、酸化物セラミックスを前記高融点金属でコーティングした材料からなる請求項1に記載の基板加熱構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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