説明

基準在庫量設定システム

【課題】需要変動の定常性、需要量の多少を判定して適切な安全在庫量を計算するシステムを提供する。
【解決手段】製品別時点別の需要量データ、製品別の供給リードタイムデータ、各種の統計量データ、製品別時点別の基準在庫量データを記憶する記憶部101と、入力インターフェイス部102と、出力インターフェイス部103と、需要量データの時系列変化を見て定常か非定常かを判定し、各種統計量データを出力する需要定常性判定部104と、需要定常性判定部104の判定結果と統計量データと製品別供給リードタイムデータを基に基準在庫量の計算に使用すべき確率分布を判定し、確率分布を特徴付ける平均や分散などの各種統計量データを出力する需要分布判定部105と、需要分布判定部105の判定結果に基づき選択された確率分布と統計量データを用いて製品別時点別の基準在庫量を計算する基準在庫量計算部106から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、需要量の変動に備えて安全在庫を持つ必要がある場合に、需要量データの特徴に応じて適切な安全在庫量を計算する技術である。
【背景技術】
【0002】
需要量の変動に備えて持つ安全在庫量の計算方法は、元々部品や製品の発注方式における安全余裕の計算方法として古くから確立されている。一方、最近の顧客ニーズの多様化、製品ライフサイクルの短縮、市場環境変化の激化により、需要の変化が激しくなっており、時点による需要量の変化に応じて安全在庫量を適切に見直す必要性が高まっている。もし、需要の傾向(平均需要量や需要量変動の大きさ)が変化しているにもかかわらず、安全在庫量を見直さずにいると、過剰な在庫を抱えたり、大量の欠品を生じたりして経営に多大な損失を与える可能性が高まる。
【0003】
需要量が安定的で、時点ごとの需要変動も定常的である場合には、その需要量の分布を一定の確率分布(正規分布が一般的)として表し、欠品が生じる確率を所定の値以下に抑えるように安全在庫量を設定するという方法が一般的である。しかし、前述のように需要の変化が激しくなっている現在では、常に一定の確率分布を前提として欠品が生じる確率を考えることは適切で無くなってきている。
【0004】
そこで、時点ごとの需要変動が非定常である場合にも適切な安全在庫量を計算できる技術として例えば特許文献1が開示されている。特許文献1では、時点別の需要量変動幅が時点によって変化する場合でも、その変化に応じて各時点において必要な安全余裕分を計算するために、時点に依存しない需要予測の誤差率(誤差量/予測値)を用いて安全在庫量を計算する方法を提供している。しかし、本方法では、需要変動の確率分布を誤差の分布として表し、正規分布を用いているため、需要量の絶対値が小さい場合には、需要量が負になるという実際にはありえない状態の確率を含んで計算されるため、欠品防止確率の精度が悪くなるという問題がある。特に顧客ニーズの多様化が進んでいる業界などでは、一製品種当たりの需要量は少なくなってきており、需要量の絶対値が小さい場合でも適切に安全在庫量が計算できる方法が必要である。
【0005】
正規分布を前提とすると、上記のような需要量が小さい場合に欠品防止確率の精度が悪くなるという問題があるため、正規分布を前提とせずに安全在庫量を計算する方法を提供する技術もある。例えば特許文献2では、需要実績データのサンプルから確率分布を推定し、安全在庫量を計算することにより、需要量が負になるというような不合理なケースを生じない方法を開示している。しかし、本方法では統計的推定により確率分布を特定する必要があるため、実績データのサンプルを大量に必要とするという問題があることと、過去の需要傾向を時点によらずに同様と見なしているために非定常な需要変動の場合には対応できないという問題がある。
【0006】
以上のように、非定常な需要量変動への対応と、需要量絶対値が少ない場合への対応の両面をカバーして適切な安全在庫量を計算する技術は今までに提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−359415号公報
【特許文献2】特開2009−104359号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】K.Funaki,et.al.,Piecewise Pseudo Estimation for NHPP Using Data in The Adjacent Intervals,J.Operations Research Society of Japan,Vol.42,No.4,1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は以下の二つである。
(1)需要量の変動が時点によって変化するような場合(非定常な場合)であっても適切な安全在庫量を計算可能とする。
(2)需要量の絶対値が小さい場合にも適切な安全在庫量を計算可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するために、本発明による基準在庫量設定システムは以下のような構成で提供される。
【0011】
すなわち、入力データとして製品別時点別の需要量データと、製品別の供給リードタイムデータを記憶し、出力データとして計算した結果の各種の統計量データと製品別時点別の基準在庫量データを記憶する記憶部と、前記入力データを外部から入力可能とする入力インターフェイス部と、前記出力データを外部に出力可能とする出力インターフェイス部と、前記製品別時点別需要量データの時系列変化に基づき、当該製品の需要が定常か非定常かを判定し、需要量の平均や不偏分散などの各種統計量データを算出して前記記憶部に記憶する需要定常性判定部と、前記需要定常性判定部の判定結果と前記統計量データと前記製品別供給リードタイムデータを基に基準在庫量の計算に使用すべき確率分布を判定し、当該確率分布を特徴付ける平均や分散などの各種統計量データを算出して前記記憶部に記憶する需要分布判定部と、前記需要分布判定部の判定結果に基づき選択された確率分布と前記統計量データを用いて製品別時点別の基準在庫量を計算し、前記記憶部に出力する基準在庫量計算部とを具備している。
【0012】
特に前記需要定常性判定部における需要量データの定常性の判定のために、当該需要量データの中央値を基準とした連検定を実行する。
【0013】
また、需要分布判定部における需要量確率分布の判定のために、需要量が定常である場合に、その平均と不偏分散を用いて正規分布もしくはポアソン分布を選択する。特に、需要量が定常である場合に、その平均と不偏分散を用いて、(平均−3×√不偏分散)の値がゼロ以上であれば正規分布を、負であればポアソン分布を選択する。
一方、需要分布判定部における需要量確率分布の判定において、需要量が非定常である場合には、需要量データを非定常ポアソン過程として扱い、各時点の需要量が従う確率分布として、当該製品の時点別需要量データに基づき計算されるλ(t)を平均として持つポアソン分布を選択する。または、需要分布判定部における需要量確率分布の判定において、需要量が非定常である場合に、需要量データを非定常ポアソン過程として扱い、各時点の需要量が従う確率分布は、当該製品の時点別需要量データに基づき、当該時点とその前後の時点を含む連続期間の間の需要量平均をλ(t)として持つポアソン分布とする。
【0014】
基準在庫量計算部は需要量をカバーできる確率ごとに必要な在庫量を計算することができる。
【0015】
出力インターフェイス部は、前記需要分布判定部において選択された確率分布と、それを特徴づける統計量データと、前記基準在庫量計算部によって計算された基準在庫量とを出力し、画面に表示したり、帳票に印字したりする。
【発明の効果】
【0016】
本発明による基準在庫量設定システムにより、時点別の需要量変化を的確に捉えると共に、欠品防止確率を計算するための確率分布の選択も的確にできるため、適切な安全在庫量を計算することができ、その結果、欠品による機会損失の防止、過剰在庫によるキャッシュフロー悪化や損失の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による基準在庫量設定システムの機能構成の一例を説明する図である。
【図2】本発明による基準在庫量設定システムへ入力される需要量データの一実施例を説明する図である。
【図3】本発明による基準在庫量設定システムへ入力される供給リードタイムデータの一実施例を説明する図である。
【図4】本発明による基準在庫量設定システムにより各機種の安全在庫量を計算する処理フローの一実施例を説明する図である。
【図5】本発明による基準在庫量設定システムの需要定常性判定部において需要変動の定常、非定常を判定する処理フローの一実施例を説明する図である。
【図6】図2の需要量データを中央値の上側/下側にある需要量データを識別した例を説明する図である。
【図7】図2の各機種の需要量データが定常か、非定常かを判定した結果を示す図である。
【図8】本発明による基準在庫量設定システムの需要分布判定部による需要量の多少の判定処理フローを示す図である。
【図9】図8の処理フローによって計算された機種A,Bの平均需要量、不偏分散、判定値を示す。
【図10】図2の機種Cの各月の平均需要量λ(t)を計算した結果を示す図である。
【図11】図2の機種Aの各月ごとに、正規分布、期待値μ、分散σ2、β=0.95(95%)〜0.99(99%)までの間で1%刻みで計算した安全在庫量を示す図である。
【図12】図2の機種Bの各月ごとに、ポアソン分布、期待値λ、β=0.95(95%)〜0.99(99%)までの間で1%刻みで計算した安全在庫量を示す図である。
【図13】図2の機種Cの各月ごとに方法1を用いてλ(t)を計算した場合に、非定常ポアソン分布、期待値λ(t)、β=0.95(95%)〜0.99(99%)までの間で1%刻みで計算した安全在庫量を示す図である。
【図14】図2の機種Cの各月ごとに方法2を用いてλ(t)を計算した場合に、非定常ポアソン分布、期待値λ(t)、β=0.95(95%)〜0.99(99%)までの間で1%刻みで計算した安全在庫量を示す図である。
【図15】本発明による基準在庫量設定システムのデータ入力用画面例を説明する図である。
【図16】機種ごとに各月の基準在庫量が需要対応確率βの値ごとに表示されている図を表わす。
【図17】本発明による基準在庫量設定システムのハードウエア・ソフトウエア構成の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明による基準在庫量設定システムの実施の形態について図面を用いて説明する。
【0019】
本実施の形態で対象とする場面は、製品の需要変動に備えて安全在庫を持つ場合で、機種別の需要量データの変動に基づいて必要な安全在庫量を計算する業務を対象としている。対象とする製品の構造や取り引きの仕方などには特に依存しない。
【0020】
図1に本システムの機能構成の一例を示す。基準在庫量設定システム10は、入力データとして製品別時点別の需要量データと、製品別の供給リードタイムデータを記憶し、出力データとして計算した結果の各種の統計量データと製品別時点別の基準在庫量データを記憶する記憶部101と、前記入力データを外部から入力可能とする入力インターフェイス部102と、前記出力データを外部に出力可能とする出力インターフェイス部103と、前記製品別時点別需要量データの時系列変化を見て定常か非定常かを判定し、需要量の平均や不偏分散などの各種統計量データを出力して前記記憶部101に記憶する需要定常性判定部104と、前記需要定常性判定部104の判定結果と前記統計量データと前記製品別供給リードタイムデータを基に基準在庫量の計算に使用すべき確率分布を判定し、当該確率分布を特徴付ける平均や分散などの各種統計量データを出力して前記記憶部101に記憶する需要分布判定部105と、前記需要分布判定部105の判定結果に基づき選択された確率分布と前記統計量データを用いて製品別時点別の基準在庫量を計算し、前記記憶部に出力する基準在庫量計算部106とから構成される。
【0021】
記憶手段101に登録されている需要量データ、供給リードタイムデータは例えば図2、図3に示すような形式で保持している。図2は需要量データであり、製品を識別する機種ごとに各月の需要量(見通し)が登録されている。なお、本実施の形態では、需要量を月別に登録する例を示しているが、用途に応じて週や日など、需要量を把握する時間単位は任意に扱って良い。図3は供給リードタイムデータであり、機種ごとに製品在庫を補充するのに必要な時間長さが登録されている。本例では、いずれの機種とも供給リードタイムは2ヶ月と登録されている。
【0022】
基準在庫量設定システム10は、記憶部101に登録されている前記需要量データと供給リードタイムデータを用いて、図4に示す処理フローにより各機種の安全在庫量を計算する。図4に示す処理フローは、例えば図2に示した需要量データに登録されている機種ごとに実行される。
【0023】
まず、ステップS1において、需要定常性判定部104は前記記憶部に登録されている前記需要量データと供給リードタイムデータを用いて、当該機種の需要変動が定常か非定常かを判定する。需要定常性判定部104における定常性判定は連検定によって行われ、図5に示す処理フローに沿って実行される。
【0024】
まず、ステップS11において、当該機種の需要量データから中央値(メディアン)を求め、Mとおく。例えば、図2の需要量データによれば、機種Aの中央値は3、機種Bの中央値は3、機種Cの中央値は9となる。
【0025】
次に、ステップS12において、中央値Mの下側にあるサンプル数と上側にあるサンプル数をカウントし、それぞれp、qとする。本実施の形態では、中央値Mと同じ需要量のサンプルは上側として扱うことにするが、上側、下側どちらにしても本発明の技術の有効性に変わりはない。図2に示した需要量データに対して、中央値Mの上側、下側の需要量データを識別すると図6のようになる。図6において、薄い色で塗られたセルの値は中央値より上側、濃い色で塗られたセルの値は下側のデータであることを意味している。このように識別した場合に、上側のデータが続く、もしくは下側のデータが続くデータ群を連と呼ぶ。(本実施例では、上側、または下側のデータが1つしか続かないで切り換った場合でも、1つの連とカウントする。)
ステップS13ではこのようにして抽出される連の数をカウントし、r0とおく。図6の例では連の数は機種Aは7、機種Bは7、機種Cは3になる。
【0026】
次にステップS14において、連の確率関数{Pp,q(x):確率変数xは連の数を表わす。}を用いて各機種の連の数の信頼区間を求める。連の確率関数は、p、qの値の組合せに応じて連の数が生じる確率を表すもので、例えば、数式2で与えられる。
【0027】
【数2】


信頼区間を求める際には信頼確率αが必要であるが、αの値は外部から与えても良いし、内部で一意に決めた値を保持、使用しても良い。本実施の形態では、α=0.95として予め設定されているものとし、信頼区間の計算時は両側確率を均等にする。連の確率関数Pp,q(x) を用いて連の数の信頼区間[r1+1,r2−1]を求める。但し、r1、r2は次式により求める。
【0028】
【数3】


図6の例では、信頼区間は機種Aでは[4,8]、機種Bでは[5,11]、機種Cでは[4,8]とそれぞれ計算される。最後にステップS15により、先にカウントした連の数r0がそれぞれの信頼区間に含まれるか否かで定常か非定常かを判定する。以上の需要定常性判定部104の処理により得られる判定結果を図7に示す。図7において、95%判定の欄にあるHは定常を、Nは非定常を意味している。本実施の形態では、機種A、機種Bの需要量データは定常、機種Cの需要量データは非定常であると判定されている。
【0029】
次に、基準在庫量設定システム10は図7の判定結果に基づいて、需要分布判定部105によって使用すべき需要分布を特定する。需要分布判定部105は、図4のステップS1の結果、定常と判定された機種についてステップS2によって需要量の多少の判定を行う。需要分布判定部105による需要量の多少の判定は図8に示す処理フローに沿って実行される。まず、ステップS21において、当該機種の需要量データから平均需要量と不偏分散を計算する。次にステップS22において、前記平均需要量−3×前記不偏分散の値が0以上ならば当該機種の需要量は多い、前記平均需要量−3×前記不偏分散の値が0未満ならば当該機種の需要量は少ないと判定する。図9に図8の処理フローによって計算される平均需要量、不偏分散、判定値を示す。本実施の形態では、需要定常性判定部104によって定常と判定された機種Aと機種Bのうち、機種Aの需要量は多い、機種Bの需要量は少ないと判定されている。
【0030】
これらの判定結果に基づき、需要分布判定部105は、需要量が定常で多い場合には、需要量分布として平均需要量と不偏分散を用いた正規分布を選択、需要量が定常で少ない場合には、平均需要量を用いて計算したパラメータλ(=期待値)を持つポアソン分布を選択する。具体的には、需要量が定常で多い場合には、期待値μ=平均需要量×供給リードタイム、分散σ2=不偏分散×供給リードタイムをパラメータとして持つ正規分布を選択する(ステップS3)。需要量が定常で少ない場合には、期待値λ=平均需要量×供給リードタイムをパラメータとして持つポアソン分布を選択する(ステップS4)。
【0031】
一方、図4のステップS1において需要定常性判定部104が、需要量を非定常と判定した機種の場合は、需要分布判定部105は時点ごとのパラメータλ(t)(=期待値)を持つ非定常ポアソン分布を選択する(ステップS5)。ここでλ(t)の値の計算方法はいくつか方法が考えられるが、本実施の形態では以下の二つの方法の例を示す。なお、以下に示す方法以外の方法でλ(t)の値を計算しても本発明による基準在庫量設定システムの有効性を損なうことは無い。
【0032】
まず、方法1として、当該機種の需要量データの各月の値を当該月の平均需要量として扱い、当該月から供給リードタイムだけ先の月までの間の平均需要量を合計した値をλ(t)として扱う方法である。この方法は、各月の需要量の値は、その月の需要実勢を表す代表値であり、その月における非定常ポアソン分布を表すのに足る情報であるとの前提に立つ方法である。例えば、機種Cの供給リードタイムは図3より2ヶ月であるので、図2の需要量データより、10年1月におけるλ(t)の値は、10年1月の需要量15と10年2月の需要量10を合算した25と計算される。
【0033】
次に、方法2として、当該機種の各月のλ(t)の値を計算する際に、各月の平均需要量を当該月の前後の月の需要量データも用いて計算する方法である。この方法は、当該月と隣接する前後の月の需要量は互いに似た分布に従うはずであるという前提に立つ方法であり、前後の月をどこまで考慮するかは統計的に判定して決めるものである。本方法を実現するためのロジックと理論的根拠は、例えば非特許文献1に開示されている。
【0034】
本実施の形態では、前記非特許文献1にて開示されているアルゴリズムにより、機種Cの各月の平均需要量は図10に示すように計算される。図10において、例えば10年1月の平均需要量は、図2の需要量データの10年1月の需要量15と10年2月の需要量10を平均した値12.5として計算され、10年2月の平均需要量は、10年1月の需要量15と10年2月の需要量10と10年3月の需要量10を平均した値11.67として計算される。本例では、全ての月で当該月を挟んだ前月、次月の3ヶ月間の需要量を平均して当該月の平均需要量を計算するという結果になっている(対象期間の最初の月(10年1月)と最後の月(11年3月)はそれぞれ次月、前月の需要量との平均)。以上により計算された各月の平均需要量を用い、当該月から供給リードタイムだけ先の月までの間の平均需要量を合計した値をλ(t)として計算する。例えば、機種Cの供給リードタイムは2ヶ月であるので、図10の平均需要量の値を用いると、例えば、10年1月におけるλ(t)の値は、10年1月の平均需要量12.50と10年2月の平均需要量11.67を合算した24.17と計算される。
【0035】
最後に基準在庫量設定システム10は、図4のステップS3、S4、S5によって機種ごとに選択された需要分布を用い、基準在庫量計算部106がステップS6において安全在庫量を計算し、基準在庫量として記憶部101に登録する。安全在庫量は以下の式により計算される。
【0036】
【数4】


ここでp(z)は当該機種に対して選択された分布の確率関数である。また、βは当該供給リードタイム中の需要変動に対応できる確率を表すパラメータであり、0から1.0の間の任意の値である。βの値は予め一つの値を与えても良いし、値の範囲を与えてその範囲に含まれるいくつかの値ごとに上記数式で安全在庫量を計算しても良い。期待値は、使用する確率分布によって異なり、正規分布の場合はμ、ポアソン分布の場合はλ、非定常ポアソン分布の場合はλ(t)の値を用いる。すなわち、安全在庫量はβ以上の確率で供給リードタイム内の需要変動に対応できるようにバッファとしてもつ量として計算される。
【0037】
以上の処理によって、最終的に基準在庫量計算部106が計算した結果を図11から図14に示す。図11は、需要量データが定常で多いと判定された機種Aに対して計算された結果であり、各月ごとの使用分布(Normal=正規分布)、期待値μ、分散σ2、β=0.95(95%)〜0.99(99%)までの間で1%刻みで計算した安全在庫量を示している。図12は、需要量データが定常で少ないと判定された機種Bに対して計算された結果であり、各月ごとの使用分布(Poisson=ポアソン分布)、期待値λ、β=0.95(95%)〜0.99(99%)までの間で1%刻みで計算した安全在庫量を示している。また、図13は、需要量データが非定常と判定された機種Cに対して、方法1を用いてλ(t)を計算した場合の結果であり、各月ごとの使用分布(NHPP=非定常ポアソン分布)、期待値λ(t)、β=0.95(95%)〜0.99(99%)までの間で1%刻みで計算した安全在庫量を示している。図14は、同じく機種Cに対して、方法2を用いてλ(t)を計算した場合の結果であり、各月ごとの使用分布(NHPP=非定常ポアソン分布)、期待値λ(t)、β=0.95(95%)〜0.99(99%)までの間で1%刻みで計算した安全在庫量を示している。
【0038】
以上の処理を行うための需要量データや供給リードタイムデータは、基準在庫量設定システム10の入力インターフェイス部102を介して入力され、記憶部101に登録される。入力インターフェイス部102の実体は、外部システムからデータをインポートする場合はデータ取込みプログラムなどで実現され、ユーザが入力する必要がある場合はデータ入力用の画面で実現されても良い。図15は、データ入力用画面の例である。図15において、機種別の各月の需要量を入力できる表が用意され、入力が終わってデータを登録するための登録ボタンを具備している。必要に応じて需要量の変化をビジュアルに表示するためにグラフ表示をしても良い。
【0039】
また、以上の処理の結果得られる基準在庫量データ及びその計算に必要となる各種統計量データは、基準在庫量設定システム10の出力インターフェイス部103を介して外部に出力される。出力インターフェイス部103の実体は、外部システムにデータをエクスポートする場合はデータ転送プログラムなどで実現され、ユーザが確認できるように表示する場合はデータ出力用の画面で実現されても良い。図16は、基準在庫量計算結果の出力用画面の例である。図16において、機種ごとに各月の基準在庫量が需要対応確率βの値(本例では95%〜99%までの1%刻み)ごとに表示されている。また、機種ごとに基準在庫量の計算に使用した需要分布とその確率分布のパラメータ値(正規分布の場合は期待値と分散、ポアソン分布の場合はλ、非定常ポアソン分布の場合はλ(t))が合わせて表示されている。必要に応じて、基準在庫量の変化をビジュアルに表示するためにグラフ表示をしても良い。図16の例では、機種Cの基準在庫量のグラフが表示されている。
【0040】
最後に、図17に、本発明による基準在庫量設定システム10を実現するためのハードウエア・ソフトウエア構成の一例を示す。
【0041】
基準在庫量設定システム10を実装する基準在庫量設定用コンピュータ20は、システムの動作に必要な種々の演算・命令を行うCPU(Central Processing Unit)201と、OS(Operating System)、基準在庫量設定システムの動作内容を記述した基準在庫量設定プログラムなどのアプリケーションプログラム、並びに当該プログラムに必要となるデータを記憶するメモリ202と、必要に応じてネットワークを介した外部との接続や通信を制御する通信制御部203とを備えている。また、補助記憶装置204を基準在庫量設定用コンピュータ20に接続することにより、メモリ202に記憶するOS、プログラムおよびデータを補助記憶装置204に記憶させることもできる。ユーザが基準在庫量設定システムを操作したり、データの入出力をしたりするためのユーザインターフェイスは、基準在庫量設定用コンピュータ20の内部に持つことも可能であるが、基準在庫量設定用コンピュータ20と物理的に離れた場所からユーザがアクセス可能とするためには、図17に示すようにユーザインターフェイス端末205を基準在庫量設定用コンピュータ20の外部に置き、基準在庫量設定用コンピュータ20の通信制御部203及びネットワークを介して接続し、基準在庫量設定用コンピュータ20と通信できるようにすれば良い。
【0042】
以上のハードウエア・ソフトウエア構成において、図1に示した基準在庫量設定システム10の各部は、図17の構成部分に以下のように対応する。
【0043】
記憶部101は、他の手段が処理を実行する際には、主としてメモリ202によってその機能が実現され、その一方、膨大なデータを記憶する際や固定的に記憶する際には、補助記憶装置204によってその機能が実現される。
【0044】
入力インターフェイス部102、出力インターフェイス部103、需要定常性判定部104、需要分布判定部105、基準在庫量計算部106の各機能は、メモリ202に記憶されているOSや基準在庫量設定プログラムおよびこれらを制御するCPU201の相互作用によってそれぞれ実現され、その際、メモリ202や補助記憶装置204に記憶されている各種データが参照されたり、更新されたりする。また、入力インターフェイス部102、出力インターフェイス部103、需要定常性判定部104、需要分布判定部105、基準在庫量計算部106がユーザインターフェイス端末205との通信を必要とする際には、通信制御部203によってその機能が実現される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明による基準在庫量設定システムは、需要変動に備えて安全在庫を持つ場合に、必要な安全在庫量を計算し、基準在庫量として設定できるものである。特に、従来の技術では適切な安全在庫量を計算できなかった非定常需要変動で需要量が少ない場合にも対応することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 基準在庫量設定システム
101 記憶部
102 入力インターフェイス部
103 出力インターフェイス部
104 需要定常性判定部
105 需要分布判定部
106 基準在庫量計算部
20 基準在庫量設定用コンピュータ
201 CPU(Central Processing Unit)
202 メモリ
203 通信制御部
204 補助記憶装置
205 ユーザインターフェイス端末
S1 需要定常性判定処理ステップ
S2 需要量多少判定処理ステップ
S3 正規分布選択の処理ステップ
S4 ポアソン分布選択の処理ステップ
S5 非定常ポアソン分布選択の処理ステップ
S11 需要定常性判定処理における1ステップ
S12 需要定常性判定処理における1ステップ
S13 需要定常性判定処理における1ステップ
S14 需要定常性判定処理における1ステップ
S15 需要定常性判定処理における1ステップ
S21 需要分布判定処理における1ステップ
S22 受容分布判定処理における1ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品の需要量の変動が時点によって変化する場合、または需要量の絶対値が小さい場合でも、安全在庫として持つべき適切な基準在庫量を計算するシステムであって、
入力データとして製品別単位期間別の需要量データと、製品別の供給リードタイムデータを記憶し、出力データとして計算した結果の各種の統計量データと製品別単位期間別の基準在庫量データを記憶する記憶部と、
前記入力データを外部から入力可能とする入力インターフェイス部と、
前記出力データを外部に出力可能とする出力インターフェイス部と、
CPUとにより構成され、
前記CPUは、前記記憶部に格納されている基準在庫量設定プログラムを実行して、
前記製品別単位期間別需要量データの時系列変化を、各単位期間の需要量データの中央値より下側/上側にある各サンプル数p,q、上側または下側のデータが続くデータ群である連の数r0をカウントし、p,qの値の組合せにより生じる連の数の確率関数を用いて、各機種の連の数の信頼区間を求め、前記r0が前記信頼区間に含まれるか否かにより前記需要量データが定常か非定常かを判定する需要定常性判定部と、
前記需要定常性判定部により定常と判定された需要量データに対して、平均需要量、不偏分散を算出して、(平均需要量−3×不偏分散)の値により当該需要量データが多い、または少ないと判定し、前記需要量データが、(1)定常、および多い場合、(2)定常、および少ない場合、(3)非定常の場合、のいずれかの場合にそれぞれ異なる所定の需要分布を選択する需要分布判定部と、
前記需要分布判定部の判定結果に基づき選択された需要分布の確率関数p(z),ここでzは該当製品の単位期間別需要量データを表わす確率変数、において安全在庫量を数式1により算出し、
【数1】


ここで、βは当該供給リードタイム中の需要変動に対応できる確率を表わすパラメータ、期待値は選択された需要分布の確率関数p(z)に即して算出される値、
前記算出した安全在庫量を製品別単位期間別の基準在庫量データとして前記記憶部へ記憶する基準在庫量計算部とを機能させ、
前記出力インターフェイス部が、製品別に、単位期間別パラメータβの設定値別の基準在庫量を出力する
ことを特徴とする基準在庫量設定システム。
【請求項2】
前記需要分布判定部において、前記需要定常性判定部により定常と判定された需要量データに対して、平均需要量、不偏分散を算出して、(平均需要量−3×不偏分散)の値により当該需要量データが多い、または少ないと判定する処理では、
(平均需要量−3×不偏分散) ≧0ならば、当該需要量データは多いと判定し、
(平均需要量−3×不偏分散) <0ならば、当該需要量データは少ないと判定
することを特徴とする請求項1に記載の基準在庫量設定システム。
【請求項3】
前記需要分布判定部において、前記需要量データが、(1)定常、および多い場合、(2)定常、および少ない場合、(3)非定常の場合、のいずれかの場合にそれぞれ異なる所定の需要分布を選択する処理では、
前記需要量データが、(1)定常、および多い場合には、期待値μ=平均需要量×供給リードタイム、分散σ2=不偏分散×供給リードタイムをパラメータとして持つ正規分布を選択し、
前記需要量データが、(2)定常、および少ない場合には、期待値λ=平均需要量×供給リードタイムをパラメータとして持つポアソン分布を選択し、
前記需要量データが、(3)非定常の場合には、時点ごとの期待値λ(t) をパラメータとして持つ非定常ポアソン分布を選択することを特徴とする請求項1に記載の基準在庫量設定システム。
【請求項4】
前記需要分布判定部において、前記需要量データが、(3)非定常の場合には、時点ごとの期待値λ(t) をパラメータとして持つ非定常ポアソン分布を選択する処理では、期待値λ(t)は、当該機種の需要量データの各単位期間の値を当該単位期間の平均需要量として扱い、当該単位期間から供給リードタイムだけ先の単位期間までの間の平均需要量を合計した値を採用することを特徴とする請求項3に記載の基準在庫量設定システム。
【請求項5】
前記需要分布判定部において、前記需要量データが、(3)非定常の場合には、時点ごとの期待値λ(t) をパラメータとして持つ非定常ポアソン分布を選択する処理では、当該機種の各単位期間の期待値λ(t)の値を計算する際に、各単位期間の平均需要量を当該単位期間の前後の単位期間の需要量データも用いて計算することを特徴とする請求項3に記載の基準在庫量設定システム。
【請求項6】
前記需要分布判定部における需要量確率分布の判定において、需要量が非定常である場合に、需要量データを非定常ポアソン過程として扱い、各時点の需要量が従う確率分布は、当該製品の時点別需要量データに基づき、当該時点とその前後の時点を含む連続期間の間の需要量平均をλ(t)として持つポアソン分布とすることを特徴とする請求項1に記載の基準在庫量設定システム。
【請求項7】
前記出力インターフェイス部は、前記需要分布判定部において選択された確率分布と、それを特徴づける統計量データと、前記基準在庫量計算部によって計算された基準在庫量とを出力し、画面に表示したり、帳票に印字したりすることを特徴とする請求項1に記載の基準在庫量設定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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