説明

基礎構造の構築方法

【課題】信頼性の高い基礎構造を効率的に構築することが可能な基礎構造の構築方法を提供する。
【解決手段】建物1の荷重を載荷させる直接基礎部2と鋼管杭3からなる杭基礎部30とを備えた構造物の基礎構造の構築方法である。
そして、直接基礎部の反力と鋼管杭の各杭位置が負担する杭反力とを算出する杭反力算出工程と、最低杭長L1を算定し、推定支持力P1の推定誤差の吸収が可能となる最長杭長L2を確保できる鋼管杭3を選択する杭選択工程と、鋼管杭を最低杭長まで貫入した後に支持力の確認をおこない、杭反力以上の支持力が確認できるまで貫入を続け、全長を打設する前に杭反力以上の支持力が確認された場合に鋼管杭の余剰分31がある場合はそれを撤去する杭打設工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物などの構造物の基礎構造を鋼管杭で構築するための基礎構造の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼管杭などの杭を打設するに際して、計測をおこなって杭の支持力の確認をおこなう施工管理方法が知られている(特許文献1,2など参照)。
【0003】
例えば特許文献1に開示された杭打ち施工管理システムでは、杭の打ち込みに伴う杭頭近傍の変形及び波動を計測し、杭の支持力をリアルタイムで推定し、その結果に基づいてハンマーの打込み力を制御することで、杭に過剰な応力が発生しないように管理している。
【0004】
また、特許文献2には、鋼管杭をディーゼルハンマで打設する際に、打撃時の抵抗を計測することで杭の支持力を推定する動的な杭の支持力推定方法が開示されている。
【特許文献1】特許第3173719号公報
【特許文献2】特開平5−25826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した従来の杭の施工管理方法は、静的載荷試験よりも簡単に実施できる杭の支持力の推定方法を利用し、打設する杭の支持力が設計支持力に達しているか否かを確認しているにすぎない。
【0006】
このため、設計支持力が確認できずに杭を打ち続けた場合に杭長が足りなくなったり、杭長不足を防ぐために一律に長い杭を準備すると大部分を撤去するという無駄が生じたりするおそれがある。
【0007】
また、前記された文献に開示された杭は、直接基礎部と杭基礎部との複合基礎としての構造計算がされたものではなく、単に各杭の設計支持力が設定されており、その支持力を満たすか否かの確認をおこなう施工管理方法にすぎない。
【0008】
そこで、本発明は、信頼性の高い基礎構造を効率的に構築することが可能な基礎構造の構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の基礎構造の構築方法は、上部構造の荷重を載荷させる直接基礎部と鋼管杭からなる杭基礎部とを備えた構造物の基礎構造の構築方法であって、前記直接基礎部の反力を算出し、前記鋼管杭の平面視での設置位置を設定し、その設定された杭位置からそれぞれの杭位置での鋼管杭が分担する支配面積を設定し、その支配面積に作用する荷重から前記直接基礎部が負担する反力を除いて各杭位置が負担する杭反力を算出する杭反力算出工程と、前記杭反力算出工程によって算出された前記杭反力以上の推定支持力を有する杭径と最低杭長の組み合わせを算定するとともに、その推定支持力の推定誤差の吸収が可能となる前記最低杭長より長い杭長の鋼管杭の打設が可能となるように杭を選択する杭選択工程と、前記杭選択工程で選択された前記鋼管杭を地盤に貫入し、前記最低杭長まで貫入した後に支持力の確認をおこない、前記杭反力以上の支持力が確認できるまで前記鋼管杭の貫入を続け、前記杭反力以上の支持力が確認された場合であって前記鋼管杭の余剰分がある場合はそれを撤去する杭打設工程と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
ここで、前記最低杭長は、推定される沈下量が許容値以下となる長さに設定されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
このように構成された本発明の基礎構造の構築方法では、現場で容易に継足しや切断・撤去が可能な鋼管杭を使用し、直接基礎部が負担する反力を考慮したうえで各杭位置での杭反力を算出し、その杭反力を満たす最低限の杭径と杭長の組み合わせを算出する。そして、現地の地盤の物性が推定と異なるなどして推定支持力に推定誤差が発生した場合に、鋼管杭の長さが足りなくなることがないような長さに調整可能な鋼管杭を合理的に選択して施工に使用する。また、施工時には、実際に打設された鋼管杭の支持力を確認し、必要な支持力に達するまで鋼管杭の貫入を続ける。
【0012】
このため、実際の支持力が確認された鋼管杭を備えた信頼性の高い基礎構造を構築することができる。また、推定支持力の推定誤差を吸収できる合理的な長さの鋼管杭を準備して施工するので、途中で鋼管杭の長さが足りなくなることがない。さらに、必要な支持力を満たした時点で打設を終了し、余剰分があれば突出した鋼管杭を切断することで容易に撤去できるので、効率的に基礎構造を構築することができる。
【0013】
また、最低杭長を推定される沈下量が許容値以下となる長さに設定するようにすれば、所定の沈下量以下の基礎構造にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0015】
まず、図2を参照しながら、本実施の形態の基礎構造の構築方法によって構築される基礎構造を備えた構造物の構成について説明する。
【0016】
この構造物は、上部構造が戸建て住宅などの建物1であって、地盤4とは鉄筋コンクリート床版などによって形成される直接基礎部2を介して接している。
【0017】
そして、この直接基礎部2の下面が地盤4から受ける地盤反力4aが、直接基礎部2が負担する反力となる。なお、地盤4が軟弱で地耐力が低いなどの理由で、表層を表層地盤改良した場合は、直接基礎部2の下面が表層地盤改良から受ける反力が、直接基礎部2の負担する反力となる。
【0018】
この地盤反力4aは、地盤4のN値、内部摩擦角、粘着力、一軸圧縮強度などの地盤調査から得られた各種パラメータに基づいて算出される。例えば、各種パラメータの1つ又は複数の値から地盤4のバネ値を設定し、直接基礎部2の下面の変位とそのバネ値とから地盤反力4aを算定する。
【0019】
他方、表層地盤改良をおこなった場合は、表層地盤改良による改良後の強度など改良効果に基づくパラメータの設定をおこない、その設定されたパラメータを使用して増加した反力を算出する。
【0020】
また、この直接基礎部2の下方には、複数の鋼管杭3,・・・からなる杭基礎部30が設けられる。ここで、杭基礎部30の頭部は、直接基礎部2に接合されて一体の基礎構造として構築される。
【0021】
この鋼管杭3,・・・は、平面視で建物1のどの位置に打設するかを設定した後に必要となる杭反力を算出する。すなわち、鋼管杭3,・・・を打設する位置及び数によって、上部構造である建物1から作用する荷重をどの鋼管杭3がどの程度負担するかが変わってくる。
【0022】
ここでは、直接基礎部2の下面を各鋼管杭3,・・・が荷重を分担する領域に分割し、その分割された面積を各鋼管杭3,・・・の支配面積という。そして、この支配面積に作用する荷重から直接基礎部2が負担する支配面積に応じた反力を差し引くことで、各杭位置が負担する杭反力を算出する。
【0023】
一方、建物1の上載荷重1a−1cは、図2に示すように建物1の位置で大きさが異なっており、直接基礎部2が負担する反力が位置に関わらず均一であると、上載荷重1a−1cから直接基礎部2の反力を差し引いた鋼管杭3,・・・が負担する杭反力は、位置によって異なることになり、杭径が同じであれば杭長が異なることになる。
【0024】
ここで、本実施の形態の鋼管杭3は、杭先端面に対する地盤4の反力である先端支持力3aと、杭の周面と地盤4との付着に基づく周面摩擦力3bとの和を杭が負担する反力、すなわち杭の支持力としており、必ずしも硬い支持地盤41に杭先端を貫入させる必要はない。
【0025】
また、先端支持力3aは底面積と地盤4の反力との積であるため杭径に比例し、周面摩擦力3bは杭周面積と地盤4の付着力との積であるため杭径と杭長に比例する。このため、同じ周面摩擦力3bが得られる鋼管杭3には、杭径が大きくて杭長が短いもの、杭径が小さくて杭長が長いもの、杭径と杭長が共に中間のものなどの複数の種類が存在することになる。
【0026】
また、鋼管杭3の周面に溝や凹凸などの表面加工を施した場合は、地盤4との付着力を加工が無い場合に比べて高く見積ることができるので、杭周面の表面加工の有無や加工の種類によっても杭径と杭長の組み合わせが異なってくる。
【0027】
次に、本実施の形態の基礎構造の構築方法の流れについて説明する。
【0028】
図1は、この基礎構造の構築方法の流れを示したフローチャートである。
【0029】
まず、上部構造としての建物1の設計をおこなう(ステップS1)。ここで、この建物1が建物ユニットで構成される場合は、予め作成された荷重テーブルのデータが利用できるので、設計を簡略化することができる。そして、建物の設計において建物1の外形、間取り、配置位置などを決定した後に、上部構造の構造計算及び上載荷重1a−1cの算定をおこなう(ステップS2)。
【0030】
また、この建物の設計と並行又は別途に、杭基礎部30を構築する地盤4に対して地盤調査をおこなう(ステップS3)。
【0031】
この地盤調査は、標準貫入試験やスウェーデン式サウンディング試験によっておこなうことができる。例えば標準貫入試験で得られるN値や採取された試料に対する載荷試験によって、内部摩擦角、粘着力、一軸圧縮強度などの各種パラメータを算出する。また、スウェーデン式サウンディング試験の測定値から換算N値を求め、各種パラメータを算出することもできる。
【0032】
図7(a)は、スウェーデン式サウンディング試験で求められたN値と、平板載荷試験の一軸圧縮強度から算定された長期許容応力度qaとの関係を示した図である。分散してプロットされている点が計測値で、実線は設計に使用できる推定値として一般に利用されている一般設計推定線RDである。
【0033】
しかしながら、図7(a)にプロットされた計測値からもわかるように、実際の地盤には、この一般設計推定線RDの強度を下回るものも上回るものもある。そこで、これらの計測値を上限で包絡する推定値を上限推定線R1とし、下限で包絡する推定値を下限推定線R2とする。
【0034】
なお、この地盤調査は、過去にその地盤4に対しておこなわれた地盤調査の結果や、周辺でおこなわれた地盤調査の結果を援用することもできる。
【0035】
また、この地盤調査結果と、建物の設計で設定された建物1の配置条件などとから、建物1全体で必要となる反力である直接基礎部2の下面に作用する反力を算定する(ステップS4)。
【0036】
一方、上載荷重1a−1cと直接基礎部2の下面に作用する反力が算定された後に、建物1を載置させる直接基礎部2の設計をおこなう(ステップS5)。この直接基礎部2の設計では、鉄筋コンクリート床版の構築に使用するコンクリートの強度や配筋量などを決定する。
【0037】
そして、建物1の設計及び直接基礎部2の設計によって算出された荷重が、ステップS4で算定された直接基礎部2の反力を下回っているかを判定する(ステップS6)。
【0038】
この直接基礎部2の直下の反力が、ステップS2、S5で算出した荷重よりも大きければ、直接基礎部2だけで充分、建物1を支持できるとして計算を終了する。他方、直接基礎部2の反力が上載荷重を下回っていれば、杭基礎の検討に入る(ステップS7)。なお、表層地盤改良をおこなう場合は、表層地盤改良の検討を先におこない、表層地盤改良によって増加した反力と上載荷重との比較をおこなう。
【0039】
そして、直接基礎部2だけでは荷重条件を満たすことができないと判定された場合は、直接基礎部2と杭基礎部30との複合基礎(パイルド・ラフト基礎)として以降の設計をおこなうことになる。
【0040】
まず、杭反力を算出するには、平面視で直接基礎部2のどの位置に杭を配置するかという杭位置の設定をおこなう。この杭位置及びその周辺に配置される杭の数によって、1箇所の杭が負担する荷重が異なってくる。
【0041】
この各杭位置で必要な杭反力は、各杭位置の各支配面積に作用する荷重から直接基礎部2の各支配面積分の反力を差し引くことで求められる。
【0042】
このようにして各杭位置で必要な杭反力を算定した後に、ステップS8で杭の予備設計をおこなう。この杭の予備設計では、必要な杭反力を満たすのに最低限必要な最低杭長と杭径との組み合わせ、及び実際に打設に使用する鋼管杭3の杭長を選択する。
【0043】
例えば、ある杭反力を満たす杭種を抽出するために杭径を一つ決めると、その杭径から先端支持力3aが算出され、杭反力からその先端支持力3aを差し引いたものが周面摩擦力3bの負担分となる。この周面摩擦力3bは、杭径から算出される周長と杭長と地盤4との付着力との積で算定されるので、杭径及び杭周面の表面加工の有無などによって付着力が決まれば最低限必要な最低杭長L1が自ずと算出される。
【0044】
また、最低杭長L1を算定する際には、荷重が作用したときに推定される沈下量のチェックもおこなう。すなわち、力の大きさとしては杭反力を満たす支持力であっても、沈下量が許容値を超える場合は、許容できない地盤沈下や不同沈下を引き起こすおそれがあるので、沈下量が許容値以下となる杭長を最低杭長L1として設定する。
【0045】
このようにして算出された最低杭長L1は、先端支持力3aを算出する際の地盤4の反力及び地盤4と杭周面との付着力(以下、簡略して「地盤強度」と説明する場合もある。)が、地盤調査の結果から推定されたものであり、実際に鋼管杭3を打設した場合に得られる実支持力PRと、地盤調査結果から推定された最低杭長L1の推定支持力P1とは異なるおそれがある。
【0046】
すなわち、図7(a)で示したような上限推定線R1で地盤強度を決めるか、下限推定線R2で地盤強度を決めるかによって、必要杭反力Pを満たす鋼管杭3の長さが異なってくる。
【0047】
図7(b)には、上限推定線R1に基づいて算定された地盤強度によって求められた推定支持力P1と、下限推定線R2に基づいて算定された地盤強度によって求められた推定支持力P2と、一般設計推定線RDに基づいて算定された地盤強度によって求められた一般設計支持力PDとを示した。
【0048】
そして、必要杭反力Pを満たす鋼管杭3の長さを、推定支持力P1から求めると最低杭長L1が算出され、推定支持力P2から求めると最長杭長L2が算出される。
【0049】
すなわち、一般設計支持力PDから鋼管杭3の長さを算定すると一般設計杭長LDとなるが、一般設計推定線RDで推定した地盤強度よりも実際の地盤強度が大きければ最低杭長L1まで鋼管杭3を短くできる可能性があり、実際の地盤強度が小さければ最長杭長L2まで鋼管杭3が長くなる可能性がある。
【0050】
そこで、最低限の杭長として最低杭長L1の鋼管杭3とそれに継足すことによって最長杭長L2が確保できる継足し鋼管を準備しておき、最低杭長L1では必要杭反力Pが満たされない場合に継足し鋼管を継足していくことができる。また、予め最長杭長L2の鋼管杭3を準備しておいて、必要杭反力Pを満たすことが確認できた時点で、余剰分を切断・撤去することもできる。
【0051】
このように最低杭長L1と最長杭長L2とを算定することで、施工に必要な鋼管杭3を合理的に選択することができる。
【0052】
さらに、打設に使用する鋼管杭3を選択するに際しては、その応力もチェックし、発生する応力が許容値以下となっていない場合は、肉厚を厚くしたり、杭径を大きくしたり、杭長を長くしたりするなどの調整をする。
【0053】
そして、例えばこの予備設計で算定された最長杭長L2の鋼管杭3を準備して杭基礎部30の施工をおこなう。
【0054】
まず、図4に示すように現地の地盤4に鋼管杭3を貫入する杭の打設を、最低杭長L1に到達するまでおこなう(ステップS9)。
【0055】
そして、この時点で鋼管杭3の貫入を一旦、中断し、打設した分の杭の支持力を確認する(ステップS10)。ここで、杭の実支持力PRの確認は、例えば鋼管杭3の杭頭を打撃する錘にロードセルを設置し、杭頭を打撃した際にそのロードセルで計測された計測値に基づいておこなうことができる。
【0056】
図4の右側に示したグラフには、最低杭長L1まで鋼管杭3を貫入させたときに測定された実支持力PRを示した。ここでは、実支持力PRは、必要杭反力Pに到達しておらず、ステップS11の判定は「支持力不足」ということになり、更なる鋼管杭3の打ち込みが必要になる(ステップS12)。
【0057】
このように、最低杭長L1に到達するまで実支持力PRの確認をおこなわないようにすれば、作業が中断されることがなく、効率良く鋼管杭3の施工をおこなうことができる。また、仮に最初の確認で実支持力PRが必要な杭反力を上回っていても、設計より支持力が増加して安全側になるだけなので問題はない。
【0058】
また、図4の左側の図の地盤4に等間隔で引かれた水平線は、鋼管杭3を打ち込む単位深度を示す打込み単位線H,・・・である。そして、ステップS11で支持力が不足すると判定されたときには、ステップS12で打込み単位線H一段分の施工単位分の打込みをおこない、ステップS13で再び杭の実支持力PRを測定する。
【0059】
この鋼管杭3の施工単位分の打込み(ステップS12)と実支持力PRの確認(ステップS13)とは、実支持力PRが必要杭反力Pを上回ることがステップS14で確認されるまで繰り返される。
【0060】
続いて図5は、実支持力PRが必要杭反力Pに到達した状態を示した図である。この図から、実際に鋼管杭3を貫入した長さは、最低杭長L1よりも長いが最長杭長L2よりも短かったことがわかる。
【0061】
他方、このように最長杭長L2よりも浅い深度で打ち込みが完了した鋼管杭3は、地盤4から突出する余剰分31と、地盤4に埋設された打設分32とに分けられる。この余剰分31は、そのまま残しておくと、直接基礎部2の構築や建物1の構築に支障となるので、余剰分31が存在する場合は撤去する(ステップS15,S16)。
【0062】
図6は、余剰分31を撤去する作業を説明する図である。鋼管杭3は、所望する箇所をバーナなどで容易に切断することができるので、地盤4から突出した位置で鋼管杭3を切断し、不要な部分を余剰分31として撤去する。
【0063】
次に、本実施の形態の基礎構造の構築方法の作用について説明する。
【0064】
このように構成された本実施の形態の基礎構造の構築方法では、現場で容易に継足しや切断・撤去が可能な鋼管杭3を使用し、直接基礎部2が負担する反力を考慮したうえで各杭位置での杭反力を算出し、その杭反力を満たす最低限の杭径と最低杭長L1の組み合わせを算出する。
【0065】
そして、現地の地盤4の物性が推定と異なるなどして推定支持力に推定誤差が発生した場合に、鋼管杭3の長さが足りなくなることがないような最長杭長L2の鋼管杭3又は最低杭長L1と継足し鋼管を組み合わせた鋼管杭3を合理的に選択して施工に使用する。
【0066】
また、施工時には、実際に打設された鋼管杭3の実支持力PRを確認し、必要杭反力Pに実支持力PRが達するまで鋼管杭3の貫入を続ける。
【0067】
このため、実際の支持力が確認された鋼管杭3,・・・を備えた信頼性の高い基礎構造を構築することができる。また、推定支持力P1の推定誤差を吸収できる合理的な長さの鋼管杭3を準備して施工するので、途中で鋼管杭3の長さが足りなくなることがない。
【0068】
さらに、必要な支持力を満たした時点で打設を終了し、余剰分31があれば突出した鋼管杭3を切断することで容易に撤去できるので、効率的に基礎構造を構築することができる。すなわち、施工時の打設延長が杭基礎部30の施工費用に占める割合は大きいので、途中で杭の打設を終了できるのであれば、工期を短縮できるうえにコストの削減にもなる。
【0069】
また、最低杭長L1を推定される沈下量が許容値以下となる長さに設定するようにすれば、所定の沈下量以下の基礎構造にすることができる。
【0070】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0071】
例えば、前記実施の形態では、最低杭長L1に到達してから最初の実支持力PRの計測をおこなったが、これに限定されるものではなく、最低杭長L1以浅であっても適宜、杭の支持力を確認することができる。
【0072】
また、前記実施の形態では、杭を打撃する錘に取り付けたロードセルの計測値に基づいて鋼管杭3の支持力を確認する方法について説明したが、これに限定されるものではなく、その他の公知の静的載荷試験、急速載荷試験、動的載荷試験などによって鋼管杭3の支持力を確認するものであってもよい。
【0073】
さらに、前記実施の形態では、最長杭長L2の鋼管杭3を準備して余剰分があれば切断・撤去する場合について主に説明したが、これに限定されるものではなく、最低杭長L1の鋼管杭3を準備して、必要杭反力Pが満たされるまで継足し鋼管を継足していく施工方法であってもよい。このような鋼管杭3は、溶接などによって容易に継ぎ足していくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の最良の実施の形態の基礎構造の構築方法を説明するフローチャートである。
【図2】基礎構造の構成を説明する説明図である。
【図3】予備設計で決定する杭長と支持力との関係を説明する説明図である。
【図4】鋼管杭の打設中に現地で確認された支持力と推定支持力との関係を説明する説明図である。
【図5】現地で確認された鋼管杭の支持力と推定支持力との関係を説明する説明図である。
【図6】鋼管杭の余剰分を撤去する作業を説明する説明図である。
【図7】(a)はスウェーデン式サウンディング試験で求められるN値と平板載荷試験に基づく長期許容応力度qaとの関係から地盤強度のバラつき説明する図、(b)は地盤強度の各推定値から算定された各支持力を示した図である。
【符号の説明】
【0075】
1 建物(上部構造)
1a−1c 上載荷重
2 直接基礎部
30 杭基礎部
3 鋼管杭
31 余剰分
3a 先端支持力
3b 周面摩擦力
4 地盤
4a 地盤反力
P 必要杭反力
P1 推定支持力
PR 実支持力
L1 最低杭長
L2 最長杭長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造の荷重を載荷させる直接基礎部と鋼管杭からなる杭基礎部とを備えた構造物の基礎構造の構築方法であって、
前記直接基礎部の反力を算出し、前記鋼管杭の平面視での設置位置を設定し、その設定された杭位置からそれぞれの杭位置での鋼管杭が分担する支配面積を設定し、その支配面積に作用する荷重から前記直接基礎部が負担する反力を除いて各杭位置が負担する杭反力を算出する杭反力算出工程と、
前記杭反力算出工程によって算出された前記杭反力以上の推定支持力を有する杭径と最低杭長の組み合わせを算定するとともに、その推定支持力の推定誤差の吸収が可能となる前記最低杭長より長い杭長の鋼管杭の打設が可能となるように杭を選択する杭選択工程と、
前記杭選択工程で選択された前記鋼管杭を地盤に貫入し、前記最低杭長まで貫入した後に支持力の確認をおこない、前記杭反力以上の支持力が確認できるまで前記鋼管杭の貫入を続け、前記杭反力以上の支持力が確認された場合であって前記鋼管杭の余剰分がある場合はそれを撤去する杭打設工程と、を備えたことを特徴とする基礎構造の構築方法。
【請求項2】
前記最低杭長は、推定される沈下量が許容値以下となる長さに設定されることを特徴とする請求項1に記載の基礎構造の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−138435(P2009−138435A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316192(P2007−316192)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】